眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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試されるナザリック
#47 アーウィンタール冒険者組合


「これが神が生み出したと言うナザリックですか。」

 呟いた男は切れ長の目を細め、薄い唇を片側だけ釣り上げた。

 この世の殆どのものを見下し、自分が最も優れていると信じ切っているような表情だ。

 冷酷さの中に混在する、子供がそのまま大人になってしまったような危うい雰囲気に周りの者はどこか遠巻きだ。

 その男、ワーカーチーム"天武"がリーダー、エルヤー・ウズルスは面白そうに辺りを見渡した。

 美しい天使や女神の像に見守られるように、バラバラに配置された奇妙な墓石が無数に点在している。

 東西南北には王を葬る時に使うような霊廟が建ち、中央には更に大きく荘厳な霊廟が建っている。

 

 しかし――はっきり言って大したことはない。

 

 それがエルヤーの感想だ。

 確かに彫刻の細緻な作りは素晴らしいが、神がいるにしてはむしろ見すぼらしいと言っても過言ではないかもしれない。

 "神が生み出した地"などと呼ぶのは看板に偽りありと言っても良い。

 

「思ったより、つまらない会になりそうですね。」

 

+

 

 国中の冒険者組合に、一定以上の力を持つ者へ依頼が出されたのは遡ること二週間ほど前――。

 帝国が神聖魔導国に入ってしまったせいでワーカーとしての仕事が殆ど無くなった。

 エルヤーは奴隷の森妖精(エルフ)をわざと転ばせるように何度も突き飛ばしていた。

「全く仕事一つ見つけて来られないなんてとんだクズですね。」

 別にまだまだ貯金はあるが、つまらないのだ。

 あのガゼフ・ストロノーフすら超えるこの剣の腕を披露し、見せ付けたい。

 そう言う仕事が欲しいのだ。

 この国には死の騎士(デスナイト)があまりにも多い。

 こいつらとも恐らく対等以上に渡り合えると言うのに、このままでは腕が鈍る。

 が、無法者と言うわけでもないので死の騎士(デスナイト)に斬りかかるような真似はしない。

 それに――神王と呼ばれる闇の存在はアンデッドの姿も持つが、人間なのだ。

 人間の王のやることには敬意を払う。当然だ。

 しかし、この森妖精(エルフ)と言う耳長の存在。

 ――こいつらはまるっきり劣等種だ。

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!!」

「仕事を見つけるくらいでしか役に立ってない事を分かってるんですか?えぇ?」

 無様に転んでいる森妖精(エルフ)の髪を掴み立たせる。

 怯えきった視線にエルヤーはニヤリと笑った。

 そろそろ入れ替え(・・・・)を検討しようか。

 携える神刀に軽く手を触れ、その身を刀が滑る様を想像する――が、今夜もう一度抱いても良いかもしれない。

 ギリリと胸を掴み上げ、森妖精(エルフ)が悲鳴をあげると愉悦に口元を歪めた。

 今夜はどうしてやろうと考えていると、痛ぶっている森妖精(エルフ)がチラリとエルヤーの後ろに視線を送る。

 その仕草だけでわかる。エルヤーはようやく来たか、と手を離した。

「いつまでそんな所で見てるんですか。早く報告しなさい。」

 エルヤーの後ろで二名の森妖精(エルフ)がびくりと肩を震わせ、慌てて駆け寄ってきた。

 走る馬車にぶつかりそうになり、御者に気を付けろ!と怒鳴られたが、そんな物は一切目にも入らないと言うようだ。

「も、申し訳ありませんでした。」

「お、おま…お待たせしました…。」

「それで?どうなんですか。仕事はあったんですか。」

 見つけられなかったらこの二人にも罰が必要だろう。

「あ、ありました!!冒険者組合で、腕の立つものを集めていると!」

 聞くや否や、ふー…と態とらしくつまらなそうな溜息をついた。

「冒険者登録してない私が…冒険者組合で――」拳を握る。「どうやって仕事を受けるんだよ!!」

 怒号に乗せて森妖精(エルフ)を殴り飛ばすと、もう一人が慌ててその森妖精(エルフ)を抱き庇った。

「ち、違うんです!!難度八十から百に肉薄できる者なら、身分も職業も問わず!募集しているんです!!」

「…ほう?難度百。面白い。」

 難度百と言えば、壮年の竜(オールドドラゴン)海の守り神(シードラゴン)と言った全ての剣を握る者の憧れ――(ドラゴン)クラスだ。

 難度八十がオリハルコン冒険者チーム、難度九十がアダマンタイト冒険者チームと言うのが通常だ。

 それを上回る難度百。これは余程の依頼だ。

 赴ける者が余りにも少ない故のヘルプコール。

 エルヤーは愉快げに笑った。

「良いでしょう。冒険者組合へ行きますよ。」

 

+

 

「神の地ナザリックの防衛点検ん?」

 エルヤーは期待ハズレだとでも言うようにバハルス州が旧帝都、アーウィンタール市の冒険者組合で声を上げた。

 神聖魔導国になる前は閑散としていた冒険者組合だが、モンスター傭兵屋から未知を既知とする探索者と言う新たな看板が掛かったことにより、かつて帝国騎士だった者などがこぞって登録し、今では大賑わいだ。

「おーい!そこのあんた、やめとけよ!難度八十からとは言ってるが、あの死の騎士(デスナイト)と戦える自信がある者だけの参加だって言う話だぜ!」

死の騎士(デスナイト)と言えばかのフールーダ・パラダインも何とか一匹捕らえてたとかそう言うレベルだ!きっと神の御所にはこれがごまんといるんだからな!」

「英雄級じゃなきゃ土台無理な話だ!」

 ワハハハと愉快そうな冒険者達の笑い声が聞こえる。

 今や町中に普通にうろついている死の騎士(デスナイト)だが、約三年前までは伝説のアンデッドとして、それを知る者も少なかった。

「私は当然死の騎士(デスナイト)とも渡りあえますとも。良いでしょう。受けましょう。」

 エルヤーはニヒルな笑いを浮かべてそれを受けた。

 報酬は当日現地払いでかなり良い。しかもこれに参加するのはそれだけで英雄級。

 命知らずだなぁと聞こえてくる声にエルヤーは高らかと宣言する。

 

「私はワーカーチームが天武。エルヤー・ウズルスです。この名をよく覚えておくことですね。」

 

+

 

 アーウィンタール市で最も大きな――かつて四大神信仰を行なっていた神殿の使い回しの――闇の神殿にエルヤーは訪れた。

 ここが集合場所だが、神官が控えるのみで他に参加者はいない。

 ちゃっちゃとナザリックを一周し、報酬金を受け取り売名に勤しみたいところだ。

 もし神から警備に誘われればそれはそれで就職しても悪くない。

 ちらりと神話を読んだことがあるが、眉唾ではあるが神王は相当な力を持つようだし、その神王に見込まれた男、と言うのは実にいい響きだ。

 早くもナザリック攻略後の事へ思いを馳せていると、神殿の扉が開かれた。

「ッチ。この都市からは私一人かと思ったのに。」

 振り返れば――雷光バジウッド・ペシュメル、激風ニンブル・アーク・デイル・アノック、不動ナザミ・エネック。

 バハルス州の抱える州兵最強の三人だ。

「ほーう!皇帝陛下は俺たちだけだろうと言っていたのに、いるじゃねぇか!」

「バジウッド、エルニクス様はもう皇帝陛下ではありませんし、陛下を付けていいのは神王陛下と光神陛下のみですよ…。」

「………そうだ。」

 まるで当然自分達の方が上とでも言うような雰囲気にエルヤーは僅かにイラつく。

「どうも。私はエルヤー・ウズルスです。この点検が終わる頃には再び四騎士になれるかもしれませんよ。」

 三騎士から頼み込まれれば加入してやってもいい。そういう心持ちでエルヤーが手を伸ばすとニンブルは若干嫌そうな顔をしてから手を握った。

「どうも。我々は――」

「存じ上げているので名乗って頂かなくても結構です。」ピシャリと言い切った。「それでは、宜しくお願いします。」

「ハハハ。俺たちも有名だなぁ!よろしく!」

 バジウッドが痛くも痒くも無いと言うように笑っていると、再び扉が開かれた。

 ぞろぞろと数名を従える八十歳を超える好好爺が声を上げた。

「なんしゃなんしゃ、随分楽しそうしゃのう。」

「――"竜狩り"のパルパトラ・オグリオン…。」

「んん?お主は誰しゃ?わしを知っておると言う事は冒険者てはあるまいのう。」

 顎髭を扱きながら様子を見るパルパトラにエルヤーは手を伸ばす。

「"天武"のエルヤー・ウズルスと申します。」

「…お主があの王国最強――カセフ・ストロノーフに匹敵すると噂のウスルス。これは期待してしまうのう。」

 握手を交わしながら、やはりワーカー同士は話が早いと思う。

 "竜狩り"のパルパトラと言えば、チーム名の通り竜を狩った事がある男としてワーカーの間ではあまりにも有名だ。

 その身に纏う緑色の鎧はその時に狩った緑竜の鱗で作られているらしく、大変高価だとか。

「どうも。ナザリックに私が苦戦できるレベルの者がいれば良いんですがね。それに、そろそろかの戦士長が私――エルヤー・ウズルスに匹敵する、と言われるべきでしょう。」

「………なるほと。お主は中々面白い者しゃな。さて、そちらは――」

 簡潔に挨拶を済ませると老人は三騎士に挨拶を交わしに行った。

 ふふんと鼻を鳴らしていると、闇の神の像の前に、まるで地獄へ繋がるとでもいうような黒い楕円形の染みが現れた。

 中からは切れ長の目に美しい黒髪の女――メイドだ。

 メイドは辺りを見渡すとため息をついた。

「こちらも下等生物(ガガンボ)ばかりですね。とても御方々にお喜び頂けるとは思えない生き物ばかりですが――仕方ありません。付いて来なさい。」

 なんて高飛車な――。

 美しくはあるが不愉快な女は闇に戻って行った。

 三騎士は目を見合わせると、やれやれと首を振り、デミウルゴス様タイプだな、とよく分からないつぶやきを残し闇を潜った。

「…これを潜っていくと言うのですか…。」

 この先に突然竜がいたとしてもおかしくは無いような、そんな深い闇を感じる。

 ガタガタと震えている森妖精(エルフ)達が実に目障りだ。

「しゃ、わしらも行くかのう。」

 "竜狩り"も平気な様子で足を踏み入れて行く。

 今回の侵攻訓練はギブアップと言えばそこで手を止めて貰えるとも聞いたし、命の危機はない。

 しかし、何故だかエルヤーの背筋には危機を知らせるような――生き物としての本能のような物が這い上がっていた。




君、やめておいた方がいいね!(´∀`)

次回 #48 集う者達
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