「アインズ様は拠点内に入られたそうよ。」
「そうですか。我々は引き続き待機でしょうか?」
アルベドはNPC達の装備を剥ぎ取って丁寧に並べ、デミウルゴスは折角なので皮を剥いで自分の
しばらく思い思いに他所のNPC達をいたぶっていると、意識を落としていた者達がにわかに目覚め始めた。
「…っぐぅ……き、君たちは、スルシャーナにどうやって復活を受け入れさせたんですか…。」
喋った着流し姿の青年の目には途端に一閃傷が走った。
「――ッンァ!!」
「アインズ様はスルシャーナなどと言う下等なプレイヤーではありません。次に間違えたら…殺せませんね。全く困ったものです。」
デミウルゴスの爪は長く伸びていて、痛みに悶える様子を見もせずに手の血を拭き取った。
「え!?す、するしゃーなの配下の者達じゃ…ない…?」
「キイチ!早く戻らないと!!<
魔法を放とうとしたNPCは即座にアウラの鞭に叩かれ、魔法は発動しなかった。
「ちょっと、あなた達大人しくしててよ。死なれたら困るんだから。」
デミウルゴスが目を傷つけた者は性懲りも無く再び口を開く。
「…エヌピーシーがギルドホームに残ってプレイヤーだけを行かせるなんて良いんですか…。」
コキュートスは最後のNPCを縛り上げると応えた。
「我ラハ御方ノ劔ダ。イツデモ出ル準備ハアル。」
すると途端にNPC達は一斉に喋り出した。
「そう…そうでしょうね、僕たちもそうでした。」
「ここはそのアインズ様しかいないの?」
「他のマスター達はどこへ行ったんだろうね?」
「いつかアインズ様もいなくなるよ。」
アルベドとデミウルゴスは喧しいNPC達を見るとため息をついた。
「君たち、私達がそんな言葉で動かされるほど弱いと思っているんですか?」
「捨てられたエヌピーシーが見苦しいわね。私達の創造主は去るどころか万年先までもうご予定を立ててらっしゃるわよ。」
しかし――アウラとセバスは不安そうな視線を送り合っていた。
「ね、ねぇ…。アルベド…大丈夫だよね…?」
「大丈夫よ。アウラ。私達の主人を信じなさい。」
NPC達はその様子を見るとさらにまくし立てた。
「プレイヤーは遅かれ早かれ皆エヌピーシーを残して死にます。」
「この五百年世界を見てきて、生き残っているのはたった一人。」
「でもその一人も海上都市の最下層で眠って、もう二百年動きやしない。」
「君達もすぐに取り残される。」
「マスター達は誰も復活を受け入れてくれないもん。」
「アインズ様だって死んだら、きっと二度と起きてはくれませんよ。」
途端に全守護者の脳裏にはひとつの言葉が過った。
(万一私が死んだ時に私を復活させろ。しかし、私は始原の魔法に身を染めユグドラシルの法則を超えた。最悪ユグドラシルの力が届かない可能性もある。)
「あーもー!そんじょそこらのプレイヤーに生み出されたエヌピーシーなんかにアインズ様の事がわかる訳がないんだから黙ってよ!!」
「アウラ、やめたまえ。捨てられたエヌピーシーに構うことはないですよ。」
「デ、デミウルゴスさん、ぼ、ぼく達、本当にここにいて良いんでしょうか…?」
アウラとマーレが震える瞳でデミウルゴスを見上げていると、アルベドは自分に言い聞かせるように告げる。
「いいのよ。御身はご自身の事を誰よりも強いとおっしゃったわ。そして自分こそが主人だと。」
「アルベド…もし御身に何かが起こりんしたら…?」
「何カアル筈ガナイノダ。我ラノ神ニ。」
「フラミー様もパンドラズ・アクター様もご一緒ですし…ね。」
セバスの呟きには自嘲の色があった。
皆がそれぞれ胸の内に隠してきた何かが見え隠れするようだった。
そして、常闇との戦いの傷を隠すように、守護者達は全員が支配者を案じ目を伏せ――
「<
偽りのナザリックは吹き飛んだ。
天使によって発動されたその魔法は、使用者と受ける者のカルマ値でダメージを大きく左右した。
マイナスに振り切れていないコキュートス、セバス、アウラ、マーレは何とか立っていたが――知恵者二名と吸血鬼は地に伏せた。
「ナンダト!!マーレ!!回復ヲ!!」
「は、はい!!」
マーレは慌てて瀕死のアルベドに駆け寄った。
「や…やられたわ…!私達はゴミ以下よ……!!」
「い、今治します!!<
「っまーれ!!我々より、死に損ないのエヌピーシーを!早く!!」
マーレはデミウルゴスの叫びに発動しかけた魔法を慌ててNPCに向けて放った。
しかし、起き上がるものは居なかった。
それどころか死体は次々とその場から消え始める。
割れた眼鏡を落とすとデミウルゴスは自分の血で滑りながら起き上がり叫んだ。
「ッッマズイ!!!十五人が御方々の下で復活する!!!」
「い、行きなさい!!早く!!アインズ様の下へ!!魔力を無駄にしないで!!」
「妾達は何とでもなりんす!!今動ける者がいきなんし!!」
血濡れのシャルティアが先程行われた市街戦と同じ所を目掛けて
「ペストーニャ…偽りのナザリックへ…。ルプスレギナと今すぐ…。」
アルベドは
アインズ達は罠を破壊しながら進み、通路の終わりにたどり着いた。
唐突に終わった通路の先は外だった。城の下に円形状に穴が開いているようだ。
通路の上にも池があるようでゴウゴウと遥か遠い地表に向かって水が吐き出されて行くのが見えた。
「わぁ!あそこも虹が出てますよ!」
「フラミー様。この真下には転移トラップがありましたのでお気をつけ下さい。」
「あ、そっか。だからわざわざこの道通ってきたんですもんね。」
納得しながらも尚覗き込む姿にアインズは手を繋いではいるが滑って落ちやしないかハラハラした。
「フラミーさん、怖いからこっち来てください。」
「はぁい。」
パンドラズ・アクターと手を繋いだままのフラミーがぴたりとひっ付くと、誰かに呼ばれる感覚にこめかみに触れた。
「私だ。どうかしたか?」
『アインズ様!!ご無事で!!アルベドでございます!!捕らえていたエヌピーシー達が自爆し、全員の遺体が消えました!!今動ける守護者が城についたところなので、御身はお待ち下さい!!』
アインズの背をたらりと冷や汗が流れた。
「…何故そんなことを許した。馬鹿者達が。魔法くらいキャンセルできるだろう。それとも拘束が甘くて自ら首を落としたのか?」
『お叱りは後ほど如何様にでも!兎に角お待ち下さい!今はどちらに?』
「やれやれ…左手の池の中の通路を進み切ったところだ。まぁ最悪私が即座にギルド武器を破壊するからあまり心配するな。」
アインズは飛んでくる水滴を払うように自分の頭をわしわし触った。
その横でパンドラズ・アクターとフラミーは目を見合わせていた。
『左手の池の中にある通路よ。向かわせて。』――アルベドは近くの誰かと情報を共有した――『エヌピーシーの復活位置についても分かりましたし、私もすぐに向かいます!!』
「何を言っているんだ。これからは特別な注意事項が増えたから、それを聞いていない者の外出は控えさせろ。それから――」
水門を叩き壊す激しい衝撃が伝わってくるとアインズはため息をついた。
「…折り返す。」
不可知化を解き腰に手を当て待っていると、衝撃を起こした者達は現れた。
「「「「アインズ様!!!!」」」」
「お前達なぁ。NPCは逃すは、勝手に出て来るは……本当に私の言うことを聞く気があるのか。」
コキュートス、双子、セバスは駆け寄るとすぐに跪いた。
「申シ訳アリマセンデシタ。御身ガモシ弑サレルヨウナ事ガ有レバト思ウト……余リニモ恐ロシク……。」
「あ、あの、アインズ様が、し、心配で…その…。」
「アインズ様!あたし達も連れて行ってください!!」
「どうか、どうか我々の力もお使いください。」
守護者達は妙に必死な様子だった。
「…ギルド武器を抑えている私が殺される訳がないだろう。お前達の身の方がよほど危険なんだ。」
すると更に人影が見え、フラミーとパンドラズ・アクターも不可知化を解いた。
「「「アインズ様!!!」」」
知恵者二名とシャルティアだった。
「ははは、これで結局皆来ましたね。」
フラミーが笑うとアインズはすっかり脱力した。
「アルベド…お前
アインズは二年も経てば守護者も我が強くなるものかと――、この先離反者が出たりするのかなぁとナイーブになる。きちんと絶対支配者として君臨しなければなるまい。
「聞いておりましたが――」
アルベドが弁解しようとした時、その気配は現れた。
「来マス!!」
コキュートスの警戒したような声が響くと――
「スルシャーナ!!」
偽りのナザリック送りにした十五人フルメンバーが現れた。
あれだけ派手な事をしたのだから、来ない方がおかしいだろうとアインズはどうしようもない子供達をジトッと睨んだ。
しかし相手が十五人いたとしても、ナザリック陣営も十人いるのだ。
無傷という訳にはいかないだろうが、負けはしないはずだ。
外で警棒を振るってきた者がアインズとフラミーを交互に見る。
アインズはすぐに視線に気付きフラミーを抱き寄せた。
「気をつけて下さい。何かあればいつでも不可知化を。」
「…その態度…そっちの人間もエヌピーシーですか。」
何故そうなるとアインズは思ったが、むしろNPCだと思われている方が警戒度は低い気がする。
「スルシャーナの持つ魔法がまずいです。スルシャーナを警戒して、あとは隙を突きましょう。」
「…あなた達、さっきの話を何も聞いていなかったの…?」
アルベドが心底不思議そうな声を上げる。
アインズは何の話だろうと思ったが、NPC達が骨の身のパンドラズ・アクターに気を取られ始めた事に感謝し無詠唱化したバフを掛けていた。
そして、フラミーはアインズを押すように離れた。
「アインズさん。」
アインズは、自分が持たないバフを掛け直された事に気が付くと、NPC達にニコリと笑いかけた。
「じゃぁ、お前達はデータに戻る時間だ。」
「でーたに戻る?」
黒い瞳には小さな炎が宿ったようだった。
NPCの疑問の呟きを無視し、アインズは詠唱を始める。
「<
「やらせないで下さい!!」「魔法がくるぞ!!」
NPC達が武器を振るうと、跪いていた守護者達が即座にそれを止め、アインズは余裕を持って魔法を送り出した。
「――<
守護者達を犠牲にしない程度の力で雷が放たれると、雷属性に耐性を持っているような者達はすぐ様雷の中を飛び出し、自分たちを抑える守護者達を落とそうと斬りかかった。
「フラミーさん頼みます!俺は書き換えをします!!」
「次が来る!!プレイヤーの魔法をキャンセルさせろ!!」
そう言ったNPC達はフラミーを指し示していた。なぜかフラミーをプレイヤーだと決め付けているのだ。
「シャルティア !弱った者を捕縛して連れてこい!!」
腕輪も始原の力も使わない位階魔法では流石に百レベル全員を一撃で戦闘不能にはできない。
とは言え、守護者を下がらせることもできない。
この距離で、尚且つ狭い通路を出られないとあっては前衛を務める者の存在は必須だ。
周りで乱戦が始まる。
シャルティアが意識を失った数人を捕獲魔法で捕らえては運び、アインズは腕輪を輝かせた。
「<
守護者とNPCが押し合い斬り合う中、一度に数人の記憶を開き、急ぎめくっていく。
アインズは記憶を確認していくと、拠点を出た後すぐに拠点内に復活する記憶を見た。
装備は違うが確かにこのNPC達は自分と戦ったはずの者達だがその記憶がない。
「こ、これは…。NPCは記憶までも拠点に依存していると言うのか!?」
アインズはこれまで唯の一度もナザリックに攻撃を受けたことは無かった。
何かどうしようもない事が起きれば、最悪ナザリックを放棄し、フラミーと守護者達を連れて逃げれば良いと思っていた。
ナザリックはNPCの命と記憶そのものだと知った今、ナザリックの重要度は格段に上がる。
NPC達のことは調べるつもりではいたが、まさかここまで重要且つ思いもしない情報が手に入るとは――。
ここはアイテムもさる事ながら、情報の宝箱だ。
決してギルド武器の破壊で簡単に失っていい場所ではない。
アインズの中からギルド武器の破壊で拠点と敵NPCを消し去る選択肢は完全になくなった。
しかし数は減らさなければいけない。
最終的には数人を残して、あとは実験体にすることを決めた。
NPCの生まれの根幹に触れて行くと――NPCは光の粒となって消えた。
装備がバラバラと散らばって行く。
「なんなんだ!?」「気をとられないで下さい!!」「っちぃ!」
「<
フラミーは、超位魔法を除いて、炎系の対個人攻撃魔法としては最高位の魔法を放った。
守護者の陰からコソコソと一人づつ着実に狙い撃ちしていく。
火力のないフラミーでは全体攻撃を行ったとして、NPC達の意識を落とすのは難しい。
いや、腕輪や始原の力を使わないアインズが百レベルのNPCを一撃で陥落することができないのだから当然だろう。
数発同じ魔法を撃つと、激しい魔力の消耗に、フラミーはふらつきを感じた。まるで貧血を起こしたような感覚だ。
アインズの尋常ならざる魔力量は正しくワールドチャンピオンを超えると言わしめるだけの力だった。
早く魔力を受け取らねばと思いながら、役立たずになったフラミーは混戦地帯から後ずさるように離れた。
アインズは消去に忙しい為、シャルティアの手が空くのを待とうと一人通路の終わりの絶壁へ下がって行くと――不意に手を捕まれた。
「え?」
「……… 捕まえた。復活のプレイヤー。」
フラミーはまずいと視線を送るが、アインズは守護者達に守られながら記憶を開いていた。
「ッアイ――!」
――
――
少女が本の開いていたページを次々と指差すと機械的な音声が響き、そのまま引きずり込まれるように奈落に落ち――転移した。
ヒロインは捕まらなければいけない(戒め
次回 #11天空城一室