眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#19 閑話 天空城御写真

 早朝。セバスは新しいオシャシンの供給の為エ・ランテルの闇の神殿を訪れた。

 まだ一般の参拝を迎えていないような時間だが、聖堂内には神官達と、神に仕えてはいるが神官としての力は持たないメイドや執事の格好をした者達が忙しなく動き回っていた。

 皆心を込めて聖堂内の掃除に勤しんでいる。

「セバス様!」

 そんな中響いた懐っこいような声にセバスは僅かに頬を緩める。

 主人がまだ正式に妃を持っていないと言うのに自分が先にそういう存在を持つ事に抵抗を感じていたが、そろそろ良い(・・)のかもしれない。

 セバスは声の主を優しい瞳で捉えた。

「ツアレ。今日は新しいオシャシンを持ってきましたよ。皆さんもご苦労様です。」

 チャン様チャン様と神官達も寄ってくる。

 初めてそれをシャルティアが聞いたときは腹を抱えて笑っていた。

 チャンなどとセバスを呼ぶ者がいたのかと。

 

 エ・ランテルの闇の神殿で一番地位の高い神官に写真を渡す。

 シャルティアが天空城で撮ったという、空の中の池の上でアインズがフラミーに祈られているように見える写真と、池のほとりで支配者達が寄り添う(・・・・)美しい写真だ。

 それらを受け取ると神官達は皆がほぅと甘いようなため息をこぼした。

「早速焼き増しして今日から授与、頒布して下さい。さぁ、皆さん仕事へ。」

 各神殿に一台はオシャシン焼き増し用のマジックアイテムが置いてある。

 神官達は心得たとばかりに頷くと神殿の事務所へ去って行った。

 しばらくセバスも掃除を手伝うと朝の仕事は終わり、光の神殿に同じく写真を届けに行っていたシャルティアから伝言(メッセージ)が入った。

 

『こっちは終わりんしたから、転移門(ゲート)を開いてやりんすよ。』

「お疲れ様でした。私はまだエ・ランテルに残りますのでお気になさらず、お先にお戻りください。」

『そうかぇ?じゃあこのまま妾は竜王国に行きんす。 おんしは励みなんし。御身がお望みなんだぇら。』

「…恐れ入ります。それでは。」

 セバスは手を下ろすと働き者の恋人を手招く。

「ツアレ。申し訳ありませんが少し付き合って頂けますか。」

 何の疑いも持たずに近付いてくる小動物を後ろに従え、セバスは神殿を後にした。

 

 世界は徐々に真夏から秋の雰囲気になりつつある。

 抜けるような青空の下、神殿へ向かう市民に頭を下げられながら、川が流れる南広場へ二人で黙々と歩く。

 広場に着くと、木陰に置かれたいつものベンチに腰掛けた。

 ツアレはここからの景色がお気に入りだった。

 ここは二人で外で過ごすたったひとつの場所だ。

 一人でもよく訪れ、この場所からセバスを想う。

 二人で聞く川のせせらぎは優しい歌のようで、暗闇を生きたツアレを潤した。

 ケジメとして外で手を繋がない二人は触れ合いもせずに川を眺めた。

 二人が触れ合うのは、セバスがエ・ランテルの仕事を終えた帰りに偶にツアレの家に遊びに寄る時だけだ。

 その時ばかりは二人は神々のオシャシンのように過ごした。

 とは言え未だ繋がりを持った事はない。

 ツアレの身の上を思い遠慮している部分もあるが、何より結婚も約束してない状態でそういう事をする程、セバスは幼くない。

 ただ、支配者の望み通りいつかは種族の壁を超えて見せようとは思っている。

 その時には、絶対に名付けを頼むと心に決めていた。

 

 セバスは幸せそうに微笑むツアレを見て心を決める。

「ツアレニーニャ・ベイロン。御方々がお許し下さるなら、ですが、私と結婚しませんか。」

 ツアレは一瞬目を大きくし、セバスの横顔を眺めた。

「わ、私のような者で…よろしいのでしょうか…。」

「全てを知っていますが、それでも貴女と生きてみたいと私は思いました。貴女が良いといってくれるのなら、今すぐ私はアインズ様の下へお許しを頂きに参ります。」

 

 ツアレの答えは最初から決まっていた。

 

+

 

 第九階層を歩くセバスの足取りは軽かった。

 目的の部屋の前に着くと扉の左右に控えるコキュートスの配下の者達に軽く目礼する。

 その場で十分に自分の身だしなみを整え、チーフひとつに乱れがない事を確認する。

 無論だらしない格好になった事などは生まれて一度もないし、普段から気を使っているが、ここは聖域なのだ。

 どれだけやっても確認しすぎ、と言う事はない。

 扉を叩く前に、なんと報告し許しを得ようかと言葉を考える。

 元より子を早く持てと言われて来たのだ。祝福してくれるに違いない。

 結婚したいなどと聞いたら我が神々はどんな顔をするだろう。

 喜んでくれるだろうか。

 まさか嫌な顔などするはずが――ないと言い切れるだろうか。

 神の望みは子だと言うことに今になり気が付く。

 責任も取らずに子を成し、生まれた子供だけをナザリックに連れ帰り実験台にしろなど――と――言われるだろうか。

 セバスは硬直していた。

 あの慈悲深い支配者がそんな事を提案するだろうか。

 しかし一郎と二郎を思えばあり得ない話ではない。

 支配者はその尊き血の為、何であろうと行うべきだ。

 そしてセバスもそれを手伝うべきだ。

 

「――おい、そんな所で何をしているんだ?」

 セバスは肩を震わせると振り返った。

 いつの間にか濃厚すぎるその気配はセバスのすぐ後にあった。

「こ、これはアインズ様。」

 アインズは人の身で訝しむような顔をして自室の扉に手を掛けた。

「私に用があるんだろう。入りなさい。」

「恐れ入ります…。」

 その背に従うように部屋へ入ると、アインズはソファに掛け、セバスにも席を勧めた。

 当然セバスは座らない。

 それはこれから願い事があるからと言うよりも、執事として生み出された故の本能のようなものに近いのかもしれない。

 支配者に目で促されるとセバスは口を開いた。

「アインズ様…。私は…ツアレと…なんと言いますか…。」

 考えたはずの言葉がまるで出てこない様子に我ながら驚きを隠せない。

「ふふふ。ツアレニーニャか。今の私ならお前のどんな悩みにも答えてやれる気がするな。話してみなさい。」

 支配者は笑いながらアインズ当番の持って来たコーヒーに口を付けた。

 機嫌が良さそうだ。今話してしまおう。

 セバスは決意した。

「先程ツアレニーニャ・ベイロンに結婚を申し込みました。」

「何!?もしや子供でもできたか!?」

 支配者は聞くや否やガタンと立ち上がった。

 あまりの雰囲気の変わりようにセバスは冷や汗が出る。

「い、いえ…御身のお気持ちに背くようですが、未だツアレとは交わっておらず…。やはり直ぐにでも――」

「な!それでツアレニーニャは何と!!」

「ぜ、是非にと…。」

 アインズはズンズンとセバスへ近付き、その身を引っ張り寄せて背中をバンと叩くと――そのまま動かなくなった。

「あ、アインズ様…申し訳ございませんでした…。」

 肩越しに首を振るのを感じる。

「たっちさん…貴方の息子は流石ですよ…。」

 優しく囁かれた敬愛してやまぬ創造主の名に、どきりとする。

「だって言うのに俺ってやつは…」ともごもごしばらく何かを言うと、アインズはセバスからゆっくりと離れた。

「セバス。よくやった。お前の選択は正しい。」

「アインズ様…?」

 支配者はセバスの頭をわっしわっしと撫でくり回すと、穏やかに笑った。

 

「おめでとう。泣かせてやるなよ。」

 

+

 

 その晩。アインズはフラミー、セバスと共に、一般の参拝を終えたエ・ランテルの闇の神殿に現れた。

 そこにはツアレが跪いて三人を迎え、支配者達は祝いの言葉を送った。

「ツアレニーニャ。以前私はナザリックとしてお前を特別保護することはないと言ったが、お前は私の息子の大切な存在になるんだ。何か困った事があればいつでも言いなさい。私もフラミーさんも、きっと力になると約束しよう。」

 慈悲深い声にツアレは声を詰まらせた。

「神王…陛下…。」

 フラミーもその様子を見るとわずかに潤む。

「じゃあ、セバスさん。ツアレさんの事お願いしますね。」

「かしこまりました。」

 二人を見送ろうと扉の前までくると、ツアレは深々と支配者達に頭を下げた。

 

「あ、あの!陛下方!」

 二人は義理の娘になる人を見て微笑んだ。

「私…私陛下方みたいになれるように…きっと頑張ります…。」

 ツアレはカバンからお写真を取り出すとそっと幸せそうにそれへ視線を落とした。

「そうか。ありが――」

 アインズは鎮静され、フラミーは硬直した。

「さぁツアレ、御方々のご迷惑です。送りますからもう行きますよ。」

 もう一度頭を下げると、セバスは初めて外でツアレの手を取り立ち去って行った。

 

 バタンと巨大な扉が閉まった静寂の聖堂内に二人の呼吸が響いた。

 ギギギ……と言う音がなりそうな動きで二人はオシャシン販売を行う場所へ視線をやる。

 羞恥から顔を真っ赤にしたフラミーは口元を押さえるとペタリと床に尻餅をついた。

「な…な…。」

「なんてもん売ってんだ!!」

 アインズは慌てて販売カウンターに近付くと、そこには先程ツアレが持っていた――蓮池でアインズがフラミーを膝に乗せていちゃいちゃちゅっちゅする写真がたっぷり置かれていた。

 写真の販売はいい税収になっているため好きにやれと言ってあったが、これは幾ら何でも好きにやりすぎだ。

 そもそも――「こんなのいつ撮ったんだよ!?」

 アインズはそれをごっそり回収すると自分の無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)に仕舞い込んだ。

 こんなにたくさんの写真をどうしようと冷や汗が出る。

 存在を隠滅できる破棄場所は七階層の火山くらいしかないが、それは何となく躊躇われるし、目撃されたらえらい騒ぎになる気がする。

 悩みながら、とりあえず床に座るフラミーに手を伸ばす。

「あ、あいんずさん…ぐっじょぶ…。」

「いえ…。カメラの自由な使用はそろそろ禁止した方がいいかもしれません…。」

 神殿には、ガゼフを勧誘するアインズ、レイナースに縋り付かれるフラミー、七彩の竜王(ブライトネスドラゴンロード)と話し合うアインズ、蓮池の二人、深池の二人とラインナップはちょこちょこ増えていた。

 

 フラミーはアインズに立たされるともじもじし始めた。

「あ、あの…。」

「どうしました?」

「私も、さっきの一枚…ください…。」

 躊躇いがちに下から覗き込むようにフラミーはアインズを見上げた。

 頷き闇に手を入れると、十枚フラミーに渡した。

「わ。こ、こんなには…いらないんですけどね。」

 言葉とは裏腹に写真に視線を落とすフラミーは嬉しそうで、にへらと口元が緩んでいた。

 いつまでもだらしない顔で写真を眺めるフラミーの顔を挟んで上を向かせると、アインズも笑った。

「欲しいなら、何枚でもどんなバージョンでも付き合いますよ。」

 

 二人は無駄に神聖だと信じられている場所で何やらしばらく触れ合ったらしい。

 

 次の日神殿はオシャシン泥棒が入ったと大騒ぎになった。

 その後、あの死の騎士(デスナイト)が警護する中、命を賭して忍び込むほどのオシャシンがあると話題になり光の神殿やほかの都市の神殿からは瞬く間に蓮池の写真は無くなっていった。

 当然エ・ランテルの闇の神殿でも焼き増しされ販売は再開される。

 この写真は他のあらゆる写真の中でも特に絶大な売り上げを伸ばした。

 命よりも価値のあるオシャシンと言う噂が落ち着くと、今度は守護神と結ばれたと言うツアレのシンデレラストーリーが広まる。

 二人が結婚を誓い合った日はそのオシャシンの販売が始まった日で、ツアレ自身もそれを大層大切にしていた事から、未婚の女性はこの写真をこぞって購入し、少しでもご利益に預かろうとした。

 

 そして盗まれたオシャシンは、ある日突然聖堂の玄関にポツリと置かれ返ってきたらしい。

 ただ、枚数は何度数えても二十枚足りなかったとか。




アインズ様も結局欲しくなっちゃったんかーい!

次回 #20 手紙
ドラ出ます!
アンケートの結果を見せつけてやりますよ!

の前に勢力図の確認です!

【挿絵表示】

ユズリハ様お手製神聖魔導国まっぷぅ〜!(ドラえもん並み感
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