眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#50 よーい、どん!

 墳墓前では冒険者の組、聖典の組、その他と徐々に塊が出来始めた。

「君はどうするんだい?アイン――。」

「だから!!――モモンさんだって言ってるだろ…?ツアーさん。」

 モモンさんはツアーさんの胸ぐらに掴みかかっていた。

「…君が何をしたいのか僕にはわからないよ。モモン…。」

「侵攻訓練だと言っているだろう。どれだけ弱いように見えても、スキルの扱い方によっては強敵になり得るんだ。リトルにはなんだかんだと肝を冷やされたからな。百レベルに行かなくても持ちうる力の扱い方によっては十分強敵になると痛感した。あらゆる力を持つものにきちんと対応できる、コストを抑えた防衛プランが必要だ。今回の物がうまくいけば、常時それを適用する。――ただ、幻術使いがいないと言うのが残念だな。」

 ギルド拠点は金貨によって維持されている。

 防衛にコストを割きすぎて金貨が無くなるようなことがあってはナザリックが崩壊してしまうが、かと言って手薄なのも問題だ。

 コストパフォーマンスと防衛両方のいい所取りを狙いたい。

 

「そうかい。でも僕が聞きたいのはそっちじゃなくて、姿と名前のことなんだけど。」

「…この姿は趣味みたいなものだ。」

「君は変わっているね。」

「同じ鎧姿でうろついているお前にだけは言われたくない。」

 探知阻害の指輪も口唇蟲も着けていると言うのに何故分かるんだとモモンは忌々しげにツアーを見た。

 しかし、考えてみれば守護者達にも必ずバレるし一定以上のレベルの者には探知阻害は効かないのだろうか。

 いや、それにしては番外席次や漆黒聖典隊長が気付かないのがおかしい。

 一レベルのメイドが気付けるのも謎だ。

 やはり竜の直感(ドラゴンセンス)と――ナザリックセンスなのだろうか。

 そんなものがあれば、だが。

「――所で、なんでお前は草なんか持ってるんだ?」

「これかい?これはここに自生していた植物だよ。ここが何処なのか調べていたんだ。」

 ツアーはまるで映画のスターが煙草の吸殻を放る様にポイと草を手放した。

「それで、解ったのか。」

「大まかな場所はね。見つけるためには一日空を飛ぶ必要がありそうだ。」

「ふ。普段は幻術を張って居るから、ナザリックは見えんぞ。」

「それは残念だ。次は竜の身で防衛点検に付き合うよ。」

「そうだな。お前に見つけられるようなら、外部の防衛も考え直さなければ。」

 二人は冗談と皮肉の中間の笑い声を上げた。

 すると、二人の下には集団が向かってきた。

 痩せ型の老人とその仲間のような者達、支配者のお茶会にラナーの護衛として訪れた刀を佩いだ剣士ブレイン・アングラウス、旧帝国に足を運んだ時に一緒に街を回ったバジウッド・ペシュメル、エ・ランテルにフールーダを連れてきたニンブル・アーク・デイル・アノック、大きな盾を二つ持った無口そうな男。

 冒険者でも聖典でもない者達だ。

 蒼の薔薇との反省を生かし記憶をしっかり呼び起こしてから、モモン姿で会ったことがあるバジウッドとだけ手を挙げ合い挨拶をする。

 口を開いたのは老人だった。

「わしはパルパトラと言うんしゃか、おぬしら、良かったら一緒にとうしゃ?一人や二人て乗り込んても碌な所まてはいけんしゃろ?」

 モモンはツアーに軽く視線を投げると、好きにしろとばかりに顎をしゃくられる。

「ありがとうございます。折角なのでご一緒させて頂きます。私は――」

「漆黒のモモン。建前は冒険者の、その実中身は聖典寄りの存在しゃろ。とちらにも付けない心情はよくわかる。ひゃひゃひゃ!」

「……お分りいただけて何よりです。こっちはツアーさんです。」

「よろしく。今回僕は誰かを守る予定はないとだけ言っておくよ。」

 圧倒的な高みから見下ろすような態度だが、不思議な事に嫌味さは感じない。

 超越した力を身に纏うような雰囲気が不快感を懐く隙も与えなかったのだ。

 モモンは竜王達特有の順列(・・)を思わせる物言いだと言うのにこの竜王の言葉は他の者とは違う気がした。

 イビルアイやリトル程度のレベルの者と旅をして来た故なのだろうか。

 ツアーは七彩の竜王(ブライトネスドラゴンロード)を人間と交わった変わり者だと言っていたが、ツアーも竜以外にある程度の敬意を払っている分、竜王の中では変わった存在だと思う。

「おぬしの名は聞いた事かないのう。しかし、解るそ。只者しゃあるまいな、その身のこなし。」

「僕はこの世界で(・・・・・)上から数えた方が早い。そういう存在だよ。」

「この世界…?剣の世界という事かの?」

 モモンはこの世界最強の竜が自分を一番と言わないことに不安感を抱く。

「おい、お前は自分が一番だと言い切ってくれなきゃ困る。」

「僕は父より強かった事は無いからね。」

 いつか竜帝なる常闇を超える存在と合間見える時が来るかと思うとモモンは途端に気が重くなった。

 戦うとは限らないが、フラミーの顔を見たくなる。

 家の玄関で嫁に会いたいなどと馬鹿げているだろうか――。

 

「――面白い話ですね。私もこのチームに参加させて頂いても?」

 さらに現れた蛇のような男はモモンとツアーをジロジロと眺めていた。

 パルパトラはモモンに許可を求めるような、代わりに応えてくれとでも言うような微妙な顔をした。

「御老公。私達はどちらでも構いません。」

「…いいしゃろう。ては、共に行こう。」

「どうも。私はエルヤー・ウズルス。神に拾われた漆黒のモモンと、それが一番と認める男なんて、興味深いですね。」

 何も応えないツアーはエルヤーの向こうに視線を送ったようだった。

 モモンもそちらを見れば、耳を切られた森妖精(エルフ)が三人肩を寄せ合っていた。

「私はモモン、こっちはツアーさんです。――後ろの者達は奴隷ですか?」

「そうです。一応神官(プリースト)野伏(レンジャー)森司祭(ドルイド)なので多少は役に立ちますよ。回復が必要になったら使って下さい。」

「なるほど。ありがとうございます。」

 アインズはきちんと手に職を持つ奴隷を持つ相手ではスケルトン奴隷を売り込むことは出来ないな、と歪んだことを考えた。

 

+

 

「じゃあ、そろそろ入ってもらいます?」

 第六階層の湖畔で、フラミーは複数枚の遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を前に、隣に座るアルベドへ顔を向けた。

 玉座の間ならもっと簡単に全ての確認が出来るが、今日は外出したい気持ちが爆発寸前なのでこんな所に腰を下ろしている。

 侵攻訓練の侵攻組に参加したかったが却下された為だ。

「準備は既に万全でございます。きっとアインズ様にもフラミー様にもご納得頂けますわ。」

 微笑みながら手を重ねられると、金色の瞳の中に恋する者を映すような色があり、フラミーはムズムズした。

「そ、そうですか。」

 女性にこういう瞳を向けられるのはここに来てからの経験だし、ふとしたタイミングで本当にこの悪魔がサキュバスなのだと思い知る。

 フラミーがドギマギしている事に気が付いた――アルベドと反対側に座るデミウルゴスが大袈裟な咳払いをする。

「点検者達は聖典の一部とツアー、アインズ様を除いて脆弱ではありますが、多くの機能の確認が可能かと思います。ご期待ください。」

 フラミーはアルベドからパッと視線を離した。

 三人で身を寄せ合って湖畔に座る姿はさながらピクニックのようだ。

 男性使用人が絨毯とクッションを出してくれているので快適かつ優雅だった。

「全部チェック出来ると良いですね!」

「はい。これだけいれば罠を解除できる者も一人くらいいるかもしれません。そうなれば罠に掛けた罠まで確認できます。」

 悪魔の口元には若干の邪悪さが滲み出ている。

「あ、費用発生系の罠は極力絞った作りですよね?」

「もちろんでございます。アインズ様よりこれから毎日の事になると、コストパフォーマンスには最大限注意を払うように仰せつかっております。しかし、それでありながら百レベルとも十分に渡り合えるように工夫いたしました。」

 フラミーはよくわからないが、この鏡の中に写っている物が知恵者達が出した最適解なのだろう。

「それでは、地上の戦闘メイド(プレアデス)に連絡し、始めさせていただきます!」

 アルベドが宣言し、伝言(メッセージ)を送り始める。

 仕事モードになると途端に格好良くなってしまうのだからズルイ。

 女でも見惚れる美をボーッと眺め、アインズの執務は本当に誘惑に誘惑の連続だなぁと考える。

 

 アルベドが伝言(メッセージ)を切ると、地上ではルール説明が始まったようだった。

 ルールは簡単だ。

 ナザリックの物を持ち出さない。死んでしまうと思ったら、地表部前へ転移する帰還書で外に帰る。万一死んだら生き返らせる為蘇生の拒否をしない。拒否した場合はそれまで。

 それだけだ。あとは本気で挑むだけでいい。

 それにやる気が続くなら何度でも墳墓へ戻ることも許されている。

 フラミーはどんな罠が待っているのかと、ほんの少しだけワクワクした。

 今回復活は御方々の手を煩わせることはないとペストーニャが行うそうだし、このショーを楽しむだけでいい。

 気楽なものだった。

 

 守護者二名と交互に視線を交わすと、フラミーは大きく息を吸った。

「よーい、どん!」




モモンさん…!ツアーさん…!

次回 #51 第一階層 アンデッド

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