お気をつけて!
はじまりの歌
飛来する刃を右手に持つ剣で打ち砕く。
身体を地面すれすれまで落とし、次なる飛翔する刃、、、いや今度は槍をよけながら走り前進する。
早くあの敵に近づくためにより走るスピードを上げるが、それもまた四方から飛翔する刃によって遮られてしまう。
急いで自身に最も近い右側の刃を剣で切り付け、打ち砕く。
返す刃で後方の刃の刃に当てて軌道をそらし前方から来ていた刃と衝突させる。
そして左から飛翔してくる刃をバク中で避け、事なきを得る。
相手に向き直り、見つめる。
黒い法衣に身を包みこちらを見下ろす男。
がたいは良く、髪は白髪で褐色の肌をしている。
両の手には双剣が握られているが、しかし今だその剣を使用しておらず、どこからか放出される剣にてこちらを攻撃してくる。
自身の持つ浅い魔法に関する知識にそのようなものはなかったはずだ。
だが、決して反応できない速度で刃が放出されるわけでもない。
ならば原理、原則、属性、必要魔力量ーーなど分からなくてもいい。
というか多分教えられても理解できない。
もともと自身は剣才以外は持ち合わせない身だ。
だから、それを磨いてきた。人生の半分を剣に捧げ、鍛錬してきたのだ。
起きては剣を握り戦場へ。
休みを与えられれば自身の世界に没頭し剣を振るう。
寝て、起きればまた繰り返し剣を振るう。
剣を振るうことで心を澄まし、相対するものと斬り結ぶことに喜びを感じた。
振るい、振るい、振るい、振るいーー
斬って、斬って、斬って、斬りに斬ってーー
数えること数万回、剣を振るった。
ただ、自身が一振りの剣であるようにと、
それが自身の幸せだと、
そう、、、思っていた。
だがある時を境にそれ以外の、、、
いやそれ以上の心地よさを、
心が高鳴る感触を、
それ以上の幸せを、
見つけた。
あの日の光景は決して色あせることなく鮮明に、色鮮やかに心を、魂をつかんで離さない。
ーーあの花畑での光景を、決して忘れることなどあり得ない。
「ーー戦闘中にいったい何を、、、やはりまだ未熟だな」
一人、老剣士は――剣鬼・ヴィルヘルムは戦闘中に自身が考えていたことを思い自戒する。
そして剣を握りしめ今再び目の前にいる敵。暗い目でこちらを見据える男、、、
魔女教大罪司教傲慢担当「%#’・&%#」その人に今彼は剣を向けた。
心の中にはプリステラでわかれた亡き妻――テレシア・ヴァン・アストレアを思う。
主君にあだなし、恩人であるあの少年に危害を加えんとするこの男を、切り伏せる。
そのために老骨の体に鞭を打ち、肉体を加速させて敵に迫った。
上半身が地面と平行になるほど落とし迫りくる刃をよけていく。
時たま避け切ることができず肌をかすめていき、そのたびに鮮血が宙に舞った。
ーーが気にせずに突っ込む。
そして敵の目の前に着く少し前、手に収められている剣を振り上げ、斬り捨てようとする。
だがその攻撃は相手の双剣――黒の刀身と純白の刀身の夫婦剣――を体の前で交差されて防がれてしまった。
しかし、何を気にするものかと、ヴィルヘルムは連続して剣戟を叩きこむ。
大袈裟、両断、斬り払い、、、無数もの斬撃が敵に叩き込まれる。
一閃一閃が、致死性を持った鬼の剣戟が、猛狂う嵐の如く、大罪司教の体に降り注ぐ。
だが、それらは敵の防御を基準とした剣術により防がれていく。
とはいえ、単に剣を振りまわすだけの者であるならば、ヴィルヘルムは剣鬼と呼ばれているはずがない。
ヴィルヘルムは防御される敵の剣にどんどん対応していく。
一合剣戟が紡がれるごとにヴィルヘルムの剣は、早く、正確に、苛烈になっていく。
敵もしっかりとヴィルヘルムの剣技を防ぎ、いなし、そして時折、反撃してくるところは流石と言うところだろうが、それでもヴィルヘルムが優勢なのは明らかだった。
その剣戟は、もはや素人目には何をしているか見当がつかない領域に達している。武の心得がある人でもその所業は目で追うのが精一杯だろう。
ただ聞こえるのは、鋼と鋼がぶつかり合う音のみ。広い荒野にただひたすらに聞こえるその音は、一つの歌のようなものであると錯覚しそうなほどである。―――だがそれがたとえそのような領域にあろうともヴィルヘルムがかつて奏でたものほど、綺麗なものでないのだが。
だがそれも原理は同じ。いつかは息継ぎが必要である。しかしどこまで行こうとこれは剣戟、それの息継ぎとは敗北。すなわち死だ。つまり先に息継ぎが必要になった方が負けるということだ。
先に息継ぎが必要になったのは大罪司教の方だった。
ヴィルヘルムの剣技に防御の姿勢を崩される。男はすぐに体制を立て直しヴィルヘルムの次なる剣技に対応しようとした。しかしヴィルヘルムの狙いは男の体ではなく、その手の中にある男の双剣の防御に回された方の漆黒の刃だった。
ヴィルヘルムの右下段から左上段への切り上げにより、それを急ぎ防ごうとしていた男の刃が男の左手から空中に放り出される。その衝撃を受け男の体制は大きく崩れる。
その隙をヴィルヘルムが見過ごすはずがない。
「るるるああぁぁぁぁぁぁ!」
ヴィルヘルムは雄叫びをあげ渾身の一撃放つ。左上段に上がった剣の柄をしっかりと両手で握り渾身の一撃を男の体に叩き込む。
それは易々と切り伏せる。――――――――――――――――はずだった。
相手を切り伏せる剣のなぞる線には、左手に刃を切り上げられた衝撃により反射的にしたから上がってきた右手にもう一つの刃の純白の刃が入ってくるはずだが、ヴィルヘルムの渾身の一撃であれば問題はないだろう。
しかし右手には刃は握られておらず。男は手を開き、呟く。
「――
男が呟いたとたん男の前に七つの花弁を持った花のような、うす紫色の物が生成される。それに拒まれヴィルヘルムの剣は、はじかれてしまう。
そして、体勢を崩したヴィルヘルムの周りには無数の剣が浮かんでいた。
ヴィルヘルムの体はその無数の剣に貫かれた。
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―――体に焼けるような痛みが突き抜ける。全身から血が垂れ流され、生命の脈状が絶たれていくのがわかる。
そんな中でも自分の頭の中には愛しいあの存在しか浮かんでこない。
(こんな時まで、テレシアか、、、全く馬鹿げてる、、、)
自身が死にそうなのに見える彼女の顔は笑って居て、それはそれははち切れんばかりの笑みで、それだけで生きていてよかったと思わせてくれるようで。
彼女に触れたい。手をつなぎたい。抱きしめたい。その、、、名前を呼ばれたい。呼ばれたい。
たとえ名前が変わろうとも、生まれが変わろうとも、歳が変わろうとも――世界が変わったて
「――あい、、、たい、、、!」
その願いはヴィルヘルムの口から自然とこぼれ落ちて、誰に耳にも拾われずに、消えて聞く。
だがただ一人その願いを聞き届けた男は一言、
その言葉ヴィルヘルムは何とか聞き届けることができた。
そして、、、
ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアはその怒涛の生涯に幕を閉じた
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