『仮面ライダー鎧武』『艦隊これくしょん』の基本設定をベースに独自要素、解釈を詰め込んでおります。
本作における艦娘の設定は公式ノベライズ作品『陽炎、抜錨します!』及び『鶴翼の絆』を参考としております。
※今後、分量が多い話は複数パートに分けて投稿します。
水平線の彼方に沈む夕日が、辺りの景色を鮮やかなオレンジ色に染める頃。横須賀鎮守府を出港した輸送船は、伊豆諸島のとある島に存在する基地へ到着した。
船のタラップを車椅子に座った
二人に続いて貴虎もタラップを下り、港の桟橋の上に降り立った。
するとそこには、柔和な笑みを浮かべた鳳翔が佇んでいた。
「お帰りなさいませ。任務お疲れ様でした」
鳳翔は深々とお辞儀をして、一同を出迎えた。
「ああ。留守中は、何も問題は無かったようだな」
「はい、こちらの海は、至って穏やかでした」
鳳翔が提督の問いに、にこやかに微笑んで答える。
「あ~~っ!鳳翔さんだ!お~~い!」
輸送船の方から元気の良い声が聞こえてきた。
一同がそちらの方を見ると、タラップの上から川内が手を振っている。そして駆け足で皆の元へ近づいてきた。
「鳳翔さん久しぶり。元気してた?」
「ええ。川内ちゃんは、先日の作戦で大活躍だったみたいね」
「うん!」
輸送船内では顔色が悪く、目も虚ろであった川内だが、今はそんな様子を微塵も感じさせない程に溌剌としていた。
鳳翔と川内が会話に花を咲かせていると、続いて神通と那珂も船を降りてこちらへやってきた。
彼女達も鳳翔に挨拶すると共に、軽く言葉を交わす。
「ふふっ、これで本日の主役が全員揃ったわね」
「それでは、行くとするか」
「はい。主役の到着を、みんな待ち焦がれていますから」
提督と鳳翔に促されるようにして、一行は歩き出した。
鳳翔と川内達は、楽しそうに会話しながら歩いている。その後を貴虎達三人が続いていく。
「あの川内という少女、先程は大分具合が悪そうでしたが、持ち直したようですね」
「そうだな」
「彼女がどのような状態にあるのか私にはわかりませんが、あのように体調を崩してしまう程に、激しい戦いを繰り広げてきたのでしょう」
提督業がどのようなものなのか、貴虎は未だその全容を知らない。
だが、部下となる艦娘達のケアを行うのも、大切な役目の一つであろうことは想像に難くない。
そういった事についても学んでいかねば、と貴虎は考えていた。
「フッ、どうやらお前は思い違いをしているようだな」
「思い違い?どういう事でしょうか?」
提督のその一言に、貴虎は小首を傾げる。
すると傍の叢雲が、ポツリと呟いた。
「そのうち嫌でもわかるわよ」
一行は、とある建物の廊下を歩いていた。
和風の内装が施された様は、ちょっとした料亭や旅館のような雰囲気を感じさせる。
暫く歩いていると、廊下の先から賑やかな話声が微かに聞こえてくる。
すると、先にある曲がり角から、様子を窺うように一人の少女が顔を出した。
そして近づいてくる一行に気が付くと、パッと顔を明るくし、後ろを振り返り声を上げた。
「みんな来たでー!」
そう言った少女がサッと引っ込むと共に、バタバタと何やら慌ただしく動き回る様な音が響いてきた。
何事かと貴虎が訝しんでいると、襖の前に立った鳳翔が、後に続く者達を手で制する。
「鳳翔さん大丈夫?」
襖の向こう側から声がする。
「ええ、もう良いわよ」
その言葉を合図に、襖がバッと左右に開かれた。
「着任おめでとうございます!!」
威勢のいい明るい声と共に、大勢の少女達が貴虎達を迎え入れた。
その中には、一足先に戻ってきていた夕張達の姿もあった。
部屋の中は、手作りと思わしき装飾が、至る所に取り付けられており、吊り下げられた垂幕には貴虎、川内、神通、那珂の名前と共に“祝!着任”の文字が書かれていた。
どうやらこの部屋は宴会場のようで、広々とした部屋の中は一面畳張りで、端の方には小さな舞台までもが設置されていた。
「これはもしや……」
「はい、皆さんの歓迎会です」
鳳翔がにっこりと微笑んだ。
宴会場の畳の上には、人数分のお膳と座布団が並べられており、長方形を描くような形で配置されていた。
部屋の広さに比べ、参加者の人数は少ないようで、一人一人の席の間隔は、広めにとられている。
貴虎は提督と共に、上座に当たる席に座る事となった。他の者も皆、それぞれ席に着いて歓迎会の開始を待っていた。
「は~い、皆さん、本日もお仕事お疲れさまでしたぁ」
マイクを手にした龍田の声が、舞台上に設置されたスピーカーを通して部屋全体に響き渡る。どうやらこの歓迎会の司会は、秘書艦である彼女が務めるらしい。
「では、これから新規着任者の歓迎会を始めたいと思いま~す。それじゃあ最初は着任の挨拶から。トップバッターは、川内ちゃんよ~。よろしくお願いしま~す」
龍田は川内の元へ近づいていき、マイクを手渡した。
「川内型軽巡一番艦、川内よ。この基地には療養も兼ねて赴任したんだけど、夜戦訓練は今まで通りバリバリやるつもりだからヨロシク!付き合ってくれる子がいたら大歓迎だから、いつでも声かけてね!」
と、一番手の川内が、やる気に満ち溢れた挨拶をした。
貴虎は、その意気込みの良さに感心していた。が、周りの者を見てみると、苦々しい表情を浮かべている艦娘が相当数いるのが見受けられる。特に夕張は、一段とゲンナリした表情をしている様に見える。
「は~い、ありがとうございましたぁ。流石は川内ちゃんって感じの挨拶だったわねぇ。じゃあ、次は神通ちゃんよ。よろしくね~」
「はい」
と、次の挨拶が始まったので、辺りを見回していた貴虎は、そちらの方へ視線を移す。
「軽巡洋艦、神通です。この基地に着任するのは二回目になります。短い間になるとは思いますが、以前ご一緒した方々も、初めてご一緒させて頂く方々も、皆様どうぞ宜しくお願い致します」
そう言うと神通は、周りに向かってお辞儀をする。
「私は前に一緒にお仕事していた事があるんだけど、神通ちゃんは気配りが出来て、頼りがいのあるとっても良い子よ。仲良くしてあげてね~」
その龍田の言葉に神通は、顔をほのかに赤く染めて俯いていた。
「それじゃぁ三人目、那珂ちゃんの番よ~」
龍田からマイクを渡されると、那珂は輸送船内でやったのと同様に、その場でターンをしてポーズを決める。
どうやらこれが、彼女の決めポーズのようである。
「みんなお待たせっ!艦隊のアイドル那珂ちゃん着任しました!今日は那珂ちゃんの為に歓迎会を開いてくれて、どうもありがとー!那珂ちゃん、みんなの期待に応えられるように頑張るから応援ヨロシクー!」
那珂は、両手で宴会場内の参加者に向かって手を振る。
「それじゃあ、那珂ちゃんからお礼の歌のプレゼントだよ!聴いて下さい!那珂ちゃんのデビュー曲、恋の2-4-」
「はい、那珂ちゃんありがとうございましたぁ」
曲のタイトルを言い切らないうちに、那珂の手から素早くマイクを取り返し、龍田は挨拶を打ち切った。
「あ~ん!これからが本番なのに!」
「それでは続きまして……」
那珂の抗議を完全にスルーして、龍田は司会を続けていく。
「う~……でも、那珂ちゃんは負けないんだから。アイドルは理不尽な扱いを受けても、絶対にめげないのだ」
ブツブツとそう呟きながら那珂は、自分の席に戻り、ゆっくりと腰を降ろしていった。
「提督候補生として着任する事になった、貴虎さんの挨拶よぉ」
龍田の紹介を受け、貴虎は静かに立ち上がった。そして、その手にマイクが手渡される。
顔を上げ周囲を見回す。宴会場に居る全員の視線が、貴虎に集まっていた。
貴虎は咳払いをして、喉の調子と気持ちを整え、口を開き始める。
「改めて自己紹介をさせていただく。呉島貴虎だ。まずは礼を言わせてもらいたい。海を漂流していた私を救助し、治療まで施してくれた事、大変感謝している。あなた方は命の恩人だ」
その言葉に、若干照れくさそうにしている者が数名、口元に微笑を浮かべていた。
「そして、故あって横須賀の提督に認められ、提督候補生として着任する事となった次第だ。私は軍事的な事柄については素人だが、精進して一日も早く、恩人である君達の役に立てるようになりたいと思っている。どうか今後とも宜しくお願いする」
挨拶と感謝の言葉を言い終えると、貴虎は一礼をする。
そんな彼に向け、夷提督が静かに、称えるように拍手をし始めた。艦娘達も一人また一人と拍手をしだし、宴会場には拍手の大合奏が響き渡った。
「は~い、貴虎さんありがとうございましたぁ。貴虎さんは、とても素質のある人だと私は思うわぁ。これからの活躍が楽しみね。では最後に提督から、ご挨拶をしてもらいたいと思いま~す」
その声を受けて提督は、やれやれといった様子でゆっくりと立ち上がり、マイクを手に取る。
「こういった事は柄じゃないんだが、手短にいこう。新たな面子も加わって、この基地も一層賑やかになるだろう。だが、誰が加わろうとも、俺がお前達に望む事は変わらない。命を無駄にするな。自分が守るべきものは守り通せ。それだけだ」
言い終えると提督は、ゆっくりと腰を降ろした。
「提督、ありがとうございました~。それじゃあ、みんなお待ちかねの乾杯のお時間よ~。準備してね」
それを合図に、艦娘達はグラスに飲み物を注ぎ始めた。貴虎と提督の前には鳳翔がやってきて、慣れた手つきで二人のグラスにビールを注いでいく。
そして全員が飲み物を手にしたのを確認すると、龍田が声を上げた。
「かんぱ~~い!」
「乾杯!!!」
宴会場内には皆の明るい声と、グラスを打ち付けあう音が響き渡った。
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貴虎の目の前のお膳の上には、色とりどりの料理が、所狭しと並んでいた。
山菜と茸の炊き込み御飯、同じく山菜のお浸し、緑黄色野菜のサラダに金目鯛の煮付け。
汁物のお椀を開けると、出汁の効いた味噌汁の香りが鼻腔をくすぐる。具材はわかめに豆腐と、シンプルながらも王道の組み合わせである。
一口すすると胃の中に暖かさが染み渡り、何とも言えないホッとした気分に包まれる。
次々に料理を口にしていく。比較的舌の肥えている貴虎も思わず唸ってしまう程に、そのどれもが絶品であった。
周囲の面々も楽し気に談笑しつつ、料理に舌鼓を打っていた。
「お口に合いますでしょうか?」
貴虎の傍に鳳翔が近づいてきて尋ねる。
「素晴らしい料理です。先日頂いたお粥もそうですが、どれも非常に美味です」
「ふふっ、それは良かったです。お茶、置いておきますね。お酒だけじゃ、ご飯は食べにくいでしょうから」
「お気遣いありがとうございます」
鳳翔は湯呑みを貴虎のお膳の上に置くと、他の者達の席へと向かっていった。
「よく出来た娘だろう」
隣に座る
「ええ、あのような様子を見てると、彼女が艦娘だというのが信じられなくなります」
「そうだな。とはいえ、アイツはアレでいてかなりの強さを誇る。戦闘技術において言えば、勝る者は数えるほどしかいないだろうな」
「是非とも拝見してみたいですね。彼女の戦いを」
そして二人は、再び箸を進め出した。
時折提督と軽い会話を交えつつ食事をしていると、龍田がやってきた。
「お疲れ様です」
龍田は運んできたお盆の上に乗っていたお猪口を提督に手渡し、冷酒専用の徳利から、よく冷えた日本酒を注ぎ込む。
「貴虎さんもど~ぞ」
「ああ、すまない」
注がれた冷酒を一気に口にする。体内に程良い冷たさと、アルコール独特の何とも言えない熱さが広がっていくのを感じた。酒自体の口当たりも、まろやかで心地が良い。
「あはっ、良い飲みっぷり!もう一杯ど~ぞ」
龍田は空になったお猪口に、再び酒を注ぎ入れる。
「貴虎さん、分からない事があったら何でも聞いて下さいね~。新人教育も秘書艦としての務めですから」
「ああ。よろしく頼む」
「でも~手とり足とりってわけにはいきませんから~。お触りは禁止されてますからね~」
彼女の一言に苦笑する貴虎。こういった冗談に対し、常に気の利いた返答が出来るほどに貴虎は、話術に秀でてはいなかった。そのため、彼は龍田の軽口に対し返答する代わりに、愛想笑いを浮かべつつ酒を一息にあおったのだった。
龍田を交え、貴虎と提督は暫く会話を続けていたが
「少し席を外させてもらいます。他の艦娘達と話をしておきたいので」
と言い、貴虎は立ち上がった。
「わかった」
「いってらっしゃ~い」
二人に見送られ貴虎は、ゆっくりと、談笑する艦娘らの元へと向かっていった。
まず初めに彼が向かった場所では、吹雪と叢雲が会話をしつつ食事をしていた。
とは言っても、会話は殆ど吹雪が主導しており、叢雲はそれに応える、といった形のものであったが。
「隣、座っても大丈夫か?」
「あ、貴虎さん!お疲れ様です。どうぞ!」
明るく答える吹雪に促され、貴虎は腰を掛けた。
「……いらっしゃい」
叢雲は貴虎を一瞥すると、そのまま食事を続けた。
「もう叢雲ってば、せっかく貴虎さんが来てくれたのに」
「いや、気を使わないでくれ。自然体でいてくれた方がこっちも楽だ。二人とも体は大丈夫か?」
「はい!大丈夫です」
「見ての通りよ」
「そうか。なら良かった」
「あっ!私、貴虎さんが今までどんなお仕事をやっていたのか、知りたいです。良かったら教えてもらえませんか?」
「ん?……そうか、そうだな……」
貴虎は躊躇した。簡単な経歴は横須賀鎮守府で用意されていたものがあるが、仕事について詳しく話すとなると厄介である。そこまでは完全にフォローされていなかったのだ。
「……ダメ、でしょうか?」
かと言って、何も話さないのは問題があると思い、貴虎は当たり障りのない範囲で話を合わせる事に決めた。
「いや、そんな事は無い。何から話せば良いか迷っただけだ。……私は医薬品のメーカに勤めていて……」
かつて、ユグドラシルコーポレーションに勤めていた際に、世間の目を欺く為に使っていた“表”の情報を所々ぼかしながら、当たり障りのない様に話していった。食い入るように聞く吹雪。どうやら、怪しまれる心配は無さそうだった。
「と、こんな所だな」
「色々と話して下さって、ありがとうございました」
「私こそ、じっくり話が出来て良かったと思う。では、そろそろ他の娘達の所へも行かせてもらうとしよう」
「はい、行ってらっしゃい」
そうして貴虎が立ちあがろうとすると
「待ちなさい」
叢雲が声をかけてきた。
「……どうした叢雲?」
今まで話に参加する事も無く黙っていた叢雲が、突然声をかけてきた。
何か怪しまれるような事を言ってしまったかと思い、貴虎の背筋に一瞬の緊張が走る。
「……き、昨日は……悪かったわね。」
「昨日?」
「……潜水艦の。……手間かけさせて悪かったわね」
「ああ、その事か」
どうやら昨日の護衛任務中に、貴虎に助けられた時のお礼を言いたかったようである。
「私は、ただ艦橋から見ていただけだ。礼なら敵を倒した夕張に言ってやれ」
「……わかったわ」
そっけない物言いだが、彼女の性格を察するに、これでも精一杯の感謝を表しているつもりなのだろう。
そんな彼女を見て、貴虎は微笑を浮かべた。
すると叢雲は、顔を真っ赤にして俯き
「も、もういいでしょ!さっさと他の娘の所に行きなさい!」
と貴虎を怒鳴りつけた。
「ああ、失礼する」
そうして貴虎は、吹雪と叢雲の元を離れていった。
叢雲の様子を見て吹雪も、その顔に笑みを浮かべていた。
そんな彼女を睨みつけると叢雲は、目の前にあったグラスを手に取り、火照った体を冷やそうと、一気に中身のジュースを飲みほしたのだった。
「失礼する」
次に貴虎が向かったのは、四人の駆逐艦娘が集まっている所だった。
「あ、いらっしゃい」
黄色いリボンを髪の両側に付けた少女、陽炎が貴虎を迎え入れる。
「どうぞ、こちらにお座り下さい」
傍らにあった予備の座布団を手早く、ピンク色の髪の少女、不知火が敷いた。
「すまない」
貴虎は、その座布団の上に腰を降ろした。
「君らと会うのは初めてだったな。呉島貴虎だ。宜しく頼む」
「こちらこそ初めまして、陽炎よ。……とは言っても、私達は一度貴虎さんに会ってるんですけどね」
「どういう事だ?」
「夕張はんが貴虎はんを見つけた時、ウチら一緒におったんよ。あ、ウチは黒潮や。よろしゅうな」
陽炎の隣に居た黒髪の少女が言った。
「そうだったのか」
「ええ。あと、そこの不知火と島風も一緒だったわ」
陽炎が指し示した方へ、貴虎が目を向ける。
「不知火です。宜しくお願いします」
「島風だよ。ヨロシクね」
島風の挨拶に合わせて、顔の描かれた砲塔に、体のついた彼女の武装“連装砲ちゃん”が三機、手をパタパタと動かしながら、挨拶するような仕草をしてみせた。
その妙な機械人形に、一瞬戸惑いの表情を浮かべた貴虎であったが
「ああ、こちらこそ。よろしく」
と、皆に向け会釈をした。
「それにしても運が良かったわ。私達が近くにいなかったら、今頃は深海棲艦のエサになってた所ですよ」
「深海棲艦は、人を食べる事もあるの……だったな」
「ええ、そうよ」
「小舟が丸々、ガブガブッと噛み砕かれたっちゅう話もある位やしな」
黒潮が両腕を大きな口に見立てて、上下に動かすジェスチャーをした。
「それは、恐ろしい話だな」
「ですがそのような被害を、犠牲者を増やさない為に私達がいるのです」
「うん!そうだよ!」
「そういえば、君達は駆逐艦娘、らしいな」
横須賀鎮守府に行く途中の龍田との会話の中に、彼女らの話が出てきた事を思い出す。
「せやで」
「駆逐艦娘というものが、どのような役割を担っているのか、私に教えてくれないだろうか?様々な艦娘がいるのは知っているのだが、その違いについてまでは把握していないものでな」
「もちろん!」
「駆逐艦娘とは、火力自体は他の艦種に大きく劣りますが、その分燃費は良いのです」
「せやから、護衛や遠征の任務に重宝されとるんや」
「でねでね、すっご~く早いんだよ!」
陽炎、不知火、黒潮、島風は口々に駆逐艦娘の特徴と役割を、貴虎に教授していった。
一般的な駆逐艦娘の特徴や性能の話から、彼女らの武勇伝まで、話のタネは尽きる事が無いようだった。
駆逐艦娘らの元を去った貴虎は、見知った艦娘の元へ足を運んだ。
「隣、座っても構わないか?」
「あ、貴虎いらっしゃい。どうぞ座って」
夕張の隣へと貴虎は、ゆっくり腰を降ろした。
酒が入っているせいか、夕張の顔は仄かに赤い。
「随分とお話が白熱していたみたいじゃない?」
「私は殆んど聞いていただけだったがな。彼女らの勇ましさには、感服させられる」
「そうね、私も気を抜くと、あの娘らには気圧されそうになる時があるわ」
夕張は苦笑する。
「おいおい、何を情けない事言ってるんだよ。気合が足りてねェんじゃないか、夕張?」
貴虎と夕張が声のした方を見やる。そこには両手に飲み物をもった、片目を眼帯で覆い隠している少女が立っていた。
少女は荷物を床に置くと、自らもドカッと腰を降ろした。
「君は?」
その貴虎の質問に対して、少女は前髪を軽くかき上げ、鋭い眼光でキッ!と貴虎を睨みつけ、声に凄みを込めて言い放った。
「オレの名は天龍。天龍型一番艦の天龍サマだ。フフッ……怖いか?」
渾身の名乗りが決まった、とばかりに天龍は得意気だった。
彼女の様子に貴虎は、言葉一つ発する事無く、ただじっとしていた。
ただ、隣の夕張は苦笑とも呆れともつかない、複雑な表情を浮かべていた。
「このオレのオーラにビビっちまって、声も出ねぇか?」
「……いや、すまなかった。あまりにも龍田の言った通りだったものでな」
「龍田が?一体何の事だよ」
「君が不治の病だと聞いていたのだが」
「ハァ?何言ってんだよ。オレは見ての通りピンピンしてるぜ?」
天龍は拳を握りしめ、右肩をグルグルと回し、健康さ、元気さを現すかの様な仕草をする。
「いや、体では無く精神的な病だと……」
横須賀へ向かう途中の輸送船内で貴虎は、龍田から天龍の事も聞かされていた。
その内容は龍田曰く……
「……天龍ちゃんは病気なのよ。誰の前でもカッコつけないと気が済まない、心の病にかかってるのよぉ」
「出会ったらすぐに、怖いか?なんて言ってくるかもしれないけど、許してあげてねぇ」
「……でも、そんな所も天龍ちゃんの魅力だと思うの。だから怒らないでほしいのよ」
「私も何とかしてあげたいと思ってるんだけど、どんなお医者さんにも直せない病気みたいで……」
次々と龍田より聞いた天龍の事を、掻い摘んで伝えていく貴虎。
その話を聞いているうちに、天龍は徐々に俯いていき、肩をふるふると震わせ始めた。
「何でも“チュウニ病”?という病気らしいな。そんな病があるなどとは、その時初めて知って驚いた。私も及ばずながら力になれれば良いと思っている。だから……」
更に話を続けようとしていると、不意に肩を叩かれる。
すると夕張が慌てた様子で、自らの口元に人差し指を突き立てていた。
「それ以上はダメ、もうやめてあげて」
囁く夕張の様子に、貴虎が首を傾げた瞬間……
「龍田ぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
天龍が大声で叫びながら立ち上がった。
そのまま勢いに任せて走り出し、龍田のいる提督の席に向け、一目散に走り出した。
が、そこには龍田の姿は無く、提督が一人でお猪口を傾けていた。
「龍田は!?龍田は何処に行きやがった!?」
提督は視線も動かさず、無言で入り口の方を指さした。
その先では龍田が襖から、ちょこんと顔を覗かせており
「天龍ちゃん、怒っちゃい~や~よっ!」
とウィンクをすると、回れ右をして駆け出して行った。
「コラァ!!待ちやがれ!!」
天龍は凄まじい勢いで龍田の後を追いかけ、宴会場から出ていってしまった。
「私は何か不味い事でも言ったのだろうか?」
「うん……後でちゃんと謝っておきなさいね」