眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#34 幕間 僕も連れて行け

 夜になり、式の全てが済んだ大聖堂の中では祝賀会が始まっていた。

 立食だが、ナザリックから持ち運ばれて来る数々の美食と、美しいメイド達の洗練された動きは招待客を大いに沸かせた。

 人員不足のため雪女郎(フロストバージン)吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)も総出だ。

 ナザリックには警護のために地表部に起動したガルガンチュアと課金ちゃん(マーレのドラゴン)が鎮座している。

 当然守護者はいつでも帰り、その任に就けるように羽目を外したりはしない。

 アインズはフラミーを自分の膝の上に乗せて運ばれて来る食事を小さな口にせっせと詰め込み、嬉しそうに様子を眺めていた。

 嚥下される度に次の物を口の前に運び、遂には自分の分まで与えているとフラミーは首を振った。

「アインズさん、もうお腹いっぱいです。」

「ん?もっと食べないと。」

「えぇ、何でぇ。」

 若干不服そうなフラミーの腹をトントン叩く。

「これで今度こそ準備万端なんだから、よく栄養取ってください。」

「あ、は、はひ。」

 すぐにパクリと口の前のものに食いつく従順な嫁にくすりと笑うと手の中のワインを口に含み、フラミーを肘掛に倒すようにして飲ませた。

 細い喉がコクンコクンと動く中、食事と言う死から始まる生への行為に神官達は手を組み尊い儀だと見守った。

 何か意味のある行為だと理解した招待客達も食事の手を止め神聖なものに触れるようにする。

 口を離し、ぷはぁと息を吸うフラミーの顔は体の芯を失ったかのように蕩けかけていた。

 羨ましい、とポツリと誰かが呟く声が妙に大きく響いた。

「ふふ、たくさん食べて飲んで下さい。さて、俺はちょっくらツアーと話してきますよ。」

 恥ずかしそうに口元を押さえてうんうん頷くフラミーの頭を撫でるとアインズは立ち上がり、近くにいるセバスを手招いた。

「有事の際には守れ。私は少し話がある。」

 セバスが跪拝するとアインズはツアーを探し――探されている気配を感じたのか巨大な柱に寄りかかるツアーが手をあげた。

 その姿を見つけるとアインズは飛行(フライ)でふわりと飛んだ。

 降りる先がわかった周りの者達は場所を作るためにツアーの周りから移動して行った。

 確保されたスペースにトン、と足を着くとツアーは壁から背を離した。

「アインズ。良いのかい、フラミーを置いてきて。」

 ツアーと共にいた最高位冒険者である蒼の薔薇と十三英雄のリグリット・ベルスー・カウラウが跪く。

 冒険者達に立つよう手で軽く促しながらツアーに呆れたような不愉快なような笑いを向けた。

「あぁ。敢えて置いて来た。お前が私に質問なんて、『世界を守りたいのか』と『世界の協力者か』の二つしか思い浮かばんからな。ろくな話し合いになる気がしない。」

 ――「し、し、し、神王陛下!」

 ――「しっ!イビルアイ、今は静かにしてなさい!」

 ――「でででででもな?」

 ――「インベルン、陛下の前で失礼じゃぞ。」

 若干締まりのないBGMが流れている。

 

「ふふ。それを聞いてほしいなら何度でも聞くよ。でも君の答えは変わらない。僕は解っている。」

「…それなら何だ?お前が他に私に聞きたいことなんてあるのか?」

 ツアーはキョロキョロすると酒を運ぶ戦闘メイド(プレアデス)を手招いた。

 様子を見ているとグラスを二つ取り、一つをアインズに渡す。

 軽く礼を行って受け取りながら、これはよくない話だとアインズは確信した。

 二つを打ち合わせない程度の距離で掲げ、無言で乾杯するとアインズは口を湿らせ様子を伺った。

 ツアーは飲めないためグラスをガガーランに渡すと、口を開いた。

 

「君達、近々海上都市に行くんだろう。」

 一つ目の質問は僅かに硬い声に乗せられていた。

「あぁ。もう少し暖かくなったらだがな。」

 ツアーは顎に手を当てると言葉を選んでいるようだった。

「君は殺すのかな。ル・リエーで眠るク・リトル・リトルを。」

「海上都市とプレイヤーはそう言うのか。新情報だ。助かったぞ。」

「はぐらかさないでくれ、殺すのか。」

 やはりフラミーを連れてくるような話ではなかったなとアインズは思う。

 これまでBGMだったイビルアイとリグリットは顔を見合わせてから二人を見上げるように様子を伺うと、ツアーはしっしと手を振り、蒼の薔薇を払った。

 

 二人の周りから人がポカリといなくなる。

「お前がそのク・リトル・リトルがどんな存在なのか教えてくれればもしかしたら方針は変わるかもしれん。しかし、今のままなら殺すだろう。私は未知の脅威と言う言葉を一番好かん。憎んですらいる。」

「そうかい。それなら話そう。彼女は二百年前にリーダー達と共に現れ、所謂十三英雄として共に旅をしたんだ。異形だったからお伽話には残っていないけれどね。しかし、リーダーが死して以来決して出て来ようとしない。見逃してやっては貰えないかな。」

「言い換えればいつ出てくるか分からない状況だな。――強さは。」

「…イビルアイより強いがフラミーより余程弱い。」

「今のところ大した脅威ではないか。襲いかかってくる可能性はどうだ?」

「ないよ。彼女は優しく思いやりがある女性だ。ぷれいやー同士の争いをこの世界で最も憎んでいると言っても過言ではないかもしれない。」

「優しいリトルはプレイヤーの争いを憎む、か。」

「そうだ。」

 アインズは簡易玉座に座りセバスと楽しそうに何かを話すフラミーを捉える。

 この男には守らなければいけないものがある。

 その瞳は燃えたようだった。

「――では、殺さねばな。」

「何だって?話を聞いていなかったのか、アインズ。」

「聞いていたさ。その女は今後アインズ・ウール・ゴウン(・・・・・・・・・・・・)がいては争いが生まれると気付くかもしれん。何レベルか知らんが力を蓄え今後転移してくるプレイヤーと徒党を組まれては厄介だ。今のうちに排除させてもらう。」

 ツアーは言葉の意味がわからず、探るようにアインズを見続けた。

「君が世界を汚すぷれいやーを叩きに行く事を間違っていると思うような彼女ではないよ。」

「そうじゃない。お前には難しいだろうから話さんが…プレイヤーにはプレイヤーの事情があるんだ。まぁ、アインズ・ウール・ゴウンに(・・・・・・・・・・・・・)絶対服従の場合は少しだけ考えるがな。」

 ツアーはそれはそれは不愉快そうに兜の眉間部分に手を当て首を振った。

「君とはいい友人関係だと思っていると言うのに。」

「私も良い共犯関係だと思っているさ。そう嘆くな。この世界からまた一つユグドラシルの成分を消してやると言っているんだからこちらとしては感謝して欲しいくらいだぞ。」

「今回ばかりは感謝なんかしないよ。――はぁ。悪いけど向こうに行くときには僕も連れて行ってくれ。」

「プレイヤーを逃すような真似をしたら容赦せんが、それでも付いてくるか?」

「そんな真似をするはずが無いだろう。逃がしたとして見付けられない君じゃ無い。」

「では死を看取るのか?」

「いいや。ギリギリまで説得してみるんだよ。君を。」

「ははは。お前は少し変わったな。前なら襲いかかって来た頃だろう。」

 アインズは可笑しそうに笑い、ツアーは深すぎるため息を吐いた。

 

「力があるならそうするけれどね。僕は勝てない戦いに興味はないし、君の力が世界に必要だとわからない程愚かじゃない。」

「分からず屋だと思っていたが見直したぞ。説得される気は無いが連れて行ってやろう。」

 やれやれとでも言うような仕草をするツアーの胸をグーで軽く叩くとアインズは玉座へ戻って行き、蒼の薔薇もぞろぞろと鎧の周りに戻った。

「ツアー。陛下にリトルは悪い奴じゃないと話してくれたか?」

 イビルアイは心配そうにツアーを見上げた。

「話したよ。残念ながら正しく理解してくれた。」

「残念ながら?」

 リグリットと首を傾げ合う。

「理由はよく分からないが…アインズは一層リトルを危険視してしまった。」

「なんじゃと?おぬしまた余計なことを言ったわけではあるまいな?」

「リグリット…。僕はかつての仲間を大切に思っているし感謝もしている。生かして貰えるようにきちんと正しく説明をしたとも。ただ、アインズも鬼じゃない。きちんと服従する気があるなら迎えるつもりはあるようだ。」

「ではリトルが陛下のご訪問時に無礼を働かずにいてくれることを祈るのみか。」

 ツアーとリグリットは唸り、どうしたものかと揃ってため息をついた。

「とにかく、僕はアインズと共に暫くル・リエーへ旅に行く事にした。ギリギリまでアインズにリトルの事を話してみるよ。」

「それは良い案じゃな。頼むぞ、ツアー。」

「任せてくれ、と言いたいところだけれど――正直あの神を説得しきれる自信はないね。」

 苦笑する二人をイビルアイは何か言いたげな目をしてじっと見た。

 

「陛下方がリトルに会う前に、リトルに陛下を正しく解らせておく必要があるな…。」

 呟きのように漏れたイビルアイの言葉は喜びの宴を前に流されて消えた。




次回 #35 血の繋がらない子供

ツアーさん、苦労人だね。
次の次に久々に新天地に旅に出ます!

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