眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#46 閑話 陰の立役者

「…王国の玉座よりもエ・ランテルの州知事である方が断然価値があるだろう――この面子の中にあれの存在は特異すぎる――。」

 

 ラナーは帝国の馬車をチラリと見たようだった。

 

+

 

「まぁ、これはアルベド様!デミウルゴス様!よくぞいらっしゃいました!」

 ラナーは変わらず美しい笑顔で悪魔達(・・・)を迎えた。

 クライムは稀に来る守護神達(・・・・)に深々と頭を下げた。

「アルベド様、デミウルゴス様。どうぞこちらへお掛けください!」

「ありがとう。…ラナー。帝国がバハルス州として降ったわ。」

「それは素晴らしい事ですわね!私、支配者のお茶会では兄に久々に会ったもので、皇帝陛下――いえ、バハルス州知事様とはちっともお話できませんでした!またお茶会の際には同じ州知事同士、たくさんお話したいですっ。ふふ。」

 クライムは、皇帝が州知事になったとは限らないと言うのにまっすぐ州知事と言い切ってしまう自分の愛する姫の肩をトントンと叩いた。

「ら、ラナー様。万一違った場合、エルニクス様にも、州知事様にも失礼になってしまいます。」

 様子を見ていたデミウルゴスは心底嬉しそうに口元を歪めた。

「…いいえ、合っていますよ。アインズ様はエルニクス州知事を誰よりも信心深いと評していますからね。今後も彼がバハルスの地を監督して行きます。さて、クライム君。お茶でも出してくれないかな。」

「あ、はい!これは失礼いたしました!すぐにご準備いたします!」

 クライムが慌てて準備に行こうとすると、ラナーはクライムの袖をピッと取った。

「あ、いけないわ、クライム!一番いいお茶が切れていたんじゃないかしら?守護神様方には良いものをお出ししたいの。ねぇ、お買い物に行ってくれない?」

「ラナー様、まずは何かお出ししなければ――」

「良いのよ。私達はラナーが出したいものをいただきたいわ。デミウルゴス、あなたも良いでしょう?」

「勿論ですとも。」

「かしこまりました。では、すぐに行ってまいりますので、申し訳ありませんがお待ち下さい!」

 クライムは少しだけ上等そうな服の上にサッと上着を掛けると頭を下げ、急ぎ買い物に向かった。

 その背中を見送ると、悪魔達は途端に表情を変えた。

「ラナー。やっぱりあなただったのね。」

「一体いつから手を回していたのかな。」

「ふふふ。神王陛下が私のことも支配者のお茶会にお呼びくださるとご連絡下さってからなので…そうですね。だいたい聖王国からお戻りになった頃ですわ。」

「まったくとんだお姫様ね。じゃああなた、ほとんど一年前から帝国に情報を流し続けたと言うの。」

「はい。エルニクスが陛下方に不敬な思いを抱いている事はずっと知っておりましたから。あの愛妾のロクシーとか言う女は実に良い駒ですわ。エルニクスでは警戒するような情報も、あの女の下へ運べば次々と流れて行きますものっ!」

 ラナーの笑みは見るものを凍らせるおぞましいものだった。

 キャッと頬に手を当てたが、黄金の知事を美しいと今評するものはこの悪魔達くらいだろう。

「そうでしたか。では一年も我々に伏せてアインズ様と連絡を取り合っていたのですか?」

「いいえデミウルゴス様。私は情報を流し続けただけで、神王陛下とは一度も。お茶会を催すと仰ってから実に一年、陛下は私の事を気長にお待ちくださっていたようです。」

「…それで機は熟したとアインズ様はあれ程唐突にお茶会を開かれた訳ですね。ああ、アインズ様…。貴方は何故この小悪魔のやっている事がいつもお分かりになるんでしょう。」

 デミウルゴスは一切自分が気付けなかった細々と編まれ続けた蜘蛛の巣を目の前に、歓喜から背を震わせた。

「あなたにお茶会の案内をしに来た時、どうして私に何も言わなかったの。もっと早くに知っていたら、アインズ様のお手を煩わせる事もなかったかもしれないのに。」

 アルベドは少しだけ不機嫌そうに長い髪を払うとラナーの返事を待った。

「いえ、神王陛下が仰らない事を私が勝手に言うなんて、畏れ多くて私には…。」

 それは本心からの呟きだった。

「それはそうね。考えてみれば私達ではフラミー様をああも操れないでしょうし…。」

「下手に聞けば、フラミー様に不敬を働く皇帝を止めるために口出ししてしまっていたかな。たった三日で決着を付けるのは我々には不可能でしょう。」

 ラナーの瞳が見開かれる。

「ま、まさか神王陛下はお出かけからたった三日で…?」

「そうよ。アインズ様はたった三日で全てを終わらせてお戻りになったわ。」

「いくら私が情報を流したとはいえ…早すぎます…。」

 ラナーは智謀の神のあまりの手腕にゴクリと喉を鳴らしてしまった。

 すると外からなるべく足音を抑えて何者かが走ってくる音がする。

「もうワンちゃんが戻ってきたみたいよ。あなたとはまだ話したいこともあるし、本当にお茶をいただいてから戻ろうかしら。」

「アルベド様のお口に合うかはわかりませんが、どうぞそうなさってください。」

 そしてノックが響いた。

「私が開けましょう。」

 デミウルゴスは今回の功労者の飼う犬のために立ち上がると扉を開く。

「入りたまえクライム君。」

「これはデミウルゴス様!ありがとうございます!そしてお待たせしました!一番近くのティーショップにございましたので、今すぐご準備いたします!」

「それは楽しみだね。」

 クライムは嬉しそうに笑うとラナーに目配せし、ラナーも幸せの笑顔を返しながら頷いた。

 デミウルゴスが座り直し、再びクライムが姿を消すとアルベドは伝えなければいけない事を思い出す。

「そうだわ。今回のあなたの働きは称賛に値するものだったのだから、何かアインズ様にご褒美をお願いしなくてはね。あなたは何がほしくてこれを行なったのかしら?」

「いえ、私はただ神王陛下のお役に――」

「ただでやる程君は無垢じゃないだろう。」

 眼鏡を押し上げて邪悪に笑うデミウルゴスを見ると、ラナーは少しだけ困ったような笑顔を作って見せた。

「――そういうのは良いんだよ。アインズ様はいつも仰ってるんだ。信賞必罰とね。今御身はお籠りになっているが、籠もられる前にも信賞必罰と話をされていたそうだよ。さぁ、君の願いを言いなさい。」

 すぐに人を見透かす悪魔達の存在をラナーは嫌うどころか心の底から信頼している。

 守護神達に不敬だとは分かっているが、誰よりも自分を理解する二人のことを生まれて初めての(・・・・・・・・)友人だと思っていた。

「畏れ入ります。では――」

「お待たせしました!」

 クライムは明るい笑顔で戻ってくると、いそいそとテーブルにお茶を並べ、迷いなくラナーの隣に座った。

 ラナーはクライムの手に手を重ね、クライムはそれを握り返した。

「クライム、本当にありがとう!さぁ、どうぞお召し上がりください!」

「ありがとう頂くわ。」

「これは良い香りですね。…その様子だと、クライム君はようやく思いが通じたのかな?」

 デミウルゴスが笑いかけるとクライムは照れ臭そうにしてから語り出した。

「は、はい…。はは。お恥ずかしい限りです。ラナー様をお守りする為だけに生まれてきたというのに、このようについラナー様のご慈悲に甘えております。」

 ラナーは犬のこういう所が好きだ。

 関係を進めても犬は変わらない。きっと死ぬまでこうあってくれるだろう。

「そうかい。素晴らしい事だね。ふふふ。」

「フラミー様はあなた達の事を気にされていたから、帰ってお部屋からお出になったらお伝えしておこうかしら。」

「…アルベド様。」

「どうしたの?」

 ラナーはまだ生の神の役には立てていないが、今回死の神へ貢献したこの身に、慈悲を掛けては貰えないかと手を握った。

「光神陛下に…ご褒美はどうか光神陛下に…。」

 アルベドとデミウルゴスは目を細めた。

「なるほどね。分かったわ。お願いしましょう。」

「たしかに御方々は生命の御創造をされてきましたが…お聞き届け頂けるかはわかりませんよ。」

「それでもどうか。」

 クライムは何の話だろうと三人の様子をキョロキョロ伺った。

 

+

 

 それから幾日も経ち、再びアルベドから連絡が入るとラナーは歓喜に身を震わせた。

「クライム…ねぇ、お願い。」

「ら、らなーさま?」

「私…クライムに全部…あげたいの…。」

 クライムは顔を真っ赤にして、目の前で服を下ろしていく世界の宝を見た。

「ら、らなーさま、し、しかし…じぶんは…。」

「おねがい。」

 

 その夜二人は初めて繋がりをもった。

 クライムが果て眠った後にラナーはベッドから降りるとお気に入りのドレッサーの前に座った。

 

「ふふふ。光神陛下が私達を祝福して下さると仰ったのだから、きっとすぐね。ああ。楽しみだわ。どんな素敵なワンちゃんが生まれるのかしら。」




全部お前の仕業だったか…ラナー……。
さすがにこの二人の営みはいりませんね(真顔
クライムが背徳感に背を震わせてラナーが恍惚する話なんて!!

次回 #47 舞踏会へ向けて

真昼間ですが約束のブツです!
うーん、難しいですねえ。

気を使わない営み R18
https://syosetu.org/novel/195580/8.html

そして久々の勢力図です!ユズリハ様お手製です!

【挿絵表示】

いつもありがとうございます!

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