仮面ライダー斬月・艦   作:はちコウP

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この作品は2019年6月21日にpixiv https://www.pixiv.net/novel/series/452817 に投稿した作品を加筆・訂正した物となります。

『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。

本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。


※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。



【第十一話】part1

 時刻は間もなく午前十時過ぎになろうという頃合い。

 執務室内で貴虎と(えびす)提督は、この後開かれる会議の内容を詰めていた。

 少し前までは秘書艦の龍田も同席していたのであるが、会議室の準備のために先に部屋を出ていたのだった。

 会議の内容は主に昨夜の敵襲における諸々の状況報告、及び今後の防衛対策の検討などが行われる予定である。

 また、インベスとヘルヘイムの果実の存在が確かとなった為、その対応も重要な議題の一つであった。

 これらは軍事的に重要な案件であるため、会議には横須賀鎮守府の提督も同席する事となっていた。彼は同行者を伴い、高速艇にて今朝がた港を出発したとの連絡が入っている。その到着を待って会議が開始される予定だった。

 そして、その場において貴虎や提督の素性も艦娘らに明かされる事となる。

 

「お前がそういうつもりなら俺から言う事は何もない。好きにしろ」

「はい。そのようにさせていただきます」

 正面に座る夷提督に軽く一礼する貴虎。二人の話し合いは終了したようであった。

「後はヨコの到着を待つだけだが」

 と夷提督が呟いた折、執務室のドアがノックされた。

「赤城です。只今到着致しました」

「来たか、入れ」

 扉を開け、足を踏み入れた赤城が敬礼をする。

「おはようございます。夷提督、貴虎さん」

「おっはよーございまーす。いやぁ昨夜は大変だったようですね」

 赤城の後ろから、ひょっこりと横須賀提督が顔を出し、相変わらずの軽い調子で言った。

「提督?」

 ゆっくりと後ろを振り返り、赤城が呟く。

 その表情を目にした横須賀提督は、一瞬顔を強張らせ「ハハハハ、失礼しました」と引きつり気味の笑いを漏らした。

「構わんさ。取り敢えずこっちに来い」

 夷提督に促され、二人は執務机の傍までやってくる。

「改めまして、昨夜はお疲れ様でした。送られてきた簡易報告で事件の大筋は把握していますが、いやはや実に面白い。ヘタな小説を読むよりはよっぽど。正に事実は小説よりも奇なりだ」

「提督、不謹慎ですよ」

 懲りずに軽口をたたく横須賀提督を赤城が嗜める。それを受けて、彼はコホンと咳ばらいをする。

「失敬。……ところで貴虎さん、どうやらあなたはアーマドライダー、でしたか?とやらの力を取り戻したらしいですね」

「ああ、詳しい理由はわからないが、どうやらサガラの残していった黄金の果実の力がその要因となったのは間違いないようだ」

「加えてインベスという怪物の出現も確認された。……貴虎さん、前置きは無しに言いましょう。今後もインベスが出現した場合、前線に出て戦っていただけますでしょうか?」

 横須賀提督は貴虎に尋ねた。

「言われるまでもない。元よりそのつもりだ。私の力や経験が活かせるのなら本望だ」

「ありがとうございます。我々は海上での戦いには正通してますが、陸上での怪物との戦闘には不慣れですし、武装も専用の物はありません。ここの艦娘の皆は奮戦してくれたようですが、貴虎さんのようなスペシャリストがいればなお安心です」

 顔をほころばせつつ、軽薄な雰囲気を漂わせている横須賀提督。しかしながら、その態度から嫌味や不敬な様子は見受けられない。貴虎は彼の賛辞を素直に受け止めた。

「ところでヨコ。昨晩の騒動について、関係各所、メディアにはどう対応するつもりだ?あの金色の光は本土からも観測されていたと思うが」

「それについては、開発中の新型探照灯や照明弾の実験中の暴走事故として報告をあげてあります。何かしらの追及やツッコミはあると思いますが、そこはまあ上手い事やっておきますのでご安心を」

「こういう時の悪知恵の周り方だけは確かだからな、お前は」

「だけとは何ですか~。失礼な~もっと他にも良い所あるでしょう?ほら、赤城さん言ってあげて」

 抗議の声を上げつつ、傍らの赤城へと縋るように視線を向ける横須賀提督。

「私も夷提督のおっしゃる通りだと思います」

「そんな~赤城さんは冷たいな~」

 頼りにした秘書艦にすまし顔で言い放たれ、横須賀提督は肩をガックリと落とす。

 そんなやり取りを見て貴虎も思わず口元に笑みを浮かべる。

「さて、冗談はこの辺にしておこう。小娘どもを無駄に待たせるわけにもいかん。そろそろ向かうとしよう」

 夷提督の一言を受け、一同は部屋を出る。

 先日と同様に夷提督の車椅子は赤城が押していた。

 と、会議室へ向け廊下を進みだしたところで

「失礼いたします!」

 作業服を着た一人の職員が駆け寄ってきた。

 その職員は横須賀鎮守府所属の者で、先行して派遣された調査団の一人だ。

 彼らはインベスとヘルヘイムの果実発見の報を受けて、早朝より島内の捜索を行っている。

「ご苦労様です」

 横須賀提督が応え、職員の手にしていた報告書を受け取った。

 そして目配せをして貴虎らに先に会議室へと向かうように促すと、職員の方へと向き直った。

「結論から申し上げますと、島内にて件の怪物や果実は発見されませんでした」

「う~ん、えっと、この部分ですが―――」

 といった会話をする二人を背にしつつ、貴虎らは一足先に会議室へ向けて歩き出した。

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 長い廊下を抜けて、会議室の中へと夕張は足を踏み入れた。

 基地内に幾つか存在する会議室の中でも、ここは特別であった。

 建物内の奥まった所にあり、窓は無く、壁も防音加工がしっかりと施された構造となっている。機密性の高い重要な会議やブリーフィングはここで行われるのだ。

 既に室内には、何人かの艦娘らが席に着いていた。

 前方の演台付近では、龍田が部屋全体を見回し、集まった人数をカウントしている。

 そして各机の間を縫うように動くのは鳳翔。

 彼女は会議で使う資料やら筆記具やらを、机の上に置いて回っていた。

 

 部屋の入口から最も離れた、壁際の席に着いた夕張は、置かれていた資料の一つに目を通しだす。

 それは提督と貴虎とがまとめた簡易報告書であり、昨日起こった出来事が時系列に沿って大まかにまとめられていた。

 皆の意見や報告を受けた際に、補足やメモを書き留める為か、紙面の行間の隙間や余白が多めにとられている。

 その資料を一通り読み終えた夕張は

「みんな大変な戦いをしていたのね……」

 ポツリと独り言を漏らす。

「おう、夕張」

 と、声をかけられた夕張は、資料に落としていた視線を上げる。

「あ、おはよう天龍」

「お前も大変だったみたいだな、怪物に襲われるなんてよ」

 労うように言いながら、夕張の隣の席に着く天龍。

「そう言うあなたこそ。随分と激しい戦いをしたらしいじゃない」

「ん?ああ…………マジでヤベェ戦いだった」

 普段の彼女には似つかわしくないような、やや大人しめの口調で天龍は言う。

「あら、珍しいわね。いつもなら、オレ様にかかればどうってこと無かったぜ!ぐらいの事は言うってのに」

 との夕張の声に天龍は、少々目を所在なさげに泳がせ、複雑そうな表情を浮かべる。

「あー、うん。……いや、何だかあまり実感が湧かねぇんだ。現実離れした事ばっかり起こってたし、戦ってる時は無我夢中だったしよ。今になって振り返ってみると未だに夢でも見てたんじゃねぇかって、そんな気がしてくるんだ」

「…………そっか、そうよね。私もその気持ちわかるかも」

 夕張にとっても、昨日怪物に襲われた事、不思議な光を目撃した事、貴虎が目の前で緑色の鎧を纏った武者へと変身し怪物と戦ったのを目にした事、全てが紛れもない実体験ながらも、一晩を経た今、一連の出来事の現実味は薄く感じられてしまっていた。

 それこそ、あれは夢だったと言われれば納得してしまいそうな程に。

 だが、自分の腹部に残るひっかき傷、打撲の跡、節々の痛み、隣に座る天龍の身体に残る怪我の治療の痕跡、手元にある公式の書式に則った報告書、それらが昨日の出来事が現実だった事を物語る。

 ふと夕張は、周囲の会話に耳を傾ける。

 

「陽炎は貴虎さんの変身した姿も―――」

「ええ。見た目は何ていうか―――」

「ほな、全部見たんは陽炎だけ―――」

「あとは銀色のマスクの―――」

「他にもいたわ。宝石みたいな―――」

「え~、私は何も見てない―――」

 などと駆逐艦娘らが昨日の出来事を話し合っていた。

 

「みんな朝飯時には全然こういう事話して無かったってのに、ここにきて話しまくってやがんな」

 小声で天龍が言う。

「……きっとみんな不安なのよ」

「不安?」

 夕張の言葉に小首を傾げる天龍。

「ええ。こうやって公式的に会議の為に集められて、資料を渡されて。それで昨日の出来事が現実味を帯びてきて」

「だから話して気を紛らわさずにはいられない、ってか」

 天龍は後頭部で両手を組んで、椅子を後方へ傾けつつ天井を見上げる。

「オレもみんなも色んな修羅場潜り抜けて、肝も座ってきたハズなんだけどな。……まだまだヒヨッコってコトか」

「仕方ないわ。誰でも未知のモノは怖いんだから」

「そうだな。…………あと、わからないと言えば提督と貴虎の素性もだな」

「…………ええ、そうね」

 努めて考えないようにしていた事が、天龍の一言で夕張の頭の中によぎりだす。

 鎧武者に変身した貴虎、資料の記述と昨晩の陽炎の言によれば提督、加えて基地を襲った謎の男も同様に――戦闘服と仮面をつけた――似たような姿に変わったらしい。

 報告書によれば謎の男と、貴虎・提督に繋がりがあったわけではないようだが、少なくとも二人が只者では無い事は確かであろう。

 そこが夕張の、艦娘達全員にとっての最も気がかりな事柄であった。

 夕張が暫し思考の海に沈んでいると

「ほら、姉さん、しっかり歩いて下さい」

「あー……うん……」

 神通に手を引かれながら川内が会議室へと入ってきた。

 更に続いて

「みんなー!おっはよー!今日も元気してるー!?」

 快活に大声で挨拶をしながら那珂がやってきた。

 不安気にしていた夕張は苦笑を漏らした。

「まったく。相変わらずね、あの子は」

「あいつだって昨日はあの変な奴らと戦っていたってのに、ケロッとしてやがる。もしかしてメンタル一番強ぇんじゃねえか?」

 天龍も呆れ気味に、肩をすくめる。

 

 それから間もなくして夷提督、貴虎、赤城の三名。若干遅れて横須賀提督が会議室へとやってきた。

 その到着と同時に会議室は自然と静まり、空気に緊張感が漂い始めた。

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 会議室の前方に艦娘らと向かい合う形で設置された机には、貴虎、夷提督、赤城が着いていた。

 演台には横須賀提督が立っている。

 彼は場を和ませようとしたのか、いつもの調子で茶目っ気を含ませたジョーク混じりの挨拶をした。だがしかし、対する艦娘らの反応は薄かった。

 苦笑しつつ居住まいを正すと、彼はゆっくりと話し出した。

 

「昨晩の襲撃に対する奮戦、お疲れさまでした。皆さんの活躍により基地及びこの島は守られました。一人の犠牲者も出すことなく終わったのは本当に幸運でした」

 横須賀提督が真面目な口調で言う。そして一呼吸ほど置いて、その表情は一際真剣なものになる。

「ですが、このような事態がいつまた起こるか知れません。従ってこの場にて状況報告と対策案を話しあってゆく必要があるのですが」

 そこで言葉を一旦区切って場内の艦娘らを見渡す。

「その為には、皆さんにとある機密事項を話さなくてはなりません。夷提督や貴虎さんの素性もこれに関連してきます。そしてこれは軍の、いや、国家の重要機密になります。一度知れば容易に軍を抜けられなくなります。退役後も厳しい監視の目に晒される事となるでしょう。更には機密の漏洩があった場合、厳罰に、最悪死罪に処させる事もあり得ない話ではありません」

 その言葉に艦娘らは、にわかにざわつき出す。

 それを咎めることなく横須賀提督は、暫し間を置いた。

 やがて空気が落ち着き始めた頃合いを見計らい、再びその口を開く。

「機密に触れる事を望まないというのであれば、今すぐにこの部屋を出てください。後ほど昨晩の出来事を他言しないという誓約書を記入の後に、配属先の変更手続き、若しくは職種の変更希望手続きを行います。場合によっては退役も許可します」

 かつてない程の厳粛な様子に艦娘らは沈黙していた。

 室内には時計の秒針が時を刻む音が静かに響く。

 暫しの後に夕張が手を上げた。

 それを見て無言で頷き、喋るように促す横須賀提督。

 夕張がゆっくりと立ち上がる。

「私は……昨夜の事を今でも夢の様に感じます。ですが、あれは紛れもない現実です。それを曖昧なままにしておきたくは無いです。私は真実が知りたい。それに夷提督は信頼のおける上官で、貴虎も、まだ僅かな間しか一緒に過ごしてないですけれど、私の大切な仲間で命の恩人です。彼らの素性がどうであれ、私はしっかりと受け止めたいと思っています」

 堂々と宣言する夕張。

「そうだな。オレも同意見だ」

 隣の天龍も立ち上がり、彼女に追随した。

「あんな妙な体験しちまったんだ。中途半端に抜けるのはスッキリしねぇ。毒を喰らわば皿まで、ってな」

 更にそれを受け

「私も!」

「あたしも!」

 と他の艦娘らが声を上げてゆく。

 結果として、会議室に集まった艦娘達は誰一人として部屋を出る事は無かったのであった。

 その瞳には決意と覚悟がありありと浮かんでいた。

「皆さんの覚悟、しかと理解しました。それでは説明致しましょう」

 

 そして横須賀提督は以前貴虎に説明した時と同様に、この世界には異世界から迷い込んだ人々がいる事、彼らの助力を受けて深海棲艦への対抗策を練っている事などを話していった。

 それを聞いた多くの艦娘らは、若干の動揺を見せたが、一方では昨晩の不思議な出来事の数々が腑に落ちた様子で、納得したような表情も表していた。

「以上が全てになります」

 と横須賀提督が十数分に渡る話を終えた。

 ふと貴虎は彼の説明の内容について違和感を覚える。

(……何かが抜けている?)

 思考を巡らせて、以前横須賀提督から説明を受けた時の記憶を探ってゆく。

 

 

「今述べた通り志願兵で構成されている艦娘達ですが、極稀にそれには当てはまらない、説明のつかない者が我々の前に出現する事があります。そんな普通ではない、もう一つの艦娘が存在するのです」

 

「かつて“とある戦争”で沈んだ軍艦が転生し、人として生まれ変わったモノ…………それがもう一つの艦娘です」

 

「いくつか注意事項を言っておきます。異世界の事や、そこから来た人々についての情報は、軍の最高機密となっています。それは一部の人間しか知らない事です。くれぐれも他言無用でお願いします。たとえ艦娘にであってもね」

 

「それと、転生した艦娘の中には、自らの出自にコンプレックスを持つ者が僅かながらいます。そんな娘達は、周りの人間達との違いに苦悩しながらも、どうにか折り合いをつけて日々を送っています。彼女達の心の平穏の為にも、どうか宜しくお願いします」

 

 

(もしや、この中に軍艦から転生した艦娘がいるというのか?)

 仮説に思い至った貴虎は、室内の艦娘らを見渡す。しかしながら、彼女らの様子からはそれを裏付ける様なものは見てとれなかった。

 

「それでは、ここからは夷提督にお話しいただきましょう」

 と、横須賀提督が演台から離れ、夷提督へと目配せをする。

 昨夜の戦いで脚の怪我を悪化させた夷提督は、演台に立つことは出来ない為、車椅子を演台の前へと動かし、そこで自らの素性を話始めた。

 

 彼はかつて、風都という街で探偵を生業として生きていたという。

 その傍ら[ガイアメモリ]という、人をドーパントなる超人に変えてしまう道具を生産し、実験の為に街へバラ撒く組織を探っていた。

 そしてある時、依頼を受け、敵組織からとある人物を奪還しようと敵施設に潜入した際に、凶弾を身に受け彼は倒れたのだった。

「俺が覚えているのはここまで。後はお前たちの知る通り、気がついたら何故かこの島の浜に倒れていたというわけだ」

 昨夜の戦いにおいて、夷提督が変身をした事により、並々ならぬ事情があるのは察していたのであろうが、彼の口より直接明かされた事実に対し、艦娘らは――半ばある程度の予想はしていたのであろうが――困惑した様子でひそひそと話している。

「やっぱり別の世界の人ってのは本当なの?」

「そんな凄い事をしてたんだ、提督ってば」

「探偵か……何だかカッコイイね」

 しかしながら、困惑した空気がありながらも、艦娘らから提督に対する不信感や懐疑心のようなモノは伝わってこない。

 これもひとえに彼の人徳、積み上げてきた信頼の賜物のおかげなのだろう。

「さて、俺の話は仕舞いだ。次は貴虎、お前の番だ」

 貴虎の方を見やり、夷提督が告げた。

 促されるままに立ち上がった貴虎は、夷提督と入れ替わりに演台へと立つ。

 そして会議室内を見回すように一瞥すると

「私も夷提督と同じく、この世界の人間ではない」

 そう前置きをして語り始めたのだった。

 彼は自らの行いを包み隠さず話していった。

 

 かの怪物[インベス]は自分のいた世界に現れた怪物であるという事。

 ユグドラシルコーポレーションでヘルヘイムの森、インベスの調査を行っていた事。

 プロジェクトアークなる人類救済、もとい虐殺すらも辞さない残忍な計画に加担していた事。

 血の繋がった弟の凶行を止める事が出来ずに敗北し、水底に沈んだ事を。

 

「そして、私は夕張らに救助され、今この場に至っている」

 貴虎の話が終わった時、室内は静まり返っていた。

 いくら大義名分を掲げてたとはいえ、言わば悪の組織に対抗する正義の味方ような夷提督の素性とは異なり、貴虎のやってきた事は悪事と呼ばれても仕方がない。

 彼女らの反応は貴虎自身、覚悟していたものだ。

 暫しの後に

「ちょっと聞きたいんだけど」

 叢雲が律儀に挙手をして声をあげる。

「何だ」

 貴虎が応え、叢雲に喋るように促す。

「アンタの素性は十分に分かったわ。でも一つだけ理解できない。どうして人類を大量虐殺するような計画に携わっていたなんて事まで言うの?そんなのわざわざ話したって良い事なんて一つも無いでしょう?一体どういうつもりなのよ」

「そうだな」

 叢雲の言葉を受け貴虎は、会議室内の艦娘の様子を再度見渡す。

 何やら思案しているような者、表情を変えずに真っ直ぐに貴虎へ目を向ける者、彼の言葉を固唾を飲んで待っている様子の者、不安と困惑の表情を隠しきれていない者、様々であった。

 貴虎は軽く深呼吸をし、穏やかな口調で言った。

「私は君らと真に仲間となりたいのだ」

「……は?」

 その言葉を耳にした叢雲は、眉をひそめ、訝しむような表情を向ける。

 対して貴虎は意に介さずに話を続ける。

「かつての私は多くの部下の上に立ち、それを率いる立場だった。しかしこれからの私は、君たちと対等に肩を並べて戦っていく事となるだろう。だから君たちに判断して貰いたいのだ。このような事をしてきた私が、それに値する人間かを。これは私なりのケジメだ」

 貴虎の言葉に会議室内は静まり返る。

 その沈黙を破ったのは

「……私は貴虎を信じたい。いいえ、信じるわ」

 スッと立ち上がった夕張の一言だった。

「あの怪物相手に命を懸けて必死に戦ってくれた私の命の恩人なんですもの。そんなあなたが心の底から望んで計画を進めていたワケない。私はそう思う」

「夕張……」

 軽く笑みを浮かべつつも、堂々とした態度で夕張は言った。

「私も信じます!貴虎さんは悪い人じゃありません!」

 吹雪が椅子をガタッと鳴らして立ち上がって言う。

「私も!」

「ウチもや!」

「オレもだ!」

 次々と艦娘らが呼応してゆく。その姿を見て貴虎は

「皆……感謝する」

 深々と頭を下げて応じたのであった。

「というわけだけどぉ、叢雲ちゃん、納得できたぁ?貴虎さんを信じられそ~う?」

 龍田が叢雲に向けて悪戯っぽく言う。それに対し

「な、何よ!私は別に信用できないなんて言ってないでしょ!どうして自分に不利な話をわざわざするのか気になっただけよ!……そ、それに夕張さんだけじゃなく、一応私の命の恩人でもあるんだから」

 と叢雲は言うと、頬杖をついてそっぽを向いてしまった。

「うんうん。良きかな良きかな。皆さんこれでスッキリですね」

 手を大きく広げて大仰な仕草で言いつつ、横須賀提督が歩み出てきた。

「貴虎さん、他に話しておきたい事はありますか?」

「大丈夫だ」

「わかりました。それではこの話はここまで。それでは今後の対策を立てる為にも、昨晩の出来事について皆さんの知っている事、体験した事、全部話して情報を共有していきましょう。とりあえずは例のディエンド、でしたか?とかいう侵入者とその一味との戦いについてから報告、分析していきましょうか。それじゃあ、まずは鳳翔さん達からお願いします」

「はい、了解しました」

 鳳翔が返答し起立する。

 そして昨晩の戦いについての報告を始めたのであった。

 

 

 

「ふむ、敵の装甲や攻撃力は深海棲艦で言うところの、重巡から戦艦の上位クラスに相当すると?」

「はい、駆逐艦用の砲で決定的な損傷を与えられなかった事や、艦載機での攻撃が効果を上げていた事から推察するに、ですが」

 

「倒した敵の身体が残らなかった、というのは?」

「オレらが倒した奴は何でかスッと消えちまったんだ。テレビの映像が消える時みたいな感じだったな」

「あ、それ那珂ちゃん達が戦った敵も同じだったよ」

「俺が戦った魔法使いもどきはディエンドとかいうヤツの攻撃に吸収されて消えていた。もしかしたら何らかのエネルギーを使って作った分身か何かかもしれん」

「なるほど。小説とかアニメでみるような質量を持った残像、的な感じということなのでしょうかね?」

 

「もし再び彼らが現れた場合は、夷提督や貴虎さんに応戦していただくのが適任でしょうね」

「大丈夫だよ。私たちでも勝てたんだから。平気平気。特に夜戦だったら負ける気がしないからいつでも歓迎だよ」

「いや、そう易々とはいかないだろう。昨夜は奇襲や奇策で撃破に成功しているが、次も上手くいくとは限らない。現に鳳翔さんの艦載機による攻撃が対策されてしまっていたからな。無茶な事はせず私達にまかせてほしい」

「う~ん……そうか。ならそこは専門家に任せた方がいいのかな?」

 

 といった具合に報告がなされてゆき、ディエンドに関する話は終了したのである。

 

 

 そして議題は次へと移る。

「さて、インベスという怪物に関してですが、これについてはまず貴虎さんに説明をしていただきましょう」

 横須賀提督に促されて貴虎が演台へと向かった。

「あの怪物は、元々私のいた世界に現れた、侵略者とも言うべき存在だ」

 そうして貴虎は、インベスとヘルヘイムの植物に関しての説明を始める。

 

 突如として貴虎のいた世界へと侵略してきた、謎の植物と怪生物インベス。

 クラックと呼ばれるゲートを通じてやって来るそれは、凄まじいまでの繁殖力で世界に蔓延っていった。

 その植物に生る実は、食した生物をインベスへと変化させてしまう。一度インベスとなったが最後、二度と元に戻る事はない。

 そしてインベスは、ヘルヘイムの果実をロックシードを取り込み進化する。灰色の下級インベスから凶暴性の増した禍々しい形態に。更には多種多様な生物を模したような容姿と、強力な戦闘力を有した上級種へと。

 上級種は時として、昨晩貴虎が戦ったような巨大形態へと変貌を遂げるのである。

 

「昨日山小屋に入ってきたんが、下級インベスってのやな」

「そして私を襲った、角が生えていたタイプが上級というわけね」

「黒潮と夕張の言う通りだ。そしてそれが果実を取り込み巨大な形態へと進化した」

「その巨大化したのを貴虎さんが倒したけれど、姿を変えて生き返ったのよね」

 陽炎の言葉に貴虎は静かに頷いた。

「……そしてそれは、深海棲艦みたいな見た目で、攻撃方法も深海棲艦と同じ特徴をしていたわ」

 夕張の報告に、会議室は仄かにざわつきだす。

 別の世界に居たはずの怪物が、この世界の脅威である深海棲艦の力を兼ね備えている。その可能性、不可解な事実に皆が困惑していた。

「あの姿は、私はデータベースでしか見た事がないのだけれど、まるで戦艦棲姫みたいな」

「戦艦棲姫ですって!?」

 思いもよらない夕張の報告に驚愕し、赤城が立ち上がる。

 横須賀提督は眉をひそめ、他の艦娘らのざわめきが一際大きくなる。

「夕張さん、それは本当なのですか!?」

「いえ、その……あくまで似ていたという話で。だけどあの巨大な腕と頭部の特徴は、戦艦棲姫の艤装に匹敵するほどの大きさだったと思います」

「戦艦棲姫というのは、それほどまでに厄介な深海棲艦なのか?」

「厄介も何も、並の深海棲艦とは比較にならないレベルの存在ですよ、貴虎さん」

「赤城さんが驚くのも無理はないでしょう。僕だって驚いた。目を通した簡易報告には、そこまでの詳細は書かれていませんでしたし」

 横須賀提督が操作していた携帯端末を貴虎へ差し出した。

「インベスにも上級種が存在するように、深海棲艦にも上級種と呼ばれるに値するモノが存在します。力の程度の差まで同一かはわかりませんが」

「これが、そうなのか?」

 貴虎が目にした画面には、黒い薄手のネグリジェのような衣を身に纏った、妖艶な女性のようなモノが映っていた。

 肌は青白く、長い黒髪を掻き分けるように額から生えた二本の角が特徴的なそれからは、まるで幽霊や鬼、妖怪の類を思わせる様な雰囲気が感じられる。

 それ以上に目を引くのは、女性の背後に立つ巨人のようなモノ。

 前に佇む女性を遥かに上回る大きさの、筋骨隆々な腕。肩から生えた巨大な砲塔。鉄塊のような頭部に存在する不気味な口。

 その様相は、昨晩戦ったインベスの変化した姿と酷似しているように見えた。

「私が目にした事のある深海棲艦よりも、随分と人間に近いな。上級種というのは皆こうなのか?」

「はい。その理由は未だ解明されていませんが」

 貴虎の疑問に赤城が口を開く。

「これらの深海棲艦には鬼級、姫級といった通称が付けられています。それらは敵の拠点防衛や大規模な侵攻艦隊の旗艦を担って、私達の前に立ちはだかるケースが多いのです。艦隊の最高クラスの戦力や強力な支援をもって、ようやく渡り合える程にその戦闘力は強大です。私もそれらと相対した事がありますが、一人で渡り合うなどとても考えられません」

「ちょっと待ってよ。てことは貴虎の力で深海棲艦、それも姫級を倒したって事になるの?深海棲艦って艦娘の装備以外じゃ倒せないハズでしょ?」

「正確に言えば妖精さんの加護が宿った武器以外、ですけどね叢雲さん」

 横須賀提督が補足するように答える。

「でもさ、深海棲艦みたいに変化した怪物を倒したって事は、貴虎も深海棲艦と戦えるって訳じゃない?それって凄いじゃん!」

「確かに。上手く運用すれば戦力の増強になるわね」

 川内の言葉に夕張が頷く。

「一緒に夜戦訓練出来るじゃん!」

「結局それですか、姉さん……」

 彼女の隣に座る神通が溜息をついた。

「いくら深海棲艦を倒せるっていっても、海の上でどうやって戦うのよ。忍者みたいに水蜘蛛でも履かせるわけ?」

 皮肉気に言う叢雲。

「そうねぇ……貴虎、あの戦闘服に水上を移動する機能とかはついていたりするの?」

「残念ながらそのような機能は無いな」

「う~ん、なら考えられる方法は……」

「ちょっと、軽い冗談で言っただけなのに、本気で考えこまないでよ」

「脚に主機を装着して……でも缶が取り付けられないと制御が……それに燃料も」

 叢雲が呆れて言うのだが、夕張はブツブツと呟きながら思案を続けている。完全に彼女の中にある技術者魂に火が入ってしまっていた。

 議論がにわかに白熱しだした所で夷提督が一言釘を刺す。

「不確かな情報を基に憶測で話を進めてもロクな事にはならん。例の怪物はあくまでも戦艦棲姫の艤装に“似ていた”だけだからな。今は一つでも多くの情報を揃えておくべきだ」

「確かにその通りです。この議論は一旦置いておくとしましょう」

 と横須賀提督が議論を仕切り直す。

「貴虎さん、あなたは数多くのインベスと戦ってきたそうですが、昨夜のように巨大な姿から更なる変化を遂げるインベスはいたのでしょうか?」

 横須賀提督が尋ねる。

「いや、昨夜が初めての遭遇だ。私が目を通した各種報告書や研究データには、そのような実例は存在していなかった」

「なるほど……加えて気になる事は」

 と思案する横須賀提督は、席に着いている島風に視線を向ける。

「島風ちゃん。この前ヘルヘイムの果実を運送した時、まっすぐに横須賀鎮守府まで向かったんだよね」

「もーっ!横ちゃん提督ってば、また私を疑うの!?」

 席から思わず立ちあがり、ふくれっ面で島風は横須賀提督を睨みつける。

「待って!確認、確認だから!念のための!」

「真っ直ぐに横須賀に向かったよ!その時はベストタイムだったんだから!ね、連装砲ちゃん?」

 呼びかけに答えて彼女の背後からちょこんと顔を出した連装砲ちゃんたちが、しきりに首を縦に振る。

「おかしいですよね。貴虎さんのお話では、ヘルヘイムの植物とやらは凄まじい繁殖力と生命力を持っているとの事ですが……」

「せやなあ。ウチらがあの夜見た果実はプルプルやったで」

 不知火と黒潮が訝しむように言う。

「そうだな。それもどう考えてもおかしい事だ。あの状態の果実が半日も経たないうちに枯れ果てるなど……」

「貴虎さん、昨夜のインベスに関連する事で他に気になった点は何かありましたか?」

「……そうだな。ヤツは部位の切断面から重油のような体液を流していた。インベスはそのような体液を流す事は無い。加えて死骸はドロドロに溶けて消えていた。大抵の場合、インベスはその身を跡形もなく散らすが、溶けるなどといった消え方はしない」

 横須賀提督の質問に貴虎が答えた所で

「あの、すみません」

 神通がおずおずと手を上げた。

「どうぞ、神通さん」

 横須賀提督が発現を促す。

「はい。貴虎さんが戦った巨大なインベス、というのは深海棲艦が果実を食べて変化した姿なのではないでしょうか?」

「あっ、なるほど!だったら納得できます!」

 吹雪が合点がいったという風に声をあげる。

「インベスが深海棲艦が変化したもの、という可能性は僕も考えましたが……貴虎さん、ある生物がヘルヘイムの果実を食べてインベスとなった場合、元の生物の特性を引き継ぐといった事はあるのでしょうか?」

「実験映像で果実を与えられたネズミがインベスとなる動画を見た事がある。その際は元の大きさを保ったままネズミがインベス化していた。しかしながら、そのインベスにネズミの特性を引き継いだ様子は見られなかった」

「なるほど。だとすると特性はまだしも、インベスの大きさから元の姿を推察する事もできそうですね」

「ともあれ、これであらかた情報は出そろったな。後は実物の果実を検証できるかどうかだが」

 そう夷提督が口にするとほぼ同時に、横須賀提督の懐から着信音が響き出した。

「おっと、少々失礼します」

 そうして電話に出た横須賀提督は二、三言発し電話を切る。そして

「ヘルヘイムの果実が発見されたそうです」

 全員に向けて告げた。会議室の空気は一瞬で張りつめた。

 

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