剣のヒーローアカデミア   作:GROM

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12話 battle ②

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

—————試合開始 5分前——————

 

 

『それじゃあ、君たち(ヴィラン)チームは核が配置されている4階の右から二番目の部屋に向かってくれ!』

 

「うっせぇ!俺に指図すんなや、オールマイト!」

 

『はっはっは!そう言わずにさ!今、私先生なんだし!』

 

「だから、うっさい!わかっとるわそんな事!!」

 

「———はぁ、、、」

 

 くじ引きの結果とはいえとんでもない組み合わせになってしまったものだと、花は空を仰ぎながらそう思う。

 

 空を、と言っても今目の前にあるのは、灰色のコンクリートで出来た通路の天井なのだが、、、

 

(まさかあの爆轟とチームになっちゃうなんて、、、心配だわ)

 

 初めてのヒーロー科の授業となったこの戦闘訓練のくじの結果、花は爆轟 勝己というもっとも来てほしかなったカードを引いてしまうことになる。

 

 チーム分けを行うと聞いたとき花は、剣と一緒のチームになろうと思ったが、くじでチームを決めるということもあってあまり期待していかった。

 

 元から、そういった類のものには恵まれていないのは、花自身理解している。

 

 というかむしろこれをチャンスと捉え、初めてしゃべるクラスメイトと、試合を通して仲よくなろうとすら思っていたのだが、、、

 

「はぁ、、、」

 

(流石に、これはないんじゃない、、、?なんでよりによってこの子なのよ、、、!!)

 

 未だにインカム越しのオールマイトに対して、キレ続ける爆轟をつかれた目で見ながら花は、本当に今日は厄日なんだろうと考えた。

 

 しかも今回の対戦チームのこと考えれば尚その運の悪さが引き立つというものだ。

 

「——おい、くそアマ、、、!!さっきからてめぇは何なんだよ!!ため息ばっかつきやがって!気が散んだろうが!!言いてぇことがあんならとっとと言え!!」

 

 そんなことを考えていると、不意に爆轟は足を止めたかと思うとくるっと踵をこちらに返して花をにらみつけてきた。

 

 それは八つ当たりに近い何かだろう。

 

 しかも、まぁまぁ理不尽。

 

 試合の対戦相手が決定した時から彼はずっとあんな感じで不機嫌だ。

 

 自分に対しても、周りに対しても、いつも通りといえばいつも通りではあるのだが、今日のは少し毛色が違うように思えた。

 

 まだ会って一か月程度ではあっても、そのくらいはなんとなくわかる。

 

 まぁ、わかったところでそんな八つ当たりをされて、気分がいいわけでもない。

 

 そんな相手に花がとった行動はひどくシンプルなものだった。

 

「はいはい、ごめんなさい———これでいい?満足?」

 

「てめぇ、、、!!馬鹿にしてんじゃ——」

 

『こら、二人とも落ち着きなさい、、、早く移動しないと試合が始まっちゃうよ?』

 

「、、、チッ!クソ!!」

 

「すいません、オールマイト!すぐ移動します」

 

「おい!待てや!!くそアマ!!!」

 

「————」

 

「無視すんなや!クソ!!」

 

 爆轟の怒号を軽く聞き流して、花は彼の前に出てそそくさと指定された部屋へ向かう。

 

 花が爆轟にとった行動は無視&スルー

 

 流石にかわせないものは対応を適当にして即座に会話を切り上げる。

 

 はっきり言ってこんなことをしてしまえば、花も同類で害悪認定であるが、『相手が相手だし仕方がない』と花は割り切ることにした。

 

 わーぎゃーわーぎゃー爆轟が耳元でさわぐのガン無視しながら、花は目的の部屋へ大股で歩いていく。

 

 真っ白のマントが視界の端でちらちらと揺れているのを映しながら歩いていると、いつの間にか件の部屋についていた。

 

 出入り口から中を覗き込むと、そこには見るからに「爆弾」というような黒い巨大な物体が置かれている。

 

 いくら何でもあからさますぎるようにも思えるが、とりあえず花は部屋の中に入り部屋の隅々まで見渡した。

 

 なんの面白味もない部屋だ。

 

 立方体の形状をしたその部屋には、黒い物体こと爆弾——もとい「核」があるばかり。

 

 部屋を照らす光は、南に取り付けられた窓から差し込む日光だけ。

 

(もしも何かがあったらそれで妨害して、戦わずに済む方法があったかもしれないんだけどなぁ)

 

 今回の試合で有効に使えそうなものは一切置かれておらず、花は少しがっかりする。

 

「おい!くそアマ!!」

 

「————」

 

「おい!試合の作戦の話すんだよ!!こっち向け!!!」

 

「!、、、わかったわ」

 

「ケッ!やっとかよ、、、!」

 

 急に「作戦の話」なんて爆轟が言うとは到底思いつかなかったようなことを言ってきたので花は思わず反応してしまった。

 

 花はずっと爆轟は『「作戦()など弱者の使うものッッッッ!!!」とか言ってそうなタイプ』という判断だったので少し驚きだ。

 

 まあよくよく彼の言動を思い返してみれば決して馬鹿ではないのだろう。

 

 ただ性格がヴィラン予備軍で、いつも口から針状にした言葉を吐いているというのが玉に瑕だが。

 

 とにかく花もそろそろ作戦を話し合っておきたかったため彼の発言はちょうどよかったといえる。

 

 まず爆轟が話を聞いてくれるかが問題だったのだから。

 

「で?そっちから話を振ってきたってことは何かあるんでしょ?」

 

「当たり前だ」

 

「へぇーそう、、、一応聞いておくけどどんな作戦?」

 

 腰に手を当てて、眉を少し寄せながら花は爆轟に作戦について尋ねる。

 

 それに対してさも当たり前かのように返答した爆轟に花は一抹の不安を覚えた。

 

 故にさすがにないだろうを思う案を潰しにかかる。

 

「まさか『自分一人で緑谷君と剣を相手にするからお前は手を出すな』なんてことじゃ———」

 

「はっ!なんだよ、よくわかってんじゃねぇか!じゃ、もう説明はいらねぇな!」

 

「、、、はぁ!?」

 

 自分でもとんでもないと思う案を平然と肯定された花は、先ほどよりもより一層眉間にしわを寄せて爆轟をにらみつける。

 

 しかし、すでに爆轟は出入り口の方向向いて準備運動を初めており、強まった眼光は爆轟の背中に突き刺さるだけにとどまってしまう。

 

 あまりにも身勝手な爆轟に怒りのあまり少しフリーズしていると、爆轟は独りでに語りだした。

 

「———クソデク(緑谷)は当然のごとく完膚なきまでにボコすとして、あのいけ好かねぇ久留木とかいうやつも叩き潰してやる、、、!!!」

 

「——ねぇ?なんだって緑谷君のことをそんなに目の敵にするの?それに剣も、、、」

 

「あぁ!?んなもんクソデクが俺と同じステージにいることが許せねぇにきまってるからだろうが!あの無個性の無能もおんなじだわ!クソが!!」

 

「あのねぇ、、、!」

 

 あまりの言いように花が語気を強くして怒りを表現するが爆轟はそんな事いにも介さず、淡々と屈伸運動を繰り返している。

 

 以前助けた時から一つも変わらないその在り方に本気で花が声を荒げて起こりそうになったところで、頭の中でまたあの鐘(・・・)が鳴り響いてきた。

 

『それでは、第一試合を開始するぞ!!両チームとも準備はいいね?!』

 

「ようやっとか、、、!」

 

「ちょっ、ちょっと!」

 

 オールマイトから開始を宣言する声がインカム越しに響いてきたのは鐘が鳴ったすぐそのあとだった。

 

 それに反応した爆轟が準備運動をやめて、スクっと立ち上がり出口に向かって歩いていく。

 

 本当に間の悪いことだ。

 

 まだあの作戦を爆轟に撤回させていないというのに、、、

 

 自分が置かれた状況に花は歯噛みする。

 

 だが、ふと花は、あることに気付く。

 

 それは、小さな、小さなことだった。

 

 自分以外の人にはわからない、そんなちょっとした異変。

 

 だが花にとっては何よりも、、、本当に何よりも大きい異変だった。

 

 そっと、腰から下げるアルミ製の剣の柄に軽く触れる。

 

 右の指先で、恐る恐るといった感じで、まるで傷つくことを恐れているかのような、そんな思いで、

 

 軽く触れる。

 

 

 震えていない

 

 

 剣を振る状況にありながら、自ら踏み込んだ戦いの場でありながら、

 

 その手に震えは、ない。

 

 花の顔に自然と笑みがこぼれた。

 

 いったい何の影響か

 

 程よく追い込まれた状況が花の心から怯えを抱く心の隙間すらもなくしてくれたのか

 

 何故、なのか

 

 それらすべてどうでもいい

 

(———余裕はもう、なくなった、、、!)

 

 

 心臓の鼓動が速くなる

 ——加護が体の中で動き出した

 

 体がだんだんと熱くなってくる

 ——加護の力に体が応え始めた

 

 剣気が心で練られていく

 ——加護の意識が心に入ってくる

 

 その三つすべてが満たされたその瞬間、、、

 

 剣気が外に漏れだした

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 ————僕は一体何を見ているのだろうか。

 

(建物に入った瞬間に感じた威圧感に始まって、驚いてる間に久留木君が急に一人で聖連さんを相手にするなんて言い出して、驚いてたら急に建物の天井がばらばらになって、、、!!!)

 

「、、、って、そうだ!く、久留木くーん!」

 

 理解できない現状に混乱していた状態から戻ってきた緑谷は、剣の安否を確認するために目の前の瓦礫の山に向かって声を張り上げた。

 

 剣は訓練が開始されてからすぐに先行して行ってしまったために、緑谷と分断されることになってしまっていたのだ。

 

「——緑谷!!こっちは無事だ!そっちは!?」

 

 声を張り上げてからすぐに剣からの応答が帰ってきた。

 

 そのことに緑谷はホッと胸をなで下ろし、同時に額に浮かび上がっていた汗を手の甲で拭った。

 

 少し呼吸を落ち着けた後に緑谷はもう一度、肺に空気を大きく取り込むと先の問いかけに返答する。

 

「すーーっ、、、こっちも大丈夫だよ!!!」

 

「そうか、、、!」

 

 どこかほっとしたような剣の声が聞こえるがそれも束の間、状況を思い出したのかすぐさま切迫した声がまた響いた。

 

「緑谷!そっちから俺のほうに来れるか?!こっちからはいけそうにないんだが、、、!!」

 

「えっ!多分大丈夫だけど、、、ちょっとだけ時間かかっちゃうよ?!」

 

 緑谷が剣の要望に応えるためには、この瓦礫の山を越えなければならない。

 

 いつ崩れるかもわからないようなこの山をである。

 

 緑谷はもう一度、目を大きく開いてまじまじと観察する。

 

 いくつか足場になりそうなところはあるものの、どれも早々に上って超えられるようなものではない。

 

 こんな山をノロノロと登っていては、、、

 

「その間にかっちゃんたちが来て攻撃を——」

 

「————いや、その心配はないみたいだぞ」

 

「えっ?ど、どういう、、、」

 

「上、見てみろ」

 

(、、、上?)

 

 剣に言われるがままに緑谷は上を向く。

 

 瓦礫の山の上には天井に大きな穴が開いており、そこから二階の様子がうかがえた。

 

 いや、よく見てみると二階だけではなくその上の三階、四階まで穴が開いている。

 

 その中の一階、三階あたりの瓦礫の淵に何かがかかっている。

 

 緑谷はより一層目を凝らしてよく見てみるとそこには、、、

 

「えっ、、、か、かっちゃん、、、!?」

 

「ああ、こっからじゃ確実とは言えないが多分な」

 

 穴の淵にかかっている謎の黒い物体——爆轟 勝己と思わしきものがあった。

 

 思ってもみなかったものに緑谷は驚愕で頭が真っ白になる。

 

 緑谷にとって強さの象徴とは一体何か、

 

 問われれば緑谷は寸分の迷いもなく爆轟を推すだろう。

 

 最強を問われれば、もちろん彼の崇敬の対象たるオールマイトと答えるだろうが、『強さ』というものそのものに限って言うならば爆轟以上のものを、緑谷は見たことがなかった。

 

 緑谷にとってはそんな絶対的なものが、まるでぼろ雑巾のようになっていることに、緑谷はただただ、なぜと思うことしかできなってしまった。

 

 

「どうして、、、!どうして、、、!!」

 

「わからん、だが少なくとも———っ!くっ!!」

 

「!!く、久留木君?!」

 

 急に剣が苦し気な声を上げるとともに、何かが風を切り割く音が聞こえた。

 

 あまりに急な出来事に緑谷は驚き、大声で剣を呼んだ。

 

 しかし、返答はない。

 

 まさか剣が戦闘不能になったのかとも一瞬考えるが、瓦礫の向こうのほうから何やら話し声が聞こえるあたりそれはないと緑谷は判断することができた。

 

 しかし、同時に最悪の事態が起きてしまったこともわかってしまう。

 

 緑谷が思っていた懸念の一つ———聖連 花による強襲だ。

 

 剣がまだ動けることを強引に信じ込んだ緑谷は、瓦礫の山の踏破を試みる。

 

 まだ、動けているはずだと信じるしかない。

 

 大丈夫なはずだ、そうであるはずだ、

 

 そう言い聞かせて緑谷は瓦礫に足をかけた。

 

 のせた瓦礫を足掛かりにして、山に体を寄せて剣のもとへ行こうとする。

 

「久留木君、、、!!今、そっちに、、、!!」

 

「緑谷!瓦礫を登ってここより上の階へ行け!!」

 

「えっ!?そんな!だってそこには、、、!!」

 

 ———聖連 花がいるはずだ、ほぼ、確実に。

 

 緑谷にとって、幼馴染という関係がら、能力や癖まで把握できている爆轟という存在は把握できている故に、警戒すべき相手だという認識だ。

 

 

 それに対し、花は違う。

 

 剣から聞かされた個性の未知性、建物に入った瞬間に自分たちを襲った、とてつもない威圧感。

 

 なにもわからない故の警戒、未知への警戒。

 

 さらに付け足すならば、二人いる警戒対象のうち一人が、原因もわからず行動不能になっている、明らかな異常事態。

 

 そんな中、剣を置いて一人違うとこになど、、、

 

「大丈夫だ、花の相手は俺がやる、、、!その間にお前は核を見つけに行け!!」

 

「っ!!そ、そんな勝手なこと!言わないでよ!二人でやれば!」

 

「——俺がやられたらどうすんだ!先にどっちかでも負けたらその時点で詰むぞ!!」

 

「———っ!!」

 

 懸命に瓦礫の山を登りながら、緑谷は剣の言葉に歯噛みする。

 

 剣の言うとおりだ。

 

 花の相手は剣に任せて先に核を探しに行くのが最善手だろう。

 

 さらに言えば爆轟も今はああなっているがいつ起きてくるかわからない。

 

 確保テープを巻きつけ完全に行動不能にしなければならない。

 

 だが、、、

 

(久留木君に聖連さんの相手を完全に任せるなんて、、、そんなのまるで、、、)

 

 ———剣を囮に使っているようなものだ

 

 そしてそんなこと緑谷にはできない。

 

 あの明るく、人々に希望を与える笑顔に、誰よりも救われた彼の心がそれを許さなかった。

 

 

 足をかけるたびに崩れそうになる瓦礫の山を慎重に、しかし最大限のスピードで登る緑谷は、覚悟を決め込んだ眼でその山の頂上を睨み付ける。

 

 剣の指示を無視して、ともに聖連 花と戦う。

 

 あの化け物のような存在と戦うと決め込んで緑谷はその山を登っていく。

 

 あと、半分に差し掛かったところで、金属がこすれるような音がしたあとに続いて、激しく鋼同士がぶつかり合う音が聞こえ始めた。

 

 戦っている。

 

 剣が、

 

 一人で——

 

 ———「無個性」の「剣」が戦っている。

 

 早く早くと急かす心に体が答え、先ほどよりも速いスピードで山を踏破していく。

 

 ガラガラと崩れていく足場に何度も落ちそうになりながら懸命に、瓦礫で傷だらけになった手で掴んで懸命に、、、

 

 そうして、いつの間にか胴体にまで擦り傷ができたころ、ようやっと頂上に手が届いた緑谷は最後の力で勢いよく崖を登り切った。

 

 その際に顔を覆っていたマスクが破れてしまったが、今はそれどころではない。

 

(久留木君、、、!今すぐ向かうよ、、、!)

 

 

 登り切った緑谷は勢いよく金属音のするほうへ、グルっと体を回して視界に入れ込んだ。

 

 そしてそれと同時に剣に声を掛ける。

 

 もう、大丈夫だ、、、と

 

 僕が来たぞ、、、と

 

 そう声を掛けるはずだった。

 

「!!久留木く———————」

 

 目を向けた先、

 

 金属音の発生源、

 

 そこらよりもはるかに高い山の上から緑谷はその光景を見下ろした。

 

 

 うなる銀閃、

 

 床と靴がこすれ地面の細かい石が飛んでいく音、

 

 それらの中心にいる二人の人物、

 

 久留木 剣と聖連 花

 

 視界にそれを入れた瞬間に、高いとこにいるのは自分の方だということが、とても不思議なことだと緑谷は、素直にそう思った。

 

 

 そして、同時に決して自分はここに追いつけないのだと、

 

 

 ただ唖然としながら、

 

 その光景を眺めていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 一体何が起こったというのだという気持ちを押し殺しながら、剣は瓦礫の向こうから聞こえて来る緑谷の声を必死の形相で聞いていた。

 

「———して、、、!どうして、、、!」

 

 瓦礫の向こうからなんとか聞こえた緑谷の声にも余裕はなくひどくこの状況に狼狽していることがわかる。

 

 焦りと理不尽と言うような状況に舌打ちしたくなるがなんとかそれを抑え、努めてそれを言葉に乗らないようにしながら剣は緑谷に返答する。

 

 しかし、、、

 

「わからん、だが少なくとも———っ!くっ!!」

 

「久留木くん!!??」

 

 声を張り上げて緑谷に答える間に、全身の毛が逆立つような感覚に剣は襲われた。

 

 その感覚を信じてとっさに地面を蹴ってその場から飛び退く。

 

 ヒュッ——と鋭く、空を切り裂く音が剣の耳に届いた。

 

 それと剣のマントの裾が切り裂かれたのは、ほぼ同時の出来事である。

 

 なんとか体に触れらることは避けた剣は、飛び退いた先で片膝を付く。

 

 攻撃が飛んできた方向を毅然と睨みつける。

 

 剣の目に映るのは銀色に鈍く輝く模造刀と、

 

 それを振り切った姿勢で剣の前に立つ花の姿。

 

 その姿勢のままに剣を睥睨するその姿はさながら、闇を断ち切った勇者だ。

 

 しかし、花の目には勇者が持つであろう揺らめく正義の炎はない。

 

 ただ深い、

 

 どこまで深い、

 

 希望を押して、殺して、見えなくしたようなそんな青空。

 

 あぁ、、、やはり、そうなのだと、剣はその目を見たときに、かねてからの思いを再三自覚する。

 

 そんな剣をよそに花はゆっくりとその横に振り抜かれた模造刀をおろしたあと、剣を真正面から見つめて口を開いた。

 

「ねぇ、剣」

 

 不意に花が口を開いた。

 

「こんなこと、きっと嫌がると思うんだけどね、それでも、それをわかった上で、、、」

 

 どこか歯切れの悪い花の言葉。

 

 その言葉には色んなものが込められいるように剣には思えた。

 

 罪悪感とか、責任感とか、

 

 悔しさとか、寂しさとか、

 

 そういう、もの。

 

 彼女の場合は目よりも、口のほうが雄弁であるのだろうか。

 

 だがそれに花は区切りをつけ、

 

「お願いしたいことが、あるの、、、——剣!」

 

 先程までどこかに消えていた瞳のハイライトは戻ってきて花の青空の瞳に収まる。

 

 戻ってきたはいいもの、その反射した光はゆらゆらと揺れて、己の場所を定かにしようとしていない。

 

 まるで、出てきてしまったことを後悔するかのように、このまま居続けていいものなのかと逡巡するように震えている。

 

 

「私と、、、戦って、、、!!」

 

「———————」

 

「いやだよね、知ってる、剣はずっとそうしてきたものね、私にもそうさせたくなかったんだもんね」

 

 花の懇願に剣は何も答えない。

 

 いや、答えようとしていない。

 

 花が言おうとしていることは、きっと、彼女が決めて、選んで、進もうとしている道に、根本から通じることだ。

 

 それはきっと間違いないはずだ。

 

 それ故に自分はあの日花の背中を押したのだろう。

 

 声が出なかったなど言い訳だった、きっと自分が腹を括ればよかったのだ。

 

 あの海辺でしっかりと花を止めておけばよかったのだ。

 

 言葉の刃で傷つけておけば、真の刃で傷つけあうことなどなかったはずだ。

 

 そんな後悔が剣の胸を強く締め上げる。

 

 あの日も思った、この人生はどれだけ後悔を重ね、その過程で彼女を傷つければいいのかと。

 

 そんな自分に心底腹が立つ。

 

 到底許せるものではないと自分を責める。

 

 でも、それでも、、、

 

 目の前の光景に比べればそんなもの微々たるものだ。

 

 不甲斐なく、ろくでもない自分よりも、、、

 

 

 この状況が腹立たしい。

 

 剣はおもむろに腰に下げた模造刀の鍔にある装飾に触れる。

 

 そこにはもう主の家紋はない。

 

 そのことに自嘲気味に笑った剣は片膝をついていた床から、ゆっくりとした動作で立ち上がる。

 

 剣の一連の行動を見ていた花は何も言わずただ、剣を見つめている。

 

 そんな花に対し剣のとった行動は至極簡単なものだった。

 

 左腰に下げてあった模造刀の柄をしっかりと握って、刀身と鞘が擦れる甲高い音を立てながら抜剣し、その剣先を花の方へと向ける。

 

 剣先を向けられた花は剣のマントを切り割いた模造とは言いがたいような剣を油断なく構えた。

 

 同時に剣の身にあの剣気が突き刺さるが、もう剣はそれに気圧されることはない。

 

 互いに何も、語らない。

 

 ただ、剣を向けあっている二人。

 

 極限の緊張感が場を支配すると同時にどこかで瓦礫の崩れる音がし、、、

 

「————ありがとう、剣」

 

——————二本の銀閃が煌めいた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「————っく!!ハァッ———!!!」

 

「———ふっ!」

 

「がっ、、、!!」

 

 瓦礫の山の向こうで始まった剣閃の応酬戦の状況は剣が比較的押されている状態だった。

 

 開戦当時に花に得意の開幕先制を仕掛けたが、花に完全に見切られ逆に鋭い刺突に襲われることになってしまった。

 

 

 何とか防ぎはしたものの、先ほどからその刺突のスピードとその手数に反撃ができない状態だった。

 

 

 花の刺突に合わせてカウンターを試みたが、逆に腹に重い蹴りを喰らい、苦悶の声を漏らしながら、剣はいったん距離をとる。

 

 

 一呼吸を置こうとするが、花がそんなことを許すはずがない。

 

 彼女は今、「剣聖」なのだ。

 

 剣の頂にいる「もの」なのだ。

 

 花はこちらの呼吸を読み切り、最も反撃しずらいタイミングで剣先を剣に向ける。

 

 弾丸かと見間違うようなスピードで突きを放ってこようとする花。

 

 それに剣は受けてカウンターを行う戦術は悪手だと判断し、あえて花に向かって風をまとったかのようなスピードで迎え撃つ。

 

 刺突の軌道上に無理やり袈裟切りの軌道を被せ、力技でつばぜり合いに持っていく。

 

 一瞬の停滞、それを狙っていた剣は花との邂逅から初めて口を開いた。

 

「一つ聞きたいことがある、、、!」

 

「な、に、、、っ!を!?」

 

 つばぜり合いに持ち込まれ若干力負けする花は素直に剣に聞き返した。

 

「あの、大穴は、お前が空けたのか、、、!?」

 

「、、、っ!だったら何!!」

 

 大穴のことについて聞かれた花は一瞬驚いたような顔になったかと思うと、すぐにその顔を不機嫌そうに歪めると剣を先ほど以上の力で押し返した。

 

 押し返された剣は後方に大きく飛びのくと、花の周りを大きな円を上げきながらくるくると回り始めた。

 

 天井の崩壊によって広くなった空間を目いっぱいつかって、花が簡単に刺突を打てないような状態にしながら更に言葉を投げかけた。

 

「ずいぶんとらしくないことをしたな!!しかもバディを巻き込むなんてよ!!」

 

「!剣こそ、珍しいじゃない、、、!戦ってるときに会話はしない主義だと思ってた、わ!!」

 

 ぐるぐると回る剣に、果敢に刺突を繰り出しに行った花だが、、、

 

「————ここだ!!」

 

「っ!!———ふっ!!」

 

「ちっ、、、!」

 

 花が来ることを予測していた剣が刺突を半歩だけ左に避け、花の右手に短く、模造剣を振り当てようとする。

 

 しかし、とっさに気付いた花は大きくバックステップをし、距離をとったことによって、その企みは未遂に終わる。

 

 狙いが外れた剣は舌打ちするが、同時に確かなものも手に入れることができた。

 

 先ほどの、花らしからぬ—否、「剣聖」らしからぬ、勢い任せの特攻。

 

 この戦いと、かつての日(・・・・・)の剣技を比べるのははっきり言って気が引けるが、あの時からの経験から見ても明らかにおかしい。

 

 大穴のことがきっと彼女の心を大きく揺さぶったのだろう。

 

 こういった方法で相手を追い込むのは、剣の流儀とは反するが今はそうもいってられない。

 

 これは個人戦ではなくチーム戦なのだから。

 

 それ故に緑谷の申し出を断り、花と一対一で戦うことを選んだのだから。

 

 

 今一度状況を確認した剣は花の心が乱れているうちに勝負を仕掛けに行く。

 

 

 ——戦闘開始から初めて、花より先に動き出した。

 

 

 距離をとった花は、少し顔を歪めたあと自らも疾駆し、頂に存在する剣技を剣にぶつけに行く。

 

 互いに間合いに入った瞬間無数の剣戦が天井をくり抜かれた部屋を照らした。

 

 剣のスピードもさることながら凄まじいのは二人の足さばきにこそある。

 

 剣を速く振るなど誰だってできる。

 

 いかにその剣が扱いにくかろうが、手首を軸にして八の字を描くように回せばいいだけだ。

 

 術利も何もなくてもそのぐらいできてしまう。

 

 しかし、二人の剣技は子供の癇癪のような剣ではない。

 

 強かに、それでいて軽やかに————

 

 まるで舞踏会で躍るように、二人は足さばきを交錯しながら、一刀、一刀、たとえ刃を潰していようとも、一刀のもとに命が刈り取られるようなレベルを、

 

 

 互いに、

 

 遠慮などなしで、

 

 ぶつけあっている。

 

 自分の体スレスレをそんなものを行きかわせておきながら、二人の体にはいまだかすり傷一つない。

 

 まるで永遠に繰り返されるフィルムを見ているようだ。

 

 しかし—————

 

「————っ!また、、、!!」

 

「——ふっ!!」

 

「!!!くっ、そ、、、!!!!」

 

 かつての日であればその終わりは、持ち合わせた剣の寿命によってもたらされたものだろう。

 

 しかし、今日の剣聖の相手は、そのかたちで終わらせるのにはまだ、未熟だった。

 

 一瞬、剣閃が乱れた瞬間につばぜり合いに持ち込まれた剣は、もう一度剣は力で押し込もうとするが、今度は逆に花に押し込まれる形になってしまう。

 

 別に花に急激な力の変化があったわけではない。

 

 ただ単純に、「花には二回目の攻撃は通用しない」というだけなのだが、果たしてそれを剣が知っていたかは、ご想像にお任せするとしよう。

 

 

 つばぜり合いで圧され気味な剣の背は、だんだんとのけぞり始める。

 

 地に着く足と体を支える腹に全力で力を込めたいが、花によってかけられる力がそうさせてくれない。

 

 ほんの少し崩れれば花の模造刀が自分の首元に差し掛かるように微妙な力加減と、剣で圧する角度によって、剣は完全につばぜり合いを花に掌握されてしまっていた。

 

 時間がたつにつれ剣の状況はどんどん悪くなる。

 

「くっ、、、!がぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「——っ!!!」

 

 

 しかし、そのことに歯噛みしながらも、剣は鋭い目つきはそのままに獰猛な貌で花を見据える。

 

 かつて戦場で敵味方問わず畏怖させたその貌を花の前に晒しながら、剣は口元を大きく歪めた。

 

 全身の筋肉を軋ませながら、のけぞっていた体を無理矢理押し上げ、窮地を脱する。

 

 それどころか、その細い腕からは想像もできないような膂力で、正しく「つばぜり合い」と呼ぶにふさわしい状態へと持っていった。

 

 

 

 —————「鬼」

 

 —————戦場を駆ける、「剣の鬼」

 

 ——————人呼んで、「剣鬼」——

 

 

 戦友——グリム・ファウゼンより呼ばれたその人物が、

 

 その、「鬼」が、

 

 窮地に立たされ、その存在を————

 

 

 

(『——————ダメッ!!!やめて!!!』)

 

 ふと、頭に誰かの声が響いく。

 

 その瞬間、言いようもない恐怖と、そこから沸き上がる罪悪感で押しつぶされそうになる。

 

 どこかで聞いたことのある声————

 

 優しく、暖かく、そして幼い(・・)声————

 

 そんな声が自分の脳内で響いている—————

 

 自分()を止めようと、止めなければと—————

 

 まるで何かに突き動かされているような———— 

 

 そんな子供の声————

 

 つばぜり合いの中、剣の瞳にはあたりの景色がまるでスローモーションになったような世界が映る。

 

 まるで、自分がまるで死の淵にいるかのような錯覚に陥らせるようだった。

 

 まぁ、それもそのはずである。

 

 何故なら今、彼の両の手の平から、その手首から、全身を強張らせていたしなやかな筋肉たちから、、、

 

 根こそぎ、力が抜け落ちてしまったのだから。

 

 

「っ!!な、、、!!!

 

 

 力の無くなった剣の体は花の力によって大きく体制を崩される。

 

 

 —————スローモーションから剣の視界が解き放たれたのと、その視界に自身に迫ってくる銀閃が煌めいたのは、ほぼ同時のことだった。

 

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