眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#11 天空城一室

 アインズは続々とNPC達の消去を済ませると、最後の一人になったNPCに<現断(リアリティスラッシュ)>を送った。

 NPCを上半身と下半身に二分すると、拠点の壁まで傷付けて魔法は消えた。

「さて、最後の一人だ。ゆっくり見させてもらうか。」

 NPCは震える手でこめかみに手を当てた。

「…テスカ…テスカ…プレイヤーはもう一人です…。」

 アインズはもうどうせ侵入してる事はバレているので無視して目の前の江戸時代の小姓のような姿のNPCの記憶を開く。

 これまで戦いの最中、じっくり見られなかった為、取り急ぎ攻略に必要な情報を探す。

 一つは宝物殿の在り処、一つは世界級(ワールド)アイテムの有無、一つは残りの十四人のNPC達の能力。

「ふむ。お前の名はキイチか。私達との戦いはお前にはこんな風に見えて――何!?」

 アインズはキイチを放り出すように立ち上がり振り返った。

「フラミーさん!?」

「アインズ様、如何なさいましたか?」

「フラミー様ガ何カ。」

 落ちている装備を拾う守護者達は首を傾げた。

「フラミーさん!!出てきて下さい!!パンドラズ・アクター!!」

 辺りはしんと静まり返り、アインズは慌ててキイチの記憶を開き直した。

 

+

 

 キイチは真っ暗な世界の中を浮かんでいた。

 どれ程の時間こうしていたのか、何故こんなところにいるのか。何も分からない。

 不意に目の前が輝くと、キイチは成す術も無く輝きに取り込まれた。

 

「…ここは…。」

「キイチ!起きたか!」

「…テスカ…僕達は――あっ!!スルシャーナの捕獲に早く出なくちゃ!!」

 キイチは慌てて腰の武器に手を伸ばし――そこには何も無かった。いや、それどころか裸だった。

「ま、まさか…僕達は…。」

「そうだ。全員の死亡が確認できたから、急いで蘇生したんだ。装備の回収は叶ってない。」

「全員!?十人で出たはずです!!」

 テスカは頷くと、本を大切そうに抱く美しい少女を手招いた。

「イツァムナー…説明してやれ…。」

「………わかった。キイチ、あなた達は全員無力化させられて、連れさらわれた。スルシャーナの力は以前の比じゃない。」

「そ、そんな…スルシャーナに一体何があったって言うんですか…。」

「………相手はスルシャーナだけじゃなかった。信徒が来ていた。それから知らない者が一人。」

「知らない者ですか…?前の戦争で出なかったエヌピーシーがいたのでしょうか…。」

 そんな者が?とキイチは考えていると、当然テスカとイツァムナーも同じ事を考えているようだった。

 

「その者は不可知化していた。この百年目に来たプレイヤーだったんだ。」

 テスカはイツァムナーの監視ごしに見た紫色の存在を思い出す。

「………そしてスルシャーナを起こしたのは、多分そのプレイヤー。………それなら何故スルシャーナが今この時突然復活を受け入れたのかも、納得できる。」

 キイチはイツァムナーの推測にごくりと唾を飲むと、自分の上に掛かっていた布を放り投げるように剥いだ。

「そのプレイヤーを捕まえてきます!マスター達を起こさせましょう!」

「手の内を知られているが…復活した全員で正面から当たってくれ。陽動だ。他の者は守護定位置から動かさないようにしている。捕獲にはイツァムナーが行く。」

「………無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)を使う。………不可知化して近付いて連れ去る。」

 すると三人は激しい揺れに襲われた。何かを叩きつけるように規則的に振動が発生する。

 

「………今のは?」

「わ、わからない!!」

 テスカは慌てて拠点管理システムを開いた。

 小さな監視ウインドウが無数に開くと、テスカは一つのウインドウを引き寄せる。

「ククルカンの深池だ。ずいぶんたくさんいるな…。水門を破壊されている…これがこの百年目のプレイヤーのエヌピーシー達か…。」

「………見て。エヌピーシー達が向かう先、いつの間にか罠が全滅。………出た。スルシャーナ、プレイヤー、もう一人…この人間はプレイヤー?それともエヌピーシー?」

 イツァムナーが訝しむようにモニターに視線を落とす。

「――とにかく、復活のプレイヤーを手に入れよう。」

 三人は頷き合った。

 

+

 

「やられた!クソが!!」

 アインズはキイチを蹴り上げた。

「ッグゥ…。」

 これ以上いたぶればこのNPCは死ぬ。

「あ、アインズ様…一体何が。フラミー様は不可知化されてるのでは…?」

 震えるアルベドの頭に手をポンと置くとアインズはこめかみに手を当てた。

 フラミーへの線を探すが――見つからない。アインズは激しく動揺する度に鎮静された。

「……落ち着け。落ち着くんだ。あれだけ言ったパンドラズ・アクターが側を離れるはずがない…。」

 パンドラズ・アクターへの線を探す。

「頼む。頼む。出てくれ…出てくれパンドラズ・アクター…。」

 守護者達は何が起きたのか察したのか顔を青くしていた。

「頼む……お前は私の最高傑作なんだ………。」

 すると線が確かに繋がった感覚にアインズは叫んだ。

「パンドラズ・アクター!!フラミーさんといるな!?」

『父上!ご安心下さい!フラミー様とおりますし、当然ご無事です。ただ、フラミー様は装備を奪われ、今は<睡眠(スリープ)>に抵抗できず眠らされております。私は今は相手を刺激しないよう不可知化状態でお側におります!』

「そ、装備で済んだか…。良くやった。すぐに行く!そこはどこだ!」

 安堵に腰が抜け掛け、よろけるように壁に背をついた。

『分かりません。ただ――清――な――部屋――――。』

「パンドラ!?おい!パンドラズ・アクター!!」

 ザラザラと音声が乱れると通信は切れた。

 アインズは激しい動悸の中、鎮静されると震える手をこめかみから離した。

 果たしてギルド武器をこのまま破壊せずにいることが正解なのかわからなくなっていた。

 

「我々のせいだ…!我々の……!」

 自分を責めるデミウルゴスの肩に手を置くとアインズは口を開いた。

「フラミーさんは大丈夫だ…。――お前達はここに来て二年が経ったが…私やフラミーさんをどう思う…。変わらず忠誠を誓ってくれるか…。」

 全員を代表するようにアルベドが一歩前に出た。

「当然でございます!こうして御身のご命令を無視して来てはしまいましたが、私達は御身に全てを捧げて居ります!!御身の大切な――」

 御身御身と言う姿にアインズは背筋が凍っていく。

「アルベド!!私だけでは無い!フラミーさんはどうなんだ!!」

 叫ぶように発せられた言葉に守護者達はビクリと怯えたように身動ぎした。

「失礼致しました!当然我らの命を賭してでもお守り致します!我々は、我々は最早創造主に向けるものと同じだけの物をフラミー様へ――そしてそれを超える物をアインズ様へ向けております!!」

  アインズは瞳を揺らし、全員の顔をゆっくり確認していく。

 全員がその通りだと頷く中、この二年子供達に捧げた愛情はひとつも間違っていなかったと確信する。

 アインズは手を握り締めた。

「私は…お前達守護者を心から信頼するぞ…。どうかそれにお前達も応えてくれ…。」

 足元でキイチは涙を流していた。

「っますたぁ…ますたぁ……会いたい……会いたいよぉ……。」

「――…貴様は哀れに思うが、私は他所のNPCを命ある存在だと思うほど甘くは無い。」

 

 アインズは目を閉じ大きく息を吸い、長く吐き出した。

 握り締められた手には血が滲み、ポタリポタリと床に垂れていく。

「コキュートス。新たな敵影がないかあたりを警戒しろ。」

「ハ。」

「シャルティア。キイチを完全に捕縛しろ。伝言(メッセージ)ひとつ送らせるな。」

「畏まりんした。」

「デミウルゴス。今から私はこれの記憶を開き城内のマップを説明する。お前はそれを書き起こせ。」

「は。お任せください。」

「マーレ。私がこれの記憶を開いている間、死なぬよう注意しておけ。必要時は回復と攻撃を許す。」

「は、はい!が、頑張ります!」

「アウラ。地図が出来次第お前はそれを確認し、罠の解除に当たるんだ。」

「わかりました!」

「セバス。全てが済んだキイチを氷結牢獄に連れ帰り、今度こそ絶対に死なせず、逃さず、閉じ込めろ。」

「承知いたしました。」

「アルベド。お前はセバスと共にナザリックへ戻り我々の家を守れ。これは最も大切な命令だ。」

「…承りました。」

 アルベドは僅かに躊躇ったが頭を下げた。

「行動を開始する前に――これより重要事項を伝達する。」

 全員がアインズに真剣な眼差しを向けると、アインズはフラミーが今パンドラズ・アクターと共にいる事、記憶操作(コントロールアムネジア)によって守護者は消去できる事、ナザリックの重要性を語った。

 

「以上を踏まえて、私は今敢えてギルド武器は破壊しない。パンドラズ・アクターを信じてフラミーさんを…任せようと思う…。NPCを着実に減らし、最後は数人を連れ帰りお前達を守る糧とする。」

 フラミーとの間に繋がる絆をアインズは心の中で握りしめ、信頼する息子にその命を託す。

「アインズ様…我々が不甲斐ないばかりに…いつも…。」

 アルベドの嘆きに皆が肩を落とした。

「そうじゃ無い。お前達は私達に居るだけでいいと言うが、私も――いや、私達もお前達を、ただ側で共に暮らしてくれれば良いと思うほどに愛しているんだ。だから…守りたいんだよ。」

 全員の目が驚きと喜びに震えるとアインズは宣誓するように軽く手を挙げた。

「今後、お前達を信じないという理由で置いていくことは無い。代わりに、絶対に消されるな。そして今度こそ勝利条件を満たす。行動を開始するぞ。鏖殺だ。」

 守護者の瞳には狂信的な色が灯った。

 

+

 

 フラミーは目を覚ますとキョロキョロと辺りの様子を伺った。

 誰もいない部屋の中、清潔なベッドの上から起き上がると自分が下着を残して他に何も着ていないと言うことに気が付く。

 自分の身に何が起きたのかと想像すると背を震わせ、癖のように首に触れた。

「…ない…思い出(・・・)も…光輪の善神(アフラマズダー)も…。」

 世界級(ワールド)アイテムを持たずに敵のギルド拠点に――フラミーは途端に自分が無力な存在に思えた。

 慌てて無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)に手を入れ、紺色のローブを着こむと伝言(メッセージ)を送ろうとこめかみに触れた。

「アインズさん…アインズさん……。」

 フラミーは震える手で繋がりを探すが先は見つからず、喉がカラカラに乾いていく。

 するとノックが響き、フラミーは急ぎ何でもいいからと杖を引き抜くと、無意味だとわかってはいるがベッドの影に潜んだ。

 

 扉はすぐに許可なく開かれ、自分を引きずり落とした本を抱える少女、黒髪黒目のスーツの男、こちらを睨みつける美しい天使、二足歩行の猫が二匹、無遠慮に部屋に入って来た。

 五人の百レベルNPCから逃れる術を必死に考えていると、本を抱える少女が口を開いた。

「………プレイヤー、目覚めはどう。」

 ベッドの陰から様子を見ていると、スーツが続けた。

「もう一人プレイヤーがいたとキイチから連絡があった。君が復活のプレイヤーか?それともあっちが復活のプレイヤーか?」

 フラミーは攻撃してくる様子が無いため、おずおずとベッドの陰から立ち上がると頷いた。

「あの…。私が一応復活の神と呼ばれているフラミーです…。」

 五人は顔を見合わせ頷くと、猫達はいそいそとフラミーの杖を取り出した。

「フラミー様!」「僕たちのマスターを」

「「生き返らせて下さい!」」

 二匹は声を揃えながらベッドの前までトタトタ走ってくると、膝をついて杖を差し出した。

「あの、生き返らせたら他の装備も返してくれます?」

「はい!お返しします!」「もちろんお返しします!」

 フラミーはほっと息をついて猫達に手を伸ばすと、猫達は目にも留まらぬ速さでピッと杖に触れられないように持ち上げた。

「確実にお約束下さい!」「お誓い下さい!」

「良いですよ。誓います。それで、マスターさんはどこに?」

 不法侵入者に対していると言うのに、想像より友好的な雰囲気だ。

 フラミーは安堵すると猫から視線をあげた。

「………フラミー様。マスターは固有名詞じゃない。私達のプレイヤー。」

「…は…八欲王…。」

「そんな名前で呼ばないで。私のマスターはそんな名前じゃないわ。」

 戦士職に見える天使にギロリと睨まれるとフラミーは少し背を震わせた。

「サナ、やめろ。復活が魔法ではなくスキルの場合無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)で使用はできないんだから友好的にしろ。」

「解ってるわよ。でも…不敬だわ…。」

 

「………大丈夫。断るなら魅了を使う。」

 

 フラミーは抵抗するアイテムがないかと無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)の中身を思い浮かべた。




次回 #13 天空城霊廟

(∵)…まだ大丈夫ですね。

にゃんちゃんかわいいね♡

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