眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#43 それぞれの家

 フラミーは自分の寝室で目を覚ました。

「んぅ…寝ちゃってたの…?」

 重たくなったような気がする体を起こそうとすると、手に手を重ねられていた事に気が付き、その先へ視線をやるとアインズが床に座ってベッドにもたれて眠っていた。

 これは魔力を供給した形跡だろう。

 手を繋ぐことを拒否したせいか、遠慮してベッドにすら上がらなかったようだ。

 この人は優しく律儀だ。

 フラミーは繋がれた手をそっと離すと、髪を掬うようにサラリと撫で――アインズはすぐに目を覚ました。

「ん…ぁ、おはようございます。気分どうですか?」

「おはようございます。何ともありません。」

 良かったとアインズがへらりと笑うとフラミーもつられて笑った。

「はぁ、また失敗かな。私、やっぱりダメなのかも。」

「え?フラミーさん、多分いけましたよ。ほら、これ。」

 アインズはフラミーの足下に胡座をかき、布団をめくると、足首にそれぞれ一枚づつある小さな翼を両手で持って広げて見せた。

「あ、また増えてる。」

 ぴこぴこと手の中で動かされると少しくすぐったかった。

「ふふ、でしょ。俺気付いたんですけど、最強の悪魔にしてはフラミーさんってあんまり――こう、強くないじゃないですか。」

 フラミーは痛みを感じるような顔をしてから、申し訳無さそうに下を見た。

「…すみません…。」

「あ、いえ。そうじゃなくて、サタンって六対の翼を持ってるはずでしょ。堕天する前は最高位天使の熾天使(セラフィム)だったんだから。でも、フラミーさんはサタンのクラス全部とったのに最初はたった三対。人間の一定数の復活で四対。これでようやく五対。――きっとサタンは最初から特殊条件満たさないと完成しない職業だったんですよ。特殊な何かの条件満たしたら、間違いなく最後の一つもはえます。」

「…もう羽は充分ですけど…そうなったら、私強くなる…?」

「きっとなりますよ!ユグドラシル時代、誰一人として見ることのなかった本当の神の敵対者(サタン)クラス!あー浪漫あるなー!」

 小さな翼は広げられたり閉じられたりと楽しそうに弄ばれた。

 翼をいじりつつ「更なるレア職への道!」と興奮するアインズを見ながら、フラミーはずっと求め続けた言葉を咀嚼した。

 

「つよくなる…。」

 

 足首に増えた翼は何の違和感もなく、生まれた時からそこにあったようにすら感じる程にフラミーの思い通りに動いた。

「ふふ。かわいいな。ちっちゃくて。」

 アインズはごろりと寝転がるとフラミーの足と翼を見ながらほろりと笑顔をこぼした。

 自分の手より小さな足と翼につんつん触れるたびに、くすくす笑っている。

 とろける旦那を余所にフラミーは自分がしたことのない事はなんだろうと最後の一つの条件へ思いを馳せる。

「ねぇ、アインズさん。私がした事がない事って何があると思います?」

 熱心に足を見ていたアインズは体を起こすと、指を一本、二本と折りながらフラミーがやった事がない事を上げ始めた。

「ん?んー、守護者と風呂に入るのと、二人だけの外出と、二人暮らしと――あ、いや、フラミーさんて同棲経験あります?」

 何の参考にもならなかった。

「ありませんよぉ。」

「それは何よりです。」

 アインズが顔いっぱいにゆったりとした笑顔を作ると、フラミーはやはりつられて笑った。

「ね、アインズさんは?百戦錬磨だから同棲経験有りですか?」

「え?ははは。百戦錬磨ってなんですか?もちろんないですよ。」

 二人はしばし嬉しそうに微笑み合った。

 

「そう言えば鍛冶長が国中の神殿に置いてあるフラミーさんの像作り直すから一度見せに来てくれって言ってたな。」

「えっ、国中ですか?別に今のままでいいのに…。」

「ははは。そう言うと思いました。でも、もう国中の像の回収は済んだそうですよ。」

 こういう時のナザリックの動きの速さは尋常じゃない。

 フラミーはベッドから足を下ろすと立ち上がり、大きく伸びた。

「んーー…はぁ。じゃあ、行ってきます!」

 

 アインズはフラミーを鍛冶長の下に送り届けるとツアーの家を訪れた。

 神殿と言っても差し支えない程に荘厳な雰囲気の部屋の中央で、白金の巨竜は身を起こした。

 いつも鎧が収まっている所は空洞で何も無い。

 不可視化している八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達かぞろぞろとアインズの後に従い、空気に徹すると、ツアーはまた随分大勢で…とそれらを認識した。

「アインズ、フラミーはどうだ。」

「目覚めたし好調だ。心配を掛けて悪かったな。」

「全く。君も始原の力を奪った時には倒れていたし、君達は倒れずにはいられないのかい。」

 不貞腐れたような雰囲気にアインズは確かにと笑った。

 こっちは気が気じゃないとぶつくさ言うと竜は身を伏せ、世界と等価値の女神の無事に安堵の息を吐いた。

 アインズは目を通すべき書類を取り出しツアーに続く階段に腰掛けると、この世界でただ一人砕けた口調で話す友人の愚痴に耳を傾ける。

 書類の中身は全金貨枚数と、ナザリック、エリュエンティウを一年支えるに必要な金貨枚数が載っている。

 どちらも防衛機能は殆どを切っているし、まだまだ何百年と維持できる。

 しかし、ナザリックは確かめなければいけない事がある。

「なぁ、ツアー。ちょっと協力してほしい事があるんだが、乗ってくれないか?」

「…内容によるよ。」

 

+

 

 イビルアイはあの後エ・ランテルに送ろうかと神王に聞かれたが、アルベドとメイドからの激しいプレッシャーを感じ、断った。

 確かに神に家まで送らせるなど不敬千万だ。

 ツアーも送るかと聞かれていたが「僕達のことは気にせず早く安全な場所へフラミーを連れ帰ってくれ。」と半ば追い払うように断っていた。

 神王は倒れた女神を案じて大切そうにかき懐くと、軽く別れを告げて闇に身を投じた。

 イビルアイは残されたツアーと共に、商人や冒険者の馬車に乗せてもらい家を目指した。

 途中ツアーは何度か鎧から意識を切り離していたようだった。

 そんな中、イビルアイは「手元に置きたい」と言う言葉の意味を考え、ヒヒヒッと怪しい笑い声を漏らした。

 陛下はもしかしたら、いつか迎えに来てくれるだろうかと彼女は今も胸を高鳴らせている。

 臣下としてでも側にいたいと望みながら、エ・ランテルに帰ってきた。

 ツアーも評議国が属国になった際にエ・ランテルから評議国へ開通した直通街道を行く為か一度入都した。

 家に寄って行かないかと提案したが、連れなく断り、ツアーは闇の神殿へ向かった。

 何度もその背にご迷惑をお掛けするなよと声を掛けると、手をひらひら振って立ち去って行った。

「っち。信用ならんな。しかし、祈りを捧げるのは良い事だ。」

 神官達の好感度も上がるだろう。

 背が見えなくなると、イビルアイは約一ヶ月振りに一区のコンドミニアムに帰り着いた。

 転移せずに帰って来た為中々の時間を要してしまった。

「おーい!帰ったぞー!」

「うぉ!イビルアイじゃねーか!!無事だったんだな!」

「おかえりー。陛下に一秒くらいは会えた?」「お土産は?」

 ガガーランは無事に瞳を潤ませ、双子は軽口を叩きながらイビルアイを迎えた。

 見た目は一番男のようだが、ガガーランは意外に繊細だ。

「ふふふ。一秒どころか半日ご一緒させて頂いたぞ!土産はない!」

 仲間達は旅に出る前の点検作業をしているようで、リビングにはランタン、人数分の外套、マット、一番大きなテントが出されていた。

「それにしてもこれは依頼か?探索か?」

 しょっていた大きな鞄を下ろしながら、雑多な部屋の様子を見ていると、ラキュースが自室から武具の手入れ用品を持ち出してきた。

「イビルアイ!おかえりなさい!依頼よ。それも、超弩級のね!」

「なんだ?お前がそんな顔をする依頼なんて珍しいな。」

 アダマンタイト級冒険者に回って来る依頼は大抵死が付き纏う。

 自分達の死だけではなく、依頼を出して来ている人々の死も。

 胸が張り裂けそうになるような場面に幾度となく立ち会ってきた。

 しかし、今のラキュースの浮かべる表情はそう言う事への恐れは皆無。

 イビルアイは全員で寝る大きなテントを持っていくなら、今回持ち歩いたミニテントは不要だろうと半端な荷解きを始める。

「ふふふ。それがすごいのよ。」

「なんだなんだ?焦らさないで教えてくれよ。」

「国中の腕の立つ者が集められる。」「あの漆黒のモモンも来る。」

 漆黒のモモン。

 女神の従者でザイトルクワエが襲撃する前のエ・ランテルを救った英雄。

 その生い立ちは不明な点が多いが、女神に拾われ育てられた孤児で、その絶大な力と柔らかな物腰は神の下で育っただけはあると評判だ。

 しかし――「モモンはどれ程のものか分からんぞ。本当に腕が立つのかははっきり言って未知数だ。光神陛下は竜王国――いや、ブラックスケイルで千以上召喚された難度三十から九十と言われる悪魔を一人残らず一撃で滅ぼしたらしい。その陛下がご一緒にいたんだから、エ・ランテルのズーラーノーン事件くらい片付けられて当たり前なんだからな。」

 いつも神王に抱きすくめられ、まるで壊れ物のように扱われる女神。

 あれは決して見た目通りの存在ではない。

「ふふ。それも今回見極められるわね。」

 ラキュースの挑戦的な笑みにイビルアイも「確かにそれはそうだ」とニヤリと返す。

「しかし、腕が立つ者というのはどういう意味だ?ワーカーでも来るのか?」

 この世にはワーカーという存在がいる。

 彼らは冒険者と違い組合を通さずに金になるならどんな汚れ仕事も引き受ける、いわば影の存在だ。

 しかし、ガガーランの答えはイビルアイの想像をはるかに上回る腕の立つ者(・・・・・)だった。

「ワーカーも来るそうだが――聖典だよ。聖典も来るらしい。」

 そう言うとラキュースの出してきたメンテナンス用品を手に自分の刺突戦鎚(ウォーピック)を磨いていく。

「何?聖典だと?お前の嫌いなあの陽光聖典も来るのか?」

「あぁ。らしいぜ。それどころか漆黒聖典、紫黒聖典もお揃いらしい。」

「紫黒聖典…?初めて聞いたが――」ここまでの情報でまともな仕事だとは思えない。

 破格すぎる。

「聖戦にでもいくのか…?」

 この依頼は個人や自治体レベルの物ではないだろう。

 依頼者は――「神王陛下御自ら、依頼をお出しになったの。」

「そ、それで…内容は…?」

 

「神の地、ナザリックへの侵攻。」

 

 イビルアイの脳裏にはリトルに見せられた夢が浮かんだ。




いえいえ、殺されませんよ!

次回 #44 閑話 二人の外出

お嫁のあんよが可愛い御身頂きました!ユズリハ様よりです!

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