あとをデミウルゴスとツアーに任せて、アインズはフラミーを抱えて自室に帰ってきた。
「ジルクニフさん、ちょっと可哀想でしたね。」
「ははは。まぁ良いんじゃないですか?殺す訳でも無いですし、一応地位も与えましたし。あとはデミウルゴスのさじ加減ですね。」
「そうですね。なんか変わった人でしたし、ちょうどいいのかな。」
二人は目を見合わせてクスクス笑い合った。
「…っていうかアインズさん、あなた一応一週間謹慎なんですけど。」
アインズはギクリと肩を揺らした。
一時は氷結牢獄に行ったが、ルベドの所で帝城の監視をしていて嬉しくなってしまい勝手に謹慎を終了させて出てきた。
「あー…。今から謹慎します。」
「そうして下さい。ほら、なんでしたっけ?いつも言ってる奴。」
「信賞必罰ですか?」
「それです!必罰です。」
アインズの腕に座るようにしているフラミーはうんうん頷いていた。
「…フラミーさん。」
「ん?なんですか?」
「いえ、俺と謹慎しませんか?」
「私は悪いことしてないです!」
プイと顔を背けたフラミーを無視して、アインズは寝室に向かった。
「おい、お前達。私達は今日から謹慎する。フラミーさんの食事だけ頼む。」
寝室の扉を開くと、中は真っ暗だった。
「ん?え?どういう事ですか?私悪いこと――」
「悪いことしました。俺を散々おちょくった罰です。じゃあそう言う事だ。何人たりとも扉を開くことは許さん。」
アインズは寝室の扉をパタリと閉めた。
フラミーはベッドを振り返ると顔を真っ赤にしてアインズの首に抱きついた。
背中をゆっくりポンポン叩くとアインズはベッドにフラミーを一度座らせ、その前に跪いた。
最重要課題の言葉は結局何も決まっていなかった。
膝の上に置かれるフラミーの手を取り骨の手で優しく撫でるとアインズは素直にならなければと思う。
「フラミーさん。俺、気の利いた言葉は何も知らないですけど…ただ、俺…あなたの事がすごく好きです。俺の人生だって、本気で思ってます。」
「わ、私も…。」
「やっと俺からも言えた。はは。」
アインズは己の女神を見上げると心底幸せだと思った。
バハルス州は良くも悪くもアインズの思い出の地になった。
「…昨日は本当にすみませんでした。もう二度と傷付けないって誓います。それで、ここに来たのは変なことしようって言うんじゃなくて、ちゃんと二人で話そうと思って。」
「…もう二人でいたくないって言ったら…?」
苦しげに瞳の灯火は揺れ、消えた――
「受け入れます。そばにいてくれるならなんでも。」
が、再び灯った火は決して揺れなかった。
「…嘘ですよ。ちょっと仕返ししたかっただけです。」
アインズは安堵に笑うと再び手を撫でた。
「はは、良かった。フラミーさん、本当にすみませんでした。」
「もう良いんですよ。反省してくれたなら。」
フラミーは自分の手に重なるアインズの手を取ると、顔を擦りつけた。
アインズは握られている手を広げて顔を包むと、初めてちゃんと許可を取ろうと決めた。
「…あ…あの……キス、しても良いですか?」
フラミーは顔を赤くすると膝に視線を落とした。
「やだって言ったら…?」
「やじゃなくなるまで謹慎し続けます。なんて言ったら怒ります?」
「怒らないですけど、百年かかるかもしれませんよ?」
「じゃあ、俺今度はちゃんと百年待ちます。」
「むぅ…。」
フラミーはそれ以上何も言わなかった。
アインズは立ち上がりお団子から蕾を引き抜いて今はこれは良いかとサイドボードに置いた。
「蕾…。」
フラミーの呟きに、アインズは隣に座って手を握った。
「蕾、持ってたいですか?」
「ううん。アインズさん、骨だから良い…。」
「はは。人になるなってことか。よっ。」
アインズはフラミーを持ち上げるとベッドの真ん中に座らせ、その隣に少し離れて寝転がった。
「じゃあ、早速百年待ちますか。謹慎は始まったばかり、ですね。」
両腕を組んで頭の後ろで枕のようにするとアインズは目を閉じた。
「ふふっ、ちゃんと百年待ってくださいね。」
フラミーのくすくす笑う声に耳を傾けながら、これが側にいてくれるなら百年だって千年だって万年だって待てると思った。
すると、額に柔らかい感触が伝わりアインズは目を開けた。
フラミーがおでこから唇を離して見下ろしてくるのを見ると、やっぱり百年は無理だなとすぐに考え直す。
アインズは人化するとフラミーの後頭部を引き寄せて唇同士が触れるだけの短いキスをした。
「俺、フラミーさんがいたら本当にもう何もいらないです。」
片手で顔を撫でると、アインズはフラミーを横に押し倒して上下入れ替わった。
すぐにフラミーは恥ずかしそうに視線を逸らすと呟いた。
「…私はナザリックも要ります。」
「ははは、正直だなぁ。じゃあ俺もナザリックだっていりますよ。」
二人は少しおかしそうに笑い、フラミーの顔を手で覆ったアインズは優しく唇を重ねた。
長く謹慎してくれるように祈って。
果たしてもうこの部屋に来て何日が経過しただろう。
朦朧とする意識の中、フラミーはアインズとの繋がりが切れるともういよいよ限界だと目を閉じた。
「も…もう、謹慎、おしまい…。」
「はは。まだ罪の清算は終わってないのに?」
後ろから覆い被さって可笑しそうに笑う支配者に、これも何度目のやり取りだろうと思う。
「ねぇあいんずさん…お外は今何時で…今日は何日なんですかぁ。」
「あー…解りません。疲れた?」
「疲れたぁ…。」
「じゃあまたおまじないしてあげますよ。」
アインズは転がっていた蕾を手にしてキスしようとしたが、フラミーはぷぃと顔を背けた。
「もうおまじないじゃなくて、ご飯がいいです。」
アインズは食事なんてものの存在をすっかり忘れていた。
「…やばい、食事は頼んでたんだ…。」
とりあえず蕾をフラミーの耳に挿して頭を撫でるとごそごそとガウンを着て久々にベッドを降りた。
扉が開かれる事に焦ってフラミーは布団を被ると、考えてみたらこれだけ長い時間寝室に入っていて、守護者の皆はどう思っているんだろうかとゾッとした。
アインズが軽くドアを開けると、外から声が聞こえてきた。
「あ!アインズ様。そろそろ私もご一緒した――」
アルベドの声を遮るようにパタリと扉を閉じるとベッドに戻ってごろりと転がった。
「…ご一緒ってどういう事だ…。」
「アインズさん…。」
「へーい。」
ふざけ交じりに返事をした後フラミーを見ると、その顔は真剣そのものだ。
「あ、すみません。どうしました?」
起き上がって聞く体勢に入ると、以前よく見たしんどそうな瞳が揺れていた。
「アインズさん…。アルベドさんや、シャルティア…ドラウさんはもう諦めますから、この先は…もうこれ以上増やさないで…お願い…。」
フラミーは顔に手を当てごめんなさいと謝りながら一粒涙を落とした。
アインズはフラミーの顔に当てられる手を引っ張り、涙の後を拭うと少し言葉の意味を考える。
「増やすって、仲間をですか?」
フラミーはプルプル頭を振ると涙を拭いたアインズの手を握って顔をぐしぐし押し付けた。
「違うんです、あなたが今後…子供を産ませる人達です…。」
「な、何言ってるんですか!?」
アインズはフラミーを引っ張り寄せて抱きしめると転がっているレースのローブを掛けて背中をポンポン叩いた。
「私、ずっと考えてたんです。迷路で。この先たくさん奥さんができるんだろうなって。それで、どんどん奥さんが増えていって、いつかは…私…私…。」
「絶対に増やしたりしませんよ!誓います。」
アインズは抱きしめていたフラミーを離すと、ごそごそと自分の手にはまる
「フラミーさん、こんなの、おままごとみたいだって笑われちゃうかもしれないんですけど…俺…あなたを…――…大切にします。俺と、死ぬまで一緒にいて下さい。」
臆病な男は、たった一年と半年程度で愛していると伝えてはその言葉が陳腐になってしまう気がして飲み込んだ。
「あいんずさん、おそいですよぉ。」
フラミーは泣きながら何度も頷いた。
アインズは可愛い人だと思うと、フラミーの左手の薬指に自分の
フラミーは左手を抱え込むように抱きしめ、アインズの胸の中に顔を埋めると縋るように泣いた。
また順番を間違ってしまったとアインズは少し反省しながら腕の中の小さな存在の翼をいつまでもさすった。
フラミーは涙が止まると、自分の右手の中指からこれまで使ってきた
「…アインズさん。私も、あなたの事…絶対に大切にします…。」
フラミーはアインズにゆっくり顔を寄せて短いキスをした。
「………足りないな。」
アインズはフラミーの顔を手で覆うように挟むと長い長いキスをして、再び肌を重ねた。
アインズは目を覚ますと、フラミーを起こさないように人化を解いてから離れた。
人の身でいると下手したら本当に百年ここから出られない。
ベッドに腰掛けるとセバスに
「私だ。フラミーさんの喜びそうな食事を頼む。すまんな。毎日用意していただろう?…あぁ。私も食べる。」
久しぶりの支配者ロールに、今のは正解だったっけと考えているとフラミーがゴソゴソと自分を探しているのが見えて、やっぱり食事を頼むのは早かったかなと人の身を呼び戻しフラミーに被さった。
百年そのままでもいいんだよ?
ばっちりがっつりR18の初夜の様子は次回の後書きに貼りますね!(頭おかしい
次回 #45 閑話 だってだって男の子だもん
久々に嫌な予感のタイトル!!
だもんシリーズ大好き!