眠る前にも夢を見て   作:ジッキンゲン男爵

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#29 幕間 繋がらない伝言

 セイレーン聖国が併呑され数日。夏も目前かと言うある日。

 フラミーは再びの亜人会談に何を着て行こうかとドレスルームの中で唸っていた。

「これなんてどうですか?」

 着てはドレスルームの扉が開かれる。扉の前で座ってナインズと遊んでいるアインズは幸せそうに「それも可愛いです。フラミーさん」と頬を緩めた。

「じゃあ、これにしようかなぁ!」

 茶色いドレスローブでくるりと回るフラミーを見守る。

 

 すると、フラミーの部屋の扉が叩かれ、アインズ当番が来訪者を確認した。

「アルベド様、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の皆様でございます。」

 アインズが良いかとフラミーに視線を送る。

「ありゃ?何でしょうね?入れてあげてください。」

「かしこまりました。」

 扉が開かれれば、アルベドを先頭に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)十二人がそれぞれ手に書類を持ち、部屋に入ってきた。

 

「アインズ様、フラミー様、ナインズ様。おはようございます。」

 アルベドに続くように死者の大魔法使い(エルダーリッチ)も恭しげに頭を下げた。

「うむ。おはよう、アルベド。それにしても今日はこの後ブラックスケイルに行く予定のはずだが――どうかしたのか?」

 いつもの執務よりも死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の数も多い。普段なら七人程度が来るパターンが多いと言うのにどうした事だろうか。

 アインズは厄介ごとの匂いを感じながら部下達を見渡した。

 

「はい。兼ねてよりご報告差し上げていた、航海団と共に出ている死者の大魔法使い(エルダーリッチ)から伝言(メッセージ)が途絶えた件に付いての結論が出ましたので、お出かけ前ではありますが一次報告に参りました。」

 アインズの視線は途端に鋭いものになった。背にはぼんやりと黒い後光がさし、この人物を怒らせてはいけないと思わせるだけの風格が漂う。

 ただ、その指はナインズがしゃぶっていて平和だった。

 

 ナインズが産まれた冬に出発した航海団に参加した死者の大魔法使い(エルダーリッチ)には定期的に伝言(メッセージ)を送るように指示を出し、これまでその決まりに則ってやってきたと言うのにここの所、ピタリと定期連絡がなくなっていた。

 最後の連絡は大陸に着いたと言うものだった。

 

「お借りしました死者の大魔法使い(エルダーリッチ)達と実験と話し合いを繰り返した結果、やはり死んだのだろうと言うのが結論でございます。」

伝言(メッセージ)の距離の限界と言う線はないのか。ついに距離の限界に達したのかもしれん。」

 言っておきながら、それを確認しないアルベドではないとアインズは理解している。

 恐らく目の前の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)達の抱えるあの書類に全ての実験と、その結果が書かれているのだろう。

 

 しかし――

 

(…相当勉強会もして来てはいるが…未だに理解するまで中々の時間がかかるし…何より読みにくい…。法令みたいだもんなぁ…。)

 

 何度も別紙参照という言葉が出て来てページを行ったり来たりする必要があるし、なるほどと理解し始めると「以上のことから否定する」と締め括られたりし、アインズの頭の中には「なんで?」と言う言葉が大量に浮かぶ。

 さらには一文中に何度も否定の言葉が入り、もはや何の話をしていたのかわからなくなったりもする。

 なので、一番気になることはちゃんと口頭で聞いてしまうのがベストだ。

 

伝言(メッセージ)の確認も可能な限り行いましたが、一先ずは繋がらない距離と言うのは見つかっておりません。少なくともこの大陸内の端と端では繋がる様子です。それに、もし繋がらないと分かれば、中継者を繋がるところに残していくかと思われますし――やはり、航海団は何者かに襲われたかと。」

 大陸の端と端に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を行かせたなら、これだけ報告が遅くなるのも理解できる。

 

 話を聞いていたフラミーがピアスを着けながらドレスルームを出て来た。

「航海団に渡した死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は十人ですよね。アインズさんの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は二十五レベル程度だから…倒せなくはないか…。」

「そうですね。一対一ならミスリル級冒険者達で倒せますし…ハムスケレベルの者がいれば、余裕でしょう。」

「やっぱり魔獣に倒されちゃったのかな。国旗もちゃんと掲げて行ったんですもんね?」

 フラミーの視線にアルベドが頷く。

「はい。すぐに使節団だと分かるように送り出しておりますので――やはり、知能の低い者なのか、傲慢な者かと。」

「傲慢な者――竜王か。竜王だとすれば、冒険者は一人も生きてはいないな。」

 

 今回アダマンタイト級は一組も乗れなかったが、それはそれでよかったのかもしれない。

「竜王だったとしたら、戦う時にはツアーさんに相談した方がいいかもしれませんね。」

「そうですね。あいつは竜王を葬るの本当に嫌がるからなぁ。」

 アインズとフラミーが苦笑していると、馴染みのアラームが鳴り、アインズは足をジタバタさせるナインズをナインズ当番が押してきたバギーに乗せた。

 アインズ達が出掛けている間、ナインズはセバスとナインズ当番に第六階層のお散歩に連れて行って貰うのだ。

 

「それじゃあ私達は少し出る。資料は明日以降目を通そう。」

「かしこまりました。お気を付けて行ってらっしゃいませ。」

 転移門(ゲート)を開くと八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達が先に安全確認のためゾロゾロと転移門(ゲート)を潜っていった。

 

 

 蜘蛛たちを追うように転移門(ゲート)を潜り、ブラックスケイルの城の玄関前に到着するとアインズとフラミーはぴたりと止まった。

「まぁ神王陛下、フラミー様!おはようございます!」

「神王陛下もフラミー陛下もご機嫌麗しゅうございますわ。」

「あー…おはよう。」

「あ、はは。おはようございます。テルクシノエ様、ヒメロペーさん。」

 テルクシノエとヒメロペーが二人で城の前の噴水に浸かっていた。鱗や羽が輝き無駄に美しい。

 城の者達はどうすればいいのかとオロオロしている。

 

「――んん。テルクシノエ殿、ヒメロペー殿。人間の街にある噴水は入る所ではないぞ。」

 アインズが手を伸ばすと気持ちよさそうに水浴びをしていたテルクシノエとヒメロペーは首を傾げた。

「入る所ではないなら、これは何をする所なのでしょう…?」

「噴水なのに入ってはいけませんの…?」

 不思議そうにする二人に、フラミーも手を伸ばす。

 セイレーン州の地上都市には至る所に噴水が設置されているが、すべては水浴びをするためのものだ。

 ヒメロペーは迷いなくフラミーの手を取ると水から上がった。テルクシノエも逡巡し、アインズの手を取り出てくる。

 噴水から出た二人は名残惜しげに清潔な水を見た。

 

 ヒメロペーは数歩アインズとフラミーから離れると、プルプルッと翼を震わせ、水を飛ばした。

「これは水を見るためにあるんですよぉ。」

「水を見る為だけにあるなんて変わってますのねぇ。」

「私達の方がここの皆様から見たら変わっているのかしら。お恥ずかしゅうございますわ。」

 テルクシノエは照れ臭そうに笑い、髪を絞った。海の生き物も今後増えていくことを思うと、水浴び用の噴水もあってもいいのかもしれない。

 

 アインズは三人を引き連れ、城の玄関へ向かった。女子は後ろで楽しげに何やら今度お茶会をしようと話している。

「そう言えばフラミー陛下、私もテルクシノエ様などとお呼び頂くことはありませんわ。どうぞお気軽になさってください。」

「じゃあ、テルクシノエさん!私の事は――」

 フラミーが続けようとすると、廊下の向こうから大きな声が響いた。

「陛下ー!フラミー殿ー!」

「あ、ドラウさーん!」

 

 手を振り合うと、会談用の上等な服に身を包むドラウディロンがフラミーに駆け寄った。

 仕事の時の彼女はやはり女王だったのだろうと思わせるだけのオーラがある。

「陛下もフラミー殿も、着いていたなら教えてくれたらよかったのに。ちゃんと迎えられなくてすまなかったな。」

「いいえ、全然!あ、こっちのお二人はセイレーンの――」

「あぁ。昨日到着した時に名は聞いた。テルクシノエ殿、ヒメロペー殿。」

「オーリウクルス様には良くして頂きまして。」

「本日はよろしくお願いいたします。」

 二人がペコリと頭を下げると、いやいやこちらこそとドラウディロンも頭を下げた。

 アインズはドラウディロンと共にいた宰相と会話を交わし、玉座の間を目指した。

 

+

 

「じゃあ、セイレーンの民はビーストマンとワーウルフを許すというのか…?」

 会談が進む中、ドラウディロンは何故それ程までに簡単にセイレーンが割り切れるのかと二人を見た。

 セイレーンがビーストマンとワーウルフを当然のように受け入れている様子に置いてけぼりな気持ちになっていた。

 

「恐れることをやめてみようと言うだけですわ。今後、共に暮らす中で手を出されることはないと信じて。」

「それに、私達、良いワーウルフや肉食の方もいると知りましたの。」

 ヒメロペーはそう言うと、ちらりとヴィジャーとムゥアーへ視線を送り、二人は頷いた。

「それが良いビーストマンがいる保証にはなるまい。民はそれで納得するのか…?」

「良いアンデッドがいる世の中なら、良いビーストマンくらいいて当然ですわ。ねぇ、陛下。」

 テルクシノエがアインズへ視線を向けるとアインズは己の骨の顔を触った。

「オーリウクルス様。私達は何より陛下方を信じておりますのよ。」

 

 ドラウディロンはかつての婚約者を見ると心の中でアインズ殿と呼ぶ。

 静かに視線を落とし、小さく頷いた。

 外を吹く風はもうじき夏を運んでくるだろう。アインズと出会った夏がまた来る。

「……それはそうだな…。」

「ブラックスケイルの皆様のお心に一日も早く納得と安寧が訪れますよう。」

 セイレーンからの静かな祈りのような言葉にフッと笑った。

 

 その後ドラウディロンはシャルティアと共に抗議活動を行う者達に正面から向き合い――許すと言う教えを説ける紫黒聖典のネイア・バラハと陽光聖典のニグン・グリッド・ルーインも参加するようになると、NOビーストマンと言う者達は少しづつ減り、新しい隣人達との州間を繋ぐバス、魂喰らい(ソウルイーター)便も出るようになった。

 ただ、魂喰らい(ソウルイーター)便に新しい三州の民達は腰を抜かして都市は一時混乱状態に陥ってしまったようだ。

 ドラウディロンはその時の様子を聞くと、わずかに溜飲を下げた。

 

+

 

 数日後、アインズは全ての伝言(メッセージ)実験書類に目を通し終わり、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)数名だけを乗せた船を送り出した。

 冒険者――守らなければいけない対象がいない状態でこれだけいれば、敵が何者だったのか連絡をする余裕もあるだろうと。




エルダーリッチ殺されちゃったの( ;∀;)
次回 #30 閑話 沈黙都市

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