ヘドロヴィランの騒動からもう数ヶ月ほど経つ。その頃にはもう事件の当事者たちにも平穏が戻ってきた。
しかし、今の二人には緩やかな日々など存在しない。なぜならもうすぐそこまで、二人の志望校である雄英高校の入学試験が迫ってきている。怠慢になど過ごしてはいられない。今現在二人がしているのは自らに足りないものを補うこと。
剣は筆記試験に向けて最後の詰め込みを行っている。さすがに1、2年生時に相当詰め込んだとはいえ3年生後半は実技演習試験に向けて剣の冴えを養っていたため勉学の方にそうとうガタが来ていたらしく、前の世界での剣鬼という名に恥じないまさに鬼の形相で問題集と過去の試験問題を往復している。
そして花は剣とは打って変わって実技演習試験の対策をしていた。彼女がしている対策というのは、複数の剣の調達である。もちろん剣と言っても模造剣である。花と剣に本物の刀剣類を所持することはできない。
だが、問題がある。「試験に模造品とは言え武器になる物を持って参加していいのか?」という問題である。それについてはどうやら「個性の関係上必要なもの」であれば許可は下りるようだ。曰く試験を受ける際の封筒にそう言った趣旨の許可証を入れておけば良いようだ。
そう言った模様で筆記試験、実技演習試験両方の事前準備が整っている花は剣が筆記試験以外に手を回せないため、剣の実技演習試験への対策や準備の手伝いを行っているのだが、、、
「う~ん。剣の模造剣の使用許可書の使用理由どうやって書こうかしら?」
「なに人の大事な書類をその人の許可なく作ってるんだ?お前は?」
「無個性だから「個性の関係上必要なもの」ではないしね~。う~~ん。」
「おい。聞こえてるのに無視するなよ。へこむぞ。」
「えっ?!やっ、ゴメンなさい!何か言った?」
「、、、」
花は剣の高校入試に関わってくる書類を書いているようだ。
なぜそうなったかというと事は数十分前に遡る。
剣が一人家で勉強をしていると、花が剣の勉強を差し入れと剣の勉強を見に来たのが始まりだっただろう。花が剣の部屋に上がり剣の勉強を見始める。
ところどころで間違いを指摘したり、問題のヒントを出したり、英単語の良い覚え方を教えたり、適格に剣の勉強をサポートしていく。少し余談だが、剣はもともと勉学の成績がいい方ではなかった。そんな彼が偏差値が79というハイレベルな学校を狙えるほどの成績になったかといえば、それは学年でもトップクラスの実力の持ち主である花が剣の勉強を見ていたからこそできたのだ。
そのおかげで剣の学力はみるみる上昇したため、3年生になってからは剣の持ち味が発揮できる剣道部の練習を本格的に始め、もっと戦えるようにしておこうとなったのだが、、、それに熱中しすぎた彼は、勉学の方を完全放置。おかげで今や前の世界における彼ヴィルヘルムが15歳だったころの剣力より少し下か全く同じぐらいに戦えるようになった。
しかし勉学を完全放置したため見る見るうちに学力は低下していった。そのため、剣道部を引退してから1、2年生時の花の少しスパルタな勉強よりももっとスパルタでなおかつ身になる勉強を花主導の元開始。そして今はその勉強の中で花から渡された彼女手製の教材を手に必死に勉強している。
そして、一通り解き終わった剣に花は雄英高校の入試問題の出題予想のプリントを渡し、「じゃあ、これを解いて。あとであたしが採点するから。」と言って二人が向かい合って座っていたテーブルから、壁の隅に置いてある勉強机に座った。
そして、剣が渡されたプリントを解き終わり花に答え合わせをしてもらおうと彼女の方へ向けば花が剣の書類を勝手に作っていたというところに戻ってくるわけだ。
「、、、熱中しすぎだろ。それお前のじゃなくて俺のなんだぞ。」
「だ、だって、、、」
「だってじゃない。」
「うぅぅ、、、だって!剣がすごい頑張ってるし私も何かお手伝いしたいなって思って、、、」
「だとしても、さすがに世話を焼き過ぎだ。昔に俺がルグニカの軍に復帰しようとしてた時にも言ったが、あまり甘やかしすぎるな。」
「それは、、、ごめんなさい。」
「あと、見てて思うが少し無理をし過ぎだ。過去問を持ってくるならまだしも、自分で出題範囲を予想して問題を作るとか塾の講師じゃないんだから、そこまでしなくたっていい。ちゃんと自分の勉強をしてくれ。」
「、、、はい、、、」
剣に少しばかり怒られた花は剣の勉強机に備え付けてある椅子に座ってしょんぼりしている。そんな花の様子に剣は一つため息をつき、
「——————花、少し出かけないか?」
「え?どこに?」
「最近良い所を見つけたんだ。勝手に書類を書いた云々はともかく頑張ってたことは事実だしな。気晴らしに行こう。」
「それはいいんだけど、ねぇ?本当にどこに行くの?」
剣の突然の提案に花は乗り気だ。そんな花に二度も何処に行くのかを問われながらも、剣は答えず「いいから、来い」と立ち上がり部屋の扉を開け部屋から出ていこうとする。剣に置いていかれないように花も椅子を立ち、彼の後ろについていく。二人は階段を下りながら会話を続ける。
「きっと、花も気に入るぞ。綺麗なところだからな。」
「あら?剣がそんなところを見つけてくるなんて珍しい。あんまりそう言ったところに興味はないでしょ?」
「別に興味がからっきしないってわけじゃないぞ?前は良く貧民街の花畑に通ってただろ?あそこは結構好きだったしな。」
剣があの花畑に良く通っていたのは花との密やかな逢瀬を楽しむためだったが、それをそのまま口に出すのはなんだか気が引けたので彼は言わなかった。
二人は階段を下りきり家の玄関へ向かう。二人とも靴に履き替え玄関から出ようとしたところで剣は花に向かってまた少し唐突なことを言った。
「そう言えば、、、もしかしたら、会えるかもしれないぞ?」
「ん?会えるって誰に?」
もったいぶった様子の剣に花は問いただす。先程から花は聞いてばかりだがこれは致し方がない。少し申し訳ないなと思いながら剣は、
「お前と俺の、ちょっとした恩人にだよ。」
「???」
最後まで花の質問に一つも応えること無く目的に向かって出発した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
目的地に到着した二人を出迎えたのは澄んださざ波の音と気持ちのいい風だった。
「わー!キレイ!こんなところあったのね!」
二人が訪れた場所は近場の海浜公園。剣も花もこちらの世界に生まれてからというもの久留木家宅及び聖蓮家宅周辺で生きてきた。近場のことに関してはかなり詳しい。何せ15年間そこで生きてきたのだ詳しくなって当然である。
しかしそんな二人は最近までこの綺麗な海浜公園があるなんてことは知らなかった。隅には砂浜の隅には不法投棄のゴミの山があるものの、普通にファミリー数組ほどがやってきて海水浴を行うには十分すぎるほどの広さが綺麗に掃除されている。
「実はここ最近までゴミまみれだったんだ。」
「え?そうなの?」
「ああ。勉強の気晴らしにやってるジョギングで久々にここらへんの道を気が向いたから走ってたんだ。そしたら、ゴミだらけの海浜公園を片付けてるやつらが居たんだ。」
「ボランティアの人たちが清掃してくれてたの?」
「いや、あの緑谷とかいう奴と金髪のやせ細った人だった。」
「緑谷ってヘドロの事件の時に爆豪って子を助けに行った子よね?でも二人だけでもするなんて立派な人ね。」
剣の話を聞いた花が緑谷とやせ細った人とやらを称賛する。しかし剣はそんな花に、
「確かにそうだがどうやら単なる清掃目的じゃなかったみたいだぞ。」
「へ~そうなんだ。じゃあ何が目的だったのかしら?」
緑谷とやせた人の目的がわからず花は首をかしげる。そんな花に剣はその時の状況を交えながら話していく。
曰く、清掃は緑谷しか行っておらず、同行していたやせ細った人はそんな緑谷に向かって声援を送りながら次のゴミをかたずける指示や、大きいゴミに対してうまく力を伝えることのできる体の使い方を支持していた。
その様子から剣は、『おそらく主な目的は緑谷の肉体改造であり、ボランティア清掃は副次的なものである。やせた人はインストラクターのようなもの。緑谷の肉体改造のサポートを行っている。』と結論付けた。
「なるほどね。体づくりが目的か。でも結果的にこの海浜公園はきれいになってるんだからいいんじゃない?」
「まあその通りだな。俺もそこを否定する気はねぇよ。ただ一個気になることがあるんだ。」
「気になること?」
「緑谷と一緒にいる人のことだよ。清掃されて行ってるのに気付いてから何回かこっちのルートでジョギングするんだが、たまにその人じゃな無くて別の人がいる時があるんだ。」
「それはその人の予定が合わなかったんじゃないの?そう言うことぐらいあると思うけど、、、」
「それが問題なのは、いない理由じゃなくて代わりに来てる人なんだ。」
「へぇ~どんな人なの?」
剣がわざわざ気になるといった人物に花の興味が向く。前の世界の少年期ほどではないにしても、普段、他人に無関心な剣が気になるといったのだ。興味が向いて当然である。
かなりわくわくした様子で聞いてくる花に対して剣は少し迷ってからその人物について語った。
「、、、オールマイトなんだ、、、その代わりに来てる人が、、、」
「——————————へ?」
剣の口から出た突飛な人物に花は素っ頓狂な声を上げる。
「ど、どういうこと?オールマイトが変わりにってそんなわけ、、、」
「いや本当だ。週に一回ぐらいしか俺はここに走りに来ないが、1、2回ぐらいはオールマイトが緑谷のインストラクター役をやっているのを見たぞ。」
「うそ、、、そしたらその金髪のやせた人ってオールマイトに代わりを頼めるほどの人ってこと?」
「そして緑谷はその人とのある程度のパイプがあるってことだな。まあそれならあの事件で緑谷が飛び出していったのも、オールマイトがあのタイミングで駆けつけられたのも納得がいく。」
剣の頭の中ではヘドロの事件で緑谷が飛び出していった理由は、彼が飛び出す前にあらかじめオールマイトに連絡を取っておき確実にオールマイトが来ると確信した上で、オールマイトが到着する時間稼ぎのためにヘドロヴィランへ強襲を仕掛けたというような感じで出来上がっていた。
確かに本当に上記の状況で緑谷が行動していた場合、大した判断能力と度胸だろう。自らを安全圏に置きながら己の意思で鉄火場に挑む。おいそれと一般人がとれる行動ではない。
まあ実際は緑谷がただ後先考えず爆豪を助けたいが一心で行動しただけだが、、、それでも並大抵の人ができる行動ではない。少なくとも中学二年生ができる範疇を超えている。
(それなのに俺は、、、)
「そういえば、誰かに会えるかもしれないって言ってたわよね?それってオールマイトのこと?」
「あ、ああ」
考え込んでいた剣に花が家の玄関先で言われたことについて問う。
「もうこの公園の清掃は終わっちまったがもしかしたら、大型のゴミを運んだりする以外のトレーニングをしに来てるんじゃないかと思ったんだが、、、」
「う~ん。見たところ、居なそうだけど、、、」
二人が海浜公園に視線を巡らせるが、端から端、さらには上空から海の中まで目を凝らして見てみるが、人っ子一人いない。
まあ平日の夕方では海水浴目当ての家族も、仕事に疲れ果てて夕日と海に心を癒されに来たリーマンもいない。こんな時間にここに来れるのは三年生で部活をすでに引退した剣たち受験生ぐらいなものだろう。
「もし居たら、事件の時に助けてもらった礼とか言えたんじゃないかと思ってな。」
「あ~あの時オールマイトがマスコミの対応していて全然お礼とかも言えなかったし、、、」
「他のヒーローにこっぴどく叱られてたしな。」
「うっ、それは、、、!ごめんなさい、、、」
剣に痛い所を突かれた花がうめき声を上げたすぐ後反論しようとしていたが、その言葉を飲みこんで一言謝りシュンとしてしている。
しかし剣はその反応に違和感を覚えた。そして剣はこの場所に花と共に来た最大の目的を果たすことにした。
「、、、なあ花。なんか抱え込み過ぎてないか?」
剣の発言に花の両肩がビクッと跳ねる。そして花は恐る恐るといった感じで、剣に問う。
「いや、そんなことない、けど」
「お前、いつもだったらあの時の事件のことで俺から小言を言われたらすぐ反論してくるだろ。それになんか最近やけに俺に絡んできてただろ。勉強見たりとかはよくあるけどそれ以外の俺がちゃんとしなきゃいけないものには、手を出してなかったはずだ。」
「確かに、書類とかはやりすぎだったと思ってます、、、でもそれだけで抱え込み過ぎだなんてことはないわよ。それになにを抱え込むっていうのよ。私はいつも通りよ?」
「はぁ、、、そうかまだ気付いてないのかお前、、、」
その発言にまたもや花がびくりと反応する。
「まだって、、、何に?」
「お前が書いていたのあの書類あれどっから取ってきた?」
「あの書類って実技試験の武器使用許可書のこと?それは雄英高校ホームページのヒーロ―科特設ページから、、、」
「ああそうだな。お前がそのページからダウンロードしたんだよな。
「、、、はい?」
「これ見てみろ。言ってることがわかるはずだぞ。」
そう言われた花は目の前に付きだされた剣のスマートフォンに表示されている文字を読んでいく。剣のスマートフォンが映し出しているのは雄英高校のホームページ。そのページには今年の入学試験についての注意書き。必要な書類。そして
その変更点にはこう記載されている。「前年度の実技試験概要ににあった器具・武器の使用に関することを変更することになりました。前年度までは器具・武器の使用は『個性発動に必要不可欠なもの。また『個性の能力を補助するもの。』以外の使用を禁止にしておりましたが、今年度より全面的な器具・武器の使用を許可することになりました。」と記載されている。
つまり武器使用許可書は今年度からは必要がなくなるということである。それなのにもかかわらず花は意気揚々と個性許可証を前年度のページからダウンロードし二人分印刷。そして今日花は剣の許可証の理由はどうすればいいのかと、一人うんうんと頭を悩ませていたのである。
何と間抜けな。
雄英校は次世代のヒーローを育成する学校の第一線だ。そんなところのがヴィランからの襲撃を受けてそれが世間に知れ渡るなんてことがあったら大問題である。
だからどんな小さいことにも高い防犯意識を持ってる。たかだかホームページでも毎年わざわざ別のものを作っており、それも全部高いハックやらクラック体制を持ってだ。
そのため探そうと思えば数年か前のホームページあとが見つかる。おそらく花はその内のモノの一つのところからダウンロードしてしまったのだろう。
大事なことだから二度いうが、何と間抜けな。しかし———————————
「普段のお前ならこんなことしないよな?確かにお前は天然だがここまでじゃないだろ。」
「——————————————」
剣の発言に花は黙って俯く。恐ろしいくらい笑顔が可憐な顔が今はとても暗く沈んでいる。コロコロと変わり、いつも剣を飽きさせることのなかった彼女が今ここにはいない。
そのことに剣はとても腹が立った。しかしそれは花にではなく自分に対する怒りだった。花がこんな表情をする一番の理由を剣は知っている。そして彼はその顔をさせるのが嫌だったから彼女から奪ったのだ。与えられる称賛と剣聖という
それなのに彼はまた、、、
「花。俺は—————————————っ!!」
「———————っ!」
剣が花に語りかけようとした瞬間、海の向こうから二人を狙って数本の矢が飛んできた。二人ともかろうじてその矢を交わし、矢が放たれてきた方向に目を向ける。
その先にあったのは小さな船だった。ここからは相当離れており二人に矢を放った人物の姿は確認できない。わかるのはその船がそれなりの大きさをしており何と書いてあるかは分からないが、紅い旗のようなものが付いていそうだということだけ。それ以外は分からない。
狙撃手の姿が離れすぎていて見えない状況に剣は既視感を覚えた。二人に放たれた矢はしばらく地面に刺さっていたがしばらくすると一本の矢だけを残し青い粒子となって消えていった。
その様子に花は少し驚いていたがそれを見た剣は心の中で既視感の正体をつかみ取った。忘れることはない。なぜならその相手は
二人はしばらく矢が放たれたであろう漁船を見ていたがしばらくすると矢と同じように消えてしまう。それと同時に花の個性として今だくっついたままの身勝手な
それを剣も感じ取ったのか警戒を解きそして困惑気味に呟いた。
「傲慢の大罪司教。なんでお前がここにいるんだ、、、、」
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襲撃を受け、敵に見逃された二人にしばしの間、沈黙が訪れる。あまりにも急な出来事が重なり二人とも口を開けずにいた。先程まで二人の会話が彩っていた海辺にはさざ波の音しか聞こえない。
先に口を開けるようになったのは花の方だった。
「さっきの襲撃の犯人のこと、知ってるの?大罪司教ってどういうことなの?————————ヴィルヘルム。」
花には先程の剣の呟きが聞こえていたようで、その呟きの意味を説明するように求めている。それも剣にではない。
「、、、前にも話したことがあっただろ。俺が前の世界で殺された相手、魔女教大罪司教傲慢担当。さっきの攻撃はそいつの攻撃に酷似していた。この常軌を逸した射程も、放たれた後消える弓矢も、あいつの仕業に間違いない。だが、、、」
「その人が私たちと同じようにこの世界に来たっていうの?じゃあもしかして、、、」
「ああ。俺たちがこの世界に来た理由が、おそらくあいつだ。魔女教の大罪司教って幹部が持ってる『権能』って能力で飛ばしやがったんだ。」
幼少期に立てた一つの仮説が現実味を帯び置てきた。魔女教大罪司教傲慢の持つ「権能」は世界に干渉するものである。このとこが真実ならば、二人がこの世界に来たこと、前の世界にいたはずの怨敵がここにもいることについては説明ができる。
つまり、傲慢の大罪司教がその権能を用いてヴィルヘルムとテレシアの魂をこちらに持ってきて、自らにもその権能を使いここへやってきた、ということになる。しかし、、、
「いったい何の目的で俺たちをこの世界に飛ばしたんだ。意図がつかめない。始末したいなら俺は殺されたし、テレシアだって、、、!」
魔女教の策略によって死亡している。直接手を下したのは魔女教ではなく、二人の孫のラインハルトだったが、始末する必要性は全く持って皆無である。
また傲慢の大勢司教が、ヴィルヘルムとテレシア同時に戦いたい、などというどこぞの、愛が伸縮自在でバンジーなガムだったり、嘘が薄っぺらでドッキリのテクスチャーだったりする
「ねぇ剣?あの弓矢が消えたのは権能じゃないの?」
「ああ、それは多分権能じゃないらしい。あいつと戦った時にロズワール辺境伯と共にしたんだが、彼曰くそれは魔法の類らしい。」
「へ、へぇ~ロズワールさんがねぇ、、、彼女がそう言うんじゃ間違いないんだろうけど—————あれ?なんで
「ああ、お前は知らなかったな。辺境伯はすでに二度代替わりされている。俺らが知り合ったロズワール・J・メイザースじゃなくてロズワール・L・メイザースになってる。エミリア様の後援者代表をしてらっしゃる。」
「あーそれでなのね。よかった~」
花が心底安心したといった様子で呟く。そんな様子にもっと前に話しておくべきだったかと思ったが、若かりし頃にヴィルヘルムが犯した失敗のこともありなんとなくロズワールの名を出すの憚られたのだ。
なんせそのときの失敗によってテレシアを相当傷つけ、更に自らはテレシアに投げ飛ばされ——————————これ以上はヴィルヘルムの沽券にかかわるので言及しないでおく。
「ともかく、さっきの矢は魔法で作られたのもで辺境伯なら完全にとはいかないが再現することもできるそうだ。その時点で権能じゃない。」
「そうなの?私魔女教のことなんてあんまり知らないんだけど、、、」
「ああ、いくら天才的な魔法の才能があってもおいそれと再現できるものは大よそ権能とは言えない。それに権能はマナを使わないがその矢はマナが使われているからな、だから放たれた後の矢はすべてマナに還って大気に散る。」
「へぇ~そうなのね。全部消えるんだ。」
「ああ全部消える。俺が今まで見てきた矢は全部そうだった。放たれた矢は全部消えていた。」
「「、、、」」
二人の視線が先程まで自分たちがいた場所、すなわち無数の矢が刺さりでこぼこになってしまったところ見る。
いや正確にはその地面に残る
「ねぇ、剣?これはえっとその、」
「聞くな。俺に聞くな。俺だって詳しいんじゃない。ロズワールが矢に仕組まれていた術式の効果を知ってるだけだ。だから、その、聞くな。」
優しく、勤めて優しく聞いてきた花に耐えられなくなった剣はすさまじいスピードで明後日の方向を向く。
確かにヴィルヘルムも剣も魔法のことなどこれっぽちも知らない。知っているのは、マナと呼ばれるものを使って魔法を発動すること、人にはそれぞれに適した属性があることぐらいなものなのだ。
しかし、あれだけ『全て消える』と堂々と宣言していながら、矢突き刺さっていた跡地には一本の矢が我がもの顔で突き刺さっていているこの状況は何ともまあ恥ずかしい。自分も花のことを言えないなと、思っていた剣に花が話を逸らすように聞いてくる。
「そ、そういえば!この弓矢って不思議な形してるわねぇ~、、、」
「、、、そうだな。確かに変わってる。他の矢はこんな形じゃなかった気がするんだが、、、」
花の発言にそっぽを向いていた剣が件の弓矢に目を向ける。先のこともあり断定的な言い方ではないが、この矢が他の矢と違うと剣は言う。その弓矢の形は通常の木か鉄の細い棒に、羽や矢先がついているような形状ではなく、長い一本の平たい金属を螺旋状に捻じ曲げてゆきそこに木を混ぜ込んだかのような形になっている。
よくよくその形を細部まで見た剣と花は「まるでねじ曲がった剣みたい」だと思った。その矢に手を伸ばした花に剣は、
「おい花。そんな明らかに怪しいもんを触るな。罠の可能性が高い。」
「ん~そうなんだけど、、、なんだか
「——————————っ!」
花に言われるとほぼ同時に剣はその弓矢に起きた変化に気が付く。弓矢の外見自体には一切の変化は見られない。しかし、目には見えない
その
「やっぱり罠だったか!クソ!!」
突き刺さった矢から距離を取った剣が身構える。何らかの攻撃があればすぐさま回避できるように腰を落とし、矢から目を離さずに警戒し続ける。
するとその矢に一層、マナと思わしきものが集まっていくのを感じた。やがてその弓矢が眩いほどに光だし、剣と花はその矢を明確にとらえられなくなる。剣と花はより一層弓矢から距離をとる。爆発か、あの弓矢を起点にしてまた矢の雨が降り注ぐのか、はたまた今だ見たことの無い魔法を行使してくるのか、権能を使用するのか。予想のできない脅威に二人の体が緊張で固まる。
しかし、二人の予想に反してマナからの発光は次第に弱まっていく。そのことに驚きながら今だ警戒を解かずに矢を注視するがその甲斐むなしく弓矢に集まっていたマナ自体も弱まっていった。そして完全にマナが霧散した頃弓矢の形は大きく変わっていた。
その形は二人にが感じた通り剣の形に変わっており、いびつな矢の面影はもう一切なく拵えが立派な見るだけで業物であると感じさせる西洋剣になっていた。ところどころ混じっていた木と金属は剣の刃と鞘の部分なのだろう。
「あれは、まさか、、、!」
それを見た剣は驚愕してその西洋剣を手に取る。そして鞘から抜き放ち刀身をさらす。鏡のような刀身にその身を写し、それから構えて剣はその西洋剣を一振りする。相当なスピードで振り下ろされた西洋剣からは空を切り音すら聞こえなかった。まるで空気が斬られたことに気付いていないかのようだ。
剣は振った後構えを解き、刀身を空に透かす。そんな剣に花は近づいてきて尋ねた。
「ねぇ、その剣ってもしかして、、、」
「ああ。間違いないこれは『アストレア』だ。」
「———っ!な、なんでその剣があるの?その剣はハインケルに渡したはずでしょう?それに、それに、、、それはお父様が!」
「確かにアストレアは、お前のお父上———————ベルトール殿から贈られた。そして俺がハインケルに譲渡した剣だ。こんなところにあるはずの剣じゃない。だが、、、」
その剣は間違いなくアストレアだと剣は確信した。実際にヴィルヘルムとして息子であるハインケルに譲り渡すまでの数十年間をその剣を腰に差し、近衛騎士の一員として数々の戦場を駆けてきた。その剣と共にあった張本人が一振りし一切の違和感がない以上剣が今手にしている西洋剣はアストレアであるとするのが妥当だろう。
「ねぇ、その剣ちょっと私にも見せてくれる?」
「ああ、わかっ、、、ん?」
「?どうしたの?」
「いや、鞘に何か違和感が、、、」
花に渡すためにその剣を鞘に納めようとしたところ、剣が鞘に何か異常を感じ、その部分を指でなぞる。どうやら鞘に何か文字が彫られているようだった。
その部分に剣は目を凝らして文字を読み解こうとする。花はそんな剣の後ろに回り、文字を読み解いている彼の方からひょっこり顔を覗かせて、剣の読み解こうとしている文字を見た。どうやら書かれているのは『イ文字』のようだ。しかし、、、
「、、、字が汚すぎないか?これ。魔女教ってのはこんなに字が汚いのか。」
「う~ん確かにちょっと汚いわね、、、でも、字の癖がすごいとか、形を崩して書いてるとかじゃなくて何というか、子供の字?みたいなまだ書き慣れてないって感じがするわね。」
「ハインケルとかも字を学びたての頃はこんな感じだったな。」
「そうね~でもよく『イ』と『ウ』とか『カ』と『ク』を間違えてたりしてたわよねぇ。ラインハルトは学んだその日にイ文字もロ文字もハ文字も全部覚えちゃって、あのスピードにはびっくりしたな~」
「————————そうだな。」
花がハインケルに次ぎラインハルトの昔話を出すと、先程まで嬉しそうに話していた剣が急に苦々しい顔になる。ハインケルのことはそれなりに折り合いがついているようだが、孫のラインハルトに対してはその限りではないようだ。花もそんな剣の様子に少し苦しそうな顔をしている。
少し気まずい雰囲気になってしまったが文字の解析は滞りなく進んでいく。こちらの世界で生を受けて15年間、以前の世界の文字を使うことが全くと言っていいほどなくなってしまったが二人ともまだ忘れてはいないようだ。
その結果読みだされた文章は、、、
「『俺からのプレゼントです。ヴィルヘルムさんが使いやすいであろう剣にしました。良ければ使ってください。』ね、、、ますます相手側の意図がわからないわね。」
「ああ、それになんで俺の名前を知ってるんだ?俺はあいつと戦った時名乗ってないはずだ。」
「でも、たまたま知ってたことはあるんじゃないの?剣も相手のこと知ってたし、、、」
「いや、俺はスバル殿からの情報で知っていただけだ。昔の戦場で会ったことがあるとしても、そんな奴忘れないしな。」
「スバル殿、、、って誰?そんな変わった名前の方いた?」
花が剣の口から出た新人物について問う。それを聞いた剣は件の人物——————ナツキ・スバルという少年について花に説明した。
ナツキ・スバル。王選候補者エミリアの騎士であり、魔女教大罪司教怠惰担当のぺテルギウス・ロマネコンティの討伐及び、ヴィルヘルムとテレシアの因縁の相手である三大魔獣の一角、白鯨の討伐における多大な論功を持つ少年。更には同じく魔女教大罪司教強欲担当のレグルス・コルニアスの討伐にも貢献し、なんと前人未到の賢者が住まうとされるプレアデス監視塔すら攻略した。そして驚くべきことにここまでの功績はたったの1年半ほどの年月で成し遂げられた。
しかしそんなことを成し遂げた少年は決して英雄や豪傑と呼ばれる類の人物ではなかった。ヴィルヘルムと初めて出会った時にも分かったことだが彼には武の才に恵まれておらず、フェリスやロズワール曰くゲートがそもそも弱く魔法の才もない。そんな少年だがやけに敵の情報を知っていたり、たったの数時間といった間に人間性がとてつもなく成長していたり、不思議な少年だった。
ヴィルヘルムにとってナツキ・スバルという少年は恩人というべき人物だろう。彼はヴィルヘルムの宿願である白鯨の討伐戦にて彼の白鯨の出現場所と正確な日時の情報がなければ、ヴィルヘルム達は白鯨を倒すことができなかっただろう。更には白鯨の三体に分身した要因を解明したのも彼と聞いていている。
それ以外にも水門都市プリステラにて行われた魔女教大罪司教の「強欲」「色欲」「憤怒」「暴食」が一挙に攻めてきた際にも、自分や、ラインハルトとの仲を気遣ってくれたこともある。それから—————————————
「今思うとスバル殿って多分この世界に元々いたかもしれないな。」
「え?!ど、どういうこと?」
「いやスバル殿がよく、着ている服がこっちで言う「ジャージ」を着てたり靴が完全に「スニーカー」だったり、和製英語とかあっち前の世界じゃわからなかったけどこっちだと分かることが多いからな。」
実はナツキ・スバルがこちらの世界から来ていたのではないかという考えは、かなり前から考えていたことだった。それに彼の出身がおそらく剣たちと同じ日本出身ではないかということも推測していた。
彼は自分の出身はどこかと聞かれたとき「極東の国」と答えており、あちらの世界ではルグニカ王国が最も東だったため何とも不思議であったが、こちらの世界では世界地図を本初子午線を中心に見た時日本は地図の一番右端に位置する。そのため、日本は極東の国なんて呼ばれていたことから小説やマンガ、アニメなど現実世界とは乖離した設定の作品だとおそらく日本に該当するであろう国は「極東の国」とそのまま呼ばれていたりする。スバルもここから取ったのだろう。
そう言えば王選候補者のプリシラ・バーリエルの騎士のアルという男もスバルと同じ言葉を使っていたなと思いだす。またカララギに伝わる「ワフー文化」なるものが日本の和風文化と酷似しているため、それを伝えたとされる「荒れ地のホーシン」もこちらの世界の住民だったのではないかと思う。
そんなことを剣が考えていたところ花が剣の肩をがしっと掴み、
「その人おかしい!!」
「は?」
「だって、私たちを送った大罪司教は
確かにスバルの情報を聞けば聞くほど怪しい。スバルと面識がなく情報だけを聞いた第三者から見ると、不審極まりないだろう。いや、もう、それは何か関連があるどころか——————————
「ねぇ、その人が私たちを送った大罪司教ってことはないの?」
普通こう考えるのが道理だろう。当然花もこの考えに行きつき、剣に質問する。花に質問に剣は、
「いやそれはあり得ない。傲慢と戦闘したときスバル殿もいらっしゃった。それにスバル殿に魔法の才などは一切ないらしいからこの剣やさっきの襲撃も不可能なはずだ。」
「じゃあ、魔女教とつながって、、、」
「それもないだろうな。スバル度のは大罪司教を何人も討伐しているし、何よりも、スバル殿は、魔女教を恨んでる。魔女教に与する理由がない。」
剣がナツキ・スバルが魔女教の使者ではないかという花の疑惑も打ち砕く。それを聞いた花は、少し目を伏せた後、
「————————そっか、剣がそこまで言うんだったら、違うわね。」
先程までスバルが怪しいと剣に強く主張していた花が急に態度を曲げる。先程の剣の説明は穴だらけだ。いつも花だったら、そこに食いついていたはずだ。それが急に態度を軟化させ剣の言ったことを肯定し始めた。
その様子が少しおかしいことに剣は違和感を覚えるが、気のせいだろうなと片付けて、花の言うことを肯定する。
「ああ、そうだ。スバル殿は断じて魔女教徒じゃない。多分スバル殿も傲慢の権能でこっちから前の世界に連れていかれたんだろうよ。その理由も分からないがな。」
「そうね、、、ずいぶん話しちゃったわね。ん~~もうずっと座ってたから腰がちょっと痛いな~。」
そう言って、花は立ち上がって剣に「そろそろ、帰ろっか。」と言って、家の方向に向かって歩き出した。それを見た剣は黙って立ち上がり花の後ろについていく。しかし、剣はすぐに足を止めた。そして、花の背に向かって言葉を投げる。ここに来た最大の目的であるものをしっかりと果そうとする。
「なぁ花、俺は」
「————————剣。」
剣が話しかけると花は剣の言葉を遮るように剣の名前を呼ぶ。そして振り返って微笑む。それからまた前を向き歩いていく。
いつもとはどこか違う雰囲気で、花は剣に何も語ること無く歩いていく。そんな花に剣は何も言えなくなってしまった。この場所で聞かれることを拒んで、らしくない態度で早々に切り上げた。この機会を逃せば花はきっと今彼女の抱えている苦悩を語らない。
だから彼女はこんな行動をとっているのだろう。彼女の決意が揺るがないように。帰路につく彼女を止めることは難しい。そう思わせるような笑みと、そう思わざる負えない覚悟を花は剣にぶつけた。今の剣にそれを乗り越えることは難しい。
それから剣は言葉を紡がず黙って、花の後ろをついて行く。その顔は何かに耐えるような苦しそうな顔だった。日が沈む寸前の町にて二人は帰路につく。
そうして剣は今日ここに花を連れてきた目的を果たせずに矢から変貌を遂げた剣「アストレア」を片手に花の後ろ姿を見ながらとぼとぼと歩く。そんな剣とは対照に花も一度振り返って微笑んで見せてからは一切後ろを向くことなくしっかりと歩を進めていく。
剣にはそんな彼女の背中が心なしかいつもより小さく見えた気がして、、、
剣神の、笑い声が聞こえた気がした。
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