———瞼を刺す強い光りによって意識が浮上してくる。そして意識と肉体の接続が50%ほどになったため花はゆっくりと体を起こす。
ベットで体を起こした状態で時計を見て、それから窓から先程から無神経に自分をてらす光が日光であることを認識する。日光によって眠りから覚めたということと、時間帯が午前7:00頃であることを見て、ようやっと「朝である」と認識した。
「————————っ」
今が朝だと認識して、ほぼ完全覚醒した花に鈍い頭の痛みが襲う。最近はずっとこの調子なのだ。朝は必ず前頭葉に痛みが走る。それに寝起きも相当悪い。いつもならば剣ほどではないがそれなりに寝起きが良い方で、今日のように「朝である」と認識するのに多くの工程を踏まなくていい。
それに起きる時間も遅い。いつもは朝ごはんや昼食用の弁当を作ったり、剣にモーニングコールしに行ったりするためもう二時間ぐらい早く起きているはずが、今日は相当遅い時間帯に起きてしまった。
しかしながら今日は別に特段早く起きなければいけないと言うわけではない。もちろん絶対に遅刻などしてはいけない日ではあるのだが、朝食を作ったり、弁当の準備などは今日に限ってすべて剣の母がしてくれている。ちなみにこれは剣の母からの提案で、花は断ろうとしたのだが剣の母は頑として認めず「その日ぐらい自分のことをしっかりしなさい!」と少しおしかりを受けてしまったためこうなった。
普段からこんな風に頼りがいがある感じだったらなら、花からも剣からももう少し尊敬されているのだろうがいつもは落ち着きがなく更にド天然という人なので、花及び剣からの尊敬はほぼ0である。
もうひとつの早く起きる理由である、剣へのモーニングコールだが、、、あの日————————剣に連れだされた海浜公園にて大罪司教からの襲撃を受けたあの日から行っていない。学校での会話も相当少なく、剣道部の部員たちに交際を知られてからは一緒に登下校をしていたのだが、それすらもおこなっていない。
それ故花が早く起きたりする必要が今日限りは
階段を下りて右に曲がるとすぐ横に洗面所がある。そこで毎日のルーティーンの一つである洗顔をしよううとしたのだが、、、
「はぁ、、、」
鏡の前に写る自分の姿に花はため息をついた。日に日に顔色が悪くなっている。全体的に生気が足りていないような雰囲気だった。人前では何とか元気そうににふるまっているが実際、花の精神は結構摩耗してきている。
まあ仲の良い数人の友達にはばれているし、特に剣には友人たちに気付かれるよりもずっと前から気づかれていたかもしれないが、、、
ともかくそんな状態に自分があることをすでに花は自覚していたが流石に今日はいつにもまして、生気がなかった。手の施しようがないほどではないものの、日に日に自分の顔が堕ちて行くのは女として辛いものがある。
しかし、そうなったとしてもこうなったのは自分の決断故だと、思っている花はこんな現状に陥っていようともその決断だけは曲げないようにと、その決断をもう一度自分に刻み込むために口に出す。
「——————剣を持ちなさい、テレシア。もう一度。」
そう言って花は、まず自らのこの不甲斐ない顔を何とかするために我が家の秘密道具を総動員するのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
流れていく街並みを眺めながら剣はため息をつく。現在剣がいるのは電車の中。向かう先は雄英高校の最寄り駅。そう、今日は剣と花の運命の日。雄英高等学校の入学試験である。
数多の受験生の中から300人中から1人合格するという実に狭き門に何としても入るべく、剣と花は何年もかけて準備していた。その努力が今日報われるか、否かが決まる大切な人生のターニングポイントだ。よって、二人は前々から「当日は完全に自分のことに集中。互いを心配するのはそのあと!」と決めていた。はずなのだが、、、
(あいつ、大丈夫じゃないよな、、、不安だ)
思いっっきり花のことを考えていた。しかしながらそれも仕方があるまい。花の様子は剣から見て——というか誰から見ても異常だった。
本人は気丈に振る舞って気付かれないようにしているつもりなのだろうが、傍から見ても生気が抜け落ち、普段関わりがない剣道部の面々までそれがわかるほどだったようで、前部長がわざわざ剣のクラスに来て、
「なぁ、久留木。お前の彼女さん大丈夫か?」
と、聞きに来るレベルだった。相変わらずどこか抜けているというか、何というか、、、
ともかく、そんな状態にある花を剣は放ってはおけない。現に花に何度か語りかけて、すこしでもほぐそうとしてはいるものの、そのたびに話を逸らされたりしている。
それに剣はあの日———花の覚悟の一端に触れた。その思いは剣が自分に手を差し伸べることを良しとはしていなかった。だから剣は花を助けることをしないようにしてきた。
しかし、最近になってより一層追い詰められているような気がする。
それ故剣は花の「誰の助けを求めずに、自分の力でのみでその問題を乗り越えたい」という思いを認めながら、それを否定する「その問題を乗り越える」という試練を取り覗くということを試みたが、、、結果は先の通りである。
それほどまでに花の覚悟は硬かった。剣でも斬り崩せないほどに。
そのため剣は今日まで、手助けが本人の意志によりできない状態が続いてしまっていた。
(今日もあいつ来なかったし、、、毎日母さんのヒップドロップで起きるのはもう嫌なんだがなぁ、、、)
そんなことを思いながら、剣は持ってきていた黒い竹刀用の袋に手を触れる。
この竹刀袋の中には今回の実技試験に向けて持ってきた、あの海浜公園で攻撃された際に入手した剣「アストレア」——ではなくネットで売っていた観賞用の西洋剣が二本入っている。
さすがにただの高校試験に本物の刀剣類を持ってくるわけもいけないため、アストレアは家に置いてきたというわけだ。
ちなみに二本持ってきている理由は保険である。いくら金属製とはいえ観賞用のもので戦うとなるといつ壊れてもおかしくはない。だからいつ壊れてもいいようにと、予備でもう一本持ってきたのだ。
剣は指先で袋越しの模造剣の感触を確かめる。よくクルシュがしていた行為だ。心細い時や、重要な事案などに臨む時、心を落ち着かせようとして、彼女の持つカルステン家に伝わる宝剣を指先で触ってしまう癖があると、フェリスが前に言っていた記憶がある。
そんな主の癖が移ったのかと、剣は思いながら気持ちをキリッと切り替えて自分のことに集中しようとする。
いつも剣道の試合前や、合戦の前の時のような自分の剣に曇りがないような状態に、試験会場につく前に仕上げなければ、、、
『「————」、「————」です。お降りのお客様は、、、』
「、、、はぁ」
気合を入れなおした剣を妨害するかのように、社内に停車を知らせるアナウンスが鳴り響く。電車が停車したのは試験会場の最寄り駅で、剣は荷物を握りなおして立ち上げり、電車を降りた。
その駅のホームには相当な人数の学生服をきた者たちも降りてきた。
流石は雄英。少し早めに来たつもりだがそれでもホームの過半数は学生だった。雄英に臨むのもたちの気合が感じられる。それほどまでの者たちがこんなにも集まるのだ。流石日本トップレベルのヒーロー育成校である。
そしてその者たちによって織りなされた人波に、我負けじと剣も入ってく。剣はそんな人波に乗りながら、、、
(結局花は、剣を持つ恐怖を乗り越えられるか、、、?)
そんなことを思っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「Yeeaaaaaaaaaaah!!!リスナーーーー!盛り上がってるか~?!」
「「「「「、、、」」」」」
午前の筆記試験が終わり昼食を取った後、午後からの実技試験の説明を受けるために花は大型のレクリエーションルームに来たのだが、、、学校側から指定されている席に座ってしばらくすると、首元に二つのスピーカーのようなものがついた革ジャンを着た男性が、何やら資料のようなものを抱えて持って入ってきた。
そして、その男は速足でレクリエーションルームの先頭にある教卓に立ち、冒頭のセリフを受験生たちに投げかけたのだ。無論受験生の中から盛り上がるような歓声は上がらない。
「くぅ~~!こいつはシビィ―な!まっ、とりあえずサクッと試験内容を説明していくぜ~!」
しかし、その男はこれと言って落ち込んだような様子はない。全く凄まじい精神力だ。このぐらいでへこたれる様ではトップヒーローなどは無理だろう。
紹介が遅れたが彼の名は「プレゼントマイク」。個性はヴォイス。声が大きい。とにかく大きい。
一度彼がヒーロー活動をしている様子をテレビで見たことがあるが、これが大声を出した瞬間ヴィランが耳を塞ぎはじめ、しばらくすると白目を剥き、耳から血を流して気絶するという子供には少々ショッキングなヴィラン退治だった。
他にも花が勉強中に息抜きがてらにラジオをかけたところ、彼がメインパーソナリティーを務めている番組に当たってしまい、花がしていたイヤホンから大音量が流れてきたこともあった。
そのせいか花は彼に苦手意識があり、そんな彼が雄英校にいるというのは少し複雑な気分だった。ともあれそんな花を置き去りにプレゼントマイクからの試験の内容が説明されていく。
曰く、試験内容は、学校側が用意した戦闘用ロボット—————仮想ヴィランが配備された市街地のフィールドで行うようだ。ロボットには種類があり、「1ポイントヴィラン」「2ポイントヴィラン」「3ポイントヴィラン」がいると、プレゼントマイクが説明する。
受験生らはフィールドに赴き仮想ヴィランを倒していき、倒したヴィランに振り分けられたポイントを入手する、といった感じの試験だと彼が続けていった。
しかし、花は席一つ一つに置かれた試験の資料を見て疑問を抱く。それは、
「———先生!よろしいでしょうか?!」
花が不思議に思ったとほぼ同時に後方の席から大きな声が上がる。
「はい。受験番号2683番クン。どうぞ。」
受験番号で呼ばれた人物は立ち上がり、要件を口に出す。
「先ほど紹介にあった種類の仮想ヴィランは三種類でしたが、我々に配布されている資料には
彼がプレゼントマイクに質問したのは花が感じていた疑問そのモノだった。花も彼と同タイミングでそのことに気付きその記載されている仮想ヴィランを注視した。
そしてプレゼントマイクが答えるよりも先にもう一度彼が口を開く。
「それから、、、そこの君。先程からブツブツ小声で何かつぶやいているが、周りに非常に迷惑だ。受験妨害に来ているならやめたまえ!!」
彼の座っていた席の右斜め前に座っている人物を指さしその人物の行動を批判する。
すると、指を刺した席からは細々とした声で「ご、ごめんなさい、、、」と呟いたのが聞こえた。流石に少し言い方がきつすぎると花は思ったが、注意された人物が誤った瞬間、間髪入れずプレゼントマイクが質問に回答する。
「OK、リスナー!ナイスなお便りをありがとうな!!こいつは、各フィールドに一定数置かれているお邪魔虫、『0ポイントヴィラン』だ。こいつを倒しても一切のポイントが入らない使用になってるから皆注意してくれ!」
と説明した。
そして、質問をした彼はカクカクとした動作で書けている眼鏡をクイッと上げた後、勢いよく頭を下げて謝る。
「私の早とちりでしたか。大変失礼いたしました!!」
「いいって、気にすんな!!」
そんな彼にプレゼントマイクが応答するが、あまりにフランク過ぎて不安になる。こんな先生で大丈夫だろうか。しかしそんな考えは、彼が発した一言によりひっくり返る。
「—————さてリスナー諸君。」
空気が変わった。先程まで彼特有のおちゃらけた雰囲気が一気に静謐なものへと入れ替わる。
喋り方や口調などは一切変わっていない。しかし、そこには底知れない何かが詰まっている。ただの学生相手であっても伝わってしまうほどの、とてつもないモノが受験生にぶつけられる。
そして彼は言葉を続ける。
「かの英雄、『ナポレオン・ボナパルト』はこう言った。『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と、、、」
(そうだ、私は乗り越えなきゃいけない、、、私は今日こそ、、、)
プレゼントマイクの演説により花も今一度己が目標を超えると決意する。その果てで、剣と、、、
「
(————戦えなくて、弱かったあの頃の自分と、、、)
「——よき受難を!」
(決別する!!)
またどこかで剣神の笑い声がした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
プレゼントマイクからの説明と激励を受けた花は、自分に割り振られたフィールドへ向かう。
そしてこれは資料を読んでわかったことだが、どうやら各々に割り振られたフィールドには同じ中学校からの受験者はいないようになっているようだ。おそらく知り合い同士での共闘ができぬようにし、公平性を保つ目的なのだろう。
今の花にとってその仕組みはありがたいものだった。今、剣と顔を合わせればきっと弱音を吐いてしまう。そう言う思いが花を剣に会わないようにとさせていた。
だがそういった重苦しい感情が花の中にある割に、彼女の心は予想以上に落ち着いていた。体も少し軽いような感覚がある。試験前日まであった倦怠感が嘘のようになくなり、むしろ発信源の分からない高揚感が体を包んでいた。
そのことに花は眉をひそめるが考えを切り替える。
今は原因究明より試験に集中する方が重要である。それに実技試験においてこの現象は喜ばしいことである。戦闘能力を測る試験に疲労感が体にあり続けるよりもよほどいい。
そんなことを考えながら彼女はフィールドに到着する。フィールドにはすでに大勢の受験者が到着しており、各々準備を進めていた。深呼吸をして心を落ちかせるもの、個性の調子を確かめるもの、他の受験者と会話し緊張をほぐすものもいる。
花も腰に下げた3本の模造剣を抜き放ち、傷などがないかなどの最終チェックをしようと、剣の柄に手を伸ばす。そして柄を握りしめた瞬間、頭に甲高い音が鳴り響き、花は顔を上げる。
(今の感覚は、、、!)
長い間「剣聖の加護」を使用していなかった花だったが、彼女の身はその音が為す意味を覚えていた。その意味は「要警戒」であり、主に敵からの奇襲や剣聖であっても危険な存在が自分に近づくと加護はそれを所持者に知らせる。
そして試験直前にそれが鳴り響く意味。つまるところそれは———————
「ハイ!スタートー!!!」
(————————試験開始の合図!)
プレゼントマイクが試験開始の合図を告げると同時に花は駈け出した。走り出す瞬間他の受験生たちが、プレゼントマイクの声が発せられたスピーカーの方に呆け面を向けていたあたり、開始と同時に駈け出すことができたのは花だけのようだ。
駈け出す一瞬に他の受験生の表情まで見れたのは、花が剣聖の加護を完全に開放しているからだ。まあ開放とは言っても剣聖の加護はオン・オフが出来ず、普段も加護の能力を抑えてはいない。—————————というよりも
自ら主を選び継承されていく加護。花——————テレシアに継承されてから普段使われることのない加護。その加護が今久々に使われる。戦いたい欲求を加護自身が持っている。元々血の気が多いのだ。何年も戦いがないことなど耐えられないのだ。
故に11年の歳月を戦いは今か今かと待ちわびた加護は開放される。その喜びで身体能力の補助が少しオーバー気味になっているのだ。そのため花はいつもの数倍の動体視力や俊敏性を持っていた。おそらく試験前から体が軽いのは加護の影響だったのだろう。
そんなことを考えながら、花はスタート地点からしばらく走った所で、仮想ヴィランを発見した。仮想ヴィランは資料にあったように、緑色の走行で全身を硬め、足にはキャタピラが付いている。少し前にせり出した頭部と思わしきものがついており、紅く発光辺りを見渡している。
ロボットを発見した花は腰に下げていた。3本の模造剣の一本を抜き放つ。その瞬間先程とは比べ物にならないほど加護の能力が強まった気がした。そして、花の眼前に一本の白い線が浮かび上がる。そして体がその線を手に持つ剣がなぞろうと動き出す。
これこそが剣聖の加護のスゴさである。花の眼前に浮かび上がった線は、そこをなぞれば確実に勝つことのできる剣筋を差している。
なぜそうなるのか、どういった方法でそれがわかっているのかというのは一切不明だがその剣筋で仕留められなかった人物は花の知る中でたった一人ということ。ただの試験のロボットがその一人を超えているはずがない。
また、剣筋が装甲の隙間に走る軌道を描いていないことからこのロボットの耐久度が見た目以上に低いことがわかった。まあそうでなければ試験用にすることもできない。当然と言えば当然といえるだろう。
異常なまでに冴えわたった思考の中で花はひっそりと覚悟を固める。聖蓮花としては初めて何かに向かって剣を振る瞬間に少しばかり緊張感を持つ。
そして彼女の体の動きが勢いを増していきその手に握られた模造剣が鈍い光を輝きながら眼前のロボットを切り裂いた。
————————————————————————。
ロボットの体を花から放たれたる一撃が音もなくすり抜ける。ロボットの体にも変化が無いように思えてしまう。傍から見れば空振りとも見られるだろう。
しかしそうではない。それはただ、その剣戟のレベルがあまりにも高すぎるだけで、、、花の振るった剣は確実にロボットをとらえていた。
その異常なまでに洗練された剣戟を見舞われた、可哀想なロボットはなぞられた剣線に沿って崩れ落ちる。
顔に位置にあるカメラらしきものから赤色の光が消える。それは完全に動作が停止し、ロボットがただの鉄塊に成り下がったことを如実に表していた。
花はその鉄塊を呆けたように眺めた後、自分の手の中に納められた模造剣に目を移す。
(やった、、、の、、?わたしが、、、?)
花は眺めている剣を握っている手を一度開き、その事実を、、、自分が剣を振るい、敵を切り伏せた事実を確かめるように剣を握りなおす。
(、、、そうだ振るったんだ、私が、、、あの人じゃなくて私が振るったんだ、、、私でも剣を
そう思った瞬間花の心の中で何かがはじける音がした。
その音を聞いた花はキッと顔を跳ね上げた。そして五感の外、第六感から与えられてくる、次に向かうべき場所に向けて花は駆け出す。
次の標的まで距離にして300メートルしかなく、剣聖の加護が指し示している標的の数も、1ポイントヴィランが二体に3ポイントヴィランが一体の合計、三体しかいない。
先程花が瞬殺したヴィランは2ポイントだったがそれの強さから測っても、大した強さではないだろう。
このくらいなら剣も、、、
(って、私また、、、戦闘に集中しないと、、、!)
頭にわいてきた考えを、標的に向かって走りながら頭をブンブンと動かして振り払う。
標的まで残り数十メートルになり、ヴィランとその周りをしっかり目視できるようになる。ヴィランは現在一人の少年と交戦していた。
それが見た花は流石に誰かと交戦しているヴィランを標的にするのどうかと思った。先程チラッと試験官のプレゼント・マイクが言っていたことだが、この試験における他の受験生への妨害はご法度のようだ。
まあ普通に考えてそうだろう。ヒーロー科入学のための試験であること、あと普通に倫理的に、常識的に考えてアウトである。
そう言ったことが考えられて花は動かしていた足を止めてしまう。万が一、妨害行為として見られることを懸念して、そのヴィランは諦めて他のヴィランを探そうと来ていた道を振り返る。
しかし、探そうとした瞬間に交戦していた少年が一体のヴィランに足を取られてしまい、残りの二体のヴィランが体勢の崩れた少年に追撃を仕掛けようとしてた。
それを視界の端にとらえた花は急いで振り返り、体を加速させて少年の元に疾駆した。
手に持つ模造剣をもう一度しっかりと握りなおして花は、少年の元に辿りつくと彼とヴィランの間に体を潜り込ませた。
そして、頭上から襲ってくる攻撃を模造剣で軌道を逸らして件の少年に声をかけた。
「大丈夫?!」
「————————あ、ああ大丈夫だ!!」
どこからともなく現れた花に、目を丸くしながら少年はしっかりと返事をした。
花が軌道を逸らした攻撃を放った二体のヴィランを転ばして、時間を稼いだおかげで少年が体勢を立て直して三体のヴィランから花ともども距離を取ることができた。
だがあまり悠長にしていてもいられない。今にもヴィランたちは起き上がって来ている。そのため花は要件を手短に少年に伝えた。
「私が1ポイントヴィランを二人まとめて相手するから、あなたは3ポイントヴィランをお願い。できる?」
「———————————」
質問された少年は一瞬逡巡してから、
「分かった、問題ねぇ。」
そう言って腰に手を回して何かを取り出した。
それは黒く染まった結構な長さのある紐状の物で、それを花に見せるように掲げて少年が言う。
「俺は鞭を使って戦うスタイルだから、なるべく離れて戦ってくれ。」
「うん。りょーかい!」
「んじゃ、3ポイントの奴は任せとけ!っと!!」
花からの了承が取れると少年は3ポイントヴィランだけに鞭を当てて自分に注意を向かせる。それから彼は「おっ、にっ、さん、こちら!手のなるほ~うへ」となんともウザったらしい言い方でヴィランを煽る。
それはロボットに通じるのだろうか?
まあ、何はともあれ花は自分で宣言した通りに1ポイントヴィラン二体を相手取る。先程このロボットの上位互換である2ポイントヴィランを瞬殺した花にとっては、相手取るなんて言葉を使わないかもしれないが、、、
まず、起き上がろうとする一体のヴィランの首元を模造剣でなぞって首をはねる。それから返す刃で首をはねている間に起き上がったもう一体へ、銀線を繰り放つ。こちらも同様に一撃で標的を葬り去った。
まさに刹那の間にヴィランを片付けた花は、少年の方に目を向ける。どうやらあちらも終わったようで3ポイントヴィランを倒した少年がこっちに向かってきた。
先程まで交戦していたロボットは何やら、至るところがひしゃげておりまるでとんでもない怪力で握り潰させたような形になっている。
鞭で戦うと言っていたが、どうやら個性も使ったようだ。ということは彼は肉体強化や怪力を有する個性なのだろうかと、花が考えていると彼の方がしゃべりかけてきた。
「さっきは助かったぜ。ありがとな、えぇ~~と?」
「ふふっ、
「ああ、ありがとうな聖蓮さん。試験だってのに助けてもらっちまってすまねえ。」
「いいのよ。だってヒーロー志望ですもの。誰かを助けるのは当たり前でしょ?」
そう言った花の言葉を聞いた彼は少し驚いたような顔をしていたが、すぐに元の人懐っこい笑顔を浮かべた。しかし目は鋭い三白眼で笑っていても少し威圧的な感じがする。
「そんじゃ、ヒーローさんあっちの方に結構な数のヴィランがいるんだが、交戦してるやつらの連携がうまくいってなさ過ぎてちょっと危険なんだ。そこの増援に向かってくれないか?」
「ええ、構わないけど、、、あなたは行かないの?
「あ~実は俺、そっから逃げ出すて来たんだよ。だから戻ることになっちゃうんだよね、、、だから行けないな」
「そ、そうだったんだ」
「ああ、じゃあ俺移動するから。じゃ!」
そう言って少年は花からそっぽを向いて走っていく。そんな彼に花は尋ねた。
「ちょっと~あなた、名前は何ていうの?」
その声が届いた少年は止まって振り返って言う。
「——————————プレアデス」
「え?」
「せっかくヒーロー科の試験で会えたんだしヒーロー名で覚えてくれ。俺の
そう言って再び彼は駈け出していった。
そんな名乗りをした彼にしばらく花は怪訝な顔をしたが、すぐ彼が先程指示していた方向に向き直す。再び標的の位置を把握した花は体を縮めてから、一気に走り出す。
もう彼女には一切の迷いはなかった。
もう彼女には剣神の笑い後は聞こえていなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「は~い、しゅ~りょ~!!試験、終わりで~す!」
「———————ほぇ?」
数え切れないほどのロボットをひたすらに斬り伏せて、時間の感覚が亡くなっていた花はスピーカーから響き渡るプレゼント・マイクの声に呆けた声を出した。
そして他の受験者がぞろぞろと退場口に進むのを見て遅れながら試験が終わったことを自覚する。
そこから他の受験者と同じように退場口に疲れ切った様子で向かう。そこから更衣室へ向かい、汗だくになった白色のジャージから制服に着替える。
周りの人間の渦に巻き込まれながら、とてつもないくらい巨大な扉を超えて、学校の敷地外へ向かう。
そうして学校を幽鬼のような足取りで出た花は駅へ向かって歩いていく。そして最寄り駅のホームについた花は今だに「剣聖の加護」を発動したままだったことを思い出した。
そして、花はこの世界では個性となっているこの力を完全に解く。
体全体にあった疲労感が消えうせ、張り切っていたふくらはぎや、二の腕がほぐれたような感覚に襲われた。
試験後からずっとあった倦怠感は個性の連続使用によるものだったのかと、思った花は軽くなった体を確認するために肩を軽く回す。しかし、思った以上に体がうまく動かない。
(というか、電車はいつの間に出発したの?なんだか天井みたいなものが、、、)
そこでようやっと花は気づいた。
(ああ、私倒れたんだ、、、)
それを自覚したとたん花の意識が遠のいていく。周り人が倒れた花を心配そうにのぞき込んでいる。
「—————————っけ———————はな—————!」
誰かの声が聞こえた。こちらに向かってきている。
その向かってきている人があの人だったらいいのにと花は思って、、、
「—————ヴィルヘルム—————」
そこで花の意識は途絶えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その覚醒はいつものように緩やかなものではなかった。
目を覚ました花は、飛び上がるようにして上体を起こして周りを確認する。見慣れた家具に、見慣れた天井、見慣れた間取り。それはここが花の自室だということを表していた。
それを確認した花は、自分の右手に籠る暖かさに気付く。その原因を分かっているのにも関わらずわざわざそこに視線を向ける。
そこにあったのはこれまた見慣れたモノだった。しかし、花にとってはこの部屋のどんなモノよりも価値があるものだ。
その
その途端に少し身じろぎする姿に「ふふっ」と笑ってから、その人物の右手が自分の右手を繋いでいること見て花はずっと彼はこうしてくれていたんだと理解した。
日はしっかり沈み、ベットに備え付けてある時計はもうすぐ日にちが変わりそうである。こんな時間までそばに居てくれたことに感謝しつつ、同時に罪悪感も感じていた。
自分がこんな時間まで寝込んでいた理由の見当はもう付いている。
長い間使われてこなかった個性を急に長時間発動し続け、更に過度な運動という無茶に無茶を重ねたことが理由だろう。駅まで倒れなかったのは「剣聖の加護」による身体能力のブーストがかかっていたからだろう。
それに花は自分がこの個性—————「剣聖の加護」を使って剣を振る決心をつけるためとはいえ、相当剣を避けていた。それにもかかわらず、剣は試験終わりで疲れ切った体を推してでも片時も離れずに、そばにいてくれた。
それが本当に申し訳なく感じてしまった。
でもそれと同時に、自分がどれだけ愛されているのかを実感した。
だから花は、、、
「ありがとうヴィルヘルム、、、ごめんね、、、剣、、、ありがとう、ありが、、とう、、!」
微笑みながら、泣きながら、花は傍で眠る剣に謝罪し、感謝し続けた。
そして、もう一度決意した。
隣に並べるようになろうと。
ヴィルヘルムが前でテレシアが後ろでも、剣が後ろで花が前でもなく、隣にいようと。
深く決意した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
—————数週間後
これは剣と花のご近所さんの話なのだが、、、
雄英からの合否通知が届いた日。花が思いっきり剣に抱き着く姿が目撃されたという。
——————————————
またしても更新期間が非常に長い間あいてしまって申し訳ありません。言い訳になりますがなんだかモチベーションが下がってしまって、、、
まあ、最近になってモチベーションが回復してきたのでどんどん書いていこうと思っております。でも更新頻度はあんまり変わらなそうですが、、、
とにかく今日はもう眠いので寝ます。見てくれてありがとう。返信できないかもだけど感想もよろしければぜひ。
ではおやすみなさい。
この作品の1話1話の長さ(文字数)について
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もう少し少ない方がいい
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もう少し長い方がいい
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ちょうどいい