IS学園天文部   作:山石 悠

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第三夜「……人間辞めろ、か」

 普通はハーレムというか、女の子に囲まれるのは男の夢なのだという。酒池肉林なんて言葉が世にあるくらいだし、性欲は三大欲求にも数えられる。

 なにより、ちやほやされるのが嬉しいのは俺も分からないわけではない。

 

 ……分からないことはない、が、

 

「いや、無理」

 

 それでも、やはり俺は例外だったらしい。

 

「はい、それじゃあSHRを始めますね~」

 

 にこやかに司会を始めた先生に意識を集中するが、それでも視界の端々からこちらに視線が向けられているのが分かる。あまりにも露骨にこちらを見ているものばかりだ。

 

「私はこの一年一組の副担任、山田真耶です。よろしくお願いしますね」

「……よろしく、お願いします」

 

 努めて意識しないようにしながら先生の話に意識を向け返事をするが、俺以外には誰も挨拶を返さなかったらしく更に視線が集中する。勘弁してほしい。

 そして、当の山田先生は返事が返ってきたのが嬉しいのか、目元に涙を浮かべながら「はい、よろしくお願いしますね!」と微笑んだ。なんだか親しみやすそうな人で良かったが、この人が担任というわけではないらしい。

 

「それじゃあ、最初は自己紹介をしましょうか。出席順でお願いします」

 

 挨拶も終わりいきなり自己紹介のパートに入ると、クラスの空気が少しだけ緩んだ。まあ、男子の方ばかり気にしている余裕もないだろうし、そんなものだろう。

 

 出席番号一番の女子が立ち上がって自己紹介を始める。

 どうせこの自己紹介で覚えきることもできないので、顔と雰囲気を一致させるくらいの気持ちで聞いていく。

 

「一年間、よろしくお願いします」

 

 名前と出身と趣味を簡単に話す感じで自己紹介はテンポよく進み、気が付けばあっという間に「お」である織斑一夏の番まで回ってきていた。

 

「…………」

 

 一つ前の女子が座ったが、織斑一夏が立ち上がる様子はない。

 後方からなのでその表情を伺う術はないが、きっと顔は緊張でがちがちになっているのかもしれない。いや、後ろの俺ですらこんなに大変なのだから、一番前の列にいる織斑一夏は俺よりもずっと多くの視線を向けられているに違いない。

 

「……織斑君?」

「…………」

「織斑君、織斑くーん!」

「っはい!!!」

「きゃっ!」

 

 何度か呼びかけられたところで、唐突に織斑一夏が立ち上がった。今まで意識を飛ばしていたらしい。そんなにきつかったのだろうか。

 

 織斑一夏が少しきょろきょろと周囲をうかがっていると、山田先生が彼の肩をたたく。

 

「はい?」

「お、大声出してごめんね? 怒ってる? 怒ってるよね、ごめんね。でも、自己紹介、次は織斑君の番なの。だから、自己紹介してくれないかな? ……ダメ、かな?」

「せ、先生落ち着いてください。謝らないでください! します、ちゃんと自己紹介しますから」

「ほ、本当ですか!? 絶対ですよ? 約束ですよ!」

 

 どうやら、メンタルに支障をきたしていたのは織斑一夏だけではなかったらしい。

 

 織斑一夏は振り返って一度ぎょっとした表情を浮かべるが、その中に俺の存在を見つけたのか少しだけ安堵した様子を見せた。女子ばかりで大変なのはよく分かる。

 

「織斑一夏です、よろしくお願いします」

 

 一言。

 

「…………」

 

 クラスの意識は「え、終わり?」という気持ちで統一されていたと思う。この時ばかりは、俺も女子の仲間入りをしていただろう。

 自己紹介にしても簡潔すぎるだろう。

 

「……え、えっと……」

 

 織斑一夏が困ったように頭をかいて少し口をもごもごと動かした。

 緊張のし過ぎで話が飛ぶのはよくある話だ。ここから趣味や特技の一つでも──

 

「…………以上です!」

 

 ためにため切った空気の中で飛び出した言葉にあっけにとられた。いや、以上ですってお前。

 

 みんながガクリと頭を落としたのもあってか俺達は全員、いつの間にか織斑一夏の背後に立っていた人物の存在に気が付くことができていなかった。

 その人物は、音もなく出席簿を上段に振り上げている。

 

「ふんっ」

イッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 それは、悲鳴というよりは断末魔という方が正確だと思うような音だった。

 

「げっ、千冬姉!?」

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 そして、流れるようにもう一撃。

 二の太刀要らず、みたい威力がありそうな出席簿を二度も食らった織斑一夏は、声を上げることもなく机に撃沈した。

 

 織斑一夏はビクビクと瀕死の虫みたいに震えているが、どうやら無事ではいるらしい。

 そして、何よりもこの状況で震えあがりそうな山田先生が落ち着いているあたり、平常運転なのかもしれなかった。

 

「織斑先生、会議は終わられたんですか?」

「はい。山田先生、先に進めていただいてありがとうございます」

「い、いえ! 私は副担任ですから!」

 

 山田先生は少し顔を赤らめながら、女騎士みたいな威圧感のある女性に向かって返事をした。どうやら、このカッコいいオリムラ先生というのが俺達のクラスの担任になる先生らしい。

 

 女性は山田先生から視線を外し、こちらの方を睥睨した。

 

「私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。この場にいる、今年で十六になるヒヨッコ共を一年で使い物にするのが私の仕事だ。私の言葉には絶対従ってもらう。異論は認めん、いいな」

 

 織斑千冬。

 その名前を知らないものなどいないだろう。第一回モンド・グロッソで優勝、第二回では棄権したものの優勝は確実だったと謡われた、あのブリュンヒルデこと織斑千冬だ。

 現役を退いた今でもその迫力は凄まじく、今すぐ復帰しても一線級の活躍をするのではないかとすら思えてくる。

 

 あまりの迫力に誰もが気圧されてしまったが、やがて各所から息を吸う音が聞こえてくる。俺は反射的に何かを感じ取って身構えた。

 

「きゃ……」

「ん?」

「キャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」

「ん゛っ!」

 

 強烈な歓声に思わず悲鳴が漏れる。

 甲高い声が教室にエコーして、冗談抜きで鼓膜が割れるんじゃないかと思った。

 

「千冬様! 本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉さまに憧れてこの学校に来たんです! 北九州から!」

 

 イケメンアイドルを前にしたファンみたいな感じで、俺を含め数名の生徒は耳をふさいでいる。当然だ。声を出す当人でもなければ意識が飛びそうだ。

 

「毎年毎年、このクラスには馬鹿しか集まらないのか?」

 

 織斑先生は呆れと怒りを交えた表情を浮かべているが、それは先生が生徒を馬鹿にしているのだと気が付くことはないのだろう。

 

「もっと叱って、罵って!」

「でも、時には優しくして!」

「そして、つけあがらないように躾をして!」

 

 このクラスにいるのは馬鹿じゃない、変態だ。

 ああ、無理だ。あまりにも恐ろしすぎる。今すぐアルゴルでも見てこいよ*1

 

「っていうか、だいたい、どうして千冬姉がこん──」

「織斑先生だと言っているだろう、馬鹿者」

「──ッッッッッッ!! ……………………い、いえっさー」

 

 イエスマムだろというツッコミを入れるのが可哀そうな沈み方だった。

 

 織斑一夏が再び沈黙すると、そのやり取りを見ていたメンツが互いに顔を見合わせていた。

 

「え? もしかして、織斑君って千冬様の弟?」

「じゃあ、ISに乗れるのってそれが関係して……?」

「いいなぁ、代わってほしい!」

 

 二人の関係性を察した彼女達が元気に騒ぎ始めるけれど、織斑先生は教卓を叩いて全員を黙らせた。

 

「……時間がないから、自己紹介はあと一人で終わりにする。せっかくだから溝口、やれ」

「あ、はい」

 

 椅子を入れずに立ち上がって、周囲を一度だけ見渡した。

 自己紹介の内容はすでに頭の中に叩き込んである。後はそれを間違えることなくこの場でやるだけ。

 

「初めまして、溝口星矢です。好きなものは宇宙や星。二人っきりで秘密の天体観測がしたいっていう人を募集してるので、興味ある子は声かけてね?」

 

 必要なのは二枚目と三枚目の塩梅を調節すること。冗談のようにも本気のようにも聞こえるくらいの感覚でちょうどいい。

 実際、初心そうな子は顔を赤くしており、手慣れた子は面白そうに笑っている。

 

 俺は割と知的な印象を与えるようなクール系の顔立ちなので、顔もそれなりなこともあって結構様になっているだろう。

 

「以上です」

 

 と、座りながら先生に合図をすると、織斑先生は嫌そうな顔をしながらため息をついた。露骨に面倒そうな生徒と判断された感じのリアクションだった。

 

「これでSHRを終わる。これから諸君にISの知識を叩きこんで、半月で基本動作をこなしてもらう。良ければ返事をしろ。そうでなくても返事だ、いいな?」

 

 軍隊の鬼教官さながらな言葉を最後にSHRが終わる。

 先生達が教室から出ると張り詰めていた空気が一気に緩んで、俺は思わずその場に突っ伏した。

 

「終わった……」

 

 正直、ここに一日いるという状況があまりにも辛すぎる。ストレスで胃に穴が開いてもおかしくない。

 

 体中の空気を吐き出しながらだらりとしていると、正面から誰かがやってくる。視界に映るのはズボン。まあ、男子生徒だ。

 体から出し切った空気を改めて吸いなおし、体を起こして視線を合わせた。

 

「ん? 織斑、どうした?」

「二人だけの男子だし、挨拶に来たんだよ」

「ああ、なるほど。ご足労かけた」

 

 疲れ切った表情が抜けないまま肩をすくめると「ほんの十歩くらいだよ」と軽いツッコミが入る。

 まあ、おおよそ分かっていたが、やはり気楽に話ができそうなタイプの奴だ。

 

「んじゃ、改めまして。俺は溝口星矢。星が好きで、どこかの誰かさんのおかげで受験勉強が無駄になった男子高生だよ」

「そ、そりゃ悪かった……」

「気にするな、冗談だよ」

 

 笑いながら手のひらを向ける。

 織斑が「今度はちゃんとするよ」と笑った。

 

「俺は織斑一夏。家事が得意で、試験会場を間違えた先で偶然見つけたISを触って起動してしまった男子高生だ」

「どうやったら試験会場への道間違えてIS起動するんだよ」

「いや、あそこマジで迷うから。行ったら分かるって」

「マジで?」

「マジで」

 

 もっとこうIS関連施設へ見学しに行ってる途中で起動してしまった的な話かと思っていたが、あまりにもアホすぎる理由だった。でも、なんだかそれで納得できる気もするのが考え物だ。

 

「いやぁ、あまりにもポンコツ過ぎて笑っちまうって織斑」

「一夏でいいぜ」

「そうか? じゃあ、俺も星矢でいい。こっちの方が気に入ってるから」

「分かった、星矢な」

 

 よろしく、と話がいい感じで落ち着いたところで一夏の後ろを指さした。

 

「さっきからなんか言いたそうだが、何か用か? もしかして、さっきの二人っきりの天体観測?」

「違う! そんな浮ついたものに興味はない!」

「うっ……」

 

 ポニーテールの美少女にバッサリと切り捨てられ、冗談だったとはいえ苦い顔をしてしまう。

 嫌そうな表情を向けられるのはあまり得意じゃない。まあ、好きだと思われるのもそれはそれで微妙な気持ちになるけど。

 

「えっと、箒だよな?」

「ああ。一夏、ちょっといいか?」

「いいぞ」

 

 一夏がこちらを伺うので、行ってらっしゃいの意を込めてひらひらと手を振る。

 

「出るか?」

「ああ」

 

 簡単に言葉を交わした一夏とポニーテールの女の子が教室から出ていくのを見送ると、俺は小さく息を吐いた。

 

「昔馴染みか、羨ましいな」

 

 担任の織斑先生もそうだが、知っている人がすぐそばにいるという状況が羨ましかった。俺の周りには知っている人はいないので、かなり居心地がよくない。

 

「ほっしー、羨ましいの?」

「ん? ああ、まあ」

 

 いきなりこんな状況に放り込まれて、ああやって話せる人間が複数いる時点でかなり羨ましい。

 

 ……って、

 

「え? 誰?」

「だれでしょ~?」

 

 そこにいたのは、少し離れた席にいる女子だ。

 サイズを間違えたのかっていうくらい袖を余らせており、制服の袖は先端の方がだらんと垂れている。垂れた感じの半目と間延びした口調が、どこか眠そうな印象を与える。

 

 名前については、自己紹介の順番が回っていないので分からない。

 

「お姫様、お名前をお伺いしても?」

「えへへ~、お姫様って言われちゃったぁ」

 

 両手を頬にあてて照れている。もっとも袖に隠れて手など見えていないのだが。

 

「私はね~、布仏本音っていうんだ。よろしくね、ほっしー」

「ほっしーってあだ名か? お姫様?」

「うん。星、好きなんでしょ?」

「まあな」

 

 変なあだ名だが、「ほし」という言葉が入っているのはいい。

 

「じゃあ、俺はなんて呼びすれば?」

「なんでもいいよ~、お姫様でも何でも~」

「お、じゃあそのまま姫様って呼ぶか~」

「よいぞ~、よきにはからえ~」

「ははぁ~」

 

 ふんぞり返る姫様に対して頭を下げる。

 最初に話した女子がノリのいい子でよかった。とりあえず、俺の基本方針はこんな感じで決まりだ。

 

「ほっしーよ、姫はお腹が空いています」

「なるほど、それは一大事。いかがいたしましょう」

「私は放課後にケーキをご所望であ~る」

「では、放課後は食堂でケーキをご用意しましょう」

「よいぞよいぞ~」

「ただし、ケーキは300円まででお願いいたします」

「え~? もっと食べたい~」

「わがままはいけませんぞ。虫歯になりますし、晩御飯が入らなくなります」

 

 俺の財布が死ぬ。

 

「もぅ、仕方ないなぁ」

「賢い姫様は素敵ですぞ」

「え~、本当~」

「もちろんです」

 

 ゆるゆると喋っていたが、そろそろ授業の準備をしておかないといけない時間だ。

 

 俺は席を立って姫様の席の方を指した。

 

「さあ、姫様、お勉強のお時間ですよ」

「え~、もう?」

「そうですぞ」

 

 静かに姫様を案内して席に座らせる。

 

「続きは放課後にゆっくりと楽しみましょうぞ」

「は~い!」

 

 

 

 

 

「──ということで、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したISの運用は厳しく罰せられます」

 

 SHRではどこか頼りなさそうな印象も与えていた山田先生だったが、授業ではそれを優しさとしてうまく転化していた。進行は滞りなく、生徒の反応を確認して必要であれば補足説明を入れる。

 板書の綺麗さも見れば、山田先生は教師になるべくしてなったのかなという気さえしてくる。

 

 ただ、ISの勉強というのは本来、中学生のころからしているものだ。しかし、俺のような例外がそんなことをしているわけもなく、おかげで春休みに何とか詰め込んだ内容を確認しながら取りこぼさないように頑張るのが精いっぱいだ。

 

「ですから、皆さんがISを運用し…………織斑君?」

「は、はいっ!」

 

 一夏が声をかけられている。何かあったのだろうか。

 

「もしかして、分からないところがありましたか?」

「え、うーん、あの……」

「分からなかったら、何でも聞いてくださいね! 私、先生ですから!」

 

 胸を張りながら山田先生が笑いかける。

 先生の説明は非常に分かりやすいし、頓珍漢な質問をしたって怒りそうにない。特に俺達はスタートラインがみんなよりも遅いのだから、多少のことなら許してくれるだろう。

 

「あの、実は…………全然、分かりません」

「え? 全然ですか?」

「はい……」

 

 一夏がうなだれる様に肯定すると、山田先生が戸惑ったように俺達の方を見渡した。

 

「えっと、他に分からない人はいますか?」

 

 だが、誰も手を上げない。

 先生と一夏が俺の方に視線を向けるが、俺は「大丈夫ですよ」と返事をした。

 

「今はまだ何とかって感じですね。分からないところあったら、質問しに行ってもいいですか?」

「もちろんですよ! 先生ですから、すぐに質問してくださいね!」

「ありがとうございます、先生」

 

 軽く笑いかけると、先生は顔を赤らめて俯いた。なんでだ、そんなことでそういう反応しないでくれ。

 

「織斑、入学前に参考書を渡されただろう? 予習しなかったのか?」

「参考書……あっ!」

「どうした?」

「電話帳と間違えて捨てました!」

 

 吹っ切れたのか堂々と言い切った一夏の目の前には、すでに上段で出席簿を振りかぶった織斑先生の姿。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者!」

ッッッッッッッ!!!!!!

 

 避ける暇も与えない素早い一撃が脳天を直撃し、一夏は今日何度目か分からない撃沈を見せた。

 

「……はぁ。新しいのを発行してやるから、一週間で覚えろ」

「え? でもあれって、超分厚かった気が……」

「可能かなど問うていない。覚えろと言っている」

 

 貰った参考書はかなり分厚かった。あれは人を殺せる暑さだ。それこそ電話帳くらいのページ数は当然のようにあるだろう。

 図解付きで非常に分かりやすい内容だが、すぐに覚えられるほどの量ではない。

 

 一夏が死にそうな顔をしていると、織斑先生が俺の方を見た。

 

「溝口、こいつに教えてやれ」

「俺がですか?」

「そうだ。自分の勉強にもなるだろ」

「まあ、それはそうかもしれないですけど……」

 

 俺だってかなりギリギリなのだ。質問されても自信はないが、その時は先生にでも聞けばいいだろう。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力。そのいずれもが、過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった“兵器”を深く考えずに扱えば必ず事故が起きる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても守れ。規則とはそういうものだ」

 

 先生の“兵器”という言い回しに思わず顔がゆがむ。

 

 車だって人を殺める可能性があるからこそ免許があるわけで、それで人を殺めてしまう可能性があることは理解している。

 だけど、それでもISは兵器なんかじゃないと言いたくて仕方がなかった。

 

 だってISという乗り物は、もともと一人の少女の夢から生まれたもののはずなんだから。

 

「……不満があるようだな」

 

 俺の表情を察したのか、織斑先生が小さき息を吐いた。

 

「お前達、望んでこの場にいるわけではないと思っているな?」

 

 望んでいない? それは間違いだ。

 俺は望んでいる。星の海の向こうにまで行くことを。

 

「人は集団の中で生きる生物だ。生きていく限り、必ず社会に属さなければならない。もしそれが嫌なら、人間を辞めることだ」

「ち、千冬姉! ──ッッッッッッ!!!!

「織斑先生だ。何度も言わせるな」

 

 人を辞める。

 それは、かなり的を射ていたような気がした。辞められるのなら、今すぐにでも辞めさせてほしかった。

 

「溝口」

「……なんですか?」

「他の奴もだが、お前達はヒヨッコに過ぎん。今から自分の道を決めたところで進める能力もない」

 

 それは当然の話だった。

 今の俺には“北極星(ポラリス)に行く”という意志こそあれど、それを現実のものにする能力はない。

 

「SHRでも言ったが、使い物にするのが私の仕事だ」

「…………」

「だから、今は黙って詰め込め。お前達は考える段階にもないのだから」

 

 その言葉に誰も異論をはさむことができなかった。俺や一夏に向けた言葉だったが、織斑先生の視線から他の女子達に向けた言葉でもあるらしいと気が付いた。

 俺は男子なので体感としては知らないが、IS学園の倍率は非常に高くここにいるのは難関を潜り抜けてきた優秀な子達ばかりだ。

 

 いずれ機会を見て言うつもりだったんだろうが、俺や一夏は体のいい理由として選ばれたに過ぎないらしい。

 

「さて、それでは授業に戻るぞ。山田先生」

「あ、はい! 続きの説明を始めますね」

 

 山田先生の声で教室の空気が元に戻る。

 織斑先生も教室の隅によってそれを静観する場所に戻る。

 

 授業が再開し、みんながノートを取り始めたところで俺はぼうっと前方を眺める。

 

「……人間辞めろ、か」

 

 人間を辞められたのなら、俺はいったい自分を何と名乗ればいいのだろうか、と。少しだけ気になった。

*1
ペルセウス座β星で、アルゴル型()変光星。ペルセウス座では怪物メデューサの首を持つ部分に相当し、メデューサの顔を見ると石化するといわれる。「石にでもなって黙れ、化け物め」の意。




ちょくちょく文章の雰囲気が変わっていたり、呼び方が「○○嬢」ではないのは、まあ設定の変更がちょっとあるからだったりします。前よりパロネタ的なのは減らしつつも、残念な三枚目感は残せたらいいですね。

ちな、ヒロインはリメイク前同様、のほほんさん、山田先生、束さんの三人を予定しています。ハーレムではなくルート分岐する予定です。
一応、プロット的には文化祭以降からそれぞれ分岐し、順番は「アンケートで決めようかなー」くらいの気分です。

リメイク前から今までの中でプロットをより作りこんだので、個人的にはそれなりに納得できるものになってるかなと思います。
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