『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
翌朝、昨日と同様に晴れ渡った空の下。港に整列する一団がいた。
それは、横須賀鎮守府より出港する、新たな任務に就く輸送船を護衛する為の艦隊のメンバー夕張、龍田、吹雪。
彼女達の正面には貴虎、
出撃の前に話す事がある、と前置きをして提督が告げる。
「貴虎が提督見習いとして、ウチの基地に着任する事となった」
その発言に、事情を既に聞いていた赤城以外の艦娘達が、驚きの表情を浮かべる。
そして提督に促され前に出た貴虎が、自分の素性と着任に至った経緯を話し始めた。
自分はかつて一般企業に勤めるサラリーマンであった。しかし、幼少期より世界中を旅する冒険家となる事を夢見ており、それを叶えるため数か月前に、一念発起して会社を退職した。
そして入念な準備をし、貯金をはたき購入した自家用クルーザーに乗り込み出港。制海権のとれた比較的安全な航路を選び航海を始めたものの、運悪く深海棲艦と遭遇。
命からがらなんとか逃げ切ったが、船は沈没。そして漂流していた所を夕張達に救出されたのである。
そして深海棲艦の襲撃により受けた精神的ショックによる記憶混濁も、鎮守府にてカウンセリングを治療を施してもらった事により緩和されたと。
この話は勿論真っ赤なウソである。
数時間前に横須賀提督に呼び出された貴虎は、急遽作成された偽の経歴書と仮の身分証を渡された。この世界で活動する際に不都合の無いように、との配慮であった。更に戸籍情報も既に登録されているという用意の良さだった。
とはいえ、作られた経歴は若干無理のあるモノのように貴虎には思われた。しかしながら提督や赤城のそれとないフォローもあり、艦娘達から疑いの目を向けられるような事は無かった。
「……そして昨日の輸送船上での出来事が目にとまり、提督業をやるように勧められたのだ」
「横須賀鎮守府の提督が、いきなり未経験の人材をスカウトする事があるって噂で聞いた事がありますけど、本当だったんですね」
吹雪が言う。
「ウチの提督は変わり者ですから……でも貴虎さんなら安心じゃないかと私も思います」
「そうねぇ、赤城さんまで太鼓判を押してくれるのなら大丈夫よねぇ」
そうして龍田は、にこやかな表情を浮かべる。
「でも意外ね。貴虎ってそんな無茶な事をするような人には見えなかったわ」
夕張のその言葉を、苦笑を浮かべつつ軽く流すと、貴虎は口を開く。
「私の力がどれ程役立つかは分からないが、皆の期待に恥じぬよう精進したいと思う。今後ともよろしくお願いする」
そうして貴虎は若干不慣れな動きで、習ったばかりの敬礼のポーズをとった。周りの者達も同様に海軍式の敬礼をする。
「ふふっ、それじゃあ私達は、護衛を普段以上に気合を入れて臨まないとね!新しい仲間に良いとこ見せなくっちゃ!」
と夕張が力強く拳を握りしめて、ガッツポーズをしてみせた。
「それと、もう一つ知らせておく事がある」
提督のその発言に、全員が耳を傾ける。
「新たに三人の艦娘がウチの艦隊に加わる事となった。一時的な赴任ではあるがな」
「一時的ってどういう事ですか?」
吹雪が疑問を口にする。
「今回赴任するのは、先日の大規模作戦時に活躍した娘達なの。体調面が万全とは言い難いから、そちらの基地に一旦預けさせてもらうのよ。あなた達の基地にある温泉は効果抜群だから、リフレッシュに最適と思ってのウチの提督の判断ね」
「私達の基地って、保養施設みたいな扱いを受ける事が多いわよね」
夕張が複雑な表情を浮かべて言う。
「ですが休暇扱いというわけでもありません。言うなればリハビリの様なモノですから。任務もバッチリこなしてもらうのでご心配なく」
「それで、誰が来るのかしら~」
「川内さん、神通さん、那珂さんの三人になります」
「うげっ!川内が来るの!?……ああ、ちょっと眩暈がしてきた」
額に手を当て、夕張がげんなりした表情を浮かべる。
「どうした、何か問題でもあるのか?」
貴虎が夕張に尋ねた。
「……静かな夜が恋しくなるわね」
夕張が遠くを見ながら静かに呟いた。その様子に貴虎は首をかしげる。
そんな二人をよそに赤城は話を続ける。
「え~御三方には、訳あって一足先に船に乗り込んでもらっていますので。申し訳ありませんが着任の挨拶等は、そちらの方でお願いします」
「ああ、わかった」
と、夷提督は赤城に応えると正面に向き直り、昨日と同様に護衛作戦の概要を皆に向かって話し始めた。
輸送船が警笛を轟かせながら、港を遠ざかっていく。その音は港への別れを惜しみつつも、無事に航海を終えて再び戻ってくるという強い決意を示す叫びの様だ、と赤城は感じていた。
瞳を閉じ、胸に手を当て、その航海の無事を赤城は一人祈った。すると……
「赤城さん!」
遠くから彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。目を開け声のした方向へ視線を移すと、赤城とよく似た出で立ちの、青い弓道袴を身に着けた女性が早足で近づいてくる。
「加賀さん?」
その女性、加賀は赤城の傍まで来ると
「提督がどこに行ったか知りませんか?」
と尋ねてきた。
「提督でしたら執務室にて書類業務を行っているはずですが」
「いないのよ執務室に」
「えっ?」
「だから赤城さんと一緒に、例の方達のお見送りに来ているのではないかと思ったのだけど……違うの?」
「提督は書類業務で手が離せないので、代わりに私を見送りによこしたんです。それが何故……」
「何か心当たりは無い?」
その加賀の質問に対し暫し考え込む赤城。
「…………あっ!そういえば、近頃疲れているので温泉でリフレッシュしたいと、よく呟いていたような」
「温泉……まさか」
そうして二人は揃って海の方を見る。その視線の先には、先程よりも幾分か小さく見えるようになった輸送船の姿があった。
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輸送船内の仮眠室に貴虎、提督、叢雲の三人は居た。室内には簡素なベッドが数台置いてあるのみの、殺風景な光景が広がっていた。提督は車椅子に座ったまま本を読んでいる。それはどうやら何かの小説のようだった。
叢雲は特に何をするというわけでもなく、ベッドの縁に腰を掛けたまま窓の外をぼんやりと眺めている。
貴虎も特別やるような事も無いので、ベッドの一つに腰を掛けたまま、枕元に置いてあった新聞を手に取って眺め始めた。
室内には、本のページをめくる紙の擦れる音が時折響くのみで、誰一人口を開く事はない。昨日の一件のせいだろうか、叢雲は集合の際に、号令に対し声を出す程度で、他には一言も言葉を発する事はなかった。
どことなく室内の空気は重い。
貴虎は新聞に目を通しつつ、チラリと提督と叢雲の様子を見る。二人とも何も変わらない様子である。
何か話すべきだろうか、と貴虎は一瞬考える。だが元より口数が多いわけでもなく、世間話の類も殆どする事のなかった貴虎には、どうすればいいのか分からなかった。仕方がないので再び新聞に目を通し始めると、部屋のドアがノックされた。
「何だ?」
夷提督が顔を上げてドアの方へ向けて言う。
「あの……遅くなり申し訳ありません。着任の挨拶に参りました」
と細々とした女性の声が、扉の向こうから聞こえてきた。
「入れ」
と提督が促すと、三人の少女が部屋へと足を踏み入れた。
少女達は三人とも橙色を基調とした、お揃いの制服を身に着けていた。
最初に入ってきた少女は、特徴的な前髪と長髪が印象的であり、どこか儚げな雰囲気を醸し出していた。
その後に続いてきた少女は、お団子状にまとめた髪の毛が特徴的で、その顔には満面の笑みを浮かべていた。
最後の少女は、先の少女とは対照的に虚ろな目、気だるげな表情を浮かべており、その顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。明らかに体調が思わしくなさそうである。
「本日付けで横須賀鎮守府より着任致します、軽巡洋艦神通です。宜しくお願い致します」
と先頭に立っていた少女が自己紹介をし、敬礼をした。
「ああ、久しぶりだな神通」
「はい。夷提督こそ御変わりが無いようで」
「面識があるのですか?」
貴虎が尋ねる。
「私は以前、こちらの夷提督の元で任務に就いていた事があるのです」
と言うと神通は、ハッとしたような顔になる。
「申し訳ありません、初対面の方に。お初にお目にかかります、神通です。宜しくお願い致します」
神通は貴虎に向かって、慌てた様子で深々と頭を下げる。どうやらこの艦娘は、いたく腰が低いようだ。
「呉島貴虎だ。こちらこそ宜しく頼む」
と貴虎も自己紹介をし頭を下げる。
すると最後に入室した少女が、フラフラとした足取りで前にやってきた。そして
「……同じく川内……着任。……よろしく」
か細い声で自己紹介をすると、再び後ろへ下がっていった。
「君は大丈夫なのか?体調が優れないようだが」
「ああ……うん、お構いなく……」
「もう、姉さんったら。しっかりしてください」
神通が注意するが、川内は生返事を返すのみで、ふらつきながらようやく立っているという状態だった。
「すみません!何だかここの所ずっとこの調子で……」
「だいぶ重症のようだな。十分にウチの基地なりの治療を施してやろう」
「はい。宜しくお願いします」
再び神通は深々と頭を下げた。
「じゃあ最後は那珂ちゃんの番!」
と、残る少女が勢いよく声をあげ前に躍り出る。いつの間にかその右手はマイクが握られていた。彼女は勢いよくその場でターンをしてポーズを決める。
「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ~!」
「そして僕が鎮守府のアイドル、横ちゃんだよっ!ヨロシクッ!!」
那珂の後ろから青年が勢いよく飛び出してきて、同じくポーズをビシッと決めた。
室内が一瞬のうちに静寂に包まれた。誰もが突然の出来事に面食らい、しばらくの間黙ったままだった。
「え~どうしたのみんな~ノリが悪いなぁ」
「……ヨコ、お前こんな所で何をしているんだ」
夷提督が半ば呆れた様子で、突然の来訪者に声をかけた。
「いやぁ、僕も先日の作戦の指揮で大分疲労が溜まっていまして。そちらの基地の温泉でリフレッシュしようかな、と」
いつの間にか船に乗り込んでいた横須賀提督は「ハハハハ!」と満面の笑みを浮かべつつ、屈託なく言い放つ。
「構いませんよね?」
「……許可なら後ろの奴に取るんだな。俺は知らん」
「後ろ?」
そう言われ横須賀提督は後ろを、部屋の入り口の方へと振り返る。するとそこには、一人の女性が立っていた。
和装の身なりで青い弓道袴が特徴的なその女性は、冷ややかな目で、ただじっと横須賀提督を見つめている。
「ウェ!?か、加賀さん!?」
横須賀提督は驚きのあまり、飛び上る様な勢いで体を震わせた。
「……こんな所で何をしているのですか?」
「い、いやあ僕も今回の作戦で疲れたから、温泉でゆっくり休養を取ろうかな~って……加賀さんもどう?」
声を震わせながら青年は言う。
「それは非常に魅力的な提案ですね」
それに対し加賀は目をつむり、思案するような素振りを見せる。
「でしょ?だったらさ……」
「ですが、これ以上赤城さんの負担を増やさせるわけにはいきません。却下します」
横須賀の言葉を遮り冷徹にそう言い放ち、近づいてきた加賀は、何処からか取り出した縄で彼を素早く縛りあげる。
そして室内を見渡すと
「皆さま、大変お騒がせいたしました。良い航海を」
加賀は一言を告げると共に一礼し、力一杯に縄を引っ張り、そのまま歩き出した。
「ちょ、そんな乱暴に!」
縛られた青年は、引っ張られた勢いで盛大にすっ転び、倒れた姿勢のままズルズルと引きずられていく。
それと共に、ガンッ!ゴンッ!と鈍い音が辺りに響く。
「痛ッ!後頭部打った!か、肩が!やめて、熱い!手が、顔が擦れる!」
悲鳴に近い声が遠くなっていく。その様子を一同は無言で見つめていた。すると
「あーーーゴメン、もう限界……」
と、力無く言うとフラフラとした足取りで川内がベッドに近づき、そのまま倒れ込んだ。
更に那珂が頬を膨らして、プンプン!といった擬音が似合うような仕草で怒り出す。
「もう!アイドルは掴みが大切なのに、横ちゃんばっかり美味しい所を持っていってズルい!」
「それはアイドルと言うより、芸人の言い草に近い気がするがな」
夷提督がポツリと呟く。その一言に那珂は、しまった!というような表情をし
「いっけな~い、那珂ちゃん言い方間違えちゃった。キャハ!」
と舌をペロリと出して自分の頭を小突いた。
その隣では神通が申し訳なさそうに、何度も何度もしきりに頭を下げていた。
ズルズルと音を立てながら、船内の廊下を加賀が早足で歩き続ける。
「ちょ、ちょっと待って加賀さん!お願いします!自分の足で歩かせて下さい!止まって下さい!」
引き摺られる男の懇願の声に対し、物言わず加賀は立ち止まる。
横須賀提督は、体をもぞもぞと動かしながら、縛られたままの状態で器用に立ち上がった。
その様子を一瞥すると加賀は、ゆっくりと歩を進め始めた。
青年は再び転ばされない様に、加賀の隣について歩いて行く。
暫くの間、二人は口を紡いだまま歩き続けた。だが程無くして加賀が口を開く。
「どうやら、随分とあの方を気になされているようですね」
「あはは、お見通しってわけか」
「一応、付き合いは長いですから」
「流石は加賀さん。御美しいだけじゃなく洞察力も抜群だ!」
「それで、何故そこまで気にしてるのですか?」
自分を煽てる言葉に対し、加賀は眉ひとつ動かす事無く質問を続ける。
「釣れないなぁ。……まあ、なんて言うか……彼からは特別強い妖精さんの力を感じたんだよね。彼は素晴らしい加護を受けているみたいだ。いや、加護と言うよりはむしろ……」
「むしろ……?」
「いや、何でもない。だからこそ、もう暫く一緒に話したりしたかったんだけど……」
「だからといって、勝手な行動を取るのは感心しませんね」
「ごめんごめん。これからは置き手紙くらい残しておくよ」
その一言に対し、加賀は無言で横須賀提督を睨みつける。
「……ちゃんと許可を貰ってから外出します……ハイ」
そうこうしているうちに二人は、船の後部甲板にたどり着いた。
「そういえば加賀さん、どうやって帰るの?小舟か何かを呼んであるの?」
「水上を滑って帰ります」
「……ハイ?」
加賀の言葉に対し呆気にとられる横須賀提督。
それを全く意に介さず、加賀は落下防止用の柵に近づくと一言
「海水の飲み過ぎに注意して下さい」
と告げ、勢いよくジャンプしてそれを乗り越えた。ロープを握りしめたまま。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げ海面へと落下する青年。大きな音を立てて海に落ちた彼の方を一瞥すらせずに、加賀は鎮守府へと向かって舵を取った。
海面をトビウオの様に跳ねまわる横須賀提督を引っ張りながら……
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仮眠室に居た貴虎達は、ベッドに倒れ込んだまま眠りについた川内を気遣って外へ出た。
神通と那珂は部屋に残った。結果的に皆を部屋から追い出す形になってしまった事に対して神通は、しきりに頭を下げて謝り続けていた。その様は、逆に貴虎達が申し訳なくなる程だった。
そして今、貴虎達三人は甲板に出てきていた。
艦首部分に立った貴虎は、双眼鏡で周囲を見渡していた。一通り辺りを見回した後に、ふと後方へと目を向ける。
その視線の先には夷提督と、傍らに立つ叢雲の姿があった。どうやら何か話をしている様子であるが、この位置からはその内容までは聞こえなかった。
そんな時、片手に握りしめられた無線機から声が聞こえてきた。
《中に入ってなくて良いの?外は暑いでしょ?》
夕張の声である。確かに彼女の言う通り、夏の日差しがギラギラと照りつける甲板の気温は真夏のそれであるのだが、貴虎は首を軽く振りつつ応える。
「大丈夫だ。潮風が心地良いから暑さは殆ど感じない。それに君たちの働く姿を間近で見ていたい。後学の為にな」
《そんな事言って、私たちのお尻に見とれてるんじゃないんですか~?》
冷かし気味な龍田の声が聞こえてくる。
《おしっ!?》
その言葉を聞いた吹雪が、慌ててスカートを後ろ手に押さえた。
《そんな事をしたら主砲が火を吹いちゃいますから、気をつけてくださいね~》
「ははは、それは恐ろしいな。そうならない様に、視線の配り方には気をつけなければな」
《貴虎ってそういう冗談に付き合えるのね。あんまりそういうイメージが無かったから意外だわ》
「そうか?……いや、その通りだな」
夕張の一言を受け、貴虎は小さく呟く。
《え、何?よく聞こえなかったんだけど》
「何でもない。気にするな」
龍田の言ったような軽口に付き合うなど、以前の自分からは想像もつかない事だ、と貴虎は思った。
仕事、使命に突き動かされるように日々を過ごしていた貴虎には、気の休まる時など無かった。
だが、今ここで彼女達と話していると気が紛れ、落ち着いた気分に包まれる。艦娘達の明るさ、雰囲気に当てられて肩の力が抜けたのかもしれない。命を救ってくれただけでなく、心に僅かでも安らぎを与えてくれた彼女達に対し、貴虎は感謝の気持ちで一杯であった。
そして、成り行きはどうあれ、そんな恩人達のサポートをする事になったのだ。彼女達の為に自分に出来る事を最大限にやろう。元の世界にどうやって戻るか、戻って何をするか、何をしたいのか、それを考えるのは、それをしてからでも良いだろう。と貴虎は密かに決意したのであった。