剣のヒーローアカデミア   作:GROM

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11話 battle

 ——————昼休み、学校。その教室。

 

 午前中の授業が終了し多くの生徒がその喜びと、この後に待ち受ける5限6限の授業に絶望する時間。

 

 しかし、入学したてということもあって皆まだ少しばかし浮足立ち、教室内の喧騒は晩夏のひぐらしに匹敵する。

 

 さて、そんな教室の中に異様に静かな空間があるではないか。そこにいる人物は一人机に突っ伏して、時を過ごしている。

 

 いわずもがな我らの主人公である。

 

 さて、かつて必死さゆえの鬼と親友に呼ばれた栄光をかなぐり捨てている我らが主人公、久留木 剣

 

 そんな彼に近づいてくる影が一つある。

 

 その影は彼が突っ伏している席まで近寄って行くと、

 

 

「け~ん?大丈夫?お弁当食べる?というか食べれる?」

 

「、、、ダメかもしれない」

 

「なんで?」

 

「、、、食べたら5限目、確実に寝る」

 

「えぇぇ、、、」

 

 

 机の横にしゃがみこんで、剣の顔を覗き込むようにしてきた花は、剣の返答に困惑していた。

 

 いつもの剣に比べてあまりにも覇気がない。

 

 そんな様子に、花はため息をつきながらも、その顔は慈愛に満ちている。

 

 惚れた弱みというやつだろうかと思いながら、花は剣の前の席を引いてクルっと回すと、そこに座った。

 

 右手に持っていたものを机に置いて、手を二回ほど軽く鳴らす。

 

「ほ~ら!そんなこと言ってないで、早く一緒にお弁当食べましょ!」

 

「はぁ、、、わかった、わかった、、、」

 

「ため息」

 

「、、、すまん」

 

「よろしい」

 

 緩慢な動作で体を起こして花の要求を飲んだ剣だったが、体に付きまとう気だるさが、そのまま態度に出てしまっていたようで、花を少し怒らせてしまったようだ。

 

 ぷっくりと頬を膨らませて、花は自分へ不満を訴えてくる。そのしぐさがとても愛らしくて、少し可笑しくなってしまったの内緒だ。

 

「まったくもう!そんなので今日の授業大丈夫?」

 

「いや、だから5限は確実に寝落ちしそうって、、、」

 

「それもそうだけど、6限目の方よ!今日は初めてのヒーロー科の授業でしょ?」

 

「、、、そうだったな」

 

 花の指摘に剣は歯切れが悪く、バツが悪そうに目をそらしてすらいる。

 

 そんな様子に花は弁当の蓋をあけながら、少し意地の悪い笑い方をし、

 

「もしかして、、、忘れてたの?剣?」

 

「やめろ。その小ばかにしたような顔をやめろ。お前にされるのが一番むかつく。」

 

「そうはいってもねぇ、、、ふふっ」

 

「笑うなよ、、、そんな可笑しかったか?俺が授業を忘れてることが」

 

 花にクスっと笑われた剣は眉間にしわを寄せて怪訝そうな顔を見せた。

 

 正直言ってこうして笑われるのはいい気分ではない。

 

「だって剣ってば、いっつもどこか気が張ってるところがあったから、それがちょっとほぐれたのかな~って思うと、あぁよかったって」

 

「そんなに張り詰めた感じか俺?というかよかったって何が————」

 

「———えい!」

 

 よかったとは何がだといいかけた剣の口に何かが差し込まれ、剣は差し込まれたもののせいで言葉が途切れてしまう。

 

 差し込まれてきたのは花の弁当に入っていた卵焼き。塩によってシンプルに味付けされた卵焼きは、剣の体にまとわりついていた疲れを一気に吹き飛ばした。

 

 そのおいしさに思わず剣の口から「うまい」という言葉がこぼれるほどだった。

 

 卵焼きを差し込んだ張本人である花は剣のその言葉にも一度クスっと笑ったあと、

 

「なにがよかったっていうとね、こうやって剣と同じ学校で、同じクラスで、一緒に入れることがすっごくよかったなって思えたの」

 

「そうか、、、思えば中学では結局一回もおんなじクラスにならなかったもんな」

 

「ええ、だからこうやって剣と話をして、ちょっと元気づけることができてることが幸せなのよ」

 

 そういって本当に幸せそうに笑う花に剣は見惚れる。

 

 それと同時の口からも笑みがこぼれる。感情のままに剣は花の頭に手を伸ばして、ポンと手の平を乗せた。

 

 急なことにコテンと小首をかしげる花に剣は————

 

「——————」

 

「剣、、、?」

 

「———なんでもない。あと、その顔を俺以外がいるところで見せるなって言わなかったか?」

 

 「ありがとう」と言おうとして、直前でこっぱずかしくなって目をそらし、剣の手は花の頭をただなでるだけにとどまった。

 

 小首をかしげながらも頭を撫でられる花の顔はとても幸せそうだった。自分の頭の上から感じる温もりを確かに感じ取って、それが幸せだとそう主張する顔だった。

 

 まったく、本当に反則だ。

 

 同時に浮かんでくるのは、どこからか感じる嫌悪感。

 

 この男はいつもいつもこういう場面でチキッてしまう。

 

 それが原因で深い後悔に沈んだというのに、、、何も学ばない男だ。

 

 彼もそのことは自覚しているが、それもこれも花の可憐さがすべての原因だとも思っている以上、改善までの道のりはずいぶんと遠そうだ。

 

「あ~!話そらした!なに?何を言おうとしてたの?教えてよ~!」

 

「はいはい、また今度。気が向いたときにな。」

 

「そういって前は私が生きてる間に言ってくれなかったわよね?」

 

「うっ!それはだなぁ、、、」

 

 剣の急な行動への疑問が解消されていない花は話をそらした剣に詰めていく。

 

 剣にとっての最終兵器までまで持ち出してきた彼女は止まることなく、剣が何を言おうとしたのか聞き出そうとしてくる。

 

 なおその状況の中、剣の手のひらは花の頭の上から移動してきて、今は花の髪の毛を手で触っている。

 

 燃え盛る炎をそのままに閉じ込めたような赤毛はさらさらで、手入れが行き届いていることがわかった。

 

 同時にそれは自分の為なのだろうかと、きっとそうなのだろうと思った。

 

 まぁ、そんなことを考えていたって花からの詰問がその勢いを衰えさせるわけではないのだが、、、

 

 というかむしろ、薪をくべた火のごとく増していくことに剣はいったいどうしたものかと頭を悩ませることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

————6限目

 

 睡魔との絶え間ない攻防戦を攻略した1-A組の面々。

 

 先ほどまでの静けさは何処へ旅立ったのか、というほどの騒がしさだ。

 

 先の5限目の授業は英語。

 

 クラスメイトの半数に近い数が、レム睡眠とノンレム睡眠の間を右往左往することになったのだが、教科担当の先生によって全員が強制的に目を覚ますことになった。

 

 さすがは産声で助産師と母親の鼓膜を破いた声帯の持ち主ということだろうか。歩く騒音被害装置である。

 

 しかし、そんな地獄から一つ上がりの煉獄も終わり、生徒たちを次に待ち受けるのは期待で満ち溢れた授業だ。

 

 現役のトップヒーローから直接指導を受けることのできるヒーロー科の特別カリキュラム。その一回目。

 

 みなこの授業のためにこの学科を選択し狭き門を潜ってきたのだ。楽しみでないはずがない。

 

 だれ一人残さず、全員がテンションがメーターを振り切って、、、

 

「あぁぁ————」

 

「久留木、本当にダイジョブか?次の授業」

 

「あぁぁぁ————多分」

 

「いや、無理じゃね?これ」

 

 一人だけ、昼休みの冒頭と全く同じ状況になっている生徒がいた。

 

 昼休みに元気をもらったはずが、英語という剣の苦手科目に当たってしまい、また机を枕にしていた。

 

 剣を心配する切島とも一人、上鳴 電気という名前の男子生徒が心配してくるが剣単独の力ではもうすでに回復するのは不可能に近かった。

 

 デジャヴにもほどがあるというものだ。

 

「たく、、、そんなんじゃお前聖連さんの頑張りが無駄になっちまうから、シャキッとしろ!男だろ!」

 

「ちょ!おまえ、、、!」

 

「んぁ?切島、聖連さんの頑張りってなんぞ?」

 

「あーそれがな、聖連さんが昼休みに、、、」

 

「一々いうな、馬鹿が」

 

 

「「え~ケチ!!」」

 

 

 剣が突っ伏したままダウンしていると切島がいらないことを口走りそうになったので、それを必死に止める剣。

 

 ちなみに昼休みに切島が帰ってきたときも、花と剣は向かい合って座っており、剣の手も花の髪に触れたままだったので、切島にすごく暖かい目で見られた。

 

 場所が教室だということをすっかり忘れていた花は、一気に体内の血が顔に上ってきて茹蛸のごとく真っ赤になった。

 

 そこからあたふたしながらも、身振り手振り切島に事情を説明する姿がかわいかったのでこっそりムービーでとっておいた。

 

 今度花の父親が帰ってきたときに見てもらおうと、剣は心の中で決めた。

 

 そうこうしているうちに、休み時間も残り少なくなってきた。

 

 6限目が開始されるまで残り1分を切っている。

 

 そのことに気付いたクラスメイト達が次々と自分席に戻っていった。

 

 上鳴もそれにならい、軽く挨拶をすると自分の席に戻っていく。

 

 意外に律儀なやつである。

 

 しばらくすると授業の開始を告げるチャムが学校全体に鳴り響いた。

 

「ハァッ!!ハッ!ハッ!!ハッ!!!」

 

 それとほぼ同時に教室の少し遠くから、明るい笑い声が聞こえてくる。

 

 その笑い声にクラスメイトたちの顔は期待にあふれたものから、歓喜に満ちたものへと変わる。

 

 当然、剣も花も爆轟でさえも、決して例外ではない。

 

「——わぁ~た~し~がぁ~~~~!!!」

 

 だんだんと大きくなってくる笑い声と共に、教室のボルテージをかき分けるようにして、教室の扉が開かれる。

 

 そして、、、

 

「————来たァァ!!————」

 

 

「「「「ううぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

 ダン!という音とともに開かれた扉から身の乗り出したは平和の象徴————オールマイト

 

 たった一人の登場ながらそこに寄せられる歓声と期待は到底、個人の手のひらでは受け止められない質量。

 

 それを体全体と、あふれ出るカリスマと、機転を利かせたユーモラスな態度で受け止める彼。

 

 それこそ、今世間をこの雄英高校を巻き込んで騒がせている張本人だった。

 

 アメリカンなコスチュームを身にまとった彼は、咳払いを一つしてエキサイトした生徒たちをなだめる。

 

 彼の経験とカリスマのなせる業だ。

 

 校長先生になれば全校生徒が静かになるまで3分もかからないだろう。

 

「えぇ~、みんなにはさっそくで悪いんだけども戦闘演習場α(アルファ)に集合してくれ!」

 

 興奮冷めやらぬクラスメイトたちに、少しせかせかとしながら彼は指示を出していく。

 

「せんせー、服装は体操服でいいんですかー?」

 

「おお!いい質問をしてくれたね!砂糖(さとう)少年!」

 

「!お、俺の名前、、、!」

 

 初日ながらも生徒の名前をぴたりと当てる彼に剣は感心する。

 

 やはりこういった細かなところまでできることが、彼を不動のナンバーワンたらしめる所以なのだろう。

 

「今回君たちが訓練に臨む際に着用するのは、、、そう、コレだ!!」

 

 砂糖と呼ばれた少年の驚きを置き去りにしながら、オールマイトは大仰に手を壁へ向ける。

 

 すると白い煙と共に何かが壁から突出してくる。

 

「うおっ!スゲー!壁からアタッシュケースが出てきたぜ!」

 

「やっぱ雄英はやることがちげーなぁー!」

 

「はっはっはっ!そうともさ!そして君たちにはこれを着て今回の訓練に参加してもらう!」

 

 そういうと、彼はマントを翻して彼が入ってきた扉のほうへと向かった。

 

 入ってきてから空きっぱなしだった扉から出る直前、拳を握りしめながら生徒のほうへ振り返る。

 

「10分後に先ほど言った場所に集合!遅れるなよ、有精卵ども!!」

 

 

 そういって逞しい背中に大きな歓声を浴びながらナンバーワンヒーローは、教室を後にした。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 着替え終わった剣は、オールマイトが待つ訓練場に向かう。

 

 学校指定の上履きからコスチューム用に製作された革靴を鳴らしながら、更衣室から続く異様に長い通路を歩いていく。

 

 通路が終わり燦燦と照らす太陽が、剣の目を少し焼いたと同時に騒がしい声が剣を迎えた。

 

「おう!久留木!やっと来たか!」

 

「遅せぇーぞ、久留木ぃーーー」

 

「いや、おまえらが速いんだろ、、、ほかのやつらだってまだ来てないぞ?」

 

「へへっ、だって楽しみじゃねぇか!初めてのヒーロー科らしい授業!ゆっくりなんてしてられないだろ!」

 

 そういって切島が暑苦しいテンションで一番乗りで訓練所に入っていった理由を熱弁する。

 

 相も変わらず、暑苦しくてかなわないと剣は思う。

 

 切島のコスチュームは胸元全面がむき出しになっており男らしい、否、漢らしいものに仕上がっていた。

 

 彼とほぼ同時のタイミングで出て行った上鳴は、ちゃらちゃらとした印象のあるコスチューム。

 

 なんだか、中途半端なバンドマンのような感じだ。

 

「んん~??、今失礼なこと考えなかったかなぁ、久留木くぅーん??」

 

「考えを覗き込むな、気味悪い」

 

「なんか、久留木って俺への当たり強くね?!」

 

「はっはっはっ!そんなことねぇって上鳴!というか、久留木のコスチュームは少し意外だな、、、」

 

 そういって切島は剣のコスチュームを、しげしげと見ながら彼の感想を述べた。

 

 

 剣のコスチュームは白を基調とした騎士服のようなものだ。

 

 腰には刀身がアルミ製の刃を潰した剣と、もう一本立派な拵えの剣が差されている。

 

 彼のコスチュームのモデルは剣が前の世界——ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアだった時に所属していた騎士団の制服だ。

 

「確かにちょっと意外って感じだな、、、あんまりそういう格好するイメージがねぇ」

 

「でも腰から下げてる剣はなんか久留木って感じがするな!剣道部だったし!」

 

「そりゃどうも」

 

「しっかし、久留木のコスチュームちょっと動きずらそうじゃね?大丈夫か?」

 

 騎士の心の高潔さを表す白色のマント、

 

 黒色のシャツ、

 

 ジャケット、

 

 スラックス、、、

 

 シャツ胸部には薄い鉄製のプレートが仕込まれて入り、剣をナイフなどの刃物などから守ってくれるようになっている。

 

 ここまではツェルゲフ隊の隊長だったころから、騎士団長になるまであいだずっと着用していたものと何ら変わりがない。

 

 高校入学時に提出したコスチュームに関する要望を書き入れる書類に記入した通りのものに仕上がっている。

 

 確かにここまで見れば剣のコスチュームはスーツのようなデザインをしているため動きずらそうに見えるだろう。

 

 しかし、、、

 

「そんなこともない、意外とこれが動きやすいようになってる。材質が良くて動きに変に干渉してこない」

 

「なるほどな!そこらへんもいろいろ要望に書き込んでたんだな!」

 

「いや、俺は一切書き込んでない、、、おまけに変なポケットも色々つけ足されてるしな」

 

 剣の言葉に心底驚いたような顔になった上鳴はオーバーなリアクションで抗議する。

 

「コスチューム会社の独断かよ!でも俺にはそんなん全然ないぜ?」

 

「いや、さすがに独断でそんなことするとは思えない。仮にやってたとしても会社側にメリットがないしな」

 

「——まあ、考えても仕方ない!なんか不具合があるわけじゃないんだろ?だったらラッキーって思っとこうぜ!」

 

 そういって剣が上鳴の発言を否定するが、結局のところ事実を突き止める必要性はないため、切島が会話を遮ったことでこの話題は打ち切りになった。

 

 会話が一区切りしたところで剣はハッとして辺りを見渡してみる。

 

 話すのに夢中で気づかなかったが、その間にクラスの過半数以上の人が訓練場に集まっていた。

 

 切島や上鳴含め、全員のコスチュームには当然のごとく統一性はなく、それぞれの個性が色濃く出ていた。

 

 中には全身を純白のフルアーマーで包んでいる者もいるため、見た目では誰が誰だかわからない。

 

 そんな中から剣は誰かを探し出そうとしていた。

 

 入学からあまり時間がたっていないためクラスメイトの名前も人によっては顔もわからないまま剣は件の人物を—————

 

 

「———わっ!」

 

「おう、花。どうかしたか?」

 

「ま、まったく驚かないんですね!剣さん!!」

 

 

 後ろから近づいて剣にいきなり声をかけた花だったが、彼女の狙いは外れ、剣の反応はつまらないものだった。

 

 そのことに逆に花が驚かされるが、剣からすればあれで気づくなというほうが無理だ。

 

 気配が近づいてくるのに足音だけは異常に静かなものが後方から近づいてくる。

 

 そんな存在を見過ごすには、彼の武は熟達し過ぎていた。

 

「だとしても!ちょっとノーリアクションが過ぎるんじゃない?もうちょっと反応してよ~!」

 

「いや、そもそもお前の驚かし方が下手なんだろ。なれないことはするもんじゃないぞ。」

 

「ムッ!ちょっと馬鹿にしてない!?そもそもね—―」

 

「わかった、わかった。ほれ、そろそろ全員集まるだろうし、オールマイトのほうに集合しとくぞ」

 

 そう言って剣はオールマイトのほうを親指でクイっと指すと、花の手を取ってオールマイトのほうへ歩いていく。

 

 花はまだ言いたいことがありそうだったが、急に手を引っ張っていかれたことに驚いてその言葉を飲み込んでしまった。

 

 乱暴に手を引かれた花だったが、彼女は引っ張る剣の手に自分の手を絡めてしっかりともう一度握りなおした。

 

 とはいってもオールマイトのところまで大した距離があるわけではないので、とてつもなくあっさりと目的地についてしまうのだが、、、

 

 流石に到着してからもずっと手を繋いでいるわけにはいかないので、何人かの生徒がすでに集まっているオールマイトのもとにたどり着いた二人は手を放してしまう。

 

 付き合いたての初いカップルのように、離れていく手の感触に寂しさを感じるわけではないが、「少しもったいないかな?」と花は考えてしまう。

 

「剣からも握ってくれるようになったんだなぁ、、、」

 

「なんだって?」

 

「なんでもなーい!ほら、説明始まるわよ!」

 

「ああ、そうだな———???」

 

 さっきの仕返しがちょっとできた花は「ふふっ」と笑う。

 

「——え~オホン!みんな集まったようだね!!」

 

 そんなことをしているとオールマイトが全員があらかた集まったところで、全員を見渡しながらそう言った。

 

 それからオールマイトは満足そうに頷いて、

 

「えっと、、、それじゃあさっそくだけど、今日やることをみんなに発表させてもらうぞ!」

 

「え?前置き短くないですか~?初めての授業ですよ?」

 

授業の説明をし始めようとしたところでいきなり生徒にツッコまれていた。

 

「し、仕方ないんだよ少年!今日は特に時間がないんだ!」

 

 生徒からのツッコみに律儀に返答しているが、いつもより早口で余裕がない。

 

 いつもの見るTVに映る彼らしくない態度を、皆少し疑問に思っていると、

 

「なんせ君たちに今からやってもらうのは、戦闘訓練(・・・・)なんだからね!あまり時間を使ってられないのさ」

 

 

「戦闘訓練、、、!」

 

「面白れぇじゃねか!」

 

 オールマイトの口から告げられた内容にクラスメイト達はざわつく。

 

 それも当然のことだった。

 

 初回の授業でまさか戦闘訓練だなんて思ってもみなかったクラスメイト達の中には、不安そうな顔のものも多い。

 

「——っ!」

 

「花、、、」

 

 だがそれ以上に剣は隣にいる花の様子を見逃しはしなかったのだが、、、

 

「それじゃ気を取り直して、授業の説明をしていくぞ!」

 

 そんな彼らの様子を知ってか知らずかオールマイトは説明を開始してしまう。

 

 彼はどこからか小さい紙を取り出すと、ぺらっと広げてそこに書いているのであろう内容を読み上げ始めた。

 

 正直いくら新米教師といえどカンニングペーパーはいかがなものかと剣は思う。

 

「え~今回の戦闘訓練ではヒーロー側とヴィラン側に分かれて、2on2の形式でやっていってもらうぞ!ヒーローチームは屋内に潜伏しているヴィランチームの隠し持つ”核”を奪取するんだ!」

 

「うわ~めっちゃ設定アメリカン、、、!!」

 

「え~制限時間は15分!そのあいだに核を奪取できたらヒーローチーム、核を守り切ればヴィランチームの勝利となるぞ!またヒーロー側は二人のヴィランに”確保テープ”を巻き付けても勝利となる!」

 

「はい!先生!質問いいですか?」

 

 ある程度説明が済んだところで生徒から質問が入った。

 

 

 

 

 、、、一人ではなく3、4人一緒くたにして

 

 

 

 

「どういう風にチーム分けするんですか?」「ヒーロー側有利すぎませんかー?!」「2人チームで分けると人チーム余るのでは?」「このマントキラキラじゃない?!」

 

「おい、最後の一人。君のは質問か?まぁとりあえずチーム分けをしながら説明していこうか!」

 

 そういって彼はどこからか少し大きめの箱を取り出すと、

 

「チームはくじ引きで決める!プロになってからのチームアップでも、その場にいたヒーローと即席で組むことが多いしね!」

 

「なるほど!そのような狙いがあったのですね!!流石です!!」

 

「いいよ!そんで早くしようぜ!!全員一列に並んでくじを引きに来てくれ!」

 

「「「はーい!」」」

 

 全員がオールマイトの指示に従って彼の前に移動を始める。

 

 剣もそれにならって移動しようと、、、

 

「、、、花?」

 

 隣にいる花がうつむいて、突っ立ったままなことに気が付いた。

 

 その姿はまるで何かに怯えているようで、、、

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「———久留木君!!ちょっといいかな?」

 

「ああ、大丈夫だ、緑谷。なんだ?」

 

「ありがとう、久留木君!さっそくで悪いんだけど対戦チームへの対策を建たいんだ!協力してくれない?」

 

「わかった、わかった、そんな何回も許可とらなくてもいいぞ」

 

 くじ引きによるチーム分けと、対戦チーム分けが終わりさっそく第一試合が行われるその少し前、

 

 試合を行うチームのそれぞれが作戦を建てる時間、剣はくじの結果同じチームになった緑谷に話しかけられていた。

 

 場所は試合を行う5階建てのビルの前だ。

 

 まず話しかけてきた緑谷が話始めた。

 

「それじゃ、最初に僕たちの個性の確認と、相手の個性について情報を共有しよっか。」

 

「そうだな、、、じゃあ俺から知ってる情報を出していかせてもらうがいいか?」

 

「もちろん!というか僕からお願いするよ、はっきり言って聖連さんの個性について早く知っておきたかったから、、、」

 

 くじの結果剣たちのAチームの対戦相手ははJチームとなった。

 

 そしてそこには、今回の最有力候補の聖連 花がいる。

 

 緑谷は眉間にしわを寄せて険しい顔をし、胸の前でこぶしを握り締めている。

 

 しかし、同時に剣に対して期待を込めたまなざしも向けている。

 

 そこからは花に対しての情報が手に入ることがプラスになると確信していることが伝わってきた。

 

 それだけ花を危険視しているのだろう。

 

 それもそうだろう、なんせ花は、、、

 

「個性把握テスト——総合一位!この結果からみても彼女がこの試合のキーパーソンだ」

 

「——そう、だな、、、」

 

「久留木君?大丈夫?体調が悪いんなら、、、!」

 

「いや、大丈夫だ、心配ない。それで、花の個性だったか?」

 

 花のテスト結果を聞いた剣の返事が歯切れの悪いものになってしまうが、なんとかごまかして話を元に戻す。

 

「花の個性の名前は、、、『剣聖』っていうらしい」

 

「『剣聖』?それって具体的にはどんな、、、?」

 

「曰く、『世界で一番の剣士になれる個性』、だそうだ」

 

「?ごめん、あんまり意味が理解できないんだけど、、、」

 

 剣による説明を聞いた緑谷だが彼の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。

 

 とはいっても剣もこの説明の仕方しかわからないのだ。

 

 —持っただけで、自動的に世界で右に出る者のない剣の才覚が与えられる—

 

 そんなものを初めて聞く彼に理解を求めるは酷というものだ。

 

「文字通りの意味だ、その個性を持つだけで、トップに立てる個性(加護)をあいつは持ってる。」

 

「そんな、、、でも剣の才能ってだけで片付けられるものなの?だって聖連さんは中学校の時身体テストができなかったんでしょ?」

 

「よく覚えてたな、緑谷、、、そうだ花はそれに付随する形で、身体能力の強化や行動の先読みなんかまでできる。」

 

「そ、そんなにすごいんだ聖連さんの個性!やっぱり彼女が試合のカギを握っているとみて問題なさそうだね。」

 

「いや、もう一人いるだろ?今回の試合におけるジョーカーみたいな役割のやつが」

 

「—————かっちゃん、だよね、、、?」

 

「ああ、その通りだ。むしろ俺はあいつこそこの試合のキーパーソンだと思うがな」

 

 剣がもう一人の対戦相手、かっちゃんこと爆轟 勝己に対する評価を述べると緑谷はそれに深くうなずいた。

 

 彼らのなかで爆轟 勝己という存在はとても大きい。

 

 緑谷の中では大きな羨望(トラウマ)として、

 

 剣の中では目の前に立ちはだかる壁として、

 

 どちらも無視のできない存在だった。

 

「とりえず、爆轟の個性について詳しく教えてくれ。」

 

「うん!かっちゃんの個性は『爆破』っていうスゴイ個性で————」

 

『それでは、第一試合を開始するぞ!!両チームとも準備はいいね?!』

 

 緑谷がなぜかテンションを高くして爆轟の個性について説明しようとしたところで、急にオールマイトからのアナウンスが流れる。

 

「チッ!まだこっちは終わってないっていうのに、、、!」

 

「——それからかっちゃんはその個性を利用して、、、」

 

「緑谷?!おい!ストップだ!止まれ!止まれ!!」

 

「へ、、、?あっ、ご、ごめんね久留木君!」

 

「いいから早く準備をしろ!!個性とか作戦については移動しながら、、、」

 

『————両チーム位置について!Ready、、、!!!』

 

「くそ、、、!ほんとに間が悪い、な、、、!!!」

 

「??久留木君?どうしたの?なにかあった、、、っ!!」

 

 毎度のごとく会話中にそれを邪魔するかのように割り込んでくるオールマイトの声に若干イラつきながら、剣はビルの出入り口前に立った。

 

 

 

—その瞬間、剣の身を包んだのはとんでもない剣気だった

 

 

 

 剣の隣に立つ緑谷もその剣気に充てられて、頬に一筋の汗が浮かんでいる。

 

 剣も同じように背中を冷や汗が伝っていくのを感じながら、同時に思考を完全に切り替えていた。

 

「く、久留木君?!これはいったい、、、!!」

 

「—緑谷、悪いんだが爆轟はお前に任せるぞ。」

 

「えっ?僕一人でかっちゃんを?!そんな、、、!!」

 

「俺は悪いが、手を貸せそうにない。花が真剣にやろうとしてるんだ。それに答えてやらなきゃならないからな」

 

「!じゃあこのすごい威圧感は、、、!!」

 

『———Goォォォ!!』

 

 

 

 開始の合図が鳴り響くと同時に駆け出した剣は緑谷を置いてビルの中へ入っていく。

 

 Goサインと同時に膨れ上がった剣気に呼応するように剣の剣気も確かなものとなっていった。

 

 その発生源へ一秒でも早く着こうと、建物の中を駆け抜けていく剣は次の通路を曲がろうと————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————ドゴォォォォンンン!!!

 

 

「————誰に、、、!!指図してんだぁ!!!くそアマがぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物内に巨大な爆発音と凶暴な声が鳴り響いた。

 

 

 

 

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