アインズはパンドラズ・アクターに出口から宝物殿までの最短ルートを地図に書き込ませていた。
「父上、宝物殿入り口付近のように幻術壁が無ければ恐らくこれが最短ルートでしょう。」
「よし。よくやったぞパンドラズ・アクター。とりあえずそれで降りてみよう。」
親子は大量の僕を連れて迷宮に潜った。
宝物殿にはエゲツないトラップが付き物な為、フラミーは地上の作戦の班に回った。
パンドラズ・アクターの先導で進むそこは初めて潜った時よりも随分狭く感じた。かなり広いと思っていたと言うのに、直線距離にすればそうでもないらしい。
しばらく歩いて話題の扉の前に着くと、パンドラズ・アクターは持ってきた地図と、一時保管していたギルド武器を掲げ、扉はついに開かれた。
二人はおぉ!と歓声を上げたがすぐには入らなかった。
パンドラズ・アクターはぬーぼーに変身すると、中を探り、罠が無いかを入念に確認した。
「何ともなさそうだな。」
ナザリックの宝物殿に比べれば小さすぎるが、僕の召喚も切られたこの拠点は金貨がまだまだ残っているようだった。
「パンドラズ・アクター。金貨は全て回収しろ。いや、三日くらいはここが保つようにしておくか。」
「畏まりました。ギルド武器破壊前にギルドが崩壊してはかないませんからね。」
アインズ達は取り敢えず
特別目ぼしいものも無かったが、もう崩壊するギルドに物を残すのも勿体無いとここぞとばかりに全てを回収した。
残念ながら宝物殿も
フラミーはアルベドと共に迷路が地上から見てどこまで伸びているのかを確認した。
迷宮は王宮の地下の隅から隅まで及んでいるようで、ギルド武器の破壊に伴って恐らくこの宮殿は崩れ去るだろう。
確認が終わると二人は中庭に座って共に数日後のプチ酒宴会の話をしていた。
「フラミー様、酒宴会では必ず御身のご期待に添える結果を出してご覧に入れます!アインズ様の新たなスイッチを入れて、その後は毎日…くふぅー!!」
アインズの初めての飲食を前にアルベドは相当気合を入れているようだった。
バサバサと揺らされる翼からは黒く美しい羽がわずかに舞っていて実に愉快そうだ。
骨であれば飲食不要とはいえ、食べられるならあのナザリックの美食は飽きるまで毎日食べた方が良いだろう。
「そうですね!ふふっ。アルベドさん本当に良い企画立ち上げましたね!」
「ありがとうございます!くふふふっ。楽しみでございますね!」
「ねー!本当楽しみ!」
二人はそれぞれ少し違うことを期待しながら嬉しそうに笑った。
しばらく羽の手入れなどの話をし、女子会をしていると、表情を持たない親子が僕を連れて戻ってきた。
「アインズ様!おかえりなさいませ!」
アルベドは姿勢を正すとサッと頭を下げた。
「アインズさん、どうでした?」
アインズとパンドラズ・アクターは顔を見合わせると、ジャン!とその手に持てるだけの宝を二人に見せた。
「わぁ!開いたんですね!!」
「ふふ、開きました!ただ、宝物殿に置かれていた装備とかの感じからして、ここは三人、多くても四人程度のかなり小さなギルドのようでした。」
「まぁちっちゃなギルド!」
「本当ですよね。それで、迷路は地上で言うどの辺りまでありました?」
アインズは言いながらナザリックの宝物殿に
「それが、やっぱり結構大きいんです。――アルベドさん。」
「は。ご報告申し上げます!」
アルベドは宮殿がまるっと崩れると想定される事を丁寧に報告した。
「なるほど、街に及んでいなくて良かったと思うしかないか。パンドラズ・アクター。ここの後処理はお前に頼んでもいいか…?」
「はい。お任せくださいませ!後はこのパンドラズ・アクターが傀儡と共に全てを回します!」
パンドラズ・アクターは綿密に練られていたこの計画に胸を躍らせた。
わざと捕まった意味、蕾を取りに行かせなかった意味、ミノスを王とする意味。
この世の全てを見通す目に強く羨望し、小さく身を震わせた。
いい返事にアインズは頷くとフラミーに手を伸ばした。
「それじゃあ、破壊に行きましょうか!――ギルド武器!」
迷わず握られた手は温かく、フラミーの瞳は決意で満ちていた。
「はいっ!」
崩れる宮殿で行う必要もない為、アインズはフラミーとアルベドを連れて第六階層に戻ってきた。今日も第六階層は陽光にあふれている。
「アインズ様!フラミー様!おかえりなさいませ!」
「あ、あの、その、おかえりなさいませ!」
「オカエリナサイマセ。」
双子とコキュートスに出迎えられると、アインズはパンドラズ・アクターから受け取ったギルド武器を取り出した。
「皆出迎えご苦労、楽にしろ。」
パンドラズ・アクターの王様講座で見た王様らしい動きで三人に手を挙げ、王様らしく歩いて行く。
「さぁ、これがうまく行けばナザリックは相当戦力強化されますよ!」
「はい!が、頑張ります!!」
緊張した様子のフラミーに攻撃力の上がるバフをかけながら少し離れたところにギルド武器を浮かべた。
バフを掛け終わると、杖を握り締めてフラミーは魔法を繰り出した。
「
何度もそういしていると「……ふぅ」と息を吐いた。
壊れていないのに攻撃をやめたフラミーにアインズは首を傾げた。
「ん?どうしました?」
「……魔力切れです…。」
アインズは早すぎる魔力の枯渇に吹き出すと、自分の腕からドラウディロンの腕輪を抜き取り、フラミーの手を取って入れた。
「肌身離さず持っていてくれ」と言っていたドラウディロンの言葉はもう忘却の彼方だ。
「ははは。これと俺の魔力使って下さい。」
「が、頑張ります…。」
二人は手を繋いで再びギルド武器に向き直った。
守護者が見守る中、フラミーは全然壊れる様子のないそれに心の中で泣いた。
暫く続けると剣斧は割れ、ようやく砕け散った。
ドキドキと変化を待ったが――フラミーには何も起こらなかった。
「…だ、だめかぁ…。」
ガックリと肩を落として、いつの間にか側に来て見学していた仔山羊達に倒れこむようにフラミーは座った。
「あー…お疲れ様でした。仕方ないですね。どのクラスに反応して新クラスが手に入るのかも謎ですし…。」
「ごめんなさい…。」
「いやいや。考えてみたらあの武器の持ち主達のギルドが小規模過ぎた可能性が高い気がしてきました。家族にアカウント作らせてギルド立ち上げて、それを破壊して…ってできたらワールドチャンピオン超えだらけになっちゃいますし。」
「あぁーー…。」
「スルシャーナ達も少なくとも六人はいましたしね。」
「はぁ。ギルドの規模が小さかっただけだと良いんですけど…。」
「八欲王達のギルドは想像している通りならかなり大きいギルドですし、ツアーの持ってるやつを壊せたら真相も分かるんですけどねぇ…。」
アインズはナザリックの遠くに見えていた天空城を思い出していた。
二人は結局振り出しに戻ったと唸りあった。
フラミーは同じくがっかりしている様子の子供達に謝罪した。
「ごめんね、皆も。せっかく付き合ってもらったのに。」
アルベドは仔山羊に座るフラミーの前に両膝をついて手を握った。
「とんでもございませんわ、フラミー様。少し気分転換でもされてはいかがでしょうか?」
「はは、ありがとうございます。逆に何だか気を使わせちゃってすみません。」
アインズは出来た統括の頭を撫でた。
「アルベド、お前は優しいな。」
アルベドはフラミーの手を取ったまま振り返り、まじまじと骨を見ると、感動のあまりわずかに震えた。
久々の触れ合いだった。
「い、いえ!当然の事ですわ!!」
「デハフラミー様。良ケレバミノタウロスノ家ヲ見ニ行カレテハ如何デショウ。」
「あ、繁殖実験の?」
アインズはその言葉はトラウマだったので僅かに肩を揺らした。
ぞろぞろと全員で新たに建てられたコテージに着くと、腕を失ったままの賢王と王弟が跪いて出迎えた。
近くには
「神王陛下。フラミー様。いらっしゃいませ。この度は素晴らしい新居を頂きましてありがとうございます。」
代表して兄が頭を下げると、未だ腕がジクジクと痛むのか少し汗をかいていた。
二人は互いの欠損した部分を補い合いながら暮らし始めていた。
「アインズさん、私とりあえずこの子達の腕治しますよ。」
「すみません、頼みます。俺はちょっと氷結牢獄にメスを呼びに行って来ます。おい、一郎、二郎。フラミーさんに変なことをするなよ。」
二人には長い名前があったが、覚えるのも嫌なので適当な名前を与えた。
アインズは言い残すと転移し、パンドラズ・アクターが捕獲しておいてくれたメスの記憶をせっせと弄った。
"一郎と二郎を愛している"と加えようかと思ったが、何となくそう言うことを書くと良くないことが起こるような気がしてやめた。
メスを連れて第六階層に戻ると、フラミーと双子が腕の治った一郎と二郎に抱きついてその毛にもふもふと顔を埋めていた。
「…これは…何事だ?」
アインズはやっぱりニューロニストに渡したほうが良かったかと一瞬だけ考えた。
「あ!アインズ様!この子達の毛皮が欲しいんですけど、子供が生まれたら何匹か貰えませんか?」
「ぼ、ぼくもこれで何か作りたいです!」
「私もラグにしたいです!」
耳の長い三人は嬉しそうにアインズへ振り返った。
「…ダメだダメだ。一郎も二郎ももう一応ナザリックの一員だし、何より子供はコキュートス管轄の実験に使う。フラミーさんもわがまま言わないでください。ほら、花子、梅子。挨拶しなさい。お前達は二人を愛せればここで暮らすんだ。」
花子と梅子は恭しく頭を下げ、一郎と二郎と共に照れ臭そうに何かを話し始めた。
すると、話をふんふん聞いていたアルベドが名案を閃いたとばかりに瞳を輝かせた。
「アインズ様?」
「なんだ?アルベド。」
「実験が済み、お子をお持ちになる時には私がいつでも即座にご協力いたしますわ!あ、いえ、今すぐでも勿論構いません!」
キラキラした瞳にアインズは苦笑しながら、牛達に手を振って下がらせた。
「…いいから。すぐにそう言うことを言うんじゃない。」
「し、しかしアインズ様、タブラ・スマラグディナ様もきっとモモンガ様とでしたら――。」
フラミーと双子が様子を見ているためアインズは咳払いして声を落とした。
「静かにしなさい。以前のお前はそんなに――いや、前からそうか。」
「フラミー様だってずっとあんなに結ばれる日をお望みなのに、アインズ様はフラミー様や私の何がお気に召さないのでしょうか?」
「「フラミーサマがおのぞみ!?」」
重なった声にアインズとフラミーは目を合わせて苦笑した。
「そうですわ!この一年、ずっと御身に寝所へお呼びいただくのを楽しみにお待ちですのに!!」
全く記憶にない統括の主張にフラミーはダラダラと脂汗を流して叫んだ。
「ま、ま、待って!!アルベドさん!!」
「あっ…つ、つい、私ったら…勝手に話してしまい、申し訳ありませんでした。」
「そそそそそうじゃないよ!!そうじゃないでしょ!?」
アインズは顔を真っ青にするフラミーを見ながら首の後ろをポリポリかいた。
次回 #33 閑話 プチ酒宴会
閑話12:00です!
くふっ
一郎!二郎!!
子供は一郎太、二郎太になりそう…。
娘ならイチコ!
Twtr閑話 湖畔の日常 2期#32.5
https://twitter.com/dreamnemri/status/1145903504545873921?s=21