仮面ライダー斬月・艦   作:はちコウP

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この作品は2019年6月21日にpixiv https://www.pixiv.net/novel/series/452817 に投稿した作品を加筆・訂正した物となります。

『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。

本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。


※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。



【第十一話】part2

「この島にヘルヘイムの果実が……」

 小型のモーターボートから降りた貴虎が呟いた。

 彼が降り立った所、そこは基地から少し離れた所にある無人島であった。

「よっと」

 横須賀提督が軽くジャンプしてボートから飛び降りる。その手にはロープが握られており、彼は手慣れた様子で船着き場にある杭にそれを結び付けボートを係留する。

「昔は僅かながらに人が住んでいましたが、島民はみんな深海棲艦の侵攻に伴って疎開しています。まあ、今のこの世界ではよくある事ですが」

「それにしても、何故この島に果実があると分かったのだ?」

「先刻見た島の調査報告書に、とある海岸の写真がありました。映っていたのは何かが座礁したような跡と見慣れない植物の一部。恐らくヘルヘイムの植物に関係あるのではないかと思いましたので、昨晩の潮流の変化を考慮して周辺海域を調査するように指示しました。結果は大当たり、というワケです」

 会話をしつつ作業を終えた横須賀提督は、両手をパンパンと打ち払う。

「提督、上陸完了致しました」

 ボートの接岸した箇所より若干離れた場所にて上陸の作業を行っていた赤城、その後ろに続いて龍田、夕張がやってきた。

 無人島へやってきたのは全部で五名。

 夷提督は足の具合を鑑みて基地に残ったのでその代行として秘書艦の龍田、更にもう一人護衛として夕張が、赤城については言わずもがなである。

「それじゃあ行きましょうかね」

 横須賀提督を先頭に一同は件の場所へ向け歩き出した。

 

 島の道路は簡単な舗装がなされていたが所々ひび割れており、雑草がそこかしこから生えていた。

 周囲に点在する廃屋、放置され転がっている生活用具、荒れ果てた畑、それらは人が長年島にいないという事実を如実に物語っていた。

 貴虎が歩きながら周囲を見渡すと、様々な野生生物が所々にみられた。それらは遠巻きに彼らの様子を窺っているように思われる。

 大型の鳥類、アホウドリや鷺。哺乳類においてはイタチや鹿のような動物“キョン”の姿が多く見られた。

 基地のある島でも野生動物が見られないわけではないのだが、無人島であるこの島ほどに遭遇する頻度は高く無かった。

 のどかな景観を横目に歩く一同は島の反対側へと向かって行く。

「あ、アレかしら?」

 夕張が道の先を指さした。そこでは調査員と思わしき者らが周囲を見渡したり、しゃがみ込んで何やら調べているようであった。

 その内の一人が貴虎達の接近に気付き敬礼をする。

 周りの者らも続けて敬礼を行っていく。

「ご苦労様です。状況は?」

「はい提督、まずは見て頂いた方が良いと思われますので、どうぞこちらへ」

 作業員に案内されて岩礁地帯を皆が進んでゆく。

 波打ち際に小型の黒い鯨のような物体が横たわっていた。波に揺られて小さくユラユラと動くそれは、深海棲艦の駆逐イ級であった。

「これは……間違いない」

 貴虎が横たわっているイ級の遺骸を見下ろす。

 それには緑色の蔦が絡みついていた。

 一部分は肉に食い込むように深々と絡みついており、蔦の数ヶ所には錠前を思わせる様な形状の、紫がかった色の木の実が生っていた。

「これがヘルヘイムの果実、というものですか?」

「そうねぇ。あの夜に天龍ちゃんが手にしてた……」

 赤城の問いに龍田が呟くように答える。

「酷くがんじがらめになってるわね。植物の群生地にでも突っ込んだのかしら?」

「いえ、ここを見てください夕張さん。この植物、イ級の内側から生えているように見えませんか?」

「え?」

 横須賀提督の指示した箇所、そこは微小の穴が空いており、蔦が内側に食い込んでいるように見える。全体をくまなく観察してみると、蔦の発生源はそこであると見られ、決して外側から入り込んだモノではないとわかる。

「入り込んだ種子が発芽したか」

 貴虎の居た沢芽市でも起きた事例だった。

 インベスはヘルヘイムの果実を口にした生物の成れの果てであると同時に、その種子の媒介者でもあった。

 インベスの爪などに傷つけられた者の傷口に種子が付着。やがて発芽したそれは宿主を蝕みつつ生長してゆく。

 ヘルヘイムの植物のもう一つの恐ろしさがこれであった。

「だとすると深海棲艦はインベスと交戦したと考えるのが妥当でしょうか。貴虎さん、深海棲艦を襲うようなインベスについて心当たりはありますか?海を泳げるような」

 横須賀提督の質問を受け、貴虎は記憶を探る。

 しかしながら、彼が今まで戦った、データとして見たインベスの中に水生系のモノは無かった。研究者の戦極凌馬が秘匿していたデータがあったとすれば別の話だが、今となっては窺い知れない事だ。

「水中や海上の移動を得手とするモノに心当たりは無い。だが、飛行能力を持ったタイプのインベスであれば深海棲艦を襲う事も可能だろう。もしくは何らかの要因でヘルヘイムの果実を口にした海洋生物が未知のインベスとなった、という可能性もあるかもしれんが」

「じゃあ、ヘルヘイムの汚染が海全体に広がってるって可能性もあるわけ?」

「海の底にびっしり植物が生えてたりするとかぁ?」

「海中で繁殖していたという事例もデータには無かったが」

 夕張と龍田の疑問にそう答えた貴虎であったが、その可能性が無いとは言えなかった。ヘルヘイムの植物は謎の部分が多かったのだから。

 仮に龍田の言った通りの事態になっていれば、最早手の施しようは無いに等しい様に思われた。

「まあ、一先ずはこの遺骸を研究する事から始めましょう。貴虎さん、御助力お願いします」

「勿論だ」

 横須賀提督の言葉に頷く貴虎。

 と、その時。遠方で銃声が鳴り響いた。それに続けて微かな悲鳴のような声が。

 一同は音のした方へと振り向く。

 その先には小さな森が広がっていた。

「あそこには誰が!?」

「植物の痕跡を調べに行った者が数名です!」

「もしやインベスが!?」

 調査員の一人の言葉を聞くや否や、貴虎は駆けだしていた。

「夕張さん、龍田さん、同行を!」

「はい!」

「了解しましたぁ」

 横須賀提督の指示を受け、二人の艦娘もまた森へ向けて駆け出していった。

 

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

「く、来るな!」

 調査員の男が手にした拳銃を撃つ。

 それは迫りくる初級インベスの腕に当たる。しかしながら、致命傷には至らない。逆に刺激されたインベスは、怒りに身を任せて調査員に向かって体当たりをしかけた。

 突き飛ばされた調査員が、もんどりうって倒れ込む。

 更にインベスはそこへ追い打ちをかける。振り下ろされた鋭い爪が調査員の腕を引き裂いた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 腕を押さえて苦悶の声をあげる調査員。

「くそっ!化物め!」

 もう一人の調査員が、仲間を傷つけたインベスへ銃を向ける。

 だがその時、木陰からもう一体のインベスが飛び出し、男へ向けて突進してきた。

「う、うわあぁぁぁぁぁぁ!」

 男はパニック状態になり銃を乱射するが、狙いは悉く逸れ、インベスには一発たりとも当たらない。彼もまたインベスの突進を受け、地面を転げる。

 苦痛に顔を歪めつつ目を開くと、腕を大きく振り上げたインベスの姿が。

「た、た、助けてくれぇーーーーっ!」

 悲鳴が森の中に響き渡る。

「はあぁぁぁぁっ!」

 雄叫びと共に駆けつけた貴虎がインベスの横合いから体当たりをしかけた。跳ね飛ばされたインベスは、よたよたとよろめきながら木の幹に顔面からぶつかった。

「大丈夫ですか!?」

 駆け寄った夕張が、しゃがみ込んで調査員の安否を確認する。

「あ、ああ。助かったよ」

「夕張!早く彼を森の外に!」

「ええ!」

 調査員を助け起こし、身に付けている艤装を外側に開いて懐にスペースを作る。そして彼に肩を貸しながら夕張はその場を離脱する。

 貴虎は取り出した戦極ドライバーをかざして装着。ロックシードのスイッチを押した。

「変身!」

 黄金色の輝きと共に頭上に出現した緑色の果実が貴虎の頭に覆いかぶさった。

【メロンアームズ!天・下・御・免!】

 緑と白に彩られた装甲を身に纏った鎧武者、斬月が降臨した。

 彼は無双セイバーを手にし、鍔の銃口から弾丸を放った。

 それは倒れた調査員に覆いかぶさろうとしていたインベスの背に傷を刻む。

 痛みに身体を震わせ振り返るインベス。

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 その眼前に迫る鎧武者、斬月。

 彼は左手の盾を振りかざし、その面でインベスを横合いに殴り飛ばす。

 強烈な一撃を受けて地面を転げるインベス。ヨロヨロと立ち上がった所へ、斬月の無双セイバーによる乱れ切りが繰り出された。

 目にもとまらぬ速さの斬撃は、容赦なくインベスを切り刻む。

 程なくして一つの遺骸が地面に転がった。

 

 貴虎の体当たりを受けて木に激突したインベスは、振り返ってその手を大きく振り上げて怒りを露わにする。

 と、そこへ

「これ以上のおイタは許されないわよぉ」

 クスリと笑いながら薙刀を構える龍田が立ちはだかった。

 インベスは怒りの矛先を彼女へと向け、鋭い爪を振り上げて突撃する。

「ふふっ。お触りは禁止よぉ」

 口元に笑みを浮かべ、目を細めた龍田の手にする薙刀が華麗に閃いた。

 次の瞬間、振り上げられていたインベスの腕が宙を舞い、ドスンと音を立てて地面へと転がり落ちた。

 腕を切り落とされたインベスはブルりと身を震わせて、直ちに踵を返してその場から逃げ出した。しかし

「逃がすか!」

 先程のインベスを倒し、即座に動き出していた斬月が、逃げるインベスの眼前に立ちはだかった。

 戦いは間もなく終結した。

 

 インベスを倒した斬月は周囲を見渡す。

 もう視界に敵はいないと判断すると、変身を解除した。

 ロックシードをドライバーから取り外し、懐へと仕舞い込む。

「既にインベスがこれだけ出現しているとは……」

 この島は無人島であるため、インベスは打ち上げられていた駆逐イ級の体から生えていた実を食べた野生動物が変化した姿であると考えられた。

 だが、植物がこの世界に完全に根付き、本格的に繁殖を始めて人里などにまで繁殖してしまえば取り返しのつかない事態になってしまう。

 早急に対策をとる必要がある、などと思案しながら貴虎は龍田の元へと向かう。

 彼女は倒れた調査員の手当てをしていた。

 傷口を押さえてうずくまる彼の腕からは、血が少しずつ滴り落ちている。

 止血処理がなされてなおその状態という事は、傷は相当に深いと思われる。

「歩けるか?」

「……な、なんとか」

 息を荒げ、足をふらつかせながら立ち上がる男を二人は両脇から挟みこむようにして肩を貸して歩き出す。

「種子が入り込んでいるとマズイ。すぐに精密検査を受けさせねば」

「そうねぇ。ところで、貴虎さんは大丈夫なのぉ?昨日の戦いでインベスに傷つけられちゃったんじゃなぁい?」

 龍田に言われて初めて貴虎は、それに気が付いた。

 夕張の怪我を気にかけるあまり、自分の事がすっかり頭から抜け落ちていた。今のところ全く体調に異常は見られなかったが、万が一という事も十分にあり得る。

「そうだな。私も検査を受けておくとしよう」

 貴虎が苦笑交じりに口にした。

 その時、彼らの頭上からガサガサと音がした。

 何事かと二人が上を見上げると、枝葉のカーテンを突き破って、羽の生えたインベスが襲い掛かってきた。

「逃げろ!」

 貴虎が咄嗟に龍田と男を突き飛ばす。

「キャッ!」

 龍田はよろめいて倒れそうになるところを、怪我人の男を支えながらもどうにか踏みとどまった。

「貴虎さん!?」

 顔を上げた龍田の視界には、片腕を掴まれ上空へと連れ去られてゆく貴虎の姿が。

「このっ!」

 もう片方の拳を振り上げて抵抗を試みる貴虎。だが、もう一体の飛行型インベスが飛来し、その腕を掴みとり動きを封じたのだった。

(迂闊だった。空への警戒を怠るとは!)

 貴虎の身体は森を抜け、更に上空へと運ばれていった。

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 横須賀提督らの待つ場所へと夕張は調査員を連れ帰った。

 非常事態発生の報を受けて調査中断の指示が出され、各所に散らばっていた調査員らが集まっていた。

 彼らは横須賀提督の指示の元、いつでも撤退ができるよう準備を進めていた。

「夕張さん、状況は?」

「インベス二体が調査員を襲っていました。現在貴虎と龍田が交戦中です。赤城さん、私は救助に戻ります」

「わかりました。よろしくお願いします」

 踵を返し、森へ向け走り出そうとした夕張。その眼に森から上空へ向けて飛び出してきたモノが映った。羽の生えた二体のインベスと、それに捉えられた白い軍服の男。

「貴虎!?」

 驚愕しつつも夕張は、咄嗟に装備した砲を向ける。しかし

(ダメ!迂闊に撃てば貴虎を巻き添えにしてしまう!)

 夕張は歯噛みする。

「ここは私が!」

「赤城さん!?」

 夕張の横に進み出た赤城が矢を番え、弓を引き絞る。

(ですが、出来るのは牽制程度。無暗に怪物を打ち落とせば貴虎さんも下へ……。ならば上空からプレッシャーをかけて高度を下げさせれば、あるいは)

 思案する赤城。と、その様子に気が付いた貴虎の顔が赤城らの方へと向く。

 彼は頷くと、何やら叫んだ様子だった。

(や、れ?……何か考えがあるのですね?)

 それを受けて赤城は上空へ向けて矢を放った。放たれた矢は三機の零式艦戦52型へと姿を変え、空中の敵へと一直線に向かっていった。

 

 まずは牽制として、先頭を行く一機がインベスの進行方向へと威嚇射撃を行った。

 それに驚いたインベスは、飛行速度をわずかに緩めた。そして方向を転換しようとした所へ別の一機が威嚇射撃。これにてインベスらは一瞬ではあるが、空中の一点に留め置かれる事となった。

 そこへすかさずもう一機が機銃を斉射。

 狙いすまされた攻撃は、一体のインベスの羽を背中ごと撃ち抜き、ボロ布のように変えてしまう。

 強烈な攻撃を受けたインベスは、痛みに思わず手を離し、ボロボロの羽を動かしながら地上へと真っ逆さまに落ちていった。

 そして岩礁へと激突。程なくしてその身は消滅したのだった。

 残るインベスは艦載機の包囲網から逃れようと、思い切って速度を上げ、前方へと舵をとった。

 だが、一体のインベスが消えた事により片手の自由を取り戻した貴虎が、右手を掴むインベスの手を掴み返し、勢いをつけて腕と腹筋の力で逆上がりのようにその身を上方へと捻り上げた。

 そして脚を大きく伸ばし、ドロップキックの要領でインベスの顔面を蹴り上げた。

 インベスは思わず両手で蹴られた顔を覆う。

 かくして、インベスの手から離れた貴虎は、脚からそのまま岩礁地帯へ落下、否。暫し飛行をして位置がずれたせいか、海上への落下軌道をとっていた。

(目論見が外れた。しかし生身で落ちるよりは!)

 懐からロックシードを取り出し、貴虎は再度ベルトへと装填すると

「変身!」

 斬月へと姿を変えたのであった。

 アーマーを纏った状態であれば、上空から水面へと落下しても大怪我を負う事は無い。

 やがて落下する斬月は海上へと到達。足に衝撃が走り、そのまま水底へと沈んで行く。

 かに思われたのだが……

「……どうしたのだ?」

 彼の体は沈まない。足の裏には大地をしっかりと踏みしめて立つのと同じ感覚があった。

(これは、上手い具合に浅瀬に落ちたか)

 と、上空から羽音が聞こえてくる。

 見上げると、飛行型インベスが斬月へと急降下攻撃を仕掛けてきているのが目に映る。

 手を伸ばして、鋭い爪で降下の勢いそのままに、斬月を貫かんとするインベスであったが、その背後に追従する濃緑色の機体が。

 赤城の零式艦戦52型三機が機銃を一斉射。先に落下したインベスと同様に、その羽を蜂の巣とされる。

 羽を撃ち抜かれたインベスは伸ばした腕をジタバタと動かし、斬月の元へと落下してゆく。

「はあっ!」

 落下するインベスに向けて繰り出された斬撃が、その身体を縦一文字に切り裂いた。

 両断されたインベスは、そのまま斬月の両脇をすり抜けて、海底へと真っ逆さまに沈んで行った。

「……ふう」

 斬月は振り上げた刀を下ろし、一呼吸をした。

「貴虎!」

 彼の後方より呼びかけと共に近づく者が、斬月が振り返ると、海上を夕張が航行してきていた。

「夕張」

「大丈夫、なの?」

「ああ。怪我などは負っていない」

 訝しむ夕張の表情に対し、斬月が答える。

「ううん……そうじゃなくって……」

 戸惑いの表情を浮かべた夕張が、斬月の足元を指さした。

 彼女の示した方へと視線を下ろす斬月。彼の足下にはユラユラと揺れる水面があった。その数メートル下を小魚の群れがスイスイと泳いでいた。

 まぎれもなく斬月の身体は、水面を踏みしめるようにして海上に立っていたのだった。

「…………何、だと?」

 


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