約束の晩、アルベドは双子とともに第六階層湖畔に新たに建てた水上コテージ――ヴィラの最終チェックに来ていた。
桟橋をかけ、湖の上に建つ水上ヴィラは守護者主催のぷち酒宴会の会場だ。
大きな窓がたくさんついた建物は湖を見渡せ、宴会室の他にはミニキッチンと給仕部屋がついたシンプルな作りだ。
桟橋にはポツポツと
ヴィラの中ではすでに
周りには八枚の座布団が出ており、お座敷スタイルだ。
何の問題も無さそうな様子に三人は満足した。
少し時間が経つと、コキュートスが一郎と二郎の教育を終えたようで姿を現した。
「コレハ素晴ラシイナ。御身ノ初メテノオ食事ニ相応シイ。」
「でっしょー!あたし達本当頑張ったもんね!マーレ!」
「う、うん!コキュートスさん、ありがとうございます!」
「私の提案だということは忘れないでほしいところね。」
守護者達が盛り上がっていると、遠くに闇が開き、シャルティアとデミウルゴスが揃って現れた。
「おや?妾達が最後でありんしたか。」
「遅いわよ。特にデミウルゴス。あなたも幹事だってことを忘れているんじゃなくて?」
「竜王国の女王が自分も行くと言って聞かなくてね。」
「そんな事雑種に話すからいけないのよ。」
アルベドはドラウディロンが嫌いだった。
シャルティアの話では本気でいつか嫁入りできると思っているようだったし、国境の湖で少し見たとき、胸の大きさに関しては自分に勝るとも劣らなかった。
「シャルティアが口を滑らせたんですよ。まぁ置いてきましたけどね。」
デミウルゴスはどうでも良いとでも言うような雰囲気だった。
「仕方ないわね。さぁ、そろそろ御方々がいらっしゃる頃よ。」
アインズとフラミーが到着すると、守護者に案内され席に着いた。
フラミーは入る前に撮ったヴィラの写真を眺めると嬉しそうに笑った。
銀河鉄道へ続くような桟橋と、仄かな明かりを漏らすその建物は非現実的で実に美しかった。
アルベドが考えた"不公平じゃない"という席順は――――
アルベド、アインズ、アウラ、フラミー、マーレ、デミウルゴス、コキュートス、シャルティア……アルベド。
ツアーの襲撃の夜に皆で円になった日の物と同じだった。
「懐かしいな。あの時は本当にもうどうなる事かと思ったが…誰一人欠けずにこうしてお前達と座れて俺は嬉しいよ…。」
アインズの呟きはしんみりしていて、守護者達は穏やかに笑った。
「アインズ様。私達は御身が在り続ける限り、決して一人足りとも欠ける事はございません。」
統括の静かな声に、アインズは少し目頭が熱くなった。
「…ありがとう。お前達にも、お前達を作った全ての仲間にも、私はいつも感謝しているんだと、皆よく覚えておいてくれ…。」
「…さぁ、皆折角のアインズさんの初めてのご飯なんですから、楽しくいただきましょう!」
フラミーも目を熱くしながら皆に声をかけた。
会は穏やかに進行していき、アインズは初めてのナザリックの食事に大いに感動した。
本当は精神抑制を切って食べたかったが、支配者がただの食事で大喜びなのも如何なものかと我慢した。
食事はアインズの所望で和洋折衷。
ただ、カトラリーは箸だけだ。
フラミーは転移してからこれでもかと言うほどに食事のマナー本を読み漁っていたようだが、アインズはマナーを何も知らないため箸を希望した。
「アインズさん、ちゃんと飲んでますか?」
フラミーの呟きにアインズはギクリと肩を震わせた。
「の、飲んでますけど…?」
ジトッと見るその目は、アインズの指輪に注がれた。
「嘘だ!!その指輪は耐性の指輪だ!!アウラ、アルベドさん!やっちゃいなさい!!」
「かしこまりましたわ!!」「はい!」
左右の女子に引っ張られアインズは指輪を奪われた。
「こ、これが…アインズ様の着けていらした指輪!!」
「アルベド!別におんしが頂いた訳じゃありんせん!!早くフラミー様にお渡ししなんし!!」
シャルティアと指輪を奪い合うアルベドにアインズは苦笑した。
「アルベド、私に返しなさい。」
「で、でもアインズ様!せっかくの酒席ですのに…。」
「私はこの体で初めて酒を飲むのだ。正直どれほど飲めるかわからない。皆に迷惑を掛けることになってはいけないだろう。」
アインズは精神抑制があるとは言え支配者らしくなくなってしまうんじゃないか恐ろしかった。
「迷惑ナドオ気ニナサラズ。」
コキュートスの声にアインズは苦笑する。
「むぅ…じゃあ、やっぱりアインズさんとお酒は飲めないんですね。」
フラミーからは心底がっかりというような空気が溢れ出していた。
「…フラミー様。私がお付き合いしますのでアインズ様をお許しください。」
デミウルゴスは竜王国の反省を生かそうと決めた。
「そうですか?マーレと場所代わってもらおうかな?」
「ま、待て待て待て。わかった。わかりました。飲みます。飲みますから。」
「良いんですか?」
「本当は良くないですけど、良いです。ほら、アルベド。兎に角指輪を返しなさい。」
アインズがアルベドから指輪を回収すると、マーレを乗り越えてフラミーがその手からパッと指輪を奪った。
「あ!このいたずら娘!」
「ひひひ。やりました。皆ナイスプレイ!これは私が預かります!」
シャルティアとアルベドが喜んで拍手している。
アインズは嬉しそうなフラミーの様子に少し笑いながら注意した。
「これはアルハラ対策委員会を設けないとダメですねー。フラミーさんは一発免停ですよ。」
すると、それまで黙って様子を見ていたコキュートスが嬉しそうに酒を注ぎ出した。
「アインズ様。飲ミ比ベナラバ御身ニ私デモ勝テル気ガイタシマス。」
「はは。私も負ける気しかしないよ。」
コキュートスは笑ったようにガチガチと下顎を合わせて鳴らした。
「あ、デミウルゴスさんもどうぞ。アウラとマーレも何かとってあげようか?」
フラミーにお酌され心底恐縮している男にアインズは苦笑した。
アウラとマーレは嬉しそうにフラミーから料理を取り分けられているというのに。
「デミウルゴス。お前も少し肩の力を抜け。アルベドを見てみろ。これだぞ。」
アルベドはほろ酔い状態なのか嬉しそうにアインズの胸にしな垂れかかっていた。
「アルベド、いくらなんでもそれは御身に不敬じゃないかな。」
「あら、そうかしら。アインズ様?アルベドは不敬でしょうか?」
アインズは胸から見上げるように覗き込んでくる、フラミーと同じ金色の瞳に、なぜ悪魔達はこういう視線を平気で出来るんだろうと思った。
「…っう…不敬じゃない。いや、今日だけだぞ。」
キャーと喜ぶアルベドから視線を外してアインズはこりゃいかんと頭を振って酒を飲み下した。
フラミーからの視線にも気付かずに。
コキュートスは一番アインズから遠いが体が大きいため、一番お酌していた。
「アウラ、アウラ。妾と代わってくれんせん?」
シャルティアは自分の席を離れ、アウラをつついていた。
「えー。"不公平じゃない席順"なのに?」
「私が不公平だって思ってる時点で十分不公平でありんす!おんしはアインズ様とフラミー様に挟まれて贅沢にも程がありんす!」
「ちぇ。仕方ないな。」
アウラは自分の箸とジュースの入ってるグラスを持つとシャルティアのいた席に移動した。
シャルティアはほくほくで二人の間に入ると、アインズの腕を取って嬉しそうにしていた。
フラミーに触るのは利き手側のため食事の邪魔になりそうだと諦めた。
「ふ、フラミー様はその、今も誰ともお風呂に入らないんですか?」
マーレの問いにフラミーは少し悩んだ。
「うーん、もう皆知ってるから別に入ってもいっか。女湯だと少し問題ありそうだから、私の部屋でもいいかな?」
「も、もちろんです!!」
「フラミー様!あたしも一緒に是非!」
「わ、わたしも入るでありんす!!」
「じゃあ、アウラとシャルティアは今度女湯で一緒に入ろうね!」
はいはーいと手を挙げる二人へ視線を向けると、違うものが目に飛び込んできた。
そこではアインズの胸に顔をスリスリするアルベドと、アルベドの翼を撫でながらアインズがコキュートスと楽しげになにかを話しながら飲んでいた。
「アインズさん…。」
「っん?どうしました?」
アインズはフラミーの囁くような声にすぐに反応した。
「あ、いえ。ちゃんと飲んでます?」
「ははは。飲んでますよ。なぁコキュートス。」
その顔は少し赤く、愉快そうだった。
「ハイ。フラミー様、ゴ安心下サイ。」
「アインズ様、シャルティアも撫でてくんなまし!」
「仕方のない娘ばっかりだな。ペロさんは割と甘えん坊だったっけかな。」
シャルティアの頭をぐしぐし撫でて笑う姿にフラミーは少し胸を押さえた。
「フラミー様。」
デミウルゴスの声にハッと胸から手を離すと、フラミーはニッコリと笑った。
「なんですか?何か取りましょうか?」
フラミーは隣でジュースを飲むマーレの頭をさらりと撫でて気を紛らわせた。
「いえ。それより、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!まだまだ飲めます!リアルと違ってこの体は強い気がします!」
「…そうですか。」
デミウルゴスは口に手を当てると「そうだな…どうしたら…」と一人何やら悩み始めた。
「フラミー様、良ければ少しお付き合いいただけませんか?」
「ん?酔い覚ましですか?良いですよ!」
デミウルゴスはゆっくり立ち上がると、フラミーは手を伸ばし、フラミーはそれをとって立ち上がった。
二人はヴィラを出た。
デミウルゴスが桟橋に腰掛けて湖に向かって足を下ろすと、フラミーもその隣に腰を下ろした。
足の下では
「あ、お魚。」
デミウルゴスはその様子にくすりと笑った。
「フラミー様。ナザリックはアインズ様を頂点に戴いておりますが、御身も至高の主人でございます。我々はいつでも御身のお言葉に従う準備があります。」
「え?突然ですね。ふふ。嬉しいな。皆アインズさんのこと大好きでたまに妬けちゃいますから。」
フラミーはくすくす笑った。
デミウルゴスは統括のアレをやめさせろと言われれば直ぐにも実行するつもりだったが、フラミーにそう言うつもりが毛頭無いのを見ると、自分の
「…竜王国の時のお誘いはまだ間に合うでしょうか?」
「っはい!はは。酔い覚ましどころかこんな所で二次会してたら怒られそうですねっ。」
フラミーはグラスに注がれる酒を少し眺めてから口をつけた。
「怒られるでしょうね。しかし今日は――」アインズ様が悪いと思いますとはデミウルゴスには言えなかった。
「今日は?ふふ、これも美味しい。」
悪魔達は偽物の空の下でしばらく笑い合った。
フラミーはグラスを置くと寝転んだ。
「はー。ここは本当にいい世界だなぁ。」
「それは何よりでございます。」
「ナザリックの空も綺麗だし、皆の子供も――デミウルゴスさんもいて、アインズさんもいて、ここって無いものが無いかも。」
デミウルゴスは放り出されている手に向かって不敬だという自覚を持ちながら手を伸ばす――。
「あと三十九人いたら、完璧なんですけどね。」
アインズの声にフラミーとデミウルゴスは顔を向けた。
危ないところだったとデミウルゴスはなぜか安心した。
アインズは立ち上がろうとするデミウルゴスを手で制して、フラミーの隣に座り、少し伸びた。
「んーーはぁ…割と酔ったなー。」
「ふふ。良かったですね。アインズさんが幸せそうで、私、とっても嬉しいです!」
「はは。指輪も取られてアルハラされて、俺も本当幸せだなー。」
アインズはフラミーの頬を摘まんで軽く左右に振った。
フラミーはくすぐったそうに笑うと、少し悲しそうな顔をした。
「――ん?どうしました?」
「え?何がですか?」
「あ、いや。気のせいか。」
「アインズ様。それでは私はこれで。」
デミウルゴスは新しいグラスを出して、自分の分を仕舞うと立ち上がった。
「デミウルゴス、変な気を使うな。後から来たのは私だ。」
「いえ。手洗いにも行きますしお気になさらず。」
清々しい笑顔を見せると悪魔は跪いて、今度こそ転がるフラミーの手を取った。
「フラミー様。先ほどの私の言葉をどうぞお忘れなく。いつでも「御身のお言葉に従う準備があります。」」
途中からフラミーの声が重なり、デミウルゴスは嬉しそうに頷いた。
「そうです。それでは、私はこれで。素晴らしいニジカイをありがとうございました。」
フラミーの薬指に口付けると一瞬だけ透き通る瞳の宝石を覗かせ、デミウルゴスは立ち去った。
「…わ、きざぁ。うるべるとさん…。」
フラミーは友人を思い出しながら呆然とその背中を見送った。
ふぅ。(賢者モード
当然デミウルゴスムーブで終わらせません。(にっこり
次話 #34 閑話 支配者の二次会
もう次回何が起こるか良い子の皆にはわかりますね!!
2019.07.02 12:58
フォローしてくださっていたり、リストに入れて下さってる方はご存知かと思うのですが、Twtrに短い日常閑話をあげました。
酒宴会前日の湖畔、#32.5と言ったところです!
今後R18を書くときに備えて、文字の大きさが画像として耐え切れるかの試験で投稿しました。
まるで本筋と関係のない話です。
ただ、電車内でオラァ!と書き上げたこちら、お話チェック+誤字チェックせずに上げたので誤字がやばいです(;´Д`A
大変見苦しいので、「まぁテストだしな」と割り切って頂けると幸いです。
Twtr閑話 #1 湖畔の日常(全年齢)
https://twitter.com/dreamnemri/status/1145903504545873921?s=21