眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#12 初めての冒険とエルフ

「さ、行きな。調査が終わったらまたここの屋根で待ち合わせだからね!」

 

 王国エ・ランテルを出た後初めての都市でアウラは自分の影に潜んでいた影の悪魔(シャドーデーモン)達に指示を出した。

 同僚のデミウルゴスから貸し与えられたものだ。

 悪魔達が闇に溶けていくのを見送ると、アウラは片膝をついた体勢から立ち上がった。

 スレイン法国入って初めての都市。

 この辺りで一番大きかった家の上から都市を見下ろす。

 王国は木造の建築物が多かったようだが、こちらはベージュがかった白い石材を用いた建築が主なようだ。

 皆同じ石材を用いており理路整然とした雰囲気を醸し出しているが、決して無機質ではなく、どの建物の壁にもそれぞれ個性を持った彫刻が成されており、長い期間国として栄えていたことが伺える。

 

「で、どう?ここから見た感じ、どの辺りの道が人間の出入りが少ない?」

 アウラは屋根から顔を出しているマーレに振り返った。

「う、うんとね。道だったらあっちと、そっちと、こっちと……そ、そこも良いみたいだよ!だ、だけど……」

 マーレは街を見下ろしながら悩むように口元に手を当てた。

「何?はっきり言ってよ」

「あ、え、えっとね。お姉ちゃん。ちょっとあそこの道で今特殊技術(スキル)を使ってみてもいい……?」

特殊技術(スキル)?誰もいないのに?」

「も、もしかしたら、もっといい場所が見つかるかもしれないんだ」

 割と自信がある様子で告げる。

 アウラは全幅の信頼を寄せる弟からの言を素直に受け取ると、マーレと手を繋いだ。そして、ピッと不可視化マントのフードを被り直す。

「じゃ、行こ!」

「や、優しくしてね」

「オッケー!」

 マーレもフードを被り直したことを確認すると、アウラは屋根の上でグッと足に力を込め──ドンっと屋根を蹴った。

 瓦が少し剥がれてしまったので、もしかしたら雨が降れば水が染みるかもしれない。

 もちろん、アウラとマーレにはそんなことは関係ないが。

 

 マーレが先程指差した道へ二人はたったのひとっ飛びで降り立った。

 落下傘のようになってしまいそうなスカートを押さえるマーレと、足元の心配など何一つないアウラ。

 二人はその勢いからは想像もつかないほど、静かに裏路地へと降り立った。

 マーレはねじくれた杖を掲げ──ズッと地面に突き刺した。

 

「──<地母神の目(サイト・オブ・ガイア)>!」

 

 地を感じる。

 都市の地下数メートルの所には、まるでアリの巣のように長く長く空洞があるのをマーレは感じた。

「どう?」

「う、うん!や、やっぱり、道よりもずっといい場所があったよ!こ、ここの下、下水道が通ってるみたい」

「……汚そうだけど……任務のためじゃ仕方ないか。じゃ、下水道に引き摺り込んでやろ!」

「そ、そうだね!絶対に見つけられないもんね!あ、あとは建物に使われてる石材と、同じ素材の石材が、ち、地下にたくさんあるね」

「ふーん?街の地下で建材が手に入るんだ。遠出して運搬するより楽ちんなんだね。それで、下水の入り口はどの辺り?」

 マーレはスッと川の方を指差した。川は堀のように深く、低いところを流れているようだ。

「あ、あそこからなら、いくらでも──」

「あぁ〜?なんか声がするぞ〜?」

 二人はハッと振り返った。

 酒臭い男が一人、フラフラと路地裏に入ってきていた。

「やっぱりいないと思っても、路地は人が入ってくるもんだね」

「そ、そうだね。えっと、その、やっちゃう?」

「やっちゃお」

 二人は不可視化マントを脱ぎ捨て、酔っ払いへ向かって駆けた。

 ついでに、ゴミ捨て場に置かれていたバナナの皮を握って。

 

「──な、え、森妖精(エルフ)野郎!?よ、よくもこんな所ま──っむぐ!?」

 マーレは男の口の中に腐りかけたバナナの皮をねじ込んだ。

「ありがと!先に行くよ」

「う、うん!」

 流れる動きでアウラは男を抱えてすぐそこの川へ飛び降り、壁に空いた下水道入口の穴へ駆け込んだ。

「ンンー!!ングッ!ングッ!!」

 がんがんと男の声が下水道内を反響する。その度に、あたりを衛生(サニタリー)粘体(スライム)達が奥へ奥へと逃げて行く。

 男を引きずるアウラの後を、可愛らしい小走りでマーレも追ってきた。本気を出せばもちろん素早く移動できる。だが、創造主であるぶくぶく茶釜がそうあるべきと定義する方法で移動できるならば、そうするべきなのだ。

「う、うるさいなぁ。お、お姉ちゃん、いい?」

「ダメ。あんたの方法でやったら脳みそ流れ出て話聞けないでしょ。捕まえてて」

 アウラはそう言うと、逃げようとしている男をマーレに突き飛ばした。

 マーレは激突してきた男の髪の毛と顎を掴み、アウラの方をむかせた。

「ふぅー……──」

 アウラからはピンク色の吐息が出ていき、それを吸い込んで男はうっとりと目尻を下げ、先ほどまでの暴れていた姿はまるで嘘のように落ち着いた。

 そこでようやく男は解放された。

「さ、そのバナナ出してもいいよ」

 男は口からそっとバナナの皮を取り出した。

「へへ、ありがとよ。びっくりしちまったぜ。それにしても大丈夫なのか?そっちの森妖精(エルフ)女、俺の大事な友達であるお前に危害を加えたりしないのか?」

「しないよ。全然大丈夫。で、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「あぁ、なんでも聞いてくれ。なんて言ったって、俺たちは親友だからな」

「はいはい。まず、森妖精(エルフ)ってスレイン法国じゃ嫌われてるの?」

 男はハッとした顔をすると慌てて首を振った。

「そ、そりゃそうだけど、俺はあんたのことは嫌いじゃないぜ?な?本当だよ」

「分かってる分かってる。いいから質問にだけ答えて」

 

 男は躊躇いながら口を開いた。

 

 まず、エルフの国には国名がない。そして、そこは今スレイン法国と戦争状態であることを男は告げた。だが、なぜ戦争をしていて、いつから戦争しているのか。男は何も知らなかった。

 森妖精(エルフ)達は野蛮で、家も持たず木の上で暮らしていて、教養も何もない存在らしい。あるのは魔法や、モンスター達と戦う技術のみ。はっきり言って、土人だ。

 そして、戦争中に捕らえられた森妖精(エルフ)は市場に流れ、奴隷として扱われているらしい。

 そんな状態なので、王国のように木材を回収できるはずの大森林には長らく近付けていない。 

 

 男は他にもスレイン法国の当たり前の暮らしを二人に教えた。

 

 明日は七日に一度の礼拝日なので、人々は各々信仰する神が祀られる神殿に祈りを捧げに行く。

 その際、神へ失礼にならぬよう、公衆浴場で今日のうちに正式に身を清めようとするらしい。男もこの後、浴場へ行くつもりだった。

 アウラとマーレは小さなこの都市で、明日のすべての神への礼拝をきちんと確認しておく必要があると思った。

 至高なる御身──真なる神をスルシャーナというおかしな名前の偽神と間違えた愚かな人間達が、どのような方法でそれを祀っているのか調べるということは非常に優先度が高い。

 なんと言っても、ここには地、水、火、風、闇、光の六つの神を祀る法国は各都市に神殿が六つずつあるらしい。

 礼拝時の混雑を緩和するため、街の中でそれぞれが極力遠くなるように建造されているようだ。

 

 男から取り出せる有用そうな情報が底を尽きると、アウラとマーレは頷き合った。

「それじゃ、えっと、し、死んでください!」

「──は?」

 マーレは杖を男の頭へ向かって振り下ろし、男は下水道で脳みそをぶちまけて絶命した。

「さ!じゃ、次の人間探そっか!」

「そ、そうだね!違うこと知ってそうな人、さ、探してみよっか!」

 

 男の死体はそれから何日も後に変わり果てた様で発見された。体の多くを粘体(スライム)汚物喰らい(ファエクデッセ)、虫、鼠に食われた凄まじい姿だったらしい。

 

 ──同様の死体はあちらこちらの下水道から発見され、老若男女問わない無差別な殺人は都市を震撼させたが、それはまた別のお話。

 

+

 

 翌日アウラとマーレは手分けをして全ての礼拝を上手く回りきった。

 光の神殿は朝早くから礼拝が行われていたが、地、水、火、風、はほぼ同じくらいに礼拝がスタートした。

 

 闇の神殿は、夕暮れと共にそれを始めたのでじっくりと見ることができた。

 そして、双子は首都──神都への警戒度を、最大まで引き上げた。

 

「スルシャーナ様。六大神の中でも最後まで残られ、我らに従属神をお残し下さった慈悲深き神よ。どうか再び死の底よりお戻り下さい。死者の国を統べたもう超越者──」

 

 

+

 

 

「フラミ──いや、プラムさん! こっちです!ここ曲がった所みたいですよ!」

「はーい!」

 観光客のような態度で辺りをキョロキョロと見回していた──紺色のローブを着た色白の森妖精(エルフ)が漆黒のフルプレートの偉丈夫の元へ駆け寄った。

 冒険者の多い街のためか、辺りは見たことのないようなアイテムがたくさん売られていた。

 お上りさんのようにあちらこちらとフラミーは店を覗き込んだ。

「モモンさん!私、お金が手に入ったらデミウルゴスさんに何かお礼にお土産買ってあげたいです!」

「デミウルゴスがアルベドを制してくれなきゃこうやって外にも出られませんでしたからね!兎にも角にも今は金を稼がなきゃなぁ」

「私頑張りますよぉ!」

 二人はキャイキャイと冒険者組合で勧められた宿に向かった。

 二段程度の階段を上り、ドアを押し開く。

 

 すると、店内は想像よりガラの悪い雰囲気と、不衛生な様子だった。

 一階は食事処で、昼間から飲んでいる者達がちらほらといた。

 アインズはフラミーの「汚いおっさんセンサー」が働かないか心配になる。

 せめて男達がたくさん周りにいる状況から脱した方がいいと思い、カウンターへ急いだ。

「宿だな。何泊だ」

 ガードマンのようなガタイのいい店主に愛想なく問われた。視線はアインズの胸へと滑った。

「一泊でお願いしたい」

「銅のプレートか。相部屋で一泊五銅貨だ」

「いや、二人部屋で頼む。部屋は空いてるか?」

 店主はわずかに鼻で笑った。

「部屋は空いてるが、お前らは(カッパー)の冒険者だろう。二人で寝泊りしても構わないが、それじゃ仲間はできんぞ。バランスの良いチーム編成をしなけりゃ死ぬ。普通は駆け出しの間は相部屋や大部屋で顔を売るんだ。もう一度言う。相部屋は一泊五銅貨だ」

 アインズは首を振った。

「二人部屋だ」

「ちっ。人の親切が理解できねぇ奴。まぁ良い、一日七銅貨だ」

 無事に部屋を取れたことに僅かに安堵する。

「行きましょう。プラムさん」

「はい!」

 

 アインズはフラミーを背に連れ、すぐさま部屋へ上がろうとする──と、二人の前に足が出された。

「なんだ?耳の落とされてない純正の森妖精(エルフ)とは珍しいじゃねーか」

「耳があるやつはいくらなんだ?」

「そのフルプレートとどっちが高かったのか教えてくれよ」

 下びた笑い声が店に溢れる。

 耳の話はよくわからないが、フラミーが侮辱されている事だけはわかった。

「二人部屋ご希望とはなぁ。どこまでヤってもらえんだ?」

「羨ましいお話だなぁ?ははは──は?」

 アインズはそれを聞くと瞬時に足を出す男の胸ぐらをつかみあげ、一緒に囃し立てた男達に叩きつけた。

「──っへぶ!!」

 肉が叩きつけられる音と同時に、椅子やテーブルが壊される音、ひっくり返ったグラスが割れる音が響いた。

 賑やかだった店内はしん……と静まりかえり──「も、モモンさん!」

 一拍程度置いてフラミーの驚くような声が、男達の呻き声と共に溢れた。

 抑制されても抑制されても怒りが湧き出てくる。

 アインズは()()()()()()()()に更に手を伸ばした。

「貴様ら、俺の大切な仲間を侮辱した罪、その命で──」

「モモンガさん!!」

 そっとしまい込んだはずのその名前で呼ばれ、ハッとする。

「落ち着いてください!大丈夫ですから!」

「あ──ふ、フラミーさん……」

 アインズがふっと我に帰ると、フラミーはほっとした顔をし、中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)で、死にそうな男達を回復した。

「す、すみません……。尻拭いさせちゃって……」

「いえ、どうって事ないですよ。──皆さん、平気ですか?」

 回復された男たちは、三途の川が見えるような状態にされたため、動くこともできず、恐れるように必死に首を縦に振った。

「良かった。モモンさん、行きましょ」

 鬼神のようだった鎧の男は途端に申し訳なさそうにすると森妖精(エルフ)の後ろに従い二階へ上がっていった。

 静かになった店内でしばらく口を開くものはいなかった。

 そして、ポツリと一人が口を開いた。

「お、男を片手で投げられる戦士と……第二位階魔法を使える魔法詠唱者(マジックキャスター)か……」

 冒険者の中でも一番下である銅のプレートを下げていた二人がプレート通りの存在だと思う者はもういなかった。

 

+

 

「モモンさんたららしくないですよ。どうしちゃったんですか。あんなの気にしなくったって良いのに。ああ言うのは無視すれば良いんですよ」

 ベッドに腰掛けたアインズは魔法で作っていたヘルムを外すと手の中でそれを消した。

「す、すみません。ついカッとなって……」

「もー、精神抑制どこ行ったんですかぁ。──それにしても、お耳のある森妖精(エルフ)が珍しいってどういう事なんでしょう?」

 フラミーは悪魔のため、デミウルゴスと同じように耳が尖っているのだが、現地の人々は耳が長く尖っているのは森妖精(エルフ)だと思い込む習性があることがカルネ村の件から分かっている。

 うーんと考え始めたフラミーに、アインズは自分の失態のせいで、せっかくの仲間との冒険初日を汚したような気持ちになり、無言で俯いた。

 

 フラミーは物言わぬアインズに気付くと、正面にしゃがんで見上げた。

「モモンガさん。でも、嬉しかったですよ。大切に思ってくれてありがとうございます」

 アインズは笑うような困ったような顔を──したが、それは骨のために見て取れなかった。少し視線を彷徨わせ頬をぽりぽりかいてから告げた。

「──俺の、大事な仲間ですから」

 フラミーは嬉しそうに微笑むと立ち上がり、疲れた疲れたと言い肌を白くしていた幻術を解除し紫の肌に戻った。

 

「冒険、楽しみですね!!」




子供達が働いているのだから我々も調査に赴く!!(気晴らしにお外に行きたい)

2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!
お見苦しい点が多くて申し訳ありませんm(_ _)mとっても助かります。
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