剣のヒーローアカデミア   作:GROM

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9話 status test

「剣~?早く起きて、ご飯冷めちゃうから。」

 

 平日の久留木家に花の声が響き渡る。

 

 時刻は六時半。場が場ならば小鳥のさえずりでも聞こえてきそうな時間帯ではあるものの、そこは閑静な住宅街で花の声のみがその役割を果たしている。

 

 そんな最中ベットに上体を起こした剣は、一階と剣の自室のある二階を繋ぐ階段から聞こえてくる静かな、、、むしろ静かすぎるような足音を寝ぼけ眼を擦りながら聞きとる。

 

 昔は剣は寝起きがいい方でこのように誰かに起こしに来てもらうことなど皆無であったが、いつからかこのように花に起こしに来てもらうのが当たり前になっていた。

 

 小学六年生からほぼ通い妻状態になっている花は、相も変わらず久留木家で朝を過ごしている。

 

 そして花が朝食を作っているのも変わらない。唯一変わったのは朝食を作るのが完全に剣の母から花にチェンジしたことだろうか。

 

花に起こされた剣は寝起きそのものはいいため、スパッと起きて布団から出てくる。

 

「にしてもいくら幼馴染とはいえ、毎朝同年代の男の家に通わせることを決意したよな。花のご両親。」

 

「お父さんは結構反対してたけど、最終的はお母さんが強引に認めさせた感じだったわね。まぁ、お父さんはちょっと心配性すぎるから、これをきっかけに少しは娘離れをね、、、」

 

 確かに花の父親はかなり花を溺愛している。いつもはIT関連会社でバリバリ働く頼れるおじさん的存在なのだが、花のことになると意固地になってしまう困ったちゃん。

 

そんな彼を見ていると剣は花ではなくテレシアの方の父親、ベルトール・アストレアを思い出す。ヴィルヘルムが生涯において尊敬に値する剣士を問われれば間違いなく、ベルトールの名を出す人物だ。

 

しかし、異常なまでにテレシアを溺愛していたり、起こす行動が何かと陰湿だったりしており、そういった少し残念な部分が花の父親に似ている。

 

「いや、お前べルトール殿にもそう言って出来なかったろ。今回も無理じゃないか?」

 

「やっぱり剣もそう思う?はぁ、、、私の父親ってなんでああいう人ばかりなのかしら、、、?」

 

 自分の父親のことで悩むのは花でもテレシアでも変わらないなと思いながら、剣は寝間着を脱ぎ制服へ着替える。

 

 しわ無くアイロンされたワイシャツに袖を通し、汚れ一つないズボンを穿き、ズボンに少しくたびれ始めたベルトを通して着替えは完了だ。後は出かける前にブレザーを着るだけでいい。

 

 後は、下に降りて朝食を食べて、、、

 

「剣~?」

 

 呼ばれた方を振り返ると花が少し頬を赤くしながら、ふくれっ面で剣を呼んでいた。

 

「どうした?早く下に降りて、、、」

 

「あ・の・ね、、、!」

 

 ご飯を食べようと言おうとした剣に待ったを掛けるように花が少し怒ったような口調で言う。その様子に剣は背筋を伸ばした。

 

「女の子がいる部屋で堂々と着替えるなんていったい何を考えてるの剣さん??もう少し配慮とかあってもいいんじゃないですか??」

 

「、、、」

 

「返事は?!」

 

「、、、ああ。すまなかった。」

 

 花が怒ったのは至極まっとうな理由、あまりにもデリカシーのない剣への叱責。年頃の女性の前で着替えを普通おこなうか、という問題だ。当然答えはノー。

 

 そのことにさすがに気付き剣もその非礼を詫びる。そのことに花は「わかればよろしい」と中学生にしては——————いや高校生(・・・)にしては豊満な胸を張り言った。その顔には先程の怒った顔はなく、言いたいこと言ってやった後の達成感に満ちた笑顔が浮かんでた。

 

 それが剣にはすごく可憐に見えて、剣は一瞬花の笑顔に意識を奪われていた。

 

「剣?どうしたの?」

 

「——————いや、何でもない。」

 

 花に言われて剣が気を戻す。さすがにそのまま見惚れていたなんて言えるはずもなくごまかした。だが、剣は気付く先程からやられっぱなしだと。

 

 先は注意され、今度は笑顔に見惚れ花が一方的に剣に何かしている。(内一個は剣のせいだが)そんなに一方的にやられていて黙ってまいられない。何も仕返さない人物が剣鬼などと呼ばれるわけがないのだ。だから剣は————————

 

「じゃ、早くご飯を食べに、、」

 

「—————花。」

 

「ん?な、、、に、、、?」

 

 朝食を取るために一階に降りようとしている花を呼び止め、抱きしめた。

 

「え?ちょ、ちょっと、、、剣???」

 

「——————じっとしてろ。さっき目の前で着替えてしまったことへの謝罪みたいなもんだ。」

 

「い、いや、こんなの謝罪になってないし、、、あなたがしたいだけじゃ、、、」

 

「?当たり前だろ。お前は嫌なのか?」

 

「そう言うわけじゃ、、無くて、、、ただちょっと急で恥ずかしくて、、、」

 

 そう言って花は顔を真っ赤にして俯く。どうやら本気で恥ずかしいみたいだ。いつも家や二人で外に外出した時にちょっかいをかけてくるのは花のはずだが、どうやら自分が攻められる耐性は低いらしい。

 

「ヴィ、ヴィル、、、」

 

 不意に俯いていた花が今世での名も忘れ、羞恥と嬉しさで真っ赤な顔のまま、自分を後ろから抱く剣を見上げた。

 

「—————テレシア。」

 

花が剣の方に向き直り、自分のより少し高い位置にある剣の目を上目遣いで見つめる。

 

そしてそのまま、二人の顔は近ずいていきーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お二人さん。お熱いとこ悪いんだけどさぁ、ご飯冷めちゃうから早く下に降りて来て~」

 

「——————!」

 

「————、、、」

 

 突然剣の自室に現れた人物によって自分たち以外の存在に、ようやっと二人の意識が向く。そして声の聞こえたほうである自室の扉へと顔を向け、そこにいる人物を視界に入れて硬直した。

 

 そして、剣の自室に入ってきた人物はマイペースに、

 

「あと、まだ二人とも中中学生なんだし進んでるのいいけど、行き過ぎはヤメてね~そういうのは、高校生になってからーーーーーーーーーーあら?ってことはもう今日からいいのか」

 

今だ呆然とし続ける剣とに向かって剣の母————————久留木 冴恵(くるき さえ)はそう言った。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あのなぁ、母さん。部屋に入る前にはノックの一つぐらいしてくれよ。急に入ってこられたら驚くだろ。」

 

「やあねぇ、剣ちゃん。そんなことしたらカワイイ花ちゃんが見られないじゃない。あっ!これ花ちゃんに言わないでね。」

 

「冴恵さん、、、バッチリ聞こえてます、、、」

 

 剣の部屋に強襲した冴恵と、それから花と一緒に会談を漫才のような会話を部屋で交わす。

 

 花のツッコミに冴恵は笑いながら花に「ゴメン、ゴメン。」と謝っている。そこから「でも、、、」と続け、

 

「花ちゃんのびっくりした顔とか照れたりした顔見たいでしょ。」

 

「それはもちろん。」

 

 剣を一瞬にして「花のカワイイ顔いっぱい見たい派閥」に引きずり込んだ。さすが自分の息子の扱い方を熟知している。とは言っても剣の場合「花の~~~」をつければ御する言葉できるある程度、御することができるのは久留木家と聖蓮家の両家母親の共通理解であるため、剣の母だから特別すごいと言えるわけではないのだが。 

 

 冴恵の言ったことにノータイムで肯定した剣が花に背中をポコポコ叩かれながら、三人は階段を下りていき一階に到着。そこから左に曲がりリビングに入る。リビングにある食卓に今日の朝食が置かれている。今日の朝食は和食。オーソドックスに焼き鮭と茶碗一杯の白米、味噌汁、黄色の沢庵である。

 

 これは果たしてわざわざ毎朝彼氏の家に来て作るメニューなのかと思うが、花が剣の家に通い妻することになったのはもう今から4年前のことになる。さすがに4年も続ければ料理のレパートリーが少ない学生はこうした料理になってしまうだろう。

 

 朝食を視界に入れた冴恵が朝とは思えない俊敏性で席につく。どうやら相当腹が減っているらしい。

 

 そんな様子を見た剣と花は互いに、顔を見合わせて冴恵に急かされながらも席につく。そして、

 

「んじゃっ、いただきます!」

 

「「いただきます。」」

 

 冴恵の声を音頭にして剣と花も手を合わせて、朝食を食べにかかる。

 

「どう?剣。おいしい?」

 

「、、、いつも通りだな。」

 

 朝食の感想を花は剣に求めるが彼の回答はそっけない。しかしそれに花は顔しかめるどころか、「ふふっ」と笑った。

 

「良かった。ちゃんとおいしいようで満足です。」

 

「ねぇ~剣?いっっつも思うんだけれども、ちゃんと言葉にしない所と眉間の皺がすぐ寄る所ははやく直した方がいいわよ?」

 

「良いんですよ。冴恵さん。この人に言葉で何かを表してもらおうなんてしちゃだめです。それに、言葉が少ないぶんちゃんと顔で語ってくれてますから。」

 

「いや、剣ちゃんの表情からわかるって私でも無理だと思うんだけど、、、、親よりもそれが出来るって何?」

 

 剣の回答に「美味である」という回答を一人導き出した花に、苦笑した冴恵が剣を注意する。

 

 剣は前の世界で61歳まで生きていた。そのため若い頃の困り種であった口下手であることは克服したはずなのだが、肉体年齢が相当若返ったため気性も少し戻っているらしく口下手は復活してしまっていた。

 

「、、、口下手なのを直さなきゃいけないのは分かってるよ。あと、眉間の皺は今関係ない、、、」

 

「「あっ、また寄ってる」」

 

「—————————————————」

 

 痛い所を二人同時につかれた剣はバツが悪くなり、それを紛らわすためにせかせかとご飯を食べ始めた。こういったところも相変わらずだ。そんな様子の息子に冴恵はため息をつき、

 

「まったく。口下手過ぎる息子のために母が一つお手本をご覧にいれてみせましょう。まず、、、」

 

となんだか変なスイッチが入ったように冴恵は語りだす。しかしご飯を食べ終わった剣が、

 

「そんなことどうでもいいから少しお代わりを入れてくれ。」

 

「あれ?私そんなに剣にご飯入れてなかったかしら?」

 

「いや、最近よく腹が空くようになったんだ。今までは3限目途中ぐらいから空き始めてたんだが、今はなんだか2限目の終わりには空き始めるようになったんだ。」

 

「そうなの?部活引退して、運動する機会は減ってるはずなのに、、、」

 

「さぁな?成長期ってやつなのかね、、、あと日々母さんを相手にするストレ」

 

「ふ・た・り・と・も???」

 

 あまりにも冴恵を置いてきぼりに二人がするため、いよいよ冴恵が青筋を立てながらふたの会話に割って入る。その様子にさしもの二人も会話を止め冴恵の方に向く。

 

「まず、べっっったべたでもいいからとにかく褒めるのよ!ほのめかしたりとかそんな高等技出はそれが出来てから!」

 

 そう言いながら冴恵は片手に持っていた箸を剣の方向にビッと向けて、剣を諭すように言葉を重ねていく。

 

「そもそも、他人が言ってたことには同感しながらも、自分じゃ言えないってどういうことよ?そこができんなら、もう別にツンデレキャラを気取るこはなくない??」

 

「うっさい。というか、俺はツンデレキャラでもなければそれを気取ってもない。俺は」

 

「剣はクーデレキャラだもんね~」

 

「あ~そっちだったか~」

 

「、、、もう、どうやって斬り返したらいいのかわからん、、、」

 

 アウェーに次ぐアウェーで剣はどうやら反発するのをやめ、おとなしく食事を貪るのみに専念することにした。そんな息子の様子を見て、一つため息をついてから冴恵は話を続ける。

 

「全くもう!どうして、こんな素直じゃない子になっちゃったのかしらねぇ、、、このころはかわいかったのに」

 

「——————ブッ!!!」

 

「あっ、その写真の剣かわいいですよね!」

 

 冴恵が懐からスッと取り出した一枚の写真に剣は飲んでいた麦茶を吹きだし、花はパッと顔を輝かせて冴恵がとりだした写真を一緒に見ている。

 

 冴恵がとりだしたのは剣が3才の時の写真だった。そこには幼稚園の入学式で小さいからだに幼稚園の制服を身に纏い、校門前で花と二人で写っている写真だった。

 

 このころの剣はまだ個性を発現しておらず、「久留木 剣」そのものであり、今のように「ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア」の性格や考え方をしていたわけではない。

 

 故に、今この場で花が呼んだ「その写真の剣」は今の剣とは性格どころか人として違う人物を指している。

 

「そんな写真、懐に入れておくなよ!」

 

「えぇー別にいいじゃない誰にも見せてないんだしさ!」

 

「思いっきり花に見せてんじゃないか」

 

「良いのよ花ちゃんには!だって、、、ねぇ、、、?」

 

「?」

 

 そう言いながら冴恵は意味深長に言葉を引き延ばして、花に視線を送る。その様子に冴恵つられて花に訝しむ目を送る剣。

 

 そんな二人の様子に花はビクッと震えると、目線を泳がせながら顔を俯く。

 

 そして恐る恐ると言った感じで、ゆっくりとスカートのポケットから何かを取り出すと一言。

 

「、、、私も持ってます。」

 

「没収する。」

 

 そう言いながら剣は花の手元から写真を奪い返そうとするが、ヒラリヒラリと避けられてしまう。

 

「クソっ!と言うかなんでお前までその写真を、、、」

 

「私が授けた。」

 

「やっぱ、アンタか、、、」

 

「その節は、ありがとうございました。」

 

 剣との攻防を繰り広げながらも冴恵にしっかりと受け答えしながら、花は時間も同時に確認する。すると結構な時間がたっており、そろそろ家を出ないと学校に間に合わない時間帯になっていた。

 

「剣、そろそろちゃんと支度しないと学校に間に合わないわよ?入学式から遅刻なんてことできないでしょ?」

 

「、、、くそ、分かったよ、、、あとで絶対取ってやるからな。」

 

「はっはっはっはっ!やれるものならやってみなさい!!」

 

「冴恵さんそれは私のセリフです。」

 

「—————————」

 

 後ろ手に繰り広げられるコメディーショーを無視して、剣は茶碗に残された白ご飯を喉に掻き込む。胃が少し驚いていたが、それすらも無視して支度を始める。

 

 —————————学校指定の鞄に、筆記用具、生徒手帳、ファイル、など様々なものを確認し終えた剣は鞄の近くに置いてあったネクタイをつけて、その上からブレザーを羽織り、完全に身支度を終える。

 

 花はすでに支度を終えており、食器を台所まで運んだ後、置いてあった鞄を手に取り玄関の方で剣を待っていた。

 

 そそくさと鞄を片手に剣は玄関へ向かって花に一言「待たせた」といいながら、上がり框*1に座りながらスニーカーを履いた。そして立ち上がった後に今度は、花がそこに座り靴を履く。

 

 久留木家の玄関は狭いため一人ずつ変わり変わりで靴の履き替えをしなければいけないためこのように二人が同時に家から出る際は少々不便である。

 

「そんじゃ行くか。」

 

「うん、行こっ!」

 

 元気よく花が立ち上がり、扉を開ける剣の後ろについていく。

 

「「行ってきま—————」」

 

「ちょ、ちょい待ち!!」

 

「ん?」

 

 行こうとした瞬間、冴恵が二人の元に駆けてくる。

 

「どうしたんだよ?いつもは見送りとかしないだろ?」

 

「何を言いますか!いつも私はちゃんとお見送りしております!!」

 

「「嘘つけ(つかないでさい」」

 

「まぁ、それは置いといて、、、剣、花ちゃん」

 

 二人の名前を呼んだ彼女は、二人の体に顔を近づけてまじまとその姿を眺める。そんな冴恵に二人は何をしているのか見当もつかず、頭に疑問符を浮かべている。そして二人の体から自分の顔を引き、今度は剣と花を全体から俯瞰するように眺める。

 

 すると彼女は不意にスッと目を細めると、微笑みながら、

 

「かっこいいし、かわいいわ二人とも」

 

「「———————」」

 

 少し、らしくない態度の冴恵に二人は顔を見合わせると、冴恵と同じように少し笑ってから玄関の扉に手をかける。

 

 そして振り向きざまに、

 

「「行ってきます」」

 

そう一言言って、二人は新しい一歩を踏み出す。

 

 今の二人の身を包むのは地元中学校の古き良き学ランやセーラー服ではない。

 

 二人が彼方から望んでいたヒーローへの道へ進むための片道切符—————————「雄英高校」の制服である。

 

 戸口を跨ぎ朝の光を浴びる二人の背に冴恵はたった一言だけ、言葉を紡ぐ。

 

「————はい。いってらっしゃい」

 

 扉が閉まる寸前の言葉。

 

 紡がれるとまでもいかないような短い言葉。

 

 二人にこの言葉が聞こえたは分からない。

 

 ———————しかし少なくとも二人にその気持ちが届いたのは確かであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 自宅の最寄り駅から満員の電車に押しつぶされないようにしながら、体を揺らされること十数分————————花が疲労で倒れてしまって以来の雄英高校の最寄り駅に到着する。

 

 そこからまた数分ほど歩いていくと、圧倒的に多かったスーツ姿の周りの人々はいつの前にか二人と同じ服装に変わっていた。それ即ち—————————

 

「あっ!剣、見えてきたわよ!!」

 

「ああ。」

 

 即ち——————二人が今日から通う学び舎「国立雄英高等学校」が、目前にまでやってきたということである。

 

 入試の際はそれどころではなかったが、改めてみると雄英高校が構える正門は異常なまで大きく、その大きさはもはや城の門にも匹敵するほどの大きさだった。

 

 おそらくこれは、異形型の個性を持つ生徒や教師でも通れるようにするための一種のバリアフリーだろう。

 

 雄英高校は国内No.1の実績を持つヒーロー科が目立った特色のように思われがちだが、実はこういった国内でも有数のバリアフリー化の進んだ高校としても有名だったりする。

 

 まぁ、実際にはヒーロー科の授業の副産物として出来上がったようなものなのだが、、、

 

 しかしながら、そこが魅力として目に映った受験生たちは普通科として入学しているし、それが誰かの助けになっているのなら副次的に生まれたものであると馬鹿にすることなどはできないだろう。それは素晴らしいことなのだから。

 

 だが、そうなってしまったことにより出てきた問題もある。

 

「受験の時にも思ったが、デカすぎて道に迷いそうだな。自分のクラスを探すのも一苦労だ、、、」

 

「確かにそうよね。試験のことで頭がこんがらがってるときに落ち着いて地図なんてみてらんないし。初心者には少し厳しいわ。」

 

 そうそれは今二人が直面している状況そのものである。

 

 大きすぎて道に迷いやすく、同時に意外と校舎内も複雑な作りになっているため、教室の位置を覚えるのすら難しい。

 

 それ対策にいくつもの校舎の案内マップが存在しているため注意際してればいいのだが、やりにくいことには変わらない。

 

 そんな中二人は何とか、地図から自分たちの教室を見つけ出し、その場所へ向かう。

 

 階層を2つほど越え、奥行きも、天井も広い、廊下を進んで行きようやっと自分たちの教室を発見———————

 

「あれ?なんか人が詰まってない?」

 

—————したものの入り口は何人かの生徒で詰まっており、入れないようになってしまっていた。

 

 いったいどんな者たちがたむろしているのかと思い、剣は目を凝らして見てみるとそこには見知った顔があった。

 

「確かあいつは、、、」

 

「ん?どうしたの、、、って、また眉間にしわ寄ってる!!」

 

「いや今はそんなことじゃなくてだな、、、あいつだよ、あいつ。」

 

 そういって自分が見ている人物を指で指し示す。

 

 自分の注意が流されたことに少し怪訝な顔をしながらも剣が指した方向に向いた花は、自分も先程注意した時と同じように目を細めてその人物を凝視する。

 

「あれって、、、緑谷くん?」

 

 そうそこには、ヘドロ事件で果敢にも誰よりも早くあの爆豪と言う中学生を助けに走った少年—————緑谷出久がいた。

 

 しかし、それ以上に驚いた理由が二人にはあるのだが、、、それは今はいいだろう。

 

 二人は顔見知り(緑谷と剣の面識はないが)がいたことに幾ばくかの安心を得た二人は入り口で話し込んでいる二人に声をかけた。

 

「あの、、、」

 

「は、はい!」

 

「おはよう!二人とも!」

 

 花が声をかけると、入り口で話していた二人が振り返って花に返事をする。

 

 どもりながら返事をした件の人物である緑谷は花の顔を見ると、少し驚いたように

 

「あれ君は、、、ヘドロ事件の、、、確か、聖蓮さんだったけ?」

 

「えっ!!ヘドロ事件ってあの?!」

 

 緑谷の口からヘドロ事件の名前が上がり、元気のいい挨拶をしてくれたおかっぱ頭の丸々とした可愛らしい少女が驚いたように声を上げる。

 

「ははは、、、んんっ!改めまして、聖蓮花です。」

 

「うん!私麗日 お茶子(うららか おちゃこ)っていいます!よろしく!」

 

「よろしくね、麗日さん。ところで皆こんなところで何を話してたの?」

 

 そう言って花は元気なおかっぱ頭の少女の麗日という名前を反芻しながら、気になっていたことを問いかける。

 

「それは、俺から説明しよう。」

 

 すると、教室側の方からもう一人の生徒が現れて話の中に加わった。どうやら彼を含めた三人で会話をしていたらしい。

 

 そして、花と剣には彼に見覚えがあった。

 

「アンタは確か、入試の時にプレゼントマイクに質問してた、、、」

 

「ん?ああ、そうだ。俺の名前は飯田 天哉(いいだ てんや)という。聡明(そうめい)中学校の出身だ。よろしく頼む。君は?」

 

「俺は久留木 剣だ。」

 

「、、、それだけ?!もっと何かあるでしょう?!『よろしく』とか『趣味は~』とか!!冴恵さんにも言われてたけど不愛想なところ直さなきゃダメよ?」

 

「いやそうはいわれてもなぁ、、、」

 

「なんかすみません、うちの剣が、、、」

 

「いや、気にしないでくれ。それよりも話の内容だったな。」

 

 剣のいろいろと問題のある自己紹介の後に、飯田と名乗った背の高いがっちりとした体躯の少年が話の顛末を語ってくれた。

 

「俺たちは入試について話していたんだ。」

 

「入試のこと?」

 

「あっ、試験前には言ってくれてなかった『救助ポイント』の話のこと?」

 

「その通りだ。俺は入試の実技試験のとき緑谷君と一緒のステージにいたのだが、その時俺は0ポイントヴィランを前にして逃げ出してしまったんだ。」

 

 そう言いながら、拳を握りこむ彼は本当に悔しそうだ。それだけ彼の根が真面目なのだということを如実に表している。

 

「しかし緑谷君は、瓦礫の下敷きになって居しまい動けなくなっていた受験生を助け出すためにあのポイントヴィランに立ち向かっていたんだ。それなのに俺は試験前に彼に対して無礼な行いをしてしまっていてね」

 

 そう言って、緑谷の方に飯田は向き直って深く頭を下げながら口を開いた。

 

「改めて謝らせてくれ。あの時は本当に申し訳なかった。」

 

「え?!い、いや全然!!気にしないで飯田くん!あの時の君の注意は正しかったし、、、ね?」

 

「そうか、そう言ってくれると助かる。ありがとう。」

 

 謝罪をした飯田とそれを許した緑谷の関係が少しときほぐれ、その場に暖かい空気が流れる。

 

 どうやら、二人はいい級友に恵まれたらしい。

 

「そういえば!なんで二人そろって学校に———————」

 

「———————ジュゥゥゥゥ、、、!!」

 

 

 

「「「「「、、、」」」」」

 

 

 

(((((誰?!)))))

 

 

 

 麗日が更に話題を広げようとしたところに、五人で話し込んでいた内の最後尾に位置する剣のさらに後ろから何かを勢いよく吸う音が聞こえて振り返る。

 

 するとそこには、ちょうど十秒ほどで飲みきれそうな量の栄養ゼリーが入った袋を思いっきり吸い込む、髪の毛がぼさぼさの明らかに不審者の男が横たわっていた。

 

 全員がバッと振り返り、自身の脳の理解の範疇外の出来事に固まっていると、その男は気だるげに寝袋からはい出て立ち上がり、5人に向けて言い放った。

 

「はい、皆さんが静かになるまで10秒ほどかかりました。時間は有限。大切にしてこうね。」

 

「「「は、はぁ、、、」」」

 

 急に現れ、急に話しかけられたかと思うと学校の先生のようなことを言いだした男に緑谷たちは呆気にとられながら生返事を返し、剣と花は急に現れた男に警戒した目線を向けている。

 

 するとそんな彼の様子を気にすることもなくその不審者はさらに爆弾的な発言を言い放った。

 

「俺がみんなの担任である、相澤 消太(あいざわ しょうた)です。よろしく。んじゃ、さっそくで悪いが体操服に着替えてグラウンドに集合。速くしてね。」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

 今彼がなんと言ったのか、剣たちには理解できず、5人は顔を見合わせて同じように驚愕した表情のまま見つめあい、心の中で同時に同じことを思ったという。

 

 

 

 どうやら、級友はアタリでも、担任はハズレらしい。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 担任の見てわかるような残念具合に付いていけないクラスメイト達は、何が何だか分からないままで、支給された体操服のジャージに着替え、指示通りグラウンドに向かった。

 

 それから全員が着替え終わり集合したぐらいで相澤(本人曰く先生)は、何の目的で入学初日からグラウンドなんかに集まっているのかを説明する。

 

「え~、皆さんには今から個性把握テストをしてもらいます。」

 

「個性、、、」

 

「把握テスト、、、?」

 

「それってなんすか?」

 

 剣と花がそろって首をかしげていると、金髪の見るからにチャラついた印象のある男子生徒が相澤に詳しい説明を求めていた。

 

「中学の時とかにやっただろ、個性の使用禁止の体力テスト。それの個性を使っていい版だ。そうだな、、、おい聖蓮。」

 

「は、はい!」

 

「お前確か入試の実技一位だったよな?中学の時ソフトボール投げ何mだった?」

 

 相澤が金髪の生徒からの質問に簡潔に応答した後、花を呼び出して中学の時の記録を聞きだそうとしている。

 

 会話の流れから察するに花にデモンストレーションとして個性ありの体力テストをさせようとしているのだろう。

 

 しかし、、、

 

「すみません、私中学の時個性の関係で体力テストやってないんですが、、、」

 

「ん?そんなことないだろ、今時は異形型でも体力テストはやって、、、あぁ、そういうことか」

 

 花の返答を不審に思った相澤は、どこからかタブレット端末を取り出して何かを見たかと思うと、急に納得したような態度に変わる。

 

 おそらく花の個性についての詳細を見たのだろう。

 

 花の個性—————厳密には個性ということにしている「剣聖の加護」は、常時発動しており、加護の中には身体能力の底上げやブーストが含まれておりそれも常時発動しているため、体力テストなどをしっかりと測ることができないのだ。

 

 もしも花の姿が少しでも異形型のような身体的特徴があるのならば、それ用の計測方法で測ことができるのだが、そういったわけでもないため花は生まれてこのかた、そのようなことには無縁だったのだ。

 

「中学の時の記録がないなら比較してみることもできんから、次点だった久留木、、、も止めといた方がいいな。んじゃその次の—————爆豪代わりにやってくれ。」

 

 相澤が呼んだ名前に二人はハッと反応する。

 

 爆豪、その名前は二人にしても耳馴染みのある名前だった。

 

 先程の緑谷との会話の中でも出てきていた「ヘドロ事件」の中核を担う人物「爆豪 勝己」その人であり、二人とは一方的ながらも面識のある人物だ。

 

 しかし、その偏った面識から見ても彼の印象は最悪で、驚いたのもそうだがそれ以上に二人は彼に向けてやや冷めた目線を送っていた。

 

 そんな件の爆豪は二人の視線を全く気にする素振りを見せていない。いや、厳密に言うならば気にする余裕すらない(・・・・・・・・・)だろうか。

 

 身体を小刻みに、かつ不規則に震わせながら、爆豪は相澤に眼光を鋭くして問いかけた。

 

「ちょっと待てや、先公、、、なんで俺がその二人の代わりに、しかも、渋々みてぇな感じで、やんなきゃいけねぇんだぁ?!」

 

 ヒーローを志しているとは思えないような形相で爆豪は相澤に詰め寄る。

 

 それもそうだろう。あのむやみやたらに周りを見た下しているかのような態度の人間が、あんな選出方法で納得するはずがない。

 

 そのまま彼は相澤に向かってさらに抗議を続ける。

 

「それにだ!ここはヒーロー科だろ、、、?それなのに、なんであんな『デク』みたいなやつがいるんだ!?あぁ?!あんなムシケラがここに、、、雄英にいるはずがねぇだろうが!!」

 

「落ち着け、爆豪」

 

 とうとう爆豪は今回の件とは関係がないはずの緑谷まで巻き込み始めた。

 

 しかもその内容は彼を嘲笑するかのような聞くに堪えがたい内容で剣と花の視線は、特に花の視線はいよいよ氷点下に差し掛かるほどに冷めていった。

 

 そんな彼をたしなめながらも相澤は花でも剣もなくなってしまった理由を爆豪に伝える。

 

「まず、聖蓮にしてもらわない理由はさっきもあいつが言っていたように、中学の時の記録がないから、個性を使うと使わないで、『どのように記録が変わるか』が伝わりずらいからだ。」

 

「そんなことぐらい分かるわ!だがそれならそれで、その次のやつを使ってとっとと、やらせりゃいいじゃねぇか!!」

 

「そうもいかないんだよな。言っちゃ悪いが久留木は——————'無個性'だからな。中学の時の記録があっても、個性がないんじゃ比べようもない。だから、その次であるお前に———————」

 

「—————ちょっと待てや」

 

 相澤からの説明を受けていた爆豪は突如としてその説明を遮り、先程以上に肩を震わせながらトーンの落ちた声で相澤に問いかける。

 

「、、、つまりあれか、、、?ここは雄英の、、、しかもヒーロー科で、、、!それなのに、無個性の無能どもが二人もいるってのか、、、?しかも俺は、、、そのうちの一人の無能野郎に入試の実力で負けたってのか、、、?そんなこと、、、!!!」

 

 彼のセリフは言葉を重ねるごとに語尾が強くなっていく。そして、何かに耐えるように歯を食いしばって俯く彼は、まるで、、、

 

「——————あるわけ、ねぇだろうが!!!!!」

 

火山の大噴火のように怒号を朝のグラウンドに響かせた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 グラウンドに張り裂けんばかりの怒号を残した彼はそのあとも小刻みに震えていた。まさしく鬼のようなそんな顔をして体全体からは怒りの炎がメラメラと燃え滾っていた。そしてブツブツと何かを同時に言っている。

 

 そんな彼に相澤は彼よりも高い背丈から見下すように彼を見ながら言い放った。

 

「そんな、、、!そんなことあるはざぁ、、、!!」

 

「そんなに言うなら、試してみるか?」

 

「はぁ、、、!?」

 

「今からやる個性把握テストでもしもお前が久留木よりも好成績を出したなら、入試の結果は間違いだったってことにして———————久留木の合格を取り消しにしてやる。」

 

「なっ、、、!?」

 

 相澤のとんでもない提案に剣は驚きの声を上げる。しかし、驚いたのは剣だけではなく、提案された爆豪も同じようで、声には出してはいないもののその顔には驚愕の表情が確かに貼り付けられていた。

 

「ちょっと、まっ——————」

 

『おいおいまじかよ』『すげぇな雄英んなことまですんのかよ』『でも流石に入学取り消しはやばいんじゃない』

 

 すかさず剣が抗議しようとしたが相澤の発言を聞いたその他のクラスメイト達のざわざわとした声に剣の声はかき消されてしまう。

 

「—————の、—————いちょっと————」

 

『でもこういうのってスポ根系のマンガであるような展開でちょっと面白いかもな』『逆境に立たされてのヒーローってか?』『つーか、あいつの隣の女子かわいくね?』

 

「ちょ—————、———いって!先————————!」

 

 それからも何度も講義をしようとするが騒音によって相澤の耳に剣の声が届くことはなかった。

 

 しかし、そんな状況はあることによって完全に消え失せる。

 

「『面白い』か、、、」

 

 そのこととは至って単純であり、ただ先程の誰かの発言が相澤の耳に入ったようでその言葉を相澤は反芻したということだけである。

 

 つまり皆が一向に静まり返った問題とは別にあるということである。ではその問題は何か。

 

 その問題は一言のつぶやきから相澤より発せられることになった———————底冷えするまでのさめざめとした空気だった。これは彼が個性を発動したわけではない。

 

 彼の個性はいまだ判明してはいないがそれでも、この場にいる全員が本能的にそうではないと理解している。

 

 剣と花はこの感覚をかつて味わったことがある。

 

 これは卓越した強さの戦士がもつ、練に練り上げられた闘気————————前の世界では剣気と呼ばれていたものに酷似している。

 

 しかも、相澤のもつ剣気は相当な練度であり、以前の世界でもここまでの練度を持つものは限られている。

 

 以前、花がまだテレシアだったとき傍付きの使用人として仕えてくれていた剣士のキャロルのものと同等レベルのものを相澤は備えていると、剣や花は感じた。

 

 全員が固唾を飲んで相澤に注目する中で彼は、口を開いた。

 

「お前ら、そんな『面白い』なんて思いながら、こっから先やってくつもりか、、、?ここはヒーロー科だぞ?」

 

「「「「、、、」」」」

 

 纏う雰囲気をそのままに生徒たちの軽はずみな発言に相澤が苦言を呈す。彼の言うことは至極まっとうである。

 

 ヒーローという職業は生半可な仕事ではない。文字通り命がけであり、命を落としたプロのヒーローも多くいる。

 

 凶悪なヴィランとの交戦中に命を落とす。災害救助の際に自身が巻き込まれ命を落とす。それ以外にも多くの彼岸との境界線があちこちに引かれている。

 

 ヒーローは人を救い、笑顔に変えていくという光の面ばかりが注目されがちだが、そういった危険も同時に伴う職業なのだ。

 

 ならば、そんなヒーローになるための場所は果たして『面白い』などという気持ちで過ごせるような場所であろうか。

 

 そんなこと聞くまでもなく否である。

 

 相澤の言葉に先程、『面白い』という発言をしていた生徒や、その他の生徒もうつむいたまま、何も言えないでいる。

 

 そんな彼らに追い打ちをかけるように、もう一度相澤は口を開く。

 

「よし、じゃあ決めたよ。今回の個性把握テストで最下位の成績だった者を———————除籍処分にする。対象が久留木だけじゃ公平じゃないしな。全員を対象にこの処分を下す。」

 

 それを聞いたクラスメイト達は青ざめた顔でバッと顔を上げた。

 

 皆の顔には等しく絶望の色が浮かんでいるのが目に見えてわかる。

 

 しかしその中でも唯一声を上げるものがいた。

 

「おい、待てやゴラァ!それじゃその無能がどうにもなんねぇじゃねぇか!!意味がなくなっち————————」

 

「何度も言うが落ち着け、爆豪。さっきお前も言ってただろ。ここは雄英で、そんでヒーロー科で、そんなところに無個性のやつが入れるわけがないと。

 

「、、、あぁ」

 

 相澤の説得に怒りの矛を収め、爆豪は彼の発言に渋々ながらといった表情で同意する。

 

「それならお前が無能だと言った久留木は、この個性把握テストで落ちるはずだろう?お前の考えが正しいならそれでも問題はないはずだしな。」

 

「そういう話じゃ——————!」

 

「いや、そういう話のはずだ。例えそうではなくても、そういう話に変えることができる話(・・・・・・・・・・)のはずだ。違うか?」

 

 相澤は感情的になる爆豪に、理知的に説いていく。

 

 相澤に言われた爆豪は彼から目をそらし、本日何度目かになる激情を顔に宿しているが、今回はその感情が飛び出してくるということはなかった。

 

 彼の意外にも整った顔に塗りたくった感情はそのままに、相澤の目を見る。そして彼は右の手の平を上に向けて、相澤に差し出す。

 

 彼の行動を受けて相澤は後ろに手を回して、球状の物体を彼の手に乗せる。

 

「お前は中学の時にもやったことあるから大丈夫だと思うが、、、あそこの円の中に入ってこのボールを投げろ。円から出なければ何をしてもいい。

 

「、、、ケッ!」

 

 相澤から渡されたボールを持って、指示されたグラウンド上にチョークで引かれた円の中に向かって歩いていく。

 

 先程の爆豪の急な行動についていけなかった他のクラスメイト達も、そのあとにつづけられた二人の行いによって爆豪の意図を察する。

 

 返事こそしなかったものの彼は相澤の提案を認めたということなのだろう。

 

 返事をしなかったのは爆豪の少々傲慢な性格上、誰かに差し出された案——————しかも、途中で変更されたものに対して、しっかりと返事をして認めるというのは受け付けなかったのだろう。

 

 円の中に入った彼は、右手にボールを握りこみ、両足を大きく前後に広げた。そのあとに後方に上半身をひねることによって彼の投球フォームは完成した。

 

 ボールを投げる準備が整った彼はその状態のまま軽く体を揺らし、筋肉のリラックスを誘発する。その動作には彼の本気で望むというありありと感じ取られた。

 

「————じゃ———く—。」

 

「ん?」

 

 ふと剣は体を揺らしながら、爆豪が何かをブツブツと呟いていることに気付く。しかし、彼がいる場所からは彼が呟いている内容を完全に聞き取ることは出来ず、とぎれとぎれの情報しか入ってこない。

 

 何を言っているのか疑問に思って剣だったがその内容を考えだす前に爆豪が動き出した。

 

 構えたフォームから予想以上にゆっくりと投球の動作に入っていく爆豪。

 

 しかし、その速さは最初だけのものであり後ろ手に引いていた右手が腰のあたりまでくると、一気に速度が上昇していく。

 

 ボールに爆豪が生みだした力がスピーディーに、しかし確実に伝わっていくのがありありと見て取れる。

 

 普通のハンドボール投げならここから、ボールを放すタイミングを加減し、最後のダメ押しで体の後方に向けていた重心を完全に前に移して完了するだけであるが———————ここではそうではない。

 

 ボールが放たれる瞬間、ギリギリのところで剣はかろうじて、彼の右手が煌々として赤色に変色しているのを捉えた。

 

 衝撃は次の瞬間である。

 

 

 

 

 

      『ドッ、————————!—————!————————ッ!!!!』

 

 

 

 

 

 視界を覆う黒煙と共にとても大きな音を立ててから、耳鳴りのような音が鳴り響くだけという異常事態。

 

 その場にいた全員が目を細めて黒煙から己が眼球を守り、耳に手を当てて鼓膜を労わる。

 

 比較的円の近くに居たものは、目を白黒させて少しフラフラとしている。

 

「まぁ今みたいな感じで、近頃の合理的とは到底呼べない現代の体力テストではなく、個性を最大限使って今の君たちの限界をこのテストでは測る。」

 

 今だ混乱渦巻く中、一足早く回復した相澤が黒煙の中手に持っていた携帯端末を掲げながら今回のテストの目的を述べる。

 

 やがて黒煙が晴れて彼の掲げている携帯端末に表示されている文字が視認できるようになり、誰もがその内容に絶句する。

 

 そこに記載されている中身は『725.2m』ということのみだったがその意味を分からない生徒はこの中にはいない。

 

 現在の状況と照らし合わせてみるにここに書かれた数字は彼が叩きだした記録を意味するのだろう。

 

 皆が絶句する中で剣は一人俯きながら深い危機感を覚えていた。予想以上にまずいことになっている。

 

 個性の扱いが不慣れであるとかそういう次元ではなく、個性がないという剣にってのハンデは覚悟していた以上に重く、重く、剣にのしかかった。

 

 

「———————さぁ、皆の衆」

 

 

 

 相澤の声に剣は少しばかりの冷や汗を額に浮かべながら相澤の方へ顔を上げる。

 

 

 そしてその言葉は、

 

 

 

「——————プルスウルトラ」

 

 

 地獄の窯を開ける祝詞であった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「おーおーやってるやってる。何回見てもすごいな、あいつの個性。」

 

 そういいながら、校舎の窓からグラウンドの方から発生した爆発を眺める少年が一人いた。彼のいる校舎もその影響を受けて少しばかり揺れ、天井についた埃がパラパラと振り落ちてくる。

 

 肩に降りかかった埃を軽く払い落としてから、少年は制服のポケットから携帯端末を取り出してアドレス帳を開く。

 

 液晶画面をスワイプして、お目当ての人物を見つけた彼はその欄を推してから端末を耳に近づけた。

 

「—————あ~、もしもし?オレオレ。アーチャーさんだよな?確認できたぜ。バッチしだ。」

 

 どうやら少年は電話でコンタクトを取っているらしい。電話先の人物の声は聞こえないが、少年が話している様子を見る限り、旧知の人物のようだ。

 

 確認云々の話の後、他愛もない世間話をしているとふと彼が後ろを振り向いた。

 

 その視線の先には、白いピチピチのタイツのようなものを着た身長の高い女性の姿があり、その女性を視界に入れると彼は一つ断りもいれず、通話を終了し端末をポケットに入れた。

 

「全く、入学式早々抜け出すなんて感心しないわよ?」

 

「いやー、すいません『ミッドナイト先生』急に電話がかかってきちゃって、、、」

 

「はぁ、もう、、、いいからさっさと戻るわよ——————」

 

 ミッドナイトと呼ばれた教師はさぼりをしていた少年を、呼び戻しに来た女性は少年に呼び掛けてから、踵を返しながら少年の名前を呼んだ。

 

 

 

「————————————菜月 昴君。」

 

 

 

「はいよ、せんせ。」

 

 

 

 

 開かれた窯はどうやら一つではないらしい。

 

 

 

 

 

*1
玄関にある段差のこと




 

この作品の1話1話の長さ(文字数)について

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