眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#21 ワーウルフ王国

 ワーウルフは無様に逃げ回っていた。

 

 皆が砦と、砦の向こうの都市を守る防壁へ向かう様は黒い津波のようだった。

 津波は魂喰らい(ソウルイーター)の通った後には凪いだ。

 海の底のような静寂を生み出しながら、伝説の通りに死の権化は駆け回る。

 転がる者達を歩兵(スケルトン)達が抱え、一箇所へ集めていく様はまるで魚市場だ。

 

 ビーストマン達は自分が信じる何かに祈る。

 この世に死の神などと言うものが存在しないことを。

 こんな恐ろしい光景が現実ではないことを。

 しかし、魂喰らい(ソウルイーター)が姿を現した時からこうなる事は分かりきっていた。

 それでも、広がり続ける死を受け入れられない。事実を事実と認められない。

 目の前の光景は、ただ、ただ、恐ろしかった。いや、そんな言葉では言い表せない。

 これだけの数の魂喰らい(ソウルイーター)達。

 きっと、世界は今日をもって終わりを迎えてしまうのだから。

 ビーストマン達はその場に崩れていた。

 

+

 

「夢だ、夢だ夢だ夢だ!!」

 ルキースは砦で眼前に広がる光景を否定し続けていた。

 隣にいる側近に答える余裕などない。ただただ呆然と目の前の光景に釘付けとなっていた。

「おい!これは夢なんだろう!?」

「ゆ…夢です…。私は早く…起きてルキース様にお仕えしなくては…。」

 ようやく答えるが、無感情な声音は逃避するような雰囲気すらある。

 突き進んでくる無数の死の権化に、誰一人立ち向かう勇気を持たなかった。

 いや、もしかしたら立ち向かった者もいたのかもしれない。

 しかし、全ての者はその圧倒的な死を前に瞬きする間も与えられずに魂を吸い上げられた。

 ――嫌だ。

 ――死にたくない。

 絶叫だ。愛すべき国民達は魂が凍りつくような絶叫を上げ、小動物のように逃げ回っていた。

 ザラザラと砦の後ろへ逃げ込んでくる。

 

「門をじめろ!!」「早ぐじろ!!もう待でない!!」

 声が響く。

 砦の門番達が仲間を見捨てて死に向かって口を開いている門を閉めようとする声だ。

 しかし、次から次へと流れ込もうとする者達を前に中々門は動かなかった。

「手伝え!!早く!もんをじめざぜろ!!」「この後ろには街があるんだぞぉ"!!」

 恐怖に己を失い初めている、酷く音階の狂ったような叫びだったが、ルキースは「街がある」という言葉にハッと己を取り戻した。

 このままでは戦線どころか国がまるごと崩壊してしまう。

 首都のサンド・ウェアもここからは近い。

 

 側近の止める声も聞かずに、砦から駆け下り、こちらへ向かって逃げ来る者達を掻き分けた。

「っくそ!通せ!!通すんだ!!門をしめろ!!お前達!!街を、国を守るぞ!!」

 このまま一匹でも魂喰らい(ソウルイーター)を中へ入れれば国は伝承通り滅亡するだろう。

 流れに逆らう王の声に、ついに周りの者達が一部の同胞を見捨てる覚悟を持ち、押し合いへし合い門を閉め始める。

 それが近付けば近付くほど、神経に直接針を打ち込まれていくような恐怖が刺激となって駆け巡る。

 気絶しそうになりながら、吐き気を催しながら、仲間の救済を求める声を聞きながら、必死に門を押していく。

 砦の上から我に返った側近も叫ぶ。

「ルキース様!!魂喰らい(ソウルイーター)が来ます!!お早く!お早く!!」

 いつのまにか逃げ込む者も減ってきた。皆逃げ込めたからではない。死んだからだ。

 その場は混乱の声に溢れかえっていたが――。

 

「――なに?」

 

 戦士達の声がやんだ。

 気付かぬうちに自分は死んでいたかと外を覗けば――迫っていた魂喰らい(ソウルイーター)達はぴたりと立ち止まっていた。

 そして、一人の青い異形と目が合った。

 

+

 

「――私だ。コキュートス、見つけたか。」

 

 アインズは連絡を受けるとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの紛い物を取り出した。

 外見は元より、使用している素材も殆ど同じだが、本物の力の十分の一も込められていない。蛇達の咥える宝石も、何の力もないただの石だ。

 杖の上で手を開き、空中を撫でるようにしていくと、杖の纏うオーラの色が変わっていく。

 この調整機能を付けた、凝り性の仲間達はこの機能を何の為に利用しようと思ったんだろうかと苦笑した。

 仕上げに黒い後光を背負って完成だ。

(よし、久し振りに全ての神様ギミックだ。)

 周りのビーストマン達が息を飲むのが聞こえ、アインズはフォームチェンジした甲斐があると深い満足感を得た。

 

「ふふ、アインズさん王様って感じですね。」

 フラミーからも太鼓判を押される。少しだけ得意げにアインズは笑った。

「それは何よりです。じゃ、俺はちょっとコキュートスの所に行ってきますね。」

「はーい!じゃあ、私は向こうで回収してますね。」

 フラミーが指差したのはワーウルフの死体が寄せてある場所だった。お互い花に水をやりにいくような気軽さで頷きあう。

 あの死体達はワーウルフ王国や今後落とすセイレーン聖国に配備するアンデッドにする予定だ。

 地産地消。素晴らしい言葉だった。

 

 今回働かせた魂喰らい(ソウルイーター)は四十レベルを超える丁度いいモンスターだ。

 ビーストマンは推定十五から二十五レベルの為、それと互角に渡り合うワーウルフとの戦争では死の騎士(デスナイト)は少し力不足だろう。

 死の騎士(デスナイト)は三十五レベルのモンスターだが、攻撃能力は二十五レベル相当だ。ただ、防御は四十レベル相当な為、普段であれば使いやすい。

 一方魂喰らい(ソウルイーター)は周囲拡散型の<魂喰らい>と言う即死スキルを持っており、対象が死ぬと一時的に力が増す。

 適正レベルであれば即死を食らう事はほとんどないが、当然この場に適正レベルの者などいようはずもない。

 今回は<魂喰らい>の他に、恐怖を撒き散らす――アインズの絶望のオーラに似た能力も使わせた。一秒でも早く降伏させる為。

 なんと言っても彼らは数時間後の国民なのだから。

 

「――デミウルゴス、お前はフラミーさんの側にいろ。」

「かしこまりました。お任せくださいませ。」

 デミウルゴスに頭を下げられながら、アインズはビーストマン達を見渡し機嫌を良くする。

 ビーストマン達は地面に座って、まるで花見をするような感覚でワーウルフ達を眺めていた。

 共同戦線を敷くと言っていたが、ビーストマン達の手を煩わせずに済ませる事が出来たのだ。

 それどころかこんな風にくつろいで戦場――と言っても戦いになどなっていなかったが――を眺めているのだ。

 これは相当友好的にしてもらってもいいだろう。

 この軍勢を選んだのはアインズだったので、うまくいっている実感に満足してから、座っているギードに話しかけた。

「ギード将軍、私はこれよりワーウルフの王と話し合いをしてくる。お前達はここで引き続き眺めていてくれ。」

「っひ、っは、はひ!!」

 涙目で何度もぶんぶんと縦に首を振り、素直に感激している様子だ。

(後で議場に帰る時にはギード将軍からバンゴー議長によく戦場での事を話してもらおう。そうしたら、良い王だったと小学校の一つや二つ、試しに建てさせてくれるかもしれないしな。)

 

 アインズはうきうきと魂喰らい(ソウルイーター)を三体召喚すると、フラミーとデミウルゴスに二体渡した。

 フラミーはアインズと違いローブの中のパンツを見せないプロだが、これだけの人数の中飛んで行けば流石のフラミーでも見えてしまいかねない為、気遣いを忘れない。

 ちなみにアインズはパンツを見せない特殊スキルを獲得できておらず、ローブの下にズボンを着用している。

 骨になるとウエストが急激に細くなるが、魔法の装備はずり落ちたりはしない。しかし、不安なデザインの時はサスペンダーを使い肩で吊っていた。

 アインズはひょいと一体に跨るとコキュートスの下へ進んだ。魂喰らい(ソウルイーター)は意外に靄がやわらかく、お尻に優しかった。

 

 おおよそ全軍の七割程度がみっしりと一箇所に集まっていた。

「アインズ様、コノ者ガワーウルフノ王ルキース・サンド・ウェアデス。」

「ほう、これが王か。」

 大人しく小さくなって座り込む大型犬は愛らしさすらある。

 ワーウルフという言葉から想像した姿からは程遠い。

 つい撫でてみたくなるが、相手はおそらく成人しているわんちゃんなので流石にそれは失礼だろう。

「ルキースヨ、コノ御方コソ神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下ダ。コレヨリコノ地ヲ統ベル、慈悲深キ全知全能ノ死ノ神デラッシャル。」

 アインズはなんでそんなに肩書きを増やしちゃうの?と忠実なる爺を見る。

 

 言い終わると、一瞬の沈黙が場を制した。何を言われたのか理解するまでの短い間だ。

 

「そ、それで…神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下…。我が国民は…皆死ぬのでしょうか…。」

 この地を統べる王は――いや、王だった者は不安そうにアインズを見上げた。

「若きワーウルフの王よ、今後我が神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国に降るのであれば生きる事を許そう。そして繁栄を約束しよう。」

 ルキースは戸惑ったようにアインズを見つめた。

「さぁ、どうする。ワーウルフの王、ルキース・サンド・ウェア。」

 ルキースは土に頭をぶつけるように下げ、服従の意を示した。

「ははぁ!我らワーウルフは神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下に忠誠を誓います!!」

「よし。それではコキュートスと共に国へ戻り、全てのワーウルフ達に、私がお前達を支配する事になったと伝えるのだ。…納得が行かない者がいたらこの私が直々に対応してやろう。さぁ、行け。」

 コキュートスが優しげに手を伸ばすと、躊躇ってからその手を取り、ルキースはよろよろと立ち上がった。

 街へ向かおうとする前に一度戦地へ顔を向け、軽く目をごしりと拭いた。

 すると、アインズは誰かに呼ばれる感覚にこめかみに触れた。

「――私だ。」

『あ、アインズさん。ちょっと王様まだ行かせないで下さい。』

 フラミーが王と話したがるなんて珍しかった。

「わかりました。コキュートス、ルキース、少し待て。フラミーさんが話があるそうだ。」

「ハ。」

 

 三人でしばしその場で待っていると、デミウルゴスが一度頭を下げてからフラミーを持ち上げ、魂喰らい(ソウルイーター)の背に乗せた。

 何も聞こえない距離感だが、なんとなく会話の想像がつく。

『失礼いたします。』

『ふふ、私自分で乗れますよ。』

『分かっておりますが、御身にお仕えする事こそが喜びなのです。どうかそう仰らずにお付き合いください。』

 と言ったところだろうか。

 フラミーは魂喰らい(ソウルイーター)に両脚を揃えて横向きに乗っていて、それでどうやって走らせるのかなと思っていると、その前にデミウルゴスが跨った。

(あ!こうならないように二頭渡したのに…。いや…待て…ローブか…?跨るとローブが捲れるからか…!)

 アインズがとんだ誤算だったと眉間を抑えていると、フラミーとデミウルゴスは転移門(ゲート)から出てきた雪女郎(フロストヴァージン)に死体の回収を任せこちらへ向かいだした。

 

 到着したデミウルゴスの腰に手を回すフラミーへアインズは両手を伸ばした。

「フラミーさん、お疲れ様です。」

「はーい、アインズさんもお疲れ様です!」

 フラミーの手はデミウルゴスの腰をすべるように離れた。デミウルゴスが若干名残惜しいような顔をした気がする。

 フラミーは当然飛ぶこともできるので、乗り降りなど容易にできるが伸ばした手は躊躇いなく取られ、アインズはさっさと魂喰らい(ソウルイーター)からフラミーを降ろした。

 デミウルゴスも続くようにひらりと一人華麗に魂喰らい(ソウルイーター)から降りる。

 アインズからすれば、どうしてそれほど何事もカッコよくこなせるのだろうと羨ましくなるような動きだ。

(何というか自信をひしひしと感じさせる動きなんだよなぁ…。背筋を伸ばしているのがいいのか?)

 

 すると、デミウルゴスの唐突なる不愉快そうな視線にアインズは我に帰る。

 視線の先には自分より大きな狼の顎をこちょこちょと撫でるフラミーがいた。

「っあ!フラミーさん、これが王ですよ!?」

「やっぱり!王様が一番ふわふわなんですねぇ。アインズさんも撫で撫でさせてもらいました?」

 そういうフラミーの手は胸のもっさりと長い毛へ移動し、狼は恐縮したように撫で付けられ続けた。

 何か大事な話でもあるのかと思いきやフラミーはただ撫でたかっただけだった。

「っもういい!ルキース――だったか?お前はコキュートスともう行け!」

「っは!か、かしこまりました!!」

 ルキースは弾かれたようにフラミーの手から離れた。

 

 ルキースはコキュートスと防壁に向かい、側近との涙ながらの再会を果たし、どうやらまだ生きていられそうだと互いの生を喜びあった。

 魂喰らい(ソウルイーター)を支配する化け物――死の神と話し合いをし、国民の命を守った勇猛な王は戦士達から憧れの視線を向けられ、帰城した。

 その日、ルキースの城から国中へ報せが行き渡る。

 しかし、奴隷にされない補償がない併呑に「NO神聖魔導国」と何も知らない国民が抗議活動を行うという一場面もあった。

 それは、「戦争をして取り返せ」「若き腰抜けの王を引きずり下ろせ」と大いに加熱した。

 ――が、間も無く帰ってくる戦士達の話を聞くと、すぐさまそんな愚かな運動もなくなったようだ。実に二日あるかないかの攻防だった。

 ワーウルフ王国はワーウルフ州と名を変え、後に自分たちが三大国の中で一番に神聖魔導国に属した賢人だと他の二国へ向けて高笑いするが、それはまだもう少しだけ先のお話。




次回#22 満月の夜

勢力図いただきました!ユズリハ様にそろそろ金払うべきですね!!

【挿絵表示】


試される紫黒聖典 3-#1 旅立ちの準備 以来御身はおずぼーんを履いているようですね!

>骨の身の間は気にならなかったが、人の身の時はローブだとしゃがんだり立ったりする時に意外とはだけるのが恥ずかしかったのでこの旅にはパンツスタイルで挑むことに決めた。
>何故女性がああもスカートの中身を見事見せずに暮らせるのか不思議だ。

これまで骨チラしてたと思うとシャルちゃんとベドちゃんの鼻血の量がすごそうだ☆

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