紫黒聖典と番外席次が入都許可を取るのを眺めながら、不可知化したアインズ達は浮いていた。
街は薄ぼんやりと不思議な魔法の結界に包まれている。
「…これは始原の力か。ツアーがこの中のNPCが出たとか出ていないとかを確認する為の代物だろうな。」
「え?どれですか?」
「ん?これですよ。」
アインズが一人空中をツンツンとつつく姿にフラミーとパンドラズ・アクターは首を傾げた。
始原のこれが二人に見えないと言うことに僅かに驚いていると、ネイアと二人で一頭のゴーレムに乗る番外席次の声が響いた。
「中に入ったらどうするの。」
「とにかくアウラ様の言ってた都市守護者とか言う奴らの所に行く。それが無力化されたのを確認したら、また次へ。これだろーね。」
クレマンティーヌの言に全員が頷くとネイアは不安そうに口を開いた
「…陛下方は本当にいらっしゃるんでしょうか?あれ程のお力の三柱がこんな…本当にまるで何も感じさせないなんて…。」
「ネイア。フラミー様は確かにお側にいらっしゃるわ。」
レイナースの確信を持った発言にアインズとフラミーは目を見合わせた。
「私は生まれた時からフラミー様の光を感じ続けた。あなた達だって、神王陛下やフラミー様のお力をずっと感じていたでしょう。これこそが本来の陛下方との距離なのよ。私達は恵まれてるからああしてお側でその姿を見せて頂けていただけ。」
――そうなのか。
アインズとフラミーの心の中には同じ言葉が浮かんだ。
「そうか…そうですね!レイナース先輩、ありがとうございます!」
「ヒュー!いいこと言うー!」
「…生まれた時から…フラミー様や神王陛下はお側に…。」
勝手に四人は納得して進み出した。
「止まれ。パンドラズ・アクター、私に変身してフラミーさんとここにいろ。」
アウラの報告にあった三人の天使のそばに着くとアインズは止まった。
「畏まりました父上。何かあればすぐにお呼びください。」
パンドラズ・アクターは装備を渡されていないので、ネオナチの軍服姿のままアインズに変身した。
すぐに行動する息子に頷き、アインズは少しだけ心配そうな目をするフラミーに骸の顔で笑った。
「まぁ見てて下さい。死に損ないの回収、頼みますよ!」
繋がれていた手を離すと完全にフラミーと息子を見失う。
「変な感覚だな。…<
ずっと低空飛行をしていたが、一気に視界は開け、眼下には始原の力に包まれる都市が広がる。
NPC達はこの結界を出ることはないはずだ。
不可知化中は攻撃魔法やバフ魔法を使えない為、安全圏で一度不可知化を解いた。辺りは薄絹のベールをかけるようにわずかに雲があり、ひやりと冷たい。
重力に引きずられるように自由落下に身を任せながらバフを唱えていく。
「<
他にも多くの魔法を掛け終えると再び不可知化し、三人の天使に向かって<
そんな中、別の場所にもNPCらしき者達がいるのをチラリと確認した。
今目標に据えている天使達を攻撃するにちょうどいい距離までくると、アインズは腕輪を光らせ不可知化を解いた。
「<
「な!!」「ついに来たな!!」
「――<
一度に三本繰り出された魔法は三体の天使達の体を上下二つに割ると――「<
アインズは再び身を隠した。
落ちて行く天使達がフラミーとパンドラズ・アクターの開いたであろう
「マーレ。今偽りのナザリックへ三人送った。思ったよりよく切れてしまったから軽く回復して拘束しろ。死ななければなんでもいい。」
アインズは一方的に伝えて通信を切ると、フラミーと別れたはずの場所に近付き再びこめかみに手を当てた。
「フラミーさん、戻りました。せーのでいきますよ。」
『はぁい!』
『「せーの」』
紫黒聖典は空にチカッと神が明滅したのを見た。
「すごいアインズさん!あっという間でしたね!」
「ははは、こんなもんですよ。フラミーさんこそナイスキャッチでした。」
アインズは嬉しそうに自分の腕をポンポン叩いてみせていると、パンドラズ・アクターが興奮するように鼻息をフンフンっと吹いた。鼻はないのに。
「ンンンン父上!!素晴らしいです!流石は我が創造主!!」
「そ、そうか。んん。向こうにもNPCを見つけた。聖典に
「<
アインズは再び明滅すると二名を偽りのナザリックへ放り込む。
二組目が消え、事態を察したのか城からは十人ものNPCがワラワラと出てきた。
「もう来たか…連絡を取る暇も与えなかったつもりだが…。」
アインズは紫黒聖典達とフラミーと最後に離れた位置を素早く確認する。
まだ距離はある。姿を見せないように後方にいるものからジワジワ数を減らして行く事に決めると<
<
「――まぁ、それはそうか。」
堂々と遅延しながら転移し、アインズは腕輪を輝かせると再び姿を現す。
「<
そこまで詠唱すると、アインズの手を魔法の弾が撃ち抜いた。
ッパァンとガラスを叩きつけて割り砕いたような音が響き、ダメージが入った。
魔法が霧散し、一瞬杖を落としそうになる。
しかし、骨の身は痛みを感じにくいのですぐにレプリカのスタッフを強く握り締め直した。
(現れる位置を絞って決め打ちしてきたか!!)
アンデッドとしての特性か、常闇やツアーと繰り広げた戦いの為か、混乱したのはほんの一瞬だ。
「<
アインズは即座に身を消した。
「近くにいるはずだ!!」「体力を削りましょう!!」「間違いない!!」「捕らえろ!!」
「<
落とそうとしたNPCから不可知化していても食らう魔法が飛んでくるが問題なく抵抗する。
フラミーは抵抗できただろうかと心配になり離れた場所に戻ろうかと思うが、パンドラズ・アクターから連絡がない事を信じる事にする。
撃たれて痛む手をさするとアインズは“絶対そんなところには現れないだろう”と普通は思う、NPC達の目の前、ギリギリ手が届かないところに転移した。
万一ロックオンされてもここならば仲間を撃つ危険もあるため躊躇うだろう。
強化魔法を付けることは諦め、確実に一人づつ減らす事に決める。
アインズは姿を現し、目の前でNPC達が驚きに顔を歪めたのを確認すると骸の顔に笑みを浮かべた。
ここはやはり相手NPC達の想定の範囲外の場所だ。
「<
姿を現し一秒も経たぬうちに、アインズの手は先程と同じ場所が的確に撃ち抜かれ、魔法は散った。
「なんだと!?」
あり得ない。
不運が二度も起きたのか?まさかこんな所に姿を現わすと決め打ちできるだろうか。
「久しぶりですね!!スルシャーナ!!」
目の前の時代錯誤な着流し姿のNPCは間違った名を呼びながら驚くような速さで警棒のような物を振るい、激しい力をもって頭蓋骨は叩かれた。
しかし、前もって掛けておいた<
人間であればダメージがなくとも視界と脳が揺れただろうが、今のアインズにはそう言う付随効果も一切通らない。
「ックソ!<
咄嗟に始原の力を流し込んだ魔法は世界を止めた。
「……今のは少し危なかったか。冷静にならねばな。」
アインズは警棒が当たった場所に触れながらススス……と高度を下げ、今の事象の整理を始める。
(本当にここに出て来ることを想定していたなら、全員がすぐに襲いかかってこないのはおかしい…。特殊技術を持った奴が様子を見ているのか?)
そろそろ時間が動き出す筈だ。アインズは不可知化した。
「何!?時間対策は行なっているのに!!」
NPC達の絶叫にアインズは始原の魔法対策も今は必須だぞと心の中で呟いた。
(ま、そんなものないけどな。)
アインズは紫黒聖典達の間に降りると手の平を天に向かって伸ばし、不可知化を切った。
番外席次はレベルが高いので良い囮になるはずだ。守護者達の言う通り連れてきてよかった。
「陛下!?」「神王陛下!!」
「<
空に伸ばしている手の中に心臓がぼやりと像を浮かべ、それを握り締める。
先頭でスルシャーナと呼んできた着流し姿のNPCへ、アインズが最も得意とする死霊系の魔法を叩き込む。
着流しは即死には抵抗したが朦朧状態となり地に落ち始め、
死ぬとは思っていなかったが、死ななくてよかった。
アインズは落ち着いた様子で空から視線を落とした。
「番外席次よ、指輪を返しなさい。」
「は、はい!」
「――すまん、今のやつは一時的に朦朧しているが体力は減っていない。近接型だ。コキュートス、お前が叩け。」
するとアインズがいた場所めがけて光を超えるようなスピードでチュンッと何かが飛んだ。
アインズの動体視力を持ってして捉えきれなかった攻撃は真っ直ぐ斜め後ろに着弾した。
振り返れば、当たったのか番外席次がアゴを上げ、後ろにのけぞりかけていた。
「――ッンァ!!」番外席次が踏ん張ると、砂町のベージュの地面と靴がザリッと音を立てた。「糞が!!敗北はザイトルクワエで充分よ、殺す!!」
頬からはツツ…と血が流れ、軽い痛みと怒りに顔を歪ませた。
番外席次が飛び出そうとするのをネイアが慌てて止める。
「待ってください!番外席次さん!!まだ私達の輪の中に陛下が隠れてらっしゃるかも知れません!あなたは陛下をお守りするよう頼まれたはずです!!」
番外席次は迷うような目をすると、突然クレマンティーヌに向かって
「クインティア!!」
バチンと何かを弾く音がするとクレマンティーヌの眼前で矢が弾けた。
「――た、助かった!」
空から驚きの声が聞こえ、NPC達の隊列は半分に割れると片方のチームが番外席次へ向かい出す。
街を行き交う人々は悲鳴をあげ逃げ出し始めていた。
アインズは番外席次に向かって近接型の四人が降りていくのを横目で見過ごし、遥か上空へ転移する。
狙撃者の位置がわからない今、全員が番外席次などという雑魚に気を取られているこの瞬間が大切だ。
空で各々支援を行う五人のNPCに向かって杖を向け腕輪を輝かせる。
動き続けていなければまた撃たれる危険がある為、上空から落下しながら姿を現した。
「<
「――スルシャーナ!!」
瞬間姿を消し再び移動する。
支援型のNPC達が巨大な竜巻に切り刻まれながら舞い上げられていくと、二つの
アインズは今度は邪魔立てなしに魔法を唱えられたことに安堵のため息を吐いた。
――下では血みどろの番外席次が、聖典に向かって剣を振り上げるNPC達を止めていた。
あああアインズ様番外ちゃん死んじゃう!!!
囮扱い!!
次回 #8 脱落者
さ、最悪ビルド組み直せるから……。