『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
貴虎の眼前で、怪物と化した我が子に腹を貫かれる母親。その身体はドシャリと音をたて、力なく地面に倒れ込んだ。
その光景を目にした人々は、恐怖の叫びを口にしながら、我先にと逃げ出していく。が……
人の群れ目がけて、燃え盛る火球が飛来した。その爆発に巻き込まれ、人々は一瞬にして吹き飛ばされる。
ある者は爆散し、ある者は壁に激しく叩きつけられ、ある者は火炎に包まれ悶え狂い、絶命する。
貴虎は見た。地平線を埋め尽くすほどの、人型の怪物の群れが近づいてくるのを。
そして、それを先導するように歩く人物の姿を。
黒のスーツを身にまとったその人物は、貴虎を一瞥し、ニタリと笑みを浮かべると、瞬時にその姿を変化させた。
一瞬にして緑と白の、軽装鎧のような装甲を身に纏ったその人物は、手にした弓を引き絞り、天へ向け光の矢を放つ。
放たれた光の矢は、上空にて弾けると、逃げ惑う人々に向け容赦なく降り注いでいった。
思わず目を覆いたくなる、地獄のような光景。そんな中に佇む貴虎の頭上にも、光の矢が降りてくる。
貴虎は矢を放った男を見据えながら絶叫した。
「もうやめろ!光実ぇ!!!」
窓から射し込む朝日が、貴虎の顔を照らしだす。その眩しさに思わず顔をしかめる。
額を押さえつつ、室内をゆっくりと見渡す。必要最低限の備え付けの家具、書類の置かれた机。そして、窓辺には茶色の植木鉢。
「……夢、か」
貴虎は、安堵の溜息をはいた。
貴虎が提督見習いとして着任してから、一週間が過ぎた。
その間、艦娘の運用法、深海棲艦の特徴と戦いの歴史、戦闘作戦立案や各種任務の遂行方法など、提督業に必要なあらゆる事を貴虎は学んでいった。
仕事は毎日至って順調、貴虎自身、特に苦もなく順調に技能や知識を習得し続けている。
深海棲艦の活動も目立ったものは無く、戦闘らしい戦闘も起こっていない。
艦娘達との信頼関係も良好に築けつつあり、提督見習いとしては、順風満帆と言える日々を過ごしていた。
また一方で、ヘルヘイムの果実についての情報と、それに関する対応策が横須賀鎮守府から関係各所へ通達された。
果実の性質については、無用な混乱を避けるため詳細は秘匿され、新種の猛毒植物という触れ込みで情報は広められた。
しかし、今の所有力な情報は無く、貴虎自身、あの果実は見間違いだったのではないかと時折思ってしまう事もあった。そしてそのたびに都合のいい現実逃避をしているのではと思う事も。
だが、部屋に鎮座する鉢植え、サガラとの邂逅を思い出すと、この世界にヘルヘイムの脅威が存在しないなどとは言い切れない。
心に巣食う不安を払拭するように、貴虎は仕事に打ち込み続ける。仕事に集中している間は余計な事を考えずに済んだ。
しかしながら、彼の心は完全に安らぐことは無かった。連日見続ける悪夢が、貴虎を苦しめる。
いつしか彼に芽生え始めた二つの思いが、感情が、精神を揺さぶりだしていた。
「報告は以上です。書類の確認をお願いします」
一日の業務を終えた貴虎は、提督へ報告書の束を手渡す。提督は無言でそれを受け取ると、一枚一枚その内容を確認していく。紙の擦れる音が、静かな部屋に響き渡る。時刻は間もなく二十一時を回ろうとする頃だ。
「よく眠れていないみたいだな」
書類に目を通したまま、提督が呟く。
「目元に微かだが隈ができている」
貴虎は思わず目元を押さえる。洗顔等で鏡を見る機会はあったが、自分では特に気にも留めていなかった。
「……そうですね」
貴虎が答えると、提督は目を通し終えたのか、書類を机の上に置く。そして、一言告げた。
「まあ、一杯付き合え。こんな時間ではあるがな」
コンロの上のやかんを手に取り、沸騰したお湯をステンレス製のコーヒーポットへ移す。
そしてペーパーフィルターに入った粉へと、少量のお湯を注ぐ。お湯を吸収したコーヒーの粉が少しずつ膨らみ、ムクムクと盛り上がっていく。それと共に、芳醇なコーヒーの香りが部屋の中に漂いだす。
十分に蒸らされた所で“の”の字を描くように、少しずつお湯を注いでいく。フィルター、ドリッパーを通じて豆の味をギュッと凝縮させた、焦げ茶色の液体が、ティーポットへと少しずつ満たされていく。
「悪いがミルクや砂糖は常備していない、ブラックでも構わないか?」
「大丈夫です」
手馴れた様子でコーヒーを注ぐ提督に貴虎は答える。
二人分の量が溜まった所で、ドリッパーを外し流し台へ。そして傍らにあるカップにコーヒーを注ぎ貴虎へ手渡すと、提督は自らも片手にカップを持ち、器用に車椅子を動かし机に移動した。
貴虎は軽く会釈をし、コーヒーを一口飲む。
苦味、酸味のバランスが整っており、豆の味がこの上なく引き出されている。その香りも申し分ない。
これ程までに完成された美味いコーヒーを飲んだ覚えは、貴虎には無かった。
「素晴らしい味のコーヒーです」
「気に入ってもらえて何よりだ」
言うと提督もコーヒーを口にする。
そして暫しの間、静寂が部屋を包み込む。
「一つ、お聞きしたいことがあります」
と、貴虎がその沈黙を破った。
「……昔の話を耳にしました。あなたが輸送船護衛の艦娘達の指揮を、見事に執られた事を。
貴虎は一瞬の逡巡の後、一つの疑問を口にした。
「いや、俺は軍事に関しては素人だ。今は、そうでもないがな」
「それであの戦果を?」
「情報の整理には慣れていたからな、職業柄」
「以前は何をされていたのですか?」
「ここに来る前に最後にやった仕事は……人攫いってとこだな」
思いがけない一言に、貴虎は目を瞬かせる。すると提督は、フッと軽く笑い
「冗談だ」
と口にし、カップに僅かに残ったコーヒーを飲み干した。
「俺からも一つ聞かせてもらおうか。……何を悩んでいる」
「…………」
その問いかけに沈黙する貴虎。部屋には再び静寂が訪れる。
暫しの時が過ぎ、提督が口を開く。
「不安や悩みは、一人で抱え込み続けると心を蝕み、時には腐らせる。ただそれを口に出すだけで大分違うもんだが……まあ、無理強いをするつもりは無い。話す気になれないのなら、それでも構わんがな」
「……このところ私は、毎晩悪夢を見ています」
自らの思いを口にする事に迷いがあった。それを言葉にするのは、何か憚られる気がした。
しかし、この人物になら話しても構わない。いや、話しておきたい。そう思わせる雰囲気、ある種の頼もしさのようなものが、夷提督からは感じられた。
貴虎は、連日見続ける悪夢の内容について、夷提督に打ち明けた。そして……
「私は、一刻も早く元の世界に帰るべきなのかもしれない。こうしている間にも、オーバーロード、そして……私の弟が世界を恐怖に陥れているとしたら、それを止めるのが私の義務であると思っています。その為に、何としてでも元の世界へと帰る手がかりを探し出すべきだとも。ですが、この世界にもヘルヘイムの脅威が訪れている可能性があります。それに立ち向かう義務も、私は果たすべきであると思っています。命を救ってもらった恩もあります。それには報いなければならない。為すべきことを為さずに元の世界へ帰るなど、すべきではないと思います。しかし……」
そこまで告げて、貴虎は黙してしまう。
「それまでに元の世界がどうなっているか心配、ということか」
提督の言葉に貴虎は、頷くこともせず口を結んでいた。
提督は一瞬、顎に手を当て思案するような仕草をすると、貴虎の眼を見据えて言った。
「貴虎、お前はどうしたいんだ?」
「それは……私がすべきことは……」
「違う。何をすべきかじゃない、何がしたいかだ」
「何が、したいか?」
「お前は俺や部下の娘達に恩を返すことに義務を感じているようだが、そんな必要は無い。仮に、今すぐに元の世界に戻ったところで、誰も文句なぞ言わんだろう」
「ですが、ヘルヘイムの果実の件があります。それに対処しなくては」
「だとしても、それはこの世界の問題だ。お前が関わる義務は無い」
「…………」
静かだが力強い夷提督の物言いに、貴虎は返す言葉が無かった。
提督は更に続けた。
「貴虎、何でも一人で背負い込もうとするな。人間ひとりが出来る事なんざ、たかが知れている。完璧な人間なんていないんだ。そして、人にはいずれ、嫌でも決断をしなけりゃならない時が来るものだ。突然にな。その時まで、今の自分に出来る事をやっておけ、悔いの無いようにな」
「……はい、ご鞭撻ありがとうございました。ごちそうさまです」
飲み終えたコーヒーカップを置き、貴虎は立ち上がる。
「では失礼します」
「……ちょっと待て」
踵を返し退室しようとする貴虎を、提督は引き止める。
「何でしょうか?」
「届け物を頼まれてくれ。渡すのを忘れていたんでな」
提督に頼まれた夕張宛の書類が入った大きめの封筒を持って、貴虎は艦娘達の住む寮の廊下を歩く。
大半の者が就寝しているせいか、建物の中は静まり返っており、部屋の明かりも殆ど点いていない。
年頃の娘であれば、まだ起きて騒いでいてもおかしくない時間であったが、就寝が早いあたり、流石は軍関係の者達といったところであろうか。
渡された寮内の見取り図を頼りに、夕張の部屋へと進んでいると、廊下の先から一人の艦娘が歩いて来るのが見えた。
いや、言うなれば一人と数体が正しかった。
「島風か?」
「あっ、貴虎。どうしたの?」
貴虎の目の前で歩みを止めた島風は、彼を見上げつつ尋ねる。傍らにいる連装砲ちゃんも、同じような仕草をしていた。
「夕張の所に届け物があってな。島風こそどうしたのだ?」
「私も夕張の所に行ってたの。ちょっと用があって」
そう言う島風の手には、青い表紙のファイルらしき物が握られていた。
「そうか、偶然だな。……と、そういえば果実の運搬の件ご苦労だったな。朝早くから大変だったのではないか?」
「全然!そんなことないよ」
首を振って、快活に島風は答える。
「その日はすっっごく調子が良くてね、今までで一番早く横須賀まで着いたんだよ!」
一層明るく、興奮した様子で喋る島風。
「でも横ちゃん提督ってば、実が枯れるまで寄り道してたのかい?なんて言うんだもん。ひどいよね?」
と、口を尖らせて不満を言う島風を見て、彼女をからかったせいで、その怒りを買ったという横須賀提督との会話を思い出す。そういえば島風は速さに誇りを持っている艦娘だったなと。
「島風は自分の早さに、誇りをもっているのだな」
「うん!でね、海を早く滑るのが凄く大好きなんだ!でも駆けっこも誰にも負けないよ!貴虎も今度一緒にやろうよ!」
「そうだな、機会があればやらせてもらおう」
「ホント!?約束だよ!」
パァッと輝くような表情を見せつつ、興奮気味に言う島風。
すると、貴虎の後ろから別の声が聞こえてきた。
「あ~あ、そんな安請け合いしちゃって。大変だよ、普通の人間が島風と駆けっこするのは」
振り返ると、そこには頭の後ろに手を組んだ川内が立っていた。
「川内か。どうしたんだ、こんな時間に」
「あたし?これから夜戦訓練しようと思ってさ。一人でするのも張り合いがないから、夕張でも誘おうかなって」
「お前も夕張の所に行くのか」
「え、貴虎も?奇遇だね」
「でも夕張ちゃん、書類仕事に忙しそうだったよ?」
と島風。
「そっか~、じゃあ今夜もダメかな。……あっ、島風アンタ暇?一緒に訓練しようよ」
「え~~ヤダよ。もう部屋に戻って寝るとこなんだもん」
眉をひそめ、露骨に拒否する島風。
「そんなこと言わないでさ、夜戦しよ!フットワークを磨くために、夜の駆けっこしたっていいしさ」
駆けっこ、という言葉を聞いた瞬間、島風の頭がピクリと動く。連動して頭についている髪飾りも、ピクピクと動きをみせる。その様子は髪飾りの形状もあってか、ウサギが耳を動かす様を連想させた。
「駆けっこ!?うん!やる!!」
「よーし!それじゃあレッツゴーーー!」
そうして二人(と数体)は、出口の方へと勢いよく走り出していった。
「無邪気なものだな」
二人の背中を見送ると、貴虎は再び夕張の部屋へ向けて歩を進めだす。
目的の部屋の前にたどり着いた貴虎は、部屋の扉を軽くノックする。が、暫く待っても反応は無い。
島風が先程まで訪れていたので、不在ということは無いはずだった。仮に部屋を出たとしても、この場所から先程の廊下までは一本道、必ず途中ですれ違うはずだ。
(もしや寝てしまったのか?)
との考えがよぎったが、念のため貴虎はもう一度ノックをした。
(これで出てこなければ改めて出直そう)
すると次の瞬間、扉が勢いよく、バンと音をたてて開かれた。
――――――――――――――――――――――――――――――
最早我慢の限界だった。
連日連夜、決まってこの頃合いに、川内が部屋へやってきていた。“夜戦”彼女にとっては魅惑の言葉かもしれないが、自分にとってはそうではない。逆に彼女のせいで、忌むべき言葉となりつつあるほどだった。
自分にはやる事がある。決して暇なのではないのだ。
やんわりと、そんなニュアンスを含めた言葉で断っても
「そんなに根つめてちゃダメだよ?息抜きに体動かそ?夜戦しよ!」
などと、しつこく食い下がる始末。
以前、別の鎮守府で一緒の部隊だった時に、彼女の誘いに乗った過去の自分を、引っ叩いてやりたい衝動に駆られる。
あの時の軽はずみな自分の行動のおかげで、今も誘いを受け続ける羽目になったのだから。
だが昔は昔、今は今なのだ、冗談ではない。息抜きの仕方は人それぞれ。夜戦をして息抜きになるなんて奇人は、お前ぐらいなものだろう。
と、本音を叫びたくなるのをグッと押し殺し、追い返す日々が続いていたが、今日という今日は……
手にしていた筆記具を叩きつけるように机に置くと、ドアの前に立ち深呼吸。
勢いに任せてドアを開き、そこに立っているであろう人物に怒鳴りつけた。
「うるさい!!いっつもいっつも!!毎晩毎晩!!私にはやらなきゃなんない事があるの!!いい加減にして!!!この夜戦バ……カ?」
ドアの前に立つ長身の男は、怪訝な表情を浮かべつつ、目を瞬かせていた。
「……騒がしかったか。すまない、返事がなかったものでな。邪魔したのなら後ほど出直させてもらおう」
予想だにしていなかった人物の登場に、ポカンと口を開けて惚けていた夕張であったが、目の前の状況を理解すると、一瞬のうちにカアッと顔を赤く染めあげた。
「あ、あ、ご、ごめんなさい!私てっきり……ど、どうぞ、入って!」
手をバタバタと動かしつつ慌てふためく夕張は、貴虎を部屋へと招き入れる。
「ああ、失礼する」
部屋へと足を踏み入れる貴虎を目で追いつつ、夕張は後ろ手に扉を閉めた。
と、そこで夕張はハッとした。
(って!何で男の人を部屋に入れちゃったのよ、私ってば!)
夕張はそ~っと室内を見渡す。所々に書物や資料が散らばった乱雑な様は、とても人に見せられたものではない。
そんな所へ、男性を招き入れたことに対する恥ずかしさと情けなさで、夕張の顔は一層真っ赤に染まっていった。
(もうやだ、提督にだって、こんなみっともない所見せたこと無いのに……)
体を微かに震わせながら俯く夕張。
「島風から聞いてはいたが、こんな時間まで随分と熱心なのだな」
「えっ?」
顔を上げると、感心したような表情の貴虎の姿が目に映る。
「仕事に集中していたのだろう?邪魔してすまなかったな」
「べ、別に大丈夫よ!丁度一息つこうと思ってた所だし……そ、それとさっきの事は気にしないで。その、ちょっとした気の迷いってやつ?だから……さ」
「ああ、わかった。ところで、これは兵装のデータか?」
貴虎は散らばっていた書類の一枚を手に取り尋ねる。そこには、艦娘用の兵装の写真や様々な数値、それに加えて夕張が手書きで書いたと思われる文字が並んでいた。
「ええ、そうよ」
「様々な種類の兵装データが集まっているようだが、こういうものを集めるのは、工廠の人間の仕事ではないのか?」
「基本的にはそうなんだけど、私は通常の艦娘の仕事以外にも、兵装実験や研究開発関連の仕事も受け持ってるの。それが兵装実験軽巡の、私の役割だから」
「なるほどな。だが、こんな遅くまで大変だろう?私で良ければ何か手伝わせてもらうが」
貴虎の申し出に対し夕張は、手を横に振って答える。
「いいのいいの。半ば趣味でやってる所もあるから。気持ちだけ受け取っておくわ」
「そうか」
「ところで、こんな時間にどうかしたの貴虎?」
「ああ、これを提督から渡すようにと頼まれてな」
と言い貴虎は、手にした封筒を夕張に差し出した。
「そうだったの。わざわざありがとうね」
夕張はそれを受け取ると、中の書類を取り出し、目を通し始めた。
(……明石からのレポートか、中身は)
無言のまま書類を読みふける夕張であったが、次第に口の端からは、笑みがこぼれ出す。
レポートの内容に頭が刺激され、様々な思考が巡っていく。
(この前の対潜装備、私が使った時よりも性能が向上してるみたい。……改修の成果か。あっ!こっちは新型の連装砲のデータね。……命中精度と対空性能の更なる飛躍、より高性能の上位種への改修の可能性……)
「……うふふ、早く触ってみたいな」
「触ってみたいとはどういう事だ?」
その声に夕張はハッとし、書類に落としていた目線を正面に向ける。
目の前に貴虎がいたことを完全に失念し、書類を読みふけっていたのに気付いた夕張は再度顔を赤らめる。
どうやら、知らないうちに声まで出してしまっていたらしい。
「あ、う……ご、ごめんなさい!私ったらつい夢中になっちゃって!」
「いや、別に構わないが。それも兵装のデータに関する物なのか?」
「え、ええ、そうよ。横須賀にいる工作艦娘の明石から送られてきたレポート。私ってば、新しいデータとか研究成果を目にするとつい夢中になっちゃって……ハァ」
肩を落とし溜息をつく。
「……似ているな」
貴虎がポツリと呟きを漏らした。
「えっ?」
「いや、何でもない。ともかく、仕事に熱心なのは良いことだ。そこまで夢中になるとは、余程やり甲斐を感じているのだろうな」
「え、ええ、そうね。昔から開発とかデータの管理とかが好きだったし。やっててワクワクするんだ」
照れくさそうに頬を人差し指でかきつつ、夕張は答える。
「私の集めたデータが、新しい兵装の開発に繋がって、より強い装備が開発される。そしてそれが深海棲艦を倒すのに役立って、全線で戦う艦娘や、深海棲艦に苦しめられている人達の助けになっているって。そういう事を考えると凄く嬉しくて、誇らしい気持ちになるかな?……って何言ってんだろ。こんな事言うなんて、恥ずかしいわよね、アハハハ」
「いや、実に立派な考えだ。恥ずかしがる事などない」
「そ、そう?ありがと、そういって貰えると嬉しいかな……ってそういえば、さっき何か言わなかった?」
「ん?何がだ?」
「えっと、似てるとか何とか言ってなかったかしら?」
夕張が問うと貴虎は、若干バツが悪そうな表情をして
「聞こえてしまっていたか」
と言った。
「……以前の職場の、友……同僚に君が似ているような気がしてな」
「そうなの?」
「ああ、彼も様々な研究やデータ収集、新たな発見に目が無くてな。だから思わず口に出してしまったのだが……」
「なるほどね、そういう事か」
「だが、私の思い過ごしだったようだ」
「どういう意味?」
「……君の方が立派な考えを持っているという事だ」
「え~?それだけじゃ意味が分からないわ。もっと詳しく話してよ」
貴虎の発言の内容が理解できない夕張は、不満そうに口を尖らせる。
対して貴虎は、少々考え込むような様子を見せる。
「……どうかしたの?」
「いや、何でもない。そうだな……」
と言いつつ貴虎は、一呼吸おいて話を始めた。
「私は前の職場で、とあるプロジェクトを任されていた。話すと長くなるので詳細は省かせてもらうが、それが人類の、世界のためになると私は考え、誇りと信念を持って臨んでいたのだ。三人の仲間達と共に。……その内の一人、私が君に似ていると言った彼の研究は、プロジェクトの中核を担うものであった。彼も他の者達も私と同じ志を持って、プロジェクトに臨んでいた、と私は思っていた」
貴虎はそこで視線を落とし、瞳を閉じる。が、すぐに夕張の方に向き直り話を続ける。
「だが彼らは人類や世界のためではなく、己が野望を果たすために動いていたのだ。愚かにも私は、そんな彼らの真意に気付くことなく過ごしてきた。そして……裏切られた」
「裏切られた?」
「ああ、彼らの裏切りにあった私は……」
夕張の目には、貴虎の表情が話を続けていくにつれ、陰りを増していくように見えていた。
彼のそんな表情を目にするのは初めてだった。それを見ていると、何故だか自分も胸が締め付けられているような気分になる。夕張は固唾をのんで、彼から語られる言葉に耳を傾ける。
「崖から突き落とされた」
「え?」
予想だにしない一言に夕張は目を丸くする。そして暫しの沈黙の後……
「……ぷっ!あははははは!ちょっと貴虎ってば、いきなり何言い出すのよ!」
彼女はお腹を抱えて笑い出した。
「ま、真面目な顔して何を言うかと思ったら、崖から落とされたって!突然変な冗談言わないでよ」
笑い続ける夕張を、貴虎は黙して見つめていた。
「……ふっ、そうか。そうだな……悪かった、変なことを言って」
肩をすくめつつ、苦笑を漏らす貴虎。
「まあ、今のは……たとえ話とでも思ってくれればいい。結局のところ、私は彼らの裏切りによってプロジェクトとの関わりを絶たれてしまったというわけだ」
「ああ、たとえ話か。それもそうよね。要するに、その出来事が崖から突き落とされるくらいに衝撃的だった、ってことが言いたかったのかしら?」
「そんな所だ」
その説明に納得がいったのか夕張は、うんうんと頷いている。
「ともあれ、仲間や多くの人のために誇りをもって仕事をしている君を、彼と一緒にするのは忍びなく思ってな。さっきの発言はそういう意味だ。分かりにくかったようで、すまなかった」
「いいのよ、気にしないで。こっちこそ辛い思い出話をさせてしまって、ごめんなさいね」
「それこそ別に気にしなくていい。私は平気だ」
頭を下げようとする夕張を、そう言って制する貴虎。
「それにしても、ここは過ごしやすい所だな。心なしか、私が以前いた所より落ち着いていられる気がする」
「ありがと、そう言ってもらえると嬉しいわ」
「艦娘たちも職員の人々も皆、部外者である私に屈託なく接してくれている。ありがたい限りだ」
「もう、部外者だなんて言って。貴虎は私達の仲間でしょ」
「仲間?」
夕張の発言に対し貴虎は、当惑したような表情を見せる。
「え?」
と声を漏らし、夕張も戸惑いの表情を浮かべ沈黙した。
暫しの間、室内は沈黙に包まれる。その静寂を最初に破ったのは夕張の声であった。
「もしかして、嫌だった……かな?そう思われるの……」
彼女はおずおずとした様子で言う。
その声色と表情は、若干の憂いを帯びている様子であった。
対して貴虎は、首を横に振りつつ答える。
「いや、そんな事はない。寧ろ私の方こそ、そう言って貰えて光栄だ」
「そう、良かった!そんな事言うもんだから、もしかしたら嫌々ここにいるんじゃないか、って心配になっちゃった」
一転して、ぱあっと表情を明るくして夕張は言う。
そんな彼女につられるように貴虎もまた、微笑を浮かべたのであった。
するとその時、部屋に備え付けられた時計が、時刻を告げる音を鳴らし出した。
二人が時計を見ると、時刻は二十三時になった所であった。
「もうこんな時間か。そろそろ戻るとしよう。長々と話をしてすまなかったな」
「ううん、そんな事ないわ。むしろ良い気分転換になって良かった。わざわざ来てくれてありがとう」
そうして「おやすみ」と挨拶を交わし、貴虎は部屋を後にした。
「さ~て、続きに取り掛かるとしますか。データ今日中に、まとめちゃわないと」
大きく腕を伸ばして伸びをし「うん!」と頷いて気合を入れる。
そして席に着いた夕張は、再びペンを手に取り書類に向かい合う。
最初は貴虎の突然の来訪に、戸惑っていた夕張であったが、結局のところ、彼との会話は良い気分転換になった。
清々しい気持ちで仕事が続けられそうな気がした。
(……あ、そうだ。その前に、録画の設定しておかないと)
ふとそんな事を思い立つと夕張は、リモコンを手に取りテレビの電源を入れた。
いつも楽しみにしている、お気に入りの深夜番組の録画設定を確認する。
(うん、大丈夫ね。今日は三つ、全部設定完了してる)
翌日に出撃が無い日は、いつもリアルタイムで見ている夕張であったが、仕事に専念するために、今日は録画することに決めていた。見ようと思えば後で時間は、たくさん取ることができる。
ノリがいい時に仕事はまとめてやっておくのが吉だ。と考えての選択だった。
録画を終えた夕張は、そのままテレビを消そうとしたが、映っていた番組にふと目がいく。
それは芸能人のトーク番組だった。司会と思われるお笑い芸人の男性が、明るく無駄に大きい声で喋っている。
「本日は、思わずドン引きした異性に関するエピソード、というわけでやってきたんですけども、~~さんは何か身近なエピソードってありますか?」
ゲストの男性に声をかける。それを受けて話し始めたゲストは、有名な俳優であった。
夕張は、その男の出演した作品を見たことは無い。が、彼は度々女性関係で芸能ニュースに取り上げられる、演技というよりは、スキャンダル方面で有名な俳優であった。なのでその顔には見覚えがあった。
「ちょっと前に気になっていた女性がいたんだけど、まあなんて言うか、非常に女性らしい?家庭的なイメージのある子だったんだ。周りの人からも、妻にするならこの人って言われるぐらいにね」
「ほうほう」
芸人が大げさに相槌をうつ。
「それで暫くお付き合いして仲良くなって、その人の家に行く機会があったわけよ。飲み会の後にね。で、行ってみたら部屋が散らかり放題なわけ」
「は~、ゴミとか洗濯物が散乱してる感じですか?」
「いやそういうのは無かったんだけど、仕事の資料とか、それ関係の道具とか?彼女、仕事が忙しくて片付ける暇がないって言ってたんだけど、抱いていたイメージとの違いに、愕然としちゃってさ」
「ほ~、それはそれは」
「で、僕A型だから?そういうの気になるタイプで、結局二人で部屋の片づけをしたんだよね、その後」
「あ~、二人の愛を深めるつもりが、意外な展開になってしまったと」
「おまけに、その途中で仕事について良いアイデアでも浮かんだのか、一人でニヤついたりボソッと声を漏らしたりなんかしちゃってさ。正直そんなのを見せられちゃうとねぇ?でもって、彼女とはそれっきりってわけ。仕事に一生懸命なのは良いけどさ、そういう所はしっかり気を使ってもらわないとね?男としてはちょっと冷めちゃうよ」
「わかりますわかります。何ていうか、女子力が足りてないのを見せつけられると萎えてしまうって感じ?」
「そうそう」
「ハハハハハ」
「それでさ。その」
と俳優の言葉が途切れる。夕張がテレビの電源を切ったのだ。
そしてリモコンを持ったまま、室内を見渡す。机の上には資料が乱雑に並び、一部は床に落ちている。
本棚に収められた資料は、並び順や高さがバラバラで、適当に詰め込まれた様子が誰の目にも明らか。
その他、まとまりなく壁に掛けられた衣服、棚上の小物や生活雑貨も、片付いているとは言えない有様。
「……」
リモコンが、ゴトリと音を立てて机に置かれる。
「うう……」
両手で顔を覆った夕張のうめき声が、部屋に響く。
暫くそのままの姿勢で固まっていたが、やがてフラフラと立ち上がると夕張は、落ちていた資料などを拾い集め、机の上に置く。そして再び、お世辞にもしっかり片付いているとは言えない部屋を見渡すと
「あ~~~っ!」
と、嘆息混じりの苦悩の声を上げ、ベッドにうつ伏せの姿勢で倒れ込んだのだった。
ふぅ、と息を吐いて、寝間着に着替えた貴虎はベッドに座り込んだ。
この異世界に迷い込み、昏睡していた時期を含めると、ひと月が経過しようとしている。
誰一人として、自分が知る者がいない世界にいても、貴虎は孤独感を感じてはいなかった。
むしろ沢芽市にいた頃よりも、満ち足りた気分になる時すらあった。
貴虎が直面する問題は、未だ何も解決してはいない。
だが、それに対する焦燥感は、少し前に比べると大分和らいだように思える。
「仲間……か」
そう呟くと貴虎は、部屋の明かりを消し、床に就いた。
その夜、貴虎が夢を見ることは無かった。
――――――――――――――――――――――――――――――
午後のティータイムの頃合いも過ぎ去り、厨房は夕食の準備で慌ただしくなり始めていた。
そんな音が響いてくる食堂の一角で、夕張はテーブルに突っ伏していた。
「はぁ……」
と溜息をつく。
昨晩は、あれから仕事も何も手につかず、結局眠ってしまった夕張。
起床後すぐに思い立ち、部屋の片づけを始めるものの、様々な事に気がとられ上手く整頓できず。
更にはボヤボヤしていたせいで、日課の砲撃訓練にも遅刻。砲撃の命中精度も散々なものだった。
(何よ、あんな女性にだらしない三流役者と、くだらない芸人の言った事なんて気にしなくていいじゃない!どうせあんなデリカシーの無い事言うヤツらは今頃炎上してるハズよ!それに、貴虎が同じように思ったとは限らないし……)
と、心の中で何度も自分を励ましてみる。が、自分の部屋の惨状、そしてそこへ、異性を招き入れたことに対する恥ずかしさと後悔に、夕張は苛まれ続けていた。
「ハァ……私って女子力無いのかなぁ……」
再び大きく溜息を漏らす。
「夕張さん、どうかしたんですか?」
と背後から声がする。
夕張が振り返ると、そこには陽炎と黒潮が立っていた。二人の手には小さな籠。
「え、ああ、何でもないわ。気にしないで。ところで二人ともどうしたの?そんなの手にして」
「これから森に木苺を取りに行くんです」
「木苺?どうしてまた」
「これやで、夕張はん」
黒潮が夕張の目の前に、雑誌を突き出した。それは例の鎮守府発行の広報誌であった。
そのページをパラパラとめくり、とあるページを黒潮は開く。
そこには色鮮やかで、写真で見ても美味しそうな様の伝わってくる、パイケーキの写真が載っていた。
ページの傍らには、灰色がかった長い黒髪を赤いリボンで結わえた少女が、照れくさそうにはにかんでいる写真が。
彼女は横須賀鎮守府の甘味処『間宮』で働いている給糧艦娘の伊良湖であった。
記事によると、パイのレシピは彼女考案のものらしい。
「これって……」
「龍田さんが買ってきたベリーパイのレシピです。とは言っても、お店で出しているのとは少し違って、素人にも簡単に作れるように、アレンジされているみたいなんですけど」
「もしかして、それ作るの?」
夕張の問いに頷く陽炎。
「本当は鳳翔さんに頼んでみようかとも思ったんですけど、他のお仕事もあるのに頼むのは悪いかなって……」
「せやからウチらでやる事にしたんや」
「ふ~ん、そうなんだ」
「それで作ろうとしたら、肝心のベリー系の果物の備蓄が無かったんです。そしたら……」
「ウチ、昨日散歩している時に、木苺が生ってる所を見つけたんを思い出してな。それ使えば出来る思うて、採り行ことしてた所なんです」
「なるほどね……!?」
と、何気なく記事を眺めていた夕張の目が、ある一文に釘付けになる。
〔お店の商品とは違う味付けと食感になっていますが、お菓子作りの初心者の方でも作りやすいレシピに改良してありますので、みなさん是非作ってみてください。お菓子作りで女子力アップですよ!〕
(女子力アップ……)
真剣な眼差しでページを凝視する夕張。
ページを見つめたまま微動だにしない彼女の様子に、陽炎と黒潮は怪訝な表情をしていたが
「じゃあ、私達は行ってきます。上手くできたら、夕張さんにもお裾分けしますね」
「ほな、行ってきます」
と告げ、その場を後にしようとした。
「待って!私も行くわ!」
突然夕張が発した大声に、ビクッと肩を震わせる二人の駆逐艦娘、その様子を見て自分の声の大きさに気付き、少々顔を赤らめる夕張。照れと動揺からか、手をあたふたと動かしつつ
「その、ほ、ほら、二人だけじゃ何かあった時危ないし、駆逐艦の嚮導は軽巡の役目だし……ね?」
取り繕うように早口でまくし立てた。
そんな夕張の態度に、顔を見合わせる陽炎と黒潮であったが、断る理由もないのでこれを了承。
かくして三人は、基地施設の裏手の森の中へと赴いていった。
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激しい波が岸壁に打ち付ける。
荒々しくうねりをあげる海は、海岸線にあるもの、不用意に近づくもの、様々のものをを飲み込み、そしてその内に巻き込んだものを吐き出す。そんなサイクルの中で、激しい波しぶきと共に岸壁の上へと、黒い大きな物体が打ち上げられた。
大型の魚、もしくは小型の鯨か何かと見まごう、黒ずくめのその物体には、不気味な歯と小さな足のような物が生えていた。海に潜む忌むべき脅威の一つ、深海棲艦の駆逐イ級であった。
だが、陸へと打ち上げられたそれは、風にあおられ微かに揺れるのみで、自ら動き出す様子は無く、身体は完全にその活動を停止していた。
もはや、朽ち果てるのを待つのみとなった駆逐イ級であるが、その残骸には奇妙な点があった。
駆逐イ級の全身には、植物の蔦のような物が絡みついているのである。それは海を漂っていた蔦の切れ端が偶然絡まった、などという単純なものではなく、誰がどう見ても蔦は明らかに、駆逐イ級の内部から“生えている”としか言いようのない有様であった。そしてその蔦には、色鮮やかな紫色の果実が数多く実っていたのである。
曇天の下、バタバタと羽音を響かせながら、何かが駆逐イ級の残骸へと近づいてきた。
吹き荒れる風の中を、黒い羽根を以ってバランスをとりながら飛んできた番いのカラスが、駆逐イ級の残骸の上に降り立つ。カラスは、カァと一鳴きすると、そのくちばしで器用に蔦をついばみ、やがて果実を引きちぎった。
そして、錠前の掛金を模したような形のヘタを咥え、その場を飛び去っていった。
続いてその場には、うみねこの群れがやってきた。
イ級の残骸に群がったうみねこは、そこに実った果実を啄ばみだす。うみねこは狂ったかのように果実を食べ漁る。
と、そのうちの一羽の体が突如として緑の光に包まれた。苦悶の鳴き声をあげるうみねこの体は、光と共に出現した植物の蔦や葉に絡めとられていく。それは、周囲の他のうみねこをも取り込みながら肥大化していき、遂には人の大きさ程までに膨れ上がっていったのであった。
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森の中の一本道を、作業着姿の中年男性が駆け足で進んでいく。
背負ったリュックが、歩調に合わせてゆさゆさと揺れ、手に持った工具箱がガシャガシャと音を立てている。
(全く、時間があるからって迂闊に昼寝決め込むんじゃなかったな)
と、自分の行いを反省する。
島に住む者から、良い景色の見える丘があると聞き、電気系統設備の整備士である彼は散歩がてら、弁当を持ってそこへ向かった。そして、美しい景観を堪能しつつ昼食を取ったところで眠気に襲われた。満腹感と心地よい海風に当たったせいだろうか、軽い仮眠のつもりが、ぐっすりと数時間も眠ってしまっていたのだった。
依頼された仕事を始める時刻には、ギリギリ間に合うかどうかといったところ。余裕をもって仕事を始めようと早めに現地入りしたのにこの有様。眠る前は晴れ渡っていた空も、いつの間にか灰色の厚い雲に覆われ、吹きすさぶ風が木々の枝葉を揺らし、ざわざわと音を響かせる。
「ちっ、俺としたことが」
舌打ちと独り言を漏らしつつ、作業着の男は森の中を駆け抜けていった。
「さてと……」
作業着の男が通り過ぎたのを見計らって、木の陰に身を潜めていた青年が姿を現した。
ふわりとした少し長めの髪に端正な顔立ち、モデルのようなスラリとした体躯。木々がざわめく森の中には些か不釣り合いに感じられる様相をしたその青年は、中年男性の走り去った方へ向かって、スタスタと歩き出した。
「しかし、何なんだろうねここは?どうやら僕の知らない“世界”みたいだけど……折角だから探索してみるとしよう。丁度いい道案内も見つけたことだしね」
吹き抜ける風が、青年のジャケットの裾をバタバタと揺らしていった。