その後走り続けた馬車は夕食どきになるとようやく止まり、ネイアは馬車を降りると目一杯伸びた。
この馬車は乗っていても殆ど疲れないが、広い空間に出ると空気を吸いたくなるのは人間の性だろう。
すぐに荷馬車へ向かい食事に必要な荷物を取り出して運ぶ。
こう言う作業は聖騎士の従者時代から続けているため慣れっこだ。当時の上司とは馬が合わなかったが、今の上司達との関係は非常に良い。
クレマンティーヌとレイナースが神々と番外席次を呼びに行っている間に食事をとる場所を作る。
本来なら食事が出来てから呼べば良いが、神々は外にいるのが好きなので、なるべく早く呼びに行くのが聖典達の常識だ。
ネイアは神王が食事をとるシーンに立ち会うのは初めてなので、何となく神聖な行為がこれから行われるような気持ちになった。
以前共にいた時はずっと何も食べず、食事の時は景色を眺めたり植物を摘んだり、虫を捕まえて様子を見ていた姿を思い出す。
神王は昔から本当は人化する術を持っていたが、力の使い方を研究してようやくそれが成ったと聞いた。
もし聖王国に来た時、人の身で来てもらうことが出来たら――いや、闇を抱えて生きろと言うのはこう言うことだろう。
ネイアは自分の弱さと正面から向き合った。
火を起こしながら、骸の瞳に燃えていた炎を思い出していると――
「陛下、愛なんていいから子作りしましょうってば。」
その言葉に何事かとつい作業の手を止め顔を上げた。
「しないと何度言ったら分かるんだ。ほら、お前もバラハ嬢を手伝え。」
「私は陛下といるわ。」
番外席次の後ろを歩いていたクレマンティーヌはガシッと肩を掴んで邪悪すぎる笑みを浮かべていた。
「ちょーっとー、あんた陛下方に言われればすぐにでも動くって言ってたのは、嘘なわけぇ?」
番外席次は手を叩き落とすとクレマンティーヌに触れられていた部分をパッパッとはたいた。
「気安く私に触んないでちょうだい。」
「レーナース。あんたは先にネイアを手伝ってやって来て。私はこいつの事を陛下によくお伝えしてから手伝うから。」
「わかったわ。――フラミー様、もし何かありましたらいつでも仰ってください。」
レイナースは一度フラミーの足元に跪き、ローブの裾に口付けてからすぐにネイアの下に来た。
「クレマンティーヌもとんでもないと思ってたけれど、アレの比じゃなかったわね。」
「ははは。本当ですね。旧法国ってある意味すごいです。」
「まったくね。これは陛下方が国を危ぶんで降臨される意味もわかるわよ。」
二人は神々の前で話し合いを始めた番外席次と自分達の隊長の様子を見て少し笑った。
「さて、私は私の神のために目一杯美味しいもんを作るわよ!」
身も心も女神に救われたとよく語るレイナースはやる気充分な様子だった。
「はい!私も両陛下の為に頑張ります!」
番外席次とクレマンティーヌの話し合いはもはや喧嘩になっていた。
その喧嘩は食事が始まっても終わらず、二人に左右から挟まれて座ったアインズは人の身の目頭を押さえた。
「こいつ、ほんっとーに何もしないんですよ!!」
「クインティアの片割れが居なければもう少しやる気になるんだけれど。」
「はーぁ!?さっきと言ってる事違うんだけど!?」
「私は陛下のおそばにお仕えしてるんだから仕方ないじゃない。」
殆ど堂々巡りの会話にネイアはついに声を上げた。
「番外席次さんは陛下のおそばで何をされていたんですか?」
「何?あなた誰。」
「…私は紫黒聖典のネイア・バラハです。陛下のおそばにお仕えするなら、きちんと身の回りのお手伝いをしながら、その崇高なるお考えを汲めるように努力するべきです。」
「生意気。それに触れただけで死にそうだわ。」
「ちょっと、あなたうちのネイアの言ってることが当たり前だってわからないの?ちゃんと聞きなさい。」
「あなたも誰よ。」
レイナースはじとっと番外席次を睨んだ。
「クレマンティーヌの言う通り随分失礼なやつね…。」
アインズは正面でデミウルゴスとセバスに囲まれそこそこ快適に食事をしているフラミーを羨ましく思った。
ただ、デミウルゴスが額に血管を走らせ立ち上がりかけてはセバスとフラミーに止められるというやり取りは無限に続いている。
「…お前たち少し黙りなさい。食事中にいつまでも言い争うんじゃない。番外席次、今日の片付けはバラハ嬢の下について一緒にやりなさい。」
「陛下、私は自分より弱い者の下にはつかないわ。」
「口答えするな。お前より強い私の言うことを聞け。命令だ、バラハ嬢の下につくんだ。」
「…わかりました。」
「ははは。お父さんは大変。」
フラミーのおかしそうな笑い声を聞きながら、アインズは人の身の肩に手を置くと、さも凝りましたとでも言うように首を回して見せた。
食事を済ませると番外席次はブーブー文句を言いながらネイアの下、片付けを行なった。
「バイザー。陛下の従者をやったんですってね。」
「バイ……んん、そうです。一ヶ月陛下方にお仕えしました。」
貸し出されている
「ねぇバイザー。神王陛下とフラミー様は愛し合ってらっしゃるのかしら。」
「ん…分かりません。陛下方は互いがご自身の半身でらっしゃるという事は確かですけど。」
「半身…。」
「そうです。半身で――あ、いえ。そう思うと、深く愛し合ってらっしゃるはずです。自身を受け入れろと言うのは陛下方の一番の教えですから。」
「…そう。」
番外席次は真剣な面持ちで何かを話すアインズとフラミーを見た。
手の中の水差しが起こされ水が止まると、ネイアは番外席次の手に触れて角度を戻す。
「あなた私に触らないでくれる。」
「じゃあちゃんと働いて下さい。今は私の方が先輩です。」
「ち。気に入らない。」
全ての皿を流し終わり、綺麗に拭いてから箱に入れるネイアはこの風変わりな美しい少女をじっと見た。
「番外席次さんは神王陛下のお子が欲しいって言ってましたけど…陛下を愛してるんですか?」
ネイアを真似て箱に皿をしまう番外席次はネイアの手が止まったのを見ると不愉快そうな顔をした。
「私は愛なんてそんなもの知らないわ。ただ私は、私と対等かそれ以上の存在が欲しいだけ。私と陛下の子なら、そうなるに決まってる。」
妙に寂しげな声にちらりと伺うと、その表情はまるで動いていなかった。
不敬に不敬を重ねた事を言っているのに、自分の感情が何かもわからないとでもいうような顔は、妙にネイアを苛立たせた。
「誰もが陛下方のご慈悲に縋りたいのに、自分ばっかりそれを無理やり手に入れようとするのは間違っています。」
「じゃあどうしたらいいって言うの。」
「はぁ…。番外席次さんは漆黒聖典なのに、神王陛下の教えを少しも受けていないんですか?――はい、これ持ってください。」
ネイアは皿をしまった箱を番外席次に渡すと、鍋や調理器具の入った箱と、地面に敷いていた屋外用のラグを持った。
「自分の闇から目を逸らさずに受け入れなければ光は射さないんです。あなたは陛下に縋りたがるその自分の弱さを――」
番外席次はバンと箱を床に落とすとネイアを睨みつけた。
「弱さ?私は守護神様達に次ぐ力を持っているわ。」
番外席次は苛立たしげに背を向けると立ち去っていった。
アインズは
ソファでフラミーを膝に乗せて髪を梳かしてやりながら守護者達の今日の教育報告を右から左へ聞き流す。
すると、開けたままにしてある玄関から番外席次が現れ、真っ直ぐこちらへ向かってきた。
「陛下。」
「なんだ。バラハ嬢は一緒じゃないみたいだが片付けは終わったのか?」
「…終わってないけれど、あのバイザーは私が自分の弱さと向き合ってないなんて言うからやめたわ。」
「お前は弱いんだし事実向き合えないんだから仕方ないだろう。それからバイザーじゃない。ネイア・バラハだ。」
九十レベルだと言うのに生きる中であれやこれやと適当にレベルを積み重ねて来た番外席次の弱さは折り紙付きだ。
しかし、ゲームと違いそのビルドを確認しようとしたとしても簡単に見たり確認する事はできない。
番外席次は一瞬口を開けると、悔しそうに目をつぶった。
「…っ…私は…弱くない。」
「いや、お前は弱い。」
「アインズさん…。」
フラミーは困ったような顔をしてアインズへ振り返り、ローブを軽く引っ張った。
その両手をとって引っ張るのをやめさせていると、番外席次は手をギュッと握りしめていた。
「陛下…。私は…私の弱さを取り除けるかしら…。」
おおよそ九十レベルなのでまだ十レベル分余裕はある。
しかし、これから少しでもまともなビルドを組むとしてもこれまで重ねたものを補い切れるとは思えない。何度か死なねば難しいだろう。
「…厳密には可能だが、取り除く事はできないと思え。しかしお前にはまだ伸びしろがある。お前はこれまで積み重ねた時間を思い出して…よく考えるしかないだろうな…。それより勝手に戻ってきてどう言うつもりだ。お前は私がいいと言うまでちゃんとバラハ嬢に教えを請うて来い。」
「…教えを…。」
「そうだ。早く戻れ。」
番外席次は少し悩みながら外へ戻って行った。
「アインズさん、もう少し優しく言ってあげないと…。」
「フラミーさん。あんまりアレを甘やかさない方がいいですよ。」
「でも…きっと、彼女生まれてからずっと一人ぼっちで寂しいんですよ。」
フラミーが番外席次を見送る視線は何か違うものを写しているようだった。
アインズはふっと息を吐くと長い髪に指を通した。
「…あれは貴女とは違いますよ。」
「同じですよ…。ただ、私には貴方がいただけ。」
縋るような小さな体を抱き締めると慰めるように頭に口付けを落とした。
「…そうだとしても俺はあれの父親にも夫にもなれません。」
フラミーを抱えたままアインズは立ち上がり、守護者に一瞬目配せすると背を向け手近な部屋に入って行った。
「ネイア・バラハ。教えを。」
「え…今度は何ですか…。」
ネイアは一人で荷馬車の整理を終え、幌を閉めた所だった。
「神王陛下がいいと言うまであなたに教えを請えって言ったの。行くわよ。」
番外席次はそういうと紫黒聖典の馬車に向かってスタスタと歩き出した。
後ろを歩きながらネイアは番外席次の後ろ姿をそっと観察する。
華奢な肢体といい、整った容貌といい、庇護欲を刺激される美少女だ。ただし、口を開かなければと言う条件はつくが。
扉をノックもせずにバンっと開くと、クレマンティーヌとレイナースが何事かと驚きの視線を向けていた。
クレマンティーヌは報告記に一日あったことを事細かに書き上げ、レイナースはその日に消費した食品を書き在庫表を更新し、神々の食事の記録を書いていた。
それには何が気に入っていたようだとか、これは気に入らないようだとかが書かれていて、次に旅に出る聖典にそのまま渡される。
隊長と副隊長の仕事は山積みだ。
「あぁん?番外が何の用?」
「クインティアの片割れ。私は今からネイア・バラハに教えを請う。」
「ふーん。多少はやる気になったわけか。レーナース、書類と記録を。」
真面目な雰囲気のクレマンティーヌはレイナースへ手を伸ばすと、レイナースは頷き書類とノートをまとめて手渡した。
受け取ったそれを座席下においてあった書類用カバンに丁寧にしまうと、自分の隣の席を叩いた。
「座んな。番外もネイアも。」
番外は忌々しげにクレマンティーヌの隣に、ネイアは軽く頭を下げてからレイナースの隣に座った。
番外ちゃん…!
布教されるんだ…布教されてくれ…。
次回 #4 戦士たちの休息
はぁーい!twtrでリクエスト貰ってたR18更新しましタァ!(変態
何の繋がりもないただのえっちなお話です(つД`)
https://syosetu.org/novel/195580/13.html
ドラちゃんの運命や如何に…!
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このまま死ぬまで幸せな夢を見続ける
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アインズ様にちゃんとまっすぐ振られる
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他に好きな人ができる(宰相かなぁ
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紆余曲折してアインズ様を諦める