『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
晴天の空の下、白い軍服を着こなした男が港に立ち、水平線の彼方を見据えている。
周囲にはコンクリートに打ち付ける波の音、吹き荒ぶ海風が港に掲げられた旗をはためかせる音が響いていた。
そんな海辺の音に耳を傾けていると、背後から人の近づいてくる気配が感じられた。港に立つ男は後ろを振り向く。
「よう、中々似合ってるじゃないか貴虎」
「本当~サイズもピッタリ!カッコいいですよ」
秘書艦の龍田を伴って、車椅子に乗った
「私としては違和感がまだ拭いきれないのですが。こういった服を着た経験は無いもので……」
貴虎は窮屈そうに軍服の詰襟部分に指を入れ、隙間を広げるように左右に動かした。
海で救出された際、貴虎が着ていた背広は戦いの衝撃と漂流を経て傷みが激しくなっており、処分せざるを得なくなっていた。その為、新たな服を用意するまでの間、提督の軍服の予備を貸し与えられたのである。
「そのうち慣れるさ。俺もそうだった」
「そういうものですか……ところで、横須賀へはこの船で?」
貴虎は、少し先の方に見える船着き場に停泊している大型輸送船を指差す。その周りでは船員たちが重機を使いながら荷物の積み下ろしを行っていた。
「ああ、横須賀への荷物を運ぶ船でな。丁度ここに寄港する予定だったんで、ついでに乗せて行ってもらうのさ」
「そういえば聞きそびれてしまっていたのですが、この基地は地理的にどの辺りにあるのでしょうか?」
「大雑把に言うと、伊豆諸島辺りってとこだな」
「伊豆諸島ですか……だとすると半日も時間はかからないでしょうね。それと、運ばれている荷物は何なのでしょうか?」
貴虎の疑問に対し、今度は龍田が答える。
「あれは、燃料や鋼材といった資材関係なんですよぉ。横須賀に行く前に、この基地にも補給していくんです。その中には他の基地のみんなが、頑張って集めてくれた物もあるんですよ~」
「みんな……というのは艦娘の事か?」
「はい~。私たち艦娘のお仕事は戦闘する事だけじゃありません。資材を運ぶ輸送船を護衛したり、時には自分たちで運んだり、色んなことをやってるんですよぉ」
貴虎達が今いる基地は、深海棲艦の進攻が始まった初期の頃に、本土の最終防衛ラインとして作られたものであった。その時は、まだ近隣の島々にも複数の基地が存在していた。だが制海権を取り戻し戦線が拡大した今、他の基地は解体、あるいは放棄され、機能しているのはここ一箇所のみであった。
「規模的には、泊地と言っていい位に縮小しちゃったんですけど、昔の名残で未だに基地と呼ばれてるんです~」
そうして龍田や提督から基地の成り立ちを聞いていると、宿舎などの施設のある方から港へ近づいてくる人影が見えた。薄紅色の和服に紺の袴を穿いたその人物は、両手で風呂敷包みを抱える様に持っていた。
「提督、こちらをお持ちになって下さい。お昼ご飯を用意しておきました」
「すまんな鳳翔」
鳳翔と呼ばれた女性から包みを受け取ると、提督は貴虎の方へ視線を向け
「会うのは初めてだな鳳翔?その男が例の呉島貴虎だ」
と、和服の女性へ向け貴虎の紹介をした。
「初めまして貴虎さん。私、鳳翔と申します」
そう言って、鳳翔と名乗る和服の女性は深々とお辞儀をする。
「いえ、こちらこそ初めまして」
貴虎も、合わせて鳳翔へ向けお辞儀をした。
「鳳翔さん、と言いますと食事の用意をして下さった?」
「ええ、お口に合いましたでしょうか?」
「はい、美味しく頂かせてもらいました。あれほど美味な食事を取ったのは久しぶりでした」
「あら、お世辞なんて良いんですよ」
鳳翔は柔らかな笑みを浮かべ、若干気恥ずかしそうに謙遜の言葉を述べる。
「そんな、お世辞だなどと……」
「そうですよ~鳳翔さんの料理は、と~~っても美味しいんですから、あんまり謙遜しちゃだめですよ。この基地で一番の料理上手の艦娘に、そんな事言われちゃったら他の艦娘の立場がありませんよぉ」
「うふふ、ありがとう龍田さん。じゃあ、素直にお褒めの言葉として受け取っておきます」
「艦娘、ということはあなたも?」
「はい、軽空母の艦娘を務めさせていただいております。でも、ここ暫くは前線には出ていないんですけどね」
「ちなみに、私の前任の秘書艦でもあるんですよ~」
龍田が鳳翔の言葉を補足する。
とその時、遠くから小刻みな足音と共に、何やら金属の様な物が打ち合っているような音が聞こえてきた。
一同がその音のする方向へ目をやると、二人の少女が駆け足で近づいて来ていた。
二人ともセーラー服と思わしき服装をしているが、一方は上着とスカートで構成された標準的な意匠のセーラー服を着ているのに対し、もう片方の少女はセーラー服を模したようなワンピースを身に付けており、脚には黒のタイツを穿いていた。そして二人とも背中に船のパーツの様な、奇妙な機械を背負っている。
駆け足をする少女達は、提督の前で停止し敬礼のポーズをとる。結構な距離を走ってきたにもかかわらず、二人の呼吸は全く乱れていなかった。
「おはようございます司令官!」
「おはよう、司令官」
標準的なセーラー服を着た、後ろ髪を僅かに結えた黒髪の、素朴な外見をした少女が快活に。ワンピースタイプのセーラー服を身に着けた、淡い水色の長髪の少女が若干冷ややかな口調で挨拶をした。
「ああ、おはよう」
提督も二人に挨拶を返す。だが暫くして怪訝な表情をする。
「夕張はどうした」
「それが……」
顔に苦笑いを浮かべ、黒髪の少女が答えようとした、その時
「待って~置いてかないで~!」
夕張が金属音をガシャガシャと、けたたましく鳴り響かせながら駆け込んで来た。全力疾走をしていたせいか、一同の前で一瞬つんのめりそうになりながら停止する。
「嚮導艦が一番最後にお出ましとはな」
「す、すみません。そ、装備に、手間取り、まして……」
ぜぇぜぇと息を整えながら、申し訳なさそうに夕張は答える。
「だが、集合時間には間に合っているな。まあ良しとしよう」
すると提督は視線を貴虎の方に向け、簡単に二人の少女の紹介をする。
「貴虎、こいつらが輸送船を夕張と一緒に護衛する、駆逐艦娘の吹雪と叢雲だ」
「初めまして貴虎さん。特型駆逐艦の吹雪です。宜しくお願いします!」
黒髪の少女が貴虎へ向け敬礼をする。
「同じく叢雲よ。覚えておきなさい」
ふてぶてしい態度で長髪の少女が言う。
「呉島貴虎だ、宜しく頼む」
そう言うと貴虎は吹雪と叢雲、二人の駆逐艦娘を暫しの間見据えていた。
「どうかしましたか?」
と吹雪が尋ねる。
「いや、この様な子供が戦いに出るのか、と思ってな」
貴虎がこれまでに目にした艦娘、夕張・龍田・鳳翔の三人は、二十歳前後。若しくはそれより若干上の年齢に思えるような容姿で、軍人として戦場に出てもそうおかしくは無い印象であった。戦争とは勝手が違うが、沢芽市でアーマードライダーとして戦っていた者達も、彼女らとそれほど変らない年齢であったと思える。だが、吹雪・叢雲の両名は、中学生程度の年頃であるように見える。流石にそれ程の幼い少女が戦場に赴くとは貴虎も想像はしておらず、少々の驚きをもって呟いたのである。
「何よ、馬鹿にしてるわけ?」
だが叢雲には、それが自分たちへ向けられた侮蔑の言葉の様に感じられた。貴虎の前へ踏み出し、睨みつける様に顔を見上げて食って掛かる。
「そういうつもりで言ったわけではないのだが……」
「そうだよ叢雲、いきなりそんな事言って。貴虎さんに失礼だよ」
吹雪が叢雲の肩を押さえる様にして、なだめようとする。
「フッ、俺も初めはこんな小娘共が戦っていると知った時、少々驚いたもんだ」
「司令官!?」
そう口を挟まれ叢雲は提督の方へ目を向ける。
「だがな、この小娘共は“覚悟”を決めて戦場に出てる。気概は並みの軍人なぞ及ばない位に一人前だ」
「そう思って貰えてるのなら、小娘呼ばわりもいい加減やめて欲しいのだけれど」
「断る。それが嫌ならもっと“大人”になる事だ」
「余計なお世話よ」
そう言うと叢雲は、不機嫌そうにそっぽを向く。そんな彼女に向け貴虎が声をかける。
「機嫌を損ねたというのなら謝ろう。何分、君らの様な少女が戦場へ出るとは想像してなかったものでな。許して欲しい」
「……別に、もういいわよ。気にしてないから」
「そうか。なら今日はよろしく頼む」
叢雲に向かって手を差し出す貴虎。叢雲は、不承不承ながらその手を取り、軽い握手を交わす。
「君もよろしく頼む」
「はい!任せてください!」
吹雪は、差し出された貴虎の手を両手で掴み、がっちりと固く握り返した。
「これぞ大人の対応ってやつですよね」
夕張が鳳翔の耳元で囁く。
「ふふふっ」
それを聞き、小声で笑う鳳翔。一瞬、叢雲に睨まれた様な気がしたが、二人は敢えて気にしない事にした。
「さて、全員揃った所で任務の概要を確認する」
提督がそう言うと夕張・吹雪・叢雲の三人は、たちまち真剣な顔つきとなり一斉に横一列に整列する。
「と、その前に貴虎これを持っててくれ。抱えたままだと締まりがないからな」
「わかりました」
そうして貴虎へと鳳翔から受け取った包みを渡すと提督は、軽く咳払いをして話し始めた。
「今回の任務は大型輸送船の護衛、目的地は横須賀鎮守府。夕張が先頭、右舷に吹雪、左舷に叢雲が付く。航行予定海域の制海権はこちらの物だが、時折敵の出現も報告されている。警戒は怠るな。万が一敵と遭遇した場合、戦闘時の細かな判断はお前たちに任せるが、交戦するか否かは俺が決定する。言うまでもない事だろうが、命令は必ず守れ。そして深追いはするな。以上だ」
「了解!!!」
護衛の三人が敬礼する。
「鳳翔、留守は任せたぞ」
「はい、行ってらっしゃいませ提督」
鳳翔が深々とお辞儀をする。その姿は見る物によっては、女中が主人を、または妻が夫を見送る光景にも見えたかもしれない。それ程に彼女の姿は様になっていた。
「では俺たちは、船に乗りこむとしよう。行くぞ龍田、貴虎」
そうして車椅子を押す龍田と共に、提督は輸送船の搭乗口へ向かっていった。
貴虎も、受け取った鳳翔の弁当入りの包みを抱え、その後をついて行くのだった。
貴虎達が輸送船へ向かう一方で夕張らは踵を返し、艦娘出撃用の桟橋へ向かい始めた。
「皆さんも、お気をつけて行ってらっしゃい」
見送る鳳翔へ手を振りながら、三人は歩いて行く。するとその途中で吹雪が口を開いた。
「貴虎さん、本当に艦娘の事知らないみたいですね。私達と同じ年頃の艦娘なんて、世の中にはいっぱいいるのに」
「ええ、私も驚いたけど漂流……多分、海難事故か何かだと思うんだけど、そのショックで記憶があやふやなんじゃないかって提督が言っていたから、きっとそのせいでしょね」
「だとしても、今どき艦娘も深海棲艦も知らないなんて、流石にどうかと思うわ」
「そうですよねえ」
「でも、私達が今そんな事を考えてもしょうがないわよ。任務に集中しましょう」
そう言いながら夕張は、武装を身に付けた左腕でガッツポーズをとる。
すると叢雲が、その左腕を訝しげに見つめながら言った。
「わざわざ時間をかけて“それ”持ってくる必要あったの?」
「これ?確かに今回の任務では使わないかもしれないけど、付け心地とか、航行に与える影響のデータを取りたかったから付けてきたのよ。実戦で不具合があったら困るしね」
「それって新開発の装備ですよね?」
「ええ、そうよ。あなた達もいつか使うことがあるかもしれないから、楽しみにしててね」
「はい!」
「まったく……そんな風に無駄に装備を持ってくるから、いつも遅くなるのよ。出撃も航行も」
「うぐ……」
痛い所を突かれて、夕張は口ごもる。夕張は通常の仕事以外に、兵装の実験を受け持っているため、常に他の巡洋艦娘以上に重装備をして出撃する事が多い。本人にそれを可能とするだけの能力があり、自ら進んでやっている事なのだが、装備に時間をかけすぎたり、武装の重さのせいで航行速度が落ちるため、時折仲間に置いて行かれそうになるのである。
「ま、まあでも夕張さんが、こうやってデータを取ってくれてるおかげで、私達も安心して武装を使うことが出来るんですから。大丈夫です!みんな夕張さんに感謝してますよ」
夕張に対し吹雪がフォローの言葉を口にする。
「あ、はははは。ありがとう吹雪」
そうこうしているうちに三人は、艦娘出撃用の桟橋へとたどり着く。それと同時に、背負った艤装に括り付けられた主機を手に取り、足へと装着する。背負った艤装と、これとを身に着ける事によって、艦娘は海上を“駆ける”事が出来るようになる。主機の形状は艦娘によって大きく異なり、船の形を模した物から、普通の靴と変わらない見た目の物まで様々な物が存在していた。
夕張達は主機を装着すると、海へと足を踏み出す。その体は水中に沈むことなく、ゆっくりと滑る様に前へと進んで行った。そして全員が海上に降り立ち、進行方向に向け縦一列に並んだ陣形“単縦陣”を組んだのを確認すると、旗艦である夕張が高らかに号令をかけた。
「護衛艦隊出撃よ!!」
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輸送船が出港して数時間後
「レーダー依然として異常反応無し!」
「ソナー同じく!」
「各方角とも目視観測異常なし!」
輸送船の艦橋内では、船員達の報告をする声が飛び交っていた。観測に臨む船員たちの表情は真剣そのもので、出港して以来殆ど持ち場を移動するも無く、一心不乱に目を凝らして洋上を見つめ続けている。
貴虎・
「随分と緊張感が漂っていますね。双眼鏡を構えている方々からは特に」
「そうだな」
「一般船舶での深海棲艦に対する索敵は、目視が中心になってますからね~」
「レーダーもソナーもあるのにか?」
「そんなのは気休めだ。やつらに対してはな」
この輸送船に搭載されているレーダーやソナーは、あくまで通常の船舶等を発見する事を念頭に置いたもので、それらに比べ遥かに小型な深海棲艦を探すのには適していなかった。深海棲艦の反応は大型の海洋生物や魚類などと似通っている部分があるため、確実な索敵を行うのは困難を極めた。もちろん対深海棲艦に特化した物も存在はするのだが、量産の体制は整っていない。現在その生産設備では、艦娘達に搭載するための電探・ソナー系統の装備開発・生産が優先的に行われており、通常の船舶用の物は生産が後回しにされているのが現状だった。
だが僅かな異常や観測者の感じた違和感が、深海棲艦の発見に繋がるというケースも存在するため、通常のレーダーやソナーでの観測は未だに行われているのである。
「なるほど、道理で」
一通り説明を聞き終えた貴虎が呟く。すると提督が
「いい機会だ、お前もやってみろ」
と言い、近くにあった予備の双眼鏡を貴虎に手渡した。それを受け取った貴虎は、艦橋内をぐるりと見回す。
しかしながら艦橋内の窓際には双眼鏡を構えた船員達が立っており、貴虎が入れそうな場所は無い。
「ですが、もう場所が無いようですが」
「あそこだ」
と、提督は船の進行方向へ向け指をさした。
三人は艦橋を出て、輸送船の艦首付近へとやってきていた。提督が指し示した場所は、そこであった。
洋上の天候は夏らしい晴天で、遠くの空には巨大な入道雲が広がっていた。甲板が眩いばかりの太陽の光に照らされ、反射光を辺りに散らばせている。気温もそれなりに高くはあるのであるが、海風のおかげであまり不快な暑さは感じられなかった。
「う~~ん!風が気持ちいいですね~」
髪をなびかせながら龍田が、両手を前に突き出し大きく伸びをする。
「ああ、良い風だ」
かぶった帽子を右手で手直ししながら、提督もそれに同調した。
一方で貴虎は、艦橋を出る際に船員から貸してもらった無線機を取り出し電源を入れる。そして無線の周波数をセッティングする。暫しの後、無線機から夕張の声が響いてきた。
《やっほ~調子はどう貴虎?》
艦娘の艤装には無線機能が搭載されている。それは戦闘に支障の無いよう、イヤホンやマイクを介さずとも、やり取りが可能となっている高性能な物であった。
「夕張か。こっちは問題ない。至って快適だ」
言いながら貴虎が双眼鏡を覗きこむと、輸送船を先導して海を進む夕張が首だけを少し振り返らせ、貴虎達に向かって手を振っていた。
《そう、それは良かったわ。……あ、そういえば私達が航行する姿を見るのは初めてだったわね。どうかな、初めて見た感想は?》
「そうだな……想像していたよりも、随分と優雅だな」
《あら、意外とお世辞が上手いのね》
横から叢雲が口を挟む。
「別に世辞ではない。本当に心からそう思っている」
《ふふふっ、ありがとうございます。艦娘が航行するのは、もう当たり前の事になってて私たちの事そんな風に言ってくれる人って今はあんまりいないから、何だか新鮮でちょっぴり照れちゃいます》
と吹雪も話に加わってくる。
「しかし、観測と言っても何を目印にすればいいのだろうな?」
《そうね例えるなら……ホエールウォッチングって感じかしら?深海棲艦は基本的に黒い色をしてるし、鯨とかシャチを探すつもりでやってみるのが良いかも》
という夕張のアドバイスを受け、貴虎は双眼鏡の倍率を調整し、周囲を見渡し始めた。
《私達よりも高い所にいる人の方が、遠くまで見渡せますからね。頑張って下さい!》
吹雪の応援も受けて貴虎は、暫くの間索敵行動を続けた。
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「目視による索敵というものは、思った以上に疲れるものなのだな」
「そうでしょ~、体は立ってるだけでも、真剣に警戒してる時はすっごく頭を使うから、本当に大変なのよぉ」
甲板での索敵体験を終えた貴虎は、提督・龍田と共に、昼食を取るため輸送船内の食堂へやって来ていた。
空いている席に腰を掛けると、龍田が鳳翔から渡された風呂敷を広げ、包まれていた重箱の蓋を開ける。
中には一つ一つ丁寧に包装されたおにぎりと、付け合わせのだし巻き玉子が入っていた。
「これは美味そうだな」
そう言いつつ貴虎がおにぎりを一つ手に取る。
「そうですね~」
「すまんが俺は船長と今後の打ち合わせがあるのでな。別の所で食わせてもらう」
すると提督は、おにぎりを二個風呂敷に包んで、車椅子に括り付けてあった荷物入れへと放り込む。そして車椅子から立ち上がり荷物を取ると、左足を引き摺る様にゆっくりと歩き出し、食堂を後にしたのだった。
席には貴虎と龍田だけが残される。
「このような揺れる船の中で、一人になって大丈夫なのだろうか?」
貴虎が心配そうに呟く。
「大丈夫ですよぉ。今日はいつもより調子が良さそうですから」
「そうなのか?」
「ええ。提督のお傍にずっといるんですもの、私には分かるんですよ~」
龍田は人差し指を頬に当てながら、得意げにしている。
「それに、バランス感覚を取り戻す訓練にもなりますから~」
「なるほどな」
「それじゃあ、そろそろ食べましょ。いただきます」
両手を合わせてゆっくりと食事前の挨拶をすると、龍田は重箱の中のおにぎりを手に取った。
「いただきます」
龍田に倣って貴虎も手を合わせ、おにぎりを掴む包装を外し一口食べる。
口の中に海苔の風味と共に塩の味広がる。更にもう一口食べると酸味が舌を刺激した。
どうやら具は梅干しのようである。
「う~~ん!たまりませんねぇ、この酸っぱさ」
口をすぼめ目をギュッと閉じ、龍田が顔全体で味を表現する。
「そういえば護衛の者達の食事はいいのか?」
重箱の中身は、どう見積もっても六人が食べるには量が少ない様に思われた。
「護衛の娘達は横須賀に着くまでご飯は食べませんよ~。短時間の任務だと休憩を取らない事はよくあるんです。だからこれは全部私達の分ですよ~」
付け合わせの玉子を手に取りつつ龍田が言う。
「でも心配しなくても大丈夫よぉ。みんなお腹を空かせて、横須賀の間宮さんの所でご飯を食べるのをすっごく楽しみにしてるんですからぁ」
「間宮さん?」
「間宮さんは給糧艦の艦娘なんですよぉ。戦闘に出る事は無いんですけどとっても料理上手で、横須賀に行く時はみんな間宮さんの所で食事をするのを楽しみにしてるんです」
「そうか、艦娘にも色々いるのだな。思えば君たちについては知らない事だらけだ」
「じゃあ私が艦娘の事教えてあげちゃいます。横須賀に着くまで時間もた~っぷりありますから」
「ああ。ではまず一つ質問させてくれ。君達の名前、龍田とか夕張というのは本名なのか?だとすると随分と変わった名前の様に感じるのだが」
「そうですねぇ~……どちらかというとコードネーム、みたいなものかしら?」
そうして貴虎は昼食を取りながら、艦娘についての知識を得るために龍田へと質問をしていたのだが、いつしか話題は龍田と同じ基地に所属する艦娘達の話へと移り変わり、彼女達の人となりについてが話題のメインとなっていった。
そんな時、突如として船内に警報が鳴り響く。同時に無線へと連絡が入ってきた。
「龍田、貴虎、至急艦橋まで来い。深海棲艦を発見した」
「了解しましたぁ、すぐに行きます」
そう告げると龍田は素早く駆け出し食堂を後にする。貴虎も即座にその後を追った。