「スルシャーナの信徒!!」
「呪われた大地の大罪人共がぁあ!!」
番外席次は久しぶりに土の味を噛み締めながら叫んだ。
母に訓練と称して叩きのめされた日々、ザイトルクワエの一撃で大地に叩きつけられた時、そして今。
番外席次は地に伏したまま
「――<
「効くか!!」
「っちぃ!!」
即死無効化能力を持っていたのか、番外席次が放った魔法は存在したのかも不明なほどにあっさりとかき消された。
ならば、番外席次が使うことのできる切り札の一つ、
百時間に一回しか使用できないため、一人以上を倒すことはできないが、一人でも戦力は削れた方が良い。
番外席次は方針を決めると、
――エインヘリヤル。
番外席次のすぐ隣に光が集まり、一呼吸の間に番外席次の姿を象った。
番外席次が己の分身体――エインヘリヤルに命令を下すよりも早く、NPC達が襲いかかってくる。
彼奴等はエインヘリヤルが何なのかを完全に理解している。そうとしか思えない動きをしていた。
「ど、どうすれば――っくそ!!」
ゲームの中で百レベル分無駄なく育てられたNPCの振るった一閃は、神人と呼ばれた彼女にしても早すぎる。そして、重すぎる。
「スルシャーナの
番外席次はいつもの笑みをこぼす。命を取らないと言われて嬉しかったわけではない。感情を読ませないため、本心を隠すためにわざと表情を作ったのだ。
――四人も敵がいる中、いつどのタイミングで
いや、本当に一人を殺すことが最善手だろうか?
スルシャーナの何かを聞こうとする者達の話に適当に合わせ、時間を稼ぐという手もあるかもしれない。とにかく神が攻撃されないよう、敵を一人でもここに釘付けにできていればいいのだ。
だが、もし話をただ合わせているだけだとバレた時、もしくは相手の気にいる返事をしなかった時はどうなる。
やはり、番外席次一人で四人の気を引いておびきよせつつ、少しでも神から遠くへ逃げる。それが神を守る手伝いになるはず。先程はどこに神がいるかわからなかったが、今しがた一瞬空に神が明滅するように姿を表した。
ここには今足手まといの三人と番外席次しかいない。であれば、この三人を置いて――
「――行けない。逃げられないわ!!」
「はぁ!?」
何かを聞こうとしていた敵が不可解そうに声を上げる。先の質問に対しての番外席次の返答は、相手からすればまるで意味が通っていない。
もし番外席次が紫黒聖典の三人を置いて、四人と戦闘をしながらここを離れた場合、空にいる強者達がさらに降りてきて三人を襲わない保証などどこにもない。
(――くそ。死ぬかもしれないが、全力で殺す。それだけでいい)
あの三人にどれほどの恩があるかなんて分からない。
だが、長く生きてきた番外席次にも気に入った人間というのはいた。そういった者達は既に大抵が亡くなっている。
それがまたあの三人だったというだけの話。
(そう。あいつらを救えるのは私だけ!)
神の教えも受けた。
覚悟は決めた。
「――
叫ぶと同時に、背中に時計が姿を見せる。
抵抗不可能な死を与える、未だ一度も破られたことのない無敵の技。
誰を殺すのが一番いいかなどわからない。だが、なりふり構っていられる状況ではない。
「なんだと!?」「なにぃ!?」「まさか!!」「そんな!?」
相手から驚愕と恐怖が同時に伝わってくる。
「
一人に向かって魔法を放とうとした瞬間、四人が同時に襲いかかってくる。
音すらも越えるような速度で迫った者達は、エインヘリヤルが二人の武器を止め、番外席次が
ビッとそれが引き抜かれると、番外席次はあまりの痛みの中膝を付き口から大量の血を吐き出した。
「ッイゥァアア!!」
痛みで視界を星が飛ぶ。必死になって痛みを逃そうと息を吸うが、吐き方を忘れる。
代わりに叫んだ。
「――守れない!!何も守れない!!」
NPCは膝をついた番外席次の頭を掴み上げた。いつのまにかエインヘリヤルは消え去り、その背に浮かんだ時計も消えていた。
百時間に一度しか使えない
「貴様、何故スルシャーナの力を!!」「――まさか、貴様がスルシャーナを復活させたのか!?」
その問いは痛みに悶える番外席次には届かなかった。
「チッ!お前たち!吐け!!」
「スルシャーナ!?知らないわよ!そんな事より私達の仲間を離しなさい!!」
レイナースがNPC達に向かってルーンの剣を抜かずに構え突撃すると、ネイアも番外席次を掴む手に向かって弓を引き絞った。
クレマンティーヌはルーンのスティレットを持つ手に力を込めていた。
「<疾風走破>!<能力向上>!<能力超向上>!!」
ネイアの放った矢はヒュンッと軽い音を立ててレイナースを即座に追い越し、番外席次を掴む手にドンッと突き刺さる。
「持っている武器だけは一人前か!」
レイナースは突き刺さった矢を叩き込むように、鞘に納めたままの剣を振るった。
それがガツンッと深く刺さると、NPCの腕の力は痛みから僅かに弱まったようだった。
しかし、手の空いているNPCがレイナースを蹴り飛ばし、その身は家屋に突っ込んで行った。
クレマンティーヌは一瞬レイナースを案ずるが、大きく息を吐き出すと突撃した。
加速する世界の中、スティレットを逆手に持つと、全身の筋力を総動員して突き刺さっている矢目掛けて振り下ろす。
相手が強敵の場合、スティレットは抜くのが難しい為に直接差し込んだりはしない。三人で強敵だと認定した者と戦う時はよく使う手だ。
更に矢が深く突き刺さるとクレマンティーヌは効果を使った。
「<
第八位階の魔法が込められた、アインズ謹製スティレットは文字通り神器だ。
一日にたった一度しか使えないが、今ここでそれを惜しんでいる余裕はない。
それは矢を伝って番外席次を掴む手を黒く染め上げ力を奪う。
「ッグゥ!!よくも!!」
番外席次は解放されその場に崩れた。
「ッアァ…………っくいんてぃあ…………」
「ネイア!こいつを連れて行け!!」
クレマンティーヌはゴミのように転がる番外席次を、驚くような力でネイアに向かって投げつけた。
番外席次の小さな体はネイアにぶつかり、二人はもつれるように地に倒れた。
「――っあぅ!先輩!!でも先輩は!!」
「この人外――英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様が負けるはずがねぇんだよ!」
ネイアは起き上がり、番外席次とクレマンティーヌを交互に見て大量の汗をかいていた。
その言葉は嘘だとネイアにはわかった。
「ックソ!!」「復活方法はスルシャーナ本人に聞けばいい!」「遊びは終わりだ!!」「確実に不発と処理されたか分からない以上、万が一再び
敵四人の振るう武器に貫かれることも厭わぬように二本のスティレットで更に攻撃をしようとするクレマンティーヌを見ると――番外席次の目の前のものは走馬灯のようにゆっくりと動き出した。
クレマンティーヌは四人の動きについて行ききれていない。
あれほど痛み、動かなかったはずの体はまるで羽のように軽くなる。
世界は不思議と音と色を失った。何の音もしないし、全てが白い。
間に合う。
まだ間に合う。
ネイアの腕の中からするりと抜け出し、経験したことがない程のスピードで駆け抜ける。
後ろでネイアがそれを止めるように手を伸ばしたのが視界の端に映ったが、振り返らない。
クレマンティーヌよりも警戒されているのか、全てのNPCがこちらへ一斉に照準を合わせたのを感じる。
渾身の力でクレマンティーヌを蹴り飛ばすと、迫り来る暴力を見た。
負けたくない。
絶対に負けたくない。
敗北を知りたいなんて嘘っぱちだ。
弱い者達に囲まれ、誰も自分を理解してくれない日々にうんざりしていた。
誰も自分を愛してくれない日々にうんざりしていた。
だが、結局自分より弱い者達に守られてしまった。
自分と共に対等に生きてくれる存在がずっと欲しかった。
寂しかった。
ただ、一人にしないで欲しかった。
この力を否定したかった。
自分の中に流れる血を――愛されない日々がもたらしたものを。
愛してほしかった。
その点――弱いけれど、この三人は悪くなかった。
もしこんな日々が続くなら、強い子供ももういらない。
セバスは誰かのために力を奮うことこそが神々の教えだと言っていたが、デミウルゴスは力を行使するタイミングはよく見極めろと言っていた。
今が正解だったのか解らず、もっと最初からよく守護神達の言うことに必死になって耳を傾けていればよかったと今更後悔する。
でも、全てはもう遅い。
せっかく負けたくないと思えたのに。
こんなの、酷い。
ああ、フラミー様。次はもっと早くに祝福に気付いてみせるから。
どうか弱い私を許して。
そしてあの三人を――。
番外席次は生まれて初めて正しく光へ祈りを捧げると、そっと目を閉じた。
そして――真っ暗になった。
「<
フラミーの起こした爆発はNPC達を包み、番外席次と、わずかに離れた場所にいた聖典を遠くに吹き飛ばした。
アインズが陥落させたNPC達を回収して戻ってみると、百レベルのNPC達を前にまだ誰も死んでいなかった。
「っつぅ…………フラミー様!!」
レイナースが自分を呼ぶ声が聞こえるが返事をする暇がない。届くだろうかと思いながら魔法を投げる。
「<
フラミーの魔法を極至近距離で食らい、吹き飛ばされて死に掛けた番外席次はパチリと目を覚ました。
ンフィーレアの時のように目覚めが悪いことにはならなそうだと少し安堵する。
しかしフラミーの火力で一撃で倒せるはずもないNPC達はその場で踏ん張り、耐え、すぐにフラミーに向かって動き出す。
するとアインズの姿のパンドラズ・アクターが姿を現した。
「スルシャーナ!!」「捕らえろ!!」
「<
フラミーはパンドラズ・アクターに連れさらわれるように姿を消した。
それを見るとアインズはフッと笑ってしまった。
フラミーはいつも頼まずとも魔法を使う場所を作って立ち去るのだ。
「始原の力入りだ!吹き飛ぶがいい!!」
アインズは上空に姿を現した。
「<
アインズを中心に閃光が膨れ上がり、一気にNPC達を呑み込んでいく。
陛下という悲鳴が聞こえる。聖典達が驚いているのも当然か。アインズもそれに巻き込まれているのだから。
アインズは痛い痛いと苦笑しながら、自爆まがいの魔法で倒れ行くNPCを眺めた。
すると地上に
二つはフラミーと息子のものだが、もう一つは?と見ていると――真紅の影が飛び出した。
「シャルティア!?何故来た!!」
「フラミー様の!命により!!シャルティア・ブラッドフォールン!御身の――前に!!」
シャルティアは虫の息になり尚反抗的な顔をするNPC達の武器を持つ腕を切り落とし、
「アインズ様!!」
アインズはフラミーが自分の選ぶ魔法に見当をつけていた事に笑うとその手に向かって<
「助かる!!」
シャルティアはその胸に飛び込む直前で魔法を送った。
「<
二人は一瞬抱き合うと、すっかり回復したアインズはシャルティアを
「さぁ戻れ!次が来る!」
シャルティアは信頼の目を向け、放られた力に任せてふわりとスカートを靡かせると
アインズは隙なく空を見上げると再び姿を消した。
「…………続き、出て来ませんね?」
フラミーは不可知化し、親子と手を繋いで城を眺めていた。
「流石にあれだけやったら警戒して籠城したみたいですね。残すところ十五人……。五人づつ出て来てくれたら余裕かな」
「父上、十五人がいっぺんに出て来たらどうなさるので?」
「ふーむ。それは割と痛いな?ははは」
アインズはフラミーとの共闘に仲間としての絆の様なものを感じ、自分達に色々と指導してくれた仲間達の姿を思い出す。
負ければ死ぬという戦いの中にあっても、ユグドラシル時代を思い出し、愉快な気分になっていた。
「……ではもう始原の魔法でエヌピーシー達を吹き飛ばしては……?」
「それでアイツらの装備が炭にでもなってみろ、もったいないだろう。最悪ギルド武器を破壊して消し去ってやるさ。ただその場合NPCの実験ができないのが痛いな。それに何ヶ月も瓦礫の山を漁る
「わぁ、嫌ですねぇ」
三人は苦笑を交わすと城から地上へ視線を落とした。
街は戦闘で、いや、主にアインズの起こした竜巻と爆発で既にめちゃくちゃだ。
しかしこの先ギルド拠点が空から落ちて来るのならば同じことだろう。
「……陛下方、いる……?」
番外席次の声に、アインズとフラミーは気まずい顔をしてから姿を見せた。
パンドラズ・アクターは女子と会話させたくないので不可知化のまま待機だ。
「ああ……。すまなかったな番外席次。お前達も痛むだろう」
この先の戦闘の事を思うと、これ以上聖典を回復してフラミーの魔力を消費する事は躊躇われる。
アインズから魔力を受け取れるとはいえ、その魔力が万が一底を付けば戦局は相当厳しい。
未だ底は見えたことがないが、レベル百の相手と繰り広げる戦いを前に備えすぎと言うこともないだろう。
「いえ。私はもう治してもらったから何ともないです」
番外席次は服こそ血みどろだが、もうピンピンしていて、痛い痛いと嘆くクレマンティーヌの肩を抱いていた。
レイナースとネイアもフラミーの爆風を僅かに貰い、生傷だらけだ。
聖典達は全員その鎧の硬さによって命を救われていた。
「それより、フラミー様……。ありがとうございました。いつも見守っていて下さって」
「いいえ?」
フラミーは何でもないとでも言うような声でそう言うと、番外席次は嬉しそうに笑った。それは、誰が見ても心からの真実の笑顔だとわかるような、決して本心を隠すためのものではない清々しいものだった。
「ふむ。紫黒聖典よ。お前達はここで回復を待ってから帰還するといい」
紫黒聖典は目を見合わせた。レイナースはまだフラミーの役に立てていない。
「神王陛下!まだやれます!」
「いいや、ここから先は守護者ですら足手まといの領域なんだ。番外席次はおと――んん。教育の為共に行くぞ」
なんといっても、
聞くや否や、レイナースは救いを求めるようにフラミーへ視線を送る。
「そんな……ふらみーさま、私は……」
「レイナースさん、そんな怪我じゃ行けませんよ」
クレマンティーヌは自分を支える番外席次に視線を落とした。
「番外、私はもういーよ。あんたは陛下と城に上がるんだから準備しな」
番外席次はその声にハッと我に返った。
「あっ、へ、陛下!!待って!」
「ん?怖くなったか?」
「怖くなんて――……いや、そうか……怖いんだ……。私、仰る通り気付いたから怖くなったの……。だから……ここで……その……紫黒聖典の面倒を見ようかと思います。また都市守護者が降りてくるかもしれないし」
クレマンティーヌは自分を支える番外席次を驚きの目で見た。
こいつは側にいて欲しくない奴ナンバーワンだと思うが――末妹のネイアと手を取り合うのを見ると、レイナースと視線を交わし合いため息をついた。
「はーしゃーないなぁ……。もー……。陛下、申し訳ないのですが、どうかこれを我が紫黒聖典に頂けないでしょうか」
「……何?別に良いが……番外席次、お前はどうしたい?」
「……なかまを……守り抜きたいです」
アインズはついさっき浸っていたばかりのその言葉に頬を緩めた。
「なかま、か。良いだろう。お前の仲間は紫黒聖典だったか」
「はい。我が光はここにありました」
番外席次の瞳の煌めきを見るとアインズは頷いた。
「よし、こちらへ来なさい」
番外席次がアインズとフラミーの前に跪くと、怪我を負い動くのも辛そうな紫黒聖典もその後ろに綺麗に並んで跪いた。
「フラミーさん」
フラミーは名前を呼ばれると番外席次に一歩近付き、白い杖でその両肩を軽くトン、トンと叩いて告げる。
「漆黒聖典、絶死絶命。今この時を以って貴女はその任を解かれました。そして――紫黒聖典、番外の席次を与えます。隊長は変わらずクレマンティーヌ・ハゼイア・クインティアです。きっと仲間を、守ってくださいね」
番外席次は最初から自分に仲間と、祝福を与えてくれる為にこの旅があったんだろうと確信していた。
これこそが神々の教育。
恭しく胸に手を当て、頭を下げる。
「紫黒聖典。番外席次、絶死絶命。謹んで拝命いたしました」
神々が城へ上がっていきながら姿を消すのを見届けると、番外席次はようやく立ち上がった。
「……クインティア」
「あによー」
「ありがとう」
クレマンティーヌが「うぇ」と漏らすとレイナースは軽く肘で小突いた。
「っいいいいっつぁ!!番外が本気で蹴り飛ばしたせいで痛むんだよ!!」
「あ、ごめん。そんなに痛かったのね。番外席次。ここの隊に入ったからには私が軍規ってもんを一から叩き込んであげるわ」
「ロックブルズは割とまともよね。クインティアから隊長変えた方が良いんじゃない」
「ははは。番外席次さん、クレマンティーヌ先輩だって本当はとってもちゃんとしてるんですよ!」
「……ふーん」
クレマンティーヌはぶつぶつ文句を言いながら手からガントレットを外した。
「ったくこんな可愛くない奴うちに引き取ってこれからどーすっかね」
「私は本当はネイア・バラハの話を聞きたかっただけだから、別に引き取られたかったわけじゃないわ。特にクインティアは生意気だし」
「あーー!ほんっとーーーに可愛くない!!」
外したガントレットをレイナースに叩きつけるように渡すとレイナースも痛みにウッと声を上げた。
「ったく。ほら!」
クレマンティーヌは素手を伸ばした。
「……気安く私に触ろうなんて思わないで欲しいところね」
番外席次は不愉快そうにその手を握った。
お互い不機嫌な様子の中交わされた握手にレイナースとネイアは少し笑った。
すぐに手は離され、クレマンティーヌはガントレットを着け直した。
「そんで?あんたの本当の名前はなんなのよ。いつまでも席次呼びもおかしーでしょ」
――逡巡。
愛されることなかった名前、アンティリーネ・ヘラン・フーシェを名乗ろうかと思うが――
「――私は何者でもなかったわ」
「へぇへぇ、教えるつもりもないってこってすかい」
「そうよ。だから、本当の名前は今度陛下方につけて頂くわ」
次は、愛を込めて読んでもらえる名前を。
番外席次は生まれ直したような気持ちになった
次回 #9 天空城地表
紫黒聖典!!!パワーーーーアップ!!!!
ああ四人娘かわいいよ!!