新たな世界で再会したテレシアとヴィルヘルムは、まず自分たちの有する情報を共有することにした。
とは言っても、大体は同じような状況だろうと考えたヴィルヘルムは、軽い気持ちでテレシアに問いかけた。
「なぁ、今お前は聖蓮 花の、体を借りてこの世界にいるんだよな?」
「え?違うわよ。」
「、、、は?」
意気揚々と意見を交換しようと思っていたヴィルヘルムは、まずおそらく同じであろう環境下であることを確認しようとしたが、出鼻をくじかれてしまう。
「……じゃあ、お前は前の、、、テレシアの体のまま来たのか?」
「そうよ?ヴィルヘルムは違うの?」
「あ、ああ。俺は、、、」
そこで、ヴィルヘルムはふと思い止まった。このことを、テレシアに打ち解けていいものかと。
テレシアはとても心優しく、傷つけることを嫌い、花を見て心を休めること好いている女の子だ。
そんな彼女が、今の自分の状況を聞いたら、どう思うだろうか?
心配をするのだろうか?
他人の体を乗っ取っている自分を嫌うだろうか?
……どう、するのだろうか?
分からない。あれだけ長くいたのに、分からない。彼女は、自分を嫌ったりしないと確信めいたものがあるのに、その確信が信じきれない。
そんな考えが顔に出ていたのだろう。だからテレシアは、
「大丈夫よ。心配しないで。」
「テレ、シア?」
テレシアはヴィルヘルムを抱きしめた。
大事なものが離れていかないように。
優しく。優しく、包み込んだ。
かつて――――まだ、あの世界にいたころに悪夢をテレシアは見ていた。亜人戦争の中で望まぬ剣を振り多くの命の灯を積んでしまったこと。それが度々夢の中に出てきてテレシアの心を蝕んでいった。
そういったことはヴィルヘルムと、共に暮らすようになってからも続いた。
しかし、その悪夢はすぐにやむようになる。
悪夢に駆られて飛び起き、振るえるテレシアをヴィルヘルムはその震えが止まるまで、抱きしめていた。そうした夜が何度かあった。
しかし、毎日見ていた夢は次第に頻度を落としていった。毎日から、二日に一度、四日に一度、一週間に一度、一か月に――――――と過ごしていたらいつしか、その悪夢は見なくなっていた。
自らが奪った命に対しての自責の念は今だある。だが、その悪夢の中でテレシアが最も恐れていたのは、その夢の中の敵の兵士達は、いつも剣を持っているのだ。
まるで戦が終わっても、命が潰えても、王国にあだ名し続け、決してテレシアを剣の呪いから離さないと告げているようで。――――あの性悪な、剣神がいつもそう言っているような気がして。
それが怖くて、怖くて、仕方がなかった。
でも今自分の隣には、自分より強くて、かっこよくて、自分の何もかもを背負ってくれて守ってくれる、愛おしくてたまらないひとがいるとテレシアは思えていた。
だから安心できたし、安心して守られないことはヴィルヘルムに対してとても不誠実だと思った。
そして彼が不安になるようなことがあったら、自分が安心させれるようになろうと、決めていた。
だが、実際彼が生前テレシアに助けを求めたことはなかった。だから今回こそは、彼を――――
「どんなに言いにくいことでも、言っちゃいなさい。私は気にしないし、その方が嬉しい。」
「―――っ!」
「私たちは夫婦ですもの。それも結構長いことやってる。遠慮なんて今更じゃない?」
「えっ?でも前一緒に風呂入ったと、、、」
「それは、もういい!!(?)」
「お、おう、わかった」
急に過去の恥ずかし話をさらっとぶっ込んできたヴィルヘルムを顔を真っ赤に染めたテレシアが止めた。外にひとがいたらきっと飛び上がったであろう声量だった。
「と・も・か・く!私はもうヴィルヘルムばっかり背負い込むの嫌なのよ!それじゃあ前とおんなじだもの。」
「同じ?」
「うん。ヴィルヘルムだけ戦いに行って、ヴィルヘルムばっかり怪我したりして、見てることしかできなかって、本当は一緒に背負ってあげたかったのに、、、」
「でも、それは、」
「わかってる。あなたが私を守ってくれていたことは知ってるし、すごく嬉しかった。」
「なら―――」
「でも、あなたが私を大切に思ってて守ってくれていたように。私も大切なあなたを守っていたいの。」
「ーーーー」
「だから、、、お願い、話して」
テレシアは深い愛情と、確固たる意志を目に宿してヴィルヘルムに語りかけた。
一度決めたことは曲げない。そんな過去の剣聖の在り方を見てヴィルヘルムは救われっぱなしだと思った。
剣を握る意味を見失いかけた時も、無謀にも自分の故郷を守るため孤軍奮闘した時も、そして今も
だが、それでいいと思った。ヴィルヘルムが守り、そのヴィルヘルムをテレシアが救う。それは、過去の二人の夫婦像であった。
それをヴィルヘルムは忘れていて、、、テレシアが思い出させてくれた。それがわかれば迷わない。そのくだりはもう嫌だ。
だからヴィルヘルムは、、、
「あぁ、分かった。話すよテレシア。全部。」
「うん!それでよろしい!」
可憐に微笑んだテレシアに、今自分の置かれている状況を恐れることなく説明した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「う~ん。そっか、ヴィルヘルムはそんな感じなんだ。」
「あぁ、おそらくだがな。」
すべてを語り終えるとテレシアは顎に手を当て、首をかしげて考え始めた。
「でも、どうしてヴィルヘルムだけなんだろう?」
そう言われてヴィルヘルムも考え始める。
言われてみれば確かにそうだ。
二人は同じ世界から来て、同じく前の世界に記憶も持ち合わせている。違いなどほぼ一点ほどしかない。
となれば、原因は必然的にその一点に絞られるだろう。
死亡した時期、もしくはその死因ーー
テレシアが死亡した原因は、白鯨によるものだ。 たが白鯨が起因となってテレシアが転生したとは考えにくい。
それならそうと何かしらの伝説が残っていそうなモノであるが生憎白鯨にはそんな伝承はない。
もちろん三体に分裂することなど、伝わっていなかったものもあるので一概には断言できないが
となれば、ヴィルヘルムが死亡した原因の魔女教大罪司教傲慢担当「ーーー」がヴィルヘルムやテレシアをこちらの世界に来させた原因と考えるのが一番、信憑性が高いだろう。
彼ら、一人一人が持つ権能は常識の埒外のところにある。
怠惰は見えない異常な力を持った手の平を無数に、暴食は名前や、記憶、経験などを人々から文字通り喰らい「眠り姫」なる不可思議な病を起こし、憤怒は人々の感情、体の状態などを共有させ、強欲は自身の心臓を他人に寄生させ、体の時を停止し、色欲は自身や他人の体を変化せるーー
このように彼らの持つ権能とは魔法とも加護とも取れないのである。
ならば、傲慢の権能が世界を超えて作用しても何ら不思議はない。
彼が行っていた剣を大量の生み出して放出してくるものが権能とも考えられなくもないが、あれならばロズワール辺りが案外やってのけたりするかもしれない。
この仮説があっているのならば、原因究明は彼のことを探すのが一番である。
「ねぇ、ヴィルヘルム。」
と、この状況について考えていた時テレシアが話しかけてきた。
「なんだ?」
「あのね、その言いにくいんだけど、、、」
「?」
テレシアがすごく言いにくそうにしている。先程隠し事などいらないと豪語していた彼女らしくない。
「ヴィルヘルムが嫌じゃなかったらなんだけど、一緒に、、、」
「なんだ?」
「――ヒーローになりませんか!!」
と、謎に赤面しながら問いかけてきた。
「ヒーローか、、、」
ヒーローはいまの社会にある特殊な職業の一つで、災害救助、パトロール、社会奉仕活動そして、ヴィラン退治などが主な活動である。
そう退治ーーつまりは戦闘である。
いくらヴィランを殺しはしないとはいえ、それは人を傷つける行為に他ならない。それは、テレシアが嫌うことの――そこでふとテレシアが露出した気持ちを反芻する。
(もうヴィルヘルムばっかり背負い込むの嫌なのよ!)
そうテレシアは言っていた。つまりテレシアは自分の殻を破り捨て、気持ちだけではなく人を傷つけようとすることさえ共にあろうとしているのだ。
だが、一つ気がかりがある。それは、
「なんで、ヒーローなんだ?」
ということであった。
以前はヴィルヘルムは「剣鬼」として、テレシアは奪われたとはいえ「剣聖」という肩書きのため、戦場の近くに身を置いていた。
しかし、この世界はわざわざ自分から危険ごとに首を突っ込む必要はないのだ。ヴィルヘルムにもテレシアにも面倒な肩書きはない。
なぜ、わざわざヒーローなのかーーそこが分からなかった。
「えっ!?だってその、、、そう前ヴィルヘルムがヒーローカッコいいなーって、なりたいなーって、言ってたわ!そう、言ってたの!!」
急にテレシアが慌てふためき、言い訳じみたことを言い始めた。
更にその言い訳も矛盾している。
本日午前8時29分ごろからヴィルヘルムはこの世界に降り立った。
故にテレシアの言っているのは、十中八九「久留木 剣」のことだろう。
先のカミングアウトを聞いていればそれがどれだけの矛盾か理解できるはずだ。
普段であれば普通に気付くことである。そんなテレシアにヴィルヘルムの出した答えは簡単なものであった。
「テレシア」
「! は、はい!!」
急に鋭い口調になったヴィルヘルムにテレシアは身を硬くする。そして、
「どんな言いにくいことでも言う!それは、テレシアが言ってたことだろう?ならちゃんと俺にも言え。俺も受け止める。」
ヴィルヘルムはテレシアの肩をガシッとつかみそう言い放った。するとテレシアは上目遣いで、
「ホントに?ホントに受け止めてくれる?」
「最初はお前が言い始めたんだ。不安がるな。」
「怒らない?」
「あぁ、怒らない。」
「、、、笑わない?」
「? あぁ、笑わない。」
テレシアは異常なほど確認して、改めて口を開いた。
「あの、この前テレビでね。夫婦でヒーロー活動をしている、ウォーターホースって人たちがいたの。」
「あぁ。」
「それでね。その、夫婦でみんなを守るってなんかいいなーって、カッコいいなーって思ってそれで、ヴィルヘルムとそんな風になれたらなーって思い、まし、た。」
「—————」
顔を真っ赤にしてテレシアは言いきった。てっきりもっと、重々しい理由づけがあるのかと思っていたヴィルヘルムは、唖然となる。そしてこのテレシアの言ったことはすなわち、この世界に来てからの、
告白であった。
「はぁ、、、」
「ちょっとなんでため息つくの?!」
「いや、すまん。思ってた理由と違いすぎてびっくりしてただけだ。別にお前と一緒なのが嫌なわけじゃない。」
「なんか言い方冷たく、え?ってことは、、、」
「あぁ、ヒーローになんてのも面白そうだしな。」
「!やった!!じゃあーー」
「ただし、条件がある。」
「?」
一度テレシアの提案に乗ったかとと思えば急に条件をヴィルヘルムは突きつけた。
「まず、お前はヴィランと戦闘しないで欲しい。戦うのは俺がやる。」
「えっ?!それじゃあ、意味がーー!!」
「言いたいことは分かる。でもここは俺も譲れないんだ。」
そうヴィルヘルムは、テレシアに剣を握らせ戦わせないことを自身の剣と、彼女の父親に誓っている。それをたがえることは出来なかった。
「でも、それじゃあ前と何も変わらないじゃない。それはダメなの、私は———」
「いや、何も変わらないわけじゃない。」
「どういうこと?」
「ヒーローは騎士とは違う。敵力から守ることをするだけじゃないんだ。人を救わなきゃいけないだろ。」
「あっ!、、、」
どうやらテレシアはヴィルヘルムが言わんとしていることに気付いたようだ。
つまり、、、
「——俺が戦って守って、テレシアは救うんだ。俺はそういうの苦手だしな。」
「苦手ってそんな、、、」
「だから、テレシアがやってくれ。お前そういうの得意だろ?」
「はぁ~、そんな得意とかそんな判断基準じゃなくても、なんていうかもっとこう、、、いやこれも苦手だったわね。」
「なんか言ったか?」
「いいえ、何にも申しておりません〜だ!」
拗ねたようにテレシアは唇を尖らせる。だが、口調には隠し切れない嬉しさが溢れ出ていた。
「次こそはちゃんと私にも手伝わせてね。なし崩しに前見たくするなんて許さないから」
「あぁ、わかってる。次はちゃんと手伝ってもらうし、ちゃんと守る。」
「うん。じゃあ、これからもずっとよろしくお願いします。——不良兵士さん」
「!あぁ、よろしくな。———花女」
可憐に微笑むテレシアにヴィルヘルムは心からの笑みをこぼした。
『—いっしょに最高のヒーローに、、、!——』
この作品の1話1話の長さ(文字数)について
-
もう少し少ない方がいい
-
もう少し長い方がいい
-
ちょうどいい