仮面ライダー斬月・艦   作:はちコウP

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この作品は2015年3月2日にpixiv https://www.pixiv.net/novel/series/452817 に投稿した作品を加筆・訂正した物となります。

『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。

本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。


※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。


【第六話】part2

「随分遅い目覚めだな」

 司令室に入った貴虎に(えびす)提督は言う。

「申し訳ありません」

「いや、別に責めてるわけではない、気に病むな。それと夕張、ご苦労だった。下がっていいぞ」

「はい。失礼します」

 夕張はサッと敬礼をし「それじゃあまたね」と貴虎に囁き、部屋を後にした。

 そして提督は、軽く咳払いをすると話を始める。

「まず結果から言おう。例の果実、植物の痕跡は発見できていない」

 提督の命令により早朝から、任務の無い艦娘及び一部基地職員による、島中の捜索が行われたのだった。

 黒潮が実を拾ったと思われる浜辺を中心として、森林、施設周辺をはじめ様々な場所が徹底的に調べられた。

 何処からか流されてきたという可能性も考慮し、海上まで捜索の手は伸びたが、それらしい物は発見出来なかった。

「無論、数時間程度の捜索で終わらせるつもりは無い。暫くの間は続けさせるつもりだ。それと昨日の果実だがな、横須賀鎮守府に送らせてもらった」

「横須賀にですか?」

「あそこの鎮守府には、様々な研究施設があるからな。分析してもらえば何か手掛かりが掴めるかもしれん」

「だとすると明日には分析が始められる、という事でしょうか」

「いや、もっと早いさ。最速の特急便に届けさせたからな」

「特急便……?」

 貴虎が怪訝そうな表情をした時、室内に備え付けられた電話が鳴りだした。

「俺だ……いや、予想通りだ。何せ島風に任せたのだからな。……ああ……何だと?」

 電話を取った夷提督は、暫く話をした後に眉をひそめる。そして貴虎へ向け受話器を差し出した。

「ヨコの奴からだ。お前と直接話がしたいそうだ」

 そう言われ貴虎は、受話器を手に取り耳に当てがう。

「もしもし」

《貴虎さんですか?僕です、横須賀です》

「何かあったのか?」

《それがですねぇ……残念な話なんですが、枯れていたんですよ》

「枯れていた?それは、もしや……」

《はい、送っていただいた例の果実、梱包されていた箱を開けてみたら、すっかり萎れちゃってまして。部位によっては、まるでドライフラワーかミイラか、って位にパリパリに干からびちゃってたんです》

「そんな馬鹿な」

《お聞きしておきたいのですが、例の……ヘル、ヘイム?の果実ですか、一晩で萎れてしまう程にデリケートな物なのでしょうか?》

「いや、そんな事例は聞いたことが無い。植物自体も周囲の環境をものともしない程に繁殖力が強い。果実もそうだ。それが昨夜の状態から一日と経たずに枯れるなど……」

 横須賀提督から聞かされた事実に貴虎は困惑していた。

 一瞬、よく似た別の果実だったのでは?との考えが浮かんだが、軽くかぶりを振り自ら否定する。

 確かにあの果実はヘルヘイムの果実だった。嫌になる程に見飽きた忌々しい果実。見間違えたなどという事はあり得ない。触った感触、それを食そうとした天龍の魅了されたような表情、あらゆる要素がそう思わせる。

《そうですか。何故そうなったかわかりませんが、その原因も含めて調査は進めさせて頂きます。まあ、あんな状態でどこまで正確な調査ができるかはわかりませんけど……っ痛たた》

「ん?どうかしたか?」

《あ、いえね。受け取った果実が枯れてたもんだから運んできた島風ちゃんに「寄り道でもしてきた?」なんて冗談めかして言ったら、思いっきり脛を蹴られちゃいまして……彼女は自分の速さに強いプライドを持ってますからね。それを茶化すのはよくなかった。女性はうんと褒めないとダメですよねぇ。貴虎さんも気を付けて下さい》

 ハハハと笑いながら、横須賀提督は軽い様子で言う。電話口の後ろから呆れた様子の女性の溜息が聞こえた。おそらく秘書艦の赤城のものだろう。

「そうか……まあ、覚えておこう」

《あ、すみませんが、夷提督に変わってもらえますか?少しお話しておきたい事がありますので》

「ああ」

 そうして目の前の提督へ向け受話器を返す。

 夷提督が電話をしている間、貴虎は昨晩から今朝に至るまでの不可解な出来事について、考えを巡らせていた。

 浜辺にて見つかったと思われるヘルヘイムの果実。突如として現れたDJサガラとその証言。横須賀へと送られるまでに枯れてしまっていた果実の謎。全ては何らかの形で繋がっているように思われる。だが、その因果をハッキリとさせるための情報は限りなく少ない。

「貴虎」

 と、通話を終えた提督が声を掛けてきた。我に返った貴虎は彼の方を見やる。

「果実の分析については、お前が聞いた通りだ。それと対策についてだが、万一に備え同封しておいた写真がある。ヨコを通して全司令部にそのデータのコピーを送るそうだ。それを見つけ次第報告するようにと命令を加えてな」

「そうですか」

「余計な混乱を避けるため果実本来の性質については、一部の者以外には秘匿するらしい。俺らにも無暗に他言するなとの通達があった」

「確かにその方が良いかもしれません」

「それと貴虎、何かあったらしいな」

「……え?」

 提督の一言に貴虎は一瞬、戸惑いの表情を浮かべる。

「話したくないなら無理して話さなくても良いがな」

 全てを見透かすかのような提督の洞察力に、若干たじろいだ貴虎であったが、少し迷った後に、昨夜のDJサガラとの出来事について話を始めた。信じがたい話ではあろうという思いもあったのだが、そのような危惧など今更だろうと判断して。

 

「……なるほどな」

 黙して貴虎の話を聞いていた(えびす)提督は、一通り話が終わると腕組みをして軽く目を閉じた。

「そのサガラとかいう男の話、どこまで信用して良いかは分からないが、一考の価値はありそうだ」

「……疑わないのですか?私の話を」

 拍子抜けする程あっさりと貴虎の話を受け入れた提督に、貴虎は思わずそう口にしていた。

「普通なら信じがたい話かもしれんが……決め手はお前の目だ」

「目、ですか?」

「その目は嘘を言っている目じゃない。それに、冗談でそんな事を言う性格でも無いだろうしなお前は。加えて、妙な出来事には昔から慣れているんだ俺は」

「それならば」と貴虎が今後の対策について話し合おうとした時、提督は少量の書類の束を彼に差し出した。

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……と、以上がこの施設の設備の全てです。何かご質問は?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか。では私はこれで」

 そう告げると作業着姿の職員は、その場を立ち去った。貴虎は一人、施設内を歩き出す。

 

 

「……旅行?」

「基地の施設を見て回る事の通称だ。本来なら艦娘の一人でも案内に付けるんだが、生憎、今の時間は皆用事があってな。まあ、気ままに一人旅というのも悪くないだろう」

「ですが我々の方でも、何かしらヘルヘイムについての対策を立てるべきでは?」

「今の状況で出来ることなんざ、たかが知れてる。焦る気持ちは分からんでもないが、気分の切り替えも必要だ」

 と、半ば流されるように貴虎は、提督から書類を受け取った。そこには基地内の施設についての簡単な概要と、全体の見取図が記されていた。

 

 そんなやり取りを経て、貴虎は一人で基地内の施設を見て回っていた。

 既に訪れていた入渠施設の他、様々な装備等を開発する工廠、弾薬・燃料などの補給施設、武装や資材を集めた倉庫と改装施設、その他、日常生活に利用される施設など、それぞれ規模は小さいながらも、多種多様な物が揃っていた。

 そして基地内には、艦娘以外の職員も相当数働いているのがわかった。

 貴虎の事情については、多少なりとも知らされていたらしく、皆、快く案内や説明に応じてくれていた。

 横須賀提督が言っていたように、彼らの中にも異世界から迷い込んだ人間がいるのかもしれない。

 とは言え、それをこちらから尋ねるのも無粋だと思われたので、貴虎は敢えてそれを口にする事は無かった。

 

(ここが最後になるな)

 貴虎がたどり着いた施設、そこは巨大な体育館のような様相をしている。

 案内図によると、この施設は演習場らしい。作戦司令室のある本館や、宿舎等の施設からは大分離れた場所にあり、その周囲は、木々が鬱蒼と生い茂る森に囲まれていた。

 演習場の中からは時折、砲撃音や訓練に励む艦娘の声が微かに聞こえてくる。

「皆、頑張っているのだな」

 そう呟きつつ、貴虎は演習場へと足を踏み入れた。

 

 演習場内は砲撃訓練、航行訓練など、多岐に渡った訓練が行える設備が整えられており、それぞれの施設で艦娘達は、思い思いに訓練をこなしていた。先ほど司令室を後にした夕張の姿も、そこに見られた。

 彼女は真剣な表情で砲撃訓練を行っており、後ろから様子を見ていた貴虎に気づく事もない程に集中していた。

 そんな彼女を尻目に貴虎は、その場を後にし、更に施設内を巡っていった。

 

「ここは、弓道場か?」

 その後、貴虎がやってきた施設は弓道場のようであった。

 しかし、そこは通常の弓道場とは異なった構造になっていた。

 その最大の違いは、射場から的までの異様な距離、そして本来なら、砂などが敷き詰められているはずの的場に満たされた大量の水である。恐らくこれも深海棲艦との戦いに関係のあるものだと推察できたが、知識の乏しい貴虎には、その構造の理由が分からなかった。

 と、足元へ目を向けると、何やら紙切れが落ちているのが目に入る。貴虎は、かがんでそれを摘まみ上げ観察する。

「この形は、飛行機か?随分と簡略化されてはいるが」

 周囲を見渡すと、用具置きと思われる棚が目に入る。どうやら飛行機を模したような紙切れは、そこから飛んできたらしい。貴虎は手にとった紙切れを、その棚へと置く。そこには多様な形の飛行機型の紙と一緒に、巻物のようなものが置かれていた。弓道場には似つかわしくないその物体に首を傾げつつ、貴虎はその場を後にした。

 

 弓道場を出て歩いていると、廊下の向こうから一人の女性がやってくるのが見えた。

「あら、貴虎さん。おはようございます」

「おはようございます、鳳翔さん」

 二人は頭を下げ挨拶を交わす。

「もしかして“旅行”ですか?」

「はい、提督にそうするよう命じられまして。鳳翔さんは何を?」

「私は訓練です。この先の弓道場に」

「弓道場にですか。艦娘と弓道とは関わりの深いものなのですか?」

「そうですね、私みたいなタイプの空母の艦娘とは、切っても切れない関係です」

 空母の艦娘と聞いて、貴虎の脳裏に横須賀で出会った赤城の姿が浮かぶ。彼女は正規空母の艦娘との事だった。

 彼女の装いは思い返してみると、確かに弓道を嗜む者のそれであった。

「もし興味がおありでしたら、見ていかれますか?」

 と鳳翔が提案をしてきた。確かに空母の艦娘の訓練、弓道との関わりに気になる所はあったが……

「いえ、早いうちに施設を全て見て周りたいので、今日は遠慮させていただきます」

「そうですか」

「次の機会があれば是非。提督も鳳翔さんの技術を大変褒めてらしたので、実際に見られる時が来るのが楽しみです」

「提督が、ですか」

 その言葉を聞いた時、鳳翔の顔が少々赤みを帯びたようにも見えた。が、彼女はすぐにかぶりを振り「では失礼します」と頭を下げる。そして、いそいそと弓道場へと向かっていった。

 鳳翔の背を暫し見送った貴虎は、踵を返すと次の目的地へ向けて歩みだした。

 

「ここが最後の部屋か」

 貴虎の目の前には、大きな金属製の扉があった。その傍には“武道場”と書かれた札が貼られている。

 金属音を、ギギギと響かせながら開く扉を潜り抜け、足を踏み入れると、そこには広大な空間が広がっていた。

 世界大会などを行うレベルの競技場と見まごうほどの部屋では

「オラオラ!ビビってんじゃねぇぞ!もっと腰を入れて振れ!」

「は、はいっ!」

 と、声を上げながら、木刀を構えた天龍が、吹雪に対し剣術の稽古らしきものを行っていた。

 壁際には、同じく木刀を片手に持った陽炎と不知火が立っており、天龍と吹雪の様子を見ながら時折言葉を交わしているようであった。

 武道場の中央で吹雪は、おぼつかない手つきで以って木刀を打ち付ける。対して天龍は、それを容易くいなしていく。

「たあぁぁぁぁ!!」

 暫しの打ち合いの後、吹雪が雄叫びを上げ、大きく木刀を振り上げ、天龍へ向け突撃する。

 力一杯に振り下ろされた木刀を天龍は、スッと横に半歩ずれて難なくかわす。

 渾身の一撃を空ぶった吹雪は、大きくバランスを崩し、そのまま前方へとつんのめり、盛大な音と共に床へと倒れ込んでしまった。彼女の手から離れた木刀が、カラカラと音を立てて転がる。

「おいおい、そんなバレバレの動き、ガキんちょでも簡単に見切っちまうぞ」

 半ば呆れ気味に天龍が言う。

「す、すみません」

 息を切らせながら吹雪は、フラフラと立ち上がる。

「夜戦じゃあ、敵と鼻っ面突き合わせて戦うことだってあるんだからな。気合い入れてけ!」

「は、はい!」

 木刀を拾い上げると吹雪は、再度天龍に対し挑みかかっていった。

 その様子を見ていた陽炎が、不知火に話しかける。

「いくら夜戦は接近戦が多いって言っても、毎度毎度剣術の稽古ってのもねぇ」

「剣術は相手の動きを読み、回避・攻撃に転じる適切なタイミングを図る良い訓練だと思います。真面目に取り組んで損は無いかと」

 目線を正面に向けたまま、小声で不知火は陽炎に応じる。

「確かにそうかもしれないけど、刀を持って出撃するの天龍さんぐらいじゃない。私たち駆逐艦は、そんなの持ってく余裕なんて無いわよ」

「砲が壊れた時に、それを使って殴りつけるのに役立ちます」

 表情を変えずに不知火は、さらりと言う。その様子は冗談を言っているようには見えない。

「不知火って、大体は物静かで理性的な感じなのに、妙な所で何というか、バイオレンスよね」

 短く溜息を吐きつつ陽炎が言った。と、その時、木刀が床を転がる音が再び響く。

 その方へ目を向けると、吹雪が先程よりも盛大に、すっ転んでいる様子が見えた。

「うう……」

「まあ、こんなもんか。さっきよりはマシになったけど、まだまだだな」

 天龍は担ぐように肩に木刀を乗せ、トントンと上下させる。そして、クルリと回れ右をすると、木刀の切っ先を陽炎たちの方へ向けた。

「次はお前らの番だ。チマチマ一人ずつ相手するのは面倒だ、二人一緒に相手してやる。かかってきな!」

 天龍の言葉を受けて、陽炎と不知火は顔を見合わせる。

「ああ言ってるけど、どうする?」

「お言葉に甘えさせていただきましょう」

「フフッ、そうね。遠慮せず、キツイの一発打ち込んでやるわ」

「陽炎も、あまり人の事は言えませんね」

「知らなかった?私、やるときは思いっきりやる女なのよ」

「よく存じてます」

 言いながら木刀を構えると二人は、余裕の笑みを浮かべている天龍へ向け飛びかかっていった。

 

「痛たたた……」

 おぼつかない足取りで歩いてくる吹雪に対し、貴虎は声をかける。

「精が出るな」

「た、貴虎さん!?」

 目の前にいた貴虎の存在に初めて気づいた吹雪は、狼狽した様子であった。

「も、もしかして見てたんですか?」

「ああ」

「そ、そうですか。恥ずかしい所を見られちゃいましたね」

 顔を赤くしながら、照れ隠しするかのように笑う吹雪。

「恥じる必要はない。懸命に訓練するのは良いことだ。それと、艦娘も武芸に勤しむのだな、勉強になった」

「アハハ、これは、ちょっと変わった訓練なんですけどね。普段はもっと実戦的な、砲撃とか航行の訓練をしています」

「そうか。だが、これなら私にも出来そうだ。すまないが、それを貸してもらえるか?」

 貴虎は、吹雪の手にした木刀を指差す。

「これですか?良いですけど」

 吹雪から差し出された木刀を貴虎は受け取り

(少し体を動かしてみるのも悪くない)

 貴虎は、両手で木刀を構えると、手慣れた動きで素振りを開始した。

 

「はあああっ!」

 陽炎が、袈裟斬りに木刀を振り下ろす。天龍は木刀でそれを軽く受け止めつつ、滑らすように横へと陽炎の太刀筋を受け流す。

 それによりよろめいた陽炎に対し、天龍が軽く足払いをかける。足を引っ掛けられる寸前に、陽炎は小さく跳ね、何とかそれをかわすが、着地の瞬間に、ドンと背中を押されてしまう。バランスを崩した陽炎は、そのまま倒れこみ、床をゴロゴロと転がっていった。

「はっ!」

 天龍が陽炎を倒した瞬間を見計らい、不知火は天龍の背中めがけて、木刀を思いっきり叩き付けようとした。

「来ると思ったぜ」

 ニヤリと笑みを浮かべ、ボソりと呟いた天龍は、陽炎の背中を押した勢いそのままに、自らの体を床に投げ出す。

 陽炎の後に続くように、天龍の体が床を転がる。天龍に向け放たれた不知火の一撃は、空を切り、力一杯に振られた木刀が床を激しく打ち付ける。その衝撃に手が痺れた不知火は、思わず木刀を取り落としそうになる。しかし、どうにかそれに耐え、不知火は反撃の体制を整えようとした。次の瞬間、不知火の眼前に木刀の切っ先が突きつけられた。視線を上げるとそこには、したり顔の天龍が立ちはだかっていた。

「参りました」

 不知火は木刀を床に置き、両手を挙げ降参の意思を示す。

「へっ、なかなかやるな。陽炎を囮にして突っ込ませて、不知火が俺の隙を付く。良いコンビネーションだ」

「お見通しでしたか」

「まあな、俺がお前らと同じ立場ならそうするかもしれないしな」

「あ~痛っ。ちょっとは手加減してくれても良いんじゃないですか?天龍さんの方が、剣の実力は上なんですから」

 後ろ手に背中をさすりながら、陽炎が近づいてくる。

「何言ってんだよ。強い奴に全力で向かって倒すのが、戦いの醍醐味じゃねぇか。そんな考え甘い甘い」

 そう言って得意気に笑う天龍。対して陽炎と不知火は、軽く肩をすくめていた。

 と、天龍の耳元に微かな風切り音と「わぁ~」という吹雪の感嘆が聞こえてきた。

「……ん?」

 天龍は、その方へ視線を向けた。

 

 腰を落とした姿勢から、両手で構えた木刀を逆袈裟に切り上げる。そして勢いを殺す事なく、即座に刀を返し横一線になぎ払いをかける。振り抜かれた刀はピタリと止まり、静止画のごとく微動だにしない。

 刀を正面に構えなおす。目にも止まらぬ速さで、前方に鋭い突きが繰り出される。そして、獲物に突き刺さった刀を引き抜くような動作を以て体をひねらせ、後方へ向け回転切りを放つ。正面へ向き直って更に切り下ろし、真横への切り払い、右下から左上へ突き上げるような、斬撃のコンビネーションが流れるように決まる。

 貴虎は振り上げた木刀を下ろし、軽く息を吐き出す。

 久々に剣を手にしたにも関わらず、以前と全く変わりなく体が動く事に、貴虎は軽く安堵した。

「ありがとう、良い運動になった」

 借り受けた木刀を、吹雪の前に差し出す。

「……凄い、凄いです貴虎さん!私、すっかり見とれちゃいました!あんなカッコイイ剣術見たの初めてです!」

 両手をギュッと握り締めた吹雪は、大変興奮した様子であった。

「いや、あの程度、大した事では無い」

「そんだけ良い太刀筋を見せつけといて、謙遜してんじゃねぇよ。逆にイヤミに聞こえるぜ」

 そう言いつつ天龍が近づいてきた。続いてくる陽炎と不知火は、どこか驚いた表情を浮かべている。

「貴虎、お前剣術やってたのか?並の腕前でできる動きじゃねぇぞあれは」

 天龍が訝しむように尋ねてくる。

「……ただの護身術の類だ」

「護身術ねぇ、それにしちゃ、随分と戦い馴れた感じに見えたけどよ……」

 顎に手を当てて天龍は、貴虎の体を品定めをするかの様に、首を上下に動かしてジロジロと見やる。

「ま、いいか。それよりも……」

 と、言うと天龍は、目を輝かせながら木刀を貴虎の前に突き出した。

「オレと手合わせしようぜ!あんな剣舞見せられちゃあ、体が疼いてたまんねぇ!」

「……いや、それは」

「なんだよ、オレじゃ相手にならないってか?」

「そういうわけでは無いのだが……」

 貴虎が木刀を振ったのは、あくまで軽い運動と、体の調子を確認するためのものだった。

 そして、異常は全く無いことがわかったので、手合わせを断る道理はなかったのだが

「……」

 貴虎は天龍の問いかけに対し答える事も無く、ただ黙してしまっていた。

「天龍さん、貴虎さんは病み上がりです。無理を強いるのは良くないかと」

 天龍の申し出を渋り沈黙する貴虎の様子を見て、そういう理由だと察したのか不知火が声をかけた。

「え~大丈夫だろ、あんだけの動きが出来てたんだから。ちょっとだけでいいから付き合ってくれよ~、な?」

 なおも食い下がり懇願する天龍。それに対し、貴虎が口を開きかけた瞬間

「な~に天龍ちゃん、随分と楽しそうねぇ」

 後ろの方から声が聞こえてきた。貴虎が振り返ると、入口付近に龍田の姿があった。

 龍田はゆっくりと、天龍の元へ近づいて来る。その顔には、にこやかな笑みが浮かんでいたが、彼女の纏っている雰囲気は、穏やかとは言い難いものであった。その異様さを感じ取った吹雪と陽炎は、思わず身震いをした。

 傍目には、冷静な表情でそれを見つめている様子の不知火、彼女の頬に一筋の汗が流れ落ちる。

 貴虎と天龍は、龍田の様子に特に感じる事も無いのか、平然としていた。

「龍田からも言ってくれよ、貴虎にさ。オレに付き合ってくれって」

 その言葉を聞いた龍田の眉が、ピクッと揺れた。

「ダメよぉ、そろそろお昼の時間なんだから」

 龍田は笑顔でそう言うと、自らの腕を天龍の腕に絡ませる。

「さぁ食堂に行きましょうね~」

 そのまま天龍を引きずるようにして、早足で歩きだした。

「ちょ、ちょっと待てよ。そんなに引っ張るな!あ、貴虎!今度はちゃんと付き合えよ!絶対だからな!って痛ッ!そんなに強く絞めるな!」

 と、言い残しながら天龍は、龍田に連れられていってしまった。

 そして、入れ替わるように、訓練を終えた夕張が武道場へと入ってくる。

「なんか、龍田から異様な空気が漂っていたように見えたんだけど、何かあった?」

 夕張の問いに、吹雪と陽炎は身震いをし、不知火は無言で目を伏せ、貴虎は

「さあ、何だったのだろうか」

 と不思議そうな表情をしていたのだった。

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