1話 チュートリアル
水の中から重たい自身の体が浮き上がってくる。
冷たい水から顔を出して冷たい空気が顔に当たり鼻先に冷たくなる。たぶん今自分の鼻は赤くなっているんだろう。
意識が定まらない中頭に浮かぶのは、燃えるような赤毛の少女。そして、会いたいという願い。
なぜ会いたいのか、誰に会いたいのか、あの少女は誰なのか、自分は一切知らない。
それなのにその願いは失せることなく留まり続ける。そして無くなるどころか、どんどんその願いは強くなっていく。
どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどん、どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん、、、、、、、、
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「朝か、、、」
窓から差し込む日の光が、今しがた寝ていた自分の目に飛び込んでくる。あまりの眩しさに目を細めベッドから飛び降りる。
ベッドから飛び起きた少年――
ふと時計を見ると時間は6:30。このくらいの少年であればこのくらいの時間帯に起きるのが普通だろう。
そんな感じのことを考えていると、おもむろに扉が開け放たれる。そこから現れたのは、茶髪の髪を肩ぐらいまで伸ばしている背筋がきれいな女性だった。
「はぁ、全く。剣くん起こさなくても勝手に起きちゃうんだから。母親の朝の仕事を奪わないでよ。」
奪ってなどいないのに奪ったといわれる剣は怪訝な顔をする。
「ちょっと。そんなに眉間にしわを入れないでっていっつも言ってるでしょ。それ友達にもしてないでしょうね。」
いつの間にか眉間にしわが寄っていたらしい。それを言われて眉間のしわを指でほぐしながら、
「大丈夫だよ母さん。そんなことしてない。」
と、母を心配させないように言う。しかしこれは嘘だ。剣はこのしわを寄せた顔を友達の前にさらしている。
当初それを見た友達は少し怖がっていたが、みんなすぐに慣れてくれた。しかし無意識のうちに表面上に出てきて怖がれせてしまうこともあって剣自身少しは直さないと思っている。
少し話がそれたが、おそらく母が恐れているような友達がいない状態。いわゆるボッチにはなっていない。
多少怖くても幼い子供たちの純粋なまなざしは剣の本質を見向くのだ。
だがその旨を母に話しても一向に安心してはくれない。愛ゆえなのだろうが、もう少しは息子とその友達を信じて欲しい。
「さて、じゃあ朝ごはん出来てるから食べにいこ。花ちゃんも待ってるし。」
と、母が気楽に言うが剣は少し気になることがあった。
「今日は花ちゃんが来てるの?」
気になることとは、先程の母の発言の中にあった`花`という名前だった。
花というのは隣の家に住んでる幼馴染の
いつも一緒に居るからか幼稚園でもよくセットとして扱われる。
花の両親は共働きでたまに剣の家にご飯を食べに来たりする。だが花は料理を一人で作れるし、何より料理が好きなので本当にたまに食べに来るのだ。
「ええそうよ。なんなら今日は私じゃなくて花ちゃんが作ってくれたのよ。」
「え?!花ちゃんが?なんで?」
なんと今日は花が作りにきてくれたらしい。自分が生きてきた中でこんなこと初めてだ。
だが本当になぜ作りに来てくれたのが不思議だったが、その答えは母がくれた。
「え?なんでって言ったら、明日剣くんの4歳の誕生日でしょ?それで花ちゃんが、『けんくんがしんぱい!』って作ってくれたのよ。」
そう明日の5月7日は剣の誕生日であり、剣の運命の日である。
この世界は世界人口の約8割が`個性`という異能を持ちさながらファンタジーの世界が高度文明に溶け込んでいるような感じだ。
個性とは4歳までに発現されるとされ、それまでに発現されなければ`無個性`ということになる。無個性とはその名のと通り、なにも異能の能力はない人たちのことで、その人数は世界人口の約2割とされている。
しかしその2割というのは個性というものが人に宿るようになったことよりも、前の時代に生きていた人たちも含めてなため、剣の世代で無個性というの珍しい。
そして無個性の者たちは周りと比べて不便なこともある。
なりたい職業になれないことも、ある。
その最たる例がヒーローだ。
ヒーローとは個性に満ちた世界の中で個性を使い悪事を働くものを、個性を持って捕まえる仕事だ。
老若男女から人気を集め、憧れをその一身に受ける人たちー
その仕事上個性がないと不便どころか不可能に近い。個性という超能力に生身で飛び込むなど自殺行為だろう。
誰かを笑顔で助けるそんな
深いまどろみの中で感じた光り輝くモノーいつか見たその光に重なって見えたのは気のせいではきっとない。
その思いは剣をヒーローの道に駆り立てるのに十分な理由となっていた。
しかし、まだ剣は個性が発現していない。つまり今日の個性の有無で将来の道がふさがるかもしれない、ということである。
走り出してまだ一歩もないうちからその道が断たれた時、この幼い剣は果たして耐えられるのだろうか、、、
だから花は剣の不安が少しでも軽くなればと思い、作ってくれたのだろう。
だが、、、
「花ちゃん、すごいわよね、自分もまだ個性が出てないっていうのに、、、」
「そう、なんだよね、花ちゃんも不安なはずだよね、、、」
それなのに他人についぞ優しくしてくれる花はすごいと、幼いながら考える。
彼女はとても優しくて、笑う顔はきっとその名のように花みたいに――――――
「!、、、っく!」
急な痛みが頭を襲う。
花の笑顔を思い出していたら急にに来た痛みは、まるで頭の奥底から何かを訴えるように脳をつんざいてくる。
それと一緒にあの夢の風景が浮かんでくる。
なぜかは分からないけどきっと、この頭痛の来た答えがそれなんだと、なんとなくわかる。
ただわかるだけで、それ以上でもそれ以下でもないが。
「ちょっと、大丈夫?!急にぐらついて!」
「うん。大丈夫だよ。急に立ち上がったから、ちょっとふらっとしただけ。」
「そう、、、?じゅあ、下いこ!早くしないと冷めちゃうから!!」
ふらついた剣を心配した母だったが、剣がしっかりとした受け答えをすると、安心したように下へ降りていく。
剣は頭を左右に降って頭痛を振り払ってから、階段を下りていく。
階段を下り、左に曲がってリビングに入り食卓の上を見ると、皿と茶碗、コップが2つずつ置かれていた。
皿の上には目玉焼きとウィンナーが2個乗っており、柄は同じでサイズのだけが違う茶碗にはふっくらとたけた白米が乗っている。
剣はいい匂いに誘われてサイズが片方と比べ大きい方の茶碗が置かれた席につく。
そして流れるような動作で箸を取り、手を合わせて「いただきます」を―――
「あっ!起きてたのね、剣くん。」
―――言おうとしたがリビングに入ってきた者にそれは阻害される。
声のする方へ顔を向ければそこには、、、燃え盛る炎を連想させるほど真っ赤な髪に、青空を写したような瞳で、綺麗な顔立ちに幼さが残る少女―――いやまだ幼女といった方が正しいであろう。
そんなことを感じさせる花がこちらに笑顔を向けていた。
「おはよう、剣くん!」
「うん。おはよう花ちゃん。」
朝の挨拶を二人でして、花は席に付く。剣は花の方のコップにお茶を入れ、花の座る席に置く。
「ありがとうね、剣くん。」
「ううん。今日は花ちゃんが朝ごはん作ってくれたんでしょ。だから、このくらいのことをするのは当然だよ。」
「そっか、、、で?茶を入れてあげるけど、作ってくれた人を待とうとはしないのね?」
「うっ!ご、ごめん、、、」
少し気取った態度で言う剣に、花が先程見ていた光景を口にする。
見ていないようにして上げ足を取った、見事な一本だ。
二人の審判が白い旗をあげている。
「み、見てたんなら言ってよ!」
「はいはい、気が向いたら次から言うわね。じゃ、食べましょうか!」
花は剣の言うことをすらりと躱し、剣はそのことにむくれ顔だ。
だが少ししてから自分に非があるのを認め、改めて手を合わせる。
『いただきます!!』
――――と、花を見てからまた少し痛くなった頭を無視して、剣は花と声を合わせて言った。