「なんでわかってくんないんだよ!!フラミー
「俺達の望みはそんなことじゃないはずだろ。」
鈴木悟を凝縮したような者はぶんぶん頭を振った。
「違う!最初からずっとこうしたかったんだ!!フラミー
鈴木悟はヒビ割れた声を上げ震えながらフラミーを抱きしめて泣いた。
フラミーさん、フラミーさんと繰り返すあまりに哀れな自分の背中からアインズはつい目を逸らしたくなった。
このNPCを創った時に
「…パンドラズ・アクター。お前の気持ちは痛い程によくわかる…。でもこの方法じゃ多分フラミーさんも俺たちも幸せになれやしないんだよ…。」
「してみせます!だから、頼むから
「行かせたくないって…外には俺も出す気は無い。だから安心しろって。」
「だめだ!それじゃ足りないんだ!!」
折れてしまうのではないかと言うほどの力で鈴木悟がフラミーを抱きしめると、フラミーの口からは苦痛に耐えるような声が上がった。
「あ、おい、そんな風に扱うな!!大切なら…壊れるような…扱いは………やめろ……。」
言いながら、最重要課題を思い出し尻すぼみになった。
特大ブーメランだ。
結局これは自分自身なのだから、何を言ってもブーメランだろう。
「兎に角フラミーさんを離しなさい。」
「離したらどうせフラミー
聞いたことのある言葉に自分が何をそんなに恐れているのかようやく理解した。
ずっと子供を案じ、安全な場所に置きたいと言っているのかと思っていたが――
「お前、まさかフラミーさんがリアルかどっかに行くと思ってるんじゃ…。」
「……フラミー
アインズは鈴木悟の顔で睨み付けられウッと一瞬胸を押さえた。
「そうじゃない!そんな理由で俺はフラミーさんをお前に任せたんじゃないし、ナザリックに置いていこうとしたんじゃない!フラミーさんは何処にも行きやしない!ずっとそばにいる!」
「ずっと…そばに……いたいのに!なのに!!」
鈴木悟の声は怒りと嘆きが合わさったものだった。
ギギッとよくない音がフラミーから鳴るとアインズは慌てて杖を振った。
「ッチ、俺ってやつは本当にどうしようもない!!<
アインズから魔法を送られたフラミーはゆっくりと目を開いた。
今にもまぶたが落ちてしまいそうな様子だが、自分を抱きしめて泣く、筋肉のない痩せたモモンを見るとその背をそっとさすった。
「っ…あなた…どうしたの?何が怖いの…?」
「俺、怖いんだ。
「はは…また…それですか…?」
「行かないで…
「行かないですよ。あなたのいる所が…私の生きる場所……。」
フラミーは鈴木悟の顔を包み、そっと唇を寄せ――アインズは「あ、ああ…」と情けない声を上げた。唇同士が繋がってしまう直前にギュッと目を閉じ、己の唇を噛んだ。
それが触れ合い、離れる音が聞こえた。
「ふ、ふらみー
「もう二度と一人にしないから…。」
フラミーは笑うとまたこてりと眠りに落ちた。
穏やかな寝息が上がる。
アインズの心にはあたたかい物が広がった。
もう
「フラミーさん、ありがとう……。」
鈴木悟を慰めてくれた人に檻越しに感謝を送った。
「パンドラズ・アクター。お前は二つ致命的な勘違いをしている。」
自分の唇に触れポロポロと涙を落とし、呆然としていた鈴木悟はゆっくりアインズを見た。
アインズが自分の腹をトントンと軽く叩いて見せると――鈴木悟は一瞬自分の腹に触れた後、ハッとしたように自分の腕の中にあるナザリックの最秘宝の腹に手を乗せた。
「まさか…。」
「そうだよ。だから、俺はその人をナザリックで守って欲しかったんだ。それに、フラミーさんの言う通り俺もフラミーさんも決してナザリックを離れない。どこにも行かないんだ。二人一緒にここで生きていく。これから生まれてくる者は俺達の誓いの証だ。」
その瞬間鈴木悟の身は揺らめき、まるで桜が舞い散るようにその姿はパンドラズ・アクターの物に戻った。
「ナザリックを…離れない…。」
「そうだ。決して離れない。」
「あ…あぁ…ぢぢゔえ"…!」
アインズは思わず鎮静されるかと思った。
「はは、本当に俺って仕方ないやつ…。」
「フラミー
抱きしめていたフラミーをそっと寝かせるとそれを見下ろし、二つの黒い空虚の輪郭から大粒の涙を――出したような気がした。
何も変わらない埴輪の顔はいつも通りだ。
縋るようにフラミーの胸に顔を当てるとパンドラズ・アクターは出ない涙を絞り出すようにそのまま暫く肩を震わせ続けた。
「まったく大バカ息子が。さぁ、そろそろここを開けなさい。」
パンドラズ・アクターは父上父上と言いながらふらふらと立ち上がり、扉の前に着くと帽子を脱いだ。
「私は…宝を守る守護者として相応しくありません…。この命をもって我が至高なる創造主たるモモンガ様とフラミー様にお詫びを…。」
「…パンドラズ・アクター。私がお前をどう思っているか知っているか。」
パンドラズ・アクターはゆっくり首を振った。
「お前を宝物殿に置いたのは、私がお前自身を宝だと思っていたからだよ。」
「私が…。」
「そうだ。お前もこのナザリックの秘宝なんだ…。だから、私の宝に余計な真似はするな。」
その場に崩れ、ドサリと床に膝をつくと檻の中でパンドラズ・アクターは己の身を抱きしめた。
檻の外からむき出しの頭を撫でてやりながら溜息をつく。
「パンドラズ・アクターよ、お前の趣味はなんだ。」
「…宝を愛でる事です…。」
「そうだ。ではお前がやらなければならない事はなんだ。」
「宝を…守る事です…。」
「解っているなら、私の宝をちゃんと大切にしてくれ。」
頭をポンポン叩かれながらパンドラズ・アクターは顔に手を当て震え続けた。
「さぁ、開けられるな。」
頷きと共にゆっくりと開かれた扉をくぐると、アインズは大層不出来な息子を立たせて抱きしめた。
「お前はこれからお兄ちゃんになるんだからしっかりしろよ。」
パンドラズ・アクターは静かに頷くと、全知全能の創造主の背に手を沿わせた。
「…弟でしょうか…。」
「………それはまだわからん。」
全知全能の筈の神にもわからない事があるわけもない。
意地悪で言われているのだとパンドラズ・アクターは少し笑った。
ごそごそとフラミーが起きる気配にアインズがパンドラズ・アクターの肩から顔を上げると、目をこするフラミーは呟いた。
「……らぶしーんしてる…。」
「……してません。」
「うーん。紅茶飲むとすっごく眠くなるってわかったんで、私しばらく控えようかと思います。」
アインズとフラミーは結局檻の中の二脚の一人掛けソファに座っていた。
その前にはパンドラズ・アクターの淹れた冷たい紅茶が紙のように薄いグラスに注がれていた。
「……そう言うこともあるんでしょうねぇ。」
「…それは不思議ですねぇ。」
親子は二人揃って紅茶を見詰めるフラミーから視線を逸らした。
「せっかく淹れて貰ったのに、ごめんね。」
フラミーはアインズの膝の上で子供サイズになって足をぶらぶらさせているパンドラズ・アクターに申し訳なさそうな視線を送った。
あれだけ美味しいからと飲んで欲しがる自信の一杯だとはわかっているが、どうにも受け付けないと解って貰いたかった。
子供パンドラズ・アクターはぷるぷると何度も首を振っていた。
「…可愛いなぁ。アインズさん、私も抱っこさせて下さい。」
「無理です。」
アインズはぴしゃりと拒否した。
「…父上、我が宝の望みなので。私はこれで。」
「……お前、全部許されたとでも思っているなら大間違いだぞ。」
「またまたそんなっ!」
パンドラズ・アクターはどうやっているのかは謎だがキャピッと星を飛ばすといそいそとアインズの膝を降り始めた。
「ダメだ。お前はもうフラミーさんに二度と触るな。」
「アインズさん、ズアちゃんに意地悪しないで下さい。」
少し頬を膨らませたフラミーに叱責されるとアインズは可愛子ぶっている息子を睨み付けた。
「本当ですよ。父上、子供に嫉妬などみっともない。」
「…やっぱり一回くらい死んでもらったら良かったか…。」
「アインズさん!言って良い事と悪い事がありますよ!」
フラミーはガタンと立ち上がると小さいパンドラズ・アクターを抱き上げ背を数度ポンポン叩いた。
ポヤポヤと花を撒き散らし、至福とでも言うような顔をする息子に只々苛々する。
以前
「…本当に大馬鹿息子だ…。」
しかし全ては
そして息子は思い出したようにフラミーを見上げた。
「あ、そう言えば先程セバス様にご連絡したところ、
「何!?お前話したのか!?」
アインズは立ち上がると不出来すぎる息子の首根っこを掴み、驚いているフラミーから取り上げた。
「は、はぁ。話しましたが…。」
そのままアインズは背の皮を掴まれる猫のようになっているパンドラズ・アクターを連れて出口へ向かい、その手を使って開いていた檻をガシャンッと閉めた。
「ち、ちちうえ?」
「…フラミーさんは暫くここに閉じ込める。それがフラミーさんのためだ。」
「えぇ!?何故ですか!?おやめ下さい!フラミー様には検診が必要です!!」
途端に大人の姿に戻ったパンドラズ・アクターが扉を開こうとするとアインズはその手を掴み上げ、二人は取っ組み合うように手のひらを押しあった。
「ええい!お前もこれが望みだろうが!!」
「望んでおりません!!っこの、お離し下さい!!」
「嘘をつくな!じゃあ私の願いを叶えろ!」
「父上の願いとは言えお聞きいたしかねます!!」
「「頑固者!!」」
二人は仲睦まじく互いを罵った。
フラミーは今日も仲がいいなぁと親子を見ながら、夢に見た涙にくれる鈴木悟を思い出した。
取っ組み合いを続けるアインズのローブの裾を数度引っ張る。
「アインズさん、アインズさん。」
「っこのバカ息子――どうしました?」
アインズの怒りの波動はぴたりと治り、パンドラズ・アクターも話を邪魔しないように静かにした。
「寂しくないですからね!私、どこにも行きませんから!」
「…はい。俺はよく解ってますよ。」
アインズは息子から離れ、ナザリックの最秘宝を抱き締めると
「…何を見ているんだ。」
客席でもじもじする舞台役者を手招く。
「早く来なさい。」
顔をパッと明るくした息子は二人に飛び付いた。