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結果は後書きにあります!
出発の日、神都大神殿中庭では三台の馬車と複数の
番外席次はザイトルクワエ討伐以来の外出だ。
あれからは既に約二年程度が経過していた。
「ちょっとー番外ー。」
苛立たしげな声に番外席次は振り返った。
「何?クインティアの片割れじゃない。昔から言っているけど、気安く話しかけないでちょうだい。」
「…あんたもさー、ちったぁ働いたらどうなわけぇ?」
「嫌よ。私は陛下方の言うことしか聞かないもの。次話しかけたら殺すわよ。」
「やーん!こわーい!」
クレマンティーヌの目は言葉と裏腹にギラリと番外席次を睨みつけた。
「なーんてね。陛下方の為に働けないなら聖典名乗ってんじゃねーぞ。」
「なんですって。私は陛下方に言われればすぐにでも動くって言っているんだけど。」
ネイアは途端に不穏な雰囲気を出し始めた二人に焦った。
「…せ、先輩?これでもう終わりますから、行きましょう。」
「ったく。しゃーない。貸しな。あんたは弓引くために手を大切にしないといけないんだから。」
クレマンティーヌはネイアの手の中の荷物を受け取ると荷積みに戻って行った。
馬車の前では大量に置かれた荷物達をレイナースが積んでいる。
何がどこに置かれていくのかを神官達が丁寧にメモし、必要時にすぐに取り出せるように備えることを忘れない。
余談だが紫黒聖典が神々と初めて行った旅はクレマンティーヌの断罪の為に往復まるっと付き合うことが出来たが、普通は神々との旅は往路のみと言うのが聖典達の常識だ。
神々は場所を記憶すると帰りは特別寄る場所がなければ魔法で帰る。
運が良ければ共に魔法で帰らせて貰えるが、自力で帰れるように準備はきちんと行わなければいけない。
「レーナースー。これで終わりー。」
「そう、ようやくね。旅に出る前に腰がやられそうだわ。」
軽く腰をそらしたレイナースはうーん、と声を上げた。
「レイナース先輩、良かったら私があとはやりますから少し休んでください!」
「いいのよ、あなただって疲れてるんだからお互い様よ。馬車に乗れさえすれば休めるんだし…――っよいしょ。やり切るわよ。」
「えっらぁーい!じゃ、私はちょっと休もっかなー。」
「バカ言わないであんたも働きなさい!」
レイナースは立ち去ろうとしたクレマンティーヌの首根っこを掴むと、抵抗し踏ん張る力の弱さに気が付きパッと手を離した。
クレマンティーヌは旅の行程の作成や食材の発注、受け取り、やりかけの聖王国の活動報告書作成、ルーン武器の追加注文確認、最後に旅をした陽光聖典からの情報引き継ぎ、神官長達との会議など、副隊長や平の隊員と違ってやらなければいけない事はごまんとあった。
「…やっぱりいいわ。十分だけよ。」
「ちょっとー私が隊長なんですけど。」
「良いから、早く仮眠して来なさい。万一陛下方がいらしたら起こすから。」
「別に寝るなんて言ってないけどねー。」
クレマンティーヌはひらひら手を振って自分たちの馬車に乗り込んで行った。
「はは。レイナース先輩、珍しいですね。」
「…あんなのいない方が捗るでしょ。悪いけどネイア、ラストスパート手伝ってちょうだい。」
「はい!」
二人は黙々と荷を積み続けた。
約束の時間になると、アインズはフラミー、デミウルゴス、セバスを伴って出発の場所に現れた。
「ではデミウルゴス、セバスよ。お前達は悪いが番外席次の教育を頼む。」
デミウルゴスはオンオフの切り替えはできるが、カルマが歪んでいる為セバスを付けて物を教えさせるのが良いだろう。
只でさえ番外席次は「あんな性格に育ておって」と神官長達が嘆くような性格破綻者だ。
セバスの善良さを多少でも継がせなければ、手の付けられないとんでもない女になるに違いなかった。
この守護者二名はあまり仲が良くない為本当はアルベドやパンドラズ・アクターを付けたかったが、アルベドは肝心の番外席次とすぐに喧嘩するし、パンドラズ・アクターはなるべく女子が多い場面では出したくない。
女子の視線はいつも苛烈だ。
そういう意味では陽光聖典とパンドラズ・アクター、コキュートスと行った旅は素晴らしかった。
コキュートスはパンドラズ・アクターをどうこう言わないし、陽光聖典もおかしな目であれを見ない
(…実はあれがベストチームなのか…?)
「しかしアインズ様。番外席次の教育程度、セバスがおらずとも私一人で勤まりますが…。」
――でもモモンガさん、タッチさんがいなくったって倒せるレベルの敵でしょーよ。火力は俺一人で充分ですって。
「アインズ様。デミウルゴスもこう言っておりますので私は御身にお仕えいたしましょう。」
――モモンガさん。ウルベルトさんはこう言ってますから一人で行かせましょう。
「セバス。御身に、ではなく、御方々に、だろう。君はフラミー様をなんだと思っているのかな?まったく君という男は実に不敬だね。」
――タッチさぁん、幾ら何でもソロで行けるわけが…あ、わかった。今のはモモンガさんがいなくても変わらないと言いたいわけですね。まったくモモンガさんをなんだと思ってるんですかねぇ。
守護者二名の視線の間にはバチバチと火花が散っているようだった。
「は、ははは!――は…ち。鎮静されたか。フラミーさん今の見ました?」
「ふふふっ見ましたぁ!」
「ふふ、本当に偉大な創造主達だなぁ?お前達。」
アインズとフラミーは愉快げに守護者を眺めたが、守護者二名は恥じ入り反省していた。
「なんだ?どうした。喧嘩はおしまいか?」
「アインズ様、フラミー様。申し訳ありませんでした。」
「お見苦しい物をお見せいたしました。」
叱ったわけではないのにすっかり喧嘩をやめてしまい、アインズは人の身で来るべきだったなと少し残念になる。
そしてやはりどの組みがベストチームかは甲乙つけがたいと思い直した。
「仕方ない。今後の楽しみにとっておくか。」
神々を乗せたゴーレムの馬車は真夏の日差しに照らされ出発した。
広大な南方の砂漠の中心にある八欲王の空中都市の情報は旧法国である神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国には殆どない。
スルシャーナの手引きによってプレイヤーを失った砂漠と、八欲王によって最後まで残った慈悲深き闇の神であるスルシャーナを失った法国。
国交を断絶して久しかったその場所に、新たな神々の再臨を神官達が伝えている筈もなかった。
今回アインズは仕方なく他の国々に砂漠の情報を貰いに行ったが、元から砂漠はどことも国交が少ないようだった。
広大な砂漠を越える為には大量の水分や多くの準備を必要とし、牽引する馬の食料や水分も考慮すると大掛かりな部隊になる。
ラクダのように水分を保持する力を持つ動物がいればまだ良いのだろうが、この世界に来てラクダの情報は未だない。
昼は炎天下、夜は極寒の旅は生きた馬には過酷すぎる。
ただ、世界を広くする事をスローガンに日々送り出されている冒険者達は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国の者としていくらか砂漠へも行っていた。
人の身のアインズは馬車の中、冒険者達に作らせている地図を眺めていた。
本当は自分がこれをやりたかったと思うと少し苦笑する。
「デミウルゴス。どうだ?どれ程で砂漠に入る。」
「そうですね。この山があそこに見えている山だと思いますので、このスピードでしたら一週間もあれば砂漠に入るかと。そこから街まではそう遠くありません。ただ、真夏の砂漠に聖典が耐えられるのであれば、ではありますが。」
「休憩しない馬でそれだけかかるのか…。冒険者達はよくやっている。」
「まぁまぁでございますね。」
馬車の中、アインズとフラミーの正面には、番外席次がデミウルゴスとセバスに左右から挟まれて座っていた。
番外席次はセバスに正義、世の常識、人を助ける重要性を教えられ、デミウルゴスには力を奮う正当性などを説かれている。悪魔にそんなことを習う人間は番外席次が最初で最後だろう。
「陛下。陛下はずっとその人のお姿で過ごしますか?」
「ん?そのつもりだが、どうかしたか?」
「いいえ!じゃあ、折角一緒に居られるんだから今夜陛下の御子の素を頂けないでしょうか。」
アインズは鎮静され、デミウルゴスは自分の隣のものを睨んだ。
「番外席次。それは不敬でしょう。黙りなさい。」
「何故?お世継ぎが出来るのはいいことじゃない。ほんの少しお情けをかけて頂きたいだけよ。」
フラミーの前でそういう事を言って、万が一慈悲深き支配者が受け入れでもしたら、控えめな己の女神が傷付く。
「…番外席次。お前は何を言っているんだ…。」
「陛下はこの世で最も強き存在でしょ?そう言う存在と子を持ちたいんです。」
番外席次はまっすぐアインズを見ていた。
「私より強い者は幾らでもいる。私の友人でこの二人を創造したたっちさんやウルベルトさんなんかは――」――今でも自分より強いのだろうか?
アインズはユグドラシルの法則を貫く始原の力を手に入れた今、かつての仲間たちの中に自分よりも強者はいるのだろうかと少し考える。
守護者二名も同じことを考えているようでどちらもうーんと唸っていた。
「いや…常闇は私より強かっただろう。」
「でも陛下が勝ちました。」
「…あの日の勝利条件を私は満たしていない。負けなかっただけだ。」
熱心に外を見ていたフラミーは長い耳をピコピコと揺らしたかと思うと、泣かないで、とでも言うようにアインズの手を握った。
アインズも手を握り返すと二人は微笑みあった。
「番外席次よ。はっきり言っておこう。私は愛の下でしか子供を設けるつもりはない。」
「愛?そんな物が必要なの?……私は私に勝てる男ならどんな不細工でも、性格が捻くれていても……人間以外だって問題ない。」
「…ああ…そんな事言わないで下さい…。一番大切な事ですよ…。」
番外席次は少し辛そうな顔をするフラミーを見ると、アインズと繋がれた手に複雑な視線を落とした。
アウラと同じ血を持たせて生んでくれたことには感謝しているが――
「愛が一番大切なら…どうしてフラミー様は私を愛のない下へ産み落としたの…?」
フラミーは言われている意味がわからなかった。
「私が…?私、そんな事した覚えないですよ…。」
番外席次はフラミーをじっと見た。
ドラちゃんの運命や如何に…!
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このまま死ぬまで幸せな夢を見続ける
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アインズ様にちゃんとまっすぐ振られる
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他に好きな人ができる(宰相かなぁ
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紆余曲折してアインズ様を諦める