仮面ライダー斬月・艦   作:はちコウP

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この作品は2014年9月29日にpixiv https://www.pixiv.net/novel/series/452817 に投稿した作品を加筆・訂正した物となります。

『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。

本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。


【第二話】

 

 母なる海。全ての生きとし生けるモノの源。そこでは数多の生命が生まれ出でては消えていく。この惑星が誕生してから絶えず繰り返されてきた自然の摂理。いかなる生物にも例外なく、等しく訪れる生と死のサイクル。

 

 では、突如として世に現れた“怪異”それは果たしてどうなのであろうか……

 

 陽の光も殆ど届かない海の底の暗闇の中。そこは闇に溶け込む程にどす黒い、朽ち果てた残骸で埋め尽くされていた。

 古い残骸が完全に朽ち果てても、海流に乗って新たな残骸が運ばれてきては堆積する。

 そして今、新たにボロボロのゴミクズの様になった黒い物体が海底に流れ着いた。

 しかしその物体は、まだ微かに脈動していた。それは淡く光る緑の眼をもって、海面の方を見つめる。

 だが、そこには何も見えない。一匹の小魚すらも、その視線の先には存在していなかった。

 本能、憎しみ、破壊衝動に従ってひたすらに目の前の生命を喰らい尽くすだけだった黒いモノは、間もなくただの残骸と成り果てる。周囲に散らばる物体と同様に……

 その眼が完全に光を失おうとしていた時。突如、海中に小さな紫色の光が瞬いた。

 ゆっくりと、揺らめくように動くその光は、吸い込まれるように黒いモノの佇む所へと落ちていく。

 

 そして、黒と紫、二つの色は静かに溶け合っていった……

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 呉島貴虎は目の前にいる、車椅子に座った軍人風の男、(えびす)提督に自らの名を告げた。

「タカトラか。勇ましそうな印象のする名前だ」

 提督が頷いた。

「二週間も眠りっぱなしだったから何かしら異常が出てないかと思ったが、どうやら頭の方も問題は無いようだな」

「二週間……そんな長い間」

 自分の想像以上に時間が経過していた事に驚く貴虎。

 だが、その一方で更に気がかりな事が頭に浮かんできた。

「一つ聞いても宜しいでしょうか?」

「何だ?」

「世界の状況は、今どうなっているのでしょうか?」

 貴虎は、(えびす)提督に質問をする。

 実の弟、光実の暴走を止める事が出来ず、戦いに敗れ海に沈んだ貴虎。

 その弟が手を組んでいた異形の存在、オーバーロード。一瞬にして世界中を混乱の渦に巻き込んだ彼らが行動を起こすには、二週間という時間は十分すぎる。それこそ、世界の殆どを破壊し尽くす事さえも可能な程に。かつてその力を目の当たりにした貴虎の心には、言い知れぬ不安が溢れ出していた。

「随分と漠然とした質問だな。だが大雑把に言うなら、今は大分俺達にとって有利になってきた所だ。この前の大規模作戦行動も成功して、ヤツらの動きも沈静化している」

「そうですか……それは良かった」

 提督の答えに貴虎は安堵した。

 正直な所、オーバーロード及び彼らの使役する怪物、インベスに対して人類が優位に立っているという事は貴虎にとって予想外の事であった。

 仮に葛葉紘汰を始めとするアーマードライダー達が奮戦しても、世界規模の騒乱を収める事は不可能であろうと貴虎は思っていた。

「世界中の主要都市が壊滅的被害を受けたと聞いた時はどうなる事かと思ったが、まだ人類にもヤツらに反抗するだけの力は残っていたか」

 貴虎がそう呟くと……

「世界中の主要都市が壊滅的被害?何を言っている、そんな知らせはどこからも入ってきて無いぞ」

 提督が意外な一言を返してきた。

「何?」

「第一、ヤツらは主要都市周辺の制海権は取っていない。都市を直接攻撃する手段に乏しいヤツらが、都市部に壊滅的な被害を与える事なぞ出来るわけがない」

「いや、あなたこそ何を言っているのだ?沢芽市を始めとして、世界各国にはオーバーロードの呼び出したインベスの群れが進行しているのではないのか?」

「沢芽市?オーバーロード?インベス?一体何の話をしているんだ、お前さんは」

 話が全く噛み合わない、目の前の男の言っている事に対し理解が及ばない。

 

 一時期、オーバーロードの支配する世界、ヘルヘイムの森に半ば幽閉されていた貴虎ではあったが、沢芽市に帰還した際にかつての部下、湊耀子らより世界に起こった出来事は全て聞いていた。

 その事実を知らない人間がいるなど信じられない。

 ましてや目の前の男は見るからに軍人。そんな人間が世界規模の危機を知らないという事などあり得ない。

 貴虎の頭の中は、混乱するばかりであった。

 

「……なるほどな」

 だが、その一方で何かを理解したかのように(えびす)提督は呟いた。

「貴虎、今度は俺から質問させてもらう。お前は深海棲艦について何か知っているか?」

「シンカイ……セイカン?いや、初めて聞く言葉ですが」

「艦娘という言葉に聞き覚えは?」

「……ありません」

 その後も提督は、貴虎に向けて質問を繰り返す。

 そして、一通り質問をした後に

「最後に、ここに来る前にお前は何をしていたのか話してくれ。もし話しにくい事があるのならば、無理して話さなくても構わん」

 と、貴虎の目を見据えて言った。

 見ず知らずの者に素性を話す事について、一瞬躊躇した貴虎ではあったが、今更隠し立てする事でもない。と思い直し、今までの自分の行いについて話し始めた。

 ユグドラシルコーポレーションでの自分の役割、ヘルヘイムの森による世界の浸食、それに対抗する為の人類救済計画『プロジェクトアーク』、自らアーマードライダーとなり、インベスらと戦いを繰り広げた事を……

 貴虎が話し終えると、それまで相槌すら打たずに黙って聞いていた提督は、暫くの間自らの顎に手を当て思考を巡らしていた。そして少々の沈黙の後、静かに口を開いた。

「単刀直入に言おう。ここはお前が元いた世界とは違う世界だ」

「……?」

 予想だにしていなかった答えが帰ってきた。

 貴虎が呆気にとられていると、提督は車椅子を近くの棚に横付けして、そこに置いてあった新聞をベッドの上の貴虎に投げ渡した。腿の辺りに軽い音を立てて新聞が落ちる。

「それを読め」

 貴虎は新聞を手に取るとそれを広げ、まず日付を確認する。日付の欄に記されていたのは……

「……412年7月20日!?」

 見覚えのない年号を表す数字。更に記事の内容に目を通す。

 オーバーロードの進攻について、何か書かれていないかと隅々まで目を通す。

 しかし、そのような記述はどこにも見当たらない。それどころか

【ジャム島制海権奪取】

【敵深海棲艦戦艦部隊に壊滅的打撃】

【横須賀鎮守府所属艦娘奮戦】

 自分にとって全く馴染みのない見出しや記事ばかりが目に入る。そこには先程提督が自分に向けて質問をした時に出てきた言葉が、数多く記述されていた。

「そんな、馬鹿な話が……」

 開いた新聞を持った手をゆっくりと降ろす。

「目を覚ましていきなりこんな話を聞かされて、頭の整理がつかない所だろうが、それが事実だ。気持ちが落ち着くまではゆっくりしていけ。それと、この事はむやみに他言しない方がいいぞ。頭のおかしなヤツだと思われる」

 提督は、こめかみの辺りを指で軽く叩く仕草をしながら言う。

「それは一体どういう意味で」

 と、貴虎が質問しようとした時、病室の扉が開いた。

「すみません、待たせしました」

 お盆を持った夕張が戻ってきた。その上には一人用の小さな土鍋とレンゲ、水さしとコップが乗っていた。

「失礼します」

 そう言って夕張はベッドに近づくと、棚上にお盆を置き、ベッド用のテーブルのセッティングを始めた。

「じゃあ俺は一足先に帰るとする。夕張、そいつの話相手をしててやれ」

 すると提督は、車椅子の肘掛部分を手で掴み、それを支えにしてゆっくりと立ち上がる。

「提督!一人じゃ危ないですよ!今、龍田を呼びますから座ってて下さい!」

 慌てた様子の夕張が、立ち上がろうとする提督を止めようとする。

「その必要は無い。これぐらい一人でも平気だ。これは後で俺の部屋に戻しておいてくれ」

 そう言って車椅子を軽く指で弾いた後、ぎこちない足取りで二人に背を向け歩き出した。

「あと、どうやらソイツは事故のショックで記憶があやふやらしい、何か聞かれたら丁寧に教えてやれ」

 夷提督は、最後に一言付け加え病室を出て行った。

 そして病室の扉が静かに音を立てて閉まる。

 病室に残された二人は、その様子を無言で見つめていたが、やがて

「あの人は、歩けないわけではなかったのか」

 貴虎が口を開いた。

「あ、はい。提督は今怪我の治療中で、時々リハビリのために歩行訓練をしてるんです。でもああやって、勝手に一人で行っちゃう事があって」

「人の手を煩わせるのが忍びない、とでも思っているのだろうか」

「仮にそうだとしても、何かあったら困ります。上官としてそこの所は、もう少し気を使って欲しいです」

 夕張は、若干呆れた様子で頬に手を当て、溜息をついた。

「あ、すみません。お食事の準備が途中でしたね。すぐ終わらせますから」

 そして夕張は、再びテーブルのセッティング作業に移る。

「ああ、すまない」

 彼女が準備を進める間、貴虎は窓の方へ視線を向け、そして考えを巡らす。

 弟との戦いに敗れて海に沈んだはずの自分が、目を覚ますと知らない世界にいた。

 これは自分の見ている夢なのか。一瞬そのような考えがよぎったが、時折体に走る痛みは、どう考えても現実のそのものであった。

 また、夢ではなかったとしてあの男、提督が嘘をついているようにも思えない。仮にそうだったとしても、偽の新聞まで用意して騙すなどといった手の込んだ事をするとは考えにくい。第一、貴虎を騙す理由がわからない。

 提督の言った通り、ここが異世界であると結論づけるのが正しいと思えたが、貴虎にはそれを事実として素直に受け入れる事は難しかった。

 

「あのー、早く食べないと冷めちゃいますよ?」

 その声に反応し、振り向く貴虎。すると、夕張が心配そうな面持ちでこちらを見つめていた。

「やっぱり、食欲湧きませんか?」

「いや、すまない。少し考え事をしていた」

「そうですか。何があったのか私にはわかりませんけど、これを食べて元気出して下さい。鳳翔さんのお粥とっても美味しいですから」

 そう言いながら夕張は、土鍋の蓋を開ける。

 すると、中から湯気と共に食欲をそそる様な香りが広がってくる。

 土鍋の中には、トロトロになるまでしっかりと煮込まれた玉子粥が入っていた。

 その上には若干のしらすと青菜が散らしてあり、彩りにも作った者の気遣いが感じられる。

 夕張は小鉢にお粥を取り分けると、レンゲと一緒に貴虎へ手渡す。

「どうぞ、召し上がれ」

「ああ。……いただきます」

 お粥をすくい、レンゲに息を軽く吹きかけ、適度に冷ましてから口へ運ぶ。

「……美味い」

 思わず感想が口からこぼれ落ちる。口の中でトロトロになった米と玉子が溶け合い、喉の奥へ流れ込んでいく。しらすのほのかな塩気も程よく、火が適度に通された青菜のシャキシャキとした食感が、小気味よい。一口、また一口とお粥を流し込む。そして小鉢が空になると、貴虎は自らおかわりをよそい、再びレンゲを口元へ運んでいく。

 思っていた以上に空腹であったのか、気が付けばあっという間に貴虎はお粥を完食してしまっていた。

「はい、どうぞ」

 傍に立っていた夕張が、水の入ったコップを差し出す。

「ああ、すまない」

 そう言ってコップを受け取り、貴虎はゆっくりと水を飲みほした。

「ふぅ」

 空腹を満たして体が満足したのか、自然と口から溜息が漏れる。

「美味しかったですか?」

「ああ、こんなに美味いものを食べたのは久しぶりだ」

 ここ暫くの間は変身用ベルト【戦極ドライバー】と、それに装着する【ロックシード】の力で栄養を補給していたおかげで、貴虎は食物を長い事口にしていなかった。

 そのため、食に対する感動もひとしおであった。

「そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名は呉島貴虎。宜しく、夕張さん」

「あ、宜しくお願いします」

 夕張は差し出された手を取り、貴虎と握手を交わす。

「じゃあ、私の方も改めて、さっきはバタバタしちゃってましたし。……夕張です。軽巡洋艦の艦娘としてこの基地に所属しています。宜しくお願いします。私の事は呼び捨てで呼んでもらって構いませんから」

 そう言って夕張は、軽く敬礼をしてみせた。

 すると貴虎は怪訝な表情をしつつ、夕張に向けて尋ねた。

「ああ、わかった。それと一つ聞きたいのだが、艦娘とは何の事だ?」

「……え?」

 思わぬ突然の質問に、きょとんとする夕張。

「さっきの男性、夷提督の話や新聞の記事から察するに、軍艦の乗組員の事だと思うのだが……本当にそうなのか?君の様な子が軍人をやっているなどとは少し想像しにくいのだが……」

(艦娘を知らない?嘘……よね、いくらなんでも)

「それと、深海棲艦というのは何なのだ?どうやら君らは、それと戦っているみたいだが」

(ええっ!?)

 この世界に生きる者にとって艦娘、そして深海棲艦という言葉は普通に生活していれば、嫌でも毎日耳にするぐらい馴染み深い物である。

 それを知らない人間がいるなどという事は、夕張でなくとも信じがたい事であろう。

(艦娘も深海棲艦も知らないって、どういう事?提督がああ言ってたから記憶喪失なのかと思ってたけど、話してみると全然そんな感じはしないし……)

 そうして夕張は、改めて貴虎の様子を窺ってみるが……

(う~ん、嘘や冗談を言っているようには見えないわね……)

「どうした?私の顔に何かついているのか?」

「い、いえ何も付いてないですよ」

 貴虎の反応に対し、若干狼狽してしまう夕張。

(とにかく話してみましょう。この状況じゃ説明しないわけにはいかなそうだし)

 そうして意気揚々と夕張は、貴虎に艦娘・深海棲艦についての説明を始めたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 人に何かを教えるためには、自分が理解するために必要な知識の三倍の量が必要などと、一般的には言われることがある。

 艦娘である夕張は勿論その道のプロフェッショナルであり、艦娘・深海棲艦に関する知識量で言えば、一般人を遥かに超える物を持っている。

 従って、それを人に教授することなど朝飯前である。

 しかし、その知識が全くない、艦娘・深海棲艦など見たことも聞いたことも無い、という人間相手となればまた話は違ってくる。

 お互いの常識、文化が異なる人間に教えるとなると、それは途方も無く困難となる。

 この場にいる二人にとって、円滑な意思疎通を図るには、その隔たりはあまりに大きかった。

 

 

「艦娘は軍艦の乗組員というよりは、どちらかというと運用の仕方としては、軍艦そのものに近いって感じで……」

「……乗組員ではなく、軍艦?」

 

「……海の上を泳ぐんじゃなくって“駆ける”というか“滑る”って言った方が良いのかな?」

「……海を、滑る?」

 

「……あとは、それぞれ艦種ごとに特徴があって……例えば空母の艦娘は、搭載した数種類の艦載機を飛ばして……」

「……艦載機?」

 

「……で、深海棲艦は一説によると、沈んだ軍艦の怨念の集合体、なんて言われていたり……」

「……怨念?」

 

 そんな具合に十数分程にわたって、夕張による艦娘・深海棲艦講義は行われ……

「と、まあ大体こんな感じなんですけど、わかりました?」

 話を聞き終えて貴虎は、口元に手を当てる仕草をしつつ、夕張から教わった事柄を頭の中で整理し始める。

 そんな彼の脳内では、夕張程の年頃の少女が何人も並んで腹這いになり、その背に窮屈そうに立った水兵を乗せ、ペンギンが氷上を滑るがごとく海の上を滑り、更にその近くでは、巨大な戦闘機をいくつも背負った少女たちが、海上をドタドタと走り回り、手に取った戦闘機を遥か遠方に漂う、艦橋部分に白の三角頭巾を巻きつけた軍艦に向かって力一杯に投げつける、というシュールな光景が広がっていた。

「…………すまない、この話は私には難しすぎるようだ。全く理解し難い」

 額の辺りを手で押さえながら、貴虎はそう応えた。

「そうですか……お役に立てなくてすみません。呉島さん」

「いや、君は一生懸命話してくれた。だから気に病む必要などない」

 貴虎は、上手く説明できなかった事を気にして落ち込む夕張を気遣う言葉をかける。

「それと、私の名前も呼び捨てにしてくれて構わない」

「えっ?」

「私の周りの人間は、私の事を名前か役職で呼ぶ事が多くてな。呉島さん、なんて呼ばれ方は慣れてないんだ。貴虎と呼んでもらった方がしっくりくる」

「そう、わかったわ……貴虎!」

 そうして、少々気恥ずかしそうに夕張は貴虎の名前を呼び、照れ隠しに軽く笑みを浮かべる。それに釣られてか、貴虎の口元にもわずかに笑みが浮かぶ。

「それじゃあ私は、食器と提督の車椅子を片づけて来るわね。何か持ってきて欲しい物とかがあれば持って来るわよ?」

「いや、大丈夫だ」

「そう、じゃあ行ってくるわね」

 そして夕張は、空になった食器を乗せたお盆を車椅子の上に置き、それを押し外へと向かう。貴虎は「そんな食器の運び方をして、大丈夫なのか?」と質問したが、夕張は笑いながら「いつもの事よ」と言い部屋を後にした。

 一人になった貴虎は、窓の外に目を向けながら

「艦娘に深海棲艦……その様な奇妙なものが存在するとは。どうやら、ここが異世界であるというのは事実のようだな……」

 と先程のイメージを思い起こしながら呟いた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その後、貴虎は戻ってきた夕張に手伝ってもらいながら、歩行訓練を行った。

 体調面への配慮や基地の機密に関わる事もあってか、移動したのは病棟内に限られた。

 医者の見立て通り、貴虎の体には目立った異常・後遺症は無く、長期間寝たきりだった事による若干の体力低下があったものの、概ね健康である事がわかった。

 そして、病室で貴虎が夕食を取り終えた頃に、再び夷提督がやってきた。

 彼の後ろには、車椅子を押してきた女性、艦娘と思わしき者が付き従っていた。

「体の方も大体は大丈夫なようだな。それと、後ろにいるのが龍田だ。俺の秘書をやらせている」

「龍田ですぅ。宜しくお願いします、貴虎さん」

 貴虎に向かって、龍田が軽くお辞儀をする。

「ああ、こちらこそ」

 合わせて貴虎も頭を下げる。

「さて、突然だが貴虎。お前には明日、横須賀に行ってもらう事になった」

「横須賀?」

「ああ、横須賀の鎮守府、事実上の総司令部からお呼び出しだ」

「貴虎さんの事は、横須賀の方に報告させて頂きました。そうしたら向こうの提督さんが、実際に会ってお話を聞きたいって言ってきたんですよぉ」

 (えびす)提督の言葉を補足するように龍田が言う。

「病み上がりでキツいだろうがな。まあ、我慢してくれ」

「いえ、私なら大丈夫です。こちらからも聞きたい話が出来ましたので」

「そうか、わかった。それと明日は九時に船が出航予定だ。遅れるなよ」

 貴虎に向けそう言うと提督は、貴虎の傍に立っていた夕張に視線を向ける。

「横須賀行きの船の護衛艦隊旗艦は夕張、お前に任せる。随伴する駆逐艦の小娘達を会議室に集めてある。すぐにミーティングを始めろ」

 すると龍田が脇に抱えていた封筒を夕張に向かって手渡す。

「はい、頑張ってね~夕張ちゃん」

「う、今からですか……わかりました!軽巡夕張、行ってまいります!」

 最初の一瞬、顔を僅かに歪めたものの、すぐに気持ちを切り替えて夕張は、早足に病室を後にして会議室へと向かっていった。

 そして、しばしの沈黙の後、提督が口を開いた。

「それと明日は俺も同行させてもらう。俺からも向こうに直接伝えなきゃならん事があるのでな」

 

 

 夕張は会議室への道すがら、歩きながら渡された書類に目を通していた。

(私の他に駆逐艦の子が二人か。通常の護衛と比べると編成人数が少ない気もするけど、ここから横須賀に行くだけならそこまで時間はかからないし、まあ大丈夫かな?)

 そうして建物を出た夕張は月明かりに照らされた道を、会議室のある施設の方へ向かって歩いて行った。

 

 

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