眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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ドラ注意ですが、アンケート結果です!

ドラ避け前回までのあらすじ。
夫婦喧嘩と同時刻。ドラウディロンの欲望により嫉妬なる悪魔が召喚されていたことが判明した。嫉妬は召喚主の願いである「光の消滅」を叶えるために大量の代償を求めたらしい。とっても怖いね。街が破壊され、人々が大量に殺されたのは全部ドラちゃんの願いのせいだったらしい。そんな事とはつゆ知らぬ仲直りしたお騒がせ支配者達はアフラマズダーで悪魔を一掃し、忠臣に惨劇の場所を任せて城へ戻った。



#25 ドラウディロンにごめんなさい

七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)とは珍しいお客さんじゃないか。」

 アインズが城の玄関に戻ると鱗を七色に輝かせる竜がこちらへ視線を送っていた。

 アインズはこの竜王は始原の魔法の使い方を始めて教えてくれた竜王だったので嫌いではなかったが、今やすっかり嫌いになった。

 これへの言い訳のせいでフラミーはずっと傷付いて来たのだ。

 アインズがドラウディロンとも結婚すると思っていて、尚自分を愛してくれていたから良かったものを、普通ならそんな勘違いをしていれば振られてもおかしくはない。

 アインズは背筋がブルリと震えた気がした。

 

「ゴウン君…うちのドラウディロンが悪い事をしたな。」

「そんな言葉で済むようなものじゃないぞ。お前はさっきの空を見たか。」

「見たから来たのだ。悪魔のこともドラウディロンに全てを聞いた。」

「じゃあ私が冷静なうちに立ち去るんだな。」

 アインズが睨み付けると竜王は僅かに身じろぎしたようだった。

 

「フラミー殿…!」

 城玄関のピロティにいたドラウディロンはフラミーへ駆け寄った。

 竜王国の重鎮達が戦々恐々と言ったような顔をしてドラウディロンを見送る。

 もうダメかと空を宰相達と眺めていたら、空を覆っていた悪魔は光に貫かれ、浄化されるようにモヤとなり消えた。

 流石に神と呼ばれる存在が負けるはずもなかったのだ。

「ああ…無事で良かった…!すまなかった。本当にすまなかった。全ては私のせいだ…。」

「いえ…そんな事は…。」

 フラミーが複雑そうな顔をして胸の前に手を当てると、その腕にはドラウディロンの腕輪がはまっていた。

「ア…アインズ…殿…。」

「私をそう呼ぶな。お前はやりすぎた。」

 それは決別のようだった。

「っあ…あぁ…失礼いたしました…陛下…。」

 アインズはドラウディロンを観察するように上から下までじっくり眺めた。

 

「ドラウディロン、本当にお前は私を愛しているのか?」

 半身を消す為に悪魔と契約までしたドラウディロンを信じることが出来ないとでも言うような声色に涙がこぼれそうになる。

「…深く…愛しております…。」

「そ、そうか。そうなのか…――。」受け入れられたことに僅かに安堵する。「――しかし、私はお前とは歩めん。諦めてくれ。」

 足下がグラリと揺らぐ。

「……そ、そんな…。」

「それから、何故空がああなったのか分かっているのなら深く反省しろ。」

 自分がやった事の重さを前にドラウディロンは首を左右に振りながら後ずさった。

 

「ゴウン君。これのせいで悪魔が広がったとは言え、もう光のぷれいやーが片付けたんだろう。それに多少の人間の犠牲がなんだというんだ。」

 見兼ねた子煩悩が口を開くとアインズは忌々しげにそれを見た。

「貴様達竜王と言うのは本当にふざけた存在だな。いや、そんな事よりこの人はフラミーさんだ。お前はまだ名前を覚えていなかったのか。」

 アインズはフラミーの背をポンっと叩くとフラミーは気まずそうにした。

「あ、あの…フラミーです…。以前一度お会いした時、名乗らなかったですから…。」

 そうだっけとアインズは記憶を探ろうかと思うが、これ以上不愉快な気分になっても仕方がないのでやめる。

 竜王はフラミーを爪先から頭までじっくり見ると口を開いた。

「フラミー君。その腕輪はゴウン君に返せ。」

 記憶を探らなかったというのに結局大層不愉快だった。

「…お前達は何故私に頭を下げられるのにこの人にそうできんのだ。」

「この世には順列と言うものがある。それだけだ。フラミー君、早くゴウン君に返すんだ。」

 フラミーは腕輪を眺めるとそれを抜き取り、数歩進んでドラウディロンに渡した。

「また使っちゃった…。ごめんなさい…。」

 

「…え…。」

 

 ドラウディロンはアインズにではなく、自分へ返ってきた誓いの腕輪に呆然と視線を落とすと、竜王は嬉しそうにした。

「それならそれで良い。」

 曽祖父の声を無視し、震えながらアインズを見る。

「陛下……ど、どうかお許しを……。」

「お前は良くやってきたし私も高く評価していた。しかし今回ばかりは許せん。」

 外傷を負わせるだけが傷付けると言うことではない。

 アインズは精神抑制を付けてここに来たが、フラミーを傷付けられた怒りが鎮静されない程度の大きさでフツフツと沸き続けていた。

 そして何より、自分達の最も触れられたくない物を踏み躙られたのだ。

 知らなかったとは言え、そう簡単に許せるものではない。

 

「…だって……フラミー殿が御身に立てさせた誓いが……あまりにも……。」

「誓いは立てさせられたんじゃない。私がフラミーさんの与り知らぬところで勝手に誓いを立てたんだ。…結果的に。」

「そ、そうだったのか……。でも、じゃあなんで…何千年もそうじゃなかったのに突然今になって…陛下ほどの器量を持つ方が…国と民を思う方が何故…。子を多く持つことの重要性はお分かりだろう…。」

「私は死なぬ身だ。寿命を持つ者達の様に子を多くなす必要など無い。」

 そもそもアインズはアンデッドだったのだ。いや、今もアンデッドだが。

 子供なんか一人たりとも持てないと思っていたのに何人も子を持とうと思う訳がない。

 アインズはどんなに誰を好きになったとしても人の身が無ければ相手に女性としての幸せなど与えられない筈だった。

 骨の身に沸いた邪念を何度ダメだダメだと振り払ったかわからない。

 しかし、今はこの身が――――……この身はドラウディロンがいなければ手に入らなかったかもしれない。

 アインズは自分の中のドラウディロンという存在を再び"フラミーの友達"という位置まで引き上げ直した。

 

「子が必要ないなんて…そんなの私を娶らないとしても、他の妃になる者達だって納得などすまい!」

「…こう言う事を繰り返さないためにもハッキリ言おう。私はフラミーさん以外を妃には迎えん。」

「こう言う事…。私のせいで…私のせいで貴君はそう決めてしまったのか…。」

 アインズは自意識過剰な女王にため息をついた。

「別にお前のせいじゃない。もう黙れ。」

 最初からフラミーしか見えていない男がドラウディロンが居たからとか居なかったからと言う理由で嫁取りの方針を変えるわけもない。

 

「あいんずどの…それは……。」

 ドラウディロンは腕輪を握りしめたままよたよたとアインズへ近付きその胸に額を付けてぽろぽろと涙をこぼした。

 

 ドラウディロンが悪魔を召喚し、国をボロボロにしなければきっとアインズは妃を他に迎えない等と言うことはなかったであろう事を、約束(・・)をしたドラウディロンは一番よく分かっている。

 だと言うのに、こんな事態を引き起こして尚お前のせいではないとドラウディロンを庇って――。

「そんなに…優しくされて…諦められるわけ…。」

「は?別に優しくなんかしてないが…。」

 この神はいつもこうだ。

「最初から…約束なんてしなければ良かったのかな…。」

「約束?一体何の――」

「ドラウディロン、そんな事を言うんじゃない。ゴウン君はいつも誠実だ。これは全てお前の失態だ。さぁ今日はもう解散しなさい。」

 竜王は一度冷却期間を置かなければドラウディロンが何を言い出すか解らないため再び口を挟んだ。

 アインズは胸に縋るドラウディロンに視線を落とす。

「そうだな。私も行かなければならない場所がある。」

 

 徐々に昇り始めた日はそこにいた者達をキツく照らし出した。

 もう早く解放されたい。

 生まれて初めて人を振ると言う事を体験したアインズは取り敢えず無事にこの任務が終わりそうな事に胸をなでおろした。

 一体いつからこの女王は自分を好きに――それも愛しているなんて言うような事になっていたのだろうか。

 何度考えてもわからない。

 しかし、兎に角これでフラミーが泣くことはもうないはずだ。

 本当はよくもと怒鳴りつけたかったが、フラミーがこれをもういらないと言うまでドラウディロンは一応フラミーの友達だ。

 友達と言えば、フラミーにあんな戦い方を教えたのは誰だったのだろうか。

(やはりぷにっとさんか…?)

 今回はアンデッドに気を取られた瞬間があったから不可知化で迫り麻痺させる事に成功したが、一対一で正々堂々鬼ごっこをしてフラミーを掴まれられるだろうか。

(…一度本気の鬼ごっこをしておいた方が良いな…。今後喧嘩でもして避けられた時のためにも…プレイヤーが来た時の為にも…。敵対者としてのフラミーさんの行動パターンは絶対に掴まなければ。)

 アインズはもう完全に集中力が切れ、微妙に関係ない事を考えながらドラウディロンの握る腕輪に手を伸ばした。

「兎に角別にお前どうこうで何かを決める私じゃない。ビーストマンの事はまた近いうちに殲滅に来る。」

 腕輪を回収すると元の場所に嵌め直し、自分の胸に縋るドラウディロンから離れた。

 

「あ……。」

 ドラウディロンはアインズと腕輪を眺めると顔を歪めて更に泣き出した。

「…っわ…わかった!わかった!私の…私のせいじゃない……!」

「やっと分かったようだな。」

 

 アインズは転移門(ゲート)を開くと、申し訳なさそうな顔をするフラミーを引っ張った。

「次に行きますよ。」

 魔法の門を潜ろうとする背中にドラウディロンは呼びかける。

「あ、あ!フラミー殿!!」

 自分を呼ぶ声にフラミーは振り返った。

「あの、ドラウさん…ごめんなさい本当に。私のせいで街があんなになって、ドラウさんの事も傷付けて…。」

 衝撃だった。

 只々ドラウディロンが悪かったと言うのに、この女神はドラウディロンを責めるどころか――。

「フラミー殿…。全ては私の責任だ。本当にすまなかった。いや、申し訳ありませんでした…。…どうか……どうかお許しを…。」

 目を泳がせたフラミーはドラウディロンの顔色を伺いながら訪ねた。

「あの…私達、お友達ですよね…?」

「あぁ……。っく…。」

 フラミーはアインズの手を離すと自分より背の高いドラウディロンを抱きしめ、しばらく背をさすった。

「私きっとドラウさんが安心してアインズさんの事任せられる人になるから…。」

「もう…もう充分だよ…。…さっきの流星を見て貴君の力は陛下に必要だと思い知った…。それに、貴君はやはり…慈愛の女神だ…。私もここでやってしまった事の責任を果たそう…。どうか、またいつでも訪ねてくれ…。二人のお茶会も、いつでも大歓迎だから…。」

 フラミーは頷くとドラウディロンからそっと離れ、愛する人は愛する人の手を取った。

 

 ドラウディロンは溢れる涙をそのままに、曽祖父とともに神々を見送った。

 

「ドラウディロン、お前の言う通りゴウン君は誠嘘偽りなく慈悲深い男だな。」

「…はい。本当に…。」

「ゴウン君はお前を許す準備がある。焦るんじゃない。お前は普通の人間よりは長く生きる。ゴウン君に子を貰いなさい。」

「ひいお祖父様も…陛下の良いところが分かったのですね…。」

「あぁ。絶対に彼でなければいけないと分かっているよ。」

 ドラウディロンは曽祖父の顔にすがると雛鳥のように小さな声をあげて泣いた。

 

「私…本当に陛下を愛してる…。いつか陛下が私を許してくれるように…またあの尊き名を呼ぶことを許してもらえるように…きっと頑張ります…。」

 

「応援するよ。私の可愛いドラウディロン。」

 七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の深く優しげな声が響いた。




ふぅ…さよなら、ドラちゃん…。
あれ?なんかちょっとまだ夢を見かけてるような…?
でもちゃんとハッキリ振れて良かった!

次回 #26 神官達の思い

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