眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#48 集う者達

 楕円の闇が開く――。

 

 蒼の薔薇とブレイン・アングラウスもエ・ランテル闇の聖堂より、ナザリック地表部前に到着した。

 

「ここがナザリックなのか?陛下はどこだ?」

 イビルアイは早速神探しを始めた。

「…陛下がうろうろしている訳がないでしょ。ここからさらに転移するんじゃないかしら?」

 目の前には巨大な門と、その向こうには墳墓。

 落ち着き払った様子のブレインとは対照的に、蒼の薔薇一行は門の向こうの墓所を覗こうと首を伸ばした。

 すると、ガガーランが親指でビッと墳墓と反対側を指差した。

「いや、そうでもないみたいだぜ。見てみろよ。」

 壁のようなガガーランの向こうには先に来ていた者達がせっせとテントを張って荷物をしまって行く様が見て取れた。

 中にはアダマンタイト級冒険者チーム"朱の雫"、ラキュースの叔父もいる。

 ラキュースは視線で挨拶を交わしたようだった。

「じゃあやはりここか!ここが陛下の座すナザリックなのか!」

 イビルアイがクゥーー!と声を上げると、エ・ランテルから送ってくれた眼鏡をかけるメイドがコホン、と咳払いをした。

「皆様もご準備を。あちらがエ・ランテルよりいらして頂いた点検隊の皆様の場所でございます。」

 冒険者ではない者も居るため、ナザリックに入る者は点検隊と呼んでいるようだ。

「分かりました。侵攻時には荷物番を置いて行ったほうが良いですか?」

 ラキュースが手を挙げて質問すると、眼鏡のメイドは近くにいるミスリル級冒険者チームの証を首から下げる者へ視線を送った。

 ミスリル級の者も参加するのかと――見下しているわけでは無く、その身を案じてしまう。

 人の良さそうな青年を見ると、ブレインは「お」と声を上げた。

「ペテルじゃないか。お前も行くのか?」

「ブレインさん、お疲れ様です。私達に点検隊は無理ですよ。ここでエ・ランテル組の皆さんの荷物番です。」

「あぁ、そう言うことか。俺は荷物はないから先に墳墓を見てきても良いか?」

「まだ侵入はダメですから、周囲の確認に留めてくださいよ。」

「はいよ。任せとけ。」

 ペテルは冒険者組合が持っている育成会に足を運んでいるため、そこで師範を務めるブレインとは顔見知りだ。

 連れられて、ラナー・ティエール州知事の下に遊びに行く程仲が良い。

 会いに行く対象は当然州知事ではなく、その夫になったクライム・ティエールだ。

 ティエール家には冬に元気な女の子が生まれ、クラリスと神より名を賜っている。

 ペテルはしょっちゅう飲みに行く馴染みの師範を墳墓へ見送ると、青の薔薇に向き直った。

「えっと、こんにちは!蒼の薔薇の皆様ですね。お待ちしてました。私は冒険者チーム、"漆黒の剣"のリーダー、ペテル・モークです!皆さんが置いていかれる荷物はきちんとこちらで管理しておきますのでご安心ください。」

「モークさんですね。私は"蒼の薔薇"のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです。よろしくお願いします!」

 二人は軽く握手を交わすとメイドに見送られ、指定の場所へ移動した。

 

「わぁ、みなさんが蒼の薔薇なんですね!すごいなぁ!」

 中性的な顔立ちの、肩口で栗色の髪を切りそろえた女性――と言うにはまだ若いような乙女は感激しましたと蒼の薔薇の一行を見た。

「一応うちの仲間をご紹介します。森司祭(ドルイド)のダイン、野伏(レンジャー)のルクルット、そして――ニニャ・ザ・術士(スペルキャスター)!」

 ペテルは最後にジャーンとでも言うように栗色の毛の乙女を指し示した。

「ほう。術士(スペルキャスター)のニニャとはエ・ランテルに住むようになってから聞く名だな。良いタレントだ。」

 イビルアイは少し興味を持った。

「あ、恥ずかしいな。はは。ペテルがあんまり言いふらすから…。」

 もじもじと顔を赤くするニニャは、やはりもじもじと顔を赤くするペテルをちらりと伺った。

「なんだ、チームの中で惚れた腫れたをしているのか。気を付けろ。何かあったら背中を任せ――」

 イビルアイが説教混じりのことを言い始めるとガガーランが大きすぎる咳払いをした。

「ッンッンン――まぁ、なんだ。あんたらになら、安心して荷物も任せられそうだ。よろしくな。」

「そうね。もし荷物番に疲れたら、うちのテントで休んで貰って構わないですからね。」

 ラキュースが微笑むと、ズザッとその前に一人が片膝をついた。

「美しい!!心まで美しい!!惚れました!!付き合って下さい!!」

 ルクルットからビッと伸ばされた手にラキュースは目を丸くした。

「え、え!わ、私ですか!!」

「…やめておけ。軟派タイプの奴はお前には似合わん。」

「ちょ、ちょっとイビルアイ。」

 好みではない為断るつもりではいるが、素直なイビルアイの物言いに、ラキュースは気を悪くさせたのではないかとチラリとルクルットを伺う。

 しかし、未だ瞳を輝かせるルクルットはまるで何の痛痒も感じていないようで苦笑した。

「ラキュースさん!どうですか!!」

「おい、そんな事より俺達はテント張ろうぜ。」

 ガガーランに至っては完全無視だ。

「そうしよう。」「皆さんよろしく。」

 双子が一時荷物置き場を作るために薄いマットを敷くと、イビルアイとガガーランは荷物を置きテントを張り始めた。

 

 丁寧に断っているラキュースを放置し、せっせとテントを張っていると、数歩隣のテントから森妖精(エルフ)達が顔を出した。

「ん?森妖精(エルフ)のチームとは珍し――」

 森妖精(エルフ)達は耳を半端に切り落とされていた。

 これは奴隷の証だ。まるで大切にされている様子はない。

 頭陀袋のようなものを着せられ、怯えるようにしている。

「胸糞悪いな。」

「全くだぜ。」

 イビルアイとガガーランが気分を悪くしていると、森妖精(エルフ)達が出てきたテントから、スラリと背の高い男が姿を現した。

「やることも無いですし、もう一度墳墓を――おや?」

 ガガーランは奴隷の持ち主と目があったことに気が付くと、心の中でゲッと声を上げた。

「蒼の薔薇…の方々ですか?」

「…あぁ。俺は蒼の薔薇のガガーランだ。よろしく。」

「私はイビルアイ。お前、奴隷とは言えあまり粗末に扱うなよ。」

「こんな耳長の劣等種族に情けをかけるなんて、流石アダマンタイト、ですね。私は"天武"がエルヤー・ウズルス。今後お会いするタイミングもあるでしょう。お見知り置きを。」

「…そうか。よろしく。」

 イビルアイは話したくもないとばかりに作業を続けた。

 

 そんなテントを睨む者が別の場所にも一人。

「はぁーむしゃくしゃするわー。」

「イミーナ、落ち着けって。」

「あいつが点検に入ったらテントに火でも着けてやろうかしら。」

「…んな事したら速攻で冒険者組合追い出されんだろ。」

 ヘッケラン率いる冒険者チーム"フォーサイト"は旧帝国にいた事があるとうっかり口を滑らせ、見事にバハルス州の者達の荷物番におさまった。

 アルシェとロバーデイクは"三騎士"と和やかな会話を繰り広げているがこちらの二人の空気は最悪だ。

 任された以上やり遂げると言っていたが、ヘッケランはやっぱり警護対象を変わって貰おうと決め、苛つくイミーナから離れて同僚に駆け寄る。

「すまない、ペテル。ちょっと相談したい事があるんだ。」

「ヘッケラン…どうかした?」

 同僚は妙に疲れた様子だった。

「…大丈夫か?なぁ、警護対象なんだが、うちじゃ"天武"を見てられなそうなんだよ。"竜狩り"と"三騎士"は良いんだけどさ。"蒼の薔薇"とアングラウスさんから変わってくれないか?」

「あー……それがうちもちょっと"天武"は…。」

 そう言わずに、とイミーナを指し示そうとすると、ニニャから"天武"へ放たれる激しい感情を感じ、ヘッケランは数度目を瞬いた。

 イミーナからは嫌悪が溢れているが――これは憎悪だ。

「――ニニャさんは森妖精(エルフ)奴隷反対派だったっけ?」

「そう言うわけじゃないんだけど、ちょっと色々あって…。」

 これはとても変わっては貰えないなとヘッケランは交代を諦めた。

 

「まずは付き合ってみてから考えては!!」

 突如響いた大声に、またか――と二人は見合わせていた顔を引攣らさる。

 周囲にいる点検隊や荷物番達も視線を注いでいる。

「…アレいいのか?」

「良くないからもう止めたんだけど…止まらない…。」

 ルクルットが声を投げかける先にいるのは"蒼の薔薇"。

 最高位冒険者に悪感情を抱かれるのは避けたいだろうなと心痛を察するが、当の"蒼の薔薇"は話し掛けられている本人以外はどうでもいいとばかりに墳墓の方を指差し何かを話している。

「…流石最高位冒険者。器量が違うみたいだな。」

「怒られるくらいが本当はちょうど良いと思うんだけど…。」

 ガクリと肩を落とすペテルに苦笑していると、次の闇が開いた。

旧竜王国(ブラックスケイル)からは名乗り出る者はいなかったんだよな。」

「らしいね。冒険者組合からの参加者も以上って聞いたし、最後は――神都組のはずだよ。」

 二人はごくりと唾を飲んだ。

 他の都市からは"朱の雫"や"クリスタルティア"、"銀糸鳥"や"漣八連"と言った錚々たるメンバーが揃っているし、既にかなりの豪華さだが――あそこから出てくるのは神々に見出された人類最強の集団。

 アダマンタイト冒険者達すら息を殺し、その者達の登場をじっと待つ。

 これまでやかましくしていたルクルットも流石に静まり返り、真面目な顔で闇を見つめている。

 

 すると、出てきたのは白金の全身鎧(フルプレート)――。

 これまでと違いメイドも無しに一人で出て来た。

「ん?戦士みたいだけど誰だ?」

「さぁ…?随分いい鎧だけど…。」

 戦士はすぐ様屈むと草を数本抜いてじっと見つめ、次は墳墓の方へ向かい、天を仰ぐ。

 まるで太陽の位置と自分の位置を確認しているかのような姿は――この場所の特定を行なっているようでもあった。

 そんな事が出来るはずもないのに。

 その後墳墓を一周するのか見えない場所へ消えて行った。

「変わった奴。」

 ヘッケランの呟きにペテルが頷いていると、更に闇が開き、ぴょいとメイドが出てくる。

 緑の変わった柄のマフラーをし、片方の目にはアイパッチ。

 翠玉(エメラルド)カラーの瞳で無感情にあたりを見渡すと、膝をついた。

「え!?待て、出てくるのは神々か!?」

 辺りにざわめきが広がる。神に創り出されしメイドが冒険者や聖典に膝をつくわけがない。

 踏み出してきたのは――漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包む偉丈夫。

「モ、モモンさん…。」

「あれが漆黒のモモンか……。」

 女神に拾われたこの世で最も幸運な孤児。

 その後に続くように続々と部隊が現れる。

 てんでバラバラの――しかし神話にでも出てくるのではないかと言うような装備に身を包む並外れた気配を放つ面々。

 "神を連れ帰った男"に引き連れられるローブに身を包む面々。

 陽に照らされた部分が紫に輝く深い黒の鎧に身を包む三人と、風変わりな少女。

 全員は揃うと慣れた足取りで並び、墳墓へ向かって深く頭を下げた。

 

「すげぇ…。」

 誰もが立ち竦み、神の肝いりの部隊を眺め放心した。




オールスター感謝祭!
次回 #49 出発準備


【挿絵表示】

今日読者の方とお絵描きチャットをしたのですが、shi-R様がエルヤー君を書いてくださいました!
背景に標準的アーウィンタールをジッキンゲンも一緒に描かせて頂きご満悦です!
その名も「帝国へようこそ!」です!うわぁい!

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