アインズは複雑な気持ちでデミウルゴスを見送った。
「…フラミーさん、あいつは損な奴なんですよ。ほんっとにいつも。」
「損なヤツ、ですか?」
フラミーは翼で背中を押し上げるように起き上がった。
「そうなんです。可愛がってやってください。俺はうまく可愛がれないから。ははは。」
「男親って、そう言うものですかね?」
「ま、そんなとこです。」
アインズがフラミーの羽を撫でると、フラミーはサッと立ち上がって翼を小さく畳んだ。
「ん?行きますか?」
「…ううん。行かないけど――」誰にでもするなら、そんなに優しく触らないで欲しかった。
フラミーは心底自分はめんどくさい女だと思う。すぐにいじけて、わがままだ。
「はは。行かないなら、ちょっと渡したい物があるんですよ。」
アインズも立ち上がると闇の中から畳まれた薄いレースを取り出した。
「なんですか?これ。」
「ほら、ミノタウロスの所にあった宝物殿。あそこに良さそうな素材があったんで魔改造しました!殆どもう原型とどめてないんですけどね。」
アインズは少し得意げに笑っていた。
「あの紺色のやつの上位互換ですよ!俺フラミーさんは赤紫か白のイメージがあるんで、白にしてみました!白の方が合わせやすいかなーって。」
フラミーはまじまじとそれを見ると、申し訳なさそうにアインズを見上げた。
「私、まだ何もお返ししてないのに。」
「いえ。俺が好きでやってることですから。それにギルメンの強化協力はアインズ・ウール・ゴウンの基本ですよ!」
「はは。ギルメン強化、そうでしたね。ありがとうございます。でも…。」
フラミーは受け取る様子がなかった。
「――…じゃあ、良かったらお返しって事で、俺とも二次会しませんか?」
アインズは照れ臭そうに後頭部に触れながら笑っていた。
「二次会?」
「ダメですか?」
「あ、いえっ!それならお返しできます!」
フラミーは嬉しそうに頷くと、白いレースでできた不思議なローブをようやく受け取った。
自分の為に簡単な要求をしてくれるアインズの優しさに甘えてしまうことにする。
「綺麗。これ、上から着れますよ!」
フラミーはいつも羽織っている紺色のローブの上からそれを羽織った。
「はは。紺のやつはもう捨てたって良いんですからね。」
「いやです。ふふっ。嬉しい!」
フラミーはくるくる回ってから自分の姿を見てみようと水面を覗き込んだ。
「アインズさんってセンスありますよっ。」
「はは、デミウルゴスやウルベルトさん程じゃないですけどね。」
「ううん、私、デミウルゴスさんより、ウルベルトさんより、アインズさんのこと――」
フラミーは体の向きを変えようとすると、足を踏み外して橋からバシャン!と落ちた。
「うわ!!フラミーさん、やっちゃったな!!」
「わ〜やりました〜!はははは!」
そのままぷかぷか浮いてフラミーは笑っていた。水に広がるレースのローブと、白銀の翼は幻想的だった。
「結構酔ってますねぇ。<
アインズも湖に降りると、フラミーをザバァ…――と横抱きに持ち上げた。
魔法の装備達は水を吸わずに、濡れているのはフラミーだけだった。
「また迎えに来てくれた。」
フラミーはアインズの首に腕を回し肩に顔を埋めると、アインズも顔を寄せて小さい声で呟いた。
「いつでも迎えに来ますよ。」
アインズはそのまま
「ほら、ちゃっとお風呂入ってください。シクスス、頼む。」
「これはアインズ様!フラミー様!おかえりなさいませ!さぁさぁ、アインズ様がお待ちですからお早く!」
フラミーはびしょびしょの頭で笑いながらシクススにドレスルームの向こうにある風呂へ連行された。
アインズも少し笑うと、デミウルゴスが桟橋に置いて行った酒を一人で飲んで待った。
(こりゃ、二次会っていうより三次会だな。)
十分もするとドレスルームが騒がしくなっていた。
『シクススさん!!こんな服じゃダメだって!』
『何故ですか!?あっ!こちらの方が宜しいでしょうか!ほら、お胸のところの紐を引っ張ると、ぜーんぶ、ほらね!解けます!』
アインズは味わっていた酒をゴクリと飲むと咳き込んだ。
『せめてお胸に乳香を――』
『もー!一人で着替えます!!』
『あ、フラミー様!』
強くないとは言え、流石に百レベルのフラミーには敵わなかったようでシクススはポイっと放り出されるようにドレスルームから出てきた。
「申し訳ありません、アインズ様。フラミー様はあまりセクシーなのはお好みでないようでして…。」
「あ、はは…いや…気にするな。」
アインズは何か勘違いされている気がしたが、少し見てみたいと思ったため特別何の注意もしない。
するとドレスルームから出てきたフラミーは髪は下ろしたままだったが、いつもと変わらない何の変哲も無いローブに先程のレースローブを着ていた。
少しがっかりすると、アインズは立ち上がった。
「お待たせ様でした。」
「フラミー様…そのようなご格好では…。」
「もー!!私はこれが好きなの!!」
フラミーが悪態を吐いている様子にアインズは笑うと鎮静され――フラミーはハッとアインズをみた。
「アインズさん、抑制が。」
「バレました?はは。こればっかりはちょっと。」
フラミーはうーんと少し悩むと、閃いたような顔をしてアインズの手を取り立ち上がらせた。
「抑制つけないで済む、一番いい所にご案内します!」
バーカウンターに行く様子じゃないため何処に?と思っていると、そのまま寝室の扉を開けた。
「シクススさん、何人たりとも立ち入り厳禁です。」
「は、はいっ!!」
返事を聞くとフラミーはアインズを引っ張って寝室に入って行き、シクススは全
「フラミーさん、一番いいとこって、ここですか?」
ここで精神抑制を外して飲むのかとアインズは少し焦る。
「ふふ、ここでーす!」
フラミーはジャーンとでも言うように手を広げた。目の前には大きすぎるベッド。
「部屋からシクスス達は中々追い出せないですけど、ここなら誰にもアインズさんが見られないで済みます。ずっと抑制つけたままで、可哀想だから…。」
少し辛そうな顔をするフラミーに、アインズは自分がすけべじゃなければここだって良いんだよなと思い直した。すけべじゃなければ。すけべじゃなければ。
アインズはフラミーなりの気遣いに感謝して、まだ少しだけ湿ってる髪をクシャリと撫でた。
「ありがとうございます。じゃ、三次会ですね。俺ちょっと酒取ってくるのと、守護者達に謝ってくるんで待っててください。――<
アインズはそう言うとサッと闇をくぐって行った。
フラミーは確かに自分も守護者に謝る必要があると思って
「お待たせしましたーあれ?どこ行くんですか?」
「あ、私もやっぱり謝ろうかと。」
「はは。もう向こうも解散始めてましたよ。気にしないで好きにやってくれって追い出されました。もしかしたら守護者だけで二次会するのかも。セバスにも準備済みのこれ持たされましたし。」
アインズの手の中には、何本かの酒瓶が詰められた籠と、綺麗な盛り合わせセットがあった。
「あぁ、向こうも邪魔な上司のいない楽しい二次会が始まるわけですね?」
ハハハハと二人は笑い声を上げ、アインズの笑いが止まらない様子にフラミーは安心した。
しばらく魔法で生み出したテーブルセットで飲むと、二人はスクリーンショットを取り出し一生懸命それをベッドの上に並べた。
二人分のスクリーンショットを時系列順に並べていく作業は、大切な思い出を振り返る為の儀式のようだった。
並べて行く中で、いつの間にか二人はベッドの上でだらしなく飲み始めていた。
「これも、これも。はー楽しかったなぁ。」
「アインズさんの百年後に最初に来て欲しい人は?」
「あー難しいなー。誰かなー。フラミーさんは?」
「んふふ。私はねー、アインズさんがいればもう良いかも知れないです。」
嬉しそうに笑うフラミーはもうだいぶ酔っ払っているようで、うつ伏せで頬杖をついているその姿勢は今にもグラスを落としそうだった。
いや、フラミーだけでなくアインズもかなり酔っていた。
「はは、嬉しいなぁ。でも本当かなぁ。」
アインズはフラミーの鼻をちょんと触り、くすぐったそうにする顔を眺めた。フラミーの甘そうな頬はりんごのように赤くなっていた。
「ふふっほんとですよぉ!」
「じゃあ、俺ももういっかなぁ。」
二人はベッドの上で肩と頭をくっつけあってクスクス笑い合った。
「ふふ、でもアインズさんのは嘘っぽいなぁ。」
「えー。すぐそう言う事言うじゃないですかー。」
フラミーはアインズの目の上下に入る、骨と同じ線を撫でながら呟いた。
「怒った?」
「怒ってないよ。」
アインズは顔を触るフラミーの手を握ると、飲みニケーションを悪習だと思っていた過去を反省した。
「あいんずさん、真面目な話三十九人ですよぉ。」
フラミーは握られている手を開いて指を絡ませるとベッドに頭を下ろした。
「三十九人ですねぇ。」
「三千九百年ですよぉ。」
「百年後にいっぺんに来るかもよ?」
アインズもベッドに頭を下ろすと、二人は手を繋いだまま転がって向かい合った。
「じゃあ百年。」
「はははは。折れるの早いなぁ。」
「でも、でも、本当に、百年後に誰か来たら、私どうしよう。」
「ん?どうしようって?」
「ペロロンチーノさんやたっちさんにアインズさん取られちゃうかも。」
「バカ言わないで下さいよ。ほら、おいで。」
アインズはフラミーの手の中から酒を回収して自分のグラスと一緒にサイドボードに置くと、フラミーの腰を引き寄せて抱きしめた。
「はー…でも確かにデミウルゴスだっているのに、この上ウルベルトさんまで来たら…フラミーさん、もう俺と遊ばないかもなぁ…。」
「じゃあ、約束ね。」
「ん?」
「誰か来ても、私達はちゃんとずっと一緒に遊ぶって。」
「はは、ちゃんと遊ぶって、真面目に不真面目みたいな語感だな。でも、そうですね。約束します。」
フラミーの頭に顔を埋めると、そこからは女性特有の甘い香りがした。
(あ、これはやばいな。ちょっと抑制するか。)
アインズはふぅ、とため息をついた。
「ん?あーー!やりましたね!」
フラミーは胸の中から顔を上げるとアインズをくすぐり出した。
「ちょ!はは――ふぅ。ははは――はぁ。やめなさい!」
「なんですぐ支配者しようとするんですかぁ!」
「わか、わかったから!わかりましたから!余計抑制が必要になるようなことしないの!」
「ははは。笑わされるの嫌い?」
「ちがうっつーの。」
アインズは手元にあったスクリーンショットをフラミーに投げて抑制を切った。
「わ!やりましたね!!」
フラミーも手近なスクリーンショットを投げつけると、アインズと揃って大笑いした。
ばらばらとスクリーンショットが舞い散る中、しばらくじゃれ続けるといつの間にか二人は眠りに落ちた。
(んなっっ!?)
アインズが目覚めると、自分の腕の中で小さくなって眠るフラミーがいた。
軽く顔を上げて周りの様子を見るとベッドの上はめちゃくちゃだ。
酒は溢れて染みを作っているところがあるし、スクリーンショットは至る所に散らばっていた。
(こ、これは…落ち着け。落ち着くんだ。昨日の記憶は…全部ある!!!)
一瞬冷や汗をかきかけたが、全くもって健全な夜を過ごしていた。
キス一つできず、大の大人が男女で揃って小学生のお泊まり会をしていた。
アインズは心の中で泣いた。
(いや、順序ってものがあるからな。まずはちゃんとしないと…。)
アインズは腕の中のフラミーの長い銀色のまつげを眺めた。
しかし、たまに自分をおちょくってくるこの娘に、「なにまじになってんすかギルマス。」なんて言われでもしたら立ち直れる気がしない。
何より、二人の優しい関係が終わってしまうのが恐ろしかった。
とにかく今後の最重要課題にしようと決め、フラミーの上に乗ってる自分の腕をゆっくりあげると、フラミーが目を開けた。
「んぅ…あいんずさん…?」
「あ、おはようございま――」
「…ゆめ…?」
「え…?」
フラミーは少し顔を寄せてアインズの頬に短いキスをしてまた眠った。
アインズは本当の試練はここからかもしれないと鎮静された。
あああああああ(発狂
なんで交わらないんだ君達は!!!!!
閑話だったので次回も12時、昼に更新します!
ここの所毎日2話ですみません( ;∀;)
次回 新章 試されるジルクニフ #35 集う王達
ついに支配者のお茶会が始まります!!
最重要課題を胸に、アインズ様頑張ります!
お知らせ*Twtr閑話始めました。
12時台に前話を読んで下さった250人の方へ改めてお知らせです!
13時ごろ前話に後書きを追加したのですが、Twtrに本編の半分行かない程度の短い日常閑話をあげ始めました。
本筋と関係のない裏話をちょくちょく上げようかなと画策中です。
実は今後R18を上げる為のテストを兼ねて1話を作成しました。(R18もTwtr行きです
1話は電車内で10分、20分で書き上げ、お話チェック+誤字チェックせずに上げたので誤字脱字が…(;´Д`Aあわわ
大変見苦しいので、「まぁテストだしな」と割り切って頂けると幸いです。
Twtr閑話 #1 湖畔の日常
https://twitter.com/dreamnemri/status/1145903504545873921?s=21
Twtr閑話 #2 今日の紫黒聖典
https://twitter.com/dreamnemri/status/1146031821781495808?s=21