謎の呼び出しと遭遇
土佐藩のあった地に設立された高校、
『2年5組13番の優等生の久我蒼一君、今すぐ理事長室に来なさ~い』
授業も終わり、とっとと帰ろうと思っていた矢先に理事長のおちゃらけた声が聞こえた。わざわざ修飾句を付けてくる位にはおちゃらけている理事長だ。
(何だ一体…)
“優等生”の彼が特に何かやらかしたということは無いはずだ。というかそれなら生徒指導室行きだろう。
かといってもうすぐ行事か何かがあるかと思えば特にない。
なぜ呼び出されているのか全くもってわからずに困惑したままだったが、早く話を終わらせて帰りたいからかスクールバッグを持ってすぐに理事長室に向かう。いくら考えても理由は浮かばない。
「久我さんだ…」
「あの“秀才”の?てかかなり美形じゃん…」
「全学年共通模試で1位って普通に凄くない?見た目も顔立ちとか藍色っぽい髪とか色々格好いいし、性格もいいらしいし、今度勉強教えてもらおうかなぁ♪」
「やめとけ!やめとけ!あいつは付き合いが悪いんだ」
「お前は人気に嫉妬してるだけだろ」
理事長室へ歩を進めているとひそひそと声が聞こえる。しかし、悪い印象を与えるようなものはほとんど聞こえてこない。そう。この青年は校内で“優等生”だとか、“秀才”だとか言われている生徒なのだ。
しかも背もわりと高く、顔立ちや藍色の髪は勿論、目立たないが筋肉も結構あり、俗に言うイケメンというやつでもある。
しかし当の本人は自分のことをそんなように考えたこともない。それどころか自分自身を何故か、“劣等生”“筋金入りのアホ”とまで評価しているのである。
(うるさいな…俺はお前らの言う優等生とは程遠いっちゅーに…)
無視して歩いていたらもう扉の前まで来てしまった。
「失礼します」
返事がない。
「…失礼します」
やはり返事がない。
「…もう入りますよ」
呼び出されたのだから問題はないだろうと入らせてもらった。
しかしそこには理事長の机や客人用のソファ、2m近くある西洋の鎧と剣、棚に飾られたトロフィーくらいしかなく、理事長がいない。こんなことだから蒼一は再び困惑する。
仕方なく理事長室を見ながら待つことにした。何故かと言われればここ自体滅多にに入らない部屋だからというのもあるのだが―
(この理事長室、どう考えてもおかしくないか?)
1年前に入学した時に来たときは少なくともこんな鎧はなかったはずなのだ。というか部屋が妙に西洋の屋敷にありそうな飾りつけになっている。鎧と剣だけではなく、燭台やシャンデリアまである。
最も違和感、それどころか恐怖を覚えたのが、本来あるはずのものが無く、無いはずのものがあることである。
この部屋は本来は中庭から見える。まあ見えると言っても理事長の机の後ろ位しか見えず、カーテンで中の様子は分からないが。何故か。当然窓があるからだ。
しかしこの部屋にはそのカーテンも窓もない。あったはずの場所を触っても無くなっている。そのかわりに更に奥に部屋がありますよと言わんばかりの扉がある。勿論これは本来存在しないものだ。
(気味が悪いな…)
だがそこは日本人。怖いもの見たさで部屋をくまなく調べてしまった。机の引き出しには書類等は一切ない。トロフィーの内容も適当だ。
流石に恐ろしくなってきたのか、理事長室から出ようとして扉を、
「…………は?」
開けられなかった。思わず間抜けな声が漏れる。
外から扉に鍵をかけられただとかいうような問題では無い。いくら力を入れてもドアノブが少しも動かない。扉を破ろうとタックルをしたりバッグから水筒を取り出して叩きつけても傷一つつかない。
あの剣ならどうだ?そう思い手に取ろうとした瞬間のことだった。
「ぐっあッ!?」
蒼一の腹部に激痛が走り、トロフィーの棚辺りまで吹き飛ばされる。腹部を押さえ、咳き込みながらゆっくりと起き上がり、周りを見る。
そして、理解出来ないような光景を直視し、自分の身に何が起きたのかを理解した。
「おい…何であの鎧が動いてる…?」
そこには拳を引き戻し、剣を拾おうとする“鎧”があった。
しかし蒼一はそこまで驚いていなかった。こんな摩訶不思議な部屋に閉じ込められたというのもある。しかし、それ以前に恐怖が勝っていたのである。
―鎧が剣を取り、蒼一に振り下ろす。
「うおおああああああああ!?」
間一髪避けることに成功したが、蒼一は更なる恐怖を覚えた。絨毯ごと木製の床が叩き斬られ、その下のコンクリートにまで亀裂ができている。
つまり、蒼一が腹部を殴られた時の痛みからも分かるが、この鎧はかなりの力がある。拘束するという選択肢は存在しない。バッグの中の裁縫用の糸で縛っても容易に引き千切られてしまうだろう。
もう一つ、剣は真剣であり、レプリカでも何でも無いことである。でなければコンクリートに一文字の亀裂が出来るはずが無い。
「正真正銘の化け物じゃねえかよ…クソ…」
身体が震える。落ち着け。逃げる方法を考えろ。理事長室は狭すぎる。あの扉から逃げるしかない。本来あるはずの無いあの扉はどこに繋がっている?まずあの扉は開くのか?
「知らねえよ!畜生!」
ヤケになって全力で走り、ドアノブを引いて開けようとする。やはり扉を開けられない。しかしさっきとは違い、鍵が掛かっているような閉まり方だった。
再び化け物によって剣が振り下ろされ、切っ先は再び、扉にいる蒼一に向かっていく。再び避けたが、剣は左腕を掠め、鮮血が飛散し、灰色のカーペットに赤い斑点を作っていく。酷く濃い鉄の匂いがする。肉は少し裂けており、殴り飛ばされた時よりも強い痛みが襲う。
「痛っってえな…だけど」
しかし僅かに希望が湧いてきた。肉を斬ったと同時に破壊された扉の先には廊下があるようだ。中庭には出られないようだが。ついでにあの鎧の化け物は思ったよりも動きが鈍いらしいというのも分かった。
すかさず扉にできた隙間を通り抜け、廊下を突っ走る。振り向けば、化け物はまだ追ってきていない。どうやら通り抜けられないらしく、必死に扉を攻撃して隙間を拡げているようだ。
それを確認した蒼一は全力で廊下の奥の扉まで走り続けたのであった。
二人の少女が話をしていた。
一人はツインテールに仕上げた金色に輝く髪をなびかせている。そして、右手で魔力のこもったナイフを掲げていた。
もう一人はフードを被った、雪のように白い髪をしており、金色の髪の少女の様子をまじまじと見ている。
「どうかな?彼の実力は」
「たかが一般人なら余裕で秒殺できると思っていたのだけれど、意外と火事場の馬鹿力というやつで何とかしてくるものなのね」
「成程ね…それが君の所感かな?」
「…何が言いたいの?」
「いや、この段階でただの火事場の馬鹿力と決めるには早計ではないかと思ってね」
「早計?ただの一般人よ?魔術師の私が負けるはずが―」
「君は、格上に無謀な戦いを挑んで勝利を収めた存在の数を数えたことがあるのかい?」
「…だとしても関係ない。いる世界自体が違うもの。」
「全くやれやれだな!いいかい、僕は忠告したからな!」
「胡散臭さの塊でしかない貴女に忠告されても困るわ」
「ほんと酷いこというな君は!もういい!彼にボコボコにされても知らないぞ!」
フードの少女の姿が霞に包まれるように消えていく。
「…負けるはずがないのよ」
ツインテールの少女がつぶやく。そしてその後ろには、蒼一を襲ったものと同じ鎧が三領存在していた。
やっと一話書き終わりました(∩´∀`∩)ヒャッハー
拙い文かと思われますがよろしくお願いしますゥ…