『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
そこかしこから響き渡る木々の破砕音が周囲を覆いつくす。
バキバキと音をたて、黒潮と那珂が身を潜めている場所へと、幹を砕かれた大木が倒れ込んできた。
二人は咄嗟に横へ身を投げて、間一髪でこれを回避する。そして地面へと体を這いつくばらせながら、どうにか押しつぶされずに済んだ事に安堵の溜息を漏らす。
伏せる二人の頭上では何発もの光弾が飛び交い続けている。次々と木々が倒れてくるこの場に留まるのは危険であるが、焦って迂闊に立ち上がれば光弾に撃ち抜かれてしまうかもしれない。
彼女らは息をひそめて、時には倒れ来る木々に潰されないよう身を転げさせ、銃撃の嵐が過ぎ去るのをひたすらに待った。まるで数十分、数時間もの長さに感じられるような“短い”時が過ぎ、やがて辺りは静寂に包まれる。
「黒潮ちゃん、大丈夫?」
那珂はそっと頭を上げ、倒木を隔てて反対側にいると思われる黒潮へ声をかける。
「ウチは平気や。那珂はんも大丈夫そうやな」
黒潮も恐る恐るといった具合で、倒れ込んだ状態から少しずつ体を起こし、姿勢を低くしたまま周囲を見渡した。
光弾を受けて薙ぎ倒された木々が、地面に数多く横たわっている。森の光景は様変わりし、木々が林立していた一帯はさながら荒野のような見晴らしであった。
そして、この惨状を作り出した銀面の戦士が、武器を構えて悠然とした足取りで二人の元へ近づきつつあった。
「ううっ、隠れる場所が無くなっちゃた」
「それに倒木が邪魔で思うように動けへんでコレは……」
「大ピンチ……だね」
接近戦が得手ではない彼女らは、木々の間に身を隠しながら逃走しつつ戦う事で、どうにかトルーパーと渡り合えていた。だが最早この状況では、その戦法を取る事はできない。
正面切っての戦いとなっては、彼女らがトルーパーと互角に戦う事は厳しいと言わざるを得ない。
「どうしよう、八方ふさがりだよ」
「は、ははは。周りはだだっ広く開けておるんやけどな」
冗談っぽく言葉を発する黒潮であったが、それと裏腹に余裕などは一切なく、背筋には冷汗が流れ落ちる感覚が伝わっていた。
那珂も対処法を模索するが、自分達へ静かにゆっくりと向けられている銃口から放たれるプレッシャーを感じ、思わず喉を鳴らし息をのんだ。
ライオトルーパーは引き金に掛けた指にゆっくりと力を込めた。と、その時
「ありがとうございます。貴方のおかげで狙いやすくなりました」
トルーパーは背後から聞こえてきた声に振り返る。そこには弓を構えた鳳翔の姿があった。
「鳳翔さん!?」
那珂が驚きの声をあげる。
「しかし、これ以上この島を破壊し、皆に危害を加えるのは許しません」
凛とした声色で鳳翔は告げ、手にした弓を弾き絞る。
対するトルーパーも、鳳翔へ向け銃の狙いを定めた。
単なる矢の攻撃であれば、ライオトルーパーの装甲には何ら脅威とは成り得ない。だが、彼女が矢を戦闘機に変化させる能力を持ち、その攻撃が軽んじる事は出来ない程に強力であることを、トルーパーは十分に思い知っていた。従って、みすみす彼女に矢を放たせるつもりなど無かった。
素早く彼女を仕留めて残りの二人も始末する。そう判断したトルーパーであったが、一つの奇妙な違和感が攻撃の手を止めさせた。
「…………」
黙して弓の弦を引く鳳翔。だが、そこに番えられていたのは矢ではなく、それと良く似た長さの木の枝であった。
矢を全て失ったのか、焦ってそこらに落ちていた枝を手にしてしまったのかは定かでないが、そのあまりに間の抜けた鳳翔の姿を見て、嘲笑うかのように肩をすくめるトルーパー。そして再び銃を構え、彼女に向け照準を合わせようとする。
「……残念ですが」
と鳳翔が静かに口を開いた。
「全機発艦済みです」
そう言ってニコリと鳳翔は微笑む。と同時に上空から空気を裂くようなプロペラ音とエンジン音が響き渡る。
音のする方向、自らの頭上へと面を向けたトルーパーの目に映ったのは、三機の艦爆の編隊が自らの立つ場を目がけて急降下を開始する光景だった。
トルーパーの銀面に表情が浮かぶことは無い。もしもその表情があったとしたなら――いつの間に――とでも言いたげに驚愕の色を浮かべていた事であろう。
鳳翔は光弾が飛び交い、木々が倒れ行く混乱した状況の中で、僅かな隙を見て上空へ向け矢を放っていたのである。
不安定な場、混乱した状況、不慣れな姿勢で矢を射るその技量、判断力は人並外れたものであった。
そして彼女の一連の行動は、ほんの僅かの間であるが、ライオトルーパーの状況判断力を大いに鈍らせた。
トルーパーは迫りくる艦爆へ向けてアクセレイガンを発射する。艦爆は機体を傾けてそれを回避。だが乱射される光弾の一発が、先頭の一機の左翼を撃ち抜く。コントロールを失った機体は軌道を外れ、あらぬ方向へと墜落していった。
続けて、残る機体に狙いを定めるトルーパーであったが……
「させへんで!」
「え~いっ!」
黒潮と那珂が援護砲撃を開始した。
砲弾がトルーパーの周辺へ次々と着弾。巻き上げられた土が視界を遮り、爆風による衝撃が狙いをブレさせる。
しかしながら、それでも光弾の一発はターゲットを捉えた。それは艦爆の一機の尾翼を掠め消失させたのだ。
安定性を失った機体は、錐もみ状態となり墜落を始める。だがそれでもなお、艦爆はトルーパーへ向けた軌道を外れることなく突撃してゆく。その姿はさながら、狙った獲物を必ずや仕留めんと降下する猛禽類の如く。
一方でその軌道を読んだトルーパーは、後方へ跳びすさって回避しようと脚に力を込める。
「喰らいや!」
その瞬間、黒潮の放った砲撃が彼の足元へと着弾した。地面を大きく穿つ一撃。
足元を崩されたトルーパーはバランスを失い、跳躍しようとした勢いそのままに、仰向けの姿勢で倒れ込んでしまう。
そして、その胸元を貫くように錐もみ状態の機体が墜落する。トルーパーの身体から激しい爆風と爆炎が噴き上がった。膨大な熱量と衝撃の奔流に飲み込まれたライオトルーパーの視界に最後に映ったのは、爆炎を突き破り、自分目がけて降り注ぐ爆弾の雨であった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ、ハァ、ハァ……」
緊張した面持ちの吹雪が、荒げる呼吸を整えつつ、連装砲を構えていた。汗がこめかみから頬、顎へと伝って滴り落ち、水溜りに波紋を作る。
雨粒と汗で湿った額に前髪が張り付く。それを煩わしく思う気持ちを心の隅へと追いやって、彼女は戦闘へと意識を集中する。
吹雪は自分の前方、数十メートル先に薄っすらと見える影に向かって、がむしゃらに砲撃を放った。
しかしその影はそれを容易く回避する。数度の交戦を経た末に、彼女の砲撃の軌道は敵に読まれるようになっていた。
それでもなお果敢に砲撃を放とうとした瞬間、言い知れぬ悪寒を感じ、吹雪は咄嗟に身を屈めた。
吹雪が背にしていた大岩の一部が砕け、破片が周囲へ飛び散った。
「ひゃあ!」
思わず悲鳴を漏らす吹雪。
今にも崩れ落ちてしまいそうな位に震える足腰。だが彼女はグッと力を込めて立ち上がり、正面へと向き直る。
その闘志は未だに衰えてはいない。だが今の攻撃は偶然、運よく避けられただけ、恐らく次は無いであろう。
(川内さん、まだですか!?)
心の中で吹雪が叫びをあげた、その時
「待てっ!」
勇ましい声と共に砲声が鳴り響いた。
カンカンという乾いた音が鳴ると共に、ライオトルーパーの装甲に軽い衝撃が走る。
トルーパーは声と攻撃の飛んできた方向を一瞥する。
そこには橙色の服を着た少女が小さな砲塔の括り付けられた腕を構え、続けて攻撃を放とうとしている姿が見えた。
激しい砲声音に似つかわしくない、まるで豆鉄砲かと思う程に弱々しい攻撃。
トルーパーは川内の事など興味ない、と言うかのように吹雪の方へと向き直り、着実に彼女を仕留めんと歩を進める。
「待てってば!お前の相手は私だ!」
川内が腕の主砲を撃つ。
これに対してライオトルーパーは回避行動すら取ろうとしない。
ゆったりと歩くその足が水溜りを踏んだ。パシャリと音がし水が飛び散る。
「こら!無視するな!」
自分の事を完全に侮っている敵へ向け川内は大声で叫ぶ。そして砲撃の手を止め、構えを解いた。
「私のことを甘く見ていると!」
怒気と苛立ちを孕んだような大声で言葉を放ちつつ、右手を腰の後ろへと回し
「……痛い目を見るよ」
口元にニヤリと笑みを浮かべ、相手に聞こえない程の微かな声でポツリと呟いた。
彼女が手にしたのは金属製の筒状の物体だった。
右手に握ったそれを川内は、立て膝になる程に腰を深く落とした姿勢、いわゆるアンダースローの投法でライオトルーパー目がけて放ったのである。
地面スレスレから浮き上がるように、きりもみ回転しながら飛んでいくそれは、トルーパーの腿の付け根付近に凄まじい勢いで衝突した。
その次の瞬間、ライオトルーパーの身体は突如発生した激しい衝撃により、宙へと舞い上げられていた。
川内の放った物。それは軽巡洋艦の主要武器の一つにして、最大級の威力を持つ物“魚雷”であった。
突然の出来事にライオトルーパーは困惑する。
身体を襲った衝撃と浮遊感とが思考を混乱させる。
縦方向にグルグルと回転する身体、眼前で天と地とが目まぐるしく入れ変わる。
常人であれば身を襲った謎の衝撃により恐慌状態となり、場合によっては走馬灯を垣間見るやもしれない。
だが、ライオトルーパーはそうはならなかった。困惑するもそれは僅かな間。謎の爆発による自分の身体へのダメージは、致命的なものでは無いと冷静に感じ取り、更に状況を分析する。己が体は上昇を終え、地面への落下へと移行している状態である、と。
その落下予想点付近には、ターゲットであるセーラー服を着た少女の姿が。
幸いにして雨でぬかるんだ地面へと叩きつけられたところで、大きな損傷を負うとも思われない。
ならばとトルーパーは瞬時に判断し、着地の瞬間に受け身をとり、即座に起き上がり、攻撃へと移行できるようにと算段を整える。
そして一瞬の後、落下するトルーパーの身体は地面へと接触、その衝撃を算段通りに受け流す……事は無く、深く深く“沈没”していったのであった。
眼前に落下した敵の姿が足下へと消え去った瞬間、吹雪は水面を全力で駆け出した。
完全装備ではない今の吹雪には、普段のように水上を航行する事は不可能だ。だがその状態でも足の艤装には浮力は働き、アメンボのように艦娘を水面に立たせる事が出来る。
「これで……決めます!」
文字通り水上を走る吹雪はトルーパーの着水点を通り過ぎる瞬間、腰に括り付けられた武器のジョイントを切り離した。
落下していく小さなドラム缶のようなその武器は〈爆雷〉対潜水艦用の爆弾である。
投下された爆雷は、ゆっくりと池の底を目指して沈んでゆく。
「こいつもオマケだぁっ!」
ダメ押しとばかりに、川内が魚雷を一本投擲した。
放物線を描いて飛んだそれは、着水と同時に池の底めがけて推進する。
やがてそれは、水中でもがき蠢くライオトルーパーの周囲へ、多数の爆雷と共に到達した。
そして爆雷の一つが、ある深度まで到達し、炸裂。
爆雷が生み出す水中爆発の衝撃は、他の爆雷にも連鎖的に伝わっていく。
急激な水圧変化と衝撃が、ライオトルーパーの全身に襲い掛かる。
たちまちのうちにライオトルーパーは、その強固な装甲を持つ身体を粉砕されたのであった。
陸まで全力で吹雪が駆け抜けた時、後方で爆発音と共に強大な水柱が立ち上がった。
連続で何度も巻き起こる爆発。
噴き上がった水が、雨のように地面へ、水面へと降り注ぐ。
吹雪とその傍らに近づいてきた川内は、黙してその光景を見つめていた。
やがて水柱の発生が収まり、激しく波打つ水面も次第に元の落ち着きを取り戻していった。
月を覆い隠していた雲が流れ、池の上方で大きく開けた森の切れ目から月光が差し込んだ。
そこで吹雪が口を開いた。
「終わった……のでしょうか?」
「そうだろうね」
応えた川内は、じっと水面を見つめる。 そして作戦が上手くいった事に心の中で安堵した。
川内と吹雪がライオトルーパーを誘いこんだ場所。てっぺんを――川内らの知らぬ間に――大きく抉られた巨大な岩が中央に鎮座する、森の中にある巨大な池。
自分達の砲撃の効果が薄いのであれば別の攻撃をするまで。航空攻撃や戦艦の主砲などにも引けを取らない攻撃方法。魚雷や爆雷による水中爆破。極めて状況が限定される攻撃方法であったが、彼女らはそれを活かす状況を見事に整え、敵を欺き見事にやり遂げたのであった。
池からは何も浮き上がってくる様子は見られない。この池はかなり大きな部類ではあるものの池は池。広い海ならまだしも、こう限られた範囲であれば爆雷の生みだす衝撃から逃れる術は無い。
残骸すら浮き上がって来ない事を多少不可解に感じたものの(何事も起きないという事は、そういう事なのだろうな)と割り切って、川内はそれ以上考える事をやめた。
そして、何やら不安げな表情の吹雪の肩に手を当てた。
一瞬身体をビクつかせ顔を向ける吹雪に対し、川内は親指をサムズアップさせ満面の笑みを作ってみせた。
「吹雪が持ってきてくれた武器のおかげで勝てたよ、ありがとね」
「そ、そんな。こっちこそ川内さんがいてくれなかったら危ない所でした」
慌てて手を振るようにして吹雪が言う。
「いやいや、大したもんだよ。この状況に最適な欠陥品を、こうも都合よく持ってきてくれるなんてさ」
「へ?……欠陥品?」
思いもよらぬ言葉に首を傾げる吹雪。
「そう。私が投げたあの魚雷」
「魚雷が欠陥品ってどういう事ですか?」
その問いに対して川内は愉快そうに答えた。
「いや私さ、炸薬の量と感度の設定を間違えた魚雷が送られて来ちゃってるから廃棄処分にするように、って言われてたんだけどね。寝過ごして処分担当の職員さんに渡せなくってさ、仕方なく倉庫に置いていたってわけ。怪我の功名とは正にこの事だね。おかげで私の投擲の衝撃程度でも魚雷を爆発させられたし。めでたしめでたし、だね!」
「め、め、めでたしじゃありませんよ!何でそんな危険なもの武器庫に置いておくんですか!?」
「だって他に置く所無いし。張り紙しておいたから大丈夫かなって」
「張り紙なんて付いてませんでしたよ!」
「え?そんなはずは……」
と川内は服のポケットをまさぐる。指が探り当てたその中身を取り出した。するとそこには一枚の『不良品につい注意!!』と書かれたメモ用紙が。
「あ~~、ハハハ。多分寝ぼけてて張るの忘れちゃったんだな。まいったまいった」
「まいったじゃありません!」
人差し指で頬をかいて笑って誤魔化す川内に対し、吹雪が声を張り上げた。
「ま、済んだことはしょうがない!気を取り直して他のみんなと合流だ!」
言うや否や川内はクルリと踵を返して走り出した。
「あっ!待ってください!……もう!この事は提督や神通さんに報告しますからね!」
早くも小さくなりつつある川内の背を追うように、吹雪も駆け出したのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
不意のアクシデントに一時は怯んだ天龍であったが、最早彼女の戦いぶりに迷いは無かった。
起き上がって臨戦態勢を整えたライオトルーパーへ向け、力任せに太刀を振り下ろした。
それは斬撃と言うよりも、打撃と呼ぶのが相応しい程に、荒々しい粗雑な攻撃。
無論それは、トルーパーに容易く受け止められる。
だが彼女はこれを全く意に介することなく、何度も何度も愚直に大きく刀を振りかぶり、連撃を浴びせ続ける。
守りの事など全く考えていない隙だらけの乱打。
だが天龍へと敵の攻撃が届くことは無かった。
トルーパーが攻めに転じようとする瞬間、龍田の薙刀による狙いすました一突きが、文字通りの横槍を入れる。
その攻撃はトルーパーの身体を何度も打ち据える。
だが、スーツの強固な装甲はその程度で貫かれることはない。
損傷と言えるほどに大きなダメージを与えるには至らない。
しかしながら、彼女の攻撃はトルーパーの反撃のチャンスを的確に潰して、潰して、潰し続ける。
「オラァ!」
振り下ろされた天龍の太刀がトルーパーの刃に再度受け止められた。その瞬間、響く破砕音。
遂に限界を迎えた天龍の愛刀が、その半ばから折れたのであった。
弾け飛んだ剣先が、数メートル離れた地面へと突き刺さる。
だが…………
「たかが刀が折れた程度でっ!!」
天龍は臆することなく、更に敵の間合いへと踏み込んで、剣先の無い刀で切りかかった。
無謀極まりない行為。柄の長さというアドバンテージを失い、接近戦に有利な取り回しの良い短剣を武器とする相手の元へと近づくなどという事は。
これにより戦いの流れは相手方へと……
「龍田!」
「ええ、任されたわぁ」
流れる事などはなかった。
たとえ刀が折れようと、たとえ武器を取り落とし素手で戦う事になろうとも、やる事は変わらない。天龍はひたすらに攻め続け、龍田はその隙を埋め続ける。敵が倒れるその時まで。
三者の打ち合いは続いた。永久に続くかと思われる程に。
そして拮抗する戦況。やがてそれは……
「でりゃぁ!」
天龍の一撃をきっかけに動き出した。
彼女が下から振り上げた刀が短剣とぶつかり合う。
その一撃はトルーパーの短剣を宙へと跳ね飛ばしたのであった。
天龍は確かな手ごたえを感じ、口角を吊り上げニヤリと笑みを浮かべた。
そして返す刀で斬撃を浴びせようとした。その瞬間
「!?……ぐッ!……かっ!……あッッ!」
トルーパーの右手が天龍の首を掴み、その身体を高く持ち上げたのであった。
天龍は足をバタつかせ、トルーパーの胴に蹴りを加えて激しく抵抗する。
「天龍ちゃん!」
龍田が叫び、薙刀でトルーパーの胴体を刺突する。
しかしトルーパーは、その攻撃に対して微動だにする事はなかった。今まで大したダメージを与えられていない彼女の攻撃など防ぐ必要などない。無言ながら、そうハッキリと主張するかの如く。
なおも繰り出される龍田の連続攻撃に構うことなく、トルーパーは天龍の首にかけた手へ力を込めていく。
「……かっ!……はっ……」
天龍はトルーパーによる拘束を解こうと、その手に自らの指をかけるが、常人を凌駕する強大な握力は彼女の指の力では緩める事など敵わない。
龍田は尚も刺突を続けている。何度も何度もトルーパーの胴体を打ち据える。次第に手が痺れだす。だが彼女の方へ敵は気を向ける素振りすら見せない。
そして、トドメとばかりにトルーパーは、天龍の首を絞める手に全力で力を込めた。
その瞬間、鈍い異音が響いた。
天龍の身体がドサりと音をたてて地面へと落ちた。
トルーパーは己が面を下方へと向ける。
その先には龍田の顔があった。不敵な笑みを浮かべた魔女のような顔が……
「ダメよぉ。油断なんてしちゃあ」
魔女の口から呪詞のように言の葉が発せられた。
トルーパーは後方へと数歩よろける。
「どんなに小さな取るに足らないような損傷も、積み重なれば大破の元よ」
口元に手を当ててクスリと笑う龍田。
トルーパーは自らの脇腹付近へ手を当てる。
そこにはただ一点、ベルトとバックルのつなぎ目周辺に、ほんのわずかに空いた小さな穴が。
彼女らの武器でトルーパーの装甲を貫くことは、まず不可能であった。並の攻撃をする限りでは……
だが一箇所に何度も何度も、ただ一点のみに集中して攻撃を当て続けていればどうであろうか。積み重なった小さな傷、僅かな歪み。それはいつしか大きな損傷へと姿を変える。
機械のように正確な、否、機械であっても困難であろう攻撃を彼女は行っていたのだ。
ライオトルーパーの無機質な銀面には、茫然とした表情が浮かんでいるように思われた。
そんな呆けた状態のトルーパーを衝撃が襲った。横合いからの爆炎と爆風がその身体を吹き飛ばす。
「ハァ……ハァ……」
天龍が手にした連装砲から硝煙が立ち上っていた。
彼女は喉元を押さえ、荒げる息を整えつつ、鋭い視線を敵へと向け続ける。
よろよろとした動きでトルーパーが立ち上がる。連装砲の一撃を受けてトルーパーの損傷は、開いた穴から更に広がっていた。
「トドメだぁ!」
天龍は雄叫びと共に力を込めて引き金を引く。が……
カチリと引き金が乾いた音をたてた。ただそれだけだった。
「チッ!弾切れ!?」
苦し紛れに空になった連装砲をトルーパーへと投げつける。
だが、トルーパーはふらつきながらもそれを腕で防御し、叩き落した。
「ちっくしょおっ!」
と、天龍は足元に落ちていた――剣先の折れた――太刀を手に取り駆け出した。
(もう一撃叩き込んでヤツを倒す!)
そう息巻いて走る彼女の身体もまた、限界へと差し掛かっていた。
膝がに十分な力が入らない。足元もふらつき気味で、鉛のように重い。駆け出して間もなく足がもつれだす。
そしてバランスを崩した天龍は、前のめりに倒れてゆく。
「くぁっ!……だ、りゃぁぁぁ!!」
倒れ込みそうになりながらも天龍は、腕と身体を捻り勢いをつけ、最後の悪あがきとばかりに折れた太刀をブーメランのように投げつけた。
回転しながら飛んでゆく太刀は、ライオトルーパーの立つ位置へ真っ直ぐに向かう。
大きなダメージを負ったトルーパーに、それを回避するだけのエネルギーは最早残っていなかった。
その為、再度腕による防御を図る。太刀は胸元を目がけて飛んでくる。トルーパーは腕を胸元で交差させる。
だがその時、ひび割れた太刀の一部が剥がれ落ち、それは軌道に変化をもたらした。太刀は途中で下方へその軌道をブレさせる。そしてそれは、ライオトルーパーのベルトのバックルに深々と突き刺さったのだった。
全くの偶然だった。龍田の攻撃により損傷が広がっていた箇所に攻撃が当たるなど。
不運にも弱点をつかれたライオトルーパーは、腕を力なくだらりと垂らし前のめりに倒れ込んだ。その際の衝撃で更に半分に折れた天龍の太刀が飛び、ぬかるんだ地面へと落下した。
「へ……ざまあ、みやがれ……」
四つん這いの姿勢からゆっくりと起き上がる天龍の元へ、龍田が駆け寄ってきた。
「やったわね天龍ちゃん!」
「まあ、な…………ハァ……ハァ」
両膝を押さえて肩で息をしながら天龍が応える。
(ふふっ、流石に軽口を叩く余裕はもう無いわよね)
天龍がいつもの調子であれば、からかうような一言でも浴びせている龍田であったが、そこは自重する事とした。
「それにしても~何者なのかしらね、この人」
と龍田が倒れた敵の見聞を行おうとした時
「えっ?」
トルーパーの身体にノイズが走りだした。それは壊れかけのモニターに映る像が乱れる様に酷似していた。程なくして倒れた侵入者の姿は、スゥッと跡形もなく消え去ってしまったのであった。
不可解な現象を目の当たりにして天龍と龍田は、互いの顔を見合わせ沈黙するのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
メイジによるクローの連撃がスカルに襲い掛かる。
スカルは身をよじってこれを回避、そのまま勢いに身を任せ身体を一回転。右足を振り上げ回し蹴りを放った。
メイジの脇腹に鋭い一撃が突き刺さる。その瞬間、スカルは左足を強く踏みしめ右足を一気に振りぬいた。
蹴り飛ばされたメイジの身体が、凄まじい勢いで地面を転がっていく。
間髪入れず、もう一体のメイジがスカルへ走り寄って来た。スカルはこれを迎え撃つべく構えをとった。
だがその時、彼の左足に痛みが走った。
スカルの頭部めがけて、メイジが手にしたライドスクレイパーの振り抜きが繰り出される。咄嗟に身をのけ反らせて躱すものの、足の異常により反応が一瞬遅れた。被っていた軍帽がはたき落され宙を舞った。
スカルは地面へ背中から倒れ込む。そこへすかさずメイジの打撃が振り下ろされる。
「ふっ!」
横へ身を転がしどうにか回避したスカルは、地面に背を付けたままメイジへと銃撃を浴びせる。メイジの装甲から火花が散る。スカルはなおも銃を撃ち続ける。だが
【バリア ナーウ】
銃撃を受けるメイジの前に、先程蹴り飛ばされたもう一体のメイジが立ちはだかった。
その正面には六角形の形をした、光り輝く障壁が広がっている。これにより受け止められた銃弾が地面に散らばった。
「ムゥ」
息を漏らすようにして呟きつつ、スカルは起き上がった。
「まったく、しぶとい人だ。一人でこれほどまでに粘るなんてね」
「粘り強さは探偵に必要不可欠なもんでな」
それを受けディエンドが呆れ気味に嘆息した。
その時であった。
島の一区画から黄金色の光の柱が出現した。
スカルもディエンドもその方向に思わず顔を向けた。
「あの光は……」
ディエンドが呟いた。
「……ふむ、面倒な事になってしまったか。黄金の果実を手に入れるのは……厳しいかな?」
「何のことだ?」
スカルの問いにディエンドは振り返り、人差し指をスカルに、その腰のベルトにと突きつけるようにして答える。
「貴虎くんの持ってたお宝は残念だけど諦めざるを得ないかもしれない。だけど君のロストドライバーとスカルメモリは絶対に貰っていくよ。手ぶらで帰るなんてのは御免だからね」
「ふむ、コレが無くなった所でココでこなす俺の仕事に影響は無いが……コソ泥風情の思い通りにさせるのは御免だな」
「それじゃあ、容赦は無しだ」
二体のメイジの後方に立っていたディエンドが前へと歩み出た。
スカルもまた同様に前へと進み出る。
決着の時はすぐそこまで迫っていた。