仮面ライダー斬月・艦   作:はちコウP

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この作品は2019年8月20日にpixiv https://www.pixiv.net/novel/series/452817 に投稿した作品を加筆・訂正した物となります。

『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。

本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。


※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。



【第十二話】part1

 快晴の空の下、褐色の肌の少年少女が二人、澄み切った青い海の傍の砂浜を駆けていた。

 無邪気に笑い声を上げて走り回る少女を追いかける少年は、ふと立ち止まって水平線の彼方へと目を向ける。

 陽光を反射して蒼く煌めく海は穏やかだった。何日か前までは沖合の海水が赤黒く淀み、そこで黒い怪物たちが泳ぎ回っていたというのが信じられないくらいに。

 その黒い怪物たちは島の傍にまで寄って来るようなことは無かったが、遠くで怪物の撃った大砲の弾が飛んできて、島の高台の一箇所に大穴を空けたことがある。

 好奇心からその場所を友人らと共に一度見に行こうとしたことがあるが、少年は大人たちにそれを見つかり、途中で連れ戻されてこっぴどく叱られてしまった。

――危ないから絶対に近づくな。そして無闇に海にも行くんじゃない――と

 しかし今、少年は心おきなく妹と共に海辺を走り回っている。

 村の大人達の許しが出たからだ。

――怪物はもういなくなった。海を走る女の人たちが追っ払ってくれたからな――と父は言っていた。

 少年には何の事かよくわからなかったが、おかげで父や島の人間は漁へと出られるようになったらしい。村はその為の準備で賑わっていた。

 少年は、もうすぐ大人達と一緒に漁に出られる歳になる。

 憧れの仕事をようやく手伝わせて貰える。大人への第一歩を踏み出せる。胸躍らす少年は、大海に思いを馳せていた。

 ふと周りを見ると、近くを走り回っていた妹の姿が見えなくなっていた。

 少年は妹の名前を呼ぶ。何度も呼びかけつつ歩いていると、返事が聞こえてきた。

 その方へ目を向けると、海辺の洞窟から妹がひょっこりと顔を出していた。楽しそうに満面の笑みを浮かべて手招きをしている。

 妹の姿を見つけて安堵した少年は、その方へと駆け寄っていく。

 そこは海と繋がっている洞窟で、中央に海水が運河のように流れ込んでおり、その幅は大型の船が入り込めるぐらいの大きさで、高さも大木がすっぽりと収まってしまうのではと思える程だった。

 この洞窟には子供だけで近づいてはいけないと言われていたが、自由を得たばかりの心の高ぶりを少年少女は抑える事などできなかった。

 探検と称して二人は洞窟へと足を踏み入れていった。

 穏やかな風が吹き込み、洞窟内には潮の香りが満ちていた。壁の岩や足元は湿り気を帯びており、少年らは足を滑らさないように慎重に歩を進めていった。

 奥に行くにつれて周囲は薄暗くなっていくが、多少夜目のきく彼らは臆する事無く先を目指す。

 やがて洞窟の中央を流れる大きな水路は三又に分かれる。その先で大口を開けるかのように開く三つの穴。左、中央の二箇所は全く先を見通せない程に暗闇が広がっているが、残る一方の先からは僅かながらに光が漏れていた。

 都合のいい事に少年らの進んでいる道がそこへと続いていた。対岸の道を進んでいれば引き返さざるを得なかっただろう。探検が続けられることを無邪気に喜んだ彼らは、微かな明かりを頼りに薄暗い洞窟の中を進んでいった。

 

 暗い洞窟を抜けた先に広がる光景に、二人は思わず魅了された。

 辿り着いた先はドーム状に大きく開けた空間になっていて、天井に空いた大きな穴からは木漏れ日のように淡く光が差し込んでいた。

 空間の中央には流れ込んだ海水が湖を形成しており、微かに煌めき反射する光が天井を照らし返す様は神秘的の一言に尽きた。その光景に少年は目を奪われ、暫し天井を見上げ続けてていた。

 その下に広がる異形の影に気付くことなく。

 

 トタトタと駆ける小さな足音と、嬉しそうに誰かに呼びかける様な妹の声に、ふと我に返った少年は視線を下ろした。

 海水の湖の周りを囲むように、見た事のない珍しい形の実が生った緑色の植物が茂っていた。一面に広がっているそれは、壁にまで続いている。いや、それはむしろ壁際から生えて長く伸びているようであった。

 少年はその眼に映ったモノに驚愕し、恐怖に身を強張らせた。

 壁一面に黒い怪物たちの姿があった。

 大型の魚のようなモノ、鉄塊から人の身体の一部が生えているようなモノ、人ほぼ変わらない形をしたようなモノ。脈動するように蠢くそれらには緑色の植物が絡みつくように生えており、それによって洞窟の壁に貼り付けられていた。

 そんな光景の中、壁を見上げるように立ち、少年らに背を向けて佇む人影があった。

 腰元の高さ程までに伸びた白く長い髪、透き通るような青白い肌、黒いマントのようなボロ布を羽織り、手には紫色の不思議な形の果実のような飾りがついた杖を手にした女性。

 それを目にした少年の身に悪寒が走り、大きくその身を震わせる。両親に怒られた時、大人に怖い話を聞かされた時など比べ物にならない位の畏怖の感情が心に広がってゆく。

 ただそこに佇むだけの存在。彼には一目でその存在が神々しくも恐ろしいものだと感じられた。アレには関わってはいけないと本能が訴えかける。

 しかしながら人懐っこく幼い妹は何も理解していないのか、無邪気に笑いながらその女性のもとに駆け寄っていた。

 それに気づいたのか謎の女性のようなモノは、ゆっくりと少女の方へと振り返った。表情を何一つ変化させることも無く。

――お姉ちゃん凄くキレイだね――そのように話しかける少女を青白い女は、無表情で黙して見下ろしていた。

 いくら話しかけても一向に口を開かない女に対し、少女は小首を傾げてキョトンとした表情を浮かべた。両者の間に一瞬流れる沈黙。と、女がボソリと謎の言葉を呟いた。

「ジェガウフォンエエ、ダバリャダバリャレジャフェンミャルゴディブリョショジョミデェジメジョショジュジョジャシャファン」

 そして、奇妙な意匠の杖が少女の目の前にかざされる。

 女が念じると共に杖が輝きだした。それに呼応するように周囲から見る見るうちに植物の蔦が伸びだし、少女の身体を絡めとらんとする。

 その様子をポカンとして見ていた少女の身体が、不意に突き飛ばされた。

 彼女の兄が体当たりをしたのだった。彼は妹の身代わりとなり、蔦にその身を絡めとられ包みこまれてゆく。

――早く逃げろ!――そう叫ぶ兄の声を受けて起き上がった妹は、一瞬戸惑いと恐怖の表情を浮かべたものの、一目散に洞窟の外へと向けて走り出した。

 涙を流し、大きな声を上げながら必死に走る少女。湿った岩に足を滑らせ、何度も転び傷を刻み、血をその身に滲ませて少女は洞窟を駆け抜けた。そして……

「……!?」

 洞窟を抜けた少女の眼に飛び込んできたのは、赤黒く染まった海と暗雲立ちこめる空。

 更には海上を埋め尽くすように広がっている黒い怪物達の姿が……

 その光景を目にし恐怖に顔を歪ませた少女は、一層大きな声で泣き叫びながら村へと向けて走った。既にボロボロの身体に鞭を打つようにして。

――両親に知らせなくては、怪物が来たと、兄が捕まってしまった――と

 少女の遥か後方から連続した爆音が轟いた。

 それと共に飛んでくる怪物たちの放った攻撃が、大地を抉り、木々を薙ぎ倒し、土塊を巻き上げる。炎が至る所で燃え盛る。

 なおも雨あられのように降り注ぐ砲撃の中を、少女はがむしゃらに駆け抜ける。

 そして村の目前まで辿り着いた少女の目に映ったのは、更に恐ろしい光景だった

 虫のような羽をつけた、灰色の怪物の群れが村を襲っていた。

 大人たちが、武器と呼ぶにはあまりにも粗末な、手近な生活用具を振りかざして応戦している。

 しかしながら襲い来る怪物達には無力と言う他ない。数の暴力に圧倒され一人、また一人と村人達は倒れてゆく。老若男女の区別なく、産まれて間もない赤子ですらも……

 その中に見知った人影を目にした少女は叫んだ

――お父さん!――と

 次の瞬間、轟音と共に地面がはじけ飛び、少女の身体は木の葉のように宙へと舞い上げられた。

 

 とある島の人々のありふれた日常、その営みは、ほんの数分足らずの間に無慈悲にも終わりを告げたのであった…………

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「    !                     !」

 

 ふと誰かから話しかけられたような気配を感じて、彼は周囲を見渡した。

 しかしながら近くには、話しかけたと思わしき人物はいない。

《貴虎さん、どうかしましたか?》

「……何でもない。準備は完了している、始めてくれ」

《了解。これより性能検証試験開始します》

 無線を通して快活な女性の声が告げると同時に、砲声音が鳴り響いた。

 斬月は水面を蹴って前方へと駆ける。彼の居た位置に砲弾が落ち、水柱が立ち上った。

 スタートダッシュで勢いを付けた斬月は、足元から水しぶきを撒き上げつつ海上を高速で滑ってゆく。

 その遥か前方に深海棲艦の編隊を模した標的が、単縦陣で斬月から逃げるように航行している。

 斬月は右腕を上げ、標的へと向ける。そこには主に朝潮型駆逐艦に配備されているタイプの連装砲が括り付けられていた。

 敵の速度、自らの速度、放たれる弾の速度と軌道をイメージし、タイミングを計り発射。

 放たれた砲弾は緩い放物線を描いて飛翔し、編隊の一メートル程横の位置に着弾。斬月は即座に腕の角度を修正、続けざまに第二射を放つ。

 それは最後尾の標的に直撃。砕けた破片が宙を舞う。

 次の瞬間、編隊は左方に三隻、右方に二隻と分かれ逃走を図る。

 それを見てとった斬月は、右方向へ逃げた編隊の方へと身体を向ける。

 と同時に彼の右足の脛の付近に括り付けられた、吹雪型駆逐艦に多く配備されているのと同型の魚雷発射装置が起動。発射された三本の魚雷が標的へ向け突き進む。

 そしてそれは先頭を行く的に斜め後方より着弾。後続の的も巻き込みつつ爆散する。

 斬月は視界の端でそれを捉えつつ方向転換。全速力で残るターゲットを追走。

 そんな彼へ向けて、標的に括り付けらている砲塔より模擬弾の雨が降り注ぐ。

 巧みに之字運動でそれらを回避しつつ、斬月は腕の連装砲を発射。砲弾は的と的の間に着弾。撃破はならない。

 しかし、即座に射角を修正した続けざまの一発が標的の一つに命中。半壊させたことにより中破の判定を得る。

 斬月は、ふと視線を海面へと向ける。すると幾本かの物体が彼の進行方向を目がけて進んでいるのが見てとれた。的から発射された模擬魚雷だ。それを見てとると、彼は左腕に装備した盾“メロンディフェンダー”を投擲。

 ブーメランのように高速回転するそれは、一瞬水面下に沈むと斬月の航路へと迫りくる魚雷群を両断。そして再び海上に浮上して、最後尾の的から先頭の的までを一気に切り裂いたのだった。

 

《お疲れさまでした貴虎さん!全ターゲット撃破完了です!今回の武装の使い心地はどうでした?》

「悪くは無かった。しかし連装砲に関しては、前回使用した型式の方が取り回しが良い様に感じたな」

《そうですか。では次回はご希望に添える様な武装を揃えておきますね。この後はバイタルチェックがありますので、入渠ドックの検査室へ向かって下さい》

「了解だ、明石」

 通信に応えた斬月は、海上に設けられた巨大演習場から桟橋へと上がり、変身を解除した。貴虎は演習後の若干汗ばんだ肌に受けるそよ風の心地良さを感じつつ、明石に指定された場所へ向け歩を進めたのだった。

 

 

「ふぅ、何度見ても凄い戦闘力と順応性ね」

呟いた女性は通信用のヘッドセットを外し、机の上に置く。

 その女性は顔の脇で短く結ったピンク色の髪が印象的で、体にはセーラー服のような制服を纏っていた。

「明石、お疲れ様。飲み物持ってきたよ」

「ありがとう夕張」

 通信室へとやってきた夕張から水の入った水筒を受け取る明石。

 彼女は工作艦の艦娘であり、今はここ横須賀鎮守府にて兵装開発及びそれらの改良の任に着いている。

「それでどう?貴虎の鎧の性能は」

「どうもこうも、一言で言うならチートよチート級。航空母艦用の艦載機や一部の特殊兵装を除いて殆ど全部が運用可能。主機無しで海上を航行する上に、その速度もずば抜けてる。限界まで身軽にすれば島風並に速くなるわよアレ」

「そんなに!?」

「元々はアレって貴虎さんの居た世界で、インベスとかいう怪物と戦うために作られた物なんでしょ?」

「ええ。私も貴虎から大体の事は聞いたんだけど、装備は陸戦用で水上での運用なんかは想定されてなかったらしいわよ」

「はあ~~。謎だらけね。まっ、それだけに調べ甲斐もあるんだけどさ」

 

 無人島での戦闘時、艦娘のように海上戦闘を行った斬月。

 それは艦娘をはじめとしたこの世界の人物のみならず、貴虎本人にとっても衝撃的な出来事だった。

 しかしながら、そのような事態に直面しつつも貴虎及び提督らの決断は早かった。

 使える物は使う。出来る事はやる。それだけだった。

 斬月は本格的にインベスの対策、及びヘルヘイムから何らかの影響を受けたと思われる、深海棲艦の捜索作戦に組み込まれる運びとなった。

 その為には性能を十分に把握する必要があるという事で、数日前から横須賀鎮守府にて斬月の海上戦闘能力の調査、艦娘用装備を組み合わせた運用方法を模索しているのである。

「ところで、今日の兵装はどういう組み合わせだったの?」

「右腕にコニシエンタープライズ製の駆逐艦用連装砲A型、両足に芝製作所の三連装魚雷発射装置F型よ。あの魚雷発射装置は本来太ももに括り付けるものだけど、彼の体格は艦娘よりも大きいからね、膝下に取り付けたわ。稼働に問題は無し」

「左手の装備は?」

「そこは元々デカい盾があるからね。防御だけじゃなくて攻撃にも使えるみたいだから下手にいじるのは止めたわ。今日の連装砲はイマイチ相性が良くなさそうだったから、今度は藤川重工の駆逐艦用連装砲を試してみるわ。それならベルト脇にジョイントを付けておけば、不要な時にぶら下げて手を自由に使えるようにできるしね」

「夕雲型が使ってるやつよね?両手を自由に使えるようにするんだったら、いっそのことアヤキエレクトロニクスの自律可動式兵装を付けてみたら?叢雲とかが頭に付けてるアレみたいな。砲塔タイプのもあるでしょ?それを使えばもっと自由に戦えそうじゃない?」

「ダメよ。AEの兵装は独自性が強いから使いまわしが難しいの知ってるでしょ?一から艦に合わせて設計しないといけないし、下手にカスタマイズしようとすればバランスガタガタになるわ。第一そんなことしてる時間も生産ラインのキャパも無いわよ」

「やっぱダメか。あの剣と盾を最大限に活かすには、一番良い案だと思うんだけどなあ」

 先程から彼女らが口にしている社名は、いずれも艦娘の兵装を開発している企業の名である。

 イギリスの企業と提携し、民間でいち早く艦娘用兵装の開発に乗り出した業界最大手のコニシエンタープライズ。

 造船業で培った技術による堅実な造りで駆逐艦から空母、潜水艦と幅広い艦種の兵装開発を手掛ける業界二番手の芝製作所。

 駆逐艦に加え、多数の後方支援タイプの艤装の開発に定評のある藤川重工。

 などなど艦娘の兵装開発には多数の民間企業が携わっている。

 元々は既存兵器に異世界の人間の技術、妖精信仰者の退魔術などを掛け合わせ、国営の研究所などで開発が行われていたのだが、戦線の拡大に従って生産は追い付かなくなった。その為民間企業にも兵器開発の委託を開始。そして現在に至っている。

 その門戸は広く開かれており、イタリア系外資企業ジジニック社を始めとした海外の

兵器開発社も軒を連ねるようになってきていた。 

 しかしながらそんな数多の企業が開発を手掛けているにもかかわらず、兵装の互換性は可能な限り保たれていた。

 弾薬や燃料は共通規格の物が採用され、各種兵装は最低限の手間で他艦にも換装可能となっている。

 とはいえ何事にも例外は存在するもので、一部艤装に関してはオーダーメイドレベルで構造が細かく作りこまれており、流用が難しいものも存在した。

「それならさ。この組み合わせは?」

「どれどれ?」

 新たな兵器を前に技術者魂に火が付いた二人の艦娘。図面を覗き込む彼女らの議論は白熱してゆくばかりであった。

 

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 数刻後、横須賀鎮守府正門付近

 

 鎮守府を囲う石垣の傍を、外出帰りの加賀が歩いていた。 

 出先から戻ってきた彼女の表情は、相も変わらず乏しい。

 だが、今の彼女はすこぶる機嫌の良い状態だった。

(以前から気になっていたあの甘味処、なかなかに良いお店でした。間宮さんのお店とはまた違った趣と品々で。今度は赤城さんとも是非御一緒したいものです)

 そのように心の中で呟きつつ、彼女は正門を抜け鎮守府へと足を踏み入れようとする。

 正門脇に立つ守衛の男が横目で加賀を一瞥し、何事も無かったように正面へと視線を戻した。

 と、車のエンジン音らしきものが周囲に響き渡る。

 何事かと振り返った加賀の目の前で、一台の車がゆっくりと停車した。

 車の助手席から白い軍服を纏った軍人の男が降りてきた。そして無駄のない速やかな動きで移動し、後部座席のドアを開く。

 一拍の間をおいて車から降りてきた人物の姿を目にした加賀は、普段よりも微かに大きく目を見開いた。

 同じく来訪者の姿を目にした守衛の男は、狼狽した様子で身体を強張らせつつ大袈裟なまでの動作で敬礼をしたのであった。

 

 

 検査室にてバイタルチェックを終えた貴虎は、部屋を後にする。

 戦闘後の肉体の検査結果は異常なし。自分の抱く感覚においても、以前アーマードライダーとして戦っていた時と何ら変わりなく動けていると思えた。

 また、ヘルヘイムの植物による肉体の浸食が起きていないかの検査も行っていた。

 先日の龍田の提案を受けて即座に行った検査では異常が見られず、日を置いて今しがた詳細に再検査をしたのだが、これもまた異常は見られなかった。

 無人島にてインベスに負傷させられた調査員の検査結果も同様であった。

 と、廊下を進む貴虎に声がかけられる。

「おう、貴虎じゃねえか」

 後ろを振り返った貴虎の目に映ったのは、眼帯がトレードマークの艦娘の姿。

「天龍か。お前も横須賀まで検査に来てたのか?」

「違げぇよ。コイツを受け取りに来たんだよ」

 得意気な表情で天龍は、手にしていた得物に取り付けられていたカバーを外す。

「へへっ、どうよ?」

「刀か。そういえば先日の戦いで損傷していたのだったな。その具合から見るに新品か?」

「そうだぜ。だけどただ新しくなっただけじゃねぇ。この前みたいな戦いがまたあっても、簡単にはぶっ壊れねぇように丈夫になってるんだぜ。切れ味だって増し増しだ!」

 天龍はここが室内、しかも人の行きかう廊下だということも忘れて刀を構えてみせる。無意識に荒げているであろう鼻息と、口元を緩めた表情からは彼女がいち早く戦場へ出たいと思っている様子が窺える。

 まるで新しい玩具をプレゼントしてもらった子供のように無邪気な天龍の様子に、貴虎はフッと笑みをこぼす。

「それは頼もしい限りだな」

「へっ!見てろよ、今度あの仮面ヤロウどもが出てきたら真っ二つにしてやるぜ!」

 意気込んだ天龍はその場で素振りをし始めた。

 と、そんな彼女を見ていた貴虎は、ふと視線を上げる。

 すると、十数メートル先の廊下の曲がり角から出て来る人影が目に入った。

「あれは、正規空母の加賀?」

「えっ?」

 貴虎の呟きに天龍は振り返り、同様の方を向く。

 すると二人に気付いた加賀と目が合った。彼女は一瞬面食らったような表情を僅かに浮かべ、即座に天龍を睨みつけた。

 殺気すら孕んでいるように思われる鋭い視線に、身震いする天龍。

 そして加賀は瞬きを数度した後に、視線を斜め下に向ける。

 何事かと一瞬訝しんだ天龍であったが、加賀の後ろから続けて見えて来た、白い人影を認めると

「ヤベっ!」

 狼狽しながら乱雑に刀へとカバーをかけ、壁際の床の上に置くと、それを身で隠すように立って敬礼をしたのだった。

 何事かと、加賀と天龍を見比べていた貴虎であったが

「ほら!お前も敬礼だ!敬礼!」

 天龍に小声で急かされるがままに、同様に敬礼をした。

 貴虎はそのままの姿勢で横目にて、加賀に案内されるように歩いて来る人物らの様子を窺う。

 加賀の後ろを歩くのは、白い髭を口元と顎にたくわえた、禿頭の六十から七十程度の歳の頃と思われる軍人だった。

 身に纏った軍服には、数多くの煌びやかな勲章が付けられている。

(階級は……大将、か)

 その大将と思わしき人物の後には、部下と思わしき二人の軍人が続く。

 貴虎らの前を通り過ぎる一行は、敬礼する二人を一瞥すらせずに黙して進み続け、やがて廊下の更に奥へと姿を消していったのであった。

 そして十秒ほどの時をおいて

「あーービックリしたぜ。加賀さんが目配せしてくんなきゃエライ事になってた。処分や始末書は勘弁だ」

 額の汗を袖で拭いながら、天龍がホッと胸をなで下ろす。

「あの老人は?階級章から察するに大将だと思うのだが」

「海軍本部の鬼多川大将だよ。知らなかったのか?」

「そういえば……」

 貴虎は提督になる為の学習をしていた際の記憶を探り出す。

 日本国内のみならず、各地域の基地や泊地に所属する艦娘らは、横須賀鎮守府を総司令部とする組織――言うなれば[艦娘軍]であろうか――に属している。

 しかしながらこの組織は正規の海軍ではなく、海軍本部旗下の特殊部隊という位置づけとなっているのだった。

 深海棲艦という異形の敵を相手とし、兵員・兵器の運用方が通常の軍とは異なるという事情もあり、独自の判断、指揮系統が認められた独立性の高い部隊となっているのだ。

 そんな部隊の上層に位置する、海軍本部の総司令官が鬼多川大将。かつて夷提督が着任する前の伊豆諸島の基地に配属されていた提督の直属の上官でもあった。

「名前だけは聞いた事があったな。実際に目にするのは初めてだ」

「なるほどね。にしても本部の大将が来るなんて聞いてねぇぞ。直々に来る予定があったとなりゃあ、訪問の知らせを聞いた基地全体がピリピリしてお出迎えの準備をしてるハズなのにな」

「……それだけの緊急事態があったというのだろうか」

 貴虎の脳裏にインベスの姿がよぎる。

 インベスとヘルヘイムの植物の出現を聞いた海軍本部が事態を憂慮し、対応に乗り出したという可能性はある。

 であるならば、今後は海軍本部と協力し、ヘルヘイムの殲滅に全力を注ぐという作戦を展開していく事になるのであろうか。

 鬼多川大将らの進んで行った方へと目を向けつつ、思案する貴虎であった。

 

 だがしかし、そのように彼や鎮守府の面々にとって都合の良いように物事が運ぶ事にはならなかったのである。

 




今回作中に出た社名の元ネタ

コニシ+シャフトエンタープライズ
藤川+篠原重工
[パトレイバーより]

彩樹+アナハイムエレクトロニクス
じじ+ジオニック社
[ガンダムシリーズより]

しばふ+島津製作所


その他の会社は今後ネタが思いつけばポロっと出て来るかも?
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