その日ピッキーは新人が来ると聞いて戦々恐々としていた。
外部の者とは第六階層で共に畑の世話をしているが、今日からここで一緒に働くのは至高の支配者と主人に楯突いた事があり、ずっと氷結牢獄に入れられていた者だ。
何故そんな暴力的、かつナザリックに反抗的な者がこの神聖なる第九階層に踏み入れることを許されるのだろうか。
ピッキーは気を重くしながらお気に入りのグラスが破壊されない様、箱に丁寧にしまっていく。
「このBARの静けさもこれ限りなんでしょうか…。」
まるで居抜きの店舗のようになったお気に入りのその場所を眺めると、ピッキーは頭部の赤いプルプルしたところから赤い液体を僅かに垂らした。
すると扉に嵌っているステンドグラスに人影が見え、カウンターから覗き込むように姿勢を低くした。
ガランガランと来客を知らせる鐘が鳴るとスーツ姿の青年が数歩踏み込んだ。
「失礼致します!本日付けでこちらに配属されたテスカと申します!!エリュエンティウではエヌピーシー統括として働いて参りました!!一日もはやく、ナザリックの一員としてこの地に貢献できるように頑張りますので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!!」
まともそうな雰囲気に安堵し顔を上げると、テスカの後ろからよろける支配者と、それを支える主人が入ってきた。
「…っう…!か、会社に…会社に行かないと…!」
「アインズさん大丈夫ですか!?私達は年中出勤状態ですよ!」
「あぁ…なんてブラックなんだ…。俺はフラミーさんから最初に社長さんだと言われたのに…。ホワイト企業を目指しているのに…!」
「はは、そうでしたね。アインズさんは社長さんなのねん!」
よく分からない言葉を話しながら苦しむ支配者を二人は呆然と眺めた。
「――はっ、アインズ様何かお出ししますのでお掛け下さい!」
ピッキーは我に帰ると慌ててカウンターから出て、小さなBARにたった二つしかない四人席を進めた。
四人席の横にあるはめ殺しの窓はやはりステンドグラスで、薄暗くしっとりとした雰囲気のBARに七色の影を落としている。
「お前たち…休めるときは休むんだぞ。ピッキー、お前はちゃんと寝ているだろうな。」
「はい。疲労無効アイテムを持ちませんので恐れながら夜は寝ております。」
「そうか。やはり疲労無効は悪習だな。えらいぞ、ピッキー。」
「恐れ入ります!」
ピッキーの一日は日の出前に起床するところから始まる。
料理長と共に朝食の支度をし、それをメイド達に提供し、支配者達の朝食をセバスに託す。
メイド達が立ち去ると片付け、すぐ様昼食の支度を初める。
昼食が終わると再び片付けを行い、畑や食材になるものの世話を行い、晩餐を用意し、提供が始まると途中で後を料理長に任せBARへ来る。
ちらほらと客が来たのち、丑三つ時にBARを締めて三十分睡眠をとり――朝食の用意だ。
「んん。話を遮って悪かったな、テスカ。これは副料理長のピッキーだ。ここのルールをよく聞くんだぞ。」
「はい!ピッキー様、よろしくお願い致します。」
腰から綺麗に頭を下げるスーツ姿を見るとフラミーもウッと胸を押さえた。
「……わ、私も…私も出社しないと…。そう言えば納期が…。」
「フラミーさん!納期があったとしても多分もう過ぎてますよ!」
「アインズさん…クライアントが…クライアントが…。」
今度はフラミーがトリップを始め、副料理長と元統括は目を見合わせた。
とにかく早くなにかお出ししなければ――とピッキーは準備を始めかけたが、支配者達に中途半端なグラスで飲み物を出すこともできず、テスカと協力して仕舞い込んだグラスを取り出した。
「お待たせ致しました。こちらはエ・ランテル市をイメージしたカクテルで、E-Rantelございます。」
逆三角形のカクテルグラスには一号川、二号川、三号川らしき円が上手に表現された液体が入り、真ん中にチョコレートできたザイトルクワエがちょこりと乗っかっていた。
「そしてこちらはバハルス州をイメージしたEmpireでございます。」
細長いコリンズグラスに肌色のサワーが入っていて、申し訳程度にミントの葉のようなものが乗せられている。
「…随分街のイメージが偏っているな?これはどちらかというとミノタウロスの王国のような…。」
「私エ・ランテルが良いです!」
二人はそれぞれグラスを手に取るとグラスをぶつけず軽く上げ、「お疲れ様でーす。」と乾杯した。
その後テスカが働くのを眺めながら、幾度となくアインズは鎮静された。
彼はどこか、何故、妙に社畜じみていた。
「おい、テスカ。ジャケットは脱ぎなさい。その格好は俺に効く。」
「効く…?畏まりました。」
酔い始めているフラミーがクスクス笑うと、カランカランと更なる来客を知らせる鐘の音がした。
「おや?これはアインズ様。フラミー様。」
「何。御方々ガイラッシャルノカ。」
デミウルゴスとコキュートスは嬉しそうに足を踏み入れると、ぴたりと止まった。
「――オ前ハココデ働キハジメタノカ。」
「御方々の口に入る物に携わるとはね。」
テスカはカウンターの中からぺこりと頭を下げた。
「は!わからないことばかりですが、初心を忘れずがんばりますので、ご指導のほど、よろしくお願い致します。」
アインズとフラミーは胸を押さえた。
「オ前ハ良イ戦士ダッタ。今度手合ワセヲシヨウ。一郎二郎モ喜ブ。」
「一部のスキルと技術を失いましたが、是非よろしくお願い致します。」
コキュートスはプシューと氷の蒸気を吐き出しウムと応え、アインズへ向いた。
「宜シケレバ、アインズ様モ又モモン様ノ技術向上ノ為ニモゴ参加下サイ。」
「良いのか。では私もその時には誘ってくれ。」
守護者二名はその後座りもせずにアインズに何か言いたげな視線を送った。
「…んん。まぁ座りなさい。お前達はよく来るのか?」
迷いなくアインズの隣にコキュートスが座ると、デミウルゴスもフラミーの隣に座った。
「はい。あまり仕事以外で階層を離れるのも問題かとは思っているのですが、食事を義務付けられておりますので。時たま時間が合うとこうして訪れております。」
「そうか。これからはたまにではなく、週に一度くらいは飲みに来なさい。強制ではないが、気に入っている者を誘ってどんどんここを使うんだ。使わなければ何のために作ったのかもわからん。他の者にも通達しておけ。」
「社長さん、ホワイト化計画ですね!」
「そうですよ、副社長。俺たちも来ましょうね。」
フラミーは正面に座るアインズへ嬉しそうにうんうん頷いてみせた。
デミウルゴスは少し唸ると隣のフラミーを見た。
「気に入っている者…。では、フラミー様、良ければ以前お話ししましたお弁当のお礼にこちらにご一緒頂けないでしょうか。」
「あぁ!是非お願いします。」
親子飲みと喜ぶフラミーを見ながらアインズは少し複雑な気持ちになる。
この悪魔も早く想いを伝えてしまえばいいのにと思う気持ちと、このスマートさを目の当たりにしたフラミーに比較されては辛いという気持ちがぶつかる。
自分の無様な最重要課題の日を思い出すと頭を抱えたくなる。穴があったら入りたい。
しかし、少なくとも悪魔と添いたいからもうお終いにしましょうと言われる気はしない。
フラミーのデミウルゴスを男として見ていない感は尋常じゃないし、そんなに薄っぺらい日々を過ごしては――
「デミウルゴスさんのお目目って本当に綺麗。もっとちゃんとよく見せてください。」
――いない。多分。
デミウルゴスは相変わらず照れくさそうにしていた。
「恐れ入ります。」
メガネを外した悪魔がフラミーを覗き込むようにすると、フラミーも悪魔を見上げ瞳を覗き込んだ。
絵になる二人に、ストレートに不愉快な気分になる。
誰もいなければそのままキスしてしまうのではないかと思う。
やめさせようと手を挙げかけると、フラミーはその瞳を覗きながら、その瞳の向こうに違う人を見た。
「昔ウルベルトさんもね、フラミーのこと気に入ってるから、二人で飲みに行こうって言ってくれたことがあったんですよね。」
「そうでございましたか。ウルベルト様は如何でしたか?」
アインズもそんな話は聞いた事がなかった。
コキュートスから流れる冷気を片方の肩にわずかに感じながらどうだったんだろうと耳を傾ける。
村瀬に会ってみたかったと、今はいない友人を羨む。
フラミーはデミウルゴスの瞳を覗くのをやめると首を振り、デミウルゴスは眼鏡を掛けなおした。
「私お酒ダメだったから、断っちゃった。こんな事なら会ってみたら良かったなぁ…。」
フラミーは懐かしいとグラスに視線を落とした。
ステンドグラスから落ちる光がグラスとフラミーの手を七色に染めていた。
「会ってみたら、でございますか?」
「はい。私ウルベルトさんと会った事なかったんですよねぇ。」
デミウルゴスとコキュートスは首を傾げた。
毎日のようにフラミーはウルベルトと遊んでいたのだ。
いや、守護者達の目から見れば外界の何かを粛清に行っていたのだ。
「リアルでの話だな。私達はリアルで会った事がある者と、そうでない者がいた。」
「ソウデゴザイマシタカ。テッキリ御方々ハ常ニ御一緒ダッタノカト。」
アインズはバラバラになった仲間を想う。
そして、今こそ自分達とリアルを正しく守護者達に分からせるタイミングかも知れないと過ぎった。
神じゃない自分達も愛してもらえるだろうか。
「私達、心はずっと一緒でしたよ。」
フラミーが発した言葉はアインズの考えかけていたことをすぐに押し流した。
「だから、リアルで会うことが一番重要だった訳じゃないし、会わなかった人達もいます。」
アインズはフラミーと共に転移できて良かったと改めて思った。
グラスに触れているフラミーの手に手を伸ばす。
すぐにそれに気付いたフラミーもアインズの手に手を伸ばし、二人は手を繋ぐと微笑みあった。
「あなたにも会えなかったけど、ずっとずっと憧れて、本当はずっと大好きだったんですよ。」
フラミーが言い切ると、アインズもずっとずっと前から憧れて、本当はずっと大好きだった人の手に自分の額を当てた。
御身実はしょっぱなから好きだっただろう説を唱える方がだいぶ増えてきたので推しまぁす!!
まことしやかに囁かれる三つの説
・ユグドラシルの頃から好きだったけど転移して一緒に生きるって言われて完全に落ちた説
・転移して一緒に生きるって言われて好きになった説
・転移してから徐々に落ちた説
一番目が美味しいので一番目を推したいですよねぇ。
おフラさんはずっと大好きだったと思います。思いたい!
だって 1-#21 神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国 でギルド武器破壊して消えると思った御身へのあの反応は尋常じゃなかったですもんね。にっこり
#19 閑話 天空城御写真
#20からアンケート結果章いきまぁす!
あーやだなー平和が終わるなー