仮面ライダー斬月・艦   作:はちコウP

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この作品はpixiv https://www.pixiv.net/novel/series/452817 に掲載した作品と同一の物です。

『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。

本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。


※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。



【第十二話】part2

 執務室の中には横須賀提督がペンを走らせる音と、書き上げられた紙が放られて宙を舞う音が、ひっきり無しに響いていた。

 嬉々として書類と格闘する彼の表情は、見る者によっては「キモい」と一言で切って捨てられても仕方がない程にニヤついていた。

 次々と床に散らばってゆく書類を、赤城はしゃがみながら拾い集めてゆく。

(まったく。毎度ながら、どうしてこの人はこうなのでしょう)

 思いを口には出さない赤城であったが、時折大きく吐き出される溜息が、彼女の気持ちを雄弁に物語っていた。

 横須賀提督が書いているのは、大規模作戦計画に関する書類だ。

 インベス及びヘルヘイムの植物などの出現により、この世界には新たな危機が訪れた。彼は艦娘らを始めとする戦力を、その対策にも当ててゆく事を決定した。

 まるで植物に寄生されたかのような深海棲艦の遺骸、先日貴虎が交戦したインベスの変化態の様子から、ヘルヘイムと深海棲艦の間には何らかの繋がりがあると彼らは推測した。

 であるならば、対深海棲艦のスペシャリストである艦娘らが、対応に当たるのは当然の事と言える。

 幸いにも現在は、深海棲艦群に目立った活動は見られず、戦況は落ち着いていた。

 その為、各鎮守府や基地などとの情報のやり取り、協力体制の構築は滞りなく進んでいった。

 そして、各所に散らばる戦力をどう配属し、どう活用していくのか、その他諸々の内容を横須賀提督は凄まじい速度で立案し、書き連ねてゆく。

 この世界においても、パソコンや通信ネットワークの類は発達・普及しており、大抵の書類はそれにより作成されるのが普通であるのだが、横須賀提督は

「手書きの方が通常の三倍以上の速さで捗るから良いのだよ」

 という理由で書類を手書きで作っているのだった。付け加えると、パソコンで作業していると余計な事をついついしてしまうから、なのであるが。

 しかしながら、手書きの書類をそのまま各所に回す事は流石に出来ないので、まとめられたそれらは、タイピング専門の担当者に渡され、正式な書類データとして整えられるのだ。

 だが散らばった書類を集めるのは一苦労である。

 赤城をはじめ、秘書艦の任についた者は口をそろえて「せめて放り投げるのはやめてほしい」と抗議していた。

 言われると初めは横須賀提督もそれに従って業務を行うのだが、筆がのって勢いがついてくると、知らず知らずのうちに彼は今の執筆スタイルになってしまう。

 その為誰もが最終的には諦めて、投げられたそばから書類を拾い集める作業を渋々行う事になるのだった。

 出来上がるたびに書類を拾い集めておかないと、後で書類を順番に並べ直すという、気の遠くなるような作業が発生する。

 だから秘書艦は、彼の書類業務の最中は付きっきりなる事が多いのだ。

 

「ふぅ……」

 ペンを置き、横須賀提督は一息をつく。

 手を首筋に当てて首を回し、肩を上下させて凝りをほぐす。

「赤城さん。ちょっと休憩しようか」

 との言葉を受け、書類の束を手にした赤城が立ち上がる。

「わかりました。お茶、ご用意しますね」

 

 湯気をたてる湯呑みから緑茶を一口すすって

「ほっ……」

 小声混じりの息を横須賀提督は吐き出した。

「それで提督、今度の作戦はどのように展開するのでしょうか?」

「うん。今回は進攻や防衛じゃなくって、索敵・捜索が主になるからね。ある程度の当たりを付けて、そこから重点的に調べていこうと考えてるよ。とりあえずは南方海域を中心にかな?」

「南方海域ですか。何か心当たりでもあるのですか?」

「妖精さんがね、囁くんだよ。そっちが怪しそうって」

「なるほど」

 このふざけた様な回答を赤城はすんなりと受け入れた。

 横須賀提督は深海棲艦に対抗できる力を、ある程度感知できる。

 その亜種的な能力として深海棲艦の動向を、大まかにだが察知できる第六感のようなものも兼ね備えていた。

 彼の直感が切欠となり、勝利を掴んだ作戦は幾多にもわたる。

 ある時は、敵の本拠地とは関係が薄いと考えられていた輸送部隊――迂回して別艦隊を中継として物資を送っていた――を徹底的に殲滅。結果として、補給を受けられず弱体化した敵首魁の撃滅に成功する。

 またある時は、複数存在する敵防衛基地に同時多発的に攻撃を仕掛け、警戒の薄くなった海域をショートカットのように突っ切らせ、本隊を強襲するといった作戦を成功させている。

 これらの作戦をどのようの考え付いたのか、という問いに対して横須賀提督は

「妖精さんが、僕の頭の中に声をかけて教えてくれるんですよ。それで何となく、どうすればいいのか分かるんです」

 常にそのように答えていた。

 その正気を疑うような発言を、誰もが初めは訝しんでいたが、やがてそれは当然の事実のように彼の周囲の人々には、受け入れられるようになっていったのである。

「いやあ、それにしても筆が進む進む。新たな敵と新たな戦力、どう活かしてどう戦わすかを考えると実にワクワクするねえ」

「提督、不謹慎ですよ。作戦が早く立案できるのは良い事ですけど」

「ごめんごめん。と、そういえば貴虎さんの性能試験の結果ってもう出てます?」

「はい。こちらに」

 赤城がクリップ止めされた紙束を手渡す。

「ふむふむ。……なるほど。……ふ~ん」

 眺めつつ思わず声が出る横須賀提督。一通り読み終えると視線を書類から、机を挟んで向かいに立つ赤城へと向ける。

「凄いスペックの高さだねコレは。赤城さんはどう思った?」

「正直驚きです。先日の戦いを見た時もそうでしたが。ここまで艦娘の兵装と親和性のとれる兵器が存在するなんて、信じられません」

「そうだねえ。今までずっと、誰でも使えるような汎用性の高い対深海棲艦用の装備を作ろうとしてきたけれど、失敗続きだったからね。結局艦娘の扱える兵装しか、僕ら人類は作れなかった」

「やはり、例の“仮面ライダー”という者の力が成し得るのでしょうか?」

「う~ん。そうとも言えないと思うよ」

 横須賀提督は、机の引き出しから取り出した書類を机の上に置く。

「これは?」

「貴虎さんの戦極ドライバーと夷提督のロストドライバーを測定にかけたんだ。結果は見ての通りさ」

 書類には様々なチェック項目と数値が記されており、その末尾には評定が書かれていた。

 ロストドライバーには“無”と。戦極ドライバーには“優”と。

「貴虎さんのベルトだけが、対深海棲艦に適した性能が見込まれる。しかも最上級クラスの評定だなんて」

「ゲームなんかで言ったら、キラキラの超レア装備って感じだねえ。僕も触ってみて実感したけれど、確かに貴虎さんのベルトからしか、妖精さんの力を感じなかったんだよね」

「何故なのでしょうか。同じライダーの力のはずでしょうに」

「いや、同じとは言えないでしょ」

「どういうことですか?」

「彼らは異世界から来た人だけど、同郷ってわけじゃない。ベルトの仕組みや動力源だってバラバラさ。ロストドライバーはガイアメモリっていうスティックを、戦極ドライバーはロックシードっていうヘルヘイムの力の結晶のような物をキーとして作動する」

「つまり、ロックシードがこの結果の要因だという事ですか?」

「赤城さん鋭いねえ。まあ今は仮説に過ぎないんだけど」

 横須賀提督は喉を潤すため、お茶を一口啜る。そして再度口を開く。

「あと考えられるのは、二つのベルトの出自の違いかな?」

「出自、ですか?」

「うん。夷提督のロストドライバーは、彼がこの世界に来た時に元々持ってた物。でも貴虎さんの戦極ドライバーは、黄金の果実とやらの力で、この世界にて生みだされた物」

「……この世界に持ち込まれた物と、ここで生み出された物。この世界の何らかの力の影響、例えば妖精さんの力。そうお考えなのですか?」

 それを聞いた横須賀提督は、手をパンと叩いて上機嫌に言う。

「グッド!冴えてるね赤城さん!ただ、もしかしたらなんだけど」

 彼がそう言いかけた時。

「提督、失礼します。加賀です。お客様をお連れ致しました」

 執務室のドアがノックされ、その向こうから加賀の声が聞こえてきた。

「お客様?……誰だろう。まあいいや、入ってもらって」

 加賀にそう促すと、横須賀提督はお茶に口をつける。そして……

「久しいな」

 部屋に入ってきた老軍人の姿を目にし、口の中身を机の上に盛大に噴き出した。

「き、鬼多川大将!?」

 思わず立ち上がって裏返り気味に声を上げる。

「お、お久しぶりです。大将閣下」

 慌て気味の赤城が敬礼をする。

 二人の様子に首を傾げる加賀。

「か、加賀さん、どうして連絡してくれなかったの!?」

「お伝えしようと思ったのですが大将閣下が、それには及ばない連絡は済んでいる、と申されておりましたので……」

「こうでもしないと貴様に逃げられるかもしれんからな。この程度些末な事だ。流せ」

 嘘をついた事に対し、悪びれた様子もなく言う鬼多川大将。

 加賀はその物言いに、不快感と嫌悪感を心に滲ませる。だが努めて冷静に振る舞い、それを表情に出す事はしなかった。

「嫌ですねえ、逃げたりなんてしませんよ」

「以前ワシが来た時に、倉庫に籠って文庫本を読みふけっていたのは誰かね?」

「さあ?記憶にありません。僕は未来に生きる男ですので」

「口の減らんヤツだ」

 と、鬼多川大将はサッと片手を上げて合図をする。

 入り口付近に控えていた彼の部下が、敬礼をして部屋を出てドアを閉める。

 執務室の中には四人だけとなった。

「そうだ、赤城さん。大将にお茶を入れて差し上げて。熱くて渋めなのが大将のお好みだから」

「いらぬ。ワシも暇ではないのでな。手短にすませる」

 仕切り直すように咳ばらいをして、大将は話を始める。

「貴様の報告書には目を通させてもらった。インベスなる怪物とそれを生みだす果実、植物。それがこの世界にて繁殖、増殖の兆しありと。にわかには信じがたい話だな」

「でしたら、件の無人島に視察にいらっしゃいますか?現物をお見せできますよ」

「その必要はない。コレが嘘だろうと誠だろうと、方針は既に決まっているのだからな」

 懐から二通の封筒を取り出した鬼多川大将は、それらを横須賀提督の机の上に突き出す。

 横須賀提督は、うち一つを開封し、入っていた書類を広げる。

 内容を一読した横須賀提督は、眉間に皺を寄せて不快感をあらわにした。

 何事かと横合いから覗き込む赤城と加賀もまた、その内容に表情を変えた。

「北方海域の防衛に、投入可能な最大の戦力をもって警戒部隊を編成、展開せよ!?」

 赤城が思わず声を大にする。

 横須賀提督がもう一つの封筒を開き、中身を取り出す。

 中に入っていたのは数枚の写真。そこには、流氷の浮かぶ海に佇む黒い影の群れが写っていた。

 深海棲艦の駆逐艦に始まり軽巡、重巡、空母、戦艦。更には鬼級、姫級と思わしき影までもが確認できる。

「よくできた合成写真ですね」

「ワシがわざわざ、そのような戯れをしに来たとでも言いたいのかね?」

「北方海域での深海棲艦の目立った活動は、報告されていませんが?」

「お前さんの事だから既に察知していると思ったが。お得意の得体のしれない能力、妖精の囁きを聞き取る、とやらは眉唾だったのか?」

 その一言に眉をひそめる横須賀提督。

「まさか。僕のアンテナはバリバリに立っていますよ。それに、本当にそのような事態が起きているなら、僕の方に北方海域に展開する部隊から報告が上ってきているハズです」

「残念だがそれは無い」

「どうして言い切れるのです?」

「この写真は、北方海域を航行中の海軍本部の艦から撮られたものだ。無論、直ちに敵艦隊発見の報は本部へと飛ばされたが、君らの指揮下にある基地の方へは、通信を飛ばし忘れたとの事だ。気が動転した通信士のミスらしいが」

「……それは本当にミスなのでしょうか?」

「通信士本人、艦長共々そう言っておる。ならばそういう事なのだろうよ」

「そんなっ!新人兵士の訓練でもありえない事を!」

 赤城が一歩前に進み出る。

「何かね?海軍本部の者が、わざと貴様ら部隊の基地に報告をしなかった、とでも言いたいのかね?」

「海軍本部の中には、私達の事を快く思ってな――」

「赤城さんストップ」

 食って掛からんとばかりに動いた赤城を、横須賀提督が手で制する。

 ハッとした表情を見せて我に返った赤城は、歯噛みしつつ数歩後退した。

「ともあれだ、その報告を聞いたワシが直々に詫びも兼ねて、貴様らにこうして自ら情報を持って参ったというわけだ。我が国の対深海棲艦の主力である貴様らが、このような事で動けなかったとあれば一大事であるからな」

「はっはっは。恐悦至極に存じます」

 横須賀提督は、大仰な動作で大将に向かって礼をする。

 とその時、執務室備え付けの電話が鳴りだした。

 鬼多川大将は、目配せで横須賀提督に出るように促す。

 横須賀提督は受話器を取り、少々言葉を交わして電話を切る。

「北方海域の警戒に当たっていた部隊からの報告があったそうです。閣下の仰った通りの状況になっているようですね、北の方は」

「ならば話は早い。直ちに北方海域へ戦力を集中したまえ」

「しかし今は、南方海域に存在するであろうヘルヘイムの脅威も、放っておくわけにはいかないのです。現在その為の作戦立案と、部隊の編成中でして」

「ならん。最優先は北方海域だ。これは政府の決定でもある」

 横須賀提督の申し出を、鬼多川大将は突っぱねる。

「政府の?何故ですか?」

「先程の写真だがな、それを撮ったのは取材のために乗り込んでいた新聞記者なのだよ」

「新聞記者?」

「かの記者は抜け目なく、我々が対処するより先に本社へと情報と写真を送っていたそうだ。現在圧力をかけて記事の公開を差し止めさせているが、代わりに閣僚のスキャンダルを報じると言い出したそうだ。政府は何としてでもこれを阻止したいらしい」

「…………」

 この報告を聞き、横須賀提督だけでなく赤城、加賀もまた黙してしまっていた。

「これが報じられれば内閣の不信任案提出、解散につながる恐れもある。加えて件の閣僚は、軍にとっても益になる働きをしている議員でな。我らにとっても他人事ではないのだよ。従って、明日には北方海域の深海棲艦に関する記事が公表される事となる。となれば、十分な戦力をそちらに差し向けないわけにはいかなくなる。国民の不安を和らげる為にもな」

「…………下らないですね」

 吐き捨てるように言う横須賀。

「拒否権は無いぞ。ヘタな事をすれば貴様の進退にも関わってくるだろう。志半ばで大切な部下達と別れたくはあるまい?貴様も軍人の端くれなら、危機的状況への対応策を間違えん事だ。不確実な情報よりも確実な情報を信じてな」

 そう言うと鬼多川大将は、話は終わりとばかりに踵を返し、部屋を出ようとする。

 と、その時。

「おっと、失礼します」

 横須賀提督は懐から携帯電話を取り出し、通話に応じる。

「はい横須賀です。……はい。…………本当ですか!?……ええ……承知しました。情報提供感謝します。そちらも万一に備えて気をつけるように」

 電話を切ると横須賀提督は「お待ち下さい」と鬼多川大将を呼び止める。

「南方の海域にてヘルヘイムとインベス発見、との報が入っております。やはり、こちらを放っておくわけには参りません」

 その言葉を受けて大将は振り返る。

「ほう、捜索については現在作戦立案中ではなかったのか?」

「先んじて動いていた調査隊が発見しました」

「……何とも奇妙なタイミングだな」

「ですが、これを無視するわけにはいかないのではないのですか?信じるに値する“確実な”情報が入ってきたのですから」

「ふむ…………」

 と、鬼多川大将は顎髭を擦りながら思案する。そして暫しの後

「仕方あるまい。そちらに対しても、ある程度の戦力を割く事を許そう」

「ありがとうございます!」

「ただし、そちらに新たな状況の変化が見られない場合、直ちに戦力を北方海域防衛に当てられるようにしておくのだ。期限は……二週間だ」

「了解しました。必ず新たな危機的状況の変化を確認してみせましょう」

「ふん。相変わらずのふざけた物言いだ。正式な命令書は追って送付しておく」

 呆れた様子で鼻を鳴らすと、鬼多川大将は再度踵を返し部屋を後にした。

 そして十数秒の後

「ふぅ~~~。あ~~っ!疲れた。毎度何なんだよ~~あの爺さんは~~!」

 横須賀提督は脱力して、机の上に体を投げ出すようにして突っ伏す。

「お疲れ様でした提督」

「お疲れ様。とにかく不愉快だったわ。何もかもね」

 赤城と加賀が労いの言葉をかける。

「色々と厄介な事になりましたけど、ヘルヘイムへの対策が引き続き行えるのは良いことです。良いタイミングで連絡が来てなによりです」

「ああ、あれ?嘘」

「……え?」

 キョトンとした表情をする赤城。

「電話なんてかかって来てないよ。あれは全部僕の一人芝居」

「…………ま、まさか。大将を騙したというのですか!?」

「へっへっへ」

 得意気な笑い声を上げながら、横須賀提督は身体を起こす。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

「まあ、あの爺さんだって加賀さんに嘘をついたんだしね。おあいこだよ、おあいこ。それに全部が全部嘘じゃないし」

「はあ?どの点が本当なのですか?」

 赤城が尋ねる。

「南方の海域でヘルヘイムとインベスが見つかったって事」

「いつの間に?そのような報告は初めて聞きますが……」

「いやだなあ、赤城さん。こないだ見に行ったでしょ?“ここよりも南方”の海域にヘルヘイムの植物とインベスを」

「……まさか、先日の無人島の?」

「ご名答!あ、この件に関しては本当の事だからね。まあ、誤解される言い回しだったかもだけど」

「呆れたわ。とんでもない大馬鹿者ね、あなたは。今更だけど」

「お褒めの言葉として受け取っておきます。ありがとうございます」

 溜息混じりに言う加賀。こめかみを押さえつつ軽く首を振る赤城。

 事がバレたらどうするのだろうという二人の心配をよそに、横須賀提督は満足気に笑みを浮かべて、うんうんと一人頷いていた。

(とはいえ、実際の所やり手のあの爺様だ。僕の言う事を鵜呑みにしたとも思えない。短期間で状況を変化させないとマジに大変な事になるかもね)

 そう思案すると、横須賀提督はスッと立ち上がる。

「よし!それじゃあ始めようか!」

「始めるって、何をですか?」

 横須賀提督は人差し指を口元に突き立て、赤城らに向けて言った。

「もちろん、極秘作戦会議さ」

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 大将の乗った自動車が、鎮守府の正門前を発進する。

 後部座席に座る鬼多川大将は、窓の外を流れる風景を眺めながら呟いた。

「何といったか、夷とかいう者の前任で、船から海に落ちた指揮官くずれは?」

「不破大佐でありますか?」

 傍らに座る部下の一人が答える。

「おお、そうだった。そうだった。大口を叩いて任に就いた割には、艦娘どもを御すことも出来ず、何の成果も上げられんときた。野心ばかり高く、柔軟性・適応性に乏しい奴だった。その点、横須賀の奴は本当に食えんな。加えて、旗下にいる夷という提督は優れた手腕を持っているらしいな。呉島という提督見習いも侮れなさそうだったわい」

 そして窓の外には、輸送船が鎮守府から出港しようとする光景が見られた。

「そういえば、降格して輸送隊に配属されたのであったな。あの……桑とかいう奴は」

「お言葉ですが大将。不破です」

「おお、そうだそうだ」

 自ら言っておきながら、既に関心無さげな様子で、大将はそう答えたのだった。

 

          ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 翌日

「―――というわけで申し訳ありませんが、各方面からの横槍によりヘルヘイムの捜索及び、その対処に割ける人員は大幅に削減せざるを得なくなりました。捜索自体は禁止を免れたのが幸いです。限られた人員で、やれる事を最大限やりましょう」

 横須賀提督の執務室に緊急招集された夷提督と貴虎は、鬼多川大将よりの通達、経緯を聞かされた。

「軍隊に限らず、組織で動く場合にはままある事だ。致し方ない。私も身に染みてわかっているのだが、改めて味わうと何ともやりきれない気分になる」

「これだから組織は面倒でならんな。探偵業の方が気ままに出来て良い」

「とは言いつつも、夷提督は立派に組織を率いられているじゃないですか。艦娘の皆さんにも好かれていますし」

「お前さん程じゃあないさ。そんな事より、そろそろ本題に移った方がいいんじゃないか?」

「そうですね。では」

 軽く咳ばらいをして横須賀提督は、壁に掛けられた地図を指示棒で指しながら話しはじめた。

「北方で確認された深海棲艦群はAL諸島を抜け、ベーリング海にて流氷に紛れるように集結しています。現在の所、南下したりどこかへ攻める様な兆候は見られません。何らかの陽動の可能性も検討しましたが、どこに攻め込むにしても中途半端に距離がある上に、流氷が邪魔で動き辛く補給も容易くは受けられない。従ってその線は薄いと判断しました。本来なら、小規模な偵察部隊を近海に常駐させて様子を見るところです。しかし知っての通り、海軍本部の命令により大規模な部隊を展開し、警戒に当たる事となりました。部隊は幌筵以北に前線を引いて展開。有事に備える事になります」

 一通りの説明を聞き、貴虎が口を開く。

「それで、私達はどう配置されるのだ」

「もちろん貴虎さんは、ヘルヘイムの捜索隊に組み込ませていただきます。隊の人員の選出は、夷提督の指揮下の艦娘から行っていただきます。身軽で小回りのきく娘が揃ってますし、何より気心が知れているのが良いでしょうしね」

「わかった。面子は俺の方で決めておこう」

「ありがとうございます。それと貴虎さん。本来なら数日は十分に訓練と演習を行ってから捜索に向かってもらうつもりだったのですが、実地・実戦で練度を上げて貰わなくてはいけません」

「私は構わない。むしろその方が、早く体をこの世界の戦場に馴染ませられるというものだ」

「それは頼もしい限りですね。よろしくお願いします」

「ヨコ、それでヘルヘイムの調査についてだが、何かしらの見当はついているのか?」

「ええ」

 夷提督に言われた横須賀提督は、再度地図に指示棒を向け

「ズバリ!ヘルヘイムの手掛かりは南方にあるでしょう!」

 太平洋の中心辺りを指し示した。

「あ、いま指した場所は適当です。詳しい場所はまだわかっていません」

「なぜ南方だと?」

「貴虎さん、以前お話ししましたが、僕には妖精さんの力が感じ取れます。そして時にはお告げのように、フッと何かを伝えられたような感覚がするのです。まるで耳元で囁かれたようにね」

「そうか……」

 それを聞いた貴虎は、昨日の性能評価試験が始まる直前の出来事を思い出す。何者かに話しかけられたような不思議な感覚を味わった事を。

 そして横須賀提督が話し、示した南方という箇所。地図を見る貴虎の心が静かに波立つように揺れ動く。

「私も……南方を捜索するのに賛成だ。寧ろそこ以外にない。そのようにさえ感じられる」

「ほう、貴虎さんもですか。ちなみにその根拠を伺っても?」

「…………勘だ、としか言いようがないな。あなたの話を聞いてそんな気がした。それだけだ」

 それは勘というよりも、確信に極めて近い感覚に思える。しかしながら、心のどこかに引っかかる何かが、貴虎がそれを断言するのを妨げた。

「なるほど、僕と近い感性をお持ちのようでなにより。では改めて貴虎さんには、南方海域で発生しているであろうヘルヘイムの脅威の捜索及び殲滅をお願いします」

「了解した。一刻も早く、それが成し遂げられるよう全力を尽くそう」

「当初考えていた戦力は集められませんが、南方海域に駐留していた部隊に協力を仰いでいます。彼女らと合流して作戦に当たって下さい」

「ああ」

「ヨコ、その戦力とやらを今見せて貰えるか?」

「はい。構いませんが」

 横須賀提督から夷提督に書類が手渡される。暫しの間それを眺めてから夷提督は、口を開く。

「本当にこの戦力で対処しきれるのか?」

 投げかけられた言葉を受け横須賀提督は、一瞬神妙な面持ちになるが、すぐに明るい表情を浮かべ

「不安が無いと言えば嘘になりますが、現状の手札で出来る最善手はこれしか無いかと」

 そう答えた。

「ともあれやるしかありません。時は一刻を争います。こうしているうちにも、ヘルヘイムによる浸食は広がっているはず。この世界でも、私のいた世界と同じ悲劇を繰り返させるわけにはいきません」

 貴虎が強く主張した。

「いや、手の足りない今の状態で無理に挑めば、どこかでムリが出て来るだろう。犠牲者も数多く出て来る」

「なら、どうすればいいとお思いですか?北方の問題を解決してから臨めとでも?」

 横須賀提督の問いに夷提督はこう答えた。

「海軍本部のヤツらを動かして協力させる」

「本気で言ってるんですか?あの石頭連中が、意見を曲げるわけないでしょう」

 若干の苛立ちを滲ませて、横須賀提督は言う。

 対して夷提督は、感情を揺らすことなく平静に続ける。

「お前達は“妖精さんのお告げ”とやらを根拠に南方海域を優先すべき、と主張しているのだろう?さっきも言った通り、それを否定する気は無い。現にヨコはそれを頼りに実績を積み重ねてきた。部下の娘らもそれは十分に承知しているはずだ」

「まあ、そうですね」

「だが、他の組織の連中は違うだろう。いくら実績を上げても、懐疑的な目を向けたままだ。その上に今回は政治家、一般人までもが絡んできている。更には北方海域に深海連中がたむろしている現場も押さえられた。自分達には理解できない”勘のようなモノ”を根拠に主張するヤツと、明確な脅威の証を見せて主張するヤツ、普通なら人はどちらを信じる?」

 夷提督の話を聞いた二人は黙していた。

「誰にでも理解できる“確信的な脅威”というカードを俺達は持っちゃいない。ならどうすればいい?」

「……僕たちも同じカードを手にする必要がありますね」

「そうだ、ヨコ。ヘルヘイムが速やかに対処すべき脅威だという証拠を手に入れて、本部の奴らに突きつける。そうすれば重い腰をちょっとは上げてくれるだろうよ」

 言われて横須賀提督は考え込む。

「完璧な人間などいない。それは人の集まりである組織も同じだろう。自分らの力だけで何でもしようとするよりも、上手く周りの協力を引き出した方が良い時もある。いけ好かない連中でもな」

 それを聞いて横須賀提督は、やれやれと肩をすくめた。

「どうやら、頭が固かったのは僕のようですね……本部の人らに抱く下らない思いに囚われる。我ながら愚かしい限りです」

 そして貴虎は、心の引っ掛かりの正体を理解した。今までに感じたことの無い、予感めいたものに気にとられるばかりで冷静に状況を分析できていなかった。堂々と確信の理由が言えなかったのもその為だと。

「私も焦り過ぎていたようです。ヘルヘイムを少しでも早く排除しようと、気ばかり前に出てしまっていた」

「無理もない。お前が一番ヘルヘイムの脅威を、身に染みてわかっているんだからな」

「よし!では、話を整理しましょう!」

 パンと手を叩いた横須賀提督は、人差し指を突き立てる。

「一つ、南方海域の捜索を最優先で行い、ヘルヘイムの脅威の証拠を集める。二つ、それを突きつけて本部と交渉。自由に動かせる部隊の数を増やす。三つ、再編した部隊でヘルヘイム殲滅作戦を実行する!」

 それを聞いた貴虎と夷提督は、口元に軽く笑みを浮かべて頷いた。

「ありがとうございました夷提督」

 横須賀提督が深々と頭を下げる。

「大した事じゃないさ。しかし……」

「しかし、何ですか?」

 貴虎が、含みのある様な口ぶりの夷提督を訝しむ。

「ふむ、一つ言わせてもらうなら。北方に深海棲艦が集まりだしたのと、南方で起きているらしい異変。その二つが無関係ではないような気がしてな」

「それは何故?」

「言ってしまえば……勘だ。それこそ根拠も何も無いがな。戯言と思って忘れてもらって構わんさ」

 そう言って苦笑する夷提督。

「さて、次に我々がすべきことですが。大きな問題が一つ」

 横須賀提督が、再度地図の方に目を向ける。それに伴って貴虎と夷提督も地図の方を向く。

「初めにどこへ捜索の手を伸ばすか。です」

 横須賀提督が、地図上の南太平洋の辺りを棒で指して、ぐるりと大きく円を描くように回した。

 南方と一口に言っても、当然ながらその範囲は広大だ。

 フィリピン近海か、オーストラリア付近か、グアムか、はたまたインド洋方面にまで赴かなくてはならないのか。

 一同が考え込んでいたその時。

「おっと、お取込み中だったかねぇ」

 部屋の隅から前触れなく男の声がした。

 夷提督と横須賀提督は、何事かと警戒心を露わにして声のした方へと振り向く。

 そこには、額にゴーグルとバンダナをつけたラフな格好の中年男性の姿があった。

「サガラか」

「おう、しばらくだな」

 二人が警戒する一方で、聞き馴染みのある声の主と貴虎は、軽く挨拶を交わしたのだった。

「お前さんに渡した果実の気配を辿って来てみたんだが、こないだとは違う場所のようだな」

「横須賀鎮守府という施設だ。この世界のな。それはそうと、いい所に来てくれた」

 そうして貴虎は、サガラを両提督に紹介する。

 一同は軽く自己紹介を交わし、サガラが一度去って以降この世界で起きた出来事と、置かれている現状について情報を共有したのだった。

 

「なるほどね。これはまた面倒な事になってるねえ。とはいえ、俺のプレゼントが役立ったようでなによりだ」

「だが問題は山積みだ。解決の糸口は掴み切れていない」

「そうだな。事態は確実に悪化しているらしい。おかげ様で俺は、こういう状態になってはいるんだがな」

 サガラの姿は、数日前に貴虎と会った時のモノトーンの姿とは異なり、色合いがハッキリして像の乱れも殆ど起きなくなっていた。

「それは浸食が進んでいるという事を意味するのか?」

「ああ、以前よりも植物の気配が強く感じられるようになっている。俺にかかってくる負荷のような感覚も和らいでいる。だが、靄がかかったような感覚は相変わらずだ。この世界のヘルヘイムの植物を全て感知できる程じゃあなし、干渉して操る事も出来ない」

 降参でもするかのように、肩をすくめて見せるサガラ。

「サガラさん。少しいいでしょうか?」 

「おう、何だい。え~と、横須賀の提督さん」

「大雑把でも全く構いません。あなたが特に強く感じられる植物の気配。それがある所を示しては貰えないでしょうか?捜索の手掛かりになる情報が一つでも欲しいのですよ」

「お安い御用だ。どれどれ、ちょっと待っててくれよ」

 サガラは目を閉じて右手を水平にかざし、左右に動かしていく。やがてその振れ幅は徐々に小さくなってゆき、僅か数センチの間を行き来する程度に動きは細かくなった。

「ちょっと分かりにくいかもしれんが、この位の範囲、その先にとりわけ強い気配が感じられるな」

「サガラさん、もう少しそのままで」

 横須賀提督が机から方位磁石と小型の測量器具を取り出し、サガラの示した方角を更に細かく絞り込む。

 そして、その結果を壁の地図に記載してゆく。

 長く引かれた線は、横須賀を起点として、南南東から東南東方面に八の字型に伸びていた。

 線の両端は、それぞれパプアニューギニアの北に位置する海域と、北太平洋にある群島付近を貫いていた。

「これは……」

「なるほどな。ここならあり得るかもしれん」

 横須賀提督と夷提督が、合点がいったと言わんばかりに頷いた。

「その場所に何か心当たりが?」

 貴虎の問いに横須賀提督が答えた。

「この線の片方が指し示すのはトラック泊地近海。以前大規模作戦が発令された際に、激戦区となった海域です。そしてもう一方はハワイ諸島。“始まりの場所”とも呼ばれる、深海棲艦の本拠地と推測されている海域です」

 

 




当作品におけるロストドライバーとスカルメモリの出自は『movie大戦2010』における描写、設定を準拠としております。


風都探偵6巻を読んだら『ビギンズナイト』が色々とリファインされていてオジサンびっくりだよ。
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