『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
執務室の扉が静かに開く。
車椅子から立ち上がり、片足を引き摺るように歩きながら、備え付けの金庫へと近づく。
金庫の扉は開け放たれている。無理やり抉じ開けられたのではなく、しっかりとした手順をもってロックを外されていた。それを見るだけで、侵入者が素人では無い事が窺い知れる。
しかしながら、その中に保管されていた機密文書は手つかずであった。
「これが狙いではなかったか……」
ポツリと呟くと提督は、金庫の置いてある棚をゆっくりと横にずらし始める。
棚を動かし終えた提督は、その場にしゃがみ込む。棚の置いてあった床の上には、小さな扉が取り付けられていた。
それを開き、内側にしまい込まれていた物を取り出し、机の上に置く。ゴトリと重い金属音をたてて置かれたそれを、提督はジッと見つめる。
(できればコレは使いたくないんだがな……)
――――――――――――――――――――――――――――――
「……奴は何処へ?」
貴虎は、肩を上下させながら呼吸を整える。
行方を晦ました侵入者が向かったと思われる方へ走っていた貴虎は今、演習場の前にやってきていた。
ぐるりと周囲を見渡すが、人の姿はおろか、何の痕跡も見当たらない。
(一度天龍と合流してみるべきだろうか)
と、貴虎が再び走り出そうとした時、演習場の方から足音が聞こえてきた。
「貴虎さん!」
演習場の入口の方へ視線を向けると、鳳翔が貴虎の元へと駆けてくるのが見えた。
「鳳翔さん?」
見ると鳳翔は、手に長弓を持ち、矢筒を背負い、左肩に長い板のような物を装着していた。その意匠は、飛行機用の滑走路を思い起こさせる。
「状況は通信で聞きました。私も捜索に協力致します」
「ありがとうございます。だがその姿は、もしや……」
「はい、これが軽空母たる私の艤装です。そういえば、お見せになるのは初めてでしたね」
艦娘について勉強する過程で貴虎は、空母の艦娘の艤装についての知識は得ていた。
空母の艦娘の艤装には、大きく分けて二つの種類がある。弓道を基調にしたものと陰陽道を模したもの。前者は弓矢を用いて、後者は式神を用いて艦載機を運用する。無論、鳳翔は前者のタイプである。
だが貴虎は、それを知識として得てはいたものの、まだ実際に目にしたことは無い。
従って、撃ちだされた矢・紙切れが航空機へ変化するという事については、半信半疑であったものの
「貴虎さんは、雨の当たらない場所で暫く休んでいて下さい。私が艦載機で侵入者を探し出します」
そう告げる鳳翔の淀みない微笑みに、どこか頼もしさを感じ、抱いていた疑念を払拭する。
「分かりました。お願いします」
貴虎は、演習場の入口傍の軒下へ立ち、鳳翔の様子を見守る事とした。
激しい風雨が打ちつける中、鳳翔はそれを全く意に介さずに、矢筒から矢を取り出し弓へと番える。
そして姿勢を整えたまま、時が来るのを待つ。
「……風向き、良し」
風向きが追い風へと変わる。その瞬間を肌で感じ取ると鳳翔は、力強くも、しなやかさを感じさせる動作で弦を引きしぼり矢を放つ。
放たれた矢は真っ直ぐに飛んでいき、暫くの後に一瞬だけ白い光に包まれる。次の瞬間、三機の白い戦闘機“零式艦戦21型”へと矢が姿を変えた。
その大きさは、実物の戦闘機には遠く及ばない程、ラジコン飛行機と言っても差支えがない位に小型であったが、風を切るプロペラ音、唸りを上げるエンジン音の猛々しさは、本物のそれに全く引けを取らないように感じられる。
三機の21型は、前に広がる森の木々の手前で急上昇をすると、そのまま高度を上げ、森の上空を飛行し始めた。
「これが空母の艦娘の力……」
空母艦娘が艦載機を飛ばす瞬間を目の当たりにし、驚嘆する貴虎。
矢が飛行機へと姿を変えるという、不可思議な現象自体もそうではあるが、それを行った鳳翔の悠々たる動作と佇まい、そこから溢れ出る、普段の鳳翔からは見られない、凛とした空気もまた貴虎に驚きを与えていた。
(日没直前の悪天候、風も強く航空機運用をするには非常に厳しい環境ですが、闇雲に走り回るよりは遥かに良いでしょう)
鳳翔は上空へと視線を向け、瞳を閉じ、意識を集中し始めた。
初めは真っ暗だった視界が、次第に晴れわたっていく。やがて鳳翔の意識は、飛行する零戦21型の一機とシンクロし、まるで自分自身が宙を舞い、森を見下ろしているかのような感覚に包まれる。
(この短距離なら、索敵機でなくとも十分に対応できますが……)
シンクロした機体から眼下を見渡す。そこからは風にさざめく森の木々が見えるだけで、侵入者の様子は全く窺い知る事ができない。
他の機体からの索敵情報も鳳翔に送られてくるが、その中に有益なものは無い。
(やはり、もっと森に近づかないと……でもこの悪天候の中、無暗に突入しても衝突の可能性が……艦爆を出撃させての絨毯爆撃で燻り出すのは……ダメ、そんなのは危険過ぎます)
鳳翔が手をこまねいていると、他の機体から再び情報が送られてきた。
(これは……試してみる価値はあるかもしれません)
その情報を受け取った鳳翔の脳裏に、考えが浮かんだ。
瞳を開き、意識を航空機から切り離すと、鳳翔は矢筒から新たに取り出した一本の矢を番え、放つ。
航空機へと姿を変えたそれは、グングンと高度を上げ、目的の場所へ向けて真っ直ぐに飛行していった。
――――――――――――――――――――――――――――――
森の中を駆けていた男は後方を確認し、誰もいないと分かると速度を緩め、ゆったりとした歩調で歩き出す。
「たまたま迷い込んだ世界で、こんな貴重なお宝が見つかるとはね。思わぬ幸運だ」
手に持った鉢植えをかざす様にしながら、じっくりと眺める。
(それにしても、このお宝、そして彼が何故こんな所にいるのか、考えてみれば謎だらけだ。少なくとも、ここは本来彼がいるべき世界でない、という事は確かなんだろうけど……)
男は思考を巡らせていたが、フッと笑いを漏らし独りごちる。
「まあ、僕には関係ない事だ。ひとまずこの世界の探索を続けるとしよう。掘り出し物が他にも見つかるかもしれないし」
そうして再び駆け出そうとした時、ふと視界の端、遠方で何かがひらめくのが見えた。
男は異様な気配を感じとると、瞬時に近くの木の陰に身を潜めた。次の瞬間、凄まじい轟音と衝撃が周囲の空気をピリピリと震わせた。更に少し遅れて熱風が吹き付ける。
「流石にそう簡単には、行かせてくれないか」
木の陰から飛び出した男は、踵を返し素早く走り出す。その背後で再び爆音が鳴り響いた。
――――――――――――――――――――――――――――――
森の上空で、三機の零戦21型が円を描くように旋回をしている。時折、風雨の影響でふらつきながらも、編隊の間隔は常に一定に保たれていた。
その編隊の輪の中心を目掛けて、一機の爆撃機“九九式艦爆”が飛び込んでいった。その一帯は森が開けており、飛行の障害になるものは何も無い。目標へ向け降下する途中で、上昇してくる―――先に突入していた―――もう一機とすれ違う。
標的は、森の中の池の中央部に佇む大岩であった。最初の爆撃を受けて、その中心部は大きく抉れている。
突入した艦爆は、そこへ向け搭載していた爆弾を投下する。岩に命中した爆弾の爆発が、周囲を赤く照らし出す。
そして入れ替わるように、三機目の艦爆が池を目掛けて突入してきた。その後ろには、上空を旋回していた零戦の編隊が連なっていた。
航空機から鳳翔に送られてきた観測情報により、森の中の一画が開けている事、そこに池と大岩が存在するという事が分かった。それを知った鳳翔は、賭けに出たのだった。
大岩を爆撃し、その衝撃により侵入者を燻り出す。更に爆炎で薄暗い森の中が照らされるほんの僅かな時間で、侵入者の姿を見つけようと試みたのだ。
万が一爆弾が目標を逸れても、池に落ちれば火災が広がる心配はない。仮に炎が木々に燃え移ったとしても、森が大きく開けたこの場所なら、降り注ぐ雨によって速やかに消火される。そう判断して作戦を実行した。
もちろん不確定要素は沢山あった。池から遠く離れた所に侵入者がいってしまっていれば、森が照らされる僅かな時間で侵入者を見つけることが出来なければ、作戦は破綻する。だが彼女はそれに賭けた、可能性は低いと理解していても。
(お願い、見つかって!)
鳳翔は祈りながら、零戦の一機と意識をシンクロさせた。
眼前の艦爆が投下した爆弾が着弾する直前に、三機の零戦は機首を水平に上げ、森の中へと散開していった。程なくして爆炎で森の中が照らし出される。
(……!?見つけた!)
視線の先には、逃走する男の後ろ姿があった。鳳翔は賭けに勝ったのだ。
しかし彼女は気を緩めない。これからが本番だとばかりに口を、意識を引き締め、気合いを込める。
すると零戦の気配を感じたのか、男は一瞬振り返る。その顔は帽子に隠れて表情を窺い知る事はできないが、直後に走る速度を上げた事から、警戒はしているのだろうと推測出来た。
(手荒な事はしたくありませんが)
男の後方を飛行する零戦は、翼を傾け森の木々をかわしながら機銃掃射を開始した。放たれた弾丸が逃走者の横、人間一人分の間隔を開けた位置に着弾し、泥を中空に巻き上げる。威嚇射撃だった。
だが男は、それに怯むことなく走り続ける。そして零戦が二度目の機銃掃射をしようとした瞬間、男は右手で懐から何かを取り出し、振り返ることなくそれを零戦へ向けた。
その一瞬の後、零戦の片翼に複数の穴が開けられた。バランスを失った戦闘機は、きりもみ回転をしながら地面へと激突。同時に鳳翔の視界はブラックアウトした。
「っ!」
戦闘機から意識を切り離された鳳翔は、瞳を開けかぶりを振る。
「大丈夫か?」
貴虎が鳳翔の傍へ駆け寄る。
「一機落とされました。相手は銃のような物を持っています。」
「一筋縄ではいかないようだな」
「ですが、みすみす取り逃がす訳にはいきません。何としてでも追い詰めます」
強い意志を宿した瞳で、森の奥を見やる鳳翔。再びその瞳を閉じ、彼女は意識を集中させた。
――――――――――――――――――――――――――――――
夷提督は車椅子に腰をかけ、執務室を後にした。丁度その時、龍田が小走りに近づいてきた。
「通信が入りました。鳳翔さんの機体が、侵入者を発見たらしいですよぉ」
「分かった。俺もそちらへ行こう」
「提督自ら危険な所に赴こうなんて、秘書艦としては感心しませんね~」
「自分の家を土足で荒らし回る輩の顔を、拝んでおきたくてな。お前もそう思うだろう」
龍田はクスリと笑い、頷くと、提督の背後へと回りこむ。
「それじゃあ飛ばしますよ~、振り落とされないで下さぁい」
龍田に押され動き出した提督の座る車椅子は、徐々にそのスピードを上げていった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「貴虎さん、そこの茂みに隠れて下さい!」
暫しの間沈黙していた鳳翔が、突然声をあげた。
貴虎は彼女の言う通り、傍の茂みに身を潜める。鳳翔もすぐ隣にしゃがみ込んだ。
すると雨音に混じって、こちらへ向けて駆け込んでくるような足音が聞こえてきた。
茂みの隙間から覗き込む。すると、森の中から作業着に身を包んだ男が飛び出してくるのが見えた。その後方には、鳳翔の放った戦闘機が。その機銃が小刻みに音を立て、弾丸を吐き出す。瞬間、男は方向を転換し、演習場の入口へと駆け込んでいった。
その様子を見ていた鳳翔は、小さく頷いた。
鳳翔は残った二機の戦闘機を巧みに操りながら、森の中を逃げる男を追い回し続けていた。正面、側面、背後、上方、狭く見通しの悪い中、様々な軌道を交え、敵を翻弄し続けた。途中で更に機体を一機撃墜されてしまったものの、彼女は目論見通り、男を演習場前へとおびき出すことに成功した。戦闘機の追撃を振り切る為に、室内へ入ろうとすると予想しての作戦だった。
「貴虎さん追いかけて下さい!」
その言葉に力強く頷き、茂みから勢いよく飛び出した貴虎は、全速力で男の後を追い始めた。
水に濡れた床上の痕跡を確かめながら、廊下を駆けていく。すると貴虎の背後から声がかかる。
「貴虎!」
振り返ると天龍が向かってくるのが見えた。その手には、刃が赤く着色された独特な形の刀が握られていた。
天龍は貴虎に追いつき並走する。
「それは?」
貴虎が問いかける。
「へへっ、オレ様自慢の武器だ。話は通信で聞いたんだけどな、コレ取りに行ってたら少し遅れちまった。それはそうと、野郎この先にいるんだな」
「ああ、鳳翔さんのおかげだ」
「ホント凄えよなあの人。この悪天候の中で正確に艦載機飛ばすなんて、普通じゃ出来ねぇよ。今度はオレらがしっかり頑張らねぇと。鳳翔さんに会わせる顔が無くなっちまうぜ」
「だが奴は銃で武装しているようだ。気をつけろ」
「拳銃なんざ、深海棲艦の砲撃に比べたら豆鉄砲みたいなもんだ。武装した艦娘の装甲は易々と貫けねぇよ」
天龍は自身有り気に、纏っている制服を手のひらでシュッと撫でる。
貴虎は前方へ視線を向ける。その先には武道場の扉があり、侵入者の物と思われる足跡は、その先に続いていた。
扉の前にたどり着いた二人は、勢いよくそれを開く。薄暗い武道場の中央には、作業着姿の男が佇んでいる。
「さあ、追いかけっこはおしまいだ。神妙にお縄につきやがれ!」
侵入者へ刀の切っ先を向けつつ、天龍が叫ぶ。
「ふふっ、僕としたことが、ただの人間に追い付かれてしまうなんて。不覚だよ。でも、さしたる苦労も無しに成果を上げてしまうのも味気ないと思ってた所だし、丁度いいのかな?」
入口の方へ向き直り、肩をすくめる青年。その態度には大きな余裕が見てとれた。
「それにしても、思いのほかやるようだね、眼帯のお嬢さん。それと……呉島貴虎くん」
「何故俺の名を!?」
青年が自分の名を言い当てた事に驚愕する貴虎。
「何だ?貴虎、あいつお前の知り合いか?」
「いや、知らない男だ」
貴虎の名を知る得体の知れない青年、彼は貴虎の戸惑う様を見て、不敵な笑みを浮かべている。
「一体貴様は何者だ!何の目的でこの基地に潜入した!答えろ!」
貴虎が叫んだその時、背後から声が聞こえてきた。
「丁度いい、俺にも是非聞かせて貰いたい」
提督、龍田、続いて鳳翔の三人が演習場内へとやってきた。
「提督?何故ここに」
「無礼な客人に対するおもてなしだ」
「そうよぉ、とっておきの……ね」
龍田が歩み出る。その手には、赤い刃の付いた薙刀のような武器が握られていた。
彼女は天龍の隣に立ち構えを取る。その様を見て天龍は、ニヤリと笑い自らの武器を握り直す。
「さて、貴虎の質問に答えてもらおうか」
目深にかぶった軍帽の影から鋭い眼光を飛ばしつつ、提督が言う。
「断る、と言ったら?」
「ド派手な歓迎パーティーを開くことになるな。そこの娘達が盛大にもてなしてくれるだろう」
「そいつは魅力的だ。でも、僕の趣味じゃないな」
そう言うと男は懐に手を伸ばし、奇妙な意匠の施された銃を構えた。
だが、彼の前に立ちはだかる貴虎、天龍、龍田の三人にはいずれも怯んだ様子は見られない。
「私達三人を相手に、銃一丁は分が悪いぞ」
「良いこと教えてあげるわ。私たちの制服も、貴虎さんの軍服も防弾処理が施されているのよぉ。並みの銃なんかじゃ太刀打ちできないわぁ」
「無駄な抵抗はしねぇ方が身のためだぞ」
三人は少しずつ男との間合いを詰めていく。悠々と歩み寄る彼らからは、歴戦の勇士の風格が漂う。それは普通の人間であれば、気圧されてしまう程に……
だが青年は、それでもなお余裕の態度を崩さない。
「やれやれ、仕方がないな」
青年は再び懐に手を伸ばし、何かを取り出す。それは一枚のカードであった。手にした銃をクルリと一回転させ、そのカードを銃の側面のスロットに挿入。同時に銃身を引き延ばす。
【KAMEN RIDE!】
銃から謎の音声と、けたたましい電子音が鳴り響く。それに対し貴虎達は身構える。
が、青年は銃口を、近づく三人から逸らし天井へと向けた。その様子に訝しむ一同。
それをよそに青年は、力強く声をあげ、銃のトリガーを引いた。
「変身!」
【DIEND!!】
銃口から光が放たれ、男の頭上で広がると共に、バーコードのようなマークを虚空に刻む。
同時に男の体の周りには人型の残像が三つ出現し、前後左右へと動き回り、男の身体と交錯を繰り返す。
やがて残像は、男の体に重なり一体化。そして強化装甲とマスクを身に付けた戦士が出現する。
更に空中に浮かんだマークが、青い板のようなエネルギーを形成。回転しながら落下するそれは、戦士の頭に突き刺さる様に同化し、青と黒のストライプが特徴的なマスクを造り上げる。その変化は一瞬の出来事であった。
「その姿は……」
「アーマードライダーだと!?」
突然のことに艦娘達が呆気にとられている中で、夷提督と貴虎だけがそう言葉を発した。
強化装甲を身に纏った男の姿。それは貴虎の知るアーマードライダーのそれに酷似していた。
驚愕する貴虎を見て満足気な男の笑いが「フッ」とマスクの奥から漏れる。
「アーマードライダー、君の居た世界ではそう呼ばれてるんだったね。だが僕は、そう呼ばれるのは好みじゃないな」
男は銃を弄ぶようにクルリと回す。
「僕の名前はディエンド。数多の世界を股にかける通りすがりの仮面ライダーさ、覚えておきたまえ」
「仮面、ライダー……?」
ディエンド、そう名乗った男の姿に唖然としていた艦娘達であったが
「はぁ?可燃だかライターだかなんだか知らねぇが、そんなこけおどしで俺たちが怯むとでも思ってんのか!?」
いち早く我に返った天龍が威勢よく叫ぶ。
「そうねぇ、見た目だけは強そうになったみたいだけど、それだけで何とかできる程、私達は甘くは無いわよぉ」
龍田が薙刀を構え直し臨戦態勢をとる。
「天龍、龍田!油断するな、奴は危険だ!」
前に出ようとする二人を、貴虎が手で制する。
「いや、彼女達の言う事も、もっともだ」
「何?」
「正直言って君達の実力は僕には分からない。数の上では不利。もしかすると僕の勝つ見込みは少ないのかもしれない」
「だったらウダウダ言ってねぇでとっとと降参」
天龍が言い終わらないうちに
「なので、万全を期して助っ人を呼ばせてもらおう」
素早く動いたディエンドの手には、新たなカードが握られていた。
一瞬のうちにそのカードを銃に装填すると、ディエンドは再び銃口を上に向けて引き金を引いた。
【KAMEN RIDE!】【RIOTOROOPERS!】
電子音声と共に銃口から放たれた光弾が人型を形成。交錯する人型の残像が実体化し、銀色の面に銅色のアーマーを身につけた三人の戦士が出現した。
「何だと!?」
「君達の後ろの弓道袴のお嬢さんを合わせて四対四、これで数の上では対等になったわけだ」
「くっ、次から次へと妙なマネしやがって……」
歯噛みする天龍。
「面白い手品ねぇ。私にもタネを教えてほしいわぁ」
余裕ありげに言う龍田であったが、その首筋には、汗が一筋伝わり落ちる。
「提督、下がって下さい。私も出ます」
鳳翔が一歩進み出る。弓を握る手に力がこもり、ギリリと音をたてる。
「おっと、勘違いしないでくれたまえ。僕は無駄な争いをするつもりは無い」
「どういう事だ」
「……交渉か」
夷提督が言う。
「その通り。察しが良くて助かるよ。こうでもしないと、いつ襲い掛かられるか分からないしね」
「交渉だと?」
「僕はお宝が手に入ればそれで構わない」
ディエンドは植木鉢を手にし、目の前に掲げた。同時に鉢が淡く発光を始める。
「!?」
それを目の当たりにした貴虎の瞳が、大きく見開かれる。
「なるほど、お前の目的はそれか」
と提督。
「うん、これを僕に譲ってくれるのなら、大人しく退散させてもらうよ。どうだろう、貴虎くん?」
ディエンドは問いかける。皆の視線が貴虎に注がれる。
「……貴様は、それが何なのか分かっているのか?」
「黄金の果実。世界を変える程の強大な力と可能性を秘めた物。これを巡って、君のいた世界では争奪戦が繰り広げられている。まあ、これは果実そのものに比べ、随分と力は少ないみたいだけどね」
ディエンドの言う事は正解だった。もし彼が何も知らずに鉢を奪おうとしていたのなら、付け入る隙はあったかもしれない。だが彼は貴虎のいた世界、黄金の果実についての知識を持っていた。
そして、彼が手にしている黄金の果実の力の一片は、その力を確実に発現させている。
この事が貴虎の決断を鈍らせる。
(この場の皆の安全は確保したい。だが、あれを手にした男が力をどうするか分からない以上……)
困惑の表情を浮かべる貴虎に対して、ディエンドは更なる提案を持ちかけてきた。
「迷う必要は無いと思うんだけど、条件に不満があるなら仕方ない、出血大サービスだ。貴虎くん、もし望むなら元の世界にキミを連れ帰ってあげても構わないよ」
「何だと!?」
「信じられない、といった表情をしてるね。でも、実際僕にはそれが可能なんだ」
その時、貴虎の頭にサガラとの会話が思い起こされる。
「お前の力で私を元の世界に戻す事は可能か?」
「残念だがそいつは無理だ。俺に普通の人間を次元移動させるような力は無い」
「そうか」
「すまないが、それは自分で方法を……いや、異世界を渡り歩く戦士の力を借りれば、あるいは……」
(もしやこの男が……)
ディエンドは先程自らのことを「数多の世界を股にかける、通りすがりの仮面ライダー」と称していた。
そして彼が突如としてこの基地に現れたという事実、貴虎のいた世界と黄金の果実の知識を持っているという事、それらを合わせて考えると、彼の言葉には信憑性が感じられた。
「さあ、決断するならば早くしたまえ。僕の気が変わらないうちにね」
「元の世界?黄金の果実?一体何の話をしてるんだ?」
貴虎の後ろに控えている天龍が首を傾げつつ、小声で隣の龍田に話しかける。
「私にも分からないわぁ。でも確かに言えるのは、私たちの命運は、貴虎さんの決断にかかっているという事ねぇ」
ディエンドの提案は、貴虎にとって非常に魅力的と言えた。この場の全員の安全が保障され、更に貴虎が元の世界へ戻る手引きをしてくれるのだ。それを断る理由など無いように思われた。だが、それでもなお貴虎は、素直に首を縦に触れない。心の奥底で引っかかる何かが、それを拒ませる。
そんな時だった。
「司令!大変よ、夕張さんが!!」
「怪物に、怪物に……」
息を切らせ、顔を青ざめさせた陽炎と黒潮が、演習場へと飛び込んできた。
一同がそちらへ視線を向ける。その一方で、目の前に広がる異様な光景に、二人の駆逐艦娘は面食らっていた。
「って……え?何なの、この状況……」
呆気にとられた様子で陽炎が場内を見回す。黒潮は口を開けてポカンとしている。
「賑やかな登場だね。いいよ、用件があるなら先に済ませてくれたまえ」
以外にもディエンドが陽炎を促した。
「え、あ……うん」
見知らぬ謎の仮面男に声をかけられ、戸惑い気味の陽炎。
「夕張に何があった。怪物とは何の事だ」
提督の問いを受け、自分たちが遭遇した出来事を思い起こすと、陽炎は大声で喋りはじめた。
「そ、そうでした!私達が山小屋にいたら、突然見た事も無い怪物に襲いかかかられて!夕張さんが囮になって私達を逃がしてくれたんです!!逃げてきたら、みんながこの建物に向かってるのが見えて!!」
「お願いや!夕張はんを助けに行ったってや!!」
「夕張が怪物に!?」
貴虎をはじめ、皆が驚愕の表情を浮かべる。
「そうです!なんかこう、ずんぐりむっくりの灰色で膨れ上がった上半身に、丸い顔がついていて!」
ジェスチャーを交え説明する陽炎、それを聞いた貴虎は怪物の正体を即座に理解した。
「まさか……インベスが!?」
最も恐れていた事態が起こってしまった。インベスは、ヘルヘイムの果実を食してしまった生物の成れの果て。それが現れたということは、この世界におけるヘルヘイムの浸食の事実が確定してしまったという事。一刻も早くそれを抑えなければ、この世界には貴虎のいた世界と同様の悲劇が訪れる。
そして正に今、夕張がその犠牲になろうとしている。その現実に貴虎は、目の前が真っ暗になる思いだった。
「話は済んだかい?じゃあ答えを聞かせてもらおうか」
絶望に打ちひしがれる貴虎に対し、ディエンドは容赦なく決断の時が来たことを告げる。
貴虎はゆっくりと、力無くディエンドの方へと向き直る。
「私は……」
今ここでディエンドの提案を受け入れる。それは最も合理的な判断だ。反抗するなど余程のバカか、我儘な子供のする事。
そうすれば少なくともこの場の者達の命は助かり、皆が夕張の救出へと向かう事ができ、彼女を助ける事が出来るかもしれない。しかし、貴虎は危機に瀕するこの世界を見捨てて逃げる事になってしまう。
黄金の果実を渡し、この世界の為に貴虎が残るという選択肢もある。だがそれは、貴虎が自分の元いた世界を見捨てる事を意味する。元の世界へと戻る方法が分からない今、頼りになるのは目の前の男が持っているであろう能力のみ。このチャンスを逃せば、二度とチャンスは巡ってこないかもしれない。
(選べるのは二つに一つ、だがしかし……!)
ギリリと歯噛みをする貴虎、両の手の拳を強く握りしめて、視線の先のディエンドを見据える。
そしてゴクリと唾を飲み込み、口を開こうとした。
刹那
貴虎の視線は、ディエンドの持つ鉢植えに釘付けとなる。
そこから溢れ出る黄金色の光、それはやがて大きく大きく膨れ上がり……貴虎の身体を包み込んだ。
気が付くと貴虎は、廃墟と化した街に立っていた。眼前には怪物を引き連れた一人の男。
黒のスーツを身にまとったその人物は、貴虎を一瞥しニタリと笑みを浮かべると、瞬時にその姿を変化させた。
一瞬にして、緑と白の軽装鎧のような装甲を身に纏ったその人物は、手にした弓を引き絞り、天へ向け光の矢を放つ。
放たれた光の矢は上空にて弾けると、逃げ惑う人々に向け容赦なく降り注いでいった。
思わず目を覆いたくなる、地獄のような光景。そんな中に佇む貴虎の頭上にも、光の矢が降りてくる。
貴虎は、矢を放った男を見据えながら絶叫する……
その瞬間
宙から飛び込んできたもう一つの光が、降り注ぐ矢を打ち消した。
否、光のように見えたそれは、橙色の鎧を身に纏った武者であった。威風堂々としたその佇まいは、見る者に希望、そして活力を与えてくれる。
刀を構え走り出す橙色の鎧武者の後姿は、やがて神々しい輝きを放つ白銀の鎧武者へと変化し、敵の集団へと突撃する。
鎧武者が貴虎の心に何かを告げた……そんな気がした。
そして貴虎の意識は、白い光の奔流へと飲み込まれ、遠のいていく。
「……っ!?」
目を開き周囲を見渡す。そこは演習施設内の武道場だった。
「いい加減に、これ以上待たせるのはよしてくれないか。早くしてくれたまえ」
若干の苛立ち混じりの声で、ディエンドが言う。
周りの者も皆、固唾を飲んで貴虎に注目していた。先程までと殆ど変わらないその光景。
(今のは……幻覚?)
困惑する貴虎であったが、その心と意識は、雲一つない快晴の空の如く澄み渡っている。そう感じられた。
後ろを振り返る。不安げな表情の艦娘達。だが一人だけ、車椅子に座した提督だけは、真っ直ぐに貴虎を見据えていた。
貴虎は無言で頷くと、眼前の青年に向け、言葉を告げた。自分の命を救ってくれた少女の笑顔を思い浮かべながら……
「断る」
それを聞き、肩をすくめて、やれやれといったポーズでディエンドは言う。
「全く、そんな愚かな選択をするなんて。もっと賢い人かと思ってたのにねえ。交渉決裂だ。ここらで、おさらばさせてもらうとしよう」
「それもさせない」
「……何だって?」
「お前に黄金の果実の力は渡さない。逃がしはしない。この場にいる者もやらせはしない。インベスを倒し夕張を助ける。この世界をヘルヘイムの脅威から救う。そして貴様をねじ伏せ、元の世界に戻る方法を聞き出す。全てやってみせる」
「馬鹿な事を言うね、そんなの出来るわけないだろう」
呆れたと言わんばかりの態度でディエンドが言う。だが
「出来るか出来ないかではない。私が“そうしたい”のだ。救って見せる、この世界を!私の仲間、仲間と言ってくれた者を!全て!」
力強く言い放った貴虎は、心の中で思いを巡らせた。
(……お前ならきっとこうするんだろうな、葛葉……感謝する)
自分が何度打ちのめそうともしつこく立ち上がり、青臭い理想を捨てることなく、ただひたすらに、真っ直ぐ、がむしゃらに立ち向かってきた男の姿が頭に思い浮かぶ。自分には歩けなかった道を、歩くことを諦めてしまった道を、時に傷つき、醜く足掻きながらも進み続ける、その男の姿が。
「やれやれ、折角の親切を台無しにするなんて。まあ、そっちがその気なら僕も容赦はしない。聞き分けの悪い子にちょっとだけお仕置きだ」
若干不機嫌そうに言ったディエンドが、軽く片手を上げる。それを合図に傍らに控えていた銀面の戦士が、短剣のような武器を構え臨戦態勢をとった。
「すまない、私の決断のせいで皆に迷惑をかける事になってしまった」
詫びる貴虎に対し、天龍が「フッ」と笑いかける。
「気にすんな。おかげであのムカつくスカした野郎を、思う存分ぶちのめせるんだ。逆に感謝したいくらいだぜ」
「そうねぇ。私も天龍ちゃんと同じ意見よぉ。それにぃ、あの人の上から目線の喋りには、ずっとイライラしてたの。こっちがお仕置きしてあげないと気分が晴れないわぁ」
にこやかに微笑みながら言う龍田であったが、その眼光は、目の前の敵を鋭く射抜いていた。
「致し方ありませんね」
「何だかよくわからないけれど」
「やるしかなさそうやな」
後ろに控える鳳翔、陽炎、黒潮も一歩前へと進み出る。
その様子を見た貴虎は無言で頷き、敵の方へと向き直る。
(さて、これからどうする……)
貴虎は頭の中で策を練り始める。
ディエンド、彼が呼び出した三人の戦士。その実力は不明だが、少なくとも貴虎の知るアーマードライダー達と同等の力は持っているものと予想される。
こちら側で武装しているのは天龍と龍田、鳳翔の三人のみ。彼女らがどこまで渡り合えるかは分からない。鳳翔の艦載機も、室内では思う存分その力を発揮できないであろうことは明白。
警報が出てかなりの時間が経っている。せめてそれを聞きつけた援軍が来るまでの時間を稼ぐことが出来れば、状況は変えられる可能性はある。だが、時間をかけすぎれば夕張の命が危ない。
(万が一の場合、危険ではあるが、捨て身の突撃で皆が行動を起こす時間を稼ぐのが得策か。そして夕張の救助にも向かわせて……)
と、貴虎が考えを巡らせていた時
「貴虎、とついでにコソ泥野郎、一つ良いことを教えてやろう」
後ろへ控えたまま黙していた
「提督?」
その行動に貴虎が怪訝な表情を浮かべる。
加えて、他の者が下がっているようにと促そうとするが、提督は目でそれらを制する。そして貴虎達の傍へ。
「男の仕事の八割は決断、そこから先はおまけみたいなもんだ。そして……これが俺の仕事だ」
夷提督は、ゆっくりと車椅子から立ち上がる。
「体が本調子になるまで無理はしないつもりだったが、やむを得ん」
そう呟く提督の手には、金属製の奇妙な物体が握られていた。
赤と黒を基調とした配色に、左右非対称の、L字を描いたような形状をした機械を腹の下にかざす。
すると機械から黒いベルトが伸びだし、たちまち提督の腰に巻きついた。
「なっ!……それはまさか!」
今まで余裕の態度を崩さなかったディエンドが、初めて動揺を露わにした。
提督は左手で軍帽を脱ぐと、右手で懐から何かを取り出し、前へと突き出した。それは、パソコン用のメモリースティックを模したような黒い小箱であった。
その表面には、アルファベットの“S”とドクロを掛け合わせたようなデザインのマークが描かれている。
【スカル!】
小箱から力強い音声が響き渡った。提督はそれをベルトのバックルとなった、機械のスロット部分に差し込んだ。
「変身」
提督は、そう告げると同時にスロットを右に倒す。すると周囲に一陣の風が巻き起こった。その風の中心に佇む提督の体は一瞬のうちに変貌を遂げた。
風が収まるとそこには、白銀のラインがあしらわれた黒の強化装甲に身を包み、くすんだ白マフラーを首に巻き付けた、骸骨マスクの超人が出現していた。
骸骨マスクの超人“スカル”は手に持った軍帽をかぶり直すと、まるで銃を構えるような動作でもって右手をディエンドへと突きつける。そして穏やかでいて、力強く、強固な意志を込めた一つの言葉を放った。
「さあ、お前の罪を、数えろ」
ラストシーン推奨BGM
『仮面ライダー×仮面ライダーW&ディケイド MOVIE大戦2010 オリジナルサウンドトラック』
トラックNo.29 仮面ライダースカル