謎の気配を感じた気がして、女──番外席次・絶死絶命は中庭を注意深く睨め付けていた。
「誰かいるの……?」
しかし、返事はない。
気配を感じた方へ足を運ぼうとすると、さっきまで寝ていたであろう神官長達が小走りで通り掛かった。
「おお番外席次よ、良いところに!お前も陽光聖典の報告の場に立ち会うのだ!」
「……うるさいわね。気安く話しかけないでちょうだい。後で行くわ」
神官達は何か言いたげな顔をしたが、番外席次を置いて去っていった。
何となく気配を感じた場所に近付くも、そこには何もいない上、誰も踏んだこともないような柔らかい土と、天に向かってピンと生える若草達があるだけだった。
辺りを見渡すが、中庭にはさわさわと静かな風が渡るだけだ。
(気のせいか……)
生まれて初めての感覚に戸惑ったが、神殿内がこれ程までに騒がしいのもまた、初めてだった。
(この私がいつもと違う神殿の様子に高揚しているとでもいうの?)
自嘲するように笑うと神官長達の向かった方へ立ち去った。
草むらの隠蔽を完璧に行なったアウラは神殿内部を駆け抜けていた。
早くアンデッドの下へ行き、皆をこちらへ呼び寄せねばならない。
大した攻性防壁が張られている様子もなく、遠隔監視ができるのであれば大人数で効率悪く移動する必要もあるまい。
そしてたどり着いた、神殿の最奥。
長く広い廊下の先に、まるで世界とその先を切り離すかのように二枚の分厚く重厚な扉がぴたりとしまっていた。
アウラは鍵などがかかっていない事をさっと確認し、その向こうにたしかに死の気配を感じると、空中に向かい腕で丸を作る。
すると
隙なく辺りを見渡し、安全をもう一度確認すると闇に手を入れた。
その手を取りフラミーが出てくると、付き従うように守護者達も続々と闇を潜ってくる。
一人ハニワ顔の見たこともないNPCと、どこで合流したのかマーレも来ていた。
アインズはしばし目の前の──周りの廊下やニグレドの監視越しに見た物達に比べ異様に精巧な扉を眺めてから、アウラに声をかけた。
「──アウラよ。一時は肝が冷えたが、よくやったぞ」
アインズの称賛に頭を下げた。
「ありがとうございます。……だけど、アインズ様……。マーレと二人でやり遂げられず……わざわざ御身にお出ましいただいてしまい、申し訳ありませんでした」
「良いのだアウラ。そしてマーレ。お前達の働きは見事だった。さぁ、この中にいる者を連れて帰ろうではないか。──フラミーさん」
パンドラズ・アクターの進言により、アンデッドは可能であれば捕獲となった。
上半身より長いくらいの巻物を携えたフラミーがスッと前へ出る。
「どこからどこまでがコレに認識されるフィールドかわからないんで、中で発動させますね」
「お願いします。俺は一歩遅れて、すぐに入りますから、時間を稼いで下さい。万一中の者がワールドアイテム保持者でそれが効かなかった場合、マーレとアルベドと共に相手を抑え、一時退避します」
マーレの腕には天使のような清浄な輝きを宿す白きガントレットと、地獄の底を削り出したかのような邪悪な闇を纏うガントレット、強欲と無欲がはまっていた。
アルベドは漆黒の鎧であるヘルメス・トリスメギストゥスを装備しているが、その手に収まるのはバルディッシュではなく、玉座の間に控える時と同じように
マーレとアルベドが扉を押し開き、中へ滑り込んだフラミーがその巻物、山河社稷図を発動させた。
のどかな河の流れる風景にポツリと立ちすくむ闇が口を開く。
「何者だ。私を捕らえるこの力は一体……」
疑問を口にする相手にフラミーが返事をしようとすると、切り離されたこの空間にアインズも入ってきた。本当にすぐに現れた。
アルベドとマーレは外で待たせているらしく一人だ。
想像よりも穏やかな雰囲気にアインズは肩透かしを食らった。
「
血肉というのは恐らく経験値だろうとアインズは推測する。
「そうか。やはり召喚されたしもべか。我が名はアインズ・ウール・ゴウン。持って回った言い方は好かん。単刀直入に言う、
一息に告げ、手を差し出すが、相手はピクリとも動かずに返事をする。
「それはできない。ここを守るように言われている」
なんと説得しようかとアインズが考えていると、アインズの背後から声がした。
「──では、あなたを召喚せし小神は偉大なるアインズ様のことだと愚かな人間共に言ってはくれませんかね」
アインズの後を追って、デミウルゴス、コキュートス、シャルティア、パンドラズ・アクターがこの空間へと入ってきたところだった。
デミウルゴスの物言いはまるで、至高の存在と言葉を交わせると思うなとでも言うようだ。明らかに
なんと言っても、その額には怒りが血管として浮かび上がっているから。
シャルティアも不快感をあからさまに表情であらわし、コキュートスも白く冷たい息を吐き出している。アインズとフラミーは背中がひんやりしていくのを感じだ。
──ちなみに、パンドラズ・アクターの表情は読めない。
「断る。主人を偽る理由がない」
「交渉決裂でありんすね」
その言葉を残してシャルティアは地面が抉れ帰るほどに強く地を蹴った。真紅の鎧が赤く残像を残すほどのスピードで
それを皮切りにデミウルゴスとコキュートスも目の前のものに襲いかかった。
一人パンドラズ・アクターだけは相手の姿をコピーし変身を始めていた。
他方、アインズとフラミーは何もしなかった。
九十レベルの
アインズは従属神が無力化されていく様子をフラミーと共に眺めながら口を開いた。
「──フラミーさん、周りの建築に比べて、あの扉は精巧すぎた気がしませんか?」
ナザリックが第十階層、
「思いました。人の手で作れる限界を超えたような細工でしたよね……。あれって、
濁されたフラミーの言葉にアインズはうなずき、ハッキリと言語化した。
「恐らくあそこは、さっきのあの一部屋しか維持できないような状況に陥ったギルドホームでしょう。最後の従属神なんて呼ばれる
それを聞くとフラミーは瞳を輝かせた。
「ギルド武器!ぜひ破壊しましょう!!前に建築物は壊したくないって言いましたけど、アインズさん、壊してくださいね!」
「それが……ちょっと正直悩み所です」
「なんでですか?*ギルド武器を破壊できたら強くなるって言うじゃないですか。ワールドチャンピオンをはるかに凌ぐって。アインズさんが破壊して強くなるのがベストですよ!」
「それ、特定の条件を満たした人達だけだって言うじゃないですか。それがどんな条件か解ってない以上、俺がへたに手を出すのはもったいないと思うんですよね」
「でも、壊してみないと分からないからって大切にしまっておいたら宝の持ち腐れになっちゃいません?」
「うーん、俺はフラミーさんが壊すっていう手もあると思うんです」
フラミーが数度瞬いていると、瀕死の状態の
「アインズ様、フラミー様。片付きんした!」
「オ待タセ致シマシタ」
キラキラした瞳だった。
「──あ、二人ともお疲れ様でした!」
「よくやったぞ。では、撤収の準備をしよう」
撤収準備を進めながら、アインズはシャルティアとコキュートスの初めての手柄を大いに褒めた。
この後のプランを話し合っていたデミウルゴスと
*9 : Arcadia感想返し[2877]