眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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杠様より"可愛すぎる俺の嫁"を頂きました。

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これにはにっこり。


#33 式

 その晩、フラミーは一睡もできなかった。

 後一時間程度で今日が始まる。

 せめて寝不足の酷い顔を治そうと、サイドボードに乗せてある蕾を取る為静かに起き上がった。

「……ん…ふらみーさん…どこいくの…。」

 アインズは天空城以来、フラミーが少しでも離れるとすっかり起きるようになってしまっていた。

「あ、すみません起こしちゃって。ちょっと疲労無効を。」

「…おいで、俺の指輪使って良いから。」

 離れかけていたフラミーを引き寄せるとごそごそと自分の疲労無効の指輪を抜いてフラミーの指に入れた。

「あーもう今日かぁ、神様の結婚式。」

「本当ですねぇ。憂鬱ですか?」

「ん?憂鬱どころかお預け食らってるフラミーさんの神様姿が楽しみですよ。」

 二人は楽しげに笑い合うと、一日が始まるまでの間優しく繋がった。

 

 これまで決して地位を持とうとしなかった女神は今日、ようやく陛下と呼ばれるべき存在になる。

 世界中に祝福され、歴史的な一日になるだろう。

 

 神都大聖堂には何百人と言う各国、各都市の重鎮が集まっていた。

 大陸の端から訪れた者達、亜人達の王だった者達、アインズ達が行ったこともない森から訪れた者達、常闇との戦いを見て以来降りたいと望んだ小規模部族の長達すらいる。

 数百人が集まって尚余裕のある大聖堂は建築以来最も人々が集まっていた。

 

 アインズはそんな聖堂内の様子も知らず、ソワソワしながら高く美しい扉の前で自分が入る時を待つ。

 幾度も精神抑制を使い緊張を収める。

 鈴木の結婚式はひっそりと行われたが、アインズ・ウール・ゴウンの結婚式は荘重で威厳に満ち溢れた物になるだろう。

 アインズは話し方はもちろん、歩き方から始まり、瞬きの仕方まで徹底的に練習した。

 中ではアルベドが開式の辞を述べ、神官達がアインズの聞いたこともない聖歌を歌って捧げてくれているのが聞こえる。

 

(アインズ・ウール・ゴウンとフラミーが結婚したら、フラミー・ウール・ゴウンになるのか…?)

 微妙に語呂が合わない感じに苦笑する。

 気を紛らわせていると扉の左右に立つセバスとデミウルゴスが頷き合った。

 二人はこの後フラミーを入れてから入室して守護者達の列に加わるが、暫くはここでドアマンだ。

 扉が開かれていく。

 

 大聖堂内からは眩いばかりに神々しいその姿をいち早く見た者達がオォ…と感嘆の声を上げた。

 神聖魔導国の最も重要なそこは神々の始まりの時を迎えるに相応しい場所だ。

 アインズは踏み出す。

 転移し、たった数日で行った法国の潜入、大神殿を支えるギルド武器の破壊、そして始まる世界征服。

 世界の全てを手に入れるまで、きっとこれからもアインズは数え切れない命を奪い続けていくだろう。

 敬虔な迷える子羊達はその道を往くのが死の神だと分かって尚群れをなして着いてくる。

 ナザリックの維持の為にも税収(ひつじ)は必要不可欠だ。

 この先何万年と、家の維持の為に大黒柱は奔走し続けなければならない。

 そして、この美しい世界を守らなければ――。

 アインズは骨の己とフラミーを象った像を真正面に見据える位置まで辿り着くとそれを感慨深げに見上げた。

 

(誰のセンスだが知らんが頬骨の辺りがああなっている方が良いのか?)

 

 精神抑制の使いすぎは毒だ。

 緊張しないことと緊張感がないことは別だろう。

 大聖堂を埋め尽くす人々は痛い程の静寂の中、アインズから決して目を離さなかった。

 やんごとなき偉大な王は、存在するだけで人々の心を奪う。

 参列する者達はここで今から行われる儀式に立ち会える幸福に震えていた。

 

 アインズはアインズフラミー像を存分に眺めると、フラミーを迎える為自分が入ってきた扉へ振り返る。

 引きずっているマントが皺になったり、踏んでしまったりしないように気を付けながら、片手で軽く引っ張るようにさばき丁寧に動く。

 もう片方の手には王笏の代わりにギルドスタッフが握られている。

 アインズが位置についたことを見ると、光の神へ捧げる聖歌が始まった。

 

 今日までその姿を決して見せてくれなかった女神はどんな格好で入って来るのだろうか。

 揃いの生地で作られている衣装なのだから、アインズが着ている物に似ているだろうか。

 殆ど似たようなデザインだったら、それはそれで少しつまらないが、かけ離れていてはバランスが悪そうだ。

 アインズがあれこれ想像していると聖歌は止み、扉は開かれた。

 

 

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 誰もがぽかんと口を開けた。

 アインズが入った時はわずかに感嘆の声が漏れたが、今は一人として声を漏らさなかった。

 フラミーが美しくなかったことはないが、これは――。

「光の…女神…。」

 アインズの目をして神であると思わせるほどの美しさに列席者達は息をする事も忘れていた。

 本当に美しいものを前にした時、人は自分が言葉を話せる生き物だと言うことを忘れる。

 超常の存在が撒き散らす清浄な空気を少しでも汚さないよう、息を潜める事しかできない。

 恐ろしさを感じる程の様子に、あまり見過ぎては報いのように命を奪われる想像すら浮かぶ――と言うのに目を離せない。

 どう言う原理か分からないが、フラミーの結われていない髪はふわりと柔らかく浮かび上がり、凪いだ海のように波打っていた。

 <悪魔の諸相:おぞましき肉体強化>を用いているであろう翼はいつもより大きく、四枚が美しく重なり合い、巨大な一枚の翼のようだ。

 アインズが着けているものとほぼ揃いの額飾りは頭の左右に咲く花に支えられていて、戴冠時に小さな冠を乗せる邪魔にならないようにされている。

 腹部分は僅かに開かれてヘソが見え、その下に施された金色の刺繍はどこと無く黒山羊の悪魔(バフォメット)の頭を彷彿とさせる形をしていて、四対の翼がモチーフであろう模様と共に、その存在は悪魔である(・・・・・)と何も知らないこの世界の者達を嘲笑うかのようだ。

 しかし、この悪魔に焦がされ燃え尽きたとして、誰に後悔が残るだろう。

 白い珊瑚の骨で作られたタツノオトシゴの絡みつく杖を、床にカツン…カツン…と突きながら向かって来る女神を前に、アインズは何度も鎮静された。

 金色の瞳はアインズを捉えると、見た事も無い輝きに溢れ、思わず片手で口を覆った。

(ナ…ナザリックが…威……。)

 アインズすら飲まれていた。

 

 言葉をなくしていると、フラミーは重力を感じさせない動きでふわりとアインズの前に両膝を着き、杖を捧げるように前に置くと、手を前に組んで頭を下げた。

 己を失いかけていたアインズは役目を思い出す。

 対等だと何度伝えてきたか解らないと言うのに、こんな真似をさせなければいけないのが心苦しい。

 しかし王が地位を持たぬ者へ地位を授けるのだ。仕方がないのかもしれない。

(四十一人で(・・・・・)先にただの人間として誓いを立てて良かった。)

 そう思ったのはアインズか、フラミーか――。

「光の神よ。」

 アインズの厳かな声が響くと、その後粛々と神の契りと戴冠は行われた。

 

+

 

「フラミーさん疲れました?」

「疲れましたぁ。」

 神官、守護者一同が感涙に咽ぶ中、列席した数百人が代わる代わるアインズ達の下に挨拶に来る。

 祝いの言葉は嬉しかったが、既に三時間近くこの状況なので二人はやはり飽き始めていた。

 人の波がおさまったところで肺の中の澱んだ空気を吐き出す。

 列席者達の挨拶を受ける際、フラミーはニコニコして座っているだけだったが、アインズは小難しい話に的確且つ意味深な返事をして切り抜けていた。

 そんなアインズも今尚毎日続く勉強会にかなり鍛えられて来たようで、以前は全く分からなかった話が少し分かるようになってはいる。

 

 ちなみに挨拶に来た聖王女は二人に祝いの言葉を贈り立ち去ると、遠くも近くもない位置で熱心に自分にも結婚の祝福をと、いつもセットのケラルトと共にフラミーへ祈りを捧げたようだ。

 ドラウディロンは何度もフラミーを綺麗だと言って泣き、アインズにフラミーを頼むと、跪いてマントに口付けた。

 ラナーはクライムと共に現れ、今日明日にでも産まれて来そうな程に大きくなった腹を抱えていた。

 身分を持たないクライムが先に下がると、ラナーは「下準備はもう出来ておりますので、必要な時にはいつでも眠りをお与えください。」と謎の発言を残して立ち去って行った。

 体の調子が思わしくないランポッサ三世の代わりに来たと言うザナックも似たような事を言うと目付きの悪い貴族と共に何か難しそうな話をした。

 ジルクニフは呪いを解いたと伝えたからか、寂しくなっていた頭は少し潤いを取り戻し始めて来たように見えたし、以前のように怯えた風ではなかった。

 大分王らしくなり始めたミノスは美しい白い花束をアインズとフラミーへ捧げ、現在のミノタウロスの王国の変化を細かく語ると、母に顔向けできそうだとアインズへ深く感謝した。

 都市国家連合のカベリア都市長は次こそ街を案内するから是非訪ねてくれと言い残した。

 次は誰が来るんだろうとジルクニフの見事な話題展開術を思い出しながら宴の場となった聖堂内を眺める。

 煌びやかな人々の中、場違いにも見える鎧姿の者がこちらへ向かって来るのが見えた。

 

 アインズはようやく難しい話をしない友人が現れたと、軽く手を挙げ迎えた。

「やぁアインズ、フラミー。素晴らしいものを見させてもらったよ。本当におめでとう。」

「ツアーさん!ありがとうございます。」

「ありがとうツアー。別に竜の体で来ても良かったのに、お前は今日もまたそれなんだな。」

「君達の信徒は過激だからね。」

 鎧が親指で指し示す方には敵意むき出しの神官達がいて、三人は苦笑した。

 目立つ竜の姿で来ていたら、常に視界にツアーが入り神官達はイライラし続けていただろう。

「ところでアインズ、こんな所でするような話じゃないんだけど、二つばかり質問してもいいかな?」

「…こんな所でするような話じゃないなら後にしてくれるか…?」

 アインズは嫌な予感しかしなかった。

「ははは。断られる気はしていたよ。じゃあ、また後で来よう。ちょうどお披露目も始まるみたいだ。」

 ツアーが扉の方へ振り返ると、アルベドが二人を迎えに来る所だった。

 

「アインズ様、フラミー様。国民にご威光を。」

 二人は立ち上がり、ツアーを残して割れる人波の中扉へ向かう。

 廊下へ出る扉と外へ繋がる扉が一斉に開かれ、眩しすぎる屋外にフラミーは一瞬だけ目を細めた。

 二人が大聖堂から出ると、街は数百万人を越える民衆で溢れ返っていた。

 人間もアンデッドも亜人も異形も飛竜も関係なく、多くの者達が二人へ歓声を上げる。

 以前ギルド武器を破壊した時よりもよほど多いだろう。

 フラミーがかつてこの大聖堂には凡ゆる種族の者が訪れるようになると夢想した、そのままの光景だ。

 ここはアインズ・ウール・ゴウンの名にふさわしい。

 アインズとフラミーは柔らかく微笑むと、人々へ向かって誇らしく手を挙げた。

 

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村瀬に引き続きフラミーさんも嫁入り完了ー!!
オシャシン販売が捗りそうですね(*゚∀゚*)

2021.01.25 そして御身にだけ見せる屈託のない笑顔フララを頂きました!

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ちょっといたずらそうな所がたまんないですねぇ!
©︎んこにゃ様です!!

次回 #34 幕間 僕も連れて行け
おっとツアーさん!!またですか!!

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