『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
巨大な怪物の剛腕が、緑と白色に彩られた装甲を身に纏う鎧武者、則ち“アーマードライダー斬月”と化した貴虎へ幾度も振り下ろされる。巨体に似合わぬ素早い動きで、矢継ぎ早に繰り出される拳撃。
しかしながら、その拳が斬月の身体を捉える事は無い。彼はインベスの動きを的確に読み、紙一重で攻撃を避け続ける。いや、それのみならず腕が振り下ろされる度に、斬月は手にした刀によって一太刀、また一太刀とシカインベスに傷を刻んでゆく。
攻めれば攻めるほど逆に傷を負ってゆくシカインベス。戦局の天秤は最早、完全に斬月の方へと傾いていた。
眼前で繰り広げられる未知なる戦闘。それまでに起こった不思議な出来事の数々。
目まぐるしいまでの状況の変化に対し、理解の追い付かない夕張は、ただただ茫然とするばかりであった。
そんな彼女の傍らに立つ陽炎が呟いた。
「貴虎さんも、提督やあの男の人みたいに変身するなんて……」
「提督……も?それに、あの男の人ってどういう事?一体何を言っているの?」
「そ、それはですね……」
夕張の質問に対し、陽炎は混乱気味の自らの記憶をどうにか整理しつつ、先程までに起こった出来事を夕張に説明していく。
「…………」
陽炎の話を聞く夕張の頭もまた、事実が明らかにされていくたびに困惑の度合いを増していく。驚きの言葉すら出てこない程に。
平時であれば、ただの作り話として笑い飛ばす事も出来たであろう。しかし彼女が体験した出来事、今まさに目の前で繰り広げられている光景がそれをさせてくれない。
(訳がわからない、一体この島で何が起こっているっていうの?)
そして時は、貴虎がインベスと対峙し、戦極ドライバーを手にする少し前へと遡る。
――――――――――――――――――――――――――――――
琥珀色の仮面を付けた兵士が、人の手形を模したベルトのバックルに、指輪のはめられた右手をかざす。
【アロー・ナーウ】
ベルトから低い鐘の音。加えて、呪文のようでいて且つどこか電子的な雰囲気を思わせる音声が響くと共に、淡い光が溢れ出す。そして兵士の正面の虚空に魔法陣が出現した。
魔法陣より飛び出した幾本もの光の矢が、
矢を躱したスカルが着地した隙を付いて、別の兵士が鋭い鉤爪の様な武器が付いた腕を振り下ろした。
「ふんっ!」
鉤爪が装甲に傷を刻むかと思われた寸前、スカルは敵の腕を掴み取った。そして腰を深く落とし、腕を引き寄せる。バランスを崩しよろめく相手へ更に足払いを仕掛け、地面に倒し伏せた。トドメと言わんばかりに吐き出される「フッ!」という低い掛け声、首筋へ向け振り下ろされるスカルの手刀。だがしかし……
「ぐッ!」
三体目の敵が手にしていた槍の様な武器が、スカルの胴を打ち据えた。思わず彼が怯んだ所へ、流れるような連打を琥珀面の兵士が浴びせかけていく。
そして、フィニッシュとばかりに繰り出された猛烈な勢いの突きによって弾き飛ばされたスカルは、地面に身体をしたたかに叩きつけられる。好機とばかりに倒れている彼に向かって、先程光の矢を放った兵士が新たな攻撃を仕掛ける。
【サンダー・ナーウ】
新たな音声と共に、今度は緑色に眩く輝く電撃が放たれた。
同時に響く銃声。
電気の帯はスカルの身体を捉えることなく、彼の上方へと逸れていった。そして電撃を放った兵士は、腕を押さえて跪いていた。
帽子のズレを、片手で直しながら立ち上がる仮面ライダースカル。もう片方の手にはスカルマグナムが握られていた。
「倒れたと同時に追撃を予見し銃を手に。そして正確に相手の腕を狙い撃って攻撃を逸らす。まったく、溜息が漏れそうになるくらいの鮮やかな射撃。正に神業だね。同じ銃使いとして惚れ惚れするよ」
スカルへ向かって賛辞を述べつつ、ディエンドが軽く二、三度拍手をする。
「奇妙な技を使う手下に戦いを任せて、自分は高みの見物か。俺も舐められたもんだな」
「僕が一緒になって戦ってしまっては、戦いは呆気なく終わってしまうからね。極上のお宝が最も輝く瞬間を目に焼き付ける、それもまた楽しみの一つなのさ」
悠々と語るディエンドは更に告げる。
「それと一つ教えてあげよう。彼らの使う技は“魔法”さ。彼らは魔法を使って戦うライダー、仮面ライダーメイジ」
「魔法使い、か。まるで御伽話のようだな」
「ではショータイムの続きだ。魔法使いの兵隊さん、骸骨魔人を退治して、お宝を僕の手に捧げてくれたまえ」
ディエンドがパチンと指を鳴らす。それと同時に三体の仮面ライダーメイジは、再び仮面ライダースカルへと襲い掛かる。左からは鉤爪を構えた、右からは槍状の武器“ライドスクレイパー”を手にしたメイジが、各々の武器を振り下ろす。
「魔法使いなんてのは……」
ボソリと呟いたスカルが瞬時に大きく真上へと跳躍。樹上へと飛び移り、二体のメイジの攻撃から逃れる。
樹上のスカルへ向け、残りの一体のメイジが魔力解放のためにベルトのバックルへと、電撃の魔法の力が込められた指輪をかざした。
「子供に夢でも見せてりゃいい。いい歳したオヤジなんかに構ってないでな」
スカルマグナムの銃口が、地上のメイジにピタリと向けられていた。
《スカル!マキシマムドライブ!》
跳躍すると同時にスカルは、ガイアメモリをスカルマグナムへと装填していた。
メモリの力によって強化された弾丸が、銃口から放たれる。狙いすまされた一撃は、スカルを撃ち抜かんとかざされていたメイジの手へと、吸い込まれるように飛んでいった。そして紫色のオーラを纏った弾丸によって、メイジの指輪が打ち砕かれる。
微かなエメラルドグリーンの煌めきを放ちつつ、指輪を構成する素材である魔法石の破片が周囲に飛び散った。
刹那、
指輪を砕かれたことによって、行き場を失い暴走した電撃の魔力が、メイジの身体の表面で弾け飛んだ。自らの電撃によって、メイジはその身を焼かれる事となったのだ。眩く弾ける電撃により身体を痙攣させられながら、メイジは無残にも倒れ伏したのだった。
その様子を目の当たりにし、残り二体のメイジは動揺したかのような仕草を見せる。しかしながら、それも一瞬の事。危機を察知し、即座にメイジらは後方へと跳びすさる。二人のいた位置にスカルマグナムの銃弾が降り注いだ。
(ふむ。ガイアメモリの能力による肉体の強化。加えて敵の行動を常に先読みするほどの洞察力。或いは推理力と言うべきか?怪我人と思って侮っていたけど、なかなかどうして予想以上の曲者だね)
視線の先にて、メイジと再び格闘戦を繰り広げ始めたスカルの姿を見て、ディエンドは嘆息したのだった。
彼の視界の端で、倒されたメイジの姿がスッと消滅した。それを気に留める者は誰もいなかった。
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常人では数メートル先を見通す事はおろか、手元をハッキリと見る事すら困難な程に暗い森の中。しかしながら、そこでは剣戟音が幾度となく響き渡り、弾け飛ぶ火花が宙を舞っていた。
陸地の夜よりも暗い宵闇の大海を航行し、任務を遂行する事など常である艦娘の天龍。
夜間での集団戦闘をも、難なくこなす事が可能なライオトルーパー。
両者にとってこの程度の暗がりは、戦闘において多大なる支障を来すようなモノではなかった。
「はあぁぁぁっ!」
雄叫びと共に振り下ろされる天龍の刀。その重く激しい一撃をライオトルーパーは、いとも容易く短剣で受け止める。
と、即座に天龍は跳ぶように一歩後退。続けざまに右側からの横薙ぎの一撃を、叩きつける様に繰り出した。
だが、それもまたトルーパーに呆気なく受け止められる。
「クッ!」
歯噛みした天龍は数歩後退し、刀を構え直した。
(オレの全力を受け止め続けて平然としてられるだけの力と体力、切ったり撃ったり色々とこなす妙な武器、おまけに暗所での戦闘も達者ときやがる……。提督と同じような、何ちゃらライダーとかってのは、こんなに強ぇモノなのかよ)
思案する天龍は、より刃こぼれの増した愛刀と、ライオトルーパーの手にしたアクセレイガンを交互にチラリと見やる。
(ヤツの武器には消耗してる様子が見られねぇ。やっぱりこれ以上打ち合って耐えきれるかは怪しい所だな……)
ライオトルーパーが手にしている短剣――アクセレイガン――の刃は“フォトンブラッドエネルギー”という特殊なエネルギーを纏っている。フォトンブラッドは出力が強力であれば、触れた生物などを一瞬にして灰と化してしまう程の強大なエネルギーを秘めている。もっとも、ライオトルーパーの武器に使用されているエネルギーは、大幅に出力が抑えられたものであり、物を瞬時に灰化させてしまえるような力は持ち合わせていない。
だが低出力のエネルギーであっても、それは刃に高熱を発生させ、並の物体であれば容易く切断してしまえる程の性能を持っていた。
―――それと渡り合う事が出来ている艦娘の武装も、並大抵の物では無いのだが―――
無論、天龍がそこまでの情報を知りえているわけでは無い。しかしながら、尋常ではない速度で劣化してゆく愛刀の様子に只ならぬ脅威を感じていた。
実力の知れない未知の相手に対し、天龍は本能的に危機感を覚えていた。そしてそれは、彼女の戦い方を彼女らしからぬ程に慎重なものとさせていた。
(ったく、攻め難いったらありゃしねぇ!)
天龍は柄を握る手に力を込めると共に、再度攻撃を試みる。が……
「!?」
刀の先からピシリという異音と共に、微かな振動が天龍の手へと伝わった。
(やべぇ!こんなタイミングで!)
それは彼女の愛刀の刃に、亀裂が走った事を意味していた。
これに動揺し天龍は、攻撃の手を一瞬遅らせてしまう。
トルーパーは、生じた隙を見過ごさなかった。勢い、角度、諸々が中途半端な刀の撃ち込みを、短剣の刃でもって滑らし受け流す。
それにより天龍はバランスを大きく崩し、前のめりに倒れてゆく。
ライオトルーパーは、アクセレイガンを素早く逆手に握り直し、天龍の背へ向けて突き立てる…………その瞬間
「え~~いっ!」
間延びした掛け声。それに似つかわしくない、雷光のような鋭い突きが共に繰り出され、トルーパーの胴を脇から打ち据えた。
不意打ちを受けたトルーパーは、体勢を崩してたたらを踏む。
生まれた一瞬の隙の間に、倒れ行く天龍の服の襟を、声の主――龍田――が片手で引っ掴んだ。
「ぐえっ!」
喉を締め付けられた天龍が呻き声を上げた。しかし、そんなことはお構いなしに、龍田は天龍を後方へと放り投げる。
泥を跳ね上げながら転げる天龍を尻目に、自らも後方へと跳びすさりつつ、龍田は腰に下げていた吹雪型駆逐艦用の連装砲を手にする。
そしてトルーパーへ向けて砲撃を放ったのだった。
撃ち出された砲弾は、突きを打ち据えられたトルーパーの脇腹付近へ着弾。爆発の衝撃が、その身体を数十メートル先へと吹き飛ばした。
「っ、ぺっ!……龍田!お前なぁ!」
僅かに口に入った泥水を吐き出しつつ、声を荒げて天龍が言った。
「あら~ごめんなさいねぇ~」
相変わらずの暢気な口調の龍田へと、詰め寄って行く天龍。彼女は相棒に向け更に文句を告げようとするが
「らしくないわよ、天龍ちゃん」
龍田の人差し指を口へと当てがわれ、押し黙ってしまう。
「刀にヒビが入ったくらいでな~に?ヒビが入っても刃が折れるまで、折れたなら残った刃で、刃が無くなったら残った柄で殴る。それも壊れちゃったら、手あたり次第使える物を何でも使って攻撃する。その位のガッツは持ってるはずよ、あたしの良く知る天龍ちゃんは」
目を細め、笑みを浮かべて言う龍田の手を横にのけて
「……ハァ。ったく、ムチャクチャ言いやがる」
ため息混じりに呆れて呟く天龍だったが
「わかったよ。ゴチャゴチャ考えるのはヤメだ。お前の言う通りガンガン攻めてやるよ。その分フォローぬかるんじゃねぇぞ!」
「もちろんよ~。いつも通り、ちゃ~んと天龍ちゃんの空けた穴は埋めてあげる」
そう言うと二人は、握った拳を頭上でぶつけ合った。そして砲撃の衝撃から立ち直り、体勢を整え始めた敵へと向かって全力で駆けていったのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
重低音を響かせてエンジンが唸りを上げ、高速回転するプロペラが空気を切り裂いていく。木々の間をすり抜けて飛ぶ、三機の零式艦戦21型は、目標の敵影へと一直線に向かって行く。
間もなくして射程圏内へと入り込んだ21型の編隊は、前方より走り来る敵へ機銃の掃射を開始した。
が、その瞬間。一機の21型が光弾に貫かれ爆散。跡形もなく消滅したのだった。
僚機の撃墜を受け、残る二機は敵の射線から逃れるべく、進路を変え散開する。
しかし木々の生い茂る森の中、敵に相対しながらのそれは困難を極める。
残ったうちの一機――撃墜された21型に最も近かった――は左方向へと旋回。機体を九十度傾け、木々の間を通り抜ける。一度、二度と障害を辛くも躱していくが、強風にあおられた枝葉がその行く手を遮る。回避行動を取る間もなく接触した機体は、バランスを崩し地面へと墜落。爆発炎上する。
最後の一機は、近くに運良く開けていた木々の切れ目に向け機首を一気に上げ、上空への退避を試みる。
だがしかし、それを追って地上より放たれた数発の光弾に敢え無く撃ち抜かれ、他の機体と同様の運命をたどる事となったのであった。
そして三機の零式艦戦に狙われていた敵、ライオトルーパーの一人は上方へ向けていた視線を落とし、周囲を見渡すと歩を進め出したのだった。
「っ!……やはり……厳しいですね」
「鳳翔さん大丈夫?」
疲労で呼吸が荒くなっている鳳翔に、那珂が声をかける。取り出したハンカチで、鳳翔の額に浮かぶ汗を拭う。呼吸を整えつつ鳳翔は、那珂へ向け軽く頭を下げた。
「アカン。どんどん攻撃が通じなくなってきとる」
そして、傍らの黒潮が不安げに呟いた。
三人はライオトルーパーの追跡から逃れつつ戦闘をこなしていた。
不慣れな場、状況での戦いは、彼女達の――特に主戦力である鳳翔の――集中力と体力を確実に奪っていった。
そして、次第に状況は彼女らにとって不利になってきている。
要員としては、三人のうち最も強力な戦力である、鳳翔の艦載機による攻撃が通用しなくなってきていたのが大きい。初遭遇時こそ半ば奇襲に近い戦法により優勢に事を運べていたが、戦闘を重ねたトルーパーは艦載機による攻撃に対し、的確に応戦し始めていた。
言わずもがな森林の中は、元々艦載機を運用するには適さない環境である。そんな中で普段以上に神経を使っている鳳翔の疲労具合は、他の二名の艦娘の比では無かった。
(手持ちの矢は残り三本。機動力のある艦戦は今ので全て撃墜され、残るは小回りのききにくい艦爆のみ。闇雲に発艦させれば墜落、若しくは撃墜されるだけ。…………この状況を打破する手、全く無いわけではありません。ですが…………)
肩を上下させ呼吸を整えつつ思案する鳳翔。その表情には苦渋の色が浮かんでいた。
だが暫しの逡巡の後、彼女は意を決して口を開きかける。……と
「鳳翔さん、ここは那珂ちゃん達が引き受けるよ」
「え?」
「やっぱりあの仮面の人を舞台から降ろすのは、鳳翔さんじゃないと難しいと思うんだ。那珂ちゃんと黒潮ちゃんで仮面の人を釘付けにしておくから、鳳翔さんは最高のタイミングを見つけて、花火を打ち上げちゃって。ドッカーンって!……あ、でも爆撃するなら打ち上げじゃない?打ち落とし?……んん?」
人差し指を頬に当て小首を傾げる那珂。その提案の内容と不釣り合いな緊張感のない彼女の様子に、鳳翔は目を瞬かせる。
那珂の提案は、正に鳳翔が考えていた事と合致していた。
二人に囮となってもらい、その間に遠距離より艦爆隊を発艦。隙を見て高高度からの一斉爆撃を試みるという作戦。
「せやな。それしかあらへんな」
黒潮も提案に同意を示す。
「空母を護るために囮を引き受けたり、無事に艦載機を発着艦できるよう露払いするのは水雷戦隊の勤めや。ウチらにドーンとまかしたって下さい」
自身の胸元を拳で叩き、力強く言い放つ黒潮。その表情はとても誇らしげに見えた。
「今は那珂ちゃん達が徹底的にサポートする番。だから鳳翔さんの最高の舞台、あの仮面の人に見せつけてあげてよ」
満面の笑みを浮かべ、身体の正面で両手を握りしめ、小さくガッツポーズをする那珂。
自身が口にしようとした事を先に言われたばかりか、力強い言葉で背中を押されてしまった。二人につられるように、鳳翔の表情にも思わず笑みがこぼれた。
「……ふふっ、わかりました。この場は二人にお任せします。皆で頑張りましょう!」
鳳翔は軽く会釈をすると踵を返し、低い姿勢を保ちつつ駆け出し始めた。
と、その時。一条の光が彼女らの頭上を掠めるように走ったのだった。
「っ!?」
思わず飛び出そうになった悲鳴を、すんでの所で押しとどめ、三人は地面に倒れ込むように姿勢を低くし身を伏せた。
三人からそう遠くない距離で鳴り響く、木の破砕音と落下音、衝突音。
続けざまに多数の光弾が、彼女らの頭上を飛び交っていく。
光弾に幹をえぐり取られた木が、グラりと地面へ地響きを立てて倒れ込んだ。それは丁度、那珂と黒潮、少し離れた鳳翔を分断するように。
(アカン!見つかってもうた!)
そう思った黒潮は匍匐前進で僅かに移動し、木陰から顔を覗かせた。
彼女の視線の先には、銃を撃つライオトルーパーの背。
ライオトルーパーは四方八方へと銃を乱射していた。幹との分かれ目を撃ち抜かれた枝葉が、地面へと次々落下してゆく。銃撃によって削られた木々が、将棋倒しのように倒れてゆき、激しい地響きの音が辺りを包み込む。
(ん?……敵さん、ウチらを見失ってヤケになっとる?…………ちゃう!そうやない!アイツの狙いはまさか!?)
――――――――――――――――――――――――――――――
「いっけぇ!」
吹雪の手にした連装砲から次々に砲弾が放たれ、ライオトルーパーの周囲に着弾する。
さしもの敵も吹雪の攻撃を警戒してか、慎重に回避運動をとっている。迂闊に近づくようなマネはしないようで、障害物などを上手く活用し、攻撃の威力や射程などを探りながら、少しずつ着実に吹雪らとの距離を詰めていく。その姿に対し、攻勢に出ているはずの吹雪の方が、逆に焦りを感じ始めていた。
だがそんな気持ちに臆すまいと、歯を食いしばって砲撃を続けていく。
「私達が力を合わせればきっと勝てますよね!……って川内さん何をしてるんですか!?」
「ん?」
吹雪の隣に立っていた川内は、悠長に腕組みをして、吹雪とトルーパーが戦う様を眺めていた。
「ちょっと敵さんの観察をね。そもそも私らの攻撃がどの程度通じるか分からないし」
「そんな!?さっきあんなに威勢よく啖呵を切っていたのに!」
「それにさ、今私が撃てるのって模擬弾だからね~」
あっけらかんと言い放つ川内。吹雪はむくれたような表情で前に向き直り、砲撃を継続した。
川内はトルーパーと吹雪を交互に見やりつつ、考え込むような仕草をする。そして暫くして
「よし!とりあえず逃げるよ!」
と言うや否や、踵を返して走り出したのだった。
「ちょ、ちょっと川内さん!?」
「ほらモタモタしないで、走って走って!」
川内の行動の意図が全く分からず困惑する吹雪であったが、即座に方向転換し、彼女の後を追い始めた。
川内は敵の追走を振り切るために、わざと足場の悪い所や、木々の密集している狭い隙間を駆け抜けたり、茂みに飛び込んだりと森の中を縦横無尽に駆け回っていた。
吹雪は置いて行かれまいと、川内の後を必死になってついて行く。
「ハァ……ハァ……」
「吹雪、大丈夫?」
息を切らせる吹雪の隣へと、走る速度を緩めた川内が近づき並走する。
吹雪は息を切らせ、途切れ途切れながらに応えた。
「あんまり……大丈夫じゃ、ないです。一体、何なんですかもう……」
「ごめんごめん。あのまま戦ってても、状況が悪化するだけ思ったからさ。取りあえず逃げながら時間を稼いで対策を考えようと」
「それなら、そうと……先に言って……ください。ハァ、ハァ」
「いやあ、アハハ。それにしてもアイツら何者なの?私は天井から一通りの様子は見てたけどさ、会話はさっぱり聞こえなくってさあ」
「私にもよくわかりません。別の世界から来た、というような事は言ってましたけど……」
「別の世界か、何だかマンガとか映画の話みたいだね」
「だけど、あの光景を見たら信じざるを得ないです」
吹雪の脳裏にディエンドの変身、そして彼がトルーパーズを呼び出した時の様子が思い起こされる。加えて提督までもがディエンドの言う“仮面ライダー”という者に変身したのを……
(別の世界の人達、もしかして提督も同じ所から?)
「それにしてもさあ」
との川内の声に、思考の海を泳ぎ出そうとしていた吹雪の意識が引き戻される。
「随分とアンバランスな装備を持ってきたもんだねえ」
そう言いつつ吹雪を眺める川内。
「緊急事態でしたから。那珂……ちゃん、と手分けして他の人の分の兵装を掻き集めてきたんです」
吹雪は普段出撃する際に“缶”と呼ばれる艤装を背負っている。それは艦娘の装備の中枢となるもの、言わば制御装置のようなもので、これがあることにより各種兵装は100%の力を発揮できる。その形状や大きさは艦種、型式により異なっており、吹雪のように大型の装備を背負う艦娘もいれば、川内のように制服と一部一体化し、比較的コンパクトにまとまった形式の装備を身に纏う艦娘もいる。
「私は完全武装すると、陸上では逆に戦いにくくなってしまいますから」
「だったらその足のやつは、いらなかったんじゃない?」
川内は吹雪の足元を見やる。そこには普段彼女が出撃の際につけている海上航行用の艤装があった。それがあるせいか吹雪は若干走りづらそうだった。
「こ、これはいつものクセでつい履いてきてしまって……」
加えて腰には急ごしらえで持ってきたと思われるいくつかの武装、予備の連装砲の他に対空用の機銃など、あまり現状では役に立たなそうな装備が、バンドのような物で括り付けられていた。
(本当に慌ててたんだねえ、“あんなもの”まで持ち出して……)
吹雪の武装を眺める川内。と、その視線がある一点に釘付けになった。
(あれは……それにこの場所……)
川内は足を止め周囲を見渡し始める。
(あそこならコレを有効に使える?)
「川内さん?」
不意に足を止めて思案する川内を、吹雪は訝しむ。
更に何か話しかけようとする吹雪を、川内は手で制した。集中して考え込むその仕草に、思わず開きかけた口を噤む吹雪。
(そう、どんな相手だろうと私達は私達の戦い方をするしかない。そして勝つんだ!)
大きく目を見開いた川内は、吹雪の両肩をガシッと掴む。そして突然の事に戸惑う彼女の目を見て、自信たっぷりに言い放った。
「これなら行ける!絶対勝てるよ!」
満面の笑みを浮かべた川内は、意気揚々と自らが発案した戦略を吹雪へと語り出したのだった。
艦娘達の反撃の幕が開く……