剣のヒーローアカデミア   作:GROM

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10話 status test ②

 

 

 

 爆豪がデモンストレーションとして行ったハンドボール投げのあと、クラス全員のテストが始まった。

 

 最初の種目は50m走。一番最初に走る生徒は先ほど話していた飯田と蛙のような姿をした異形型の女子生徒だ。

 

 二人はスタートの合図に備え、靴ひもを結びなおしたり軽く動いて体を温めたりしている。それと同時に飯田がズボンの裾をひざ下ぐらいまでまくり上げ、自らのふくらはぎを露出させた。

 

 そのふくらはぎにはそれぞれ六本の短いパイプのようなものがついている。彼のふくらはぎがそのようになっているのは言わずもがな彼の個性によるところだろう。

 

 二人はそろってスタートラインにつく。しかし女子生徒は、クラウチングスタートの姿勢で構える飯田に対し、彼女は体を丸め跳躍するかのような姿勢になる。

 

 全員が二人に注目する中、剣は二人に図るような目を向けていた。

 

「———イチニツイテ、ヨ―イ、、、」

 

 記録を測定するロボットの無機質な声に、二人は応答するようにスタートに備え脱力する。

 

「ドン——————!」

 

 スタートの合図をロボットから受けた瞬間二人は見事なスタートダッシュを決め、50mを一気にかけていく。

 

 特に飯田のスピードはすさまじく、まるで足にエンジンでもついているのかと思うようなスピードで足を進める。

 

 女子生徒のほうも走るというよりも跳躍といったほうがいいような走り方をしている。

 

「イイダ テンヤ 2.38ビョウ、アスイ ツユ 5.58ビョウ」

 

 50mを勢いよく駆け抜けた二人にロボットから告げられた記録にクラスメイト達がざわめき立つ。

 

 皆特にすさまじい記録を打ち立てた飯田に注目しているが、隣を走っていた女子————ロボット曰く蛙吹 梅雨(あすい つゆ)も何気に好記録をたたき出している。

 

 日本が個性の使用なしで全国の高校生の50m走の平均記録記録を発表しているが、それによるところ男子で7秒前半といったところらしいが、飯田は言わずもがな彼女の記録もこれを大きく上回っている。

 

 異形型の個性は総じて身体能力が高いことが起因し、さらには彼女の個性の作用によりこの記録をたたき出すのに至ったのだろう。

 

 (やはり予想以上だな、、、これは、、、)

 

 背中に冷や汗をかきながら剣は爆轟の時と同じような感想を抱く。というかそれ以外の感想を抱けない。それほどまでにマズいことになっている。

 

 無論爆轟のボール投げや、二人の50m走レベルの猛者はそう多くないだろう。それであってもとても楽観視できる状況ではない。

 

「——————次、久留木!口田(こうだ)!ラインにつけ!」

 

 そんなことを考えてる間に剣の順番が回ってきてしまう。

 

 相沢の指示に従い、口田と呼ばれたガタイのいい男子生徒と横並びになりながら、

 

(悩んでも仕方ない、、、とにかく今は、、、!!)

 

 腹をくくった剣が50mを疾駆する。飯田には及ばぬ程度のスピードで、しかし確実に風をまとって、、、

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「クルキ ケン 6秒01 コウダ コウジ 7秒86」

 

「久留木君は6秒台か、、、」

 

 二人の記録を聞いた緑谷出久は、自分と同じ無個性である剣がたたき出した記録に少し驚愕する。

 

(僕の中学の時の記録よりも、なんならかっちゃんよりも速い、、、!きっと久留木君は身体能力がすごく高いんだ、、、!!)

 

 脳内で剣の記録に対する考察をする。

 

 ほぼ同じ土俵の二人。

 

 しかし、二人の間にある能力差は相当に大きい。そのことを自覚した緑谷は遅れながらこの状況に対する危機感を覚える。

 

 その間にも、ほかの生徒が次々に自分の個性を最大限活用した方法で好記録を残していく。それは一層彼の不安を煽ることになり、彼は背中を冷や汗でびっしょりと濡らした。

 

(ここがトップの世界なのか、、、みんな入学したてなのに個性の扱い方が僕なんかより圧倒的にうまい、、、)

 

 考察すればするほど彼の動機は高まっていき、汗もとどまることなく流れ出していく。

 

「緑谷くん?」

 

「え?う、麗日さん!?どど、どうしたの!?]

 

「いや、次君の順番やでって言いに来ただけなんやけど、、、」

 

「あっ、そ、そうか、、、あ、ありがとうネ」

 

「どうしたん緑谷くん?なんか顔真っ赤やけど、、、」

 

「いやぁ、、、その、、、」

 

(ちっ、、近いよ!麗日さん!!)

 

 麗日の問いかけに、しどろ戻りなりながら緑屋は答える。

 

 性格上、陥ってしまえば到底這いあげってこれないような暗い思考から、彼女の助けで抜け出せた緑屋だったが、それでもなお彼の動機は早まったままだ。

 

 ピッチの早くなった彼の胸のポンプから供給される血液が、彼の顔を耳まで余すことなく染め上げ、彼の脳は爆寸前の状況だ。

 

 距離感の近い麗日はそれが原因だとも知らずに、不思議そうな顔をしながら緑谷に近づく。

 

 彼女との距離感が近くなるほど、彼の心拍数は上がっていく。

 

「あの、そろそろ移動してくれません?あんまり言いたくないんですけど、、、その、、、」

 

 しばらくそんなことをしていると不意に、別の生徒が二人に、というより緑谷に話しかけてきた。

 

 話しかける内容は麗日と全く同じだが、耳たぶからジャックのようなものを下げた彼女は気まずそうにスタートラインのほうを見る。

 

 そこに何があるのかと緑谷は覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 ————―絶句

 

 

 

 

 

 

 そんな言葉が似あう顔を浮かべて緑谷が硬直していた。

 

「早く!来いや!!クソデク!!!何を、ちんたらしてんだてめぇ!!」

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」

 

 体の硬直が解けると同時に緑谷はスタートラインに向かって走り出す。

 

 その時彼の頭からテストへの不安も、麗日への緊張も消え失せていた。

 

 自らの怒号の爆心地へたどり着いた彼は、到着するなりもう一度謝罪をする。

 

「ほ、ほんとうにごめんね、かっちゃん!悪気はなかったんだけど、ぼーっとしちゃってて、、、」

 

「あぁ!?んなもん知るかよくそが!昔っからトロトロ、トロトロしやがって、、、!だからてめぇは木偶(デク)なんだよ!!」

 

「う、うん、、、ほんとにごめん、、、」

 

 緑谷の二度目の謝罪をかっちゃんこと、爆轟勝己が嫌味ったらしく恫喝する。

 

 年中無休でヴィランテイストなその顔は、今だけ二割ほど風味が強くなっているように見えるのは気のせいではあるまい。

 

 しかし、今回の非は緑谷にある。

 

 それを自覚しているのか彼は強く言い返せない。

 

 無論、強く言い返せた試しなどないのだが、、、

 

「おら、二人とも!とっとと位置につけ。時間を大事に使えって、今言ったところだろうが。」

 

「す、すいません!!すぐに!!」

 

「、、、ケッ!!」

 

 相沢から指示を受けた二人は、言われたとおりに位置につく。

 

 スタートの姿勢をとった緑谷は思考を巡らせていた。

 

(イメージだ、僕、、、!個性を使った時の感覚、、、マックス値のギリギリ下のライン、、、!!)

 

 

「——————イチニツイテ、ヨ―イ」

 

 

 

(——————卵が、、、割れない感覚、、、!!!)

 

 

 

「———ドン!!」

 

 走り出したと同時に脚部で個性を発動させる。

 

 直前までのイメージをままに、個性を発動する。入試の時のように全力ではなく、体が壊れない程度に調整して、、、

 

 その結果、彼の体は無事守られながら始動し、そのままのスピードで、、、

 

 

 

「———————爆破ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「えっ!ちょ、かっちゃん?!」

 

 

走り出した緑谷をそれを大いに上回るスピードで爆轟が追い抜いて行った。

 

 手を後方に突き出し、手のひらで起こる爆発によって生じる推進力を使い、彼は走行していていた。

 

 それも地面をではなく、地面につくかつかないかの低空を。

 

 鬼のようなスピードで、鬼のような顔をしながら、ゴールラインを通過していった。

 

「———っ!、、、はぁ、、、はぁ、、、はぁ、、、!」

 

 それに、必死に追いつこうとしていたもののついぞ追いつくことのかなわなかった緑谷が、同じくゴールを踏み越えた。

 

 

「バクゴウ カツキ3秒69 ミドリヤ イズク 7秒02」

 

 計測器から発せられる無機質な音声は、緑谷に現実を突きつける。

 

 同級生に3秒以上の差をつけられるという事実。

 

(うまく、個性をつかえていたはずだ、、、卵のイメージもキープできた、、、!それなのに、、、!!)

 

 結果を受け、ひどく落ち込む緑谷。

 

 始まる前のネガティブな状態に逆戻りする。

 

 それに、対して爆轟はただ一つ、

 

「、、、やっぱ両手にすると爆破の威力が落ちるな。もうちっと威力を上げねぇとな、、、」

 

そう呟いて、次の競技の準備に移っていった。

 

 

緑谷 出久 17/22位

 

久留木 剣 8/22位

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

—————握力測定——————

 

(レンジに入れた卵が割れないイメージ、、、!割れないイメージ、、、!!)

 

 握った握力計に個性をセーブしながら、渾身の力込めていく。プラスチック製の握力計が少しきしみながら、彼の力を正確に計測していく。

 

「く—————っ、、、ふっ!!————」

 

 最後の最後に力をすべて出し切る思いで、歯を強くかみしめながら前腕に力を込めた。

 

「緑谷ーもういいぞー」

 

「———っはぁはぁ、、、うん、ありがとね!えぇっと、、、?」

 

「あぁ、俺上鳴ね、上鳴 電気《かみなり でんき》!ヨロシク!!にしても、緑谷って意外と力あんのな」

 

 緑谷とペアを組んでいた上鳴は緑谷の記録を見ながら、その記録に驚きながらも称賛する。

 

 上鳴の言葉につられて手にしていた握力計に表示されている記録を確認し、彼の心はおおきな衝撃に包まれた。

 

(61kg!!やった!うまく個性の調整ができたんだ!)

 

 明確な数値となって事の成功がわかり不安で強張っていた表情が少しほころぶ。

 

 結果が出たことで緑谷のメンタルは少しばかしプラス方向へ傾きかけていた。

 

(、、、さっきやったときの感覚がちょうどいいのかもしれない、、、!この感覚を次の競技に生かせれば!)

 

「おお!久留木、結構握力あるな!60kgって結構握力あるほうじゃないか!?」

 

 ふと緑谷の耳に少し離れたところからも驚嘆の声が上がってきた。

 

 大きく、そして男らしい声で驚いている件の少年は、自分とペアを組んでいるもう一人の少年の記録をほめている。

 

 そして、緑谷にとってはその声よりも、その内容に驚いていた。

 

(そうか、握力で久留木くんよりもいい記録を出せたのか、僕は。この競技に関しては意外といい線を行けるかも、、、!)

 

「ああ、そうだな。でも俺がいた剣道部の中じゃ比較的弱いほうだったぞ。」

 

「へぇー、マジか!剣道部ってスゲーんだな!!何よりかっこいいしな!!」

 

「わかった、わかった!わかったから、うるさい。声量をとせ!切島(きりしま)

 

 切島と呼ばれた少年の大声にさらされ続けた久留木は、彼に文句を言って黙らせている。

 

 その様子を遠目から見ていた緑谷からは、なんだか剣が生き生きしているように見えた。

 

 その顔は「迷惑」という字を張り付けたのかと思うほどのものだったが、、、

 

 そんなことを思っていると、またもやどこからから歓声が上がる。

 

「うぇ!?すご!!260kg!?」

 

「やっべー!タコの腕ってすごいな」

 

「タコってなんかエロいよな、、、!」

 

 二人の耳に同時にはいいてくるのはまたしても驚嘆の声。

 

 しかも、それは緑谷や久留木とも一線を画すレベルの記録だった。

 

 文字通り、結果そのまま、桁が違う。

 

 歓声が上がったほうを二人が向くと、そこには見事に鍛えられた右腕を六本も生やした、異形型の個性の生徒だった。

 

 六本の腕すべてで握力計を全力で握りしめている。

 

 彼の手のひらが開かれると握力計のグリップが少し変形していた。

 

 あまりにも大きい彼との差に好転しかけていた、緑谷の心情は再び暗転しかけていた。

 

「緑谷?おーい緑谷?次!次、俺!握力計、わたして!?」

 

「えっ?!あっ!!ご、ごめんね!!上鳴くん!!」

 

「いや、いいけどよぉ、、、大丈夫か?あんまりああいうの気にすんなよ。緑谷の記録は十分にすごいんだからさ!」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 そう礼をいうものの彼の顔色はすぐれない。

 

 もはやどう声をかけても、メンタルが回復しそうにないことは明白とっても過言ではない。

 

 大きな、危機感と焦燥感をそのままに、大さじ2杯半の無力感を抱えながら、第二競技は終了した。

 

 それを抱えた二人をそのままにして

 

 

緑谷 出久 13/22位

久留木 剣 17/22位

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

—————走り幅跳び——————

 

 

「うおおおおぉぉ———っ!!」

 

—————ところ変わって第二競技、落ち込んだテンションを振り切ろうという意気込みを乗せた渾身の跳躍。

 

「————ミドリヤ イズク 3.1m」

 

 3mを超える記録、それをたたき出したのにもかかわらず、やはりというか、緑谷の表情はどこか沈んでいる。

 

 それの様子など言わずもがな————

 

「キッッッラ———————―ンン!!!」

 

「————爆速タァ―ボ!!!!」

 

 目の前に広がる個性によるまさしく超常いうべき光景。

 

「アオヤマ ユウガ 25.6m バクゴウ カツキ 測定不能」

 

 ロボットが告げる緑谷と二人の明確な差。

 

 それに緑谷は打ちのめされる。

 

 しかし、それは———————

 

「クルキ ケン 3.8m」

 

「———っく!、、、チッ!!」

 

 決して自分も例外でない。

 

 わかっている。理解している。自覚している。

 

 そのはずなのだ。

 

 しかしわかりきったことでも、彼の心を急かすには十分だった。

 

 

緑谷 出久 16/22位

久留木 剣 1022位

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

—————反復横跳び——————

 

緑谷 出久 17/22位

久留木 剣 2/22位

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

—————上体起こし——————

 

緑谷 出久 13/22位

久留木 剣 7/22位

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

—————長座体前屈——————

 

緑谷 出久 16/22位

久留木 剣 8/22位

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

—————ハンドボール投げ——————

 

 

 

 

 

 

「———ウララカ オチャコ ∞  」

 

「—————ヨシ!!」

 

 記録ロボから告げられた記録に麗日ガッツポーズをして歓喜する。

 

 テストが始まって以来の大記録に、クラスメイトは彼女に称賛の声を送り、それを受けた彼女は恥ずかしそうに、しかして嬉しそうに笑っている。

 

 

 

 さっきからそんなことばっかりだと、緑谷は思う。

 

 何度も、何度も、到底なしえることなどできっこないことを、平然とやっている。

 

 何度も、何度も、そのたびに心に暗い影が差す。

 

 それは、ふがいない記録ばかりを自分が出しているからか。

 

 それとも、先のことを考え全力———個性を使っていないからか。その罪悪感に似た、負け惜しみともとれるようなそんな感情故か。

 

 目を伏せて、うつむき、まとう空気が泥のように重い緑谷。

 

 

 

 

「———次!緑谷!!」

 

 

「、、、っ!は、はい、、、!」

 

 

 

 呼ばれた緑谷は思いつめた表情のまま、相沢に呼ばれたとおりに指定された円の中へ向かう。

 

 向かう途中、麗日とのすれ違いざまに心配そうな顔をこちらに向けてきていたが、緑谷はそれすらも目に入っていなかった。

 

 

 円の中に入った緑谷は、右手に持ったボールを見つめる。暗く、今日で一番の曇った顔。曇天が顔に出る。

 

 

「———————なぁ?あいつダイジョブなんかな?」

 

 ふと、誰かの声が聞こえた。

 

「大丈夫かって何がよ?」

 

「いや、だってさぁ、、、さっきからあいつどデカい記録とかだせてねぇじゃん?」

 

「あー確かにな、、、」

 

「この競技はとくに700mのやつとか、何なら∞のやつまでいるからこのままだと、、、」

 

 

 —————外ざまからみて好き勝手に言ってくれる。

 

 ————聞こえてないとでも思っているのか?

 

 あいにく彼の声はしっかりと耳に届いている。そしてその言葉たちは緑谷をより一層追い込んだ。

 

 

 

(もう、出し惜しみなんて、、、できない、、、!)

 

 

 ボールを握る手に無意識に力がこもる。緑谷にはそれが、これから自分がやろうとしていることに体が恐怖しているように見えた。

 

 しかし、それでもやらなければならないことには変わらない。

 

 ここで上位に入らなければ、もう緑谷に未来はない。故に体のこわばりを無視した。

 

 

 

「フゥ———————!!」

 

 

 覚悟を込めて鋭く息を吐く。体からほんの少しこわばりが消え、体はこれから訪れる変化を受け入れる。

 

 緑谷は円の中でスタンスを大きくとり、顔に緊張を張り付けて正面をしっかりと見据える。

 

 

 「——————————っ!!」

 

 声にならない裂帛の気合とともに緑谷の体は加速していく。

 

 瞬間、彼のジャージの右腕部分が裂け、緑谷の右腕がさらされる。

 

 さらされた右腕には赤い稲妻がほとばしっており、腕全体のサイズも二回りほど大きくなっていた。

 

 あの腕から放たれるボールがどれほど遠くまで飛ぶか誰にも分からない。

 

 それでも一つ、確実にいえるのはその記録はきっと爆轟の記録に匹敵するほどの大記録になるだろうということだった。

 

 

「—————ううぁぁぁぁ!!」

 

 声にならなかったものはそのうちしっかりとした声となって、彼の口から解放された。

 

 それと同時に、つかまれていたボールも右手から解放され遠く、遠くまで飛んでいく。

 

 誰もがそう思ったに違いない。当の本人はそれ以上にそう思ったし、そう願った。

 

 

 そうして、、、

 

 

「———そうして、また誰かの足手まといになるつもりか?」

 

 

 緑谷の耳にその声が届くのは、ボールが20m先の地面についたのを目にした後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「———————ミドリヤ イズク 20m」

 

 

 遠くから見ていた剣は急な出来事に面を喰らいながら、この状況を作り出したであろう人物へと目を向けていた。

 

 剣が目を向けていた人物は先ほどまでの気だるげな眼付ではなく、大きく目を見開いて緑谷をその両目にとらえている。

 

 その瞳は爛々と赤く煌めき、髪の毛も逆立ち、とてつもない威圧感を放っている。

 

 そこから感じられるものは先の見立てと寸分の狂いもないように思えてしまう。

 

 彼が臨戦状態にいるわけではないことはわかるがそれでもすさまじいものだった。

 

 しばらくすると見開かれていた目は元へと戻り、髪の毛も重力に従って落ちていった。

 

 

 

「はぁ、、、だから俺はあの試験嫌いなんだ、、、お前みたいなやつが受かっちまう」

 

「————っ!」

 

 相沢に言われたい放題の緑谷は苦々しい顔をしてうつむいてしまう。

 

 

「緑谷、、、入試でのお前の動きは見させてもらったよ。またあの超パワーを使おうとしたんだろ?」

 

「はい、、、でも、なんで個性が」

 

「消したんだよ」

 

「、、、え?」

 

 相沢の言葉に緑谷は目を見開いている。

 

 そして、それは周りの生徒も、剣も同様だ。

 

 

(まさか、この人は、、、この人の個性は!)

 

 

「俺の個性は『抹消』、、、他人の個性を消せる個性だ」

 

 

 その言葉を聞いて剣はやはりと思う。そして、同時に納得もしていた。

 

 なぜ、彼がこうまでも、、、入学早々に除籍処分を下さんとするほどに、厳しいのかが剣にはわかった。

 

 わからざるをおえなかった。

 

 同じような人間として。

 

 

「—————オイ」

 

「ヒっ!か、かっちゃん?!」

 

 

 そんな時だまたしても爆轟が、緑谷に突っかかっていく。

 

 何がそんなに気に入らないのか剣には皆目見当が、、、

 

(いや、、、そういやあいつ確か、俺以外にも無個性がどうとか言ってたな、、、確か)

 

「くそデクが!俺のこと、、、騙してやがったんか、、、、!!」

 

「へっ?い、い、いや、いやいや、そんな騙すだなんてことしてな—————」

 

「—————ウゼェ、、、!!」

 

「え?かっちゃ、、、」

 

「——————ごっちゃ、ゴッチャ、うるせぇんだよ!!」

 

「うるせぇのはてめぇだよ、爆轟」

 

「あぁん?!なんだ——っっっっガァ!!」

 

 緑谷に牙を向けんとしていた爆轟だったがそれも未遂に終わる。

 

 相沢の首元にある細長い布————包帯のようにも見えるそれを爆轟に一瞬のうちに巻き付け、行動を止めていた。

 

 また、相沢の目はまた見開き、髪の毛も逆立っている。

 

 おそらくだが彼の個性が発動したのだろう。

 

 急展開に次ぐ急展開に生徒たちがたじろぐ中、緑谷は唯一相沢の違うところに目を向けていた。

 

「、、、包帯のような捕縛布に、その首元のゴーグル、、、個性を消す個性!!」

 

「?どうした——————」

 

 

「まさか、あなたはイレイザーヘッドですか?!!!」

 

 

「うぅぅ、、、!声、デカぁ、、、」

 

「んな大声で言わなくて聞こえるだろうに、、、」

 

 急に大きな声を出した緑谷の声によって、彼の近くにいたクラスメイト達は耳にダメージ負う。

 

 遠くにいたのに鼓膜がちょっと心配になった、とは剣の談だ。爆轟の個性に並べるんじゃないのか?

 

 

「—————確かにその通りっちゃ、その通りだ。でもだから何だって話だろ?」

 

「え?」

 

「もっと合理的にいこう。まぁお前には少々難しいのかもしれんがな、、、」

 

「は、はい、、、ソウデスネ、、、」

 

 

 その言葉によって緑谷はまた顔をうつむけてしまう。

 

「話を戻すがな、緑谷。おまえ、またあの個性使って足手まといになろうとしたのか?」

 

「い、いや、、、!そんなつもりは、、、!」

 

「仮にお前にそのつもりがなくても結果的におまえは、要救助者を増やそうとしてるってことには変わりはない」

 

「それは、、、」

 

 もう彼に相沢の言葉に反論するだけの力は残っておらず、相沢の言葉は無防備な彼の心により一層プレッシャーをかける。

 

 そして、彼は、、、

 

「ほれ、特別だ。緑谷、お前もう一回やってみろ」

 

「ぇ?、、、わわっと、、、!!

 

 急に緑谷にもう一の、起死回生のチャンスを与える。20mなんかではお話にならない。

 

 少し遠くから放り投げられたソフトボールを緑谷は戸惑いながらもしっかりと受け取った。

 

 それでも結局のところ彼のおかれている状況が好転したわけでは決してない。

 

 剣にはむしろ、悪化しているのではないだろうかとすら思えてしまう。

 

 その証拠に彼の表情は、より一層張り詰めたものに、、、

 

「、、、は?あいつ、、、なんでこの状況で」

 

(緑谷、、、お前は、この状況でなぜ)

 

 先ほどと同じように、足を大きく開いたスタンスをとっている緑谷、相沢と剣がほぼ同時のタイミングで緑谷の顔見て、顔を引きつらせる。

 

 

 

 

 

「(笑えるんだ)」

 

 

 

 

 二人の言葉が重なった瞬間、強風が二人をたたきつけた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 相沢のあまりの言い方に一言モノ申したい気持ちが暴走しかけていた花だったが、同時に感じたもう一つの気持ちがそれを押しとどめていた。

 

 感じたといっても花にはそれを形容することができない。どこかで感じたことのある感覚、、、それにもかかわらずなぜか言葉出てこない。

 

 なぜだろうかと考えているうちに、緑谷はボールを受け取ってもう一度足を大きく開いて、投球するファームをとった。

 

 その瞬間、頭の中でけたたましい程の鐘の音が鳴り響く。

 

 それは加護がもたらした花に対する警鐘だ。彼女の周りに彼女を脅かすものが存在するときに鳴り響くもの。

 

 そんなものが鳴り響き、困惑の中にいる花を置き去りにして、緑谷は体に火を着けたかのように一気に加速していき、ボールを投げてしまった。

 

 

 

 投げてしまったのだ。

 

 

 彼女の鐘が鳴り響く中で、

 

 

 彼の動きが速くなるにつれて、音が大きくなる中で、

 

 

 彼は投げてしまった。

 

 

 

 そして—————————

 

 

 

 

 

 突如として強風が吹く。

 

 砂が混じった風が花に、剣に、相沢に、緑谷にも、クラスメイトにも、叩き付けられる。

 

 風がやみ、砂埃が立つ中から緑谷の姿をようやっと視認できるぐらいになると、不意に緑谷が振り向いた。

 

 

 

「相沢、先生、、、!」

 

 

 彼は相沢に語り掛けながら、右手を胸の前に掲げて見せる。

 

 そして、、、

 

 

 

「まだ、、、動けます、、、!僕はまだ、動けます!!」

 

 

 固く、硬く握られた右手————人差し指と中指だけが赤紫色に変色した右手を見せつけるようにしながら、彼は高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

————それをまぶしそうに見る剣を花は決して見逃しはしなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

—————1500m走——————

 

 

 

 

「——ッアァぁ、、、はぁ、、、!!はぁ、、、!!」

 

 

 

 

「「、、、」」

 

 

 

 

—————とても人様に見せられないような、そんな、ぐっしゃぐしゃの表情をさらしながら最下位でゴールラインを踏み越えた緑谷。

 

 

 6位という成績で1500mを完走した剣と、全員の監督役をしていた相沢はそんな彼を見て同時にこう思った。

 

 

 

 

((全然、、、動けてねぇじゃねぇか、、、!!))

 

 

 

 地面に倒れ伏す緑谷に、彼の知れぬところで同時に降りかかった言葉。

 

 

 

 

 

 意外と剣にとっては、相沢はアタリなのかもしれない

 

 

 

 

 

 

緑谷 出久 22/22位

 

久留木 剣 6/22位

 

 

—————追記————— 

 

緑谷 出久 12分59秒

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 緑谷がある程度話を聞けるぐらいの体力を取り戻したころ、いよいよ運命の結果発表となった。

 

 今後の高校生活が懸かった今回のテスト。クラスメイト達は一様にしてどこか落ち着かない雰囲気を醸し出している。

 

 あるものは手を胸の前で組んで祈りをささげ、あるものはほかのクラス名たちと談笑して何とか緊張をほぐそうとしている。

 

 またあるものは、ポケットに手を突っ込んだままどこかをにらみつけて、、、いや、これはまた違った反応だった。

 

 なにはともかく、そんな人物おいていてこの少年を見てみよう。

 

 先ほど息も絶え絶えながら長距離を完走した少年だ。

 

 そんな彼の表情はいかなものか?

 

 残念ながら、彼の顔は下を向いており表情は読み取れない。だがむしろそのほうが行幸だろう。

 

 彼にとっても、クラスメイト達にとっても、自分にとっても。

 

 しかし、下を向く彼の彼の体が小刻みに震えているのはこの場にいる誰にでもわかったことだった。

 

 それにしても、ほかの生徒の様子を見て心を落ち着けようとするなんてずいぶんと自分らしくないことをしているものだと思った。

 

 

「んじゃあ、テストの結果を発表する。全員モニターを見てくれ。」

 

「———っ!(ついに、、、)」

 

(、、、ついに来たか)

 

 相沢の言葉により一層体を強張らせる緑谷。それと同時に目を細める剣。

 

 突如として相沢の背後に浮かび上がったホログラムには、今回のテストの成績が映し出されている。

 

 判定の仕方はわからないが、上位1位から順に名前が書かれている。

 

 

1位 ————————————

 

2位 八百万 百(やおよろず もも)

 

3位 轟 焦凍(とどろき しょうと)

 

4位 ————————————

 

5位

 

 

 

「久留木くんの、、、いや、今は自分の、、、!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

21位 峰田 実(みねた みのる)

 

 

 

 

 

 

22位      緑谷 出久

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あっ、、、ぼ、くの順、位、、、!」

 

 

 自分の順位を確認した緑谷は愕然とした表情で、ホログラムを見つめている。

 

 かわいそうなほどに、緑谷の顔から血の気が引いていくのが遠くにいた剣にもわかった。

 

 

 そして同時に剣は少し、ほんの少しだけ悲しそうな、寂しそうな顔をした。

 

 しかし、それでも結果は結果である。どうしたって変わらない。彼はこの学校から————————————

 

 

 

 

「——————————あっ、ちなみに君らに言ってた最下位は除籍処分にするって話、」

 

 

 突如、何かを思い出したかのように相沢が、剣が考えていたことを話題に出す。

 

 そしてしれっと、なんともあっさりと、驚くほど味気なく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、嘘だから。みんなの能力を引き出すための合理的虚偽ってやつ」

 

 

 

 

 

 

            

 

「「「「「「「「は?」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は同たる姿勢で、ネタバラシを敢行した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「まったく、皆さん驚きすぎですわ。あんな荒唐無稽な話、嘘に決まっているでしょうに、、、」

 

「ははは、、、でも、結構先生も本気だったんじゃないかな?私にはそう見えたんだけど」

 

「いいえ!あんなものが本気であってたまりますか!!」

 

 テスト後、花は女子更衣室でちょうど隣になったテスト成績2位の女子生徒—————八百万 百と話をしていた。

 

 テスト中度々ペアの組むことの多かった二人は初対面でありながら、よくしゃべる間柄になっていた。

 

 八百万の性格がら花と波長が合うのかもしれない。なんとなく傍付きの女騎士に性格が似ていることも起因しているのだろうか。

 

 そんな二人は相沢が生徒に吐いていた嘘———————曰く、「合理的虚偽」なるものを話題に会話をしていた。

 

 

「そもそも!!半分その場の勢いで決まったようなものでしたし!そんなもので生徒を除籍などあってはならぬ行為ですわ!!」

 

「あ~確かに!それもそうよね!それにしてもあの爆轟って子、全然あの時からかわってないのね、、、!!」

 

「あれ?聖連さんは、あの爆轟さんと面識がおありで?」

 

「中学校が同じだったのよ。それで、一回彼を緑谷くんって子と助けたことがあるんだけど、、、」

 

「、、、聖連さん?」

 

「だめだ、、、!思い出したらまた腹が立ってきた、、、!」

 

「えぇ、、、?何があったんですの?」

 

 爆轟の言動を思い出した花はまたあの時と同じ湧き上がるような怒りが上がってきた。

 

 八百万が何があったのか不思議そうにしていているが、花はそれに答えない。

 

 答えるとこの怒りに八百万にぶつけてしまいそうだったからだ。そんなことで友達に当たりたくない。

 

 

 

(————剣、あんまり気にしてないといいけどな、、、)

 

 

 

 テストの結果発表からずっと気にかけていること。

 

 合理的虚偽の発端になった剣と爆轟の勝負の結果。

 

 その結果が少し意外なものだったから花はずっと気になっていたのだ。

 

 

(、、、あんな成り行きで成り立ったものを気にする必要なんてないんだけど、、、)

 

 

 

「———負けず嫌いだからなぁ、、、ヴィルヘルムは」

 

「ヴィル、、、?聖連さん、それはどなたですか?」

 

「ううん。こっちの話。気にしないで。それより、、、百?」

 

「は、はい、、、?」

 

 花の独り言に反応した八百万だったが、急にこちらをにっこりと心底楽しそうに、、、面白いいたずらを思いついたような笑顔を浮かべる花に、疑問を持つ。

 

 そして、、、

 

 

「ずっと思ってたんだけど、あなたスタイルいいわよね、、、!!!」

 

 

「せっ、せせ聖連さん!!?」

 

 

「——————とりゃーー!!」

 

 

「ちょ、キャぁぁ———————!」

 

 

 花は八百万に思いっきり抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、更衣室から出てきた花は、同じく更衣室から出てきた剣にこってり叱られたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

——————テスト結果————————

 

 

2位 八百万 百

 

 

3位 轟 焦凍

 

 

4位 爆轟 勝己

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5位 久留木 剣

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