眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#4 閑話 男児は女児の格好を

「つ、疲れましたー。」

 大聖堂完成式典からアインズと守護者達と共にナザリックに戻ったフラミーはハァーと長く重たい息を吐いた。

「はは、お疲れ様でした。長丁場でしたね。」

 

 今日、アインズ達は子が出来た事をこの完成式典を利用して国内外に向けて報告した。

 神官達は興奮し過ぎ、過呼吸で倒れる者が出てしまい、神官から神官へ中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)が飛び交った。更にはフラミーの抱くヴィクティムが神の子なのかと思われたり、何かと疲れるイベントが盛りだくさんだった。

 生まれる数ヶ月後を皆が楽しみに、大聖堂では未だお祭り騒ぎが続いている。

 フラミーは大聖堂で腹に向かって謎の祈りを捧げられ続け、すっかりお疲れモードだ。

 腰に手を当て伸びながら歩いていると、ふと守護者達がどうすると何かを話し始めた。

 アインズはフラミーを休ませてから言いたいことは聞いてやろうと決め、フラミーの部屋に入ろうとすると、アルベドが一歩前に出た。

「あの、お疲れの所大変申し訳ないのですが、実はフラミー様のお部屋には――」

 何だろうとアインズとフラミーが首を傾げていると、フラミー当番が扉を開けた。

 そこには「――贈り物を置かせていただきました。」

 アルベドは申し訳なさそうに頭を下げたが、いつも慈悲深い支配者達はすぐに良いよとは言わなかった。

 それもそのはずだ。

 置かれているのは大量の女児用のベビー服なのだから。

 ピンクでフリルが付いていたり、スカート風のデザインだったりとどれも愛らしい。

 

 僅かな間ののち、フラミーはようやく口を開いた。

「あの、それは全然良いんですけど…。」

 フラミーとアインズは男児だときちんと通達できていなかったかと顔を青くした。

「お前達、これはどうしたんだ…?」

 食いついて貰えたことに守護者達とアインズ当番、フラミー当番は瞳を輝かせた。

「実は、守護者とメイド一同で作りました!」

 アインズは想像通りの返答にプレッシャーを感じながら頷いた。

「そ、そうだろうな…。あぁ。そうだと思ったとも。ところで、さっき大聖堂でも言ったが…うちの子はどうやら男児のようなのだが…。」

 言い辛そうに言葉を紡いでいくと守護者達は存じておりますと嬉しそうにした。

「ああ!御生まれになる冬が待ちきれませんわ!!」

「きっと美しい方が御生まれになりんしょう!!」

 二名のビッチがいやんいやんとくねるのを見ながらこの二人の存在は本当に教育に悪そうだと思う。

 いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

「…男児だとわかっていてこれを用意したんだな…?」

「は、はい!じ、実は僕が皆に提案しました!」

 キラキラと瞳を輝かせるマーレが一歩前に出ると、アウラも胸を張った。

「あたしも一緒に提案したんですよ!男の子なんだから、女の子のお洋服を差し上げようって!」

 あまりの眩しさに一瞬目を逸らし、アインズは全てを察すると心の中で叫んだ。

(ぶくぶく茶釜ぁーー!!)

 もはやそれは絶叫だった。

 アインズの目には男性の急所のような姿のピンク色の粘体(スライム)が可愛らしく両手を合わせ、「ごめんねっ」とその身に似合わぬ声で謝罪したのが見えた。

 

「そ、そうか。ありがとう、マーレもアウラも。」

 思わず礼を言っている自分がいる。

「アインズ様、フラミー様。僭越ながら申し上げますと、贈り物をしようと提案したのは私です。」

 デミウルゴスが胸に手を当て尾を振ると、アインズはお前がついて居ながら何故ここまで来てしまったんだと心の中で泣いた。

「ソレヲ思イ付イタ時ニ相談ニ乗ッテイタノハ爺デス。」

「そうか…。お前達の気遣いはいつも流石としか言いようがない…。」

 しかしこれは着せられませんと告げる勇気が湧かない。寧ろどんどん萎んでいっている気すらする。

(九太…父ちゃんもう負けそうだよ…。)

 ナインズには既にキュウリのような愛称が付いていた。

 その横でフラミーはとりあえず服を一つ一つ広げて見始めた。

 顔にドキドキと書いてあるアルベドとシャルティアが近寄る。

「フラミー様!こちらのおくるみは私が手掛けましたわ!」

「デザインは妾でありんす!」

 骸骨が散りばめられたデザインのそれをフラミーはじっと見た。

 二人は気に入るだろうかとごくりと喉を鳴らし、評価の時を待つ。

 アインズも息を殺してその様子を眺めた。

 

「――可愛い!皆ありがとうございます!きっとこの子も喜びますよ!」

 フラミーがぽん、と腹を叩くと守護者と二人のメイドはわぁっと喜びの声を上げた。

 フラミーは断るのをやめたようだった。いや、フリルやリボンが付いていないものは、男児でも赤子ならば違和感のなさそうなデザインだ。

 何とかなると結論付けたのだろう。

「嬉しいなぁ!皆本当こんなにたくさん大変でしたね!」

「とんでもございません!次は一歳以降のお洋服が出来次第お持ち致します!」

 アルベドの軽やかな声が響いた瞬間、もう今しかないとアインズは息を吸った。

「待つのだ、アルベドよ!」

 アインズを視界に捉えたアルベドはどうみてもワクワクしている。

(これはデザインの発注とかだと思われてる…!)

 負けそうになる気持ちを押し殺し、心を鬼にする。

「良いか。この子は、多分、えっと…。その、な。」

 しどろもどろだった。しかしここで負ければ大人になった時に長男に怒られ、最悪「お父さんってヘタレだよね」と言われてしまうかもしれない。

 なんでしょう!と元気な声がかかると、アインズはゴクリと唾を飲んだ。

「……あー…一歳の頃にはもう男児の服を着る事になる。」

 なんとか絞り出した。

「たった一歳で男児用の服をお召しになるのですか?」

 守護者達は、特にマーレは何を言われているのか解らない様子だった。

「ど、どうしてでしょうか?」

(当然そう聞いてくるよな…。これはもはや両性か女児が第一子の方が楽だったんじゃ…。一姫二太郎って言うしな…。――あ、いやいや、すぐに現実逃避するのは俺の悪い癖だ…。)

 ふぅ、と息を吐く。単なる時間稼ぎだ。

「複数の理由があるのだが…アルベド、デミウルゴス。お前達にはその中でも核となる理由が解るだろう?」

 二名の知恵者はうーんと唸り、理由を考える。

 

 デミウルゴスはすぐに理由に思い至り、指を一本立てた。

「繁殖実験をしていてわかった事があります。それは、幼い間は女児よりも男児の方が病気に罹りやすく死にやすいと言う事です。私の見ている牧場では回復すれば良いですが、ミノタウロスに渡した魔導国羊の事もあり、何か打開策はないかと調べ物をした事が。その際最古図書館(アッシュールバニパル)の本に、とある記述を見かけました。ある地域ではその理由が男児の方が死神に愛されやすい為だと思っていたようです。そこで、上流階級の者は男児に女児服を着させて死神の目を晦まそうとした…。女児服を着せると言うのは丈夫に育ってくれと言う両親からの願いの文化でしょう。」

 アルベドが続ける。

「つまり、一歳の頃にはナインズ様はもう十分に丈夫――。レベルも多少は上がってらっしゃる…と?」

「そう言う事ですね。」

 アインズは知恵者に聞いて良かったと思った。

 そう言うまともな理由があるなら今後生まれるかもしれない弟にも一歳まではそうしてやっても良い。

 

「あ、あの、じゃあ、僕はどうしてまだ、女の子の服を着てるんですか?」

 百レベルなのに…とマーレが呟くのを聞くとソファに座っていたフラミーが手招いた。

 マーレを自分の隣に座らせ、抱きしめる。

「茶釜さんはマーレの事を大切に思ってたから、何レベルになっても守りたかったの。いつまでも可愛い我が子だったんだよ。」

「ふぇ…フ、フラミー様ぁ…。」

 マーレはすんすん鼻を鳴らしてフラミーの肩に顔を埋めた。

 フラミーが何度もマーレの髪を撫でていると、いいなぁとアウラが呟いたのが聞こえた。

「…そう言う事だな。しかしマーレ、お前もそろそろ一人前だ。セバスの式の時の様に、普段でもたまにはズボンも履きなさい。茶釜さんに成長したお前を見せるためにもな。」

 ちょうど良い機会だとマーレの男の娘ファッションに終止符を打つ。

 このまま大人になったら可哀想なのはマーレだ。データだった時代はいくらでもこの格好で良かったが。

 とは言え――「しかし、肝心の服がないか…。」

「アインズ様!あたしがマーレに服を貸してあげます!」

 優しい姉の天真爛漫な笑顔を見ると、アインズは朗らかに笑った。

「アウラは優しいな。そうしてあげなさい。」

 いつか貸し借りでは済まない日が来るだろう。

 アウラとマーレの最強装備を鍛冶長に仕立て直して貰う事も考える。

「マーレ、私の使わなくなったものもいくらかお前にやろう。ちょうど魔法職だ。」

 双子の成長も楽しみだと頬を緩めた。

 

「あ、あの、ア、アインズ様!わ、私も…!」

「ア、アインズ様?妾も…妾も欲しゅうございんす!」

 近々双子とともに鍛冶長の下へ行こうと考えていたアインズに、もじもじしながらアルベドとシャルティアが訴えてくるが、なぜ成人した女性に――百歩譲ってシャルティアは良いとしても――お下がりをあげなければならないのか。

 それにこの二人に服をやったら、何かとてつもなくいやらしい事に使われる気がする。

「…いや、お前達には必要ないだろう。」

「で、ですが、私も……。」「妾も…。」

「………アルベド、シャルティア。マーレは服がないんだぞ。特にシャルティアはペロロンチーノさんにタンスから溢れるほどに持たされているではないか。」

 一瞬だけ二人の背後にピシャリと雷が落ちたのが見えた。

「さて、理由も分かったところでそろそろ解散だ。フラミーさんには休養が必要だからな。」

 アインズがアウラの頭を撫でると、アウラは幸せそうに頭をその手に擦りつけた。

「アインズ様!」

 どうした、と問いかけようとしたアインズは目を丸くする。

「私は何も持ちません!!」

 そう言いせっせと服を脱ぎ始めるアルベドを見ると、なんかこの展開は随分昔に見た気がすると背に冷や汗が流れた。

 アインズは慌ててアルベドの肩を掴み、フラミーと子供達から離れた。

 

「いいか!?アルベド!お前が脱いでも絶対に何もやらん!!だから………そろそろ本当にそれはやめないか…?」

「アインズ様…それは…全裸で居続けろと言うことですか…!」

 違うだろうが!と叱責しかけたところで、マーレがおずおずと手を挙げた。

「あ、あの、僕はその、良いですから、えっと、アルベドさんにも差し上げてください…。」

「マーレ!?おんし妾には!?」

 当然のように勧められるとアルベドにも渡さない事がおかしいような気がしてくる。

 上に立つものとして、依怙贔屓するべきではないのだろうか。

 いや、そもそもこれは依怙贔屓なのだろうか。

 アインズが迷宮入りしかけていると、アルベドはアインズに肩を掴まれたまま引き続き脱ぎ始め、手袋に包まれた白く美しい手を晒した。

 アインズはついついその細くしなやかな手を目で追い――渋面のデミウルゴスはフラミーの目を、フラミーはアウラの目を、アウラはマーレの目を覆った。

 耳の長い四人のその仕草は妙に可愛らしく、アインズは笑った。確かにこれは見せられない。そして反省する。

 

【挿絵表示】

 

「アルベド、教育に悪い。減点。」

 何から点を引いたのかは謎だがアインズはビッとアルベドを指差した。

「はぁう!?」

 しかしアルベドにはしっかりダメージが入ったようで、シャルティアはご機嫌にクスクス笑った。

「全く教育に悪い統括でありんすねぇ!そろそろ評価がマイナスになる頃ではありんせんこと?」

「ふん!あなたは胸の問題で脱げなかっただけのくせに!」

「あんだと大口ゴリラ!」

「ヤツメウナギ!!」

 二人が喧嘩を始めるとアインズは大きなため息をついた。

 耳長四人組は耳を塞ぎあっている。

 

「…ここで育つ男は大変だ。」

 息子の苦労が目に浮かんだ。

 

+

 

 守護者が解散した後、デミウルゴスはある本を抱いて再びフラミーの部屋を訪れていた。

 心酔する教師に教えを請う従順な生徒のような瞳で眠る前の支配者を捉えていた。

「――そこで、男児が何故ああも女児に比べて病に罹りやすいのか未だに解りません。恐らく答えが載っているこちらの本に書かれている内容を理解できないのです。」

 アインズはお前に解らない事が俺にわかるかと嫌々本を受け取り、硬直した。

 そこにはX染色体の持つ免疫に関わる知識。間違いなく大学教授をしていた死獣天朱雀が残した書物だろう。

「…デミウルゴス、生き物は目には見えない糸に、命の記憶を書き込まれて産まれてくるものだ。命の設計図と言っても良い。」

 デミウルゴスは生命創造の秘密に目を剥いた。

「中でも性別を決める設計図に、病へ抵抗する記憶がある。女はその設計図を二つ持つが、男は一つしか持たない。代わりの設計図を持つ為だ。」*

「…なるほど…そういう事ですか。」

「解ったな。そう産まれてしまうからには仕方がないと割り切れ。これは誰にも、当然私にもどうする事もできない。成長すれば免疫――いや、病に抵抗する力が強まる。研究熱心なのは良い事だが、生命の設計図に関わることについては今後あまり深く追求しようとするな。」

「かしこまりました。」

 デミウルゴスは再びの訪問の非礼を詫び、頭を下げると部屋を後にした。

 

「…尊き造物主らよ…。」

 叡智の悪魔は至高の四十一人が生命の設計図を書き、生命の糸を編み、生命を産み落として行く様をありありと思い浮かべ――、アインズとフラミーはついに絶対禁書の作成を決意した。




でもマーレはスカートが似合いますよね!

#5 閑話 皆の秘密


【挿絵表示】

ユズリハ様に挿絵いただきました!!

*X染色体に免疫系で働く遺伝子が含まれていることで、「女性が男性よりも強い免疫力を持っている」という説もある。

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